ダンジョンに近代兵器を持ちこむのは間違っているだろうか   作:ケット

22 / 99
密会

 アイズ・ヴァレンシュタインは、ベルが落とした手甲を拾った。

 少し前、リリを襲うと聞いたエイナ・チュールに頼まれた。そして瓜生と合流し、気配を消して見守っており、それで落とした防具を拾ったのだ。

 ベルと瓜生の一行に合流はしなかった。

 エイナが頼むまでもなかった。先に、【ロキ・ファミリア】の冒険者は何人もベルを影から護衛していた。フィンが情報網で、リリやベルを襲撃する話を聞いたためだ。

 護衛計画は瓜生も加わっていた。誰にも姿を見られていないが、アナキティ・オータムもいる。

 レフィーヤがベルのパーティに加わったのは、確かにレフィーヤの成長のためもあったが、ベルの近くに目を届かせ、

(【ヘスティア・ファミリア】のうしろだてに【ロキ・ファミリア】がある……)

 と、噂をひろめるためでもあった。

 無論、人に聞かれれば、

(そんなことはない、同じ【ファミリア】でちょうどいい者がおらず、都合がよかったから……)

 と、ごまかすことにしている。それでも、人は勝手に解釈する。

 護衛が目的なら、よりバランスのいい者をつけたろう。だが、レフィーヤはレベル4の準幹部以上に顔と名を知られており、宣伝効果が高い。

 にもかかわらず襲撃があった……ならば一罰百戒、みせしめ。

(『妙な音』に手を出すファミリアには、消えてもらう……)

 それが事実上決まった。

 ついでに、ロキの酒欲を満たすためでもある。また、ベルがリリを救いたいといったので、それも満たすことにする。

 ややまどろっこしい方法だが、確実に……

 

 別の影響もある……アイズは気配を気取られることなくベルたちの戦いを見た。ベルの、魔法を使ったときや使っていないときの、まだ一月も経っていない前とは別人のような強さを。

 強くなることに飢えている彼女が、関心を持つのは必然だった。

 

 

 ダンジョンを出た一行を、【ヘファイストス・ファミリア】のバイトを早上がりしたヘスティアが待っていた。驚いたことに、ヘファイストスまでやってきた。

 そして、巨大な塔の、【ヘファイストス・ファミリア】の防音区画に。部屋の一つでヘスティアはリリと二人きりになり……神の力、嘘を見抜く力を用いて詰問した。

 リリは、ひたすらベルへの忠誠を誓い、それは神の目にも嘘ではないとわかった。

 

 防音室内でヴェルフは、主神と瓜生をにらんでいた。

「どういうことなんだ」

「あなたにはいやな思いをさせてしまったわね」

 ヘファイストスがため息をつく。

「ヴェルフ・クロッゾ、頼む。きみの名を謀略に使わせてくれ」

 瓜生がかなり真剣に頼んだ。

「……どういうことだ?」

「リリルカ・アーデに報告させる。おれが魔剣鍛冶だ、それも簡単に量産する方法を見つけた、と」

「……」

1ヘファイストス・ファミリアに、クロッゾの末裔が入った。

2『妙な音』は魔剣鍛冶らしい。

3『妙な音』は、クロッゾの末裔だ。

 どの噂も、実際に流れている。

 1は事実だ。事実だからこそ強い、それを利用して2と3を強める。

 さらにその噂を流す相手を限定することで、まるで地下水に放射能マーカーをつけて地下水脈を知るように、噂の流れを知る。

 ほかにも複数のうわさを流している。

「汚いことをする。おれとベル、ビーツと神ヘスティアの安全のためだ。このままでは、みんな外にも出られないし、ダンジョンにも行けない」

「……ちょっとの情報のために、子供を拷問するような奴らがいる、か」

 瓜生は黙った。そのような人間を、殺した。

 ヴェルフ・クロッゾにもわかる。たとえば『クロッゾの魔剣』を簡単に作る方法を聞き出せるなら、子供を拷問する人間はいやというほどいる。

「おまえの名前と、何をやったのか教えろ。魔剣じゃないぞあれは」

「ウリュウ・セージ。大きい音を出して大丈夫な訓練室はあるか?」

 と、瓜生は右脇のカバンからガリルACE53を取り出し、射場に木の板と土嚢を用意させて撃ち抜いて見せた。

「……火か。硝石が燃える匂い」

「狭い場所での火は、力に変わる。炎が風を産むように。それでこの、鉄と鉛の塊を銅で覆った弾を押し出す。強いクロスボウの威力を持つ、吹矢だと思えばいい」

「わかった……名前だけだ。俺は魔剣は打たねえ」

「それは別に構わない。それほど必要としてはいない」

「……気をつけろ。魔剣鍛冶と見れば、何をしてでも欲しがる奴らはたくさんいる」

 自分の故郷、ラキア王国とか。

「そのためにも、【ソーマ・ファミリア】は消す」

 そういった瓜生は、弾薬を一つ取り出し、渡した。

「研究してみろ。危険だから注意して」

 また床に転がった空薬莢にも目を向け、うなずく。

 

 それから瓜生は、リリとヘスティアのところに戻った。

「【ソーマ・ファミリア】のメンバーの情報を教えてくれ。首脳部、そしてバカでうぬぼれが強い者、割とまともで信用していい人間、それぞれの名前、強さ、性格などを」

「わかりました」

 瓜生の手には、『ギルド』で公開されている【ソーマ・ファミリア】メンバーのリストもある。名前、レベル、似顔絵だけだ。

「団長は……」

 一人ずつの能力や性格を語るリリ。ヘスティアがいるから嘘はつけない、それでも瓜生は雇った情報屋を利用して裏を取るつもりだ。

 最後にリリの、スキルと魔法……重い荷物を持てる、変身できる……を聞いた瓜生は深く嘆息した。

「つくづく、生まれたところが悪かったな。大手探索系だったら、大量の重量荷物を運べるきみはこの上なく重宝されたはずだ。情報収集に徹しても莫大な価値がある。ヒューマンの子供に化ければ警戒されないし、犬人の鼻と耳も得られるだと……」

(おれの故郷だったら最大のチートだ。最強の兵士は拳で戦車を砕けることではなく、百キロ背負って百キロ歩けること、しかも最高のスパイにもなるし指揮官適性もあるなんて)

 そう言われたリリは、悲しみと怒りの方が激しく怒鳴り散らした……が、なにかがわかった。理解の芽が出た程度だったが。

 自分の境遇、これまでの生活……絶対だと思っていたが、単にいくつもの不運の積み重ねだったのだと。

 

 ちなみにベルは、エイナの説教の続き+講義である。

 

 

 その夜。

 ベルはガタガタと震えていた。普通とは違う、すさまじい震え方と汗だった。

 ミノタウロスに殺されかけたときとも、質が違う恐怖。

 同じ人間による暴力。激しい苦痛。悪意。

 そしてモンスターに食われるより、単に死ぬより恐ろしいこと……

『拷問』

 を、知ってしまった。

 それに、迷わず人を殺した瓜生。

 普段の親切で落ち着いた雰囲気と、平静に人を殺す人間の落差……

(一人殺せば殺人者で、百万人殺せば英雄……)

 瓜生が時々、ベルの英雄願望を皮肉るように言う言葉。それに実感が、血が通った。

 彼は、異界の冒険で当たり前のように人殺しをしている……

 自分も、英雄への道の途中、いつ人殺しをしなければならなくなるかわからない……

 全身が震え続け、夜の運動で全身泥のように疲れているのに眠れず、地下室から出た。

(あ……)

 瓜生が、エアロバイクで激しく運動している。

 その表情はすさまじかった。泣いていた。

(平気じゃ、なかったんだ。平気で人殺しをする人じゃなかったんだ)

 なぜか、ベルの目から涙があふれる。

 後ろから抱きしめられた。

 ヘスティアのぬくもりと、柔らかすぎる感触……涙がパジャマにしみこむ。

「ああ。ウリューくんも、すごく傷ついてる。普通の人だったんだよ。それが、こんな……」

 

 

 翌日、巨大なリュックと長い袋を背負った小人の少女が、いつもの場所で待っていた。

 白い髪の少年と、黒髪の少女は嬉しそうに駆け寄った。赤毛の青年も、山吹色の髪の少女もほぼ同時に駆け寄った。

 

 上層のルームでリリは、背負っていた長い袋の中身を取り出した。投げ手斧(フランキスカ)と両手剣。どちらも安物。

「ベル様の魔法について、検証すべきことがあります。ベル様、魔法をかけた刀で壁を傷つけてください」

 相変わらずのすさまじい光と音、威力。人が入れる大きさの傷が壁に刻まれ、周囲が焼かれ吹き飛んでいる。修復の間はモンスターは出ない。

 リリはその傷跡をしっかり目に焼きつけた。

「ああ、なるほど。ベルの付与魔法の確認ですね」

 レフィーヤはすぐに気がついた。いつのまにか、呼び捨てになっている。

「はい。ベル様の付与魔法が何に使えるか試します。

 まず、ベル様が別の飛び道具を使うとき。

 ヴェルフ様には、両手剣を。

 そして『リトル・バリスタ』の矢。

 まず、投げ斧を何もなしで軽く壁に投げてみてください」

 ベルはそれをやってみる。うまくはないが、投げ斧は農業・林業の村では日常の遊びだ。

「はい、次は魔法をかけて」

 拾ってきて魔法をかけると、斧が雷光に輝く。そのまま切れば稲妻の威力になるのはわかっているが……

 同じように軽く、壁に投げてみる。

 閃光と轟音、壁に破壊跡ができた。

「おー、こりゃ便利だな」

「これでも、威力は半減しています」

 レフィーヤが丁寧に壁の傷を見る。

「次は……ヴェルフ様、かなりのリスクはありますが」

「かまわねえよ。ポーションぐらいは用意してくれよな」

 と、ヴェルフは両手剣を構えた。

 魔法とともに光が走り、ヴェルフの剣が輝く。

「う……」

 ヴェルフは剣を壁に突き刺し、そして反動で吹き飛んだ。

「大丈夫、ごめんね」

 ベルが悲鳴を上げるが、ヴェルフは首を振った。

「いや、おもいっきり金床をぶん殴っちまったみてえなもんだ、我慢できる。すぐまたやれって言われたら勘弁してほしいな」

 と言って、使った両手剣を耳に当てて、小さな金槌でたたいて音を聞く。刀身の芯が痛んでいないか確認している。

「七割ぐらいになるようですね」

「それに、使用回数が少ないという問題もあります。ベル様自身に戦闘能力がなければ魔法専門にもできますが、もったいないです。強敵相手の時だけですね」

「なら、マジックポーションを使えばいいじゃない」

「パンがなければお菓子を食べればいいのに、というようなものです。金満ファ……こほん、最後は、これに」

 と、リリは『リトル・バリスタ』の連射できる弾倉を取り出した。

「わかった」

 また詠唱、十本の矢それぞれが薄く輝く。

 受け取ったリリが連射、それもそれぞれ光と衝撃を発し、壁にめりこんでいる。

「刀で斬る時に比べ三割以下ですが、それでも一発一発は十倍以上、『豚弩(ピッド)』ぐらいの威力はあります。オークでも急所に当たれば倒せる、ということです。ベル様がランクアップすれば、それ以上」

『豚弩』は、ヴェルフが作ったリリ用の、鐙とレバーで引く強力な小型クロスボウ。オークの骨を使ったので『豚』がついている。

「ひょっとして、ウリュウさんが見せた、あの妙な武器と組み合わせたら……」

「借りられるとしても、『妙な音』の武器は大っぴらに使わない方がいいでしょう」

 レフィーヤが止めた。

「これでリリスケも十分戦力になるな」

 ヴェルフの言葉が、リリは心底嬉しかった。彼らのことも裏切っていたのに、信じてくれている……それは、どれほどベルが信頼されているかでもある。

 

 ベルは魔法を使いすぎているので、今日は8階層でキラーアントを血肉(トラップアイテム)で集め、ひたすら数をこなした。

 そうなるとすぐにレフィーヤも魔法の限界になる。それからは回避と、苦手な白兵戦も訓練した。この階層の敵なら彼女でも相手になる。

 

 少し早くダンジョンから出て、いつも通りベルはエイナのところに向かった。

 エイナのカウンターには、後ろ姿だけでも美しいとわかる金髪の女冒険者がいた。

 振りむく。目の前にアイズ・ヴァレンシュタイン。

 数秒見つめあう。真っ赤になり赤目がイトミミズになる。逃げる……三連コンボをかまそうとした瞬間、足に衝撃が走ってもんどりうった。

 とっさにビーツがトンファーを抜き、構える。

「敵ではない。いい気迫だ」

 とてつもない美女が微笑している。

 すぐにビーツはトンファーを戻した。敵意ではないことにすぐ気がついたのだ。

 ベルの脳裏にはなぜか、

(知らなかったのか?大魔王からは逃げられない)

 という言葉がこだましていた。

(こんな目をした美女には絶対に逆らうな)

 という、たまに疲れ切った状態になった祖父の表情と、すべてをあきらめたような声も。

「さて、ベル・クラネル……まず、【ロキ・ファミリア】として詫びておこう。以前、ミノタウロスを逃がして君が、不相応な階層で殺されかけたこと。そしてあの夜、うちのベート・ローガが君を侮辱したことだ」

 頭を下げるリヴェリアにベルは慌てた。

「い、いえ、ダンジョンでは何に襲われても自己責任ですし、それにアイズさんに助けてもらいましたし、それに……僕が弱いのは事実ですから。悔しければ強くなるしかないんです」

「ほう」

 リヴェリアが軽く微笑む。

「では、アイズを恨み嫌っているわけではないと?」

「とんでもないです、命を助けてもらってすごく感謝してるんです」

「……ほんとう?」

 そう、アイズが消え入るような声で言った。

 彼女がいることに気づいたベルは逃げようとしたが、

「待ちなさい、逃げちゃだめよ」

 とエイナが止めた。

「エイナさーん……」

「男の子でしょ?しっかり話しなさい」

 と、エイナはあきれたため息をつき、リヴェリアに一礼して戻ってしまう。

 ベルは必死で震える足を押しとどめる。

「……あ、これ……落としたよ」

 アイズが、エイナが買ってくれた手甲を差し出す。

 ベルはぱっと笑って受け取った。

「あ、ありがとうございます」

「その、なにかおわびができたら……そ、それに……」

 アイズはなぜか、あっさり別れるのが嫌なようだ。

「どうして、そんなに、早く強くなれるの?」

「あーっ!」

 そのとき、レフィーヤが悲鳴を上げて飛んできた。

「ベル、アイズさんになれなれしいですよ!いいですか、アイズさんに話しかける権利は、うち(ロキ・ファミリア)では、ランクアップ以上の偉業を……」

「今は黙っていてくれるか?それに昨日も簡単に報告を聞いたが、少し詳しく聞いておきたい。ベルとビーツは、それほど強いのか?」

「り、リヴェリア様……はい、ものすごく。二人とも、レベル2の後半と思われます」

「だが、ウリュウによるとベルはまったくの素人から一月少しだそうだ」

「ありえませんよ。本当はレベル3でも驚きません!それにあの付与魔法つきの剣が直撃したら、レベル4でも危ないですよ!」

「強い、ぐらいでいい。別ファミリアのパーティメイトのステイタスは自分のファミリアの者にも明かすな。【ロキ・ファミリア】の名誉にもかかわるのだぞ」

「あ……すみません」

 レフィーヤもリヴェリアには素直だ……というより恐ろしさを嫌というほど知っている。

「まあ、この件も含めて、少し話しておきたい」

(おそらく、ベル・クラネルに成長促進系のスキルがあるのだろうな)

 とはリヴェリアは思ったが、それは言うべきことではない。

 それだけでなく瓜生の、

(ともに冒険した仲間は経験値が倍……)

 スキルも半ば予想している。前の小遠征で、参加メンバーの伸びが異常だった。

 レフィーヤはあちこちに走り回って伝言するはめになった。

 リリから分け前を受け取って、バイトが終わったヘスティアとともに帰るようビーツに伝言。

 それから瓜生に、向かう店の場所を伝える。

 ベル・レフィーヤ・リヴェリアの三人は、高級店街にある飲食店に向かう。

「ああ、こちらの店員についていくように。ファミリアも違うし、噂になってはまずいからな」

 と、ベルは無口な店員に、秘密の話ができる個室に案内された。美しい庭の小道を通って。

 エルフの店員が、しゃっちょこばって王族であるリヴェリアに給仕する。だが店の格がいいだけに、騒ぎを起こすようなことはしない。うわさを流すことも断じてない、どれほど苦しくとも。逆に騒いだり噂や会話情報を流したりする店には、リヴェリアは最初から入らない。

 

「君は……どうやって、強くなった、の?」

 アイズの問いに、ベルはあわあわと答えた。

「そ、その、ウリューさんがやってくれたんです」

「どんなふうに?」

 アイズが興味津々で座っている。ベルはまだがちがちに緊張している。

「まあ、ウリュウを待とう。今日、レフィーヤはどんなだったか聞いてもいいかな?」

 リヴェリアが巧妙に、レフィーヤを心配する言葉からベルの冒険を聞き出す。

 レフィーヤを心配しているのは嘘ではないのだ。

 まもなく、瓜生がやってきた。

 

 冷たい飲物を一口すすった瓜生が、話題を聞いて話し始める。

「本来、よそのファミリアにそこまでの詮索をしてはまずいが」

「今更だ、こちらもベルを助けてもらっている。それに、そちらの顔見知りが死ななければおれもうれしい。

 まず、ベル・クラネルは……戦闘訓練を受けていない農業従事者で、ファミリアに入ったときはもっと弱々しい体格だった。それで、斧や鍬は扱い慣れているだろう、でも全身板金鎧と両手斧は無理だ、と思った。

 長槍、または盾と片手槍も考えたが、突く動きはたぶんこれまでの生活にないと思った。それで刀を教え、神ヘスティアと話して、武神タケミカヅチを師として雇った。

 神タケミカヅチは眷属に対人武芸百般を教えていたようだが、おれはその前に単純な袈裟切りだけを叩きこんだ。

 故郷の、とても実戦的な剣術の話を聞いていたからだ……抜き打って袈裟だけを、一日何千も、何十年も続ける。地に植えた丸太や、X字ふたつの薪架に横に並べた細長い木多数を、刀と同じ長さの硬木の棒で、ひたすら打ち続ける」

「でも、それでは技に優れた人間には負ける」

 アイズの言葉に瓜生は苦笑した。

「技に優れていても、初めての殺し合いじゃパニックになる。パニックになってもできるぐらい、一つの技を叩きこんで生き残る……経験を積んでから優れた技の持ち主と戦う前に、最初の戦いで生き残る方が優先だ、ということだな。

 そしてたとえ技で負けても、相打ちで相手に傷を負わせればいい、というぐらいの覚悟があたりまえとされた。それほど武にこだわり人命を軽視する地域の剣術だった」

「最初の実戦では気迫がすべて、技など消し飛ぶ、確かにな」

 リヴェリアがうなずく。

「その資料を神タケミカヅチに渡したら、膨大な武の引き出しの中から、歩きながら切る基本をしっかりと作り上げ、ベルに叩きこんでくれた」

「はい」

「私も……習える?」

 瓜生は親指と人差し指で丸、金のマークを出した。アイズはうなずく。

「同時に、足腰を徹底的に鍛えた。

『恩恵』がない人間を考えるといい。重いものを運んだり、長い距離走ったりしたら、数日は体が痛くなる。痛みが引いたら、前に大変だった荷物や距離が平気になる。

 人間の筋肉は、限界の力を出すと見えない怪我をして、修復されるときにより強くなる。

『経験値(エクセリア)』はそれを特殊な形で活かしている。

 だから、安全なホームに帰ってから、4、5回何とか持ち上げられるぐらいに重いものを持ち上げさせ、何千Mも走らせた。何千も一つの技を素振りさせた。

 それからステイタスを更新し、しっかり栄養を取って休んだ。

 それと実戦による経験値の組み合わせ」

「なるほどね。それはうちのみんなにも……」

「20人ずつ、対照実験をするといいと思う。レベルなどの条件をそろえて」

 リヴェリアがうなずく。

 アイズは、ベルを見た。

「私も、重いものを、持ち上げるとか、神タケミカヅチのところで、習うとかしたい。お礼に……よければ、戦い方を、教えてあげようか?」

「え、え?いいんですか?」

「ファミリアが違う、といっても今更だな」

 リヴェリアがため息をつき、さまざまな注意をした。

「もうすぐ、こちらも大規模な遠征に行く。それまでだな」

 その個室の壁土は素晴らしく品がよく、机は極上に美しい一枚板で、焼き菓子と黄茶はすばらしく美味だった。

 リヴェリアはダンジョンで疲れたベルを気づかい、彼には重めのフルーツケーキを注文していた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。