ダンジョンに近代兵器を持ちこむのは間違っているだろうか   作:ケット

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大遠征

【ロキ・ファミリア】は、【ヘファイストス・ファミリア】も含む大遠征の準備を進めている。

 だが、大半の物資準備は欺瞞である。持っていくつもりもないのに、まわりの目をごまかすために調達している。実際に買う物は重さを徹底的に減らしている。バベルまで運び、周囲に見せつけるカーゴの荷物は、中身は瓜生が出した単なる緩衝材だ。

 ただし、ポーションや魔法護符、魔剣はいつもの大遠征以上に準備している。

 瓜生を知らないメンバーで、調達全体を総合できる者に、不安はあった。

(この装備では、せいぜい35階層まで行けるかどうか……)

 実際には、それほどに少ない装備である。

 一度不安がる者たちを連れて、瓜生が軽装甲車で16階層に行き、膨大な物資を出し、湯を沸かして皆でラーメンを食べて帰ったことがある。4時間もかかっていない。

 

 瓜生は【ソーマ・ファミリア】を処分した直後、大遠征より少し前から19階層に滞在していた。

 アナキティ・オータムら数人と合流、戦車や装甲車を整備していた。

 大量に食べるビーツのために倉庫を借り保存食でいっぱいにし、二日に一度配達されるようにもした。

 だから、ベルの死闘を見ていない。もし彼がフィンやアイズと行を共にしていたら、どうしていたか……瓜生が実力を発揮するには、どうしても準備時間が必要になる。.50ライフルと手榴弾で、オッタルを倒すことは……

 

 立ち寄った18階層、リヴィラで瓜生は慣れた失望を味わった。

 新しい街を見下ろす五つの丘に置いた20ミリ機関砲と砲弾は、なかった。

 ボールスの力では、無法者たちの欲を抑えきることはできなかった。

 砲身の鋼。弾薬の真鍮と鉛。すべて盗まればらされ売りさばかれた。

 見張らせた手下は買収され、買収を拒んだ者は闇討ちで重傷を負った。ボールス自身も、守ろうと意地を張るのは危険すぎた。

 それほど、この無法の街に高品質の鋼は、保てないものだった。貧困国では送電線や電話が、単なる銅でしかないように。

 機関砲の秘密を研究する者はいたのかどうか……機関砲を盗み押して深層に出かけ、帰ってこなかったパーティもいた。

 瓜生は慣れていた。金の卵を生むガチョウを、腹を裂くどころか卵を生ませもせずに焼いて食べてしまう人々に与える愚行は。

「……すまねえ」

 しょげかえるボールスに瓜生は、

「わかっている。守り切れないものを与えたおれも悪い」

 そう言ってボールス個人が管理できるよう、14.5ミリボルトアクション狙撃銃を渡した。

 寝台車や食堂車、多数のコンテナやトレーラーハウスも、汚れてはいたがたくさんの人が利用していた。金を出せば魔石で沸かした熱い風呂に入れることも、誰もが慣れつつあった。

 

 

【ロキ・ファミリア】の遠征参加者は多くの見送りを受け、数班に分かれて出発、18階層で集合した。

 レベル2のサポーターたちは、それなりに危険な思いもした。

 そして皆、何人かの幹部の異様なテンションにおびえていた。一度、第一斑……フィンやアイズを中心とする第一級冒険者の多くが、ラウルに後を任せて抜け出し、再合流した。何かがあった。

 また、19階のルームに案内するアナキティ班……『妙な音』のうわさに、恐怖と好奇を抱いていた。

 そこにあったのは、噂をはるかにしのぐものだった。

「ああ」

「い……」

「う」

「え?」

「おおおおお」

 声が広がる。

【ヘファイストス・ファミリア】もあきれかえり、何人か……妙な金属の受け取りをした者は瓜生をにらんだ。

 メルカバMk-3が2両。ナメル重装甲兵員輸送車が6両。ヴィーゼル空挺戦車が4両。大型トラックが2両。牽引式の23ミリ連装対空砲。

 ナメルのうち3両は、瓜生・フィン・リヴェリア用に、一人で操縦できるよう改造した。

 トラックには人数分のキャンプ用具が積まれている。

 フィンの目くばせとともに、事前に学ぶことを志願していた人々が前に出る。前回と合わせ、40人近くが近代兵器を使うことになる。

 ちなみに、アキ以外のレベル4は、今回は強制だ。51階層以下の挑戦に必要なのだ。

 ガレスもこだわりなく、兵器を学ぶことに参加した。ただしリヴェリアはじめエルフに教わるのは拒否したが。

 フィンを中心に、アキたち先輩も講師となって教え始める。

 前回から間があったので、しっかり反省した。瓜生も【ロキ・ファミリア】の戦術を聞いた。

 リボルバーで銃の基礎、ライフル……と教えていけば確かにわかりやすいが、時間がかかる。

 教えることの数をひとつでも少なくするのが、

(もっともよい……)

 と、いうわけだ。

 まず.50ライフルを全員に。次に手榴弾と対戦車手榴弾。

 メルカバと、メルカバから砲塔を外して装甲兵員輸送車にしたナメル。当然共通点は多く学習負担は小さい。

 ヴィーゼル。23ミリの牽引機関砲。

 大型トラック、六輪ウニモグ。

 それだけ。

 もともと【ロキ・ファミリア】の遠征の基本は壁役が大盾を並べて守り、その背後から弓矢と魔法で攻撃する。

 左手で大盾、右手でセミオートライフル。大盾の頭越しに手榴弾。魔法もそのまま使う。それなら、ほぼこれまでの延長でやれる。弓矢と短文詠唱魔法が手榴弾になるだけのことだ。

 さらにヴィーゼルの20ミリ機関砲で細かく支援する。

(ダンジョンでない遠距離戦なら、迫撃砲や榴弾砲がそのまま呪文だな)

 フィンたちに普段の戦い方を聞いて、瓜生はそう思った。

(この重火器に本当にふさわしい戦術は、今回の遠征を反省してから……)

 と、決めている。

 

 教わる者、教える者両方半々に分けて、半分は別ルームに行って火縄銃で銃の原理を学び、それからライフルの訓練。もう半分は広いルームで操縦の練習。

 今回学ばない者は双方の護衛。

 車両はまず最小限のギアや操縦系の操作。いくつも、様々な色のパイロンを並べ、ぶつけてみることで車体感覚を得る。それから、ぶつけないようにパイロンの間を走り抜ける。

 新しい体に、神経をいきわたらせる。

 

 もう一つ、5人の特別班がいる。犬人・狼人・猫人を主とし、特にスピードと感覚、勘の鋭さを重視して選んだ。

 彼女たちの訓練は別ルームで行われる。

 全員、100発C-MAGをつけたガリルACE53とダネルMGLグレネードリボルバー、手榴弾を持つ。身軽だ。

 仕事は一つ。新種の、溶解液の塊であるイモムシを、できるだけ早く弾幕と破片で処理することだ。そのため身軽で、遠征隊全体の最前線に広く配置される。原則として、あの新種以外は相手にしない。

 前回の撤退理由であり、溶解液が武器防具を溶かしたので金銭的な被害が極端に大きかった。

 新種はやっかいだが弱いので、7.62ミリNATO弾でも十分、遠くで殲滅できると思われる。群れが遠くにいるうちに一匹に一発ぶちこめば、ぶちまけられる溶解液は仲間も溶かしてしまうのだ。

 鍛冶師を連れてきたことも、ローラン・シリーズ……すべて不壊属性(デュランダル)の武器を注文したのも、アイズを中心に特訓をしているのも、その新種対策。

 

 それとは別に、まだまだ他派閥も多い階層で訓練を見られないよう監視する役割も必要だ。人数の割り振りと交代、点呼はとても忙しい。

 

 

 二時間ほど教えてから夕食。瓜生も訓練に忙しいし、食事係も訓練される側だった。待たせないためにチェーン店のハンバーガー・フライドチキン・ピザ・フライドポテト、袋生ラーメンとチャーシュー……インスタントラーメンより味がよく、鍋と水が用意できればすぐできる。デザートにカステラとナッツ。

 瓜生に訓練されたメンバーは、訓練より簡単なメニューにほっとし……そして車を見上げて明日の訓練を想像しげんなりしていた。

 無論、ルームに用意されたトレーラーハウスの風呂と新品の寝具には驚嘆し、大喜びもしたが。

 

 風呂を済ませ、幹部ミーティングに顔を出した瓜生は、フィンやアイズにベルのすさまじい冒険を聞いた。

 オッタルと戦ってまで助けようとしたアイズに……そして男の戦いを見守ってくれたことに、ひたすら感謝した。

 ティオナは何度も何度も、その戦いのすさまじさを語らずにはいられなかった。

 

 翌朝、目覚めてすぐにフルーツジュース。それからガスオーブンで冷凍生地を焼いた焼きたてパンとベーコンエッグ、前日の夜から業務用圧力鍋で作っておいた鶏ひき肉・タマネギみじん切りのシチュー、全自動機械のコーヒー。

 教わるメンバーはコーヒーをおかわりして、本格的に訓練開始。

 ベルの奮戦を見て体に火がついていた幹部たちと、負けず劣らず体の火が強い椿・コルブランドが別のルームに飛び出し、手ごたえのない相手に沸き立つものをぶつけ始めた。

 そちらのメンバーにも、昼食は瓜生がたっぷりと持たせている。コンビニおにぎり、菓子パンとチーズ、プロテインバーやシリアルバー、クリームサンドビスケットなど。

 そのサポーターがちょっと燃料とキャンプ用小型ストーブ、アルミのヤカンや鍋、メラミンのどんぶりを背負っていけば、インスタントラーメンも食べられる。普段の装備よりずっと軽い。

 

 丸一日と二時間の訓練は、十分に報われた。50階層に着くまで、ふつうなら7日かかるのが5日だった。

 全員、装甲車の中や屋根に乗って、走り続けるのはきついスピードで進撃した。どんな魔物も一瞬で魔石も残さず粉砕された。最も多くのモンスターを倒したのは、ナメルの屋根に座った歩兵の射撃だった。

「(メルカバ・ナメルにある)迫撃砲が使えなくて残念だ」

 と瓜生は言ったが、もし使えていたら何人も限界を超えていただろう。直射できない迫撃砲は、計算が必要だ。

 

 そして夕食・睡眠・朝食。

 大きいルームの壁に爆薬を仕掛け安全地帯として、多数のトレーラーハウス。全員がバスタブにつかり、新品の布団で眠ることができる。

 食事もトレーラーハウスのキッチンや自衛隊用の給食装置などを利用し、全員に十分ごちそうをいきわたらせた。

 大人数の腹ペコたちに、たっぷりとおいしく栄養のあるものを。

 ガレスや椿が酒を要求してリヴェリアに殴られることも何度もあった。

 それだけではない。【ヘファイストス・ファミリア】の鍛冶師たちのために瓜生は、別のルームに金床・るつぼ・ガス炉・ベルトハンマーと発電機、そして炭素工具鋼・高速度鋼・ニッケル・インジウム・銅合金・コバルト合金など材も用意、それなりの仕事ができるようにした。

 壁を爆破したときにもかなりの鉱石が出た。

 チタン、スズ、ジルコニウム、ロジウムと迷宮で得たミノタウロスの角、壁から出た金属鉱石をるつぼ精錬したものを混ぜるというわけのわからないことも鍛冶師たちはやった。

 瓜生はむしろ、

「なんとか、GAU-19(.50BMGのガトリング砲)か連装重機関銃を戦車に載せるアタッチメントを作れないか……」

 と頼んでいた。

 また、キャタピラが壊れたりしたときの修理などもさせてみた。

 

 

 38階層から、【ロキ・ファミリア】のメンバーを大きく4つに分けた。

 51階層以下に挑戦する者……サポーターですらレベル4が要求される。例外もいるが。

 レベル6がフィン・リヴェリア・ガレス・アイズ、5がベート・ティオネ・ティオナ、そして4人のレベル4サポーター。加えてレベル3だが、倍の時間はかかるがリヴェリアと同じ大火力魔法が可能なレフィーヤと、レベル5の椿。実際に51階層以下に挑戦するときに備えて、同じ装備……兵器で戦いながら訓練する。

 残りのメンバーを、瓜生の兵器を学ぶものと学ばない者、そして対新種班に分け、アキが率いる。

 

 挑戦組は、4人のレベル4がメルカバ、リヴェリアとフィンがそれぞれRWSつきのナメルを一人で操縦する。

 もともとかなりスペースに余裕があるメルカバと、多人数が乗れるナメル2両、食料もテントも寝具も……弾薬や修理用部品もたっぷりと積んだ。

 アイズとベートも、重機関銃とライフルの扱いは覚えることを承知した。

 意外にもベートは、

「モンスターを灰にできるなら、どんな手でもかまやしねえ。ダンジョンには理不尽しかねえんだ」

 と、認めた。

 ガレスはフィンに、ナメルの扱いを学び始めた。

 椿とアマゾネス姉妹は、それまでに鍛冶師たちが打った、刃だけで1M、柄も4Mある長槍を手に車両の屋根に乗り、陣を守る。

 フィンたちは臨機応変に、火力で掃討することもあるし飛び出して槍や銃を手にすることもある。

 そちらには瓜生も同行させない。本番の51階層以下には、レベル2の瓜生は連れていけない。

「メルカバなら足元で10キロの高性能爆薬が爆発しても」

 と瓜生は言ったが、

「どんな防御でも、52階層以下は安全じゃない……何階層分もの床をぶち抜いてくる」

 とささやかれた。

「それに合わせた兵器がないか、考えてくれ」

 とも。

 

 残ったメンバーはアキが率い、戦力としては主に瓜生の兵器で降りる。

 できるだけ多くが、銃や手榴弾、戦車や装甲車を訓練しながら。

 モンスターにとっては地獄絵図だった。

 ダンジョンが敵の強化に気づいたように、世界をへだてる壁が弱まったように、新しい強敵も出現した。

 水が多い階層では、とてつもなく大きなワニや、見た目とは違い鋭い牙と速いダッシュで襲いかかるカバの怪物。

 頑丈すぎる装甲に身を固めた巨大ヤスデ。

 悪夢から出てきたような、4本の長く巨大なハサミを持つ巨大甲殻類。

 どれも、レベル5が複数いても苦戦しそうな敵だった。だが機関砲の前では無力だった。

 牽引された連装の、あるいはヴィーゼルの機関砲が織りなす濃密な十字砲火。ナメルの30ミリ遠隔操作砲塔。何も決して近づけなかった。

 

 41階層に、突然巨大すぎる蛇が8頭出た。赤、赤紫、青紫、青、青緑、緑、オレンジ、黄土色……人間どころか象でも一口に飲み込めそうな規模。

 瞬時に、先頭にいたアキの30ミリ機関砲が5つを粉砕する。

 そして後方から、随伴歩兵をしていたリーネが率先して重機関銃で射撃し、全員が続いた。

 強烈な衝撃が瓜生の車に当たったが、巨体は持ちこたえた。瓜生の不可視の鎧は、瞬間的で強烈な加速度からも主を守った。瓜生も反撃を始める。

 アキの命令を受け、メルカバが放った120ミリ弾筒付翼安定徹甲弾(APFSDS)が、外れかと思うほど遠くを撃ち抜く……そこには、地形としか思えない、太い本体があった。8つの首を持つ超大蛇。一つの首の直径だけで6メートルを超える。

 校舎の高さより太い巨大な胴が、音速の何倍ものタングステン合金の太矢に貫かれる。矢の先端は頑丈すぎるうろこも、超高速が生む超高圧で液体と固体の区別をなくさせ、貫通して内部で暴れまわる。

 一発ではなく、連射。人間にとっては重い砲弾も、人間離れした力の装填手は高速で再装填できる。戦車砲がくりかえし火を吹く。後方の30ミリ、そして20ミリ機関砲も。

 圧倒的な火力の前に、超巨体が灰と化すのはすぐだった。

 

 

 別ルートで降りている挑戦班も、ベルの挑戦を見て煮えたぎる心が身を突き動かし、どんな魔物も瞬時に粉砕した。

 太い二本足で立ち長い首が3つの、頭までの高さ20Mはある飛べない鳥……あえて火砲を使わせず、ベートとアイズ、アマゾネス姉妹、椿の5人だけで切り倒した。くちばしの一撃より、飛び跳ねて鋭い爪で蹴るのがすさまじい威力だった。

 4本の腕、それぞれの手首から先が長い剣になっている、青い肌の巨人の群れも次々と切り倒した。

 とてつもない重装甲で、一本のハサミが異様に大きいヤシガニも一匹はアイズの必殺技が粉砕し、もう一匹はレベル4の4人が駆るメルカバの主砲がぶち抜いた。

「わしらの仕事がなくなるな」

「弾薬には限りがあるから、ありがたいよね。ポーションはもっと限りがあるけど」

 と、ガレスとフィンがあきれるほどの情熱だった。

 フィンもリヴェリアも、燃えてはいる。だがその炎は、違う形で燃えているのだ。エンジンを動かす炎のように。電線を走る信号電流のように。

 途中、とうとうナメルのうち一両が奇襲にやられた。修理をあきらめて装備を積み替え、呪文で破壊した。

 

 近代兵器をどこまで学ぶか……フィン・リヴェリア・ガレスは何のこだわりもなく学んでいる。三人にとっては、【ファミリア】が強くなることが最優先なのだ。

 

 アイズは迷っていた。

 強くなりたい……強すぎる、身を焼き焦がしてやまぬ思いがあった。それが、ベル・クラネルとのふれあいで少し変わってもいた。椿・コルブランドにも、剣そのもので折れるだけだったのが変わった、仲間ができたと言われた。

 タケミカヅチの言葉もあった。仲間のため……なら、自分も戦車を運転し、機関砲を撃ち修理できれば、特に52階層以下、レベル3以下はとても連れていけない地獄では【ファミリア】が強くなれる……

 だが、迷いはまだあった。一つの方法しかしてこなかった。一人剣を手にダンジョンに潜り、強くなる……それしか思いつかなかった。やってこなかった。

 それを変えるのが、あの時の、ずっと強めてきた誓いを汚すような気がするのだ。

 勇気が必要だ、自分は臆病者だ……アイズはつい、自分を責め、自虐的な思考をしてしまう。リヴェリアや椿はそれを見抜き、助言をくれるが……

 決めるのは自分だ。

 

 ベートは、強くなれるなら何でもいい、と瓜生の武器を認めた。

 だが、なぜか自分も学ぶと思うと、一歩踏み出せない。気に食わない。

「何が気に食わないんじゃ?」

 ガレスに言われ、じっと考えた。考えたくなかった、思い出したくないことが多すぎるから。

 だが、考えるしかなかった。

「この、鉄の車と火のクロスボウ……こいつを使えば、雑魚も強者になる。だが、奴の故郷ではたくさんの人間と人間がこれで戦ったんだろう?」

「ああ、そういうことか……あやつの故郷は、弱い人間に武器を持たせて殺し合わせた。人間を道具のように、矢のように消耗したんじゃろうな。あやつは、それをよくわかっておる」

「気に食わねえ……」

「たっぷりと動いてバタッと眠れれば楽なんじゃがなあ。いや、あのスピリタスとかいう強い強い火酒があれば……老体にこんな勉強は辛い」

 ともに火を見つめ、ぼやくガレスのため息。ベートは、とにかく暴れたかった。一人でウダイオスとでも戦えたら、どれほど幸せか……

 

 ティオネは、フィンが乗るナメルに触れていた。まだエンジンの熱が残る複合装甲の巨体。

 彼の隣にいたい。アマゾネスの、冒険者の誇りなんて捨ててもいい。だが、自分の本性そのものが、冷静な機械に、巨大機械の部品になることを拒んでいる……それは『わかる』を超えた、圧倒的な魂の叫びだ。

 フィンの隣にいることができるのは、どんな女なのか……

(彼が上品な姫君を求めるならなってみせる。学者になれというならなる。彼が求めるどんな女にもなる。なんでもする、なんでも……でも、でも、これは……)

 どんな戦いも修行も平気、拷問もどんとこい……はるか昔、涙など枯れつくした彼女が、こみ上げてくる嗚咽を、慟哭を抑えきれない。

 瓜生が憎くさえあった、筋違いとわかっていても。どうしていいかわからない。暴れたい。戦いたい。

 

 ティオナは、迷っていなかった。自分の頭で、膨大な勉強を含む戦車の操縦ができるとは思えない。複雑な数字や、知らない文字を覚えろというだけで逃げた。

 それよりも、ミノタウロスと激しく打ち合う少年の姿を思い返していた。

 戦いたい……もっともっと強い相手と。それでいっぱいだった。

 

 

 ついに49階層の巨大な荒野で合流し……メルカバが放つ多目的榴弾と近距離のキャニスター弾が、30ミリ機関砲の十字砲火が……リヴェリアとレフィーヤ、二人が同時に放つ大呪文が次々と何百、何千というフォモールの群れを粉砕する。

 前回の苦戦が嘘のようだ。前回よりも敵は多いのに。

 盾で受け止める必要がない、すぐに発射できる機関砲が、敵が遠いうちに粉砕する。頑丈な巨体が、バラバラに砕ける。

 近距離まで群れが突撃しても、キャニスター弾……戦車砲から放たれる巨大散弾がまとめて蜂の巣にする。血の霧が立ち昇り、砲口からの爆風に吹き散らされる。

 大型で頑丈な戦車と戦車改造装甲車、それ自体が分厚い盾となる。

 アイズやベートも素早い足で動き回りつつ、比較的軽量でアサルトライフルのようにグリップと引き金を改造された12.7ミリ重機関銃をすさまじい力で構えて連射し、弾幕の隙間をふさぐ。銃身交換がまだ慣れず、過熱して使えなくなってはリヴェリアに怒られてむくれる。だが、超高速で走って機関銃を使う者が二人いるのは、とてもありがたい。隙間がなくなるのだから。

 アマゾネス姉妹と椿は、獣のように別の方向に向かった。何千とも知れないフォモールを自分から襲い、殺して殺して殺しまくった。

 

 安全階層である50階層で、ついに未踏の59階層を目標としたアタックの準備が始まる。

 体力にもポーションにも余裕がある。消耗したのは学習のための精神力だ。

 50階層に着いたのは昼過ぎだった。

 安全階層の高台は、まさに要塞だ。2連装23ミリ機関砲6基と、30ミリRWSをつけたナメル3両ががっちりと守っている。

「これならあれが百匹来ても楽勝だな」

 とリヴェリアがつぶやいたほど。

 

 瓜生はサポーターにも手伝わせ、ダンジョンで得られる果物なども利用して食事を作った。

 ダンジョンの奥なのに新鮮な魚を大量に出し、海鮮丼・天ぷら・魚のムニエル・塩焼き。

 ダンジョン産の肉の味がする果物と、ジャーキーや干し貝柱で作ったスープ。

 美味に舌鼓を打ち、話し、楽しむ……

 

 瓜生はフィン・リヴェリア・ガレスに招かれた。アナキティとラウルもいる。

「問題は?」

「かなり扱いには慣れた。キャタピラは結構壊れやすいね……でも椿・コルブランドが短時間で修理できるようになった」

 フィンは疲れを見せていない。

「ほかに必要なものはあるか?」

「重機関銃は予備がほしい。パンツァーファウスト3もできるだけ多く」

「装甲車両がもっとほしい。一日そのために遅らせてでも。予定より二日も早く着いているし、食料不足はありえない」

 リヴェリアが強く言い、足元に転がった小石を並べなおす。石は人に対応している。

「だが、誰が乗る?」

 ガレスが苦虫をかみつぶす。

「リーネはかなり腕がいいわ」

 アキが勧めた。

「だからこそ、失いたくない……」

 フィンが口を引き結ぶ。

「訓練不足の兵器はむしろ足手まといになる可能性も高い……だが、数があれば銃砲は質が一変するんだ」

 瓜生はため息をついた。

「わかるよ。クロスボウ使いが一人と二人、さらに4人、10人……まったく別の存在になる」

 フィンとリヴェリアがうなずき合う。

「こちらの運用で、出会い頭にとっさの判断が遅れることがあったわ」

 アキが反省する。

「それはあるだろうね」

 フィンにも理解できる。それは弓矢と魔法でもあることだ。

「おれの故郷で、ジャングルでの戦いでだ。先頭の者は散弾銃を持った。出会い頭に、狙うより早く一撃を確実に入れる、それが肝要だった」

 瓜生が軽くうなずきながら言う。

「そうだな。先手必勝は、君が来る以前の僕たちにとっても絶対だった。今まではその手段が、せいぜい弓しかなかったけれど」

「戦車のキャニスター弾か?」

「それもある。重機関銃でもいい」

「パンツァーファウスト3も一つの手だな。後方安全距離が痛いが。弱いのが多数ならカールグスタフのフレシェットが最強だが、後方安全距離が大きいからなあ」

「複数の高レベルが、超大口径対物狙撃銃を持つという手もある。君が食人花に使い、ボールスに渡したような」

「この重さで使えるか?ゲパード14.5ミリ。セミオートだ」

 瓜生の手元に、常人の身長より長い巨大銃が出現する。ボールスに渡した旧式のボルトアクションより重い。

 フィンが持ちあげてみて、

「大丈夫だ」

「重さはともかく、かさばるな」

「これとパンツァーファウストが妥協点かな?」

「重機関銃を持つ者と組ませておきたい」

 ……さまざまなことを検討する。

 

 今から出発してもいい時間だが、あえて翌朝の出発とした。ダンジョンではあまり時間に意味はないが。

 何人か、別の武器や車両で追加訓練。また新装備のテストなど。

 

 鍛冶師たちは12.7ミリや14.5ミリのセミオートライフル用大容量箱型弾倉を作っていた。アナキティ班の側で、実戦でもかなり使った。不具合はなかった……瓜生の故郷の軍が認めるにはテスト不足だが。

 メルカバの銃架には12.7ミリガトリング砲も据えた。

 

 52階層以降の砲竜対策として、瓜生はとんでもないことを考えていた。

 ガレスが、『それ』を実際に持ち上げてみせる。アイズも持ちあげられる。なんとか。

 

 ガレス・ベート・レフィーヤの3人でナメルをもう一両。

 ガレスは19階層からここまでかなり学んでいるため、問題はない。

 ベートも、意外なほど素直に受けた。

 レフィーヤも、

(レベルも低いのに兵器も扱えなければ、本物の足手まとい……)

 とうなずいた。

 ティオネもフィンを手伝ってナメルに乗る。フィンには全体の指揮という仕事もある。ただでさえ負担が大きい一人で操縦も射撃もやり、さらに指揮ではさすがにミスが心配だ。操縦だけでもやってもらえば、とても助かる。

 アイズは、牽引機関砲を特訓した。

 かわるがわる、14.5ミリセミオート対物狙撃銃の扱いも練習した。

 火器を使わないティオナと椿も、その分負担は大きくなる。常に走り回り、長槍で対処し続ける必要がある。

 

 ナメル3両とメルカバ1両。牽引機関砲もある。

 ガレスとティオネが運転の訓練をして、49階層で実戦訓練もした。

 ティオナと椿は、居残り組から何人か引き連れ、二人で48階層まで行って斬りまくってきた。

 

 

 地上の時間で夜遅くまで訓練し、本当の前夜がやってきた。

 瓜生のごちそうにはみんな大喜びした。

 みんなで囲んでつつけるよう、骨付き肉・魚・野菜・キノコをたっぷり入れた鍋。

 焼いたダンジョンの果物と、極上の霜降り和牛。

 最高級のレトルトカレー。業務用圧力鍋で高級米を炊いた、極上の白飯でも、パスタでもお好みで。

 食べ終われば鍋の汁でうどん。

 ホールケーキとメロンを一人一つずつ。

 多数派の女子たちは全員で自衛隊の野外入浴セットを楽しんだ。

 そして挑戦組はゆっくり入浴し、さっさと寝……られるわけがない。

 

 椿・コルブランドは『不壊属性(デュランダル)』が付与された連作武器、〈ローラン〉も皆に渡した。消耗しないように、これまで出さなかったのだ。

 切れ味が劣る不壊属性でありながら、凄みのある輝きは椿の腕をはっきりと示していた。

 

 新しい、不慣れな武器を千回、二千回と素振りしながら、何とぶつかってもベル・クラネルのように戦い抜く、と誓うティオナ。

 同等以上の情熱を燃やしているティオネやベート。

 静かに、巨大な戦車を見上げるアイズ。

 そして、選抜されて緊張を通り越しているレフィーヤ……

 瓜生はいくつもの大型業務用圧力鍋で、おいしい朝食を仕込んでいた。

 

 訓練で少し遅らせても、できるだけの戦力で……悪夢の竜の壺、そしてその下……あの女調教師がアイズに告げた、59階層。

 そこには何が待つのか……燃え盛る闘志は、焼けついたエンジンや白く垂れさがる銃身より熱い。

 

 朝食。

 ホームベーカリーを用いた焼きたてパン。

 アイズのリクエストで、コロッケとトンカツ、フライドチキン、フライドポテト。

 業務用圧力鍋で前夜に15分おもりを揺らさせ、そのまま一晩放置した、牛・豚・羊・鶏4種の骨付き肉とタマネギ・ニンジン・カブのスープ。

 オレンジとリンゴ、紅茶。

 

 出発するナメルのうち2両は、とんでもないものを積んだトレーラーを牽引していた。

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