ダンジョンに近代兵器を持ちこむのは間違っているだろうか   作:ケット

53 / 99
魔剣鍛冶

 

(ラキアの攻撃は、時間稼ぎでしかない……)

 そのことは、すぐフィンにはわかった。普通に指揮をしていてもわかっただろうが、今は瓜生にもらった無人機群がある。

 空から手に取るようだった。オラリオに実質閉じ込められている冒険者たちより、何度も侵攻しているラキアの方が地理を知っていると言われていたが、その優位は即座に消えた。

 たとえどちらも恩恵がない兵を率いていたとしても、4倍までなら、

(確実に勝てる……)

 ほどの優位だった。

 時間稼ぎの目的も見当がついた。

 それからなぜか、ヴェルフ・クロッゾは妙に忙しく仕事を言いつけられ、しょっちゅう団長の椿・コルブランドに絡まれることになる。

 

 

 半ば気分転換に、ダンジョンに行こうという話になり、【ヘファイストス・ファミリア】の許可もとった。

 対ラキア戦で強制任務のレフィーヤは不参加だが、ベル、ビーツ、命、ヴェルフ、リリ、春姫とほぼフルメンバー。それに武威と、新しくやってきたソロもついてくる。

 武威とソロは18階層から2日ほど深層に行き、他は18階層に泊まって帰る予定だ。

 ソロは『学校』で常識や文字を学んでいる。神々が地上にいることには驚いたが、理解したようだ。

 運動は、武威のような存在があるので特別クラスが設けられている。

 だがソロは、運動には熱心とは言えない。

(戦いに倦んでいる……)

 ところがある。

「最小限暮らせればいい」

「剣を教えられれば」

 という。

 ソロの深い深い悲しみを察したヘスティアが、まめまめしく世話をしている。

「彼の過去は、彼が話すまで聞いちゃだめだ」

 とヘスティアに言われ、ベルたちも好奇心はあるが黙っている。

 

 ダンジョンの2階層で、少しだけ試してみる、とソロはゴブリン相手に剣を抜いた。

 こちらに来た時の装備ではなく、袋から鋼の装備を出している。

 その袋も、とんでもないものだった。事実上無限の容量、ただし一種類当たり99個。

 それ、または同様の能力があれば、戦闘力がなくても春姫同様守られて、18階層まで荷物を大量に輸送することで欲しいだけの金が得られるだろう。

 実はリリも大重量の荷物を運べるので、大金を稼ぐことはできたのだが……【ソーマ・ファミリア】の者がそれを理解することはなかった。サポーター、弱者に対する軽蔑と嗜虐が先に出、また長期的に投資して多く稼ぐことを考えない、むしろ考え協力することを軽蔑する、ならず者らしい心理が強かったのだ。

 襲うゴブリンが、突かれて魔石を砕かれ灰になる。

 なんということもない。冒険者になって半年ぐらいの普通のレベル1が最弱のモンスターを突き殺したのと、それほどは変わらない。超高速でもない。壁まで剣ビームで貫いたなどということもない。

 だが、ベルは胸を打たれた。ただ、突いて戻っただけ。それが何とも美しいのだ。無駄がない、とことん。アイズやフィンのように。武神タケミカヅチのように。

(若いのに、どれほどの戦いをくぐりぬけたものか……)

 武威は静かにうなずくだけだった。彼はまだ鎧を脱げない。

 ソロから感じる、超常の生まれと素質。正しい基本。どちらも圧倒する、莫大な実戦経験。

(戦いの数は、オレや鴉も、戸愚呂兄弟も及ぶまい……)

 と思えるほど。

 戦いの回数は、アイズ・ヴァレンシュタインらも似たようなものだろう。だが、常に自分と同等か、むしろ強い敵と戦ってきている。

 

 ビーツはナイフを抜いて、ソロの動きを何度となく真似ながらついてきた。彼女の天才は、剣士の動きを正確に目に焼きつけている。

 彼女は背の腰骨近くに2本同じ大型ナイフをつけている。刃長約24センチ、左右両方から柄が少し横に出て、どちらの手を背に回してもすぐに抜けるよう。前は瓜生が出したものだったが、ヴェルフが打ったものを使っている。

 できるだけ似せ、同等以上の切れ味と耐久性がある、と一本ずつ完全にダメにする過激なテストで証明してのことだ。

 何度椿や、ほかの先輩の斧にナイフや刀剣を叩き折られ、『恩恵』もない異界の大量生産品と知るナイフや刀剣が半ばちぎれながら耐え抜くのを見せつけられただろう。

 その都度、死にたい……いや、それで死ぬベルやビーツを心で見て、内心絶叫し号泣しながら打ち直して、また砕かれた。

 またある日。ヴェルフは初心者用の下級鍛冶師が打った安物フロアに、

「レベル1以外立入厳禁」

 と書かれたコーナーを設営する雑用をした。『ドウタヌキ』を何十も展示したのだ。

 ずらずらと、刃は38センチ前後と短めで厚い、柄も鞘も購入後別売りで長い中子がむきだしの片手半剣。予備武器(サイドアーム)によい。安い。

 四方の壁、扉にも無数にかけられている。どれも銘はなく、番号だけがある。

【ヘファイストス・ファミリア】の若手たちが、

(折れない、切れる、滑らない……)

 それだけを考えて打った飾りも美しさもない品が並んでいる。自分のもあり、どうしてもにんまりする。

 何人かで展示を終え、最後に掃除をしたヴェルフがさらっと見回したとき。その3点が目に飛びこんできた。

「ヘファイストスさま……椿……こ、これは……」

「神ゴブニュ。気づいただけでも上等じゃ。買うなよ、未熟でも目がよい、すなわち才がある者、または運がよい者に買わせたい」

 と、ちょうど来た椿に言われた。そして自分のを見つけられ、

「これか。これでこの主神(ばけもの)に、魔剣という才を使わずに勝とうと?何千年も生きねばな。食べ物に気をつけ長生きしろよ」

 と、主神ヘファイストスの作と見比べられ、鼻で笑われた。

 椿自身も、自分の作と鍛冶神二柱の作を見て、手から血が垂れるほど拳を握っている。

 ヴェルフは、後ろで物静かに歩いている武威とソロ……これほどの強者に使ってもらえる武器、またベルやビーツがそれほどの強者に追いつけるほどの武器を、どうすれば打てるのか……狂おしいほどの思いで、ミノタウルスに大身槍を突き刺している。

 

 ソロはベルの憧れの目も、ビーツのただ歩いている姿からも何か盗もうという目も無視し、目を伏せて悲しげについてきた。

 12階でシルバーバックを一頭倒し、あとはまったく剣に手もかけなかった。鋼の剣でシルバーバックの毛皮と肉を貫いたことが異常だが。

 もう戦う気はない、というか武威もだが、未恩恵でダンジョンに入るのは本来は禁止。護衛されての観光と言うことになっているが、エイナなどは実情を察している。

 17階までは急ぎ足で、主にヴェルフと命が戦った。

 久々にビーツも戦ったが、数日前とも別人の実力には驚かされた。

『武装闘気』の光が体に収まるのがとても早い。レベル2でも見えないほどの槍、ミノタウルスでもゴブリンのように即死する。

 ソロや武威もうなずき、ベルは身近すぎるライバルの成長に燃え、ヴェルフは悔しい以前に圧倒されていた。

 また、『クロッゾの魔剣』、ヴェルフが持ってきた【ヘファイストス・ファミリア】製の微小魔剣を用いた銃、そして瓜生が出した消音銃と予備武器もリリのバックパックやソロの袋におさまっている。リリはうぬぼれるな慎重にと叫ぶが、武威とソロも戦いに加われば、このまままっすぐ60階層を目指しても、

(いけるかもしれない……)

 と思えるほどの戦力はある。

 

 17階、階層主ゴライアスがいた……が、ベルとビーツが瞬殺した。

 リリのフラッシュライトが目をくらませた一瞬でビーツが巨人の拳を打ち落として最適な場所に入り、腰をきめて股間に突き入れた槍を跳ね上げる。巨人がラグビーボールのように天井に叩きつけられ、落下する……そこにベルが数秒チャージし呪文を唱えて刀に稲妻を落とし、振りかぶったとも見えぬ袈裟。

 閃光烈音とともにベルの胴体より太い首が飛び、巨体が灰になった。

「レベル詐欺……」

 と誰もがつぶやいたほどの、圧倒的な強さ。

 ビーツは槍の修行として、3つの技しかやっていない。『学校』でも同様だ。槍先で時計回りと反時計回りで円を描き、突く。それだけに、

「槍・拳・肘のすべてがある……」

 と、武神タケミカヅチは言ったものだ。

 右手を前に槍を持ち、反時計回りの円を描いて真上から落ちる拳をそらし落とす。引いて深く突く。半径の大きな時計回りの円の、7時から11時までを描くように巨人を放り上げる。それだけだった。すさまじい足腰がそれを可能とした。

 命とヴェルフは、同時に湧いていた多数の、ミノタウルスやライガーファングなど実力のある雑魚相手に戦い抜いた。命は春姫の魔法を受けてランクアップし、すさまじいはたらきをした。

 ライガーファングに囲まれたヴェルフを助けたのが、大太刀をふるう椿だった。

 モルドたちは助けを求めたことをおくびにも出さず、獲物の横取りと叫んで分け前は拒んだものだ。

 

 ベルたちが18階に着いたとき、まず冒険者たちがヴェルフに魔剣をと叫んだ。激しい怒りとともに断ったが。

 18階の変化も驚くほどだ。いくつもの寝台車が心地よい寝床を提供し、風呂まである。食堂車もあり、『豊穣の女主人』ほどではないがそれなりの料理がある。

 ベルたちは逃げるように森に隠れ、ソロの袋を試していた。ここでもちゃんと使えるのかどうか。

 ビーツの空腹もあり、瓜生が入れていた膨大な量のシリアルとヨーグルト、チーズとドライソーセージを出して食べていた。一種類につき99個、だがシリアルだけでも膨大な種類があるので、ほぼ無尽蔵に持ってこれた。

 ソロが袋からはぐれメタルの名を冠する武装を出し、ヴェルフが歯噛みをしていた時だった。また椿がやってきた。

 椿は叫んで飛びつき、すさまじい目でなめるように見、

「譲ってくれ!なんとしても、これ以上のかわりになる装備を……いや」

 椿の声は途中でしぼんだ。

「ベル?」

「はい?」

「お主のところに突然出てくる強者は、抜け殻ばかりなのか?こちらの……すまん、ましになったようじゃな」

 椿は武威に目を向けた。彼が立ち直ったことも見抜いている。

「ええい、元気が出たらでよいわ!」

 と呆れていた。

 そう言われたソロは、怒りもせずに受け入れている。

 それから椿は、ベルとヴェルフに何かと絡んでいた。

「すごいなあ……瓜生殿の故郷の武器製造は」

 椿は熱く語り始める。

「あ、その、それはないしょ」

「なに気にするな!もうあちこちのファミリアが作り始めておる。あやつは気前がよいゆえな」

 そう危ないことを叫んでいた。

 また、ビーツを見て、

「ほう!またも腕を上げたな。勝負といこう」

 と、伸縮する仕込み槍で挑んだ。

 まもなく、構造上不利なはずの椿の仕込み槍が、ヴェルフが必死で素材を吟味し、中芯に何種もの金属素材を合わせて撚り合わせたビーツの素槍を折ってしまった。

「つまらんのう……この程度しか打てずに」

 それ以降は、もう言う必要もなかった。

 おのれの才を全部費やさずして、主神に勝てるとでも思うのか。

「……それどころか、先に何があるか見えておらんな?そなたが作った銃を、そのまま車で曳くほど大きくすればどうなると思う?」

 ベルがはっとした。対戦車砲の威力を、人工迷宮で見てしまった。

「まあ、手前も先は見えてはおらん。ただ主神の後だけを追っていればよかったが、別の事もある。そこの武威殿にふさわしい武器は、主神にも打てるだろうか……精進せねば、ヴェル吉を笑えん」

 ヘファイストスにも限界がある、それはヴェルフにとっては衝撃を通り越していた。

 だが、核兵器の映画を見せられたベルやリリは、確かに剣の良しあしなど問題にならない世界を知っている。

「弁償に、帰りはこの槍を使え」

 と、椿はビーツに仕込み槍を差し出した。

 ビーツは、

「槍で入られてから、素手で戦う練習もしてる」

 と、素手で構える。

(高価な武器より修行をくれ……)

 と、いうことだ。

 椿はうなずき、短刀を抜く。

 力を抜いたビーツの体を、また分厚い光の衣が覆う。少女が深呼吸し、深く姿勢を正す中、光が少女のしなやかな体に吸いこまれるように消える。どっしりと腰を落とした。

 椿は短刀をさりげなく構えた。基本を極めた、はっとするほど美しい構えだ。

 ソロが両方の構えを見て、歯を食いしばった。二度と会えぬ仲間を思い出したものか。

 そして超高速で、何度か激しい打ち合いがある。

 ビーツの深く腰を落とし、地面を洗面器ぐらいのクレーターにして放つ拳。幼いころから習った拳法の延長で、タケミカヅチにより深められている。一度だけ見た、ソロの突きも吸収しているのがわかる。

 椿の基本を極め、全身を錐とする短刀。

 しばし戦う。突然、ふっと武威が椿を、ソロがビーツを抱き止め引き離した。

「え」

「ははは、すまんすまん、手加減できんかった。エリクサーは持っておったが」

 と椿は大笑いし、エリクサーを半分飲んで残りをビーツにかけた。

 見れば、ビーツの体には深い傷がいくつもある。命が悲鳴を上げた。

「こちらも、外からは見えぬが肋骨4本と膵臓が粉砕されておる。止めてもらえねば、そちらは細首が飛び、こちらの内臓から背骨まで挽肉になっておった。エリクサーでもだめだったやもしれん」

 と椿は笑った。それほどの傷で平然と笑っている精神力もすさまじい。

 椿と相打ちということは、ビーツの実力が低くても4最上位に至っている、ということでもある。

 さらにソロも武威も、その高速戦を見切っている……同等かそれ以上なのは明らかだ。

「また、強くなれた」

 とビーツはむしろ喜んでいる。

 

 その夜、寝床から出て夜の湖畔に座っていたヴェルフのところにベルが行った。

 深く落ち込む姿に何と言っていいかわからず……なんとなく、核兵器の話をした。

 映像で見てしまった瓜生の故郷の、神々が天界で用いた兵器に匹敵する威力の兵器。オラリオの人口に匹敵する、十数万人の無残な死。人類を滅ぼすことができる武器を配備するという愚行。そして原爆を作り、その結果に後悔して失脚したオッペンハイマーと、国家と反共に狂い際限なく暴走したテラー。

 話していて、ふと気がついた。

「どうした?」

 ヴェルフが、はっとして黙りこんだベルを心配した。

「……ウリューさんは、それを使えるのかも」

 オラリオを更地に……いや、ダンジョンのふたを開ける、さらにその下を何度も爆破して底まで破壊しつくせる力。

 ある夜、彼が言ったことを思い出す。

「まあ、ダンジョンをどうにかしたければ、冒険者たちを退避させて大量の水か水銀を流しこんでやっても……でもそうしたら魔石産業が……そうだダンジョンさんは、明日から何も出しませんよ、とやるだけで人類を壊滅させられる……」

 悪すぎる冗談だ。

 ヴェルフは、もう衝撃などを通り越して黙ってしまった。

「ううん、もう頭がどうかなったら、修行しよう!」

「ああ!頼む」

 と、ベルもヴェルフも武器を抜いた。

 翌朝、

「ダンジョンで寝不足でボロボロなんて、そんなに死にたい、いや春姫様も殺したいんですか!」

 と、リリに怒られつつ、ヴェルフはボロボロの武器を修理することになる。

 

 

 翌朝、武威とソロはベルたちと別れて深層に行った。

(ソロの当座の生活費もある、3日ほどもぐる……)

 とのことだ。

 袋から大量に取り出された高カロリー食物を背負ったリリと春姫を守りつつ、地上に帰った翌日。

 ヴェルフが、【ヘスティア・ファミリア】のホームの増築を見に出かけたとき……

 捨て去ったはずの過去が、血筋の呪いが襲った。

 ラキアに置いてきた父。

 その卑劣な脅迫を受けたヴェルフは、翌日いろいろと調べたり、ベルに頼んで色々見せてもらったり、できる限り最高の剣を打ったりした。

 

 

「よく来たな、愚息よ。では……」

 ヴェルフは苦々しげに言った。

「いや、いくつか言いに来ただけだ。

 俺があんたらについてって、魔剣を作ったとする。それでラキアがまた森を焼く。そしたら魔剣がまた砕けて、俺は魔剣を打てなくなる。元の木阿弥ってやつだ。

 そんなことも考えずに、三万の軍を動かしたのか?」

「黙れ!」

 激昂して叫ぶ父親を半ば無視して、ヴェルフは語り続ける。

「それに俺がそっちにいって、魔剣を打つ。年に200打てれば多い方だな。ああ、女もたくさんつけてガキがたくさんか。でもそれ全員が魔剣を打てるとしても、産んで育つのに15年はかかるだろ。

 そのころには、このオラリオやその周辺がどうなっているか調べろ。年間1000本の『クロッゾの魔剣』なんておもちゃでしかねえよ」

「ばかを言うな!」

「これを見ろ」

 と、ヴェルフは持ってきたトランクを開け、ぶちまける。

 ナイフが百本以上転がった。魔剣とわかる。

 普通に売られるナイフとは異質な、簡素すぎる、切り出しを細長くした三角形の刃。量産性に特化したナイフ。

「俺がそっちで、『クロッゾの魔剣』を一本打つ間に、こっちじゃ上級鍛冶師がそれに劣る魔剣を、これだけ作れる。いや、数年もすれば何万にもなる。

 大量生産技術を、オラリオは手に入れたんだ。『クロッゾの魔剣』なんて、時代遅れなんだよ」

「ふざけるな!愚息め、一族の誇りを、希望を、クロッゾの」

 と、魔剣でない斧を手にした父親に、ヴェルフはトランクから別のもの……短銃を取り出し、光点を当てると撃った。

 斧の刃が貫かれ、手の痛みとともに吹き飛ばされた。

 ものすごい音、風穴があいた分厚い斧刃に、侵入者たちも凍りついている。

「【ヘファイストス・ファミリア】製の、魔剣を利用した遠距離攻撃武器だ。レーザーはあいつだがな……第一級冒険者が全力で引くクロスボウ以上の威力。今後はこれが普及する、車で曳くでかいのから、懐に入る大きさまで。『クロッゾの魔剣』だ?笑い話にもならねえんだよ!!」

「言葉など聞かん!貴族に、個の人などない、家と国家だけだ!腕だけを差し出せ!腕だけだ、言葉などない!このオラリオを焼き尽くしてやる、50人が指一本動かせば……」

 父親の絶叫は、ヴェルフの心を何よりも貫いた。妄執。おぞましい化け物。

「ねえんだろ?」

 ヴェルフは深い深い悲しみを押し殺して、鋼のような声を出した。

「こんな作戦に大量の魔剣をぶちこむことは、いくら主神がバカでも王子が止める。それ一本だけだろ?いや、無警告でオラリオを火の海にしてから、俺を力技でさらうほうが可能性は高い。一応2や3はそっちにも何人かいる」

「な……なぜお前だ!儂がその能力を持っていれば、一族を復興させ国も」

「そうだとしたら……もしラキアがクロッゾを復活させたら、オラリオの上級冒険者エルフがブチ切れる。『九魔姫』『千の妖精』、【フレイヤ・ファミリア】にも第一級冒険者が何人もいる。魔剣の数がそろう前にラキアは無人の更地、頭蓋骨の山だ」

「黙れと言っておるだろうがああああああああ!みな、かかれええっ!」

 父の絶叫を哀しく聞いたヴェルフは、静かに別のトランクに触れた。

 瓜生がサンプルとしてくれた、アタッシェケースサブマシンガンを改造し、【ヘファイストス・ファミリア】製の最小の弾薬を連射できるようにした銃。

「そこまでじゃ」

 椿・コルブランドの声。そして【ヘファイストス・ファミリア】の鍛冶師たちと、【ロキ・ファミリア】の精鋭。

「う……」

 ヴェルフは棒をのんだような表情をした。

「狙いはフィンが読んだ。ヴェルフを監視していた」

 椿がにやりと笑った。

「クロッゾの再興など、許すと思うか」

 美しく権威にあふれた声が響く。

 天外に美しい、女神に匹敵するエルフ……エルフの王族、レベル7『九魔姫』リヴェリア・リヨス・アールヴ。傍らには『クロッゾの魔剣』を憎むアリシア・フォレストライト、レフィーヤ・ウィリディスら、何十人もの【ロキ・ファミリア】の名のあるエルフ冒険者が並ぶ。【フレイヤ・ファミリア】の第一級冒険者すらいる。

「ヴェルフ・クロッゾ……そなたの言うとおりだ。ラキアを滅ぼすことをためらうエルフはいない」

 リヴェリアの美しい声が響く。

「ちっ……」

「あ、ああああああああっ!」

 やけになってヴェルフに殴りかかる父親を、息子は殴り返した。

 そして熱く叫び続ける。瓜生がもたらした容赦のない時代の変化、それでも変わらない鍛冶師の情熱を。誇りを。

 瓜生の故郷にも、鍛冶師の情熱が、鉄と語り合う男がいることを、銃身が歌う鋼の声から聞いているから。

 

 祖父が投降を告げた。

 そしてヴェルフは、激しすぎる感情にただ茫然としていた。

 椿は、ただ、

「昨日、瓜生の言葉を聞いていなかったのか?それも考えてみよ」

「立ち聞きしてやがったか……」

 ヴェルフが椿をにらむ。椿は悪びれもしない。

「あれはあれで真実じゃ」

 

 前日、瓜生はヴェルフに、いろいろな話を聞いた。核弾頭にも触らせてもらった。

 ヴェルフが魔剣を作らない理由を聞いた瓜生は、ため息をついて言った。

「おれの故郷でも、武器を大切にしろっていうよ。

 刀を使っていた故郷の国では、刀は武士の魂だと身分のしるしにもなった。故郷の国が銃を使い大量生産をするようになったら、銃は神である王さまからもらったから命より大事だ、って、部品一つなくしても残忍な死刑だった。

 故郷の、別のすごく強い国の精鋭軍も、ライフルは最高の友だ、という誓いを暗記ししょっちゅう全員で叫ぶ。

 だが、どれも……国というばけものが、男全員……女も含む国があるか……とにかく命令に従って殺され、殺す機械に作り変えるためだ。国のすべてはそのためにあるんだ。

 上官が間違って崖を指差して進めと言えば、一言も問い返しもせず文句も言わず、最後まで指先も背筋もピンと伸ばして歩いて落ちていく。ああ、『恩恵』がないから絶対死ぬと承知でだ。考えるのは兵士の仕事じゃない。また女子供を一寸刻みにし、見渡す限り皆殺しにすることを心から楽しむ。

 人間はそうでなければならない、人間をそんな機械に作り変えるために、すべてがある」

 そう言った瓜生の、人間に対する嫌悪感に、ヴェルフは心底震えた。それでいて、瓜生は持っている武器を大切に手入れし、メンテナンスにもうるさいことを聞いている。

 ベルが冒険を始めたころ、武器を研いでおけ、と言われたことも。

「安全で強力な爆薬を、それを作る工場、企業を作ったノーベルという男がいた。彼はそれが多くの人を殺したことを知り……それでも儲けて、死ぬときに遺言した。

 この金で、科学、文化、平和に貢献した人に賞を。それはおれの故郷の文明を大きく進歩させているよ。

 だが、その会社が今も世界でも大きな武器会社で、多くの虐殺者の凶器を作っていることには変わりない……」

 それほどの、武器の業。もう、魔剣も何もない。ひたすら圧倒されていた。

 

「それに、あの子は言ったのよ」

 捕虜などの処理を終えた……リヴェリアたちエルフにゆだねるわけにはいかない、エルフはクロッゾ一族を憎んでいるのでエルフ以外の鍛冶師たちにゆだね、『ギルド』へも報告した……主神ヘファイストスも話に加わる。

「『おれには究極の武器なんてない。1Mならナイフ、4Mから20Mなら手榴弾と大口径フルオート、もっと距離があるなら重機関銃、1000M以上で準備期間があれば……』って。鍛冶師にとっては最悪よね」

「時間と、巻き添えがいない場所さえあれば、49階の怪物が何万いようと一発で消せる、とも言っておったな」

「そう。オッタルが、私の最高の剣を持ってもそれは難しい……私の剣も、究極の武器なんかじゃない。私が天界で作ったような、大量破壊兵器が究極の武器なのかもしれない。でもそれを使えるあの子も、近距離では弱い。

 そしてあの子は言ったわ。精密な定盤、高純度の金属、試行錯誤と科学……それが大量破壊兵器への道だって」

「まったく、とんでもない奴よ」

 椿も呆れている。

「あなたも、やることがあるでしょ?」

「やれやれ、団長などなるものではない。ひたすら鉄を打っているのが楽しい。定盤を削るのも悪くはないが」

 そう言われた椿は、団長としての仕事を果たしに出かけた。することは山ほどある。

 

 まだ苦しみ混乱するヴェルフ。そしていつしか話は、ごほうびの話になり……

 ヴェルフの情熱的な告白、そして女神ヘファイストスの、醜い顔の半分を直視して、それでも言い切った言葉。

 それ以来、ヘファイストスは親しい者の前では、すっかりのろけ女神と化してしまったという……




虐殺で脅迫したラキアに対して、もう一度砲火で警告するべきですが、それでもヘスティアの拉致をやったときに皆殺しをせざるを得なくなりますので……
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。