ダンジョンに近代兵器を持ちこむのは間違っているだろうか   作:ケット

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英雄の一撃

 ダンジョンが神々に差し向けた刺客。

 安全階層に生み出された階層主……黒いゴライアス。

 まったく別の方面で暴れる、黒いオロチ。

 また、18階層に住み普段はおとなしいミノタウルスやバグベアーらが暴れまわっている。

 18階層の壁もある種のモンスター・パーティ状態。小さく敏捷な、黒い怪物を無数に吐き出し続ける。

 

 

 街からやや離れて、瓜生の物資でキャンプを作っている【ロキ・ファミリア】残留部隊は、小型自動車サイズだが20ミリ機関砲を持つヴィーゼル空挺戦車、牽引式の23ミリ連装機関砲、多数の重機関銃やパンツァーファウスト3は持っている。

 だが、非常に小さく敏捷な魔物が多数出ると、むしろ過剰な威力をもてあましさえする。

 さらにオロチは機関砲や対戦車ロケットで中心を狙っても敏捷に動き回り、首を犠牲にして魔石を守る。その頭も首も鋼のような鱗に守られ、直撃で切断されても破片が蛇になり、砕け潰れた首からまた頭が再生する。

 すべての首や黒蛇が猛毒を牙から吐いてくるので、うかつに近づけない。

(アイズがいれば……)

 とも思うが、いないものはいないし、上への道もふさがれている。

「【ヒュゼレイド・ファラーリカ】!」

 後ろから無数の火矢が飛んできて、黒蛇やモンスターたちを次々と焼き払う。

「レフィーヤ」

 リリの指示で、彼女は眷属たちを助けに向かった。

「最大だ、よこせ!」

 最前線で背後からの砲弾もかわしながら戦い続けるベート・ローガが叫んだ。地上まで、装甲車と競争し全力で走って往復した疲れも癒えていないのに。

 

 

 巨大で強大な黒ゴライアス……街の皆を、自分を嫉妬し痛めつけようとしたモルドたちも含めて守ると決意したベルに、リューは厳しい一言を残して立ち向かった。覆面をした猫人のウェイトレスも長槍をひっさげて追随する。

 最強戦力のミア・グランデは怪人を退けた代償に、しばらくは戦力にならない。

【ヘルメス・ファミリア】団長、アスフィ・アル・アンドロメダもともに突撃した。

「ベル様の一撃。それを確実に決めることだけを……」

 リリルカ・アーデの言葉と、指揮。幼いころから、冒険者たちとともに死線を越えた回数だけはリューさえも及ばない少女の目を信じて。

 黒ゴライアスは多数の、ミノタウルスやデッドリー・ホーネットなどの怪物も率いている。それが非常に煩わしい。

 リリが手榴弾を一つ一つ、丁寧に投げる。そしてヘスティアとヘルメス、ふたりの神を一つの丘の上に動かす。

 手榴弾の爆発が固まった敵を吹き飛ばす。その穴を埋めることで、敵の動きが流れになる。

 黒いゴライアスも、丘の向こうの黒オロチも、ふたりの神を狙いとして動き始める。

 そこに、別の丘の上に冒険者の力で引き上げられた連装23ミリ機関砲の射線があった。

 両方を横から機関砲が叩きつける。

 黒いゴライアスの片腕が砕かれ、切断される。だが瞬時にそれは再生した。そして胴体に届く、と見えた弾は、地面から拾い上げた石の盾に防がれる。数発で盾は粉砕されるが、すぐに新しい盾を取り出す。ダンジョンが供給するネイチャーウェポンだ。

 だが、罠はそれだけではない。黒いゴライアスがたどりついた場は多数の水晶が崩れており、行動が難しい。その水晶は大きいので、人間にはさほど障害にならない。

「分断を。あちらの照らしたところに」

 リリの言葉をボールスが理解し、

「おまえら、群れとデカブツを切り離せ!壁の紅水晶を目標に突撃するんだ!」

 叫び、同時に目標となる遠い壁の水晶を、リリが持つフラッシュライトが照らす。

 使用回数が多く、目がある敵に常に有効な、銃のように大きく目玉焼きが焼けるほど光量が多い超強力LEDライトも、瓜生に渡されている。

 なければ、この決死行も生き延びられなかったろう。

 ボールスの声に、街でたむろする冒険者たちが、使い捨てていいと言われた炭素鋼の武器とジュラルミンのシールドを手に突撃した。

 同時に、リューとアーニャ、アスフィ、そしてビーツが黒いゴライアスに突撃する。

「ゴライアスを守る部下を引き離してください!」

 リリの叫びに、アスフィとビーツが応える。

 明らかにレベル3以上と思える、漆黒のデッドリー・ホーネットの杭とあぎとを相手に、ビーツは時に身をかがめてかわし、鋭く突撃してトンファーを振るう。頑丈さに通じなくても、圧倒的な重量は中にダメージを浸透させている。

 そのビーツを、黒いゴライアスの蹴りが狙う。かばおうとしたリューが一歩及ばず、蹴り飛ばされた。

 逸ったベルが、リリの制止も聞かず突撃した。まだ二分……

 すさまじい雷光が新刀に落ちる。

(付与魔法は見た。どれほど強力な雷電でも、受け止めて見せよう!)

 向こう鎚をとったヴェルフさえ知らない。この刀には、アイズ・ヴァレンシュタインがベルのためにと提供した特殊な素材がわずかに使われていることを。ウダイオスの剣のかけら……それは椿が一目見ただけで、とてつもない、次元の違う付与魔法耐性になることがわかった。

 刃は定寸だが長めの切り柄で全長は1メートルを超える刀。その柄頭ぎりぎりを両手で握り、白光を帯びた刃で黒い巨体に迫る。

 ベルの付与魔法『ヴァジュラ』とスキル『英雄願望(アルゴノゥト)』の効果は、何度かの実験であらかた確定している。

 武器の長さ以上の距離は攻撃できない。届かなければ無効。ただし、太さ10メートルの丸太にぎりぎり先端が当たっても、丸太全体が斬れる。

「切りにくい対象を切る」「一瞬だけ刃を伸ばして全体を断つ」「内部から雷と炎で破壊する」に自動的に威力が割り当てられる。

 魔力は複数の武器に同時に付与できるが、ベル以外が手で持って使うと大きい反動がある。飛び道具に付与すると威力が大きく減る。

 スキル『英雄願望(アルゴノゥト)』は、呪文詠唱前にチャージしても後にチャージしても特に変わらない。走る速度と攻撃力を爆発的に増し、大きな反動がある。

 最大チャージ時間は3分。

 レベル3に迫ると『疾風』が太鼓判を押す、かき消えるような超速度。そのまま一閃……

 すさまじい高熱と電撃が切り口に注がれ、炸裂する。

「やった」

 誰もが叫んだが、リリは悲鳴を上げた。

「だれか!」

「恩を……」

 必死で、大盾を構えて走る桜花と命。

 ベルが斬ったのは、黒いゴライアスが手にしていた、ネイチャーウェポンの厚い盾だった。23ミリ機関砲の徹甲弾からも護るほどの。

 もう一方の手に握られた同じくネイチャーウェポンの棍棒が、必死でベルをかばった大盾をとらえ、吹き飛ばす。

 盾と、ふたりのレベル2に守られていても、ベルの被害は甚大だった。

 黒いゴライアスも、瞬時には動けない。盾を握る指を断たれ、体内に走る雷撃に肘から先が消えている。瞬時にそれも再生するが。

 

 リリはぎりりと歯を食いしばりながら、指揮をつづけた。

(ダンジョンで予定通りにならない、偶発事は常!)

「動けますか?」

 ボロボロで激しく息をついているドワーフ女に、懐から高級なガラスビンを取り出す。

「それぐらいなら、ね」

 ミア・グランドが立ち上がり、指示を待たずビーツにエリクサーを運んだ。

 何度も地上との間を往復している、大金を持っている瓜生が用意していた切り札。

 リリは指示をつづけながら、手榴弾を投げて黒いゴライアスを牽制し、冒険者たちが戦う多数のモンスターの陣形を分断し続けた。

 丘の上からの機関砲も、射線を得ればそれを援護する。

 待っている。駆け寄った主神、小さい身体に長い髪の女神の励ましが、冒険者に届くのを。

 

「なんて雷だ……」

 丘の向こう、見えない戦場を見て戦慄しつつ戦い続ける【ロキ・ファミリア】。

 キャタピラで水晶の岩場を走るヴィーゼルが放つ20ミリ機関砲が、多数の再生能力に優れた頭で身を守りながら毒を吐く黒オロチと戦い続ける。

「【ウィーシェの名のもとに願う」

 レフィーヤの大呪文、リヴェリアの魔法を召喚する、ゴライアスも一撃で下した反則技。

 弾幕の隙間を縫ってベート・ローガが切りこみ、毒液のシャワーをかわしてすさまじい蹴りと不壊属性の双剣を叩きこむ。

 ありえないほどの硬さに顔をしかめながら。

 待っている。危険すぎる前線で。

「【……吹雪け、三度の厳冬」

 レフィーヤの呪文が完成する。

「退避!」

 叫びとともに、訓練されぬいた精鋭たちが鋭く危険範囲から逃げる。一人を除いて。

「我が名はアールヴ。ウィン・フィンブルヴェトル】!!」

 すさまじい吹雪が、太い砲撃となって何条も奔る。

 多数のモンスターを、黒くても普通でも、ことごとく呑みこむ。時すらも砕きひしぎながら。

 8本の長い長い首が絡み合い、一つの巨大な盾となって吹雪を受け止める。黒いオロチの巨体が、瞬時に巨大な水晶に変わっていく。

 息を呑む皆の前で、氷の中で赤い輝きが生じる。

 ぐ、ぐ……動き始める。凍りついた首を自分から切り離し、すさまじい魔力が赤い霧となって渦巻き、再生していく。

「そう来るだろう、ってな」

 凍りついたミノタウルスを踏みにじるベート。足のメタルブーツに、巨大な魔力が吸われていく。跳ぶ。駆ける。

「死ね」

 氷を破り立ち上がろうとする黒オロチに、すさまじい速度で走る。速度はどんどん増していく。風を、稲妻を超えて……

 半ば凍った首を、不壊属性の双剣はやすやすと断ち落としていく。

 そして本体の魔石に、すさまじい蹴りが食い込んだ。

 リヴェリア譲りの凍結魔法が、倍加された威力で叩きこまれる。

 こんどこそ、氷の中で耐える余裕も与えず胴体が黒いダイヤモンドダストとなって散った。

 

 

 倒れたベルのかたわらをヴェルフが、いくつかの長物を担いでやってきた。

 主神ヘファイストスの伝言とともに、ヘスティアに託され……一度は森に捨てた剣。

 3.6メートルの長槍。

 自分の大刀。

 

 槍は、合同遠征の分け前であるドロップアイテムや鉱石も使って、つい今打ち上げたものだ。

 瀕死から起き上がり、すさまじく強化されているビーツに、黙って長槍を渡す。大遠征の、50階層台の地獄で【ロキ・ファミリア】を支えたと同じ、不壊属性こそないものの折れないことに力を注いだ、椿から盗んだ技術を注いだ槍。

 飾り気はない。極端な大身でもない。だが柄の素材から吟味した。

 名をつける暇はなかった。

 ビーツも起き上がって槍を手にし、走った。

 棍棒と盾を持つ黒いゴライアスと、すさまじい速度で打ち合う。黒いゴライアスは、足もきわめて速い。

 ビーツを無視するようにヘスティア……いや、ベルのほうに向かっていく。

 防ごうとするレベル2や3の冒険者たちを、木の葉のように吹き飛ばしながら。

 リューとアーニャ、アスフィも加わって、必死で戦い続ける。

 

 ベルをかばおうとしたヴェルフ、あっさりと大刀がへし折れ、勢いに任せて吹き飛ばされる。

 背の、布でくるまれた剣だけがあった。

 リリを振り返る。

 その目が言っていた……あと十秒。

 リューとアスフィは、明らかに限界だ。

 主神の言葉。ぎり、と歯を食いしばる。背の剣の布をほどく……

「どけえええっ!」

 絶叫、リューたちが素早く退避する。

「火月いいいいいいいいいいっ!」

 振るわれた剣から、すさまじい炎が噴き出し黒いゴライアスを包む。

『クロッゾの魔剣』

 海をも焼いたと言われる伝説の兵器。その威力に、特にエルフたちは呆然とした。

 再生能力が追いつかない、すさまじい破壊圧力……

「【……フツノミタマ】」

 ヤマト・命の大魔法が完成し、重力結界が猛炎ごと黒いゴライアスを打ちひしぐ。

 それを跳ね返し、結界が粉砕される。命が反動で吹き飛ぶ。力で魔法をひしぎ起き上がろうとする力強い四肢、それが地面に触れるところに、次々と小さい塊が落ちる。

 手榴弾の、ゼロ距離爆発は確実に巨人の手足にきついダメージを加えた。

「手足を封じて!」

 リリの絶叫。

『疾風』が、『戦車の片割れ』が、『万能者』が、そして幼いサイヤ人が……

 全体重をぶつけた槍がひとつ、ふたつと爆発に破れた硬皮を貫き膝関節をぶち抜く。

 集中した緑の光球が両肘をひしぐ。空から正確に放たれる爆弾が耳の中で爆裂する。

 正確な烈光が、丘を越えた【ロキ・ファミリア】メンバーが放つ12.7ミリ弾が、次々と目を射る。

 絶叫とともに倒れ伏し、『咆哮』を連打する巨人。

 鐘の音が響く。

 鈴の音(チャイム)が限界を突破し、大鐘(グランドベル)となった音。

 さしも広い18階層に響き渡る音。

 それに調和するように、雷鳴が響いた。電光が真昼のように、暗くなった安全階層を照らす。

 ベル・クラネルはすさまじい速さで駆けた。祖父の教えを胸に。守るために。守るために。護るために。

「い……っけええええええええっ!」

 誰もが叫ぶ。モルドが、ボールスが、無法者たちが。

【ロキ・ファミリア】の、丘を駆けのぼってきた残留組が。

 リュー・リオンが。アーニャ・フローメルが。アスフィとヘルメスが。

「やれっ!」

 ベート・ローガは短く叫んだ。

「行け」

 ミア・グランドは微笑を交えて、普通の声で言った。

 リリが、ヴェルフが、レフィーヤが絶叫した。

「いけえええっ!」

 ヘスティアの叫びを背に受け、白兎は走る。

 一撃。

 

 光と音が、広い安全階層を打ちのめす。

 それがおさまったとき……ずるり。

 ひざまずいた黒い巨人の、肩から腰まで線がはしる。

 ずるり、と切れ落ち……灰に変わっていく。

 刀を振り切り教え通りに歩んだベル・クラネルが膝をつき、倒れた。

 

 

 静寂は絶叫と歓声に変わる。たくさんの人が倒れた白髪の少年に走り寄る。

 ヘルメスはやや離れたところで、ひたすらにわめき叫んでいた。狂ったように。

 神による予言を、【ロキ・ファミリア】の一人が聞いていた。そのまま書きとめられるように。




やっと5巻分終了…
なんとかベルの付与魔法をベートにという熱い展開をやりたかったんですが、レフィーヤが邪魔なんですよね。強力な魔法というだけなら彼女がいるし、ポーションは足りているので彼女を外す方法がないと。
まあまた今度。というかちゃんとやるならベートにも魔法を使ってもらいたいもので。
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