ダンジョンに近代兵器を持ちこむのは間違っているだろうか   作:ケット

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土台

「リリルカ。これらの情報から明らかだろう、【アポロン・ファミリア】がうちを狙っていることは。おれがどう対処するか、すべてを見て学んでくれ。

 目的は戦いを避け両方が得をすることだが、それは難しそうだ。なら、確実に勝てるように事前にしっかりと準備をする。

 そのためには何よりも情報だ。情報屋にも紹介するから、顔をつないでおいてくれ。今回は見習い、次からはきみに主導してもらう。

 ヤマト・命、ヒタチ・千草……恩を返すため、何でもするといいましたね?神タケミカヅチからは、あなたがたは忍びとしてもすぐれていると聞きましたが」

 瓜生の横には、大型のリュックがいくつもあった。高額ヴァリス金貨や、金地金でいっぱい。新築の床がたわんでいる。

「さて、リリルカ。きみならうち(ヘスティア・ファミリア)をどう攻める?最悪を想定しよう、すべてばれている、と。あちらには、信用されていない予言者がいるらしい……信用されていない、が嘘かもしれない」

 リリはじっと考え、目をあげた。

「……まず大義名分を得、多くのファミリアを味方につける。うちの弱みは人数が少ないこと。ベルさまたちの異様な成長が嫉妬されていること。ウリュウ様の異様な行動が、恐怖と憶測、反発も呼んでいること」

 瓜生は自分を批判するような言葉に反応もせず、聞き返した。

「大義名分とは?」

「こちらから手を出させる……挑発、ですね」

「それを防ぐには?」

「常に多くの証人がいる状態を作る、です」

「それにどんな落とし穴がある?」

「……証人を買収・脅迫する」

「その対策は?」

「買収されていれば、それ以上の金額を積む。脅迫なら、家族も含めて護衛をつける。商売での脅迫なら、借金はもってやり、売る・買うとも別の取引先を用意する……ですね」

 リリはちらりと、瓜生の脇の金袋を見た。

 瓜生は微笑し、高額ヴァリスの袋を命と千草に手渡した。

「まず、【アポロン・ファミリア】団長ヒュアキントスの性格や好みを」

 リリが言い出した。

「そう考えたのは正しいが、今回は、相手の性格を読んで操ることはしないつもりだ。同じことを繰り返す気はない。定石を守り、攻撃を受けて立つ。だから定石を教えて欲しい」

 

 

 ヴェルフ・クロッゾのランクアップ祝いに、いつもの『豊穣の女主人』ではなくヴェルフの行きつけの店『焔蜂亭』を選んだ。

 瓜生は別の用事があり、レフィーヤはバカンスなのでヴェルフ・ベル・ビーツ・リリ。

 前日から、ビーツ用にものすごい量の料理を予約してもらった。

 

 ヴェルフはこれからも仲間だと請け合ったが、悩みはあった。

「迷いもあるようですが?」

 とリリに言われて、少し考えてうなずいた。

「ああ……忙しい。ファミリアがやることが、とんでもなく多い」

 ため息。

 それも、かなり自分の発明のせいで。

 魔剣を利用した銃砲、しかも近代機械を使った大量生産。計測面も一変する。

 さらに、

(旋盤など、近代機械そのものを作れ。まず定盤、できる限り平らな金属板だ……)

 という、鍛冶師にとってとんでもなくやりがいがあり、難しい課題もある。

「何もかもが変わっちまう。ここじゃ言えないようなことばかりだ」

「慎重になるべきでしょうね」

 リリもうなずく。笑顔とは別に、内心は緊張している。

 狭い店に入るのは反対したが、ヴェルフの行きつけだ。だが、逆に、

(敵に機会を与え、敵を動かす……)

 ことも考え、準備した。

 隅から罵声が響いた時、リリは厳しい表情で紙に書き、消した。

『どんな挑発も、絶対に無視してください。誰が侮辱されても、絶対に』

 ベルもヴェルフも歯を食いしばる。

『我慢さえしていれば、相手は自滅します。そのほうがいい報復です』

 罵声はエスカレートしていく。

「インチキもやりほうだいだ!」

「変なスキル持ちにおんぶだっこのくせに」

「どうやって【ロキ・ファミリア】にとりいったんだ、あやかりたいもんだぜ」

「インチキ野郎と一緒にインチキしてるやつがいるなんて、【ヘファイストス・ファミリア】も落ちたもんだぜ」

「それもあのクロッゾの一族らしいぞ?エルフに恨まれまくってるあの落ちぶれ貴族」

「吐くほどドきたねえ方法で【ソーマ・ファミリア】を潰したらしいなあ」

「白兎が、アイズ・ヴァレンシュタインにぼこぼこにされたって」

「なんか怪しいやつがいるそうだが、ここにはいないなあ。モンスターだってうわさだぜ」

 ……ヘスティアを、ヘファイストスを……ロキを、アイズを……瓜生を……

 ベルもヴェルフも、激しく歯を食いしばっていた。

 ビーツだけは耳が聞こえないように、バケツ入りのプリンをひたすら口に運んでいる。

「もっと聞かせてくれないすか?」

「そうそう、手前の主神の名もあったなあ。え?」

 奥から出てきた姿に、【アポロン・ファミリア】の者はびくっとなった。

【ロキ・ファミリア】のラウル・ノールドとベート・ローガ。

【ヘファイストス・ファミリア】の椿・コルブランド。

【ディオニュソス・ファミリア】のフィルヴィス・シャリア。

【ヘルメス・ファミリア】のルルネ・ルーイ。

 それだけではない。

【オモイカネ・ファミリア】【フツヌシノカミ・ファミリア】【アテナ・ファミリア】【ムネモシュネ・ファミリア】【ヴァルナ・ファミリア】【パールヴァティ・ファミリア】などの、それと知られた、レベル2や3の冒険者が席を立ち、【アポロン・ファミリア】とその協力者を包囲した。

 小人(パルゥム)は失言に気づき、青くなる。ロキやヘファイストスの悪口を言ってしまったのだ。

「何のことだ?何も言っていないぞ!」

 その叫びを聞いたリリが懐から妙な機械を取り出し、いじる。

 先ほどの罵声が、そのまま再生された。

「動画も録画しています」

 リリが背が低いからこそ見える、店の低いところからビデオカメラを取り出し、液晶画面を開いて再生を始める。

「うわ」

「なんだこれ」

「神の鏡?」

 ルルネたちが興味津々にのぞく。

「おい、『神の力(アルカナム)』を行使しているのか?重罪だぞ!」

 アポロン側から怒鳴り声があるが、

「使っていません。力は感じられないでしょう?どのように動作するかは、ウリュウ様に聞けば説明してくれますよ」

 とリリが冷笑した。

「確かに、力は感じないな」

 椿が笑う。かなりの圧迫感を持って。

「そ、それが何の証拠になる!インチキだ!インチキルーキーなんだから!」

「何が真実になるか決めるのは、力だ。お前たちもそうするつもりだったのだろう?」

 フィルヴィスが沈痛に言った。

「おい」

 ベートがベルに怒鳴りつけた。

「は、はい」

「いい気になんじゃねえぞ。表に出てやりあえ」

 と、ベートがベルをにらみながらヒュアキントスを親指で指差した。レベル3とレベル2、無謀を通り越しているが……

「それはよいな。誰も手を出すでないぞ」

 と、椿も笑う。

(詰み……)

【アポロン・ファミリア】は追い詰められていた。

 レベル6のベート、5の椿、他にも3以上がごろごろ。

 こちらは最大でヒュアキントスの3なのだ。証人として用意したはずの、別ファミリアの冒険者も、

(つきあってられるか……)

(冗談じゃない……)

 といわんばかりに、露骨に目をそらす。

 下卑た笑みを浮かべる者さえいる。逆買収済みだ。

 ここでベルと対決できるのは、唯一の救いとなる。

(力で圧倒すれば、強いほうが正義だ……)

 ……逃げ道に、飛びついた。

 

 店の外が片付けられ、手回しよく戦える場になっている。

 野次馬も集まっている……皆、証人になる。実はかなり前から、ベルたちが出歩くときにはならず者が何人も、少し距離をとってついて歩いている。

(いざというとき、証人になってくれれば……)

 酒代は出るのだから。

 また、見ない顔がいれば、報告すればまた金をくれる。それを命や千草が話を聞き出し、逆買収した。

 それだけではない。人が集まれば、暇人や暇神は金がなくてもついてくる。

 

 素手、ということに決まり、どちらも得物を預けた。

 ベルは少し動揺したが、絶望ではない。

 美形のヒュアキントスは、じつに傲慢な笑みを浮かべた。なめきっている。

(18階層で、アイズに出ばな出ばなを打たれて手も足も出なかった……)

 と、聞いている。

 そして何より、レベルが違う。一つでもレベルが違えば、大人と幼児、牛と犬のように差がある。

 

 ベルは素手の経験はほとんどない。ずっとダンジョンで戦っている。故郷でも同年代の子供が少なく、ケンカの経験もあまりない。

 だがタケミカヅチには、

「剣術を少し応用すれば、素手での戦いはたやすい」

 と、剣の基本技を応用した動きを習っている。

 脇差での片手切りを応用し、手刀で急所を打つ。

 諸手突きを応用し、両掌で相手の心臓を叩き押し飛ばす。

 この応用は、瓜生主導で作っている初心冒険者の学校でも教えられている。

 また特訓でアイズ・ヴァレンシュタインに、

「ベルがよくやる、脇差二刀は体術も大事。大丈夫、ベルは身体の芯と重心がしっかりしているから、すぐ覚える」

 と、回し蹴りや肘打ち、ある種の投げ技も教わっている。

 

 始まった。やはり、レベル2と3の差は圧倒的だった。

 10、20、30……反撃どころか防御すらろくに許さず、何十発も拳が、蹴りがベルを打ちひしぐ。

 ベート・ローガと椿・コルブランドは、途中からものすごくイライラし始めた。びんぼうゆすり、それが半ば地団駄にすらなりつつある。

 逆にそれが、ヒュアキントスの嗜虐心をあおる。

(卑怯な何かでひいきしている小僧がぶちのめされるのを見て、嫌だろう、ならもっと見せつけてやる)

 と、ますます徹底的に殴り、蹴る。

 低レベルの冒険者たちは、

(殺す気か……)

 とさえ思った。

 疑問に思ったのは、レベル3のフィルヴィスだった。

(なぜ、レベル3が2をぶちのめして、こんなに長く立っていられる?普通は一撃で終わるはずだ……どちらもレベルに間違いはない、ベルは非常にステイタスが高いが)

 このことである。

 突然。

 ベート・ローガからすさまじい殺気が吹き荒れた。

 ヒュアキントスがとっさに飛びのき、

「ふん」

 と傲慢に唾を吐いた。

「下郎相手に手が汚れたではないか」

 と言いながら、ベートと椿を見ておびえを抑え、なんとか恰好をとりつくろい、ファミリアを引き連れて去っていく。

 ベートも椿も、ヒュアキントスなど、【アポロン・ファミリア】など完全に無視していた。

 とんでもなく怒った表情……殺気は全部、ベル・クラネルに集中していた。

 突然ベートが、息をつきながら立っているベルに襲いかかり、胴体を思い切り蹴った。

 吹っ飛んだベルを受け止めた椿は、ベートの微妙な表情を見た。うなずきかける。

「けっ!っ雑魚があっ!」

 ベートは、ベルを八つ裂きにしたいほどの怒りをかろうじて抑えるように叫び、小走りに近い早足で立ち去った。

 ラウルが頭を下げて後を追う。

「すまないす。でもベートさんが怒るのも当たり前っす……ウリュウさんのおかげでランクアップしたからっす、わかったのは」

 と残して。

「おい、どういう」

 ヴェルフがベートを咎めようとし……椿の殺気に硬直した。

「来い、手当てもせねばならん」

 それだけ言って、ベルをかるがると荷物のように担いだまま、歩き出した。

「悪いこころじゃない」

 ビーツがヴェルフを止め、椿について歩き出す。

 ヴェルフも、リリも、呆然とついていく。

 

 椿は途中で薬を買ってベルを治療した。

 ヴェルフは首をかしげた。レベル6にランクアップしたというベート・ローガに、どう見ても全力で蹴られた。エリクサーが必要、いや即死ものだろうが、ポーション一本だけ。

 また担ごうとする椿にリリが、

「もう、大丈夫なようですよ」

 美女に、嫉妬をちらりと見せている。

「おお、すまんな、抱き心地がよかったゆえ」

 と椿はまた抱こうとしたベルをおろした。

 ベルは美女に担がれて、結果腕や顔が爆乳に当たりまくる状態だったので、半ば目を回していた。そんなベルをリリがつねった。

 それから一行はリリはついていくのがやっとな早足で、市街の中にある開け、壁に囲まれた場に行った。

 ちょっとした修業ができそうな場だ。

「【ヘファイトス・ファミリア】の、幹部用の武術修行場の一つだ」

 とヴェルフがリリにいう。

「ご説明いただけますか?」

 リリが、勇気を振り絞って迷宮都市でも最大手ファミリアのひとつの、団長に言う。

「第一級冒険者にはわかる、なにかがあったようですが。ベート様の乱暴も、ただの乱暴ではない?」

「そうじゃ。ああするのもわかる、手前も殴らずにいるのが限界に近いんじゃ!」

 あらためて鬼の顔。リヴィラで、鍛冶仕事をしているときの鬼そのままだった。

 ビーツの表情に気づいた椿が、

「わかっておるようじゃな。……ゆくぞ」

 と、突然殴りかかった。大ハンマーのような拳が、到底反応できぬ速度で少女を襲う。

 悲鳴を上げる暇もない。

 ビーツはまさに手も足も出ないで直撃を食う……だが、わずかに椿はよろめいた。

「そうじゃ。天才じゃなそなた!」

 椿は実に嬉しそうに、ビーツの背を何度もたたく。ビーツはそれも構わないように、腰を落とし立ったまま胴体だけをわずかにひねったり、前にお辞儀をしてみたりしていた。

「な……」

「ヴェル吉。なにもわからんのか?」

 椿はあきれたようにヴェルフに言う。

 ヴェルフは歯を噛み鳴らした。悔しくて悔しくて爆発しそうだ。

 ベートにも、ラウルにも、椿にも、ビーツにもわかっていることが、自分にはわからないのだ。

「おかしいとは思ったことはないのか?」

 椿の重なる問いに、ヴェルフはかろうじて言った。

「おかしい。レベル3のヒュアキントスが、何十発も殴ったのにレベル2のベルは立っていた……誰かがそう言ってた」

「そうじゃ。だから、あやつも我慢ならんのじゃ!あと一歩、半歩、殻どころか薄皮一枚じゃぞ!

 手で防ぐのが間に合わぬ、足で跳んでよけるにも間に合わぬ、それでも腰で、身体の芯で打撃を半減させていた。だが、もう……ええいヴェル吉。全力で殴ってこい!」

 説明が面倒になった椿が叫び、両手を後ろに組む。

「あ、ああ。……思いっきり行くぜ」

 と、本当に全力で殴り掛かった。

 そしてみぞおちに正拳が食いこんだ、はずなのにヴェルフはもんどりうち、受け身も取れない形で転倒した。

「ぐはっ……」

「一歩も動いておらん。手も使っておらん。それでもこれはできる。来い!」

 ビーツに声をかける。

 少女は姿勢を正し、深呼吸で『気』を増幅させ全身に光気をまとい……大槍で突くようにすさまじい突きを繰り出した。

 拳が当たった、と見えた状態から、全身の力が抜けたように垂直にくずおれる。

 椿の胴体がほんのわずかに傾きを変え、掌がビーツの脇腹に当たっていた。

 まったくモーションのない、ゼロ距離打撃。

「来い」

 今度はベル。

 ベルは一瞬おびえたが、覚悟を決めて歩き出し……打ちかかる。

 全身で突くかのような両手の一撃、だがそれはとても柔らかな感触に吸われる。

(おなかを狙ったのに、胸を触っちゃった?)

 違う。ベルの掌が押しているのは、鋼のような腹筋。なのに、感触は乳房のように柔らかい。

 次の瞬間、目に映る地面が空と入れ替わる。投げ技、と思ったら椿の掌が脇腹に触れて、体が爆発した。

 全身の力が抜け、地面に転がる。呼吸もしばらくできない、やっとできて激しくあえぐ。

 胴体のわずかな動きだけで打撃を吸収し、受け流す。それで重心を崩し、転ばせる。崩れたところに、一歩も動かず体幹だけから引き出した強打を、触るだけのような最小限の手から流しこむ。

 一見無防備に受け、手を伸ばすだけの、防御・崩し・投げ・打撃の統合技。

 両手剣より、斧より重いハンマーをふるい続け、居合もきわめた椿の腰は、オラリオでも最高峰だ。だからこそ可能な神業。

 椿はベルを引き起こして胸ぐらをつかみ、揺さぶりながら怒鳴った。

「できるのに、気づいておらぬ。もうちょっと、もう歩けるはずなのに、あきらめてハイハイをする赤子のようなものじゃ!もどかしくて叫び出しそうじゃった!

 鍛冶ならば、ミスリルと銅とライガーファングの牙などで、焼きを入れてから時がたって硬くなることもある。それならば待てる。

 じゃがあれはない、あれはないぞ!

 リヴィラで刀を見た、できる力はある!刃筋が通らねば切れぬ刀、刃筋を通すのも腰じゃ。よき師に正しき腰を教わっている。なのになぜやらん!力を出し惜しむなぁっ!」

 椿がイライラを思い出したように地団太を踏んだ。

「す、すみません」

 ベルが頭を下げる。やっとわかった、ベートの怒りの理由も腑に落ちた。

 身体の芯を使う戦法が、もうできる実力があるのに、気がついていない。材料はそろっていて、それさえやればヒュアキントスに反撃できるのに、打ちのめされている。見ていてもどかしいだろう。

 そしてベートの桁外れの蹴りを受けたとき。

 体幹だけで打撃を流し相手を崩す、その動きを一段高い水準でおこなった。しなければ死んでいた。

 それで深くこつが、

(身体に、おちた……)

 のもわかる。

 いや、リヴィラでアイズ・ヴァレンシュタインと決闘したとき、一方的に打たれつつその動きの芽が出ていたこと……その種はタケミカヅチがしっかり仕込んでいたこともわかった。

 タケミカヅチに、アイズに、ベートに、椿に感謝の思いが沸く。何とも言えず嬉しい。

「なら、ものになるまでやるぞ」

 隻眼をらんらんと輝かせ、拳を握る椿の迫力に、ベルは顔を硬直させた。

「え」

「え、ではない!問答無用!」

 兎の悲鳴が響いた。

 

 ついでに。椿もベートも、手ごたえの違和感にも、ベルが立っていることがおかしいとも気づきもしないヒュアキントスを深く軽蔑している……軽蔑を通り越して無関心の域だ。

 ベートにとっては、下をいたぶっていい気になっている雑魚も、

(上のレベルには、かなわない……)

 と決めつけ、自分の可能性を追求しきっていない、前だけを向いていなかったベルも、許せない。

 

 

 

 瓜生は、【ロキ・ファミリア】のフィン・ディムナを含む数人の男、武威と彼が保護する少年……言いかけてしまった名前、「トグ」と呼ぶことにした……とナァーザも連れて、深層に出かけた。

 とりあえず二日の予定。

 

 いくつも試してみたいことがあった。フィンも、ランクアップ後の調整が必要だった。

 武威とトグの力も試したい。フィンは武威を一目見ただけで、衝撃に固まっていた。桁外れの、圧倒的な強者を感じて。

 ナァーザはモンスターを見ると精神的外傷を発するので、螺旋階段から車に乗るまでは目隠しをして手を引いている。だが弓で遠距離狙撃をするならできるという話で、

(画面内なら大丈夫では……)

 もしそうなら、戦闘車両や遠隔操作砲塔を扱うことはできる。

 そしてフィンは、瓜生を入れて試したいことがあった。【フレイヤ・ファミリア】元団長でレベル6、ミア・グランドが、あのレヴィスという赤毛の怪人に、

(片腕が骨まで切れてなければ、まったくかなわなかった……)

 と断言した。

 ならば、多くの幹部がランクアップしたとはいえ、安全とは言えない。

 考えたいのは、瓜生のもたらした銃砲やその他兵器を前提にした怪人対策。

 

 いつも通り、1階奥で小型の六輪装甲車を準備し、それで17階まで行く。

 ナァーザには、RWSの画面のモニターをじっと見させた。多数の怪物が出現しては銃弾に倒れるが、車酔いを感じる以外は問題ない。レベル2の彼女は、車酔いも意志で抑え込めた。

 瓜生がナァーザを信じているのは、商品偽装を公開すれば彼女もミアハも完全に終わる、とわかっているからだ。だから瓜生やリリとナァーザはとてもビジネスライクな関係だ。ベルやヘスティアとは完全に近い信頼関係が感じられるが。

 武威は鎧が、

(何百キロもあろうか……)

 という代物で、パンクしたりサスペンションが壊れたりしそうで車に乗れなかったが、ジョギングのようにらくらくとついてきた。

 

 17階で降りて、18階層の安全地帯を素通りして19階層の車庫から、ナメルに乗り換えて下層に突っ走る。

 あえて二両に分け、先頭の車両を瓜生が運転し、ナァーザが射撃を担当した。もう一両は【ロキ・ファミリア】の若手が前回の復習として、フィンの監督で動かしている。

 37階層でフィンたちと一時別れ、瓜生たちは『闘技場(コロシアム)』に向かった。

 間断なく、一定数を上限に魔法に耐性がある高レベルの怪物が出現し続ける地獄。

 圧倒的だった。

 鎧も脱がずに武威が振るっているのは新幹線用の、1メートルあたり60キログラムものレール。長さは25メートル。包丁やピアノ線とも遜色のない、高品質の鋼でできている。

 それが、闘技場のかなりの面積を『ひゅは』、『さら』と掃き続ける。子供が身長より長いセイタカアワダチソウの枯れ茎を振り回すように。右片手で。手首だけで、いかにも、

(楽で退屈な仕事をしている……)

 といわんばかりに。

 それで、すべてのモンスターは切断される。子供が拾った針金で、初夏のみずみずしいセイタカアワダチソウやヨウシュヤマゴボウを切り飛ばし南斗水鳥拳を気取るように何十体もまとめて。すぐれた剣士が巻き藁を断つように、しばしそのままの姿を保ち、ずるりと切れ落ち灰と化す。

 鋼より硬い肉体を持つモンスターもあるが、関係ない。黒曜石はもろさで粉砕される。別の硬さでもレールのとんでもない速度は、戦車砲のAPFSDSと同様にユゴニオ弾性限界を引き起こし、モンスターの硬皮と鋼をともに液状にして切り裂く。

 それでレールはすぐ減るが、かわりは山積みになっている。

 たまに、瓜生の車両などに近づくモンスターがいれば、左手で鋼のタガネを、ぽいと投げる。長さ20センチ・太さ2センチ程度の鋼棒はライフル弾以上の速度で正確に飛び、大型のモンスターに大穴を空ける。

 反対側を、ナァーザが遠隔操作砲塔を操作して射撃し続けている。瓜生はナァーザに射撃を任せ、装填とメンテナンスに専念している。

 

 一段落し、魔石を回収して別のルームに向かった。武威はしばらく闘技場に残るという。

「今回の収穫は、わけまえをもらう。武威たちは客人で、食い扶持は稼ぎたいそうだし、ナァーザは借金返済もあるから」

「もちろん」

「さて、食事にするか……」

 話しながら、すぐにできる食事。発電機と電子レンジをつなげ、カセットコンロに鍋を置き油を入れる。

 冷凍のパスタやチーズ入りハンバーグ、鶏から揚げ・オニオンリングフライ・フィッシュフライ・フライドポテトなどがすぐできる。

 たっぷりとおいしい食事を済ませ、今回のもう一つの課題を検討し始めた。

 

「レベル7、もっと上かもしれない相手。最悪の場合には狭い場所。どうする?」

 フィンの言葉に、銃器に慣れている【ロキ・ファミリア】男性冒険者と瓜生がじっと考えた。

「一番単純な二択。大口径と小口径多数だ。

 大口径はよけてしまうかもしれない。小口径は多少当たっても効果がないかもしれない。

 小口径は小口径ライフル弾の機関銃と、キャニスター弾やフルオートショットガンも分けられるな。

 とにかく短時間で、できる限り大口径高初速の弾を、濃密に多数……

 また、別の発想で考えると、とにかく歩兵にとって最悪なのは、泥沼と地雷と鉄条網だ」

「残念だが、おそらく待ち伏せられているところにこちらから突撃することになる」

「準備して大火力を叩きこむこともできそうだ。怖いのは分断と、まとめて一掃されること……」

 

 ガトリング式はどうにも初動が遅い。むしろ、アメリカ以外が航空機関砲に使うガスト式やリボルバーキャノンのほうが初動が早い。または、普通の機関砲を多数束ねるか。

 全体の重量・総合連射速度・信頼性・威力のバランスがいいのは、大遠征でも活躍したZU-23-2だ。

 ほかにも57ミリ対戦車砲のキャニスター弾、カールグスタフ無反動砲のフレシェット散弾などを鉄板に発射する。フィンの耳をかすめさせ、ギリギリで弾速や威力を見極める。

 また、単純なアイデアも試す。単に、パチンコ玉を大きいバケツでばらまき、そこをフィンが走り回ってみた。全速で、強力なフラッシュライトをよけながら。そうすると、すさまじい速さだからこそ滑ってしまうこともある。

 大量のワイヤーを冒険者の力で投げてみたり、強いフラッシュライトを浴びせたりもした。

 フィン自身が仮想レヴィスとして、瓜生の物資を前提に何をされたらやりにくいかを徹底的に検討する。

 

 利き腕でない方の腕で、薬も用意してフィンは試している。レベル7なら5.56ミリNATO弾まで無傷、12.7ミリ弾でも常人がペティナイフで刺された程度、とわかっている。

 

 別のところで、瓜生と【ロキ・ファミリア】【ヘファイストス・ファミリア】が合同で研究しているのが、航空機関砲の活用だ。

 ロシアの航空機関砲GSh-23は口径23ミリ、銃身がふたつあり、連射速度も低速ガトリング並みにある上、50キロ/1.4メートルと比較的小さい。人間が扱うには重いが、ランクの高い冒険者にとっては扱える重量だ。ZU-23-2より弾薬が弱いが扱いやすい。

 ヨーロッパのマウザーBK-27などは高初速のリボルバーカノンで、連射速度も速く威力もあり、100キロで済む。ガトリング式に比べれば大幅に軽く、電源も必要としない。

 それらを普通の機関銃のように、ピストルグリップとトリガーで撃てるようにする工夫だ。

 さらに、現用の重機関銃が、優れてはいるが重すぎる14.5ミリ弾で、GSh-23と同じガスト式、高い連射速度がありしかも軽い機関銃を強引に開発している。

 リモコンで動く小型戦車に、クレイモア地雷と無反動砲を積んで遠隔発砲できるようにしたものも用意した。

 

 

 瓜生が帰ってみたら、リリが考えていた通り【アポロン・ファミリア】からの挑発があった。

「相手の出方として予想できるのは?」

「【ソーマ・ファミリア】の質の悪い残党が動いている、と元同僚のチャンドラ様から。どうやら神ソーマの奪回の動きもあるようですね」

「それは【デメテル・ファミリア】と【ディオニュソス・ファミリア】にケンカを売っているようなものだが……」

 なにかバックがあるのだろうか。その言葉は口に出しきらなかった。

 ただ、ヤマト・命には、調査に注意するように言った。

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