ダンジョンに近代兵器を持ちこむのは間違っているだろうか   作:ケット

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かなり残酷な文があります。要注意。


新しい仲間、新しい真の仲間

 瓜生がロキのお神酒に、30年以上熟成のシャトー・オー・ブリオンを捧げていた。

 ちょうどエイナ・チュールもリヴェリアに連れられ、市販の神酒(ソーマ)を土産に来た。

 リリルカ・アーデとパーティを組んだベルを心配し、調べていたのだ。

 そして瓜生も交え、【ソーマ・ファミリア】のゆがんだ姿を詳しく聞いた。

 なぜか瓜生は、その薬物中毒じみた話に、抑えてはいたがかなり強い反応をした。

「……なら、ロキはほしくないか?ソーマその神(ひと)は。ファミリアはいらない、で」

「……そりゃあ。この失敗作でも毎日飲めたらなあ」

 瓜生のほのめかしに、ロキの糸目がさらに細くなる。天界の悪戯者(トリックスター)らしい表情が出る。

 エイナに少し遠慮してもらい、瓜生はロキを誘って数本の酒ビンを〈出し〉て渡した。それ自体が芸術品と言えるくびれたガラスに深い赤褐色の中身……絵が描かれたラベルの古いビン……コルクが崩れそうな、百年は経っていそうなビン……

 ロキは舌なめずりしながら、糸目の奥はトリックスターの奸智をはたらかせていた。

 

 そしてリヴェリアはエイナに、なぜ【ソーマ・ファミリア】について調べているか聞いて、ちょっとしたことを思い出した。

 エイナが担当し、心配しているベル・クラネルは、瓜生と同じ【ヘスティア・ファミリア】。その彼が、瓜生が陰で見ていたとはいえ魔法を試してやらかしたこと、アイズ・ヴァレンシュタインに気にかけられていることも。

「ああエイナ。私はこの前、ウリュウと組んで遠征に行った。だからベル・クラネルという少年もまったくの他人とは言えないな。深層にとどまるといったアイズ・ヴァレンシュタインにつきあって、皆から遅れて戻っていた、3階層で……」

 

 

 その朝、瓜生は朝起きたら見当たらなかった。

 ビーツの朝食はベルが用意した。パンとオリーブオイル、スクランブルエッグ。もちろんとんでもない量。

 問題は、高価だという魔導書をシルに返しに……

 ちなみに、

「ウリュウくんに泣きつけばいくらだろうが出してくれる。城を崩すほど金を出したことがあると言ってたし……」

 と一度ヘスティアが言おうとして、

「いやだめだあれに頼ったら人間終わるよ……それに、彼の故郷の王様は、本当に部屋一つ黄金で埋め尽くしても火あぶりにされたって……」

 と真っ青になってつぶやいた。ベルも同感だった。

 とにかく誠心誠意土下座に賭ける、瓜生を引っ張り出すのは最後の手段……

 

 

 リリルカ・アーデは、周囲に危険な匂いがしてきたことと、自分がベルの危機に切り札である魔剣を使ったことがきっかけで、動こうと思った。

 自分にとって魔剣が切り札であるように、ベルも切り札を持っているかもしれない。

 それを確認する……危地に落とし、孤立させることで。それで中間報告、その価値で自分に対する攻撃を止めさせる。

(利用価値がある限り、攻撃は止めてくれるはず)

 そう考えた。欲深さ、金の卵を産むガチョウを殺さない理性を期待したのだ。

 ヴェルフや、小さいビーツを巻き込むのは気が引ける。また、計画がとても難しくなる。

 だが、小さい体ですさまじい活躍を見せるビーツも、恵まれた体と力で豪放に戦うヴェルフも、どちらも嫉妬を抱いてしまう存在だ。

 それに、

(どちらも、冒険者……)

 なのだ。憎い、にくい……

 三人とも、リリを優秀なサポーター、指揮官、射撃手と認め対等に頼りにし、収穫も公平に山分けにしてくれることからは、あえて目をそらした。それを認めてしまったら、自分が崩れてしまう……

 

 シルに本を返しに行ったことで遅れたベルは、待ち合わせ場所に急いでいて……山吹色の髪のエルフ少女にぶつかった。手を差し出して、エルフは接触を嫌がることを思ってためらったが、彼女はその手を取った。

 その時にはただ美しさに驚いていただけだが……エルフ少女が、何かに深く悩んでいるようだったことにも気がついた。

 さらに、

(リリをはめよう……)

 という冒険者と争いになりかけた。

 

 やっと広場に着いて、いつものところ……【タケミカヅチ・ファミリア】が屋台を出す軒先にヴェルフがいた。

 ヴェルフがいつも通り、大量の弁当を背負っているビーツをからかう。

 そのとき、さっきぶつかったエルフの少女が声をかけてきたのだ。

「あなたが、【ヘスティア・ファミリア】のベル・クラネルですか?」

 ベルはびっくりして声を失っていた。

 レフィーヤはベルの人相は聞いていた。だが、ぶつかった相手がそのベルだと気づくゆとりもなかった。

 すぐ、リリもやってきた。

「え、え?【千の妖精(サウザンド・エルフ)】?」

「……はい。【ロキ・ファミリア】のレフィーヤ・ウィリディス、Lv.3。ベル・クラネルさんのパーティに入ってあげても……じゃなくて、入れて……ください」

 全身から「ぐぬぬ」と聞こえそうな気配。

「リヴェリアさまと、フィン団長が、ベル・クラネルとパーティを組んで行って来いって。あなたの同僚、ウリューさんからも伝言されてます!」

 差し出した紙を開けると、

『このれふいーやさんと、よければ、だんじよんでしゆぎようしてこい。うりゆう』

 ぐらい未熟な文が書かれていた。

「あ、あの……こちら、僕と今パーティを組んでいるヴェルフ・クロッゾ、【ヘファイストス・ファミリア】の、それと」

「私は、リリルカ・アーデというしがないサポーターです。所属は【ソーマ・ファミリア】ですが、素質がないので自由行動を認められています」

 それだけリリが言う。その卑屈さのわざとらしさは、余裕のないレフィーヤにはわからなかったろう。

「ぐ……うわさは聞いていましたが、【ヘファイストス・ファミリア】にクロッゾの末裔が……いや、リヴェリアさまに言われていました、友好関係を保て、鍛冶師を敵にするなと……」

 エルフであるレフィーヤは歯をギリギリと鳴らす。

 エルフはクロッゾ、魔剣鍛冶貴族を憎んでいる。かつて魔剣の力でラキア王国があちらこちらを攻めたとき、エルフは大きな被害を受けた。故郷の森を焼かれたのだ。

「はあ、はあ。すーっ、はーっ、すーっ、はあああああーっ。すう。失礼しました。かまいませんよ、あなたが悪いわけではないのですから」

 レフィーヤはそう言いながら、ヴェルフとまったく目を合わそうとしない。

 ヴェルフはやれやれ、と肩をすくめた。

 

 ベルが新しいパーティなど報告して、ダンジョンに入る手続きをしようと『ギルド』窓口のエイナ・チュールに会ったとき、とんでもない悪寒がした。猛烈な怒りの気配を感じた。いつもと変わらない、美しい笑みの中に。メガネの輝きが、

(とんでもなく怒っている……)

 ことを、告げているのだ。何度か見ているからこそ、わかる。

「ベル・クラネルさん。ものすごい美人がお待ちかねですよ。ちょっとこちらへ」

 もう、言葉の意味が分からないほど混乱したベルは、だらだらと汗を流していた。

 まるで連行されるように個室に……

 エイナは嘘は言っていなかった。確かにそこには、とてつもないエルフの美女がいた。

「君がベル・クラネルだな。ウリュウに話は聞いているし、寝顔は見ている」

 ヘスティアとのデートの時もみゃくちゃにされた、その女神たちにまさるとも劣らない、圧倒的な美。

 それが、好意的な視線というより……怒っている。

「【ロキ・ファミリア】のリヴェリア・リヨス・アールヴだ。この間の夜、精神疲弊(マインドダウン)で、ダンジョンの真ん中で一人で寝ていた愚か者だな。魔法が発現して、興奮して一人でダンジョンに突っ走って、試しているうちに……といったところか」

 ベルは、崩れ落ちそうになった。超絶美女の、すさまじい迫力に。

 エイナがまた、笑みを崩さないままとてつもなく怒っている。

 リヴェリアの静かな静かな迫力にもベルは震えあがっている。

 二人の怒り方が、とてもそっくりに見える。親族ではないようだが、少し似ている。

「しかも、助けてくれたアイズさんに礼も言わず逃げだすとはねー」

 エイナの平板すぎる声。ベルはもう、冷や汗で溺れそうだった。

「きっちりとアイズに謝っておけ。女を悲しませる男は最低だぞ」

「最低ですね」

 ベルはもう、一言も言えず蝋人形が溶けるように消えいっていた。思考一つできないほど。

 あとは、もう筆に尽くせぬ。

 

 

 それ以前に、ベルの新しいパーティメンバー……【ロキ・ファミリア】のレフィーヤ・ウィリディス、最大手ファミリアどころかオラリオのエルフ全体でも有名な期待株。もうエイナの精神は限界に近かった。

(普通の人がいないのかしらベルぐんのまばりにば……)

 

 ちなみに、説教されているベルを待つリリの精神も、限界に近かった。またしても新メンバー、パーティの戦力ががらりと変わる。

 作戦は事実上不可能だ、時間がないというのに。

 

「リリとヴェルフ様、二人でレフィーヤ様の詠唱が終わるまで守り抜きます。ベル様とビーツ様が前衛、アタッカーですが、何よりも確実に退避することが生死を分けます」

「僕も、魔法が発現したんだけど……」

「じゃあその次に、その検証を!違うファミリアの者に対する能力開示と守秘は契約にありますので!」

 リリは頭がパンク寸前になっている。

 

 4階層。これまでにレフィーヤも、ビーツとベルの強さはある程度見ている。

 特にビーツの、年齢と体格に似合わぬ強さには驚かされた。

 レフィーヤは一番弱く、追尾性能があり扱いやすい【アルクス・レイ】を見せた。

(このメンバーで行く階層では、この呪文で十分……)

 と考えている。

 それでも、遠距離攻撃呪文の威力を初めて生で見たベルはすごいと大喜びしており、レフィーヤは鼻高々だ。

 そして待ちかねたようにベルが呪文を唱えた。リヴェリアとエイナにさんざん怒られたが、それぐらいで14年間の憧れは消えない。

「【雷火電光、わが武器に宿れ。ヴァジュラ】」

 呪文を唱え終わった瞬間、すさまじい光がベルの刀を包む。

 目の前のゴブリンはひるんだかに見えた。

 次の瞬間、右足の深い一歩、しっかりすわった腰の回転。振りかぶった刀を袈裟に落とす。

 閃光と轟音。至近距離の雷と同じ、魂を飛ばすような衝撃。

 レフィーヤとリリの悲鳴が上がる。

 ゴブリンだったものは何もない。

「すげえ……」

 ヴェルフが呆然とし、次々と壁にひびが入ることで目が覚めた。

「みんな目を覚ませ!ここはダンジョンだぞ!」

 ビーツはまっさきに動き出した。

 はっとしたベルも、刀をひっさげて歩き出す。

 呆然と立っているリリとレフィーヤが復活したのは、そこのゴブリンを殲滅してからだった。

「……付与(エンチャント)、短文詠唱で……それも雷だけじゃない。火と、時空破壊……刀が当たらなければ無意味、でも当たれば何その威力は!?そんなのありですか!」

 レフィーヤが悔しそうに絶叫した。

「とんでもない一撃必殺呪文ですね……ただでさえ刀の威力があるのに……過剰威力で、消耗するだけです。よほどの強敵以外には使わないほうがいいでしょう」

 ふと、リリは何か考えて、いうのをやめた。連射がきく『リトル・バリスタ』をそっとなでた。

「えー」

 とベルは文句を言いたそうだ。それに、リリはきゅっと唇を噛んだ。

(付与系魔法が発現したら、試すべきこと。仲間の武器にも付与できるか。剣以外、特に多数の矢や太矢にまとめて付与できるか)

(……それは後日でいいでしょう、結果が重大すぎます。いや、ひょっとしたら、ウリュウ……『妙な音』も、『リトル・バリスタ』に付与魔法をかけたようなものかも)

 

 その日はリリがそう言ったので無理をせず、10階層前後で稼ぎつつ陣形で動く訓練をした。

 ベルの魔法を付与した刀は、オークやハード・アーマードも一撃で両断し、焼き尽くした。

「魔石が……」

 とリリが残念がるほど。

「レベルいくつの威力なんですか」

 とレフィーヤが呆然とする。

 そのレフィーヤも、かなり長い間ぶりの低レベルパーティ。駆け出し時代を思い出す。

 がっちりとリリとヴェルフが、地面に置ける脚までついた巨大楯で守ってくれるのは、懐かしかった。

 メンバーが、一番弱そうなリリの指示に従うのが少し気に食わなかったが……

「いいですか。このパーティでは、レフィーヤ様の詠唱が終わるまで守り抜くことが生命線です。ベル様もビーツ様も、意識を切り替えてください。敵を見たら考えずに突撃するのはやめてください。

 また、詠唱が終わった時の確実な退避はすべてに優先します。常にリリに、ホイッスルに注意していてください、12階層の濃霧でも確実に動けるよう。短く3回鳴ったら必ず退避」

 リリが厳しく言い、頻繁に指示を出す。

 地面に置くことができる大型防弾楯を、リリとヴェルフがしっかりと構える。

 ベルとビーツがすさまじい勢いで、遠くから敵を狩っていく。

 レフィーヤが呪文を唱えようとするのを、リリが止めた。

「まだ呪文は唱えないでください。しっかり楯の影にいてください!」

「なんで私が指図されなきゃいけないんですか!私はレベル3ですよ!」

「急増パーティで、タイミングを合わせるには指示が必要なんです」

 リリは真剣に全体を見回す。ヴェルフは盾を叩く敵を力で押さえ、大刀を突きに使って牽制し、そこをビーツが素早く走り戻って背中から膝を砕いた。そこをヴェルフがとどめをを刺し、ビーツはまた前線に戻る。

 頭では、低レベルで強力な魔法職がいる、少人数パーティはこれが正しいとわかっていた。

 だが、ここしばらく……アイズやアマゾネス姉妹とのパーティとは違う。特に前の小遠征は、うさばらしとばかりに暴れるレベル5たちの中でひたすらおびえるだけだった。

 遠征でも、死守は多数の壁の担当。

 考える余裕ができてしまう。アイズの背中をひたすら見ているときとは違う。

 なぜ、遠征で自分が楯壁を突破したフォモールにやられかけたか……並行詠唱ができなかったから、とばかり考えていたが、できないのは自分だけではない。並行詠唱はめったにできる者がない高等技術、できなくて当たり前だ。

 自分が前に出すぎていた、ちゃんと魔法使いたちの集団に入っていなかったから。

 敵が極端に弱いここでなら、それも見える。

(そういう……)

 大手ファミリアの、多人数の遠征。レベルが上すぎ、しかも前線突撃型の幹部との少人数。それでは、レフィーヤ個人を見れば経験の質が悪くなる。

 リヴェリアやフィンは、そのことも考えてくれていた……それがわかる。

 だが、より大きく成長するには、このメンバーをさらに成長させ、

(せめて17階で稼げるように……)

 しなければ。

 余裕のある階層で、それが見えてきた。それも可能だ、特にベルとビーツはそれほど優れている。ランクアップしていないのが不思議なほどの戦力なのだ。

 リリが、

「パーティが変わったら疲労の蓄積が何倍にもなります。早めに上層に行って、そこで陣形訓練をすべきです」

 と指示し、ベルも従う。

 レフィーヤは少し反抗したが、最後には折れた。

 

 ダンジョンを出てから、ベルはエイナに呼ばれて魔法の講義を徹底的に受けることに。

 リリは換金。

 ビーツとヴェルフ、レフィーヤは、ビーツがいつも行く大盛り店に行った。

 今日は蝶のような形のパスタと、青紫色の野菜・脂身多めの粗ひき肉・米ぐらい小さい豆のソースがおいしいとのこと。

 レフィーヤも、いつもと違う店で大盛りに引いていたが、

「食べきれなければ、こいつにやればいい」

 と半分以上ビーツの、瞬時に空になった皿に入れたヴェルフをまねた。

 半分でも長身で一日激しく動いたヴェルフが、十二分に満腹になれるほどの大盛りである。

「このチビはとにかく食うんだよ、強いぶんな」

「深いところに行ったら大変ですね、でもまあ……」

(ウリューさんと同じファミリアなら、あれを連れて行けばどれだけでも食物は出る)

 というのを飲みこんだ。

 もちろん瓜生の能力は、【ロキ・ファミリア】最大の秘密の一つだ。

「さて、そろそろリリスケも戻ってくるだろうし、『ギルド』で収穫を分配して解散、ってところかな」

 とヴェルフが言って立つ。ビーツはもう、大皿をぴかぴかにしていた。

 

 ベルはやっとエイナの説教続き+スパルタ魔法講座が終わって、換金した金を受け取って解散……ビーツは先に帰っている。

 ちょうどそのとき、ギルドの奥から出てきた瓜生に会って、多量の食材を買いこんで帰った。

 夕食は、ビーツはもちろんまだたくさん食べる。

 それから少し食休みして、また素振りとルームランナーでフルマラソン。

 今日はさらに背中に40キロもバーベルを入れたリュックを背負ったまま、縄跳びや懸垂、パラレル・ディップまでやらかす。

 

 換金ついでに、様々な用を果たしたリリは、自分の部屋には帰らなかった。

 ちょっと古着屋に寄ってから裏町に入り、傷だらけの裸でゴミに埋もれた男を見つけた。慣れた森でキノコを探すより簡単だ。

「身ぐるみやられましたね?種銭も?」

「なんだこのガキ」

 殴られ蹴られた裸の男は壊れた目で少女を見る。

 その目にわずかな光があるのをリリは見て、

「ちょっと待っていてください」

 と、かなりぼろいが何とか着られる下着とズボンとシャツを差し出した。

「それと、700ヴァリス。この伝言をちゃんと果たしてくれれば、その人は2000くれるはずです」

 と言って、700ヴァリス渡す。

「……に、『数日は帰れない。【ヘファイストス・ファミリア】の工房の一つに泊まる。伝言をくれた人に、預けてある金から2000。ナスの馬車』と伝言を」

「ちっ、わかったよ」

 リリが泊まる場所は、伝言とは別だ。まったくの気まぐれで動き、浮浪者のように物陰で体を休める……完全な睡眠は無理、戦場の兵士のように。

 

 

 翌日。

 瓜生は、前の日の夜に帰ってきた。『ギルド』に用事があった、と言っている。

 ダンジョンに入り、12階層……霧の迷宮に来て間もなく。

 リリとベルだけがはぐれた。

 やたらと敵が多い。だからレフィーヤが大呪文を詠唱する時間を稼ぐため、分かれて離れ、敵を引きつける、と。

 そのとき。

 突然、多数の敵が出現する。深い霧、仲間と連絡が取れない。

「む……無理、逃げましょう!」

「ビーツや……わかった!リリは絶対に僕が守る」

 そう叫んだベルが、走っては振り返って斬り、斬っては走る。

 毎日のようなフルマラソンで磨かれた、底なしの体力と意志力。激しい疲労に慣れきっている。すさまじい勢いで上昇する【ステイタス】を、限界まで使いこなしている。

 息を切らせたリリが倒れるのを背負う。

 そして追い詰められ、上層階へ……かろうじて逃げ続けている。

 一度、追い詰められたときにリリが背から魔剣を取り出し、振るい……それは砕けた。

 それでなんとか抜け出し、横道から狭い通路へ。でも次に襲われたら……魔法を使おうとするベルをリリが止める。

「無理です、ここで使ったら確実に……ベル様、切り札があるのなら……」

 この時点で、リリはもう惑っていた。

 普通の冒険者なら、こんなきつい逃亡になれば、卑しいサポーターである自分を囮にする。だがベルは、姫君を守る騎士のように何があっても自分を守り抜こうとしている。

 だが、まだそのことから目を背けた。計画をやり遂げようとした。

 自由のために。復讐のために。

「……うん。リリを守るためなら」

 ベルが決意の目で、背中のポウチを外した、そのとき。

 ベルとリリの首筋に、後ろから吹き矢が打ちこまれた。

「あ……」

 動きが鈍る二人。

「へへへ」

 ゲスな声が響く。

 ベルは見たことがある、リリを追い、ビーツたちを襲おうとした冒険者……

「捕まえたぜ、ここに来れば捕まえられるって聞いたからなあ……このクソ小人(パルゥム)!クソガキ!」

 おもいきり、二人を蹴りつける。何度も。しびれが抜けない。痛みが、質が違うものになる……身体の底から、空腹を通り越したような。

 腹の中身を全部吐き、さらに血を吐いているのがわかる。

 わざわざヘルメットをはぎ取られてから、めいっぱい顔を蹴とばされる。

 エイナ・チュールがプレゼントしてくれた防具が吹っ飛ぶ。

「リリ、を」

「何こんなクソをかばってんだこのバカは。このクソ小人は盗人だぞ」

「う、うそ……」

「変身の魔法を使って、いろいろな冒険者から装備を盗んでドロンしてるんだ。さしずめお前からも、高く売れる装備を盗みに近づいたんだろうさ!

 へへへ、これだけもってやがる。宝石に、お、魔剣まであるじゃねえか」

 リリの懐から、まだ使える魔剣が取り出された。

「このポウチ……お、ハイポーションかよ。それに、なんだこの妙な塊」

 そう言った男の首に矢が、二本同時に生える。短弓の長めの矢と、クロスボウの太矢。そのまま崩れ落ちた。

「ごくろうさんだな」

 そこに出てきた、弓矢を持つ別の冒険者。もう一人、クロスボウを持つ男がいる。

「カヌゥ……」

 リリがつぶやく。

「それが【ヘスティア・ファミリア】の、『妙な音』の秘密か?ヒヒヒ……アーデ、なにちんたら忠実なサポーターのふりをしてるんだ?」

「ば……(ばか、せっかく調べているのを台無しに)」

「リリを……」

 守ろうと、もうろうとした状態で動くベルの頭を男はつかみ、壁に何度もたたきつけた。

「わからねえのかよ!ばあか。うちの、【ソーマ・ファミリア】のリリルカ・アーデはファミリアの懸賞で、『妙な音』を探ってたんだよ。

 だから、何か探り出したら横取りしてやって、おれたちがもうけてやろうってな。賢いだろう?

 ちんたらやってるのは見てられねえんだ。とっとと、この白ガキをさらって、体に聞けば全部わかるってもんだ」

「さてと、リリルカ……てめえからもしっかり聞かないとな。何をどれだけ、探ったか」

 そう言ったカヌゥの手には、ペンチのような器具がある。リリの呼吸が止まる。どれほど激しい苦痛を与える拷問器具なのか……

「じっくり、並べて吐かせてやるよ。楽しみだなあ」

「ああ、っひゃっはっは、まず目だ、この赤い目をいただくぜ、いいよな、いつだってこれが一番の楽しみなんだ、ガキの片目、次には***を焼いて引き抜いて、それから右足、みぎて……腸を目の前で焼いて食わせて……皮を全部はいで……うひゃああったまらねえぜ!」

 と、別の冒険者が魔石器具で赤く加熱した、細い鉄棒を取り出してベルに向ける。

「ゆっくり、ゆっくりだ、ひゃーっはっ……」

 ぽん。

 2人の頭の半分が、次々に破裂する。脳と骨の破片が壁に飛び散るのが、閃光に照らされる。

 そして、激しい音が響いた。

 さらに音は鳴り続け、頭を失いくずおれた冒険者の胴体がどちらも、2度、3度とはねる。胴体の中央に、2発ずつ。

「おれの射程内で虐殺・拷問・強姦をするものは、誰であろうと殺す」

 静かな声が響いた。硝煙の匂いが漂う。

「ベルさん、リリルカさん……」

 レフィーヤは申し訳なさそうな表情をして、ビーツの手を握っていた。

 フードつきの上着を着て、ガリルACE53を構えた瓜生。

「くそ……おれは、なんにも知らなかった」

 不快そうな表情のヴェルフ。

「リリルカ・アーデ……きみは今まで、ぼろを出していなかった。申し分のないサポーターだった。

 今回の策略も、まあ多少仲間を危険にさらしたが、的確だった。【ソーマ・ファミリア】の愚かさがきみの想像……希望的観測以上だっただけだ」

「う、ウリュー……さ、リリは、リリは」

 ベルはそう言って、自由のきかない体で必死にリリに覆いかぶさる。

「ころさ、ないで……リリは、ぼく、まも……」

「何を言ってるんですか!」

 リリは叫んだ。

「ベル様を裏切っていたんですよ……【響く十二時のお告げ】」

 その詠唱とともに、リリの姿は犬人から小人に変わる。

「彼らが言っていたのは本当です。盗人として、何度も冒険者の装備を盗んでいました。ベル様には『妙な音』の情報目当てに近づき、探っていました。

 今日敵が多かったのも、血肉(トラップアイテム)を使ったからです。はぐれたのもわざと。魔剣も、別に残り一回のを安く買って使いました、ベル様に切り札を使わせるために。

 ダンジョンは無法です、殺されて当たり前です」

 ヴェルフもレフィーヤも、目を背ける。ファミリア同士の問題であり、これに干渉することはできない。【ヘスティア・ファミリア】の、当然の権利だ。

 ビーツは、あまりよくわかっていないように見ている。

「そんなこと……それでも、それでも僕は、リリを守りたい。リリは悪い人じゃない。リリは……リリだから」

「ベ、ベル様」

 信じられない、人間とは全く違う怪物を見たように、リリは呆けた。

「【ヘスティア・ファミリア】の団長はおまえだ。おまえが決断するんだ……間違っていれば、ファミリアに、またはパーティの仲間が危険になったりする。それでも決断するんだ」

 瓜生はリリに銃口を向けたまま、静かに言った。

 ベルが何度もつばを、口にあふれる血を飲む。

「僕は、リリを、信じる」

「ならそれでいい」

 瓜生は銃を引き、後方警戒に徹する。

「でも、でもウリュウさん……人殺しを……」

 背中を向けたまま、瓜生は言った。

「拷問を楽しむ人間は殺すしかない……経験上」

(だからといって、罪がなくなるわけじゃないがな。おれは人殺しだ)

 何度も、おぞましい経験をしていることが平板な口調から漏れている。ヴェルフがつばを呑んだ。

「リリルカ・アーデ、彼らに家族はいるか?彼らが死んで飢える子がいたら、金は出すが」

「……いません。【ソーマ・ファミリア】に、まともに家族がいる人間なんていません」

 そう言いながら、リリもベルもヴェルフが口に注ぐポーションを飲む。

 震えていたリリが泣き出した。

「ベル様は……ばかです。おおばかです。そんなお人よしがあっていいんですか。こんなスパイを、盗人を、殺されて当然のいやしいサポーターを……リリなんかを……わああああああ」

 ひたすら、ベルにすがりついて泣きじゃくった。一生分の涙を流しつくすように。

 ベルは静かに、リリを抱きしめて頭をなで続けていた。




今回はちょっと書き直しが多かったです。

まず、レフィーヤの扱い…リリの指示に従わず大喧嘩するシーンを丸々消しました。
原作ではまだ、彼女の過去は描かれていないようです。
でも、普通の同水準の冒険者とまともに規律のある冒険ができない水準ではないだろう、と思って修正したのです。

原作のソードオラトリアでたびたび、レフィーヤは攻撃されています。
考えてみればおかしいことです。魔法職に安全に呪文を唱えさせることはすべてに優先するはず。
並行詠唱をこなすリヴェリアが基準で、普段の【ロキ・ファミリア】が魔法使いに無茶な要求をしているかも…それこそ魔法使いが多数死ぬのが当たり前になっている…
としたら、あそこまで派閥が栄えるはずがありません。

レフィーヤが攻撃されるのは作品のご都合ですが、レフィーヤ自身に原因があると考えるしかありませんでした。
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