ダンジョンに近代兵器を持ちこむのは間違っているだろうか   作:ケット

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威力

 リヴィラ……ダンジョン18階層、安全地帯に築かれた無法の街は、殺人事件のため封鎖されていた。

 たまたま居合わせた【ロキ・ファミリア】団長フィン・ディムナらは、その捜査に協力した。

 ただ、第一級冒険者たちとともに現れた、顔を隠した奇妙な男は姿を消していた……

『九魔姫』リヴェリア、『怒蛇』ティオネの姿もなく、ゆえに身体検査で女たちの嬌声からの大騒ぎも、なかった。被害者の背の神聖文字を読んだのは、アイズとレフィーヤだった。

 

 街は守られていた。

 わずかな時間で何十ものクレイモアと対戦車地雷が置かれていた。リヴェリアとティオネに地形を聞き、要所を固めた。人間が引っ掛からないように立て看板も置いた。無筆であってもわかるようにと絵図がある立て看板、その上にリヴェリアが字も書いた。

 そして街の周囲を見渡せる高台に、シルエットを隠した金属塊があった。後ろが少し開けた物陰に山積みの荷物があった。

 瓜生はひたすら大量の機関砲弾を準備していた。すでに燃料を供給し、エンジンを始動して砲塔に動力を、レーダーに電力を供給している。

 

 集合が告知され、戻ってフィンに合流した瓜生たち。瓜生は筒状の布袋を二つ背負っている。

 そして、アイズとレフィーヤが【ヘルメス・ファミリア】の運び屋を確保し、そこを襲われ……それを見ていない人もたくさんいる。

 草笛が響いて、まもなく。突然、爆発音がとどろいた。バラバラになった巨大すぎる蛇の体が、空を飛んできた。

 バラックを、人をなぎ倒して落下する巨大な破片に、冒険者たちが呆然とした。

 街から離れた、普通は人が立ち入らない領域に仕掛けられた、装備を計算に入れても人間の体重では起爆しない対戦車地雷……それが次々に爆発したのだ。

「行け!街を守れ!」

 フィンの叫びとともに、瓜生とティオネが走る。ティオネは、愛する団長に命じられた、

(瓜生の護衛という仕事……)

 を忠実に果たすつもりだ。怪物祭りでの戦いで、レフィーヤを傷つけた責任も感じている。アマゾネス、狂戦士の性を抑え、幹部としてふるまっている。

 大量の高性能爆薬、ゼロ距離の爆発に何体もちぎられ吹き飛んではいる。だが圧倒的に数が多い……

 瓜生は走りながら、大荷物の一つを取り出した。

 セミオートの.50BMGライフル。強大な大口径高速弾は、さすがの食人花にも打撃になる。人間に命中すれば胴体が両断されるほどの威力なのだ。

 大穴を開けながら暴れ続けるそれを、ティオネのククリが叩き切る。瓜生が渡したものとは違う、【ゴブニュ・ファミリア】渾身の傑作。手斧のように重さが先端近くの刃に集中する、日本刀とは逆に湾曲した曲線刃が、硬く頑丈な皮をやすやすと断つ。

 瓜生はその援護を受け、少しだけ背後がひらけたところに走った。

「おれの背後から、人を排除してくれ。背後に立つな」

 そう言って、背中の荷物を開けて断面四角形の、大きな塊を引っ張り出した。

 背後を強力なライトで確認してすぐ、バックブラストが後ろを吹き飛ばし可燃物は炎に変える。直後、食人花に吹き上がった火柱。もう三発、壁を乗り越えようとした怪物を次々に焼く。炎の光だけで服が燃えだしそうになるほど、近くのバラックに火がつくほど、とんでもなく高温の炎だ。映画「コマンドー」で有名な、M202焼夷ロケットランチャー……本来の弾は、超高温の炎を上げる焼夷弾が四発。

 すぐに近くの物陰に走る。バックブラストが容認されるそこには、M202を何十基も事前に積み上げ、隠してあった。

 小山のように積み上げたロケットランチャーを担いでは筒を伸ばして四発同時発射、空ランチャーを消す。

 数十秒の準備時間と、後方噴射が許される空間があり、距離が20メートル以上200メートル以下ならば、多数の巨大生物に対して最大の攻撃力を出せる方法の一つだ。生身でやると疲れるが、『恩恵』がある今は体力切れもない。

 ティオネは、そこにいた別の冒険者も、呆然とするほかなかった。最強の魔法使い以上の火力が、詠唱もなしに惜しげなく注がれる。

 それから、瓜生は高台に駆け上がった。そこに、バラックのふりをして隠した巨塊が鎮座している。

「砲口炎も危険だ、こっちに乗れ!」

 イタリアのSIDAM 25対空自走砲。M113装甲兵員輸送車の上に、25ミリ機関砲4門。地上用の低速バルカン砲に近い連射速度で、一発の威力は倍近い。20の三乗は8000、25の三乗は15625だ。

 移動は捨てる。エンジンから使わないがレーダーと、砲塔を動かすための動力を供給する。高性能の光増幅暗視装置つきの双眼鏡で見ながら砲塔を回す。

 一閃。270度、右から左に掃射しただけ。それで食人花の大半は掃討された。スパゲッティに至近距離からマグナム銃を撃ちこんだように。

 とてつもない砲口炎が吹き上がる。強力な砲弾が、太く硬い胴体をぶった切る。その後ろも。さらにその後ろも。

 瓜生の、常時発動の魔力を求めた触手の攻撃も装甲に阻まれ、ティオネが切り刻む。

 崖から続々と這い上がる、それも出した目鼻のない顔が即座に、中の魔石ごと消し飛ぶ。

 

 街では、フィンの指揮で冒険者たちが、瓜生の守っていない方向から襲うモンスターを迎撃していた。

 物陰に積まれていた頑丈な盾や鋼ではあるが丈夫な斧は、それなりにレベル2の冒険者の戦力を高めた。

 そして守り抜き……リヴェリアの大呪文が猛烈な火柱をいくつも上げた。

 やや遠くから見たティオネは、比べずにはいられなかった。

(オラリオ最高の魔法より、彼の方が早く火力も強い……準備時間があれば、後ろに出る炎の問題さえなければ)

 それはすぐに、

(団長に、【ロキ・ファミリア】にわざわいをなすのならば、今のうちに……彼は個人の接近戦では弱いのだから)

 ともなる。

 

 瓜生は警戒し、弾薬を補充する。ティオネも装甲車から出て、目視で警戒していた。

 一息入れ、再装填作業にかかった、直後。とてつもないものを見たティオネが叫ぶ。

 女とタコ。多数の触腕は、一つ一つが巨大で硬い食人花。

 ほんの一瞬、敵意を確認する。だが女怪は岩陰になり、狙えなくなってしまった。

「移動するか」

 と、瓜生が操縦席に乗り換えようとしたとき。

 

 タコのような女怪物は、別の怪物を従えていた。

 世界を隔てる壁が薄くなったことで、なにかが変わったものか。

 ハード・アーマードを三倍以上にしたようだった。それが丸まって巨大な鉄球となり、装甲車を襲う。

 瓜生は車外にいた。速い!

 とっさの判断、手榴弾を投げ装甲車を放棄して抜け出す。すさまじい勢いで、硬い球が装甲車に激突した。巨体が揺らぐ。

 爆発炎上はしていないが、確認する気にはなれない。瓜生は装甲車を盾とした。

「時間を」

「わかった」

 ティオネが即座に動く。激突して見せた腹を狙い、その長い爪と切り結ぶ。

 もう一体!

 ティオネを狙う突進、瞬間後方炎が吹き上がると、爆発がその行く手を阻む。

 分厚い装甲はあっさりと貫通され、内部から焼き上げられた。

 パンツァーファウスト3対戦車ロケット。使い捨てで、成形炸薬弾頭は700ミリ=70センチの鋼を貫通できる。カウンターマスを後ろに飛ばすので、かなり狭い場所でも安全。

 それでも動く巨体に、M202焼夷ロケットが二発ぶちこまれる。

 激しく戦っているティオネを見て、別の巨大な筒を手にする。以前も使った、20ミリ巨大対物ボルトアクションライフル。

「撃つタイミングを作ってくれ!」

 その叫びに、アマゾネスの第一級冒険者は鮮やかに応えた。

「爆発をそこに」

 硬い刃と装甲が奏でる歌声の中、見事に声が通る。

 瓜生は応えて、爆風手榴弾を放った。

 絶妙なタイミングで、アマゾネスは体を丸めようとした怪物を引き寄せ、爆発にさらす。

 それで足元がゆらいだ、その瞬間……引くのではなく、突撃して一撃斬りつけ、そのまま巨体を駆け登って飛んだ。

 機関砲の砲身を蹴って、さらに遠く飛ぶ……その下、追おうとした重装甲の怪物を、ボルトアクションの20ミリ機関砲弾がぶち抜いた。

 即座にもう一発。もう一発。

 もう、残骸もろくに残らないまでの破壊。

 

 大呪文を詠唱していたリヴェリアは襲われながら、あざやかな並行詠唱を見せた。触手をよけ、M460リボルバーで正確に核を狙って時間を稼ぎ……さらに敵の目を引きつけて、呪文を中断して逃れた。

 そして女の体の、目を正確に狙った銃弾を食人花である腕が弾き……

 リヴェリアを囮にしたレフィーヤの大呪文が決まる。

 

 装甲車は壊れており、機関砲も使える状態ではなかった。

 愛する団長の呼び声に応えたティオネが高速で走り、タコ女の上体を襲う。

 瓜生が追いついた時には、そちらの戦いは終わっていた。

 

 

 アイズを襲い続ける、『アリア』の名を出す奇妙な女。

 彼女が追い詰められた時、フィンとリヴェリアの助けが入った。

 フィンの技量はすさまじい。長槍で間合いを支配し、呼吸を支配する。磨き上げられた技は、人間離れした力の女に力を発揮させない。

「調子に……乗るな!」

 桁外れの力を叩きつける女に、カウンターを狙ってフィンの槍が、すさまじい勢いで突き出される。

 女がわずかに上を行った……圧倒的な速度。1000分の3秒に2手を詰め込み、払って突進する。蹴られた地面が爆発するほどの力、すべてを砕く拳がフィンの胴体を……

 引き延ばされた時間、いぶかしむ。槍が中空に浮いている。小人の両手が腰に向かっている。

(ナイフ戦か)

 ナイフの届かない距離、手の長さの違い……

(とった)

 槍を手放した『勇者』は強烈な拳をかわしもせず……閃炎がひらめく。光が遠くまで一瞬照らす。砕けた水晶が輝く。

 女の、踏みこんだ足の膝が蹴り飛ばされる。腰が砕け、拳がはずれる。

 百分の一秒遅れて、音が叩いた。鋭く、強烈な。空間がきしむような。

 震脚の瞬間、膝に3発。正面から2発、横から1発。フィンが瓜生に渡した、スミス&ウェッソンM460リボルバーの二挺拳銃。リヴェリアも、正確にタイミングを合わせて横から両手で撃っている。

 拳銃最強といわれるM500とは微妙に方向性が違い、拳銃弾最速の名で知られる。8インチの長い銃身、強装の徹甲弾……ライフル並みの初速と威力。

 完全な意識の虚、特にフィンは自分の手も標的もまったく見ていないのに、針の穴を通す正確さ。

 圧倒的な運動量が、着地の瞬間の膝を前と横から殴っている。タイミングのいい出足払い同様、力が強くなくても十分だ。

 とてつもない強度の体、だが膝は常人の格闘でも、鍛えようのない絶対の急所だ……どんな格闘技でも瓜生の故郷の医学では、重い障害が生涯残るため禁じ手にするほかないほどに。

 人間を捨てた耐久、常人がハンマーで殴られた程度にダメージを軽減してはいる、だが膝をやられれば、格闘家でもほぼ無力になる。

 痛みは克服できる。だが、体の機能が実際に半減している。脚がいうことをきかない。

 次の瞬間、顔を狙う一発……それは腕の肉に深く食いこむ。常人なら腕がちぎれてもおかしくない威力だが、さすがの耐久……だが、まったく同時に無事なほうの膝にも一発。

 即座に両手の拳銃を放り上げ、中空の槍をつかみ取ったフィンの、最高の槍使いとしてのすさまじい一撃が襲う。

 かわしたそこに、リヴェリアの銃弾と呪文……

 女は、もう離脱一辺倒だった。壊れた膝にむち打ち、逆立ちして手で走って、恐ろしい長槍から逃れた。

 槍、呪文、銃、杖……どれに襲われるかわからない。これに対処できる者などいない。

 

 

 戦いが終わってから、いつのまにか二百ものベッドが、水の入ったドラム缶、清潔なタオルが用意されていた。

【ロキ・ファミリア】は、たくさんのポーションを持ち込んでいた。

 疑問を持つ余裕もなく、数匹踊りこんできた食人花にやられた冒険者たちは、ありがたく臨時の野戦病院で治療を続けた。

 

 同時に、地上に急いで報告しなければならない……フィンたちは地上に向かう。その背後に、いつしか奇妙な目出し帽をかぶった男が付き従っていた。

 

 

 去り際、フィンがボールスに隠し場所を教えた、毛布・補強された穴が隅に空いた丈夫な防水布・木材・釘・(巨大な円盤状)チーズ・パン。

 さらに、およそ6×2.5×2.5メートルの、扉のついた鉄箱……コンテナが三十個、空き地に転がっていた。

 それらは復興を大いに助けた。

 そのかわり、【ロキ・ファミリア】と、特別なキーワードを知る者は今後一年、リヴィラの利用が無料になるという恐ろしい特典をもぎ取られた。

 といっても、もう【ロキ・ファミリア】にとってリヴィラは、ほとんど利用価値がないことをボールスは知らない。

 

 

 17階に行った瓜生と【ロキ・ファミリア】の幹部たち。人目を排除してから、瓜生はとてつもないものを出した。

 六輪の装甲兵員輸送車。8人乗れる。

 いつも通り、RWSを操縦席で扱えるようにする。そのまま、すさまじい速度で地上に向かう。地上で治療すれば、かろうじて助かるかもしれない者も積んでいる。

 第一級冒険者たちも、足は速い。だが、時速60キロで何時間も走り続けるのは、さすがにきつい。だが、装甲車は燃料が持つ限り走り続けられる。中層で厄介な縦穴も、六輪なので慎重に運転すればまず大丈夫。

 撃つ必要もほとんどなかった。単に、モンスターは追いつけないのだ。

 ただそれはそれで、後方に多数のモンスターを置いていくことになり、近くをたまたま通りかかった冒険者にとっては大きな迷惑になるのだが……

 それは時々、休憩しては第一級冒険者たちが一掃する。

 

 それで、とんでもない時間で地上に着き、ゆっくり主神ロキと相談して、ギルドへの報告を済ませることができた。




第一級冒険者に拳銃を渡したらとってもたちの悪いことになります。

タイトルは誤解を誘っています。
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