ダンジョンに近代兵器を持ちこむのは間違っているだろうか 作:ケット
大惨事……と思われたが、奇跡的に民間被害は少なかった。事態を公開し他ファミリアの助けを借りた【ガネーシャ・ファミリア】の英断と、それに応えた【ロキ・ファミリア】のおかげである。ダイダロス通りの英雄となったベル、ロキ・ファミリアの一級冒険者とともに戦い匿名で消えた瓜生、二人の【ヘスティア・ファミリア】も……
一夜明けた今も、あちこちで片付けや家屋の修理が行われている。
市民を大切に思う【ガネーシャ・ファミリア】は炊き出しをし、迷宮遠征で使うテントも張っている。
ヘスティアと『豊穣の女主人』で休んでいたベルは、
「疲れているだろうからダンジョンには行くな。今日の午後は【タケミカヅチ・ファミリア】との合同練習だろう?強くなりたいなら素振りをしてろ。新しい武器を体の一部にしろ」
と瓜生に言われ、脇差の素振りをしている。まず袈裟、諸手突き、抜きつけ、どれも百回ゆっくりやる。次はタケミカヅチに教わった片手短刀の使い方で、右片手、左片手で袈裟と突き。長い柄のどこを握るかで、ナイフにもなり刀にもなる脇差の融通無碍は、おどろくほどであった。
瓜生に言われたこと……
(敵の立場になって考え、自らの動きを反省し、より正しい動きをする……)
も休憩としておこなう。
一段落したらデッドリフトとシットアップ。ベンチプレスは一人では危険なので、単にベンチを消している。プロテインの使い方も瓜生に習っている。
瓜生はヘスティアに紹介状を書かせ、出かけた。
彼女はついていくといったが土下座の後遺症で足腰が立たず、車椅子は断固断った。
「そんなのあいつに見られたらどんなにバカにされるか!」
事情を知ればバカにはしても侮蔑はしないだろう……同じく眷属/子供思いなのだから。だがだからこそ見られたくない。女ごころというものである。
心配なので、一応ミアハに往診を頼んである。
『黄昏の館』と呼ばれる建物が、オラリオにある。迷宮都市最大手の一つ【ロキ・ファミリア】の本拠(ホーム)だ。多数の尖塔が連絡通路でつながる、城のような規模。
いくら無名の貧乏神でも、神の紹介状はさすがに門番も相手にする。神血を用いたサインは偽造不可能、もしやったとしたらとんでもない費用がかかる割に罪が重すぎて割に合わない。
それに門番も、瓜生の名は団長から聞かされている。
「ウリュー、全部任せる。もっと子供の役に立ちたいけど……キミの役にも、立ちたいんだけど……」
ヘスティアの言葉を思い出す。
「……重い信頼だな」
「……悪いようにはせえへん。うちがロキや」
みずから迎えに来たロキも、いつものおひゃらけた雰囲気とは違う、神の威と美貌を見せていた。
「で、自分が、あの『妙な音』とやらかい?フィンがいろいろゆーとった?うちの子が助けてもろたそうで、おおきに」
「こちらこそ。約束もありますし……はじめまして、神ロキ」
と、広めの会議室に向かった。
神ロキ、フィン、リヴェリア、ガレス、アイズ、ティオネ、ティオナ、ベートがそろっている。
「やあ、よく来てくれたね」
「けっ」
とベートが垂れるが、瓜生は無視。
「ありがと!」
とティオナが気軽に手を振る。
「これ、ありがとう」
ティオネが腰のククリを返す。
「【ヘスティア・ファミリア】のウリュー・セージ。さっそく……」
と、瓜生は会議机の上に手を差し出した。
数回の呼吸。
光も風も何もなく、それらがあった。
アマゾネス姉妹が使った斧やバール。
両手剣や刀。
食人花をぶちぬいた、巨大な対物ライフル。
ガリルACE53……AKと同じ機構のイスラエル製最新型ライフル、7.62ミリNATO弾。空の箱型弾倉、紙箱に詰まった弾薬。
作業服上下。
箱入りの毛布。
250グラム金地金。
ビニールパックに入ったブロック肉。
コンビニおにぎり。チェーン店のフライドチキン・ピザ・フライドポテト。
お徳用袋入りのポテトチップス、フィンガービスケット、ポップコーン、バタークッキー。
大袋入りのレーズン、干しナツメヤシ、くるみ、アーモンド。
箱入りのホールケーキ。
大袋入りの乾燥パスタ。グラノーラ。
二リットルペットボトルのミネラルウォーター。
ボルドーの超高級赤ワイン、20年以上前のヴィンテージ。シャブリ・グラン・クリュの白ワイン。ブランデーのヘネシー。バーボンのワイルドターキー。サントリーの高級ウィスキー。純米酒。
いくつもの厚手のガラスコップ。
ずしり、と大きな机の、分厚い一枚板がたわむ。
リヴェリアとフィンは冷静だった。
「幻ではない、触れる……レアスキルどころではないな。聞いたこともない」
「『妙な音』はきみなのか?」
「はい」
と、弾箱を開けて一つ一つ弾倉に装填する。
「大きい音を出しても平気な、秘密を守れる訓練場に案内していただければ」
「わかった。あとで」
「あらためて……仲間の、あの白い髪のベル・クラネルを助けていただいて、ありがとう」
瓜生がフィンに頭を下げる。
「いや、うちのがひどいこといって……それに、ゆうべはうちのアイズたんたち、うちまで助けてもろて……あーもう、ドチビの眷属/子なのがむかつくわ!」
ロキが神妙に答え、叫んだ。
「こちらもあらためて感謝する」
フィンとリヴェリアが頭を下げた。派閥としての巨大な差などないように。
「よろしければ、こちらをどうぞ」
瓜生はそう、袋入りの菓子を開け、まず自分が少しずつ食べ、酒を開けて少し注ぐ。
毒見をするのがマナー、と思ったのだが、
「大丈夫。われわれはみな、耐異常がある」
フィンの目が鋭くなる。
(上級冒険者に毒を盛るバカはいない、だから毒見も必要ない。そんな常識も知らない……)
と、いうことだ。
アマゾネス姉妹から、喜んで食べ始めた。ロキも酒に飛びつく。
「う、うまい」
「おいしい」
「なんつーワインや!ディオニュソスの一級品や、ソーマんとこと比べてもすんばらしいで!」
自然に飲み食いをはじめる。
「聞いておきたいんだが」
瓜生は、先にともに戦ったアマゾネス姉妹とアイズを見た。
「なに?」
「なぜ、誰かひとり、あの女魔法使いの近くで護衛しなかった?」
「……そうね。反省してる。状況を考えず、いつもの感覚だけで動いた。同じミスは二度しない」
ティオネは素直に認め、フィンやリヴェリアに目線で謝った。
「……してる」
アイズも合わせる。
「もう、それは話したろう?レフィーヤも許してくれた。あれで大きく成長したよ」
リヴェリアが微笑した。
「これえらいうまいやんけ!」
ロキがわざと叫び、雰囲気を変える。
酒好きな反応を見て、瓜生はまず「世界の銘酒」というような図鑑を出し、載っている酒をいくつも出した。「世界のチーズ」でも同じことをする。
ロキとガレスは大興奮する。
それから少し楽しく飲み食いし、瓜生に皆が自己紹介して、室内訓練場に向かった。
瓜生が持って行ったのは、ガリルACE53。
「これはもう使えない鎧だ」
瓜生が言うまでもなく、試し切り用の廃物を持ってきていた。
「一応、壁を傷めないように」
と、瓜生は土嚢袋を出し、砂をその中に出すのを何度も繰り返した。壁に重ねるように置き、一つ一つの間に厚い木板をはさむ。一番壁際には厚い鉄板を三枚重ね、一番手前に廃鎧を置いた。
「とても大きい音がします。耳をおおってください」
そういい、耳栓を入れてから射撃。
「うわ」
「くそ、ひでえ」
ベートは耳を痛そうに押さえている。
「お……」
上級冒険者たちが眉をひそめて耐える。
「……買ったときは70万ヴァリスだったが」
リヴェリアがため息をつく。
ぼろぼろの鎧の、そこだけは無事で輝いていた部分に、穴。
その向こうの土嚢も一つ貫通され、木板で止まっていた。
(強装薬の徹甲弾を使ったからな。それでこれか、鋼鉄換算で何ミリあるんだこの1ミリかそこらの鎧が)
瓜生は内心ぼやきつつ、フルオートに切り替え、伏せて、残弾を土嚢に叩きこんだ。
「なるほど、それが噂の、とても早い太鼓のように続く音か」
フィンが聞く。
「魔剣?いや、魔力はまったくない」
リヴェリアが美しい眉をひそめた。エルフという種族は例外なく、強く魔剣を憎むものだ。
「こちらの魔剣はよく知りませんが、物が燃えるのと同じです。炎が風を起こし、ヤカンのふたが持ち上がるように、熱が力になって、吹矢のように」いつのまにか出していたペンチで薬莢から弾頭を抜いて渡す。「この金属塊を、高速で押し出す。中身の、この粉が燃えます。筒の底を叩けば、別の爆発する薬で。こちらのほうがわかりやすいでしょうか」
と、火縄銃と、硝石、硫黄、木炭、少し小さいサイズの釣り重り、薄い布切れを出す。安全ゴーグルもつける。乳鉢で硝石・硫黄・木炭を、本を見ながら調合する。
「この閉じた筒の奥に、この火薬を入れる。皮でくるんだ重りを入れ、この棒で押しこむ。その状態でここに火をつければ、圧縮された火薬が中で激しく燃えて弾を押し出す」
とやって見せる。火縄は使わず、ライターで。
「リボルバーの場合、引き金を引くと、こう弾薬……弾と火薬のセットの後ろ端を叩く。それで、衝撃で爆発する特殊な薬が発火する」
「よくわかった。それはわれわれも作ろうと思えば作れるんだね?」
「この原始的な銃の火薬は、硫黄・木炭・硝石。弾は鉛。こちらの薬莢は真鍮、無煙火薬と雷管はちょっとややこしいです」
「なるほど。だから、そのスキルがあれば、補充して無限に使える、と」
瓜生がうなずく。
「興味深いが、むしろ僕たちにとって重大なのは、どこででも、いくらでも食糧や衣類を出せる、ということだ……そうだね?」
「はい。制限はありません。魔力も使いません。ただ気をつけていただきたいのですが、おれの故郷の品だけです。こちらの高価な武器やポーションは出ません」
「そのようね」
持ち帰った武器を、幹部は確認している。
(『恩恵』を受けた鍛冶が打ったものではない、ただの鋼……)
と、わかっている。
「それでも、遠征に同行してもらえば、はかりしれない利益になる。20層以下の安全地帯に、リヴィラ同様の街を作れる」
「神々が面白がるのは当然として、大手ファミリアはどんな手段を使っても手に入れたがるだろうな。伝説の、ランクアップ呪文と同様の巨大な価値だ」
フィンとリヴェリアがうなずき合う。
「これで、仲間を……ベル・クラネルを助けていただいた感謝になったでしょうか」
「十分すぎるぐらいだ。君は我々に、何を求めている?」
「今は、このオラリオについてまだわかっていません」
「金は必要ないようだな」
と、フィンはいつの間にか持ってきていた金地金をつまみ、見慣れぬ文字とマークをいぶかしむ。
「はい。むしろ金価格を壊さないよう気をつけるほうが」
「そうだね。……これほど重大な存在なのに、それ以上にベル・クラネルというあの少年に親指がうずく。我々が考えるべきなのは、彼とどう接するかだ」
「あーっもう、なんであのドチビにこんなおもろそうな子が……」
ロキの文句が空気を変える。
「あ、あの」
無関心そうに見ていたアイズ・ヴァレンシュタインが、声を出す。
「……あの子に、謝りたい」
「彼は、礼状は出したはずです」
瓜生の言葉に、ロキがばつの悪そうな表情をした。
「そいつはすまんことしたな。おっきくなりすぎた派閥もやっかいなもんや」
「人気者を守るのは当然ですよ。ファンレターの選別は困難な仕事で、ミスがあるのは当然です」
「じゃ、じゃあ、恨んで……ないの?」
アイズの、懇願のような表情に、
「彼は感謝しています。おれもあらためて感謝します。仲間を助けてくれてありがとう」
瓜生が頭を下げたのに、アイズはふっと首を傾げた。
「それはそれですんだとして」
と、考えていた様子のフィンが口を出す。
「依頼したい。ちょっと幹部だけでダンジョンに行くつもりなんだが、同行してくれないか?報酬として、オラリオの権力構造についての知識や、紹介」
「承知しました。ただ、一つ……虐殺・拷問・強姦は絶対にお断りです」
「当たり前だろう」
リヴェリアはいぶかしむが、
「……わかった」
フィンの目つきがかわる。
瓜生の目が、
(いのちがけ……)
だったからだ。
言葉のわりに、覚悟が重すぎる。親指がうずく。
(まさか、理性のあるモンスターや、モンスター売買のうわさも聞いているのか?理性があり攻撃してこないモンスターとは和解する、全種の人と神々を敵に回しても、という意味だとしたら……まさか、いくらなんでも極端すぎる想像だ)
とても複雑な誤解であり、限りなく正解に近い。核心に踏み入っている。
瓜生はオラリオ、この世界に来て日が浅く、闇派閥によるモンスター売買まで触れるほどの情報力は今はない。が、これまでの異界での冒険の経験がある。あちこちでさまざまな虐殺を見てきたし、無知ゆえに加担したこともある……その罪悪感が、彼の心の根幹となっている。
また瓜生は知っている、故郷の同胞は今も虐殺をしているし、エルフや狼人が実在したら虐殺しかねない、
(最悪をとおりこした、どんな怪物よりおぞましい最高級有機質肥料製造装置だ……)
と。
フィンにも、真実はわかりようがない。瓜生がモンスターがいない異界に生まれた、さらに異界冒険者であること。話せる怪物を、怪物よりもっと悪い人間が虐殺しようとしたとき、怪物の側に立って戦ったことさえあること……そこまでは。フィンも神ではない、人間離れした直感で『異質』と『人間であること』『善良さ、正義感』を同時に感じるだけだ。
限りなく真実に近づいた直感は、さすがに常識に押し殺された。
瓜生から見ると、ベルがソロになった今、できることは少ない。技術や物資を売れる先を求めてはいるが、危険を冒したくない以上なかなか進まないのだ。【ロキ・ファミリア】の申し出は渡りに船だった。
「とても急だが、明日出発する」
「はい、行けます」
「では、正午にダンジョン入り口で。ベル・クラネルも連れて行ってもいいが……どちらでもいい」
「そうですね。言ってはみます」
フィンと握手した瓜生に、
「おい!」
突然、ベート・ローガが声を荒げた。
「はい?」
「おめえ自身は雑魚なんだろ?」
「ああ」
瓜生は一瞬めんくらい、考えた。そして、
(人間、かならず死ぬ……)
そう心に決めて、息をととのえた。
逃げ道はない。今このときのベートには、対抗できない。レベル2、耐久は高く防御魔法はあるが、剣も下手。
「今、この距離では」
「じゃあ、別の距離なら雑魚じゃねえのかよ」
「何百、何千Mも距離があり、準備時間があれば」
瓜生は、傍らにタライ、その中に水を出し、土嚢から土を入れて手で混ぜた。そのわきに、奇妙な円筒が転がる。無数の針金が絡み合うような、銀色。かなり大きい。
瓜生はその一部を持って、少し引き出した。銀色のテープのように伸び、ばねのように長い円筒になる。
皆が目を見張る。
「深い泥沼にする。土手も作る。これを、何重にも張り巡らせる……」
ベートがそれをつかみ、驚いた。
テープのようなそれは、ギザギザしたカミソリのような刃だ。レーザー(カミソリ)ワイヤー。真の『鉄条網』。日本で見る有刺鉄線とは、皮鞭とトゲつき鎖鞭の差がある。
「ぬかるみ、泥の土手や堀、レーザーワイヤー。さっきの弾の、口径10倍……体積千倍の弾が、一瞬で何万と降り注ぐ」
76.2ミリ砲弾を手に出現させ、ベートに手渡した。大ビンよりまだ大きい、とんでもない金属の重量に、ぐ、と息を呑む。ほかの皆もかわるがわる手に持ってみる。
「あの速度、長槍や戦斧なみの重さ。しかも泥沼……」
フィンが、ガレスがレーザーワイヤーの、特殊鋼の帯をつまみ、引っ張ってみる。刃の鋼、ピアノ線と同等以上の強度で、薄いが広いため桁外れの引っ張り強度となる。ペンチでは切れない、爆薬で破る。
「切れ味は耐久でしのげても、服や鎧に絡みつき、動きが鈍れば……的だ」
「ひどい戦いじゃな」
ガレスがため息をついた。
「ひどい戦いだ」
瓜生は知っている。それが、自分の故郷の現実だと。二度の世界大戦で、一千万を単位とする人命……のみならず馬命も……のみこんだ地獄だと。
「でも、モンスターがその立場になれば……この間の、あれとか」
「彼を敵にするな」
エルフの麗人が、ベートに言った。
「けっ」
と、狼人は目をそらす。
「一つ、忠告させてもらいたい」
フィンが瓜生の目を見つめた。
「はい」
瓜生は言葉が始まる前から、完全に圧倒されていた。
「きみは、きみが演じようとしている役に向いていない。経験はかなりあり、すべてに裏がある、だまされまいと頑張っているようだが……このガレスが呪文を唱え、レイピアを振るようなものだ。きみが、妙なスキル抜きにうちに入ったら、僕はきみを『壁』に育てる。きみの魔法……常時発動の不可視の鎧。言葉より雄弁だ」
「おまえさんが儂の隣にいて、こんな酒を出して盾を構えてくれたら安心できるな」
オラリオ最強の『壁』、ガレス・ランドロック……鉄の塊のようなドワーフが、瓜生の出したバーボンをラッパ飲みして笑った。
リヴェリアもうなずく。
「その魔法は、死にたくないという思い、誠実な強さ、そして優しい心を閉じこめた壁そのものだ。余計なことを考えず仲間を守るほうが、楽だろう」
瓜生は恐怖に脂汗を流し、涙が出そうになった。
辞去しようとしたとき、リヴェリアが呼び止めてドアを開けた。
レフィーヤが入ってくる。
「こちら、レフィーヤ・ウィリディス。こちらはウリュー・セージ。ちゃんと礼を言え」
王族の命令に、少女はいやいや頭を下げる。
「……ありがとうございましたっ!」
目線は明らかにそっぽを向いている。
「ああ、こちらこそ助かった」
「……皮肉ですか?」
瓜生はあきれてため息をついた。
「どちらも生きているんだ、それで十分だろう?」
「……ずるい」
リヴェリアはやれやれ、とため息をついた。
瓜生はバベルの、ヘファイストスの店で買い物をし、ついでに食料も買って帰った。
【タケミカヅチ・ファミリア】がベルと稽古するついでに集まっていた。
瓜生も稽古に少し参加し、それから羊羹と玉露をふるまう。
夕食をごちそうすることにして天ぷら、ネギとシイタケの味噌汁を作り、大きい圧力鍋ふたつで厚揚げ・大根・ブリカマの煮物と白ご飯をたっぷり炊いてふるまった。
故郷の美味に、極東の皆は大喜びする。タケミカヅチと前から親交があったヘスティアも、出稽古でふるまわれたベルも多少は知っている。
彼らが帰ってから瓜生が、
「明日から少し、【ロキ・ファミリア】に同行する」
そう言ったのに、
「うぇえええぇ、でもまあいいよ……さぞ役に立つだろうねえ……」
ヘスティアはロキの名に美少女台なしの表情をし、ツインテールも絡んだ針金のように複雑な形にした。
いくら駄女神でも、何十人もの遠征でいくらでも食糧と羽根布団が出てきたら、どれだけ役に立つかぐらいはわかる。
「え、すごい!」
午後はタケミカヅチと眷属の皆にしごかれボロ雑巾のベルが、目を輝かせる。
「おまえも来たければ来ていいって。考えるんだな」
瓜生は一瞬考え、アイズのことは口に出さないと決めた。
(自分なら、からかわれたくない……)
からだ。
「本当の強者を近くで見ることができる。一人じゃとてもいけない階層に行ける。なかなかできない経験になるぞ?」
「……すみません、もっと自信がついてからにします」
今の自分で、アイズに……【ロキ・ファミリア】の第一級冒険者たちに会い、その近くで戦うのは気が引ける。叫びだしたいほど、狂おしいほど会いたいけれど。
(せめてランクアップしてから!)
そう、決意する。
となれば、やることは。素振り千本、それから塩水を用意し、ルームランナーでフルマラソン。もう、瓜生の故郷の世界記録に近い。百メートル当たりの時間は13秒程度、常人が全力で走っても及ばぬ速さで、二時間少し走り続ける。
昨日の恐怖、精神の痛みをごまかすために、ひたすら走る。
ダンジョンに行っても行かなくても、毎日恐ろしい勢いで数値は伸びていく。
もう、力と敏捷はBに達している……どう考えても非常識だ。