ダンジョンに近代兵器を持ちこむのは間違っているだろうか   作:ケット

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普通

 瓜生が【ロキ・ファミリア】とともに深層を目指す日のこと。

 ベルは、いつもより少し早く起きた。いつも通り、朝練と薄めのオートミール。作り方は瓜生に、魔石を使う調理器具の使い方はヘスティアに教わり、自分でも作れるようになった。

 昨夜ものすごい運動をし、疲れが少し残っていたので朝練では走らなかった。

 タケミカヅチの教え、

(数だけ五百振るより、生きた剣を一度でも……)

 を意識して丁寧に素振りをした。

 そのあいだも、なんだかわくわくして楽しみで、仕方がなかった。

 故郷の、年に一度泥から貝を掘り出す朝のように。商人がやってくる朝のように。

(今日は、初めて……普通の冒険者たち、みんなとダンジョンか)

 

【タケミカヅチ・ファミリア】と一緒にダンジョンに行くことになった。

 カシマ・桜花とヤマト・命、二人のレベル2を擁する、貧乏だが、

(知る人ぞ知る……)

 武神のファミリア。

 ベルと同じレベル1のヒタチ・千草も加わる。

 本来はもっといるのだが、何人かはタケミカヅチとともに別の用事をしている。

 

「瓜生殿には感謝している。おかげで、より安定した収入を得られるかもしれない」

 瓜生はタケミカヅチの事情……故国の孤児たちへの仕送り……を聞き、資金とアイデアを出した。

 極東の美味を屋台にして、冒険者に売ったらどうか。

「黄金を掘るのではなく、シャベルを売る方が儲かる、というのもあるからな」

「最初の4か月分、資金と資材は出す。うまくいくようなら、資材の調達ルートを作るといい」

 中型の屋台。おでんや焼き鳥。夜は日本酒。昼は煎茶と和菓子、冒険者向けに塩飴や羊羹。

 キオスクのような小さいスペースで、けん玉やダルマ落としなど極東のおもちゃ、鮮やかな布でできた小物も売る。

 最初は、冷凍焼き鳥や日本酒などを瓜生が供給し、軌道に乗ればオラリオ周辺で肉を仕入れ、故郷から酒や醤油が届くように、というわけだ。

 それらの調理も、品の評価も極東出身の彼らにはたやすい。炭火ではなく魔石を使うのが少し慣れないが、タケミカヅチもジャガ丸くんの屋台で働き魔石調理器の扱いはわかっている。

 ダンジョンにはあまり行かなくなった瓜生に、タケミカヅチ・ファミリアは少し不思議なものを感じていた。だが、孤児院に寄付をしたりいろいろな商売に顔を突っ込んだりすることを聞き、なんとなく納得している。

 

 出かけたベルに、ヘスティアもついてきた。かなり早くギルド入り口につき、まもなく今日ともに戦う仲間たちがやってきた。

「よく来てくれた」

「この盾にかけて、みんな生きて帰るぞ」

 瓜生は、【タケミカヅチ・ファミリア】がベルを連れて行くと日程を決めたとき。

 ファミリア全員に、座布団ぐらいの大きさのバリスティックシールド、ハイポーション1本と普通のポーション3本を配った。

 ベルがすまなそうに、

「ウリュウさんは、今日からしばらく別のファミリアと遠征に行くそうです。どこと行くのかは、申し訳ないが秘密にするように、と」

 と不在を伝える。

 瓜生は【ロキ・ファミリア】に同行すると急に決まった。

 それはうらやましい、アイズ・ヴァレンシュタインに会えるのだから。でも断ったのは自分だ。

(まっすぐ彼女の目を見られる自分になるために、今全力を尽くす……)

 そう決めた。

【ロキ・ファミリア】幹部と一緒なのは伏せておくように、ヘスティアが注意している。よほどのことがなければ誘われるはずがないのだ。

「タケは大事な神友でいいやつだけど、それでもステイタスばれはしないように。そして、絶対に生きて帰ってきておくれ」

 ヘスティアの言葉で送りだされた。

「絶対に彼とともに、生きて帰ります」

 そう、武神の眷属も誓った。

 

 ベルは、今日は10キロもある大型バリスティック・シールドをかついでいる。背には刀と万一のためのポウチ。腰には『ベスタ』と呼ぶ黒い脇差、大中二本のナイフと短めの斧。

 軽装の下も、薄い軽金属の鎖帷子を着ている。その下はさらに耐刃シャツだ。

 瓜生が自分のと同時に買ったもので、軽さ優先、

(ベルの成長を妨げないよう……)

 30万前後の品だが。

「盾役、サポーターとしてしっかり皆さんを支え、命令に服従し、生きて帰る。ソロとは違い、ミスをしたら自分だけでなく仲間も死ぬかもしれない」

 瓜生にもそう言われて、覚悟している。

 

 ギルドで、エイナ・チュールと桜花たちの担当職員を呼び、臨時パーティでの冒険を申請する。

「いい勉強になると思うわ。ウリーさんとのパーティや、ソロとは違うからね」

「はい、ウリュウさんにも言われました」

「レベル2が二人、本来ならもっと深い階層に手を出したい戦力なのはわかります。ですが、ヤマト・命さんはまだランクアップしてから間がないし、臨時メンバーの存在は大きく戦力を落とします。

 どうか慎重に、じっくりと経験を積んでください。9階層まで」

 ハーフエルフの頼みに、桜花もうなずいた。

 金がいる。だが、それでも死ねば稼げない。そして、【ヘスティア・ファミリア】との縁に傷がつくリスクは、犯したくない。

 エイナはしばらくしてから、その瓜生が【ロキ・ファミリア】の幹部、超高レベル冒険者との遠征に請われて同行すると申請され、頭を抱えることになる。

 間違いなくとんでもないレアスキルがある、ということだ。レアスキルは、目の前で嬉しそうにダンジョンに向かった白兎にもあるのだが。

 

 ダンジョンに入り、上層階ではフォーメーションの確認になる。

 桜花たちはベルの実力も、稽古仲間としてある程度分かっている……つもりだった。

 今日は壁とサポーターに徹するつもりだ、と装備で主張しているが、ベルにはそれは向いていない。

 すぐに桜花が、

「盾は持つから、前線で暴れてきてくれ」

 と引き継いだ。

 弓から矢が放たれたように、ベルは飛び出した。

 レベル2の命にも、ランクアップが近い千草にも劣らぬ速さ。歩み足を保っているのに、それでも速い。しかも腰がしっかりと据わっている。

 すっと刀が閃いてゴブリンの喉から血が吹き、そのままたゆみなく次のコボルドの腕が断たれ、また次に向かう。刀の扱いになれた極東出身の皆から見ても、見ほれるほどだ。

 彼の刀はよいものではあるが、ただの鋼であり、高価な第一級・第二級装備ではないと知っている。それがこの切れ。刃筋が正しく、恐ろしい回数の素振りが見て取れる。腕力ではなく、刀の重さで斬っている、だからこそ切れ味が冴えている。きちんと研ぎ、荒砥で刃にギザギザをつけている。

 経験も、速さも、冒険者になって一月も経たない新人のものではなかった。何年も経験を積んでランクアップした桜花や命が、ぞっとするほどだった。

 その集中力と、

(好ましい臆病さ……)

 も、経験を積みランクアップに至った冒険者は高く評価した。周囲をよく見ている。モンスターの出現に、異常事態に、常に備えている。

 何度かおこなった、対人の稽古ともかなり別人だった。対人の稽古では、臆病さはむしろ悪いものとなる。だがこのダンジョンでは、得難いレーダーになる。

(これは、拾い物だな……)

(惜しいことをした)

【タケミカヅチ・ファミリア】は、ベルを断ったファミリアのひとつではない。もともと団員募集をしていないのだ。

 極東の孤児院仲間が上京したファミリアであり、文化も独特で、しかも故郷の孤児への仕送りが主目的なので、一攫千金目当ての荒くれが多い冒険者とはかなり毛色が違う。

 

 下の階に行っても、その勢いは衰えない。スタミナもとんでもない……

(普段、どんな鍛え方をしているんだ?)

 鍛錬が厳しいと自分たちでは思っている武神の眷属の、背筋が寒くなるほどだった。

 驚いたのが、7階層で何匹も出てきたキラーアントを、ベルがやや離れて先行、一人で殲滅したことだ。

 見るからに業物である黒い脇差、硬い甲殻をやすやすと切り裂く。

 たまに刃が引っかかっても、腰から短い斧を抜き、ツルハシになった峰で殻をぶちぬき魔石を砕く。ソロで痛い思いをしている。異常事態はあり、慌てたら死ぬ、と。戦いの後、振り返り反省するくせもつけている。

 レベル2で力もある桜花でさえ、

(これほど素早く殲滅できるか……)

 難しいと思えるほど。

 異様な黒い脇差のちからはあるが、

(頼り切らず斧も用意している。しっかりとギルド職員の講義を聞き、生き残るために準備している)

 準備したのは瓜生だが、それを受け入れているだけでも。

 

 9階に腰を据え、頻繁に出現するモンスターを倒し続ける。

 ベルは前衛、アタッカーとして、ウォーシャドウやゴブリンなど耐久が低めの敵を減らす役割を担った。

 その背後で、長巻とベルが持ってきた重い盾をそれぞれ片手でつかう桜花と、槍を両手でふるう命が息を合わせて大敵に立ち向かう。一度出てきたオークと多数の、強くなっているゴブリン相手にそのフォーメーションが見事に決まった。

 きっちり大盾で守り、その左右から槍と長巻。そしてベルと千草がゴブリンを片端から倒し、疲れ傷ついたら大盾の裏に退避して息をつき、ポーションを使う。

 無論、フォーメーションに不慣れな分、余計な動きや疲労もある。

「オークと一対一、やらせてみるか?」

 命がベルを指し示す。

「いや、もう彼も疲れているだろう。帰る方がいい」

 桜花が判断した、そのときだった。

 広めのルームの、壁全体がひび割れる。

 10、15……次々と魔物が出現する。本来ならもっと下に出現するシルバーバックまで。

 桜花の気合声がほとばしる。

 ベルと命が、すさまじい速度で疾る。黒いポニーテールが舞い、次々と突き伏せる。その陰に、白い閃光がぴたりと追随し、少女の背を狙う敵を片端から切り伏せる。

 どちらも武神の教えをしっかり守っている。ステイタスに頼らず、たゆまぬ反復練習で力を技に昇華している。

 両手に大盾を構えた桜花が、すさまじい力で、シルバーバックの突撃を真正面から受け止める。欲張らない、長巻は落として。

 押しとどめ、そのままずるずると押し切られる……背後から、閃光が二つ走る。

 全体重が乗った槍が、真横から脇腹を貫く。

 むしろゆっくりと振るわれる脇差が、アキレス腱を断つ。

 たまらぬ二撃に絶叫し倒れ伏しつつ、まだ暴れる巨体。投石はおろか5.56ミリNATO弾にも耐える頑丈な盾を構える巨漢が、力と勇気をふるって受け止め弟妹を守る。

 もう一度、また一度……槍が首を刺し、脇腹を刺してこねる。

 白兎の、黒い脇差が無事な側の足を狙い、感じた危険に飛び離れて、歩みを止めず命の背を狙っていたキラーアントを両断する。ベルが飛び離れた直後を致命の蹴りが行きすぎる。

 千草が長巻を拾い、全力で叩きつけた。それは太い腕に食いこみ、その腕の動きが少女を弾き飛ばす。

「千草!」

 叫んだ命が、もう一度目を狙う。

「まだ生きてる!」

 ベルが叫ぶとともに、巨猿の片腕を切り落とした。それがなければ、命は危なかった。

「おう、油断するな。攻めきれ!」

 桜花の声に団員が応える。

(これが団長、これがパーティ……)

 感動しつつもベルは足を止めず、さらに出現した多数のキラーアントに切りこむ。

 全力で支える桜花、油断を捨てて打ち続ける命……

 戦いが終わった時、全員疲れきっていた。

 

 傷も多く、瓜生に渡された普通ポーションを全員一本ずつ飲んで、やっと動き出す。

「あのときは、もっとひどかった……」

 つい数日前に死にかけたことを、命が思い出す。

「数日前、全滅を覚悟したところを『妙な音』が助けてくれた。ものすごい音がして、気がついたら10列はあった敵の、最前列以外が倒れていた……」

(あ、それ……僕たちです)

 ベルは言おうとして黙った。

(僕はなんにもしてません、吐き気をこらえていただけです。みんなを助けてくれたのはウリュウさんです)

「もう帰ろう。帰り道こそ、苦しい」

 桜花が深く息をついた。

 本来ならポーションもあるしもう少し粘りたいが、

(ベルを危険にさらさないほうがいい、今まではうまくいったが、やはりずっと組んできたわけではない。きつくなった時にぼろが出る)

 と判断したのだ。

「はい」

 冷や汗をかいたベルは、刀と脇差をぬぐう。

 たっぷりと散らばった魔石を回収する。

 しばらくだがソロでやっていたベルも、その作業は何度もやっている。

 

 帰り道。もう大丈夫だ……と思った5階層。

 未熟と思われる、傷も多い4人のパーティが脇を行きすぎ、10匹以上のゴブリンをおしつけてくる……『怪物贈呈』。さらにホールの壁全域がひび割れた。

 ゴブリンは迷宮最弱。だが、疲労していて、とっさに数えられないほどの数となれば別だ。さらに深い階層のゴブリンは、少しずつ強くなる。

 敵が多すぎて速度が活かせない。

 ひたすら、芋を洗うような戦いになった。

 さらに新手の出現。

 どれだけ戦い続けたかわからない。

「あれで引き返していなかったら、ここで全滅していたかも……」

 そう思ったほどの、ダンジョンの奇襲だった。

 背中を深くやられた桜花と、彼と戦い抜いた千草は、瓜生にもらったハイポーションを使ってしまったほどだ。

 

 

 疲れ果て、多くの収穫を抱えて帰ってきた一行を、屋台の主神や仲間たちが出迎えた。

 塩を入れたぬるめの煎茶をがぶがぶ飲んで息をつき、とっておきの玉露と羊羹に舌鼓を打つ。

「これはたまらないな」

 命が深くため息をつく。これほどの美味もない。

「はい。冒険者の皆さんが珍しがって、在庫がなくなりそうなんです」

「羊羹も、塩昆布も、みそ団子も、甘酒も」

「戻ってきた冒険者の人が、明日も来てくれ、塩飴を20個用意しろ、って」

「来なかったらファミリアごとつぶすと脅されました……」

「あれほど用意したのに?」

「ホームに補充に往復するのが大変でした」

 最初から、

(ばかばかしい……)

 と思うほどたくさん用意してあった。それが、もう黄昏時とはいえ……

 おもちゃの類も空っぽ。

 戦い抜いた冒険者たちの、甘味と塩味に対する強烈な欲望をなめていた。極東系発酵食品の、アミノ酸と塩の中毒性をなめていた。極東の文化に対する好奇心をなめていた。

「まあ、報告して帰るまでが冒険だ。おまえたちも疲れているだろう?」

 そう言いながら、ギルドに向かう。

「よくやったな」

 半分寝ていたベルを、命がねぎらう。今更ながら美女に弱いベルはぴょんとはねる。その命は主神のねぎらいにぽーっとしているのだが。

 

 報告を受けたエイナは頭を抱えた。

 ベルは、

「楽しかったです!仲間がいるのもやっぱりいいですね!いえ、いじめられてませんよ。みんなすごく優しかったですし、助けてもらいました」

 と大喜びだった。が、【タケミカヅチ・ファミリア】の報告と突き合わせ……

「本当に冒険者になって一月も経っていないのか?レベル2だと言われても驚かない」桜花。

「敏捷は低く見てもC。多分B」命。

「キラーアント8匹を一人で、あっという間に倒しました」千草。

 それだけではない。ベルにとっては、仲間の分の報告をするのが大変であり、それをまとめるエイナはもっと大変だった。

 

 

 屋台組もおでん鍋を加熱し、焼鳥と酒の準備を始めた。

 ベルを含む桜花たちも屋台組も、そこで食事する。ジャガ丸くん屋台が終わって、迎えに来たヘスティアも加わった。

 もう、何人も冒険者が後ろに並んでいる。

(今日も一日、生き延びた……)

 モンスターの緑や黒の血……自分や仲間の赤い血をバベルで軽く落としただけの、血なまぐさい荒くれたちが。

「一度帰って、身を清めて服を替えてくる」

 と命と千草が戻ろうとしたが、

「あれほど疲れているのにそれは無理だ」

 と桜花が止めた。

 日本酒だけでなく、焼酎も用意してある。

 焼鳥の注文が次々と入る。

 味噌をつけて焼いた餅も、おでんもどんどん売れる。

 無事に生きて帰ってきた、仲間も失わなかったベルと【タケミカヅチ・ファミリア】。

 大切な人を失ったのか、ひたすら遠い目をして焼酎を何度も、割りもせずおかわりする女。

 大金を稼げた者は、歓楽街や『豊穣の女主人』のような店に行くだろう。だが、どんな大金を稼いでも、げんかつぎに屋台で一杯のホットワインを飲む者もいる。

 

 日が暮れた、ダンジョンとギルドを結ぶ道……屋台には、とてもたくさんの人がいた。

 いろいろな人が。荒くれも欲張りも。邪悪な者もいい人も。悪人がいいことをし、善人が悪いことをすることもあった。

 ベルとヘスティアは、名残惜しいが帰った。ダンジョン組も、

(明日に引きずるな、よく眠れ……)

 と帰った。

 ベルには、いつも待っている女神がいる。今日はいないけれど、家族がいる。エイナやシルも心配してくれる。

(それだけでも、とても幸せなことなんだ……)

 戦いの疲労と、満腹の幸せが眠気に変わる。

(そういえば、ウリュウさんたちは……アイズさんは、無事だろうか)

 無事に決まっている。【ロキ・ファミリア】の、レベル6を含む超実力者ばかり、瓜生も本気になればすさまじい戦力になる。

 だが、今日はさんざんダンジョンの悪意を経験した。レベル2にとっては余裕だったはずの、5階層でも苦戦した。

(絶対はない……)

 屋台で話し、飲み食う冒険者たちのあり方が、それに対処する見本に見えた。

 何よりも、怪物祭り以前の三倍、一万ヴァリス以上は稼げたのだ。

 それは……そして屋台のとてつもない収益は、ベルの心にかすかな影を落とした。

(生活だけなら、今日程度の稼ぎや、屋台でも十分……)

 このことである。

 普通の冒険者と冒険をした。アイズ・ヴァレンシュタインや瓜生のような、特別な存在ではない、普通の人と。

 自分もそうだ……そう思っていた。ミノタウロスに殺されかけ、幼い夢が破れたことで。

 彼のレアスキルを、主神は隠している。桜花と命はそのすさまじさを目の当たりにしたが、

(頑張っているから……)

 と、見ないことを選んだ。

 普通の人。普通の冒険者。普通の商売。それが、小さな星のようにベルの前にあった。

 だがベルは、あえてそれから目を背けた……

 

 疲れて、幼い女神を連れて帰路に就く、ベルの胸の炎は消えない。憧憬一途……アイズ・ヴァレンシュタインに追いつき、その隣に立つために。

 今はまだ雑魚。あの狼人が言ったように。

 今日も、桜花や命、みんなにたくさん助けてもらった。仲間がいなければ何度死んでいたかわからない。いつもは今日のように、たくさんの魔石やドロップアイテムを持ち帰ることもできず、途中でバックパックがいっぱいになって引き返していた。

 でも、一日生き延びた。なら一歩でも前進できる。ウサギとカメの、カメのように。

「今日は無理せず休むんだよ」

「……少しだけ。素振り三百本と、デッドリフトだけ」

「しょうがないなあ……ダンジョンで頑張るより、死にはしないか」

 もう廃教会は解体され、工事中の地下室に帰る二人は、本当の家族だった。

 

 

 ある、とても遠く高いところで。

 一人の、とてつもなく美しい女神がそれを見ていた。

「並外れた宝石を、普通の輝石に混ぜて……確かに際立つけど、それでは本当に宝石の力を引き出すことにはならないわ。

 最高の宝石は、最高のデザインで最高の宝石と並べ、最高の絹をまとった最高の美女がつけるべきよ」

 そう、素晴らしい酒を楽しみながらつぶやいていた。

 本当に最高の酒は、彼女でも簡単には手に入らない。だが、彼女はそれにはこだわらない。

 酒よりも、美しく自らを飾ることよりも、魂という宝石が好きなのだ。

 

 

 その深夜、

「ちょっとあって、みんなを最高速度で送ってきた。明日また出かける」

 いきなり帰ってきた瓜生に、ベルは頼みこんで【タケミカヅチ・ファミリア】の、様々な商品の在庫を予定の五倍ほど用意することになる。




原作で、もっと早くから【タケミカヅチ・ファミリア】と縁があってもよかったのに。
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