ダンジョンに近代兵器を持ちこむのは間違っているだろうか   作:ケット

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火器

 翌日。

 朝食は前日と同じ、軽めの粥。ヘスティアにはコンビニで売っているチーズパンと、カステラとナッツタルトを〈出し〉、コーヒーも淹れる。

 エイナ・チュールに、

「レベル2のウリーさんが主導ですか。でも、くれぐれも無理はなさらず、9階層程度にしてください。ダンジョンの危険は、外とは比較にならないのですから」

 そう言われて入り口に向かう。

 

 一階途中の、人気のないホールに着いた。

 まず、講義で必要だと聞いて購入していたサラマンダー・ウールを着ておく。

「これを持っていてくれ」

 と言って、透明板の窓がある耐弾ライオットシールドを三つ〈出す〉。

 一つずつ自分とベルの背に結び、もう一つはベルに持たせた。

「両手で持って。おれが見ていない方向を見て、敵がいたら声を上げて、このライトで照らすんだ。この耳当てもつけて、その上からヘルメット」

 そう言って大きな懐中電灯を渡して使い方を見せ、ヘッドホンのような耳当てを渡し、あとはすたすたと歩きだす。

 瓜生自身も耳当てとヘルメット。手には小さいが強力なライトとダットサイトのついたFN-P90。

 ゴブリンが歩いてきた、そして襲いかかろうとした瞬間。

 瓜生が胸に抱えた、ベルは似たものさえ見たことがない『何か』が、まぶしい火を吹く。

 ぱん。鋭い爆発音。ゴブリンがよろめく。

 もう二発、銃声と銃口炎。モンスターが、操り糸が切れた人形のように倒れる。

 よく見ると、ゴブリンの腹に小さい穴が開いている。口元に小さい穴、だが後頭部に大きな、ぐちゃぐちゃに砕けた穴がある。

 その横を瓜生が行きすぎようとしている間に、ゴブリンは塵と化し魔石を落とした。

 瓜生は周囲を見回しながら拾い、胸側にある小さいバッグに入れる。

 

 それが、ひたすら繰り返される。

 地下二階、三階も、四階も。

 十匹近くが一気に出現しても、壁のひび割れから地上に立ち、走り出す前に倒れて死ぬ。

 P90には小さいが強力なライトがついており、それが目をくらませるので一瞬隙ができ、先手を取れる。

 壁や天井をはい回るリザードも、音が二度響けばすぐに、手の届かない天井からふっと落下し、死ぬ。

 フロアを結ぶ下り道で、胸の小さいバッグから背の大きいバッグに魔石を移し、弾倉を交換するだけだ。

 

 五階の途中にあるホール。

「ちょっと補充したりする。爆発するから、盾を構えて」

 そう言って、アンダースローで何かを放った。

 瓜生は素早くベルの後ろに隠れる、すぐ爆発が起きて壁の一部が壊れた。

「壁を壊すと、修復が優先されるから休めるってエイナさんが言ってたな」

 それを、一度確認する。警戒しながら。

 そしてまた、小石のようなものを放って壁を壊した。

 それから。

「ちょっと水分補給、もしトイレに行きたければ隅で」

 と言ってスポーツドリンクを渡し、瓜生自身はいくつかの器具や、箱を〈出し〉た。

 そして、箱の一つを開けて多数の、先がとがった短い棒……弾薬を、器具を使って大型の箱型弾倉に詰める。

 装填済み弾倉をいくつも作り、カバンに入れる。

『恩恵』による体力増加がなければとても持てない重量になる。

「出発して大丈夫か?」

 瓜生は言って、そのまま歩き出した。

 手にした銃は、AK-101。強力なライトとダットサイトをつけている。

 

 六階、七階……多数、それも新しい怪物が出てくるが、瓜生は平然と撃ち続け、魔石を拾い弾倉を交換する以外は足を止めない。

 フロッグ・シューターも、射程距離が違う。ウォーシャドウも、素早く近づき始める前に頭を撃ち抜かれ、崩れる。

 キラーアントすら、5.56ミリ弾が甲殻を貫通し、内部で暴れまわって魔石が粉砕される。

 毒のあるパープル・モスが出てきたときにはうるさげにフルオートで叩き落し、それからはレミントンM870ショットガンも持つようになった。

 一度、広間に何十とも知れぬモンスターが出現したことがある。

 それも瓜生は、フルオートで血路を開いて早歩きで抜け、後方に手榴弾を放って通路の壁にへばりつき、ベルを座らせてシールドを構えた。

 爆発がホールを一掃する。

 近くにいる生き残りを、平然と射殺する。

 ベルは圧倒され、我に返ったのは瓜生に水を飲むよう指示されてからだ。

 

 10階層に至り、霧が発生した。

「射程の有利がなくなるな、装甲がいる」

 装甲という言葉の意味を、ベルはわかっていなかった。

 瓜生は、とても慎重な性格である。RPGをやっていても、標準より二つは上のレベルで動く。次の目的地が見えていてもMPが尽きたら帰還を選ぶほど、絶対に死人を出さないようにする。FC版の大灯台だけはどうしようもなかったが。

 エイナの忠告もまじめにとらえている。間違っても死なないように。慎重に。

 広めのルームに急ぎ、イタリアのプーマ装甲車を〈出し〉た。六輪で全長5メートルとコンパクト。M2重機関銃のRWS(遠隔操作砲塔)をつけ、操縦席のタブレットで画面を見て操作できるようにした。一人で操縦と射撃をできるようにしたのだ。

 燃料とオイルを入れる。指ぐらいある.50BMG弾の箱入り弾薬を出し、重機関銃に装填する。

 その作業をしている間、瓜生もベルもチョコレート菓子を食事がわりに食べた。

 準備ができたら、走り出した。

 ベルには、

「冷静に、周囲に敵がいないかとか、落とし穴がないかとか、見ていてくれ」

 といっておく。

 ベルは驚きすぎで半ば死んでいた。

 楽などというものではない。多数のモンスターに囲まれても、速度を少し上げるだけで抜き去る。前に固まれば少しバックし、加速してはね飛ばす。

 アルミラージが投げてくる石斧も、薄いとはいえ装甲を抜くことはできない。

 装甲の固いハード・アーマードも12.7ミリ徹甲炸裂焼夷弾であっさり死ぬ。ヘルハウンドも、炎を吐くより前に肉塊と化す。

 ときどき壁を撃って追撃を止めてから、いい魔石やドロップアイテムを回収し、弾薬を装填し燃料を補給する。

 ひたすらその繰り返し。

 別の冒険者パーティがシルバーバックなどの群れに追われているのをかなり遠くから見て、遠距離から助ける。

 

 別の視点から見れば。

【タケミカヅチ・ファミリア】が、11階で、限界を超えた数の敵から逃げていた。同時に、壊滅した小派閥の生き残り二人も、傷を押して逃げていた。

 なしくずしに合流した……多くのモンスターも合流した。

 ヤマト・命(みこと)と、もう一人が負傷していた。広いルームに逃げ込んだ。そこで、退路にもモンスターが出現した。

 詰んだ……誰もがそう思った。どちらのパーティも。

 たまたま、少し霧が薄くなった。

 遠くから、音が何度か響いた。聞いたことのない音。爆音に似るが、連続している。

 あっというまに、追う側のモンスターの群れが薄くなった。交戦せず後ろで待っているのが、あっというまに倒れていく。

「なにが」

「いや、いまだ!敵が薄くなった、反撃するぞ!」

 とっさに協力した二つのパーティが、激しくモンスターに抵抗する。

「なんだあれは」

 かすかに見えた、妙な色の大きな塊。霧が再び濃くなり、見えなくなる。

「それどころじゃない!シルバ……」

「誰が何をしたのよこれ!」

 腹にばかでかい穴が開き、肉の中から血で消えぬ炎を噴く(徹甲炸裂焼夷弾)シルバーバックやオークの死体に、絶句……する暇もなく戦いは続く。敵の七割はなぜか倒れ、弱いものばかりとはいえ、特にアルミラージの連携は侮れない。

 生き残るために。無事に主神のもとに帰るために。仲間を生かすために。故郷で仕送りを待つ人のために。

 

「たまたま目に留まって、助ける余裕があったから助けただけだ。余裕がなければ、『怪物贈呈』とやらをしてでも生き延びることを優先したよ」

 瓜生はベルにそういった。

 無論、ベルの師となった神の眷属だった、などとは知らずに助けたのだ。

 

 13階のルームで、モンスターの大量出現があったが、それも重機関銃で一掃する。

 階と階を結ぶ通路の広さ・高さ、縦穴の幅、傾斜も目測をつけておいた。将来、より大型の装甲車両で通れるように。

 三時間もかからず14階まで行って、しばらく見て回って、また大量出現を処理して帰った。ミノタウロスさえも、一発で即死した。

 四階層のホールで壁を撃ってから装甲車を〈消し〉、荷物を整理した。装甲車に大量に乗せた魔石やドロップアイテムを、大きいリュックに移す。

 そして腕時計を見た瓜生は、

「そっちもすこしは経験値を稼いでおかなければな」

 といい、ベルに刀を抜かせた。

 次々と出現するモンスター。四階だと出現頻度が高い。複数なら一匹を残して射殺、その一匹をベルにあてがう。

「昨日習ったことをちゃんと活かすんだ」

 瓜生に言われ、

「正しく歩き、腰で正しく斬る。足は高く上げない、腰を落としたまま、深く息をして」

 そう言いながら、ベルはゆっくりと歩き、斬っていく。

 十数秒に一度は、ゴブリンやコボルドが出る。それを、歩きながら有利な位置をとり、斬る。

 ひたすら繰り返す。

 五十体も斬ったら、疲れる。【ステイタス】のおかげで、ベンチを千度斬ってもなんともないのに。

「疲れてる時こそ呼吸だ」

 瓜生は言いながら、同じことを続ける。淡々と撃ち、弾倉を交換し、暇があれば空弾倉に弾をこめる。

 ベルが肩で息をしたところで、

「そろそろ時間だな」

 と、瓜生が切り上げた。

 床は魔石と空薬莢が大量に転がっている。

 瓜生は壁を撃ち、竹熊手で掃除をし、集まったものをなでた。空薬莢は消え失せ、魔石だけが残る。

 それを袋に追加して、かついで出入り口に向かう。

 出現するモンスターは、ベルに任せて。

 

 

「ダンジョンには、心が、悪意があるようだ」

 ギルドに戻った瓜生が、エイナに言う。

「ええ、そうなんです」

「エサで誘い、深入りさせる。なんとか対処できる程度の数を、繰り返しぶつける。それで気づかぬうちに疲労がたまり、気がついた時には包囲される。

 弱った心が何とかなると間違え、逃げることに徹しなければ……一つでもミスや不運があれば、一気に全滅」

「そう、まさにそうなんです。……え。なぜそれがわかるのに、無傷で生きてる……?」

「それよりも、それを防ぐ方法を教えなければ。二組のパーティが協力して、常に戦うのは一方だけでもう一方は警戒に専念とか」

「そ、そうね……ごまかされないわよ。何階まで行ったんですか?いくら経験豊富でレベル2でも、ダンジョンの危険は格別なんですよ?」

 エイナの目に瓜生は苦笑し、

「スキルは公開してはならない、と神ヘスティアが言っていた。でも実際に、今日は危険をまったく感じていない。今日の五十倍のモンスターが出現しても、傷を負わずに対処できる。

 どうすれば、スキルを公開せずに実力があることを理解してもらえるだろうか?」

 エイナは頭を抱えていた。

 二人の脇には大荷物が置かれているのに、換金した魔石はエイナの言いつけを守った場合、得られる程度である。

 ベルの赤い瞳は、どうしようもなく正直だった。

 

 ギルドを出たときには、もう黄昏がせまっていた。

「エイナさんのお叱りの方が長かったかもな」

 そう言っているが、瓜生はエイナには感謝している。言われた通りにはできないだけで。

 

 大荷物を背負ってギルドを出るとき、近くでうろついていた、小さい男の子の狼人が声をかけてきた。

「ギルドで換金できないものでもあるのかい?」

「換金してくれるのか?何割が相場だ?」

「二割」

「二割五分でいい」

 そういってしばらく待つと、少年は大荷物をかるがると担いでいき、空袋と金袋を持って帰ってきた。

「助かったよ」

 受け取った瓜生はごく小さい声で、

「本当のお駄賃は、そこの赤い屋根のオープンテラスの、手前から二番目の植木鉢の下に隠してやる」

 と言って歩き出した。

(どうせぼられているだろう。でも、こいつも搾取されているだろうし、せめて少し手元に残るように)

 瓜生はそこまで考えている。

「変な冒険者……でも、冒険者は……」

 狼人の少年は、そうつぶやいて見送った。

(なんとか隠して、今日の分をやつらに渡してから……汚物でも入れて笑う気かもしれませんが)

 瓜生は実際に、そのオープンテラスによって休み、スプーンを落として拾おうと植木鉢をいじり、ついでにパウンドケーキを買って立ち去った。

 夜になってから、猫人の少女が植木鉢の下から一万ヴァリス見つけ、驚いたものだ。

 

 帰り道に『バベル』のヘファイストス店に寄った。ベルがあちこち見ている間に、瓜生は100万ヴァリス程度の、刃7センチ程度で細身のナイフを買った。

 それまで集めた話で、

(この世界は、おれの常識が通用しないかもしれない)

 と思ったからだ。

 モンスターの時点で非常識だが、それ以上に。

 

 夕食は昨日買ってきた食物を、瓜生が調理した。

 鶏肉・豚肉・牛肉、それにヘスティアが持って帰ってきたバイトまかないのジャガ丸くんを加え、大きい圧力鍋で煮たスープ。

 焼いたソーセージ。大きい丸パン。

「使った分たっぷり食べろよ」

「うん!」

 とヘスティアがかぶりついているのがほほえましかった。

 そういうときには、ベルは妹ができたような表情をする。

 食事の時ヘスティアが、

「今日はどうしたんだい?」

「すっごいんですよウリューさんは。

 火を噴く棒で、何百というモンスターが全部死んでいく。それに鉄板でできた、引っ張らなくていい車で、どんどん奥に。

 どんな大きなモンスターもすぐ死ぬんですよ!

 それで、60万ヴァリスも稼いできたんです!」

「無理はしてないかい?」

 ヘスティアの白い目に、

「おれは金は必要ないことは知っているだろう?ダンジョンを見てきただけだよ。ダンジョンで稼いだ金は、気にせず使っていい」

 

 食べ終わってから瓜生は、スープの残りに水煮インゲン豆とカボチャを入れ、塩を多めに追加して煮ておいた。

 

 それから瓜生はベンチやバーベルセットを〈出し〉、ベルにベンチプレス・デッドリフト・スクワットの三つを教えた。

「限界がどれくらいか、やってみろ」

 と、次々に円板を追加し、五回で限界になる重さを見極める。

【ステイタス】のせいで、下手をすると小学生に見えるベルが、運動部の高校生男子以上を上げる。瓜生は驚いていた。

 

 また業務用クラスの大型ルームランナーを〈出し〉、トレーラーハウスのエンジン電源とつないで、使い方を教えた。

 心拍数を測定し、一定以下になったらブザーが鳴るようにした。

「戦いは、足腰がすべてだからな」

 そう言って走らせる。

 20分。背中に負ったバッグから伸びるストローで薄めたスポーツドリンクを飲みながら。

「あんまり無理しちゃだめだよ」

 とヘスティアが言うので、簡単なストレッチングを教えて整理運動をして【ステイタス】を更新してから、しばらく瓜生が二人に読み書きを習った。

 

 二人が寝静まってから、瓜生は【ヘファイストス・ファミリア】で買ったナイフを試してみた。

 硬度……モースで9と8の間。サファイアとトパーズの間だ。鋼よりずっと硬い。

 さらに曲げるのにかかる力を測定する。目や手を防護し、横向きに固定した万力で先端をはさんで、柄に鉄パイプをかませてテコとし、その先にバーベルを追加していく。

 合同に近い炭素鋼ナイフと比較して。

「30度曲がる力が、14倍だと?しかも完全に戻った……もう別世界だな。物理学にケンカを売ってるのか?それともおれが知らない最高の素材なら、これくらい可能なのか」

 下層・深層には、こんなきわめて高価な武器で、やっと通用するモンスターがいるという。

 ならば、自分が知る大型獣に必要な銃より強力なものが必要である可能性が高い。

 瓜生は夜遅くまで装備を再検討し、出してはマニュアル片手に操作訓練をした。




ご都合主義独自設定として、ダンジョンの通路・階層間通路は、小型RWSつき軍用車でも通れるぐらい広く高いとします。下層は主力戦車も通れる、と。
バスや橋梁戦車、大型ミサイル車が通れる、ということはしませんが。

ちょっと階層に合わせてモンスターを調整。
少し機関銃についての描写を修正。
装甲車の種類をもう一度変更。四輪だと縦穴が不安なので、六輪で極力コンパクト、RWSが使えるもの、と。
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