ダンジョンに近代兵器を持ちこむのは間違っているだろうか 作:ケット
ベルたち【ヘスティア・ファミリア】が戦争遊戯に向けて特訓に励んでいる中、【ロキ・ファミリア】も次の戦いを見据えていた。
幹部たち……後衛であるリヴェリアと、断ったベート以外……が、ダンジョンの上層にあるルームでベルやビーツを軽くなでてもやった。
そのたびに、レベル2としては異様なほどの強さ、成長の速さに驚いている。
(格上を打ち倒すための……)
特訓は、自分たちにとっても他人事ではない。
『戦争遊戯』が終わった直後、フィン・リヴェリア・ガレス・アイズ・ティオナ・レフィーヤらは、ファミリアの仕事をラウルに任せ、ベルやビーツ、武威とトグも誘って下層まで行った。
下層まで行くには前は何日もかかっていたが、今は瓜生が貸している車があれば、10時間で30層まで行ける。
ビーツもランクアップが近いので、できるだけ大きい戦いをさせたい。また、ランクアップしたベルの魔法の変化もテストしてみたい。
フィンは新しい槍も試していた。常人の身長を超えるライフルに銃剣をつけたようなものだ。瓜生の出した14.5ミリセミオートライフルを【ヘファイストス・ファミリア】が改造したもの。
銃床はフォモールの骨を材料にした軽く頑丈なもの、銃剣も銃身ではなく銃床に直結。銃剣もタイゴンファングの爪と砲竜の牙を鍛えた一級の切れ味。全体のデザインも、槍としても使えるように細身になっている。
アイズ・ヴァレンシュタインは大遠征と、そして武神タケミカヅチの指導を得て、ある程度の装備の変更を行った。
数千万ヴァリスの金は必要だったが、
(それだけのことはある……)
とだれもが見た。
軽装にかわり、要所を厚く守るプレートメイル。
背には瓜生にもらった軽量セミオート.50対物ライフル。
長方形でかがめば全身を覆える、やや大型の板金楯。
愛刀デスペレートよりかなり長い、『剣士』スキルをそのまま使える片手半剣。
アイズはタケミカヅチに、
「仲間のために、悲願のために、強くなる。できることはなんでも、試してみる」
と誓った。
武神が求めていたのは、考えることと決意であり、その内容ではなかった。
プレートメイルの、胸当て・スネ当て・肘までのガントレットは体格にぴたりと合う。動きが激しい肩などは厚手の鎖帷子。下半身も同様、スカート状の板金装甲と鎖帷子。ガントレットも指まで守らず、手の甲まで厚く守るが銃の扱いに不自由はない。
片手半剣は椿・コルブランドの作で、アイズ自身が倒した階層主ウダイオスの剣を用いている。強力な付与魔法に高い耐性がある素材だ。『ドウタヌキ』ブランドの流れで、飾りはないが頑丈さと切れ味に特化している。
デスペレートもサイドアームとして引き続き帯びている。
ところで……
【ロキ・ファミリア】の幹部は、【ヘスティア・ファミリア】の客人だという武威とトグに、とても複雑で強い感情を覚えている。
武威は、まちがいなくオッタル以上の圧倒的な力。だが、経験豊富な彼らには感じられることがある。
特にアイズと、ベートは爆発しそうだった。ふたりとも、死はもちろんどんな拷問より、誰を失うより、圧倒的に恐れていること……
それが目の前にあるのだ。最強への道に挫折し、絶望し、くじけた者が。
重厚な兜で顔を隠していても、強者にはわかる。
ビーツが29階層の怪物と、単独で戦っているのを見ながらフィンが武威に言った。
「ぼくたちには、わかる。きみが……最強への道で破れ、足を止めていることが。ただこの子を守るだけ、か。どんな相手に負けたんだ?」
『勇者』の洞察力は一目で、深いところまで見抜いていた。
武威はそれに敬意を表し、何百キロもある兜を脱いだ。
「先にこの子の父親、戸愚呂(弟)に破れた。筋肉を操作し、純粋な『力』を桁外れに強める。一度挑んで破れ、いつか強くなって再戦すると誓ったが……彼はオレよりもさらに大きく成長した。
自分をごまかしながら戸愚呂の仲間として戦っていた……炎と剣を使う邪眼師に、再び敗れた。そのチームに戸愚呂も敗れた。
もう生きるよすがもなかったが、ある人に戸愚呂(弟)の息子を託された」
淡々と、すべていう。
「……ここでなら、神の『恩恵』がある。ダンジョンがある。それに技を極めた武の神々もいる。まだ希望はあるかもしれないよ?
このアイズも、最近は伸び悩みに苦しみ、あらゆる方法で突破しようとしているんだ」
アイズが深くうなずく。
武威は苦悩しつつ、うなずいた。
時間は動いていた。飛影に破れたことで、凍ったまま腐るような日々は壊れた。戸愚呂チームが解体され、一人になってむしろ追われる身になり……戸愚呂(弟)の遺児を守って逃げ、敵を撃退する日々を過ごした。
そしてこの迷宮都市(オラリオ)に来て、昔の自分のように強さに飢え、激しい修行を続けるベルやビーツ、アイズやベート、フィンに会った。
それらは少しずつ、凍っていた心を溶かし、動かしはじめていた。
「ぼくは、負けたこともない、打ちのめされたこともない人は弱いと思っている。どん底を見て、そこから立ち上がって、それが本当の強さだと。そして命があれば、何度でも立ち上がれると」
ベルはレベルが上のヒュアキントスを破った偉業により、レベル3になった。
背に刻まれた恩恵の、魔法のところに新しい文章が出た。
〇追加詠唱 召喚呪文(サモン・バースト) 要2分チャージ 挿入詠唱文「ゼウス・トール・インドラ・ヴォーダン・ハオカー・エヌムクラウ・ホノイカヅチノオオカミ、雷神たちよ、かなたの呪文を許せ。〔ジ・エーフ・キース、神霊の血と盟約と祭壇を背に、我精霊に命ず、雷よ降れ、轟雷(テスラ)〕」
……ヘスティアの反応はともかく。
マジックポーションやハイポーション、エリクサーまで用意して、試してみる。
(いくら協力関係があっても、他ファミリアにそこまで見せていいのか……)
とも思ったが、専門家がいなければうかつに試せないという予感が強すぎた。
リヴェリアならまさに、
(うってつけ……)
である。
巨大な岩が転がっていた。普通の一軒家より大きい。
ちょうどいいと、『ベスタ』を抜いたベルが、
「その、追加詠唱ってどうやるの?」
と恩恵の、魔法のところが書かれた羊皮紙をレフィーヤに見せた。
「それすらわかってないぐらいの経験不足でこれはないでしょう……豚に真珠。猫に小判。ベルに長文追加詠唱」
レフィーヤは文句たらたらだ。
「よその【ファミリア】に見せる人がってもう今更ですよねパーティですし。ええと……」
説明を聞いたベルが2分チャージし、大喜びで完全に暗記した呪文を詠唱する。
「【雷火電光、わが武器に宿れ。ゼウス・トール・インドラ・ヴォーダン・ハオカー・エヌムクラウ・ホノイカヅチノオオカミ、雷神たちよ、かなたの呪文を許せ。ジ・エーフ・キース、神霊の血と盟約と祭壇を背に、我精霊に命ず、雷よ降れ、轟雷(テスラ)。ヴァジュラ】」
詠唱中、ベルはすさまじい魔力消耗に衝撃を感じていた。一発で精神疲弊(マインドダウン)寸前。
「がんばれ!それは暴発させるな!」
リヴェリアが目の色を変える。離れていたが、それでもまだ危険なほどの魔力。
そして……目の前が真っ白になった。
激しすぎる音に、第一級冒険者たちの耳もきかないほどになった。
至近距離で、普通の雷が一つ落ちただけでも常人は怪我をしかねない。それほどすさまじい閃光と爆音、衝撃波なのだ。
それが何千と同時に。
ゆっくりと振るった神の脇差……二度目の大爆発に、ベルが吹っ飛んだのをリヴェリアが何とか受け止める。
家より大きい岩が、完全に消えていた。
「あ……ああ……」
レフィーヤは魂消ていた。開いた口がふさがらない。
「私の、あれを使った最大呪文以上の威力かもしれんな」
リヴェリアもあきれかえりつつ少年の様子を見て、
「一発でほぼ力尽きている」
と、ベルを診察し、マジックポーションを飲ませた。
「す……すっごーいっ!」
ティオナは大喜びでベルに抱きついている。
「何に使うんですか?黒竜討伐にでも行く予定ですか?ウダイオス相手でも完全に過剰威力ですよ!58階層でもそんな威力いりませんよっ!」
レフィーヤはなぜか怒りが抑えられない。
「レフィーヤ。今の呪文の、召喚された部分は覚えたか?」
「え?……あ」
リヴェリアの言葉に、レフィーヤも気がついたようだ。
「今の、召喚された呪文はエルフ……いや、わずかに違和感がある、ハーフか……だが、使えるだろう?」
「は、はい。効果も把握しました……やってみます」
と、レフィーヤは背後の、いくつもの巨岩がそびえる広野を見た。
何度も深呼吸し、全精神力を集中する。あの威力で失敗したら、
(ぜ、絶対死ぬ……)
そこらの戦い以上の恐怖。
「【ウィーシェの名において願う…………どうか、力を貸し与えてほしい」
呪文の詠唱時間も精神力消費も倍になる……それだけの代償で、多数のエルフの呪文をそのまま使える。その中にはエルフの王女(ハイエルフ)、リヴェリアがいるのだから、
(ずるい)
(チートやろそれ)
としか言いようがない。
「ジ・エーフ・キース、神霊の血と盟約と祭壇を背に、我精霊に命ず」
リヴェリアの呪文を借りる時以上の消耗。二重の召喚。
呪文を唱え終える前から、腕の血管が破裂し鼻血が垂れる。
「雷よ降れ、轟雷(テスラ)】アっ!!!」
精神力を振り絞っての詠唱が終わり、呪文が発動する。異界の美しく激しきハーフ・ダークエルフ、雷帝と呼ばれた天才魔法剣士(アーシェス・ネイ)の雷撃系最大呪文が。
目の前の荒野を無量光が満たす。
何千発分もの稲妻。地上では見られぬほど極太で、無数。40ミリ連装機関砲の咆哮よりも激しく。
リヴェリアも、轟音に驚いて見に来たフィンたちも呆然とした。
岩どころか、床そのものが広く崩落し下のフロアが見えている。
圧倒的過ぎる威力。
「レフィーヤ!」
リヴェリアが駆け寄り、吐血し倒れる少女にマジックポーションとハイポーションを飲ませた。目からも血を流している。
「レベル3では運用不可能。やはりランクアップが必要だな。下手をすればレベル5まで禁じたほうがいいかもしれない」
「す、すっごーいっ!あのさ、ベートのブーツにこれ入れて蹴飛ばせばすごいことになるんじゃない?」
ティオナが無邪気に言う。
「ブーツが持つかが問題だな。最悪、桁外れの金をかけても、神ご自身に依頼する必要があるかもしれん」
あれに魔法を無理に使わせるわけにもいかんか、とごく小声でつぶやいたリヴェリアはベルの手を……あれだけの呪文を付与されて無事である、ヘファイストス自身が作った脇差を見つめている。
「感謝する。この呪文を見せてもらっただけでも、金銭にすれば億単位を要求されてもいいほどだ……今更だが」
リヴェリアがベルに微笑みかけた。
「……みなさんの、力になれたのなら、すごくうれしいです」
アイズさんの、とは言えなかった。
「何言ってるの!アルゴノゥトくんは」
「ティオナ」
リヴェリアが止めた。
59階層で、【ロキ・ファミリア】の第一級冒険者たちが瀕死の状態で、ベルの名に奮起した。だがそれは厳重な秘密……
冒険者としてあまりにも巨大な勲章、それでうぬぼれ潰れない者など、
(いようはずがない……)
からだ。
それが噂になれば、多数の冒険者が殺意妄執に狂うに決まっているからだ。
リヴェリアからすれば実際問題、次の遠征で切実にベルも欲しい。
ベートとのコンビもとんでもないことになるし、矢弾にあの付与呪文を装填すればすさまじいことになるのは知れているからだ。
ベルを門前払いした門番は、今更にもほどがあるが、言葉ではなくはしばしに出る視線で責められることになるだろう。
ビーツのランクアップは、なかなかはかばかしくいかなかった。
レベル3でもきつい、下層のモンスターと単独で戦っても。
アーニャ・フローメルとリュー・リオンを同時に相手にしても。レベル7に至ったフィン・ディムナにかすり傷を負わせてさえ。
それでもランクアップではない……偉業にはならない。
【ステイタス】は際限なく、ベル以上の勢いで上昇する。ヘスティアしか知らないことだが、もう力や敏捷は4000を超えている。常識を完全に吹き飛ばしている。
どう見ても戦闘力はレベル3後半だ。
だが、ランクアップにはならない。
彼女の、強くなろうという飢えは、アイズも認めるものだった。ベルやアイズに劣らぬ激しさで足腰のトレーニングにはげみ、素振りを繰り返し、格上と戦い続け、タケミカヅチの指導を素直に聞く。
それでも、
(この種族の限界は、どこにあるのか……)
おそろしいほどに、ランクアップに至らずひたすら強くなり続ける。
武神タケミカヅチは、武威のバトルオーラすら見抜いたようだ。
しばし熟考してから立ち、ゆるりとひとつの動きをやって見せた。
簡化24式太極拳程度。時にゆっくりと、時に速く鋭く。ただ円に沿って歩き体をひねるだけの動きもあれば、強い足音を立て大きい踏み込みから肘打ちを打つこともある。常人がまねれば、簡単に見えてかなりきつい運動になる。
瓜生の故郷の、わかる者が見れば太極拳、八卦掌、八極拳、合気道の混合というだろう。だがそのすべての神髄、さらに深いところにある原理を、いかなる達人も遠く及ばぬほど理解した武神が統合したものだ。
気と力の制御。気の爆発と一点集中による接近短打。相手の力を利用し、無駄な力を使わず受け流し、相手を崩す。巧妙な関節技から投げ。一点の急所への集中打。そのすべてが統合されている。
『崩され』たところを打たれれば、まともな防御はできない。殴られたことに注意が行った瞬間は『崩され』ており、投げに抵抗できない。ボクシングと柔道を統合するだけでもすさまじい効果になるのだ。
「これを一日の半分以上、毎日、30年極めよ。それでもまだ、だれそれに勝てない自分は限界だというなら、その時にまた来い」
巨体の武人は呆然と、呆然と見ていた。
そして、静かにその動きをまね始めた。さすがに一度で動きは覚えた。
「10日後に来れば、間違いは直す」
武神の厳しい声に、戦妖はひざまずいて深く頭を下げ、去った。
『戦争遊戯』の勝利で、【ヘスティア・ファミリア】の力はオラリオ中に知れた。
誰もが、城をあっというまに破壊した遠距離爆炎攻撃と、いくつもの奇妙な武器を見た。
幼いビーツが、複数のレベル2を相手に一歩も引かず戦ったのを見た。
謎の巨漢が、『クロッゾの魔剣』が、石塔を簡単に破壊したのを見た。
そして巨大な岩扉をあっさり切断し、レベル2でレベル3を破ったベル・クラネルを見た。
人気は沸騰し、入団志願者も殺到した。
だが志願者たちは、一月は『タケミカヅチ・ミアハ学校』の寮生となり、基礎体力・基礎学力・生活習慣を身に着けるよう指示された。
最低限の衣食住で、休日を除き毎日3時間以上、週に一度は10時間以上のきつい運動。
読み書きと勉強。特に解剖学・生理学……それは傷ついた時の医療にも、人間の急所を知って殺すことにもつながる。
オラリオに来た時のベルのように、どこのファミリアにも断られるような貧弱な孤児でも、当人に合わせたメニューで体力を高める。栄養不良などで根本的に体力がなければ、冒険者以外の仕事ができるよう考え、学ぶ。
というわけで、潜在的な団員は多いが、【ヘスティア・ファミリア】は4人のままだ。
そして彼らには、重大な使命があった。何度も助けてくれた【ロキ・ファミリア】の戦いに、ベルとビーツも加わる。
瓜生もバックアップする。
『ダイダロス通り』。ベルがシルバーバックと戦った、地上の迷宮じみた貧民街。
そこ以外に、闇派閥が使う地上への出口はありえない……
呪文のみクロスでも、タグに「BASTARD!!」は入れるべきでしょうか?