ダンジョンに近代兵器を持ちこむのは間違っているだろうか   作:ケット

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特訓

 迷宮都市(オラリオ)最強、Lv.7、『猛者』オッタルが、ミノタウロスの特訓を始めた。

 ベルの戦いぶりは、一日完全に気配を消して監視したことがある。フレイヤの鏡から、強力な付与魔法も見た。

 ゆえに、決して必殺の一撃をもらわず、高速で動く強敵を仕留められるように鍛え上げねばなるまい。リーチの長さを活かして。

 巨体+全身鎧にもかかわらずベルをまねて敏捷に動き、彼の巨体では小さいと思える剣で当たれば瀕死の一撃を加える。よけてカウンターを鎧に当てることができれば、モンスターの食物となる食糧庫(パントリー)の蜜に魔石を混ぜたものを与える。

 ミノタウロスは、実に速く技を覚えていった。

 一撃を受けることも、切り結ぶことも許されぬ高速の強敵に、それでも引くことなく戦えるよう……

 

 

 

 ベルは、今日は訓練日。

 いつもならホームでトレーニングをするところだが、アイズ・ヴァレンシュタインとある意味待ち合わせて城壁の人がいないところに向かった。

 刀、脇差、短剣の長さ・重さに切った木刀を二本ずつ袋に入れて。

 早朝にホームを出てすぐ、姿がないのに耳に声が聞こえて、道順を案内されたのだ。

 アイズが陰で護衛してくれている……屈辱だったが、その屈辱を返すためにも強くならなければ、と決意を固めた。

 とりあえず、どんなに痛くても疲れてもへこたれない、と。疲れてもへこたれない、はいつものことだ。毎日のようにフルマラソンを走っているのだから。

「教える、って、よく……わからない」

 彼女からすれば、何とも言いようがない。教えるのに向いていない。教えたことがない。

 とりあえず、ハイポーションやエリクサーは用意してみた。自分がフィンやガレスにされたことを思い出して。

「だから……とにかく、戦ってみよう。ポーションはいっぱい持ってきた」

 ベルの顔から血の気が引く。

 相手の気にあてられて構えた時点で、もう臆病さを指摘された。それで向こう見ずに突進したら……地獄が始まった。

(アイズさんって、天然なんだ)

 気絶しながらそう、他人事のように思ったものだ。

 膝枕から起きて、やっとベルはいつも通り、木刀を握ることができた。

 深呼吸。腰を落とす。歩く、決して足を止めない。

 アイズは、それがよくわかった。

 ベルの歩みが加速し、木刀を振りかぶり……腹に鞘が打ちこまれた。カウンターで吹き飛ぶ。

「立てる?」

 その声にベルははね起き、木刀を拾って歩きはじめた。

(歩き続けるのはすごくいい。しっかり力を抜いて、腰で切っている。脱力による切れ味。ステイタス頼りと言えないほど練習している)

 むしろ、アイズのほうがベルから、タケミカヅチの指導を盗もうとしている。

(呼吸。体の芯を意識し、重心を低く)

 ベルも、【タケミカヅチ・ファミリア】の桜花、命と二人のLv.2をはじめ、経験でははるかに上の人たちとも対人稽古は何度かやっている。

 だが、やはりアイズ・ヴァレンシュタインは次元が違う。スピードもパワーも、読みもキレも。

 何度もアイズの、

「立てる?」

 という言葉を聞いては痛みをこらえて起き上がる。

 しばらくしてからアイズは、

「ふだん、一人でやっている稽古を見せてくれないかな?十回ずつぐらい」

 と聞いてきた。

 ベルは戸惑いながら、刀、脇差、短剣それぞれでやってみる。

 歩きながらの、左右両方の袈裟。諸手突き……短剣や片手脇差は、空いている方の手は何も持たずに。

 刀と脇差の、抜きつけ水平と逆袈裟。

「これだけなんですが」

「うん」

(この基礎だけを、徹底的に……とてもきれいな動きで、応用範囲もすごく広い。でも、これだけで技が多い人間と戦える?)

「すごく頑張ってるのは、わかる」

 そこにやっとアイズを見つけたレフィーヤがやってきて、ベルに怒鳴り散らし、自分も特訓の約束をもぎ取った。

 

 

 瓜生はその日、【ロキ・ファミリア】の本拠『黄昏の館』に来ていた。

 小遠征のメンバーが話した、ダンジョン下層なのにおいしい食事を食べたい、と皆が言ったから。

 それは、遠征の訓練にもなる……と、フィンが頼んだ。

【ソーマ・ファミリア】の件の全面協力が報酬だ。

 

 遠征で食事係になる、サポーターのレベル2……小遠征で鍛えられた者も含め……30人ほど片付けた食堂に集めると、瓜生は見回した。

「今日はよろしく。

 まず、ここのみんなに、今日の夕食で出す予定の食事を、おれが一人で作る。おれがやることを見てくれ。

 先に言っておく。ダンジョンでの料理人としてプライドがあるであろう皆には、とてもつらいことになる。

 料理らしい料理は何もない。包丁一本使うことはない。湯を沸かし、油の温度と機械に異常がないことを確かめながら、決められた時間を計って、人数分盛りつける……それだけだ。

 次の機会には、ある程度料理らしい料理も作るかもしれないが、今回はおれのやりかたを知ってもらうためにそうする。

 メニューはまず牛丼。汁がわりに温かい天そば。小籠包。焼きソーセージ。食後にアイスクリームとブドウ、コーヒー。以上」

 そう言って、まず厨房にあたるところにプロパンガスボンベ、コンロ、業務用フライヤー、業務用ガス炊飯器、全自動大型コーヒーメーカーをいくつも〈出す〉。

 丼や皿、コーヒーカップやスプーンを多数。

 そして無洗米、業務用牛丼のもと、そば、肉まん、ソーセージ、天ぷら粉、小柱や芝エビ、一斗缶入りの油、コーヒー豆などを〈出す〉。

「ここまではおれの能力で出したものだ。ここからは、誰にでもできる作業になる」

「深呼吸しなさい!虚空からものが〈出て〉くることぐらいで、驚いていたら狂うわよ。彼の動きを一つ一つ、何のためにやっているか考えながら、しっかり見るの!」

 レベルの高い小遠征経験者が叱咤する。それに未経験者ははっとした。

 瓜生は笑って、ガスボンベに機材をつなげる。

「流れを止めたくないので、質問はあとで受け付ける。メモを取るといい」

 無洗米を炊飯器に計り入れて水を入れ、炊飯を始める。

 フライヤーに一斗缶から油を入れ、ガスと発電機につないで始動する。

 業務用の大袋入り牛丼のもとを湯せんする。紅しょうがを小鉢に盛る。

 鍋を準備し、粉末出汁とつゆを調整し、生麺の脇で湯を沸かし片手ざるを用意する。ビニール手袋をはめ、フライヤーでえび天・かき揚げを作る。刻みねぎを解凍し、のせる。

 蒸し器で肉まんと小籠包を温める。

 ガスオーブンでソーセージを焼く。

 コーヒーメーカーにミネラルウォーターとコーヒー豆を入れ、燃料を入れ紐を引いて始動した発電機につないでスタートさせる。

 いたるところに、キッチンタイマーをつけてはひねる。手には油の温度も計れる温度計。

 あとは、時間を計り、温度を計り、機械の知らせを聞いて、できたら次々と盛っては出し続けるだけ。

 

 あっという間の、多人数分の牛丼、天ソバ、蒸し物……

「これは中にすごく熱いスープがあるから、気をつけて食べて」

 始めて見た人たちは呆然としながら、食べて驚いた。

「お、おいしい」

「ありがとう。でもおれは料理人としては三流以下だ。説明書通り、正確に作ろうと頑張っているだけ。みんなも、決められた通りの時間と温度を保ってくれればそれでいい」

 そういって、バケツのような容器からアイスクリームを全員の小皿に盛ってサクランボとウェハースをつけ、ブドウを配り、最後にコーヒーメーカーのサーバーからコーヒーを一人一人のカップに注ぎ、砂糖とクリームをツボに入れた。

「おいしい……すごく」

「ほ、本当に遠征で、これが?」

「みんながちゃんと協力してくれれば」

 瓜生は自分も食べながら、にっこりと笑った。

「じゃあ、機材と材料を4倍出す。ファミリア全員、一時間後には集まっている……頑張ろう」

「これなの……」

 小遠征参加者の絶望的な声に、コーヒーの苦みが増したようだった。

 食事担当者たちの尊い犠牲のもと、食事はファミリア全員に好評だった。胃袋からファミリア全体をつかむ、というフィン団長の深謀遠慮だ。

 

 

 瓜生には、もう一つ用事があった。

 バーベル、エアロバイク、ボート漕ぎマシン、鉄棒、平行棒などを用意した。

 レベル1から2のメンバーを半分に分け、半分は近代的なトレーニングもやり、もう半分は今まで通り先輩の指導とダンジョンでの実戦中心。

 神ミアハや神タケミカヅチも定期的に来て監修する。もちろん有償で。

 

 問題は、『恩恵』を受けた冒険者の体力は、瓜生の故郷の世界記録保持者以上であること。人類……走るのは100メートル9秒台、ウェイトリフティングは300キログラム程度が事実上限界……ベンチプレスの記録でも500キログラムには至れない、ひ弱な動物のために機材は作られている。

 ルームランナーの最高速度も、バーベルシャフトの重量限界も、人類用だ。シャフトは900キログラムに耐える必要はない。レベル3にもなれば、機材限界より上になる。

 そこは工夫が必要になる。

 最大重量のバーベルを片手で持ち、ダンベルがわりにする。大重量荷役用のワイヤーやリングを超大型トラックのサスペンション用バネで結び合わせ、ボート漕ぎトレーニングをする。

 マウンテンバイクのペダル、大型オートバイ用のチェーンとギア、大型扇風機のプロペラで、超人用エアロバイクを作ることもした。エネルギーを風に変えれば、負担をかけ続けて過熱を避けることはできる。

 今もベルやビーツがしているように手にダンベルを持ち、足首に巻きつける重りをつけ、遅めの……といっても機材・人類から見れば最高速……長距離でルームランナーを走ることもできる。それは多分、レベル3にもなれば限界になるが、そうなればオラリオの壁近くの廃墟でシャトルランを走ればいい。雨天には走れないが。

 鍛冶ファミリアに、こちらの素材で20トンに耐えるシャフトを作らせてもいい。時間と費用がかかるが。

 先に、『黄昏の館』の訓練場の、床を強化しなければならなくもなった。

 

 リュックにバーベルを入れての懸垂やパラレル・ディップで、さっそく皆が競い合っている。

 ただでさえアイズのレベル6昇格で、特訓ばやりになっているのだ。

 特に、バーベル入りリュックをかついだまま何メートルもジャンプして片手懸垂の繰り返しは、上級冒険者でも相当きつい。アマゾネス姉妹が激しく張り合っている。

 

 

 アイズ・ヴァレンシュタインはフィン・ディムナ団長を連れて、ベルが武神タケミカヅチの稽古を受けているところに赴いた。

 今日は眷属たちは屋台で忙しい。桜花団長は、瓜生の援助がなくなるときに備えて【デメテル・ファミリア】に野菜の仕入れを頼みに行っている。

 

 野の稽古場、隅のテントに折り畳み式のいすと机がある。

 本来タケミカヅチたちは畳生活だが、そうでない人をもてなすために椅子を用意するのも、もてなしの心だ。

 神タケミカヅチと、フィンとアイズが向かい合って座った。

【剣姫】の来訪に興味津々なのを押し殺し薬草茶を置いた千草に、

「ベルやビーツと稽古していなさい」

 と武神が声をかけた。

「私は……強くなりたい。だから、ベルのように、技を教えてほしい」

 アイズの言葉に、武神は静かに目を閉じた。

「強くなる、とは……どうなりたいのだ?」

 武神の言葉に、アイズは金色の目を見開く。

「ひとつ。今の、その軽装鎧にサーベルのまま強くなるか。

 ひとつ。別の装備で強くなるか。

 ひとつ。【ロキ・ファミリア】が強くなるか。

 どれなのかがわからなければ教えようもない。ジャガ丸くんをください、といわれても、プレーンか肉入りかコーン入りか言ってもらわなければ、出しようがない」

 ずっとヘスティアとともにジャガ丸くん屋台でバイトしていた貧乏神ならではの言葉だ。

 アイズは、麻痺したように固まっていた。

 フィンは仏像のように静かだった。

「団長殿はわかっているようだな」

「……むごい神様ですね。剣術が商売になっていないわけです」

「さよう。剣術を教えるのも商売ならば、余計なことは言わずにサーベルの突きを直してさしあげるほうがよい。

 だが、そうすれば俺は、俺そのものである『武』を裏切ることになる。武のためならば、幼子を泣かせもしよう」

 アイズの目が再び武神を見た。アイズの中の、いまだに泣いている幼子を直接観た。

「軽装でサーベルを持った人間が強くなりたいなら、厚い鎧を着て長槍を持てばいい。それだけで、サーベルより圧倒的に強くなる。

 今までやってきてこのスタイルが、などという積み重ね、すべてを捨てる覚悟はあるか?一時的に弱くなり、何もないところから何年も、毎日何千何万回も基礎稽古を積み上げる覚悟はあるか?」

 アイズは、

「覚悟なら、どんなことも……」

 と、言おうとしたが、武神は畳みかけた。

「フィン団長。アイズ・ヴァレンシュタインが抜けて、かわりにどのような上級冒険者でも入れられるとしたら、どのような者なら【ロキ・ファミリア】にとって最大の強化になる?」

「それを言う……」

 フィンは嘆息し、茶をゆっくりとすすった。

「アイズを手放すつもりはまったくない、もちろん。が、思考実験として団の戦力だけを見よう。

 中核が、長槍と指揮の僕。力と耐久に特化した最強の壁、【重傑】(エルガルム)ガレス。攻撃・防御・回復呪文がそろった【九魔姫】(ナイン・ヘル)リヴェリア。二人とも指揮能力もあり、分遣隊指揮も事務も任せられる。

 そして今度ランクアップした【剣姫】アイズ。続くであろうレベル5、【凶狼】(ヴァナルガンド)ベート、【大切断】(アマゾン)ティオナ、【怒蛇】(ヨルムンガンド)ティオネ。この四人はまったく同じ、軽装高速の武器戦闘。

 明らかに大遠征ではバランスが悪くなっている。もちろんレベル5が4人で1人は6になったのに贅沢だ、と言われればその通りだが。

 想像だけなら、壁・弓矢・魔法でレベル5が出てきてくれたら、とは思う。さらに欲を言えば、隊を指揮できる者が」

 実際には、瓜生の存在でさらに大きくバランスは変わっている……本当に欲しいのは指揮と学習能力、機械操作の器用さだ……が、言わない。

 レフィーヤを特別扱いして育てているのは、火力増強のためでもあった。ラウル・ノールドに多くの仕事を与え大切にしているのも、副指揮官がほしいからだ。

「つまり、積み上げてきたものを捨てる覚悟があれば長槍。

 さらに、家(ファミリア)全体を強くするためにおのれを捨てる覚悟があるならば、大盾や弓矢。

 そなたが求めているのは、どの強さだ?」

 武神の容赦ない言葉に、アイズはひたすら絶句していた。

 フィンは動かない。

 そのまま、ただ静かに時間がたつ。

 外では、ベルとビーツと千草が激しく稽古を続けていた。千草も時々休むが、こちらの雰囲気は見て近づかないし、ベルたちも近づかせない。

 かなりしてから、武神は口を開いた。互いに剣を構え、影が動くほど微動だにせずにいて、突然斬りつけるように。

「そなたは、おのれ一人が大陸を断ち黒竜を斬るほどの力を得られるのなら、【ロキ・ファミリア】の主神家族をことごとく贄とするも辞さぬか?

 それとも、【ロキ・ファミリア】の家族を守るためならば、おのれを捨てることも辞さぬか?」

 ひと息の、衝撃的な沈黙。武神の言葉は続く。

「神々が降りる以前、人と人、人と怪物が争っていた時代……こんな戦法があった。

 多くの鎧を作るほど豊かではない時代。何百人も戦士が槍と大きな円楯、兜とスネ当てをつけて集まった。右手一本で槍を構え、円楯を左手に縛って横列に肩を並べ、隣の味方の右半身を盾で守り、何列か重なった。隊列をそろえたまま歩調をそろえて歩いた。

 強かった。だが、そこに個の武勲はない。ただ命令に従い、歩調をそろえて前進し、逃げないだけが武勇。

 ある戦で、その戦士たちの一人が機を見て横列を離れて前に走り、敵の将軍を討ち取った。それで戦に勝利した。だが勝った側の将軍は手柄を立てた若者を死刑にした。その若者は勝った将軍の息子だった……

 それも、おのれを捨てて団を強めるのも、ひとつの強さなのだぞ」

 それからまた、黙ったアイズの前で武神は、静かに瞑目していた。

 フィンも一言も、微動だにせずじっとしている。

 日が傾き、フィンが辞去の意を示した。アイズも立った。

「答えが出たら、いつでも習いに来なさい」

「ありがとうございました」

 フィンは深い感謝を、全身の誠意で示した。またフィンは、槍を稽古しているビーツと千草も見た。それだけでも、学べた。

 見送ったタケミカヅチは、じっくりと三人の弟子の技を見て、無駄を丁寧に除いた。

 ベルを見れば、アイズから何を学んだかもわかる。

(三人とも、前とは別人だな……)

 下界の子たちの無限の可能性を、武神は楽しんでいた。

 

 夕前に帰ったアイズは、【ロキ・ファミリア】の倉庫でプレートメイル・長槍・弓矢・大盾を借りだしてみた。手先が器用な整備員の助けも借りる。

 それで、少し動いたり槍を突いたり、射場に行って倉庫にあった一番強い弓を引いたりしてみた。

(本当に戦うには、ちゃんと注文しなきゃ)

 弓もフルプレートアーマーも、槍も。特にプレートアーマーは合わなければ関節が動かせないので、オーダーメイドが必須だ。それはわかっている。もうすぐ始まる大遠征には、間に合わないだろう。ただでさえ鍛冶系ファミリアは、【ロキ・ファミリア】の無茶な注文に徹夜状態なのだ。

 試しに、重めの鎖帷子を三重に着、胴鎧やスネ当てもつけてみる。

 それでわかる。自分の軽装は、ソロでダンジョンにもぐり続けたからだ。重い鎧をつけていても囲まれ押し倒されれば詰む。敵の密度が高く、包囲される地から素早く大きく移動することが、唯一生き残る方法だった。

 重い鎧を着ていると、逃げるという選択肢も封じられる。走るのは遅くなるし、すぐに疲れて追いつかれるからだ。

 弓矢も大楯も長槍も、ソロではきわめて不利だ。距離があっても、死角からの奇襲と数の暴力には極度に弱い。多人数で多くの目と手がなければだめだ。

 一人で戦ってきた自分と、ずっと三人だったフィンやガレスの違い……

 経験値稼ぎでも、37階の階層主を一人で倒すより、バランスのいいパーティで47階層を攻めた方がいいかもしれない。そのほうが、圧倒的に強い敵を倒せる。フィンとリヴェリアとガレスがそうしてきたように。

 大切なことは、やみくもに戦うだけでなく考えること。それも、

(武神の教え……)

 である。

 アイズの鎧姿を見たレフィーヤは驚きながら鼻血も吹いていた。

 

 

 リリルカ・アーデは【ソーマ・ファミリア】で、瓜生に言われたように中間報告をした。

 瓜生に殺されたカヌゥたちのことは知らないふりをしている。

 そして何本も魔剣を買い、指示通り何人かの団員に接触し、仕込みを始めた。

 リリの襟元には盗聴器があり、電波が近くの録音機に飛んでいる。オラリオの者は、電波技術を知らない。

『ギルド』職員に詳しくファミリアの実情を報告したのに、動きがないのも不気味だ。ただ握りつぶされたのではない、もっと恐ろしい何かがある、と感じている。

 

 ヴェルフ・クロッゾはビーツ用に槍を打った。時間がないので穂先だけだが、かなりいい素材を使っている。

【ロキ・ファミリア】の大遠征が近く、【ヘファイストス・ファミリア】全体が大車輪で仕事をしている。

 特に団長の椿・コルブランドはとてつもない注文があったらしく、不眠不休だ。下っ端のヴェルフも雑用は割り当てられる。

 

 

 翌日。早朝、ベルは出ていってアイズと特訓した。

 アイズには武神の考えが見えてきた。

(とても小さい超高速の動きで敵の攻撃をかわし、腰の入った一撃を入れて、そのまま歩き抜ける……)

 精妙な足腰の制御と、果敢な攻撃性が生む武の極み。

 自分もそれを決めるのは好きだ。だが、実際にはとても困難。

 レベル差が大きい自分を相手にベルがそれを狙うと、一方的にやられるだけになる。ベルが一撃ぶん動く間に、アイズは移動していない相手を三回は攻撃できるのだから。

 むしろベルが戦い続けられるのは、一撃離脱のヒットアンドアウェイ、それも短く切った木刀と短刀の二刀で攻めてくるとき。

(今のベルの最大の武器は足。速さを活かすには、手数で攻める双小剣が合ってる。ちょうどベートさんのように)

 とも思った。

 だが、自分の理想を押しつけてはならない、そのことは知っていた。

(せめて、高水準の一撃でも、防ぎきれるように)

 それを目標とすることにした。

 すさまじい一撃や連撃が、次々とベルを襲う。何度も気絶し、骨折して高価なポーションで癒されながらベルは、

「立てる?」

 に応え続けた。

 立って、同じ一撃は防ぎきる。

(足腰の力で受け、まっすぐ受け止めるのではなく敵の攻撃の角度を少しでも変え、正中線を外し、少しでも相手の重心を崩す……)

 タケミカヅチの眷属との稽古、特にレベル2の桜花と命が繰り返し教えてくれたこと。

 だが、二人の攻撃などアイズの一撃とは比較にならない。

 それでも、することは同じだ。

 桜花に対すると同じ、まず振りかぶりながら相手に向かって歩き、相手の攻撃を感じたらそれを袈裟に切り、足を止めず諸手突きか、右に逃れつつ左肩から右腰に斬る。

 通用せず強烈な一撃をもらっているが、常に歩いている、または袈裟切りを始めているため、威力は半減している。

 振りかぶる動きも防御になっている。腕がアイズの鞘をかすめていることもある。

 派手にきりもみで吹っ飛んでいるが、それも威力を殺しているのだ。

 アイズもそれを見て、学んでいた。武神が引き出しから出した、もっとも普遍的な剣の動き。

 特にベルが脇差と同じ、短く切り詰めた木刀を右片手で振るう時の動きからは、多くを学べた。

 

 朝食を食べたらダンジョン、だがレフィーヤは昼にアイズと特訓すると休んだ。もともと、遠征もあるしそれほど頻繁には組めない、とは言っている。

 瓜生はベルたちにダンジョンで会いたかった。それで1階層の隅のルームで待ち合わせた。ベルとともにダンジョンに入るのは、目出し帽とヘルメットがあっても危うい。

 それでベル、ヴェルフ、リリの三人に、瓜生は銃を渡した。ベルの銃も、使わずじまいだった緊急用ポウチから隠匿用ホルスターにした。

 ビーツは年齢が幼いので渡さなかった。

 緊急用の44マグナム短銃身リボルバーと、AS-Val消音アサルトライフル。AKに近く、本来の7.62/5.45ミリより大口径で音速以下の9×39ミリ弾。最初からサイレンサーつきで設計され、ほぼ無音。銃床を折りたたんでコンパクトに隠すこともできる。弾数も30発と十分多い。

 低初速だが大口径ゆえに貫通力・ストッピングパワーが高い。

 安全ルールと最低限の射撃を教えてから、

「訓練がてら、どこまで通用するか下に降りてみる」

 と、瓜生は同じくAS-Valと、50口径亜音速弾消音ライフルVKSを手に、急ぎ足で下層に向かった。

 

 霧が出るまでは消音銃も極力使わず、瓜生も久々に両手剣を振るった。ベルほどものすごい時間と回数ではないが、朝晩20分ずつ程度は素振りもつきあっている。

 だが今の時点で、ベルやビーツに銃なしで勝てる気はまったくしない。

 ビーツも槍をダンジョンで使うことを許され、彼女の身長の倍もある長槍と、長袖タートルネックと長ズボン型の鎖帷子で来ている。槍は穂先だけがヴェルフ製で、柄と鞘は5万ヴァリスほどのできあい。鎖帷子は瓜生のおさがり。

 ダンジョンの床に大皿ほどのくぼみができる蹴り足、深く腰を据えた槍は、大型モンスターも一撃で貫いた。少ない技数、一つの技につき数日で万回に達する練習を、武神が一目見て嘆息した天才が積んだのだ。

 

『妙な音』と呼ばれ、先入観が広がっている。だから銃声がなければ、それとは思われない。

 途中で、前日にリリが連弩でも試したことを聞いた瓜生は、消音アサルトライフルの弾倉でもベルの付与魔法を試してみた。案の定、

「.50BMG並みの威力になってるな……」

 とあきれるほどだった。オークでも一撃で大穴が開く。

 付与魔法がかかっていなくても、何発も撃ち急所に当たればオークやシルバーバックを倒せるし、ハード・アーマードやキラーアントの装甲も貫通する威力に、リリもヴェルフもあきれていた。

「最初から消音銃だけを使っていれば、『妙な音』なんて目立たずに済んだかもな」

 と瓜生は反省している。

「だが、マズルフラッシュも目立つ。銃は使わなければ危ういときだけにしろ。弾が有限だということも忘れないように」

 そう言って、瓜生は一人帰った。帰り際に、

「集団の無謀さで銃を乱用するな。三つのルールは絶対に守れ」

 と厳しく言い捨てた。

 大量の荷物を持てるリリがいると、銃の力は何倍にもなる。さらに魔力を付与できるベルがいる。……マジックポーションと予備弾薬を多数持てば、すさまじい戦力だ。

 

「クロッゾ様、わかっていますか?罠でもあります」

 もしリリやヴェルフが裏切り上に情報を伝えれば、それがわかる。

「だから正直に、伝えていいといわれた情報だけを伝え、それ以外はちゃんと秘密にするほうが、賢明ですよ」

「こういう貴族じみたやり口は、俺は嫌いなんだが」

 ヴェルフは吐き捨てた。

(人間より、熱い鋼やモンスターのほうが正直でいい……)

 とすら思うほど。

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