ダンジョンに近代兵器を持ちこむのは間違っているだろうか 作:ケット
「今日は初ダンジョンですね!」
「そうだな。行くならシャワー室で、これをはいてこい」
瓜生がさしだしたものに、ベルは凍りつく。
「こ、こ、こ、こ……」
「おむつだ」
ベルは一瞬で沸騰した。
「馬鹿にしないでください、僕だってもう14なんですよおおおおおおっ」
ベルの絶叫を、瓜生は平然と聞き流した。
「初の実戦では、半分ぐらいは漏らすんだよ。大を」
「ウリーさんも?」
「ああ」
瓜生は平然と答え、ベルの赤い瞳を見つめた。
「たくさんの武器。ファンタジーの世界。英雄……
いきなりだ。いきなり巨大なクモの巣。動けやしない。目の前にでかい牙。大小とも、全部出た」
ベルは呆然としている。ヘスティアは笑おうとして、笑いを止めた。
(こんな、ベテラン戦士も……)
かすかに触れた。実戦の恐ろしさ。『現実』に。
ぶるっ、と震える。
「別に仕事を見つけるならそれでいいぞ?冒険者以外に生きる道がないわけじゃない」
ベルはじっと下を向いた。
英雄……憧れ。そこに至るまでは、本当に恐ろしいことがあるかもしれない。
小さいころ襲われたゴブリン。
本当の恐怖……
別の選択肢。逃げ道がある。
逃げても、瓜生もヘスティアも軽蔑しないことはわかった。
(……でも!それでも。それでも。漏らすほど怖くても、痛くても。英雄になる……)
ベルは顔を上げ、震える手で紙おむつを手にする。
「着替えてきます」
「ああ」
瓜生は微笑して見送る。
「ひどい人だね」
ヘスティアが笑った。
(自分は特別な半分だ、と思ったら足をすくわれるだろう。詐欺やギャンブルはその心理を突く……おれも何度その罠に落ちて地獄を見たことか。自分は特別ではない、自分も過ちを犯す、それを前提にして前進できなければ、冒険者なんてできない)
「今日の帰りにでも、なんとか彼が歩き方や突きの基礎だけでも学べるよう、あてを探してくれ」
瓜生はそう言って、上に行って身支度を始めた。
朝食はやわらかい粥だけ。ヘスティアには、後で食べるようインスタントラーメンを、使い方を教えて渡しておく。
ベルの装備は、上半身は上から順に、昨日買ったライトアーマー「兎鎧(ピョンキチ)」、長袖のスペクトラ防刃シャツ、厚手のジャージ、瓜生が〈出し〉た下着。
下半身は上から順に……ライトアーマーについていたスネ当て、チノパン、ジャージ。
防刃グローブをつけさせ、首にも絹スカーフを巻かせた。
洋服の腰に刀と西洋ナイフ、少し違和感がある。だが前日歩いていて、刀を持つ人がいることは確認している。刀は、同じものを複数〈出し〉て練習用と実戦用を分けている。
瓜生はコートの下にタクティカルベスト+セラミックプレート。防弾は刃や拳には無意味なので、ボディーアーマーではない。防刃シャツは着ている。手榴弾もかなり多く身につける。
昨日と同じP90・グロック20・M460に加え、バッグにAK101……AK47の子孫で、西側の5.56ミリNATO弾を使う……を入れている。90発入り複々列箱型弾倉、ちょっとした機関銃だ。
保険として、もっとも軽い.50BMG対物ライフルを、両手剣を入れる袋に隠している。軽いといっても弾と合わせれば6キロになる。
知らずにみれば、短弓と両手剣を使うように見える。
二人ともヘルメットと強化プラスチックゴーグルをバックパックに入れ、レッグホルダーにポーション。背には1リットル入りの柔軟な水筒、前にストローを回していつでも水を飲める。
出発前に、
「筋肉痛は?腕をあげてみろ、肩は?膝は?腰は?呼吸に問題はないな?」
と瓜生が細かくチェックする。
【ステイタス】を更新したからか、瓜生も筋肉痛はごく少ない。それでも確認する。
無理をした、体調管理もできていない仲間が肝心なところで倒れるよりは部屋で射殺される方が、
(まだまし……)
というものだ。
二人は、あらためて『バベル』を見上げた。首が痛くなる。どれほど高いのか見えない。
前日はよく見る余裕がなかったのだ。
(日本にはこんなのはないな。世界最高でもここまでだろうか?)
と瓜生が思うほどだ。まあ、そこには多くの高層ビルがあったのだが。
ベルは何度か見上げていたが、それでも圧倒される思いには変わりなかった。
余裕がないといえば、瓜生さえ昨日は犬人・猫人など多くの異種族にもろくに気づいていなかった。
(これがダンジョンの初日……)
と思っていたベルは、エイナにきっちりと復習テストをさせられ、ダンジョンに入る前に気力が尽きかけている。
瓜生はきちんと答え、できなかったところも復習した。
「今日は、ダンジョンを見てくるだけだ。ゴブリンの一匹も倒したら帰る」
「ぜひそうしてください!」
と、エイナが喜んだ。
ダンジョンの入り口はごったがえしている。
冒険者の絶対数が多い。
中には何人か、ぞっとするような存在もいた。
邪悪な者。桁外れに強い者。瓜生の……彼以外のベテランの目にも、確実に、今日死ぬとわかる者。
「幸運を」
口の中でつぶやき、邪悪な者からは離れるように、広いダンジョンに足を踏み入れる。
まわりの人がいなくなったころ。エイナに習った通りのゴブリンが出てくる。
ベルは、瓜生に言われて途中から刀を抜いたまま。
何度も、
「肩の力を抜け。腹で深く呼吸」
と言われ続けてきた。
瓜生は両手剣を抜いて左手に提げ、
「練習したろう。木だと思って、間合に入ったら切れ。肩の力を抜け、腹で深く呼吸」
一言だけ言って、警戒に入る。右手はリボルバーのグリップにかかっている。
瓜生は目の端にベルをとらえながら、警戒を続ける。
ベルの姿勢が、はっきり恐怖を見せている。
つかみかかろうとするゴブリンに、刀がぶちこまれるのが見えた。
(まずい)
瓜生が判断したように、首筋ではない。肩の肉と骨に阻まれ、それ以上入らない。抜けない。
致命傷だが、無力化はできていない……言葉で考えるより早く、瓜生の左手は突きの構えで力を準備していた。
「あひゃうわあっ!」
ベルの喉から奇声が漏れ、両手で握ったナイフがゴブリンの脇腹を刺している。
左手は刃を握っている。それほど焦っている。
ゴブリンが振り回した爪がヘルメットをかすめて耳の下を大きく裂き、血が吹き出す。
「えぐり、離れろ!動きを止めるな!」
瓜生が叫ぶ。
そうなった男の子がどうなるかはわかっている。どこへともなく走ってしまうだろう。
放り出したナイフをよけ、ベルの肩をつかんだ。
見ているうちにゴブリンが動かなくなり、塵のように崩れていく。
次に襲ってくるゴブリン二匹、瓜生は両手剣を中段に構えて二匹が一直線になる場所に移動し、ひっかこうとする腕を小手で落として右面、抜けて次を胴、と続けて殺した。実戦経験があるため冷静で、【ステイタス】で力がとてつもなく増している。昨日しっかり素振りをして、すさまじい力にも慣れている。
激しく呼吸しているベルを助け起こし、ポーションを取り出した。
ベルは入り口に走り出そうとする。
「ベル!」
瓜生が叫ぶ。
「武器は?」
それに、あっと驚いたように戻ったベルは、もう塵も消滅していた……ゴブリンが倒れていたところのナイフと刀を拾い、ナイフを納める。
「息を吐き尽くせ。もっと吐く、もっと吐く」
瓜生の言葉に、ベルは激しく短い息から、吐き続ける。
吐き尽くせば、吸う。
深い呼吸で、やっと落ち着いてくる。
「よくやったな」
瓜生の言葉に、ベルが泣くのをこらえる表情になった。
「傷ができてる」
と、瓜生は鏡を取り出し、ポーションを渡した。鏡は尾行よけや角の先を安全に見るため、常に持っている。
傷に少し塗ると、みるみる傷がふさがる。
(本当に魔法の薬なんだな)
「そこにあるのが、エイナさんが言っていた魔石じゃないか?」
「はい」
と、ベルが小さい貝殻のような石を拾い、大事そうに見つめる。
「帰るぞ」
「だ、大丈夫ですよ全然」
「想像以上に疲れてるんだよ。それに、エイナさんと約束したろう?」
瓜生は言って、もう帰り始める。
ベルは、誇らしげにその横に並んだ。
「すごい、左手で刃を握っちゃったはずなのに」
防刃グローブの性能に気づいたのは、少し歩いてから。
「生き延びるためなら、武器を捨てて逃げてもいい。でも、そうしたら次には小さい武器しかなくなる。それを見極められるようになれ」
瓜生はそう言って、次に出てきたコボルドも突き殺した。
短時間でけがもなく帰ってきた二人に、エイナは大喜びした。
「無事帰ってきてくれたんですね!それが一番うれしいです。どうかこれからも、ウリーさんの言うことを聞いて、無事に帰ってきてください」
「おれはそのうち別行動をするかもしれないし、それまでに生き残れるように教えておく」
「そうしてください!」
「それより、剣術を教える道場とかはないか?ベルに、正しい基礎を教えられるような」
そう瓜生がエイナと話している、それにも我慢できないようにベルが、
「ヘスティアさまに見せてきます!」
魔石を換金した金を握ってホームにすっ飛んでいった。ちなみに、山分けにして800ヴァリスほど。
瓜生とエイナは苦笑をかわした。
「帰ってくると思いますよ?」
「そうだな。疲れてるだろうから、無理はさせない……別の無理をさせるつもりだ」
エイナはわかっている、とばかりに微笑した。
「それまで、昨日の復習をしておきたい。遠くの国から来たのでここの文字が読めないから、口頭で質問してくれるか?」
「はい、喜んで」
ヘスティアが、ベルがゴブリン一匹で満足したことに、素直に驚く発言をした。
傷ついたベルはダンジョンに駆け戻ってきた。
「帰ってくると思う、とエイナさんが言っていたぞ。昼食に行こう」
と、出入り口で張っていた瓜生がつかまえた。
数日分の食料を買って、一度ホームに帰る。直径50センチ近いドーナツ状固焼きパン、日持ちのする根菜、イモ、ソーセージ、ブロックベーコン、普通の野菜・肉・卵・パン、乾燥豆や麺類。
心配してうろうろしていたヘスティアが、ベルに謝った。
「キミに死んでほしくない」
と。
瓜生が
「ヘスティア様が受け入れてくれたから、おれたちにはこの街で、身分ができた。身分ほどありがたく、手に入れるのに苦労するものはないんだ」
となぐさめた。
「それより、剣術は?」
「うーん、話が急だし、ちゃんと来れるのは明後日ぐらいからかな。今日は、ちょっと顔を出すぐらいしかできないって」
「おれは、あの教会の改築をしておきたい。更地にするだけでもいいから、できる業者を探してくれ。いやこんなに商店街の人たちにかわいがられてるから、その人たちに聞いてくれればいい」
(そういう仕事をしていれば、圧倒的な資金力があるおれに悪感情を持たなくてもいいだろう)
「何か黒いこと考えてるな?いいよっ」
とヘスティアが豊かな胸を張る。
「僕は?」
ベルが聞いてくるが、
「武器をしっかり研いでおけ」
と言われ、恥に真っ赤になった。
農具を錆びさせる者が、どれほど馬鹿にされるか思い出したのだ。
「それから、自分がどう動いたか。今日殺したゴブリンさんがどう動いたか。自分がどう動いていればよかったか。相手はどう動いていれば自分を殺せたか。よく考えてやってみる。それから、昨日と同じ練習だ」
瓜生はそう言って、食事の支度を始める。
ベルは、とても素直な性格である。
だから言われたように、廃教会の地上スペースで、研ぎなおした刀を振っていた。
なぜ一撃で倒せなかったか。
相手の両腕が邪魔だから。
ではどうすればよかったか。
伸ばしてくる手を斬る。
大きく後ろに回って斬る。
ナイフのように刺す。
逆に、自分がゴブリンの立場なら、どうしていれば自分を倒せたか。
振り切ったときは隙になる、だから一度ブレーキをかけて振らせて、直後に入ればいい。片腕を犠牲にして突っこむ。
それを防ぐには?
考えながら、動き続けた。
瓜生が用意していた姿見を見て、両手で襲いかかる動きをしてみた。
それをイメージして、横から斬りつけてみた。
「そうか、手しかないゴブリンより、僕のほうが刀の長さぶん、長い。その距離で斬ればいいんだ」
などといいながら。
瓜生はぶらぶらと街を歩きながら、いろいろな人の言葉や噂に耳を傾けていた。
(生活水準が高い。ただの農夫の子が読み書きできるだけでも異常だ)
まずそのことがわかる。
品位の低い宝石などを換金して、手持ちの現金も増やしておく。
とても大きい街であり、全体をつかむにはどれだけかかるか……
十万都市というものは、瓜生の故郷でも小さい市ではないし、18世紀なら全世界でも両手の指に入るだろう。
知っておくべきことは多い。
(できたら、情報屋とかを見つけられればいいな)
ヘスティアは大忙しだった。
廃教会は、ヘファイストスが恵んでくれたもの。改築するには地権者であるヘファイストスの許可が必要だ。ヘファイストスを捕まえるのが難しい、だから誰か団員に頼んで事務処理してもらう……
そして工事そのものの許可、どこの建築系ファミリアに依頼するか……商店街の皆は面白がっていろいろ教えてくれるが、とにかく大変だ。
(そりゃきれいなところに住めたらうれしいけど、よけいなことを、よけいなことを!)
と逆恨みしたいような気持だった。
【タケミカヅチ・ファミリア】はLv.2になった者はいるが、弱小で貧乏である。
ヘスティアはどうも貧乏神との縁が多いらしい。ヘファイストスという例外もいるが。
(人格神(しゃ)は貧乏になることが多いだけ……)
ともいう。
主神もバイト生活であり、だからこそ、
「給料出すから子に剣を教えてくれ」
という、【ヘスティア・ファミリア】の申し入れは渡りに船だった。
二神ともバイトが終わってから、ヘスティアに連れられて廃教会に。
「今日は、バイト帰りに少し寄るだけ」
ということになっている。
ヘスティアがホームとしている廃教会を見れば、自分の状況は、
(まだまし……)
と思うには十分だ。
だが、廃教会に入ったとき、驚いた。
中に、どこから入れたのか、家のようなものがある。
なぜかその家には車輪がついている。
空いたスペースで白い髪に赤い瞳の少年が、刀を振っていた。
夢中になっているようで、自分にも気がついていないようだ。
タケミカヅチは、声をかけようとしたヘスティアを制して稽古を見る。
武神の目には、
(彼を訓練した子)
の意図が、手に取るようにわかった。
(抜きすらやらない。袈裟だけを徹底的に。この子がオラリオに来る前から持っている、耕すための体を用いる。
俺の、対人を中心に総合的に技を磨いてきたやり方に誤りがあったか。
師となった子が俺に求めているのは、正しい袈裟と突き、歩き走りながら斬って止まらず……それだけか。
そして行先は。
この子はとても俊敏な足をしている。それで、こちらから攻め、相手に攻撃を出させ、できるかぎり小さい動きでかわして、有利な位置から一刀両断……攻防一致)
おもしろい。
武神のほおが楽しさにゆるむ。
一つの技を体に叩きこむ、徹底した基本練習……その、異界から瓜生が輸入した発想を見るだけで武神は、『薩摩示現流・立木打ちから二の太刀要らず』『形意拳・半歩崩拳あまねく天下を打つ』……百の技より一の技を極める、という方向の、行きつくところまで見極めた。
(そしてこのベルという子は、幼いころに『正しい』鍬・斧・鉈の刃筋を見ている。それがまなうらと体に残っている)
そこまで見えた。
やっとベルが、男女の神に気づいた。
「あ」
「ただいま、頑張ってるねえ。でも無理しちゃだめだよ」
「【ヘスティア・ファミリア】に新しく入った子かい?」
「は、はい、ベル・クラネルと言います」
「こちらはタケ、タケミカヅチの神」
「は、はじめまして神様!」
「うん、いいね礼儀を忘れないで。でもボクには礼儀なんていいんだよ」
忙しくてテンションが高いヘスティアをよそに、タケミカヅチが進み出る。
「仕事をありがとう。さっそくだが……」
男神は見回し、昨日使ってそのままの鍬と斧を見つける。
「小さいころから見てきた……」
親、と言わなかったのは、タケミカヅチ自身故郷で孤児たちの面倒を見ていたからである。ベルから、孤児の雰囲気をなんとなく感じたのだ。
「鍬や斧の振り方の手本を思い出してごらん」
と、両方を一度ずつ振って見せる。少年の反応に、武神は確信を深めた。
さらに刀で、袈裟切りを振らせては無駄を指摘した。
「では今日は、歩きながら斬ることを覚えよう」
タケミカヅチは予備の刀を受け取って抜く。そしてナメクジのようにゆっくりと歩き、右足を出すとともに袈裟切りにするのを繰り返す。
「ゆっくりとやるから、細かく真似なさい。まず歩き方、次に腰、そして手と刀」
武神はそう言って、ゆっくりと、ゆっくりと歩きながら切り下ろす。
ベルも、それを丁寧にまね始めた。左足で踏みだしながら、振りかぶる。右足が地面につき体重が乗ると同時に、剣先が一番前になるように。流して腕を中ほどに戻しながら、左足を前に出す。
「たゆまず、流れを止めず」
ほんの、十分かそこら。
「これで帰るが、練習を続けなさい。強くなりたい思いの限り」
「はい!ありがとうございました。あ、こちらウリューさんから預かっていますが」
と、ベルが一度地下室に降り、袋を渡した。白い扇子、金貨袋、抹茶・玉露・煎茶。
「ありがたく。これからよろしくお願いする」
とタケミカヅチは袋を持って帰る。
白扇は、昔の日本で行われていた束脩……入門の挨拶品である。昔の中国では干し肉などが贈られていたと『論語』にあるが、それが形を変えたものだ。
「うんうん、精進するんだよ。でも無理はしないようにね」
とヘスティアが偉そうに矛盾したことを言い、ベルは素直に喜んでいた。
タケミカヅチが帰って間もなく、ちょうど夕食時に瓜生が帰ってきた。いくつかの屋台で売られていた料理を持って。
串焼きのソーセージ・肉・魚。鶏皮焼き。平焼きパンに包んだ焼肉。ピザ。
「遅くなってすまない。熱いうちに食べよう」
「はーい!」
文句を言おうとしていた二人は、現金に飛びついた。
食事中、瓜生はベルの身の上……両親を知らず、祖父に育てられて妙な理想を吹き込まれ、祖父の死後に冒険者になるとオラリオに来た……を聞くともなく聞いた。
瓜生自身についても聞かれ、
「おれの故郷は、要するに神々なんていない……おれは妖精と会ったけど、それだけだ。『恩恵』もなく、モンスターもない、人間同士が争って、伝染病を治そうと工夫して、それだけの世界だよ」
とだけ言った。
自分の過去については、ほとんど触れぬまま。
食事を終えてから、瓜生はヘスティアに文字を習う。その間、ベルに「歩き袈裟」を復習させた。
しばらく練習してから、ベルはステイタスを更新した。
「明日はどうするんですか?」
「明日は、おれのペースでダンジョンを見てみる。おれの戦い方も知っておいてくれ」
(化物扱いされて迫害されるなら、早い方がいいからな)
それを聞くのがやっとのベルは、ソファーベッドに倒れこんで泥のように眠る。