ダンジョンに近代兵器を持ちこむのは間違っているだろうか   作:ケット

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刺客

 運命の流れの違いは、ベルが最初に襲われたミノタウルスの数だけではない。

【ロキ・ファミリア】の遠征が、戦闘車両のおかげでハイペースだった……それはダンジョンの複雑な生態系の中で、さまざまなバタフライ効果を生んだ。

 誰が知るだろう。瓜生が加わったために何倍にもなったモンスターの大量殺戮と、遠征隊の高速移動。それがなかったとしたら。

 まず、49階層に何百も同時に生まれたフォモールの異端児(ゼノス)は、生まれてすぐ、最初の言葉を発する前に、遠征隊を迎撃するため生じた同類に殺されていただろう。遠征隊にはまったく見えないところで。徹底的に掃討された大荒野の隅で生まれた彼らは生き残り、上層階の仲間に合流することができた。

 また妙な影響で、38階層でモンスターの超大量発生が起きた。それは新種怪物の餌となり、胸に魔石を持つ怪人の回復を早めた。

 何体か『強化種』があちこちの階層で発生した……異端児たち同様、生まれてすぐに殺されずにすみ魔石を食って強くなった。あるものは怪人の餌となり、あるものは強くなりながら深層を暴れまわることになる。

 怪人たちが操る異端モンスターは、溶解液イモムシと食人花だけではなかった。

 また、『豊穣の女主人』の面々は、一人の少女をとてもかわいがっていた。

 

 

 ベルは目を覚まし、体を確認した。

「……うん、何とか大丈夫」

 前日、アイズにめちゃくちゃに打たれた。だが高価な薬とリヴェリアやリーネの治癒魔法で、しっかり治っている。

 体に違和感がないことを確認した。

「今朝は……」

 何種類かの食べ放題。ピザはマルガレータ・ベーコン大量・クワトロフォルマッジ(4種チーズ)から。パスタはミートソース・ペストジェノベーゼ・アメリカンチーズソース・ビーフカレー、または豚肉・スライスタマネギ・ミックスベジタブルのシチューから。フライドチキンとフライドポテト。ナッツやドライフルーツ、パウンドケーキ。

 

 それを食べ終わってから、アイズたちも地上に戻っていく。大半はそれで帰るが、何人か、病後だったりで残る者もいる。

「そ、その、気をつけてくださいね」

 昨日あれだけぶちのめしたのに真摯に身を案じてくれるベルに、アイズはとても心が温まる思いだった。

「私も、もっと、もっと強くなる、から」

 それ以上は言えなかったが。

 

 ヴェルフは、ひたすら【ヘファイストス・ファミリア】の同僚とともに鍛冶仕事をしていた。

 リリは体が大体治ってから、瓜生とともに動くことが多いようだ。何をしているかは言わないが。時には出てきて、ヘスティアに抱きつかれ、アイズと話しているベルに嫉妬をぶつけたりもする。

 

 車のメンテナンスの仕事から交代し、地上に帰るのではなくリヴィラに戻ったレフィーヤが、ベルを呼び出した。

「聞きましたよ、ベル・クラネル……」

 すさまじい殺気だった。

「アイズさんたちの水浴びを、のぞいたんですって……」

「ご、ごめんなさい」

 仲間だからこそわかる、本気で殺す気。恐怖におびえて逃げ回るベル、追い回すレフィーヤ……いつしか森に入っていた。

「おいかけっこ?」

 と、まだ子供のビーツがこれまたものすごいスピードで走り出し、誰が追い誰が逃げているのかもわからぬしっちゃかめっちゃかになった。

 レフィーヤが転んだ時。小さな猿のようなモンスターが、レフィーヤのポケットから転がった、小さな水晶のかけらのようなものを拾って、木に登ってターザンアクションで逃げた。

「え」

「あーっ、アイズさんにもらった水晶飴!」

 レフィーヤは悲鳴を上げ、追いかける。18階層でもめったに手に入らないレアアイテムだ。だがそれより、憧れのアイズのプレゼント。

「魔法、はだめ、飴まで消えちゃう……」

 必死で追う。ベルやビーツも加わる。

 追い詰め、取り返そうとしたが……モンスターは目の前でごくん、と飴を飲み込んでしまった。

「こ、ころ……灰にすれば」

「はあ、もう、だめですよ」

「アイズさんにもらったのに、一生大事にするって決めてたのに……」

 歯噛みをしながら逃げていく猿型モンスターを見送る。

 そして、ふと気がついた。キャンプからかなり遠くの森の中だと。

 安全階層とはいえ、多くの魔物がいる。

「装備は」

 気持ちを切り替えたレフィーヤの確認。

「どんなときもしっかり護身装備をしろ、と言われて、『ベスタ』と『フミフミ』、それにナイフとポーション」

 ビーツはトンファーとナイフ、背中の小さいリュックに密封可能チョコレートがぎっしり。

「銃は?」

「その、この前のミノタウルス戦で、あまり役に立たなかった、だから銃はリリに集める、って」

 

 上を見るなと散々脅してから高い木に登ったレフィーヤは、【ロキ・ファミリア】のキャンプ地や新旧のリヴィラだけでなく、奇妙な人影も見つけた。

 気づいてしまった……【ロキ・ファミリア】が遭遇したさまざまな事件。闇派閥(イヴィルス)。

「ふたりとも、なんとかリヴィラに、【ロキ・ファミリア】の基地に戻ってください。ここからは」

 うち(ロキ・ファミリア)の仕事。

 レフィーヤがベルとビーツを逃がそうとした。

「危険なら、一緒に戦う。ぼくたちはパーティだ」

 ベルの言葉にビーツもうなずく。

 完全装備ではない。だがベルもビーツも、瓜生と合流してから新品の防刃服をもらっている。

(このままふたりが、帰れるかどうか……いっそ私がいっしょにいたほうが……どうしてこのふたりまで巻きこんでしまったの)

 自分を責めながら、とにかく偵察を始めた。

《違い》があった。

 そこを守っていたのは、穴そのものとなって冒険者たちを飲み、魔法に耐えて溶解液を出し触手で打ちのめす怪物ではなかった。

 大岩にしか見えず何年も動かずに待つ。そして音ではない警報を主に出す……岩と思ったら巨大な、一つのハサミが大きい甲殻類。

 両手に脇差を抜いたベル、トンファーを両手に構えたビーツが前衛となり、時間を稼ぎ……レフィーヤが呪文を唱える。

 魔力を追ってくる敵が集中する、そこにベルが両手持ちで斬りまくる。

 もう、そこまでくると偵察も何もなく、敵も気がついて……多数の食人花が呼び出される。

「時間を稼いで!」

 叫んだレフィーヤだが、驚嘆した。ベルとビーツは、多数の強敵との戦いに慣れている。

 ビーツのトンファーでは打撃に強い食人花を倒すことはできない。が、強烈な打撃でベルやレフィーヤに迫る攻撃をそらし、自分を追わせることはできる。敵の群れをコントロールしている。

 敵の群れをコントロールし、こちらに都合のいい陣形にするのを、長い決死行でさんざんにやっている。

 コントロールされた敵にベルの、5秒チャージ+雷電魔法つきの『ベスタ』の一撃。レベル4相当の硬い皮が切り裂かれ、内部に超高温と高圧電流が駆けめぐって炎上する。それで動きを止め口でもある花を開いた瞬間、ビーツが口に飛びこみ魔石を砕く。

(レベル2なりたてで18階層まで生きてたどり着いたのは、実力……)

 レフィーヤは痛感した。

 そしてとっさに判断し、上空に【アルクス・レイ】を放った。

 それ以前に雷光を見た【ロキ・ファミリア】の面々が急いでいた。

(地上まで、ベル・クラネル一行を護衛する……)

 そうひそかに命じられている、レベル4のナルヴィをはじめとした数名。

 

「レフィーヤ!」

「だいじょうぶです。あと何回ですか?」

「7回ぐらい」

 必死で戦い続けている三人、だが戦闘継続時間の短さという欠点がある。

 ベルはチャージの反動が大きく、付与魔法は強力だが使用回数が少ない。ランクアップで増えはしたが、それでも多くはない。

 ビーツは安定した戦闘力を持つが、空腹になると完全に戦力を失う。まあさっき30人分は食べたばかりなので、あと半日は大丈夫だが。

 レフィーヤも魔法特化。いくら魔力が強大と言っても、乱射していれば尽きる。

 仲間が来るまで持ちこたえられるか……そこに、思いがけない援軍が来た。

『疾風』リュー・リオン、レベル4。恐ろしい速度の動きから鋭い小太刀の攻撃、巨大な食人花も触れることもできず翻弄される。

 そして、高速で戦い続けながら大呪文の並行詠唱。レフィーヤにとっては憧れの姿だった。

 緑の球弾が吹き荒れ、次々と破壊される食人花。それにほっとしていたレフィーヤは……ふと気がつき、完全に絶望した。

「に、逃げてください」

 そう言うしかなかった。

 赤い髪。マントの上からでもわかる、ティオネ・ヒリュテをしのぐ豊満なプロポーション。その手には紅い大剣が握られていた。

「!!」

 瞬間移動のような高速で移動し、一閃。リューが反応もできず吹き飛ばされる。

 次の瞬間、襲いかかったビーツが腹を貫かれ、蹴り飛ばされる。

「あ……に、にげて。アイズさんと互角だった」

 レフィーヤの並行詠唱も気休めにもならない。呪文を唱えずに逃げ回っても、かわすこともできない。レフィーヤに無理なのだから、ベルに逃げられるはずがない……

「い……いやだ、絶対に守る!」

 絶対に勝てない……あの時のミノタウルスの、ゴライアスの比ではない恐怖。それでもベルは立ち向かった。

(女子を守れ)

 祖父の言葉だけで。

(アイズ・ヴァレンシュタインより怖くない!)

 そう自分に言い聞かせて。

 平然と歩いてくる、赤い絶対の死。

 隠し持っていたハイポーションを干し、チョコレートを食べたビーツが、倍も強くなって立ち上がった。リューにもポーションを飲ませ、抱えてレフィーヤのそばに移動する。そしてトンファーを握り直し、ベルの隣に立つ。

 ふたりのエルフを守り、赤毛の怪人の前に立つ少年と少女……

 レフィーヤは決意を固め、呪文を唱え始める。仲間を信じて。最後まで戦い抜く。

 脇差を刀のように両手で構え、歩きはじめたベルから、かすかな鈴の音が響く。トンファーを両手に構えたビーツが呼吸を正し、姿勢を正した……その身体に白い光がまとわりつく。

 リューが必死で立ち上がろうとし、膝が崩れる。傷が重すぎる。背を見せ自分を守ろうとしている少年少女は、レベル2とは思えない。このふたりを相手にすれば、万全の自分……レベル4でも苦戦するだろう。現役時代であっても。

 だが、目の前の赤毛の女は、桁が違いすぎるのだ。一撃で消し飛ばされ、いやというほどわかっている。

 声が出ない。逃げてと叫びたいのに。

 ベルは、ひたすらタイミングを計っていた。

「……ビーツ」

 少女はかすかにうなずき、先ほどとは比較にならない速度で突撃する。正面から。

 平然と笑って打ちこまれる紅い大剣。受けるトンファー。黒い閃光が走る。

 リューだからやっと追える速さ。レフィーヤには、赤い閃光がひらめき、そこに黒い電光が走ったようにしか見えなかった。

 ベルの体で輝いていたのは、足だった。

 チャージすべてを速度に集中させ、打ちこむ瞬間を狙う。

 アイズが自分の、振りかぶった手を砕いたように。踏み出そうとしたら膝を、呪文を唱えようとしたらみぞおちを、考えようとしたら側頭部と顎を打ち抜いたように。

「出ばなと打った瞬間、このふたつは体も心も止まっている。そこを狙え……」

 タケミカヅチの教え。そしてアイズが昨日試合で教えてくれた出ばな打ちと、同じ原理の応用。

 アイズの、本気のすさまじい速度を身体に刻み付けた。どう動くべきだったか、悔しさに涙をこらえながら反省した。アイズの速度を前提にした、ある種のカウンター。

 神の刃は、打った瞬間の腕をとらえたように思える。手ごたえもなく刃筋が通る。

 だが、止めるには至らない。

 空中で、両手のトンファーで大剣を受けたビーツがはたき飛ばされる。切断されなかったのは桁外れに高価で頑丈な武器だから。だが、体が持つとは思えない。レフィーヤが並行詠唱で飛び出し、受け止めて吹き飛ぶ。

 返しの一刀がベルを襲う、それをリューが必死で受け止め、ベルごと宙を舞った。

「死ね」

 4人がほぼ重なった状態になったところに、冷然と落ちてくる紅い大剣。

 ゆっくりと時間が流れ……大剣が、巨大な刃に止められた。

「うちの娘たちに、なにすんだい!」

 恰幅のいい女ドワーフの怒鳴り声が、地面を揺るがすように響く。

 ミア・グランド。『小巨人(デミ・ユミル)』レベル6。

 その手には、斧のような武器が握られていた。太いまっすぐな柄、鈍く輝く剣先シャベルにも似た広い両刃。普通にシャベルとしても使える。明らかに不壊属性(デュランダル)。

 それがごく小さくぶれ、最小の動きなのに全力で振りかぶったような重い一撃……受け止めた女の、片腕がわずかに違和感のある形になる。

 ベルの一撃は、確実に骨を、腱を断っていた。

「万全ならあのバカ(オッタル)以上かもね。勝てる相手じゃないが……あんな坊やがよくもやったもんだ。バカにもほどがあるよ」

 赤毛の女はそれでも、もう一方の腕を主導にすさまじい威力と速度の攻撃を繰り出す。

 ミアが受け止め、重く返す。

 見えない。すさまじい衝撃だけが伝わってくる。

 レベル4、百戦錬磨のリュー・リオンも、この戦いの前ではベルやレフィーヤと変わらない。

 天上の戦いが始まった。

 ほかにもいた食人花や闇派閥の冒険者を、覆面をかぶっているが体つきで分かるウェイトレスが掃討する。槍が次々と敵を屠っていく。

 

『豊穣の女主人』は、シルら非戦闘員を主にクロエとルノアが護衛、さらに【タケミカヅチ・ファミリア】の屋台を今日は店に入れ、日本酒と焼酎、焼鳥・焼きスルメ・おでん・串揚げを売っている。

 ロキがミアたちの出発を聞き、ソーマの件や武術の出張講座で懇意になったタケミカヅチを誘った。とにかく恩を返したいタケミカヅチは即座に引き受けた。

 いつもと違う雰囲気に、いつも以上に店はにぎわっている。

 瓜生の支援のもと、ベルが作り上げた人脈のなせるわざである。

 

 突然ミアが、さらに別人になったような威力と速度で怪人女を追い詰めた。剣を弾き飛ばし、腹に一撃ぶちこみ、とどめ……と見えた、そのとき。

 安全階層の天井の水晶が、暗くなる。

 すさまじい威圧感が漂う。

 赤毛の怪人はその隙に、素早く逃げた。闇派閥の者も、切り倒された数人を除いて消えるか自爆した。

 店主は飛び離れ、周囲を警戒し……倒れた。アーニャがあわててかつぎあげる。

「隠しスキルの一つニャ。少しだけすごく強くなるかわり、何十分か身動きできなくなるニャ」

 かろうじて立ち上がったリューは、何かを拾った。

 闇派閥たちが呼び出した食人花はリヴィラの街も襲っていた……ベルたちを探そうとしていたヘスティアも、【ロキ・ファミリア】の冒険者の監視の目を逃れてベルを見ようとしたヘルメスとアスフィも、逃げ惑う人波に襲われた。

 その危険から、押さえていた神威をわずかに出してしまったのだ。

『ダンジョン』は神々を憎む。憎い神の存在を知って、上の階への出入り口をふさぎ、刺客を放った……

 

 ベルたちのもとに駆けつけた【ロキ・ファミリア】の冒険者たち。なぜかアスフィとヘルメスもいた。そのすぐ後ろにヤマト・命も。

 ベルの護衛であることは隠し、仲間であるレフィーヤを迎えに来た、ついでに、とベルたちも護衛して街に戻ろうとした。

 騒ぎが起きていると聞いたベルは、残してきたヘスティアやヴェルフの身を案じた。

 レフィーヤも仲間の身を案じることは同じだ。

 

 戻るベルたちを……ヘルメスを森の奥で暮らしていた魔物たちが次々と襲ってくる。バグベアーやミノタウルスが何十頭も。その何体かは、色黒く普通より強く、再生能力が異様に高い。

 ミアはしばらくは戦力にならない。アスフィとアーニャが防いでいるが、再生能力のある強敵に苦戦している。

「時間を、稼いでください」

 レフィーヤは言って、呪文を唱え始める。

 ベルもチャージの反動で動けない。ビーツも、防ぎきってはいるが大ダメージを受けている。

 リューは、【ロキ・ファミリア】が用意した予備ポーションで回復はしているが、失った血のダメージを負ったまま必死で時間を稼ぐ。

 レフィーヤの呪文【ヒュゼレイド・ファラーリカ】が一面を焼き払った。

 だが、はっきり見える。リヴィラに向かって歩いてくる、普通より巨大な黒いゴライアス。今からリヴィラに急げば、ちょうどぶつかることになる。

「神様を……」

 反動を押し殺したベルが立ち、あくまで主神の無事を確かめようとする。

 そこに逃げてきたヘスティアと、巨大すぎる荷物を背負ったリリ、桜花と千草。

「ベルくううううんっ!」

 ヘスティアが全力でベルに抱きついた。ベルも強く抱き返す。

「ぬへへ……」

 とだらしなく言っているが、そこにミアの拳骨が落ちた。

「か、神を」

「この騒ぎもあんたらのせいだろうが!」

 ついでにヘルメスにも、弱ってはいても強烈な拳骨を落とす。

「そ、その、人間の体であるヘルメスさまにあなたの拳は、天界に送還されてしまいます」

 アスフィが混乱気味に言った。

「知らないよ」

 の一言。

「ふたりが守ってくれたんだ」

 と、ヘスティアが桜花と千草に感謝の目を向ける。

「ベル殿が優先するのは神ヘスティアの無事だ、と判断した」

 桜花の言葉。

「ありがとう!」

 ベルは喜んで、今も黒い巨人に蹴散らされている冒険者たちのもとに急ぐ。

 その背後から多数のバグベアーやミノタウルスが追いすがる、だがそれが次々と爆発にバラバラになって吹き飛ぶ。

 リリの足元に、巨大なリュックが広げられている。それにはぎっしりと手榴弾が詰め込まれている。常人の体重の10倍は軽くある。

 リリが次々にサーメイト手榴弾を投げる。ミノタウルスすら至近距離での超高温炎に耐え切れず数歩歩いて燃え崩れる。爆風手榴弾の至近距離爆発は、群れたバグベアーをまとめて肉片に変える。

「リリ、それ」

「ウリュウ様が、出かける前に特訓してくださったんです。中層ではより強い火力が必要だと」

 弱いとはいえ『恩恵』を得た冒険者、手榴弾の投擲射程は150メートル近い。ダンジョン中層ではグレネードランチャーを必要としない。

【万能者】アスフィ・アル・アンドロメダにとって、すさまじい衝撃だった。超レア発展アビリティ『神秘』あってこその、超高額な貴重品である爆発物……それと同等以上の威力を、レベル1と思える少女が惜しげなく運用しているのだ。

【ヘスティア・ファミリア】についての恐ろしいうわさの数々が、『妙な音』のうわさが、実感を持ってのしかかってくる。

 

 リヴィラを守ろうとしているボールスは、巨大なライフルを手に持っていた。何度も轟音が響き、銃口炎がまぶしくきらめく。

 それはミノタウルス程度なら一撃で倒すが、巨大すぎる怪物は一撃では仕留められず、即座に再生してしまう。

「くっそうっ、あの機関砲があれば……欲深どもめ、黄金の卵を産むガチョウを食っちまうバカどもめ!」

 そう叫びながら。

 瓜生が街を守るためと残していった20ミリ機関砲は、欲にまみれ今しか考えない冒険者たちがボールスの制止も聞かず、解体して鉄材として売ってしまったのだ。瓜生は二度は出さなかった。同じものを出しても、同じことになるだけなのだから。

 冒険者たちは、手に手に剣や大きなジュラルミンの楯、木を伐採するためだが反対側がハンマーにも使えるほど厚い斧を手にしている。緊急用にと、瓜生がボールスにトランク一杯預けたものだ。

 それで吹き飛んではいるが、多くは自業自得である。

 

 ベルたちとはちょうど反対方面で、ベート・ローガらは別口の刺客と戦っていた。

 黒く、異様に長い首が8本も生えたドラゴンだった。胴体が普通の倍以上。一つ一つの首が、インファント・ドラゴンの首より大きい。

【ロキ・ファミリア】のキャンプには多数の重火器もあり、恐ろしい音と炎とともにすさまじい攻撃が巻き起こっている。

 だが黒いオロチはすさまじい再生能力……のみならず、ぶった切られて飛んだ肉片から黒い大蛇が再生し、襲いかかってくるほどだ。

 応援も期待できない。17階層への道は崩れ閉ざされている。

 

 ミノタウルスやバグベアー、もっと深い階層にいるはずのトロール多数を相手に絶望的な戦いをしている冒険者たちのところに駆けつけたベルたち。

「こいつらなら戦力になるな、なんとか」

【ロキ・ファミリア】の冒険者を見て叫ぶボールスに、リリが進み出た。

「ベル様の、準備された一撃が決まればどんな敵でも倒せます。全員協力してください」

 いつもの、冒険者に対する軽蔑を内包した恐れ・卑屈さをかなぐりすてた、別の意味の決死。

 無法者の街をまとめるほどの経験を持つボールスには、その覚悟はまるで身体をぶっ叩かれるように分かった。




レヴィスとミアが黒オロチ相手に共闘したりとかも考えましたが無理がある上に怪人が刺客(黒ゴラやその同族)の魔石を食べたら絶対手が付けられなくなるので没。

ミアさん引っ張り出すのも大反則ですよね…
ミアの「隠しスキル」は僕が勝手に考えたもので、今後の原作と矛盾するかもしれません。
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