ダンジョンに近代兵器を持ちこむのは間違っているだろうか 作:ケット
瓜生は、ウィーネの件について伝えておくべき人数を固めた。
ヘスティアが知らせたのは神友……タケミカヅチ、ミアハ、ヘファイストス。
レフィーヤも見た、ということはロキも間違いなく知っている。ヴェルフや、『豊穣の女主人』のミアとシルも知っている。
まず、【ヘスティア・ファミリア】の新入生たち。
それから【ロキ・ファミリア】の幹部。
「【ヘルメス・ファミリア】は信用していない。あの神ヘルメスはベルを、人間の悪意を学ばせようなどとほざいて襲撃させようとしたことがある」
瓜生の言葉に、ヘルメスにはいろいろな意味で世話になっているベルが目を見張った。
「え?」
「エビルプリーストを思い出すな……ピサロを本当の魔王にするためと、ロザリー襲撃を裏で仕組んだ」
ソロが拳をきつく握りしめる。
「アリストートスみたいなやつだな……そういう間違った忠誠心も危険だが、ヘルメスは自分の楽しみのためだからもっとひどい」
黒いゴライアスを倒したベルを見た時の、ヘルメスの予言じみた絶叫は【ロキ・ファミリア】が全部聞き取って幹部と瓜生に伝えている。
「それに、殺生石の運び屋でもあった。用途は知っていたはずだ……人命など屁とも思ってないんだ奴は。眷属も、そんな奴に忠実だ」
春姫と命が身震いする。
「逆に、【ヘルメス・ファミリア】はこちらから調べるべきだ」
「はい。ルルネ・ルーイに追われそうにもなりました」
リリが不愉快そうにする。
「おまえも重要な身だ、危険は犯さず人を使ってくれ。人を信用できないのはわかるが、人を使えなければこれほどのファミリアを守るのは無理だぞ」
「ウリュウ様の、同時に複数の情報屋を使って相互に確認する、あれをなんとか使えるようにします。ものすごくお金がかかるのですが」
リリがため息をつく。
新入生たちはみな、異様な雰囲気を察していた。
ベルもヘスティアも、追い詰められたような感じになっていたのだ。もともと腹芸ができない人たちでもある。
それが目に見えているのに言ってもらえない新入生たちは、かなり爆発寸前だった。やっと全員が集められた。
「長いこときみたちをないがしろにして、こちらだけでいろいろ動いていてすまなかった。あとは……ベル団長から」
主神ヘスティアの言葉に、全員が注目する。『学校』で、壇上の一人を注目することを訓練してきた。
いや、学校というのはそれ自体が、「整列し、一人に注目して服従を態度で表明しつつ話を聞く」ことを訓練する機関に他ならない。それは瓜生の故郷の、近代そのものの本質でもある。あえていえば、九九も文字も覚えなくても、整列行進ができればいいのだ……敵の砲火にかまわず命令に服従して歩く戦列歩兵を育てるのが、本当の目標なのだから。
注目する新入生たちに、ベル・クラネルはまず深く頭を下げた。
「ごめんなさい……これから、非常識で、とんでもないものを見せます。そして、みんなをものすごい危険に巻きこみます」
全員、かなり混乱した。
「どうか、騒がず、暴れず、見てください」
そう言って、ベルはウィーネを招いた。
瞬間、パニックになろうとする新入生……それを、低い声がふたつ叩いた。
武威とソロの、音量そのものは小さいが強烈な気合。超絶強者の「威」は、動物的に新入生の心に衝撃をぶちこんで黙らせ、強制的に納得させた。ミノタウルスの『咆哮』にも似た威力だ。
【ヘスティア・ファミリア】はもともと狙われている。
瓜生がオラリオに来て間もなくから、銃声とすさまじい破壊力で『妙な音』の噂が立った。
それを狙った【ソーマ・ファミリア】を滅ぼしもした。
魔剣鍛冶。魔剣の大量生産。クロッゾの魔剣。それらを中心に、噂を意図的に流しているが、そのどれであっても
(どんな手を使っても……)
手に入れたがるファミリアは多い。
新入生にも、入団前の面接からそのことは強く言っている。
「この【ヘスティア・ファミリア】は強力な飛び道具を大量に準備でき、それだけでも都市中に狙われている。まさかと思うような弱いかかわりでも、いつ拉致されて拷問されるかわからない。
そうならないようにするつもりだが、代償として自由に街を歩くことができなくなる。いつでもチームを組み、監視されながらでなければ外に出られないんだ。
その覚悟がなければ、このファミリアには入れないと思ってくれ」
覚悟を決めて書面に署名した者ばかりだ。
だが、いくらなんでも、しゃべるモンスターと言うのはとんでもなさすぎる。そしてモンスターをかくまう、全人類を敵に回す覚悟をしろ、というのも。
「悪いけど、脱退を認めることもできない。知っているかもしれないだけでも拷問する者は多いだろう。竜女(ヴィーヴル)はドロップアイテムだけでも、とんでもない金になるだろうから」
「ほかにも知らせることはあるんだ。ソロ君がレベル7になった。それと、新しい改宗入団者がいる。冒険者の地位を剥奪されてるけど、レベル5のリュー・リオン君」
と、ヘスティアが追加で放りこんだ爆弾に、新入生たちはもう、
(どうにでもしてくれ……)
という状態になった。
その直後から、新入生全員をダンジョンに連れて行って、S&W-M460リボルバーの訓練を始めた。市街戦に特化、奇襲できればレベル4までなら撃退できる威力はある。
翌日から、常に4人チームを組んだままオラリオを歩き、情報を集めさせた。
しゃべるモンスターの噂は、ベルたちとは関係なく広まり始めている。
さらに瓜生は、オラリオの雑踏のあちこちに小さいスピーカーを隠して設置し、
「しゃべるモンスターがいたってよ」
を含む、あることないことの会話音声を流すことを始めた。
さらに、瓜生は別のプロジェクトも思いついた。以前からホームシアターを作っていたが、それを利用して故郷のミュージカルを、【タケミカヅチ・ファミリア】も巻きこんで上演しようとしはじめた。DVDを流す。同時に瓜生が脚本を朗読する。ある役に選ばれた新入生が、自分の役のセリフ、瓜生が読む言葉を聞いて書き取る。
ほかの準備も、2日で形にするつもりで。
また瓜生が出した着ぐるみをウィーネに着せて、『豊穣の女主人』で働かせ始めた。手の器用さを必要としない仕事のみだが、いいマスコットになっている。そしてレベル6のミア、5になったリュー、4が3人以上……そうそうは落ちないだけの戦力はあるし、元裏稼業が多いので絡め手も警戒できる。
店頭で、神々にも求婚されカジノに狙われた美女、アンナ・クレーズが両親が扱う花を持ってきて、着ぐるみのウィーネと組んで花を配っている。広場で弁当や、小さいおもちゃ、花などを売ることもある。
もちろんそれは大人気になり、『豊穣の女主人』の売り上げにも貢献している。
無論ウィーネは失敗して落ちこむが、
「最初の頃の私よりずっとましです」
と、リューがなぐさめた。
着ぐるみそのものの問い合わせも多数出たし、それを作る服飾【ファミリア】もいくつも出た。そうなれば当然、ウィーネは目立たなくなる。
そしてウィーネは魔物の姿で人間の子供を守っても石を投げられたのに、着ぐるみで同じことをしたら皆に感謝される……人間というものの不可解さ・理不尽さも知った。ベルたちもそれを聞き、深く考えたものだ。
ウィーネが言葉などを覚えるのが早いことを聞き、瓜生はふと文字を用いない知能テストをしてみて……驚いた。
「低く見て180……人間ならとんでもない天才か」
それを知ってからは、文字や算数も習わせることにした。オラリオの文字も、瓜生の故郷の日本語と英語も。
リューは改宗はしたが、そのことは秘密にして店に住み続けている。彼女は冒険者の地位を持っていないので、『ギルド』に報告する義務がない。
ミアやシルにもウィーネの正体を見せ、受け入れられている。
ベルたちは激しい鍛錬を始めた。【アポロン・ファミリア】との戦争遊戯を準備したころのように。
「ウィーネを守るため、何よりも必要なのは実力だ」
と瓜生は言った。
ソロやリューも腕の錆落としと、ランクアップで強化された体に慣れるため、ふたりにとっても格上である武威とダンジョンで激しい鍛錬を始めた。それからベルやビーツ、トグや命、来た時にはヴェルフやレフィーヤもしごく。
特にレフィーヤはリューの事を深く尊敬しており、その鍛錬には大喜びした。
ビーツと武威は、以前からの単純な稽古をさらに厳しく繰り返した。力を抜き、姿勢を正し、呼吸を整え、正しくゆっくりと……常人がフルマラソンを走ったり、厳しいウェイトトレーニングをしたりする以上の疲労を意志で乗り越えながら。ビーツは、並行して足腰と心肺を中心とした近代トレーニングもアイズやベートに劣らないほどやっている。
トグやリリ、ヴェルフや命は、瓜生の指導で重火器の扱いも習い始めた。
ソロとリュー・リオンのふたりは、ベルにひとつのことを叩きこみ始めた。
同じファミリアとして、彼のスキルを聞いてのことだ。
「その『英雄願望』は、何分もチャージして放つのは前衛であるクラネルさんにとって、現実的ではありません。ひと呼吸だけのチャージで攻防一致の剣を、目標とすべきです」
「異様なまでに正しい刃筋と基礎練習の積み上げ、それがベル・クラネルの最大の武器だ」
3か月……ベル・クラネルの素振りの回数は、全国大会に出られる高校レギュラーの3年間にもまさるだろう。
その高水準の基礎は極意に通じる攻防一体であり、磨けば磨くほど切れる。
歩き、ひと呼吸、短いチャージを体幹と足の指先に。徹底的に刃筋を正しく、腰だけ、刃の重さだけで斬る。意識せずにそれができるよう……基礎の反復練習そのものだ。自転車に意識しなくても乗れるように、何千回もの反復練習で、歩くように自然にある動きができるようにする。
チャージを加えた動きを、自転車と同じように慣れるまで繰り返す、それだけのことだ。
歩き続ける、深く腹で呼吸する、肩に力を入れず体幹で斬る……それは最初からタケミカヅチに教えられている通り。それにひと呼吸チャージを加えるだけだ。
そのために膨大な反復練習と、今まで以上の足腰のトレーニングもすることになる。
瓜生とリリは情報収集にも忙しい。莫大な金をばらまき、逆にたどられぬよう慎重に、慎重に……常に、どんな目があるかわからないと警戒しながら。
現に時々、ベルは奇妙な視線を感じる。そのたびに瓜生やソロに報告し、彼らが動く。
オラリオの人が知らない電子的な監視機器が、迷宮都市を覆っていく。
ヘルメス、ロキ、フレイヤ、『ギルド』……愚者。そして密猟者たち、闇派閥。多くの闇の目が錯綜する暗部に、蜘蛛の巣のように、カビの菌糸のように電波と電線、大金でできた糸が侵入していく。
ヘスティア、ベル、瓜生、ウィーネ、リュー、武威はヘファイストスやタケミカヅチを連れて、瓜生が適当に即金購入した空き家(セーフハウス)に行った。
【ロキ・ファミリア】とつなぎをつけて。
何度も、このようなことはやってきた。
道中でも、途中で何度か大きい店を通り抜けたりして尾行を丁寧にまいた。
今回はリリとソロ……『シンダー・エラ』と『モシャス』を使うふたりがヘスティアと瓜生に化け、ビーツが入った着ぐるみを連れて『豊穣の女主人』に行き、アマゾネス姉妹と食事をする、そこまで配慮した。
フィン・ディムナは最初から、小さい身体に見合わぬ威圧感を持って入ってきた。親指がすさまじい何かを訴えている。
ロキもそれを感じ、覚悟したように。ヘスティアとの、いつものケンカもせずに。
そして、着ぐるみを脱いだウィーネを、ロキ、フィン、リヴェリア、ガレスが見てその挨拶を聞く……
そのころ、【ヘスティア・ファミリア】本拠(ホーム)に『ギルド』からの呼び出しがあった。
翌日、『ギルド』に行ったベルは、エイナ・チュールに『強制任務』の命令書を渡される。
その帰り道には、もう瓜生が企画した、演技やダンスが無理なので朗読程度に抑えたミュージカルの初日が野外上演されていた。