ダンジョンに近代兵器を持ちこむのは間違っているだろうか   作:ケット

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エルリアについては独自設定。原作と矛盾が出たらすみません。


遠い戦場

『豊穣の女主人』にぬるぬる液をぶちまけるボタンを押して間もなく。

 ディックスが人工迷宮に入り、出入り口の封鎖を確認した直後、リリルカ・アーデは別の通信機を手にした。

 

 ラキア王国のオラリオ侵攻軍は今も、捕虜として働いている。

 瓜生の故郷の基準は超過しているが、この世界では天国と言っていい週55時間程度。特に、12時間働いたら必ず9時間の完全休み時間を取るように言っている。風呂トイレつきの仮設住宅もあり、食事・医療も行き届いており、娯楽もあるし娼婦も訪れる。

(むしろ天国だ……)

 という将兵も多い。

 恩恵を受けた捕虜たちは、数日前からオラリオと港町メレンを結ぶ道を舗装している。

 途中、200メートルおきぐらいの道端に積み上げられた砂利、砂、鉄コンテナの中の、袋に入った変な粉。それを教わったように水でこねて、均した地面に、決められたように傾斜をつけて塗る。数日すると石のように固まっている……コンクリートだ。

 その傾斜や道そのものを測量することを、むしろ丁寧に教えられている。

 オラリオの土木ファミリアも参加し、思いつかなかったちょっとした工夫ととんでもない精度の道具を用い、学んでいる。

 汗をふいたマリウスの通信機が鳴った。

 

 US-2飛行艇12機の編隊が、次々と湖から飛び立った。

「目標、エルリア」

 ラキアの、虜囚の王子マリウスが正確なコンパスと空撮写真を見ながら、遠くの大国に向けて飛ぶ。

「……何を考えてこんなのがある国に侵攻したんだ。『例のあの人』とやらが、絶対に虐殺をしない人でよかった……」

 そうつぶやきながら。

 空撮写真だけで、絶対に勝ち目がないと言い切れる。

 まして、静かな水があれば短距離離着水でき、大陸を縦断できるほどの航続距離がある飛行艇がある。

 

 エルリアの都は大河を天然の堀にし、街ぐるみ壁で囲った城塞都市。だからこそ、飛行艇がすぐそばに着水できる。

「雷電のように!目的を見失うな!虐殺・略奪・強姦はどんなわずかでも即決死刑だ!そして、死ぬな!」

 マリウスがそう叫ぶと、荷物を背負った戦士が10人ずつ降りる。

 ラキア捕虜から、全員レベル2以上を選んだ。

 さらに【ヘファイストス・ファミリア】団長、レベル5の椿・コルブランドも数人の上級鍛冶師を率いている。それだけではなく、分厚いフルフェイスの甲冑で武装した、奇妙な大男も数人いた。

 あわてて通用門を閉ざした城壁だが、数人が蝶番部分に何かして後退した直後、大爆発が起きて巨大な門が破壊された。瓜生に渡され訓練されていた高性能爆薬だ。

 いくつかの門扉は鍛冶師たちの試し切りに、大根どころかレタスのように両断される。

 混乱の中、魔剣が次々と火を噴く。柄のない切り出し程度の、大量生産品。ひとり200本、常識的には億単位の金額になる。

「王城を守れ!」

「うわああっ、ばけものたちだ!」

「ラキアの旗だああっ!」

「オラリオの旗も」

「【ヘファイストス・ファミリア】だあっ!」

 恐怖と悲鳴。だが、地獄絵図は起きていない。

「絶対に虐殺・強姦・略奪はするな、報酬は充分にある!規律を守って帰ればアマゾネスの美人娼婦たちと蒸留酒が待ってるぞ!」

「おおおっ!」

 マリウスの叫びに、ランクアップした士官たちが声を張り上げる。

 そして怒り狂った数人の異端児が、率先して突撃した。混乱した弱兵の反撃では、頑丈な甲冑と、頑丈な体を止めることはできなかった。

 椿は別の楽しみ兼仕事もやった。瓜生にもらった高性能の狙撃銃と、自分で打ち弾も超小型の魔剣弾を用いた狙撃銃での超遠距離狙撃比べ……

「くそう、まだ及ばぬか」

 と悔しがっている。超一流銃器メーカーが鋼と愛し合う深さは、彼女にこそ伝わる。さらにそれが大量生産だというのだから、

(おはなしにならぬ……)

 ものがある。

 

 

 城兵の読みと、侵攻軍の動きは大きく異なっていた。

 王城を落とすなど考えもせず、いくつかの大貴族や大商人の館を襲ったのだ。

 抵抗を圧倒的な力で吹き飛ばす。ランクアップした冒険者の力はただでさえ、万の兵を寄せつけない。さらに使い放題の魔剣と……ガリルACE53、高性能爆薬、閃光音響手榴弾、催涙ガス弾、M202焼夷弾ロケットランチャーまで持っている。敵の大半が常人、最高でもレベル3なら、7.62ミリNATO弾で十分だ。弾が軽ければ飛行艇にも多数積めるし、AKと同じ機構なので訓練も短時間でいい。

 壁も扉も無意味。超高温の炎と爆発がすべてを切り裂き、守る側の意表を突く。閃光や、激しい涙とくしゃみを引き起こす煙が反応を狂わせ、心を砕く。

 常人とは隔絶した運動能力を持つ冒険者が近代兵器を手にしたとき、それは圧倒的を通り越した力になる。

 守る側の意表を突いたことがほかにもある。目的は貴族自身の首でも、宝物庫でもない。女が多数いる後宮や下女部屋でもない。ひたすら地下だった。

 それを知った貴族たちは恐怖に絶叫したが、手遅れだった。

 

 地獄があった。

 楽しみのための拷問。人のような心が、理知があるからこそその楽しみは何倍にもなる……言葉をしゃべるモンスターたちが犠牲となった。

 大貴族たちは金を注いだ。何千人もの飢え病み死んでいく貧民に、粥と薬と甲冑を与えて精鋭兵にできる金を。河川の流路を変え堤防を築いて洪水を防ぎ、要害と肥沃な農地を作れる金を。千年後まで名を伝える道路や水道を作れる金を。賄賂とすれば権力をより固められる金を。ただ、人間のこのうえなく邪悪な欲望のためにつぎこんだ。支配する人々を飢えさせ、孫が破滅するであろう借金をしてまで。

 椿・コルブランドがとらわれの異端児(ゼノス)たちにハイポーションを与えつつ叫んだ。

「なんという……なんということだ!ああああああああああっ!」

 ショックに動きを止めている、共に戦った異端児たちを見回し、

「おぬしらが、人間が許せぬ滅ぼすと思うのはわかる……だがそうなったときには、手前たちは生きるために戦わねばならぬ。少なくとも手前はやっていない。やっていない女子供を襲う者とは戦わねばならん……」

 椿の言葉も耳に入らないかのように、異端児たちは泣き叫んだ。暴れる力はすべて、次の敵を襲うのに使った。

「同族たちの仇を取らせてくれる人々への恩義……それを忘れて人間すべてを裁いては、自分たちも人間と同類になる」

 そう血を吐くような声で言いながら。

 その地獄は、エルリアの人々にそのまま見せつけられた。

 何十人もの地位のある者、あるいはそこらの貧しい者が、連れてこられて見せつけられた。エルリアに大使館のようなものをおいていた諸国の外交官も……オラリオの使節も。

 ポラロイドカメラも持ち込まれ、適当に撮って見せて何ができるか教えてから、残虐な写真を見せた。

 最前線で戦う者の頭には、ライトとともにカメラがあった。数人に一人は、片手にデジタルビデオカメラを持っていた。その映像を、大画面プロジェクターで容赦なく映し出した。

 ついでに、言葉をしゃべるモンスターという想像を絶する存在も。

 オラリオの使節は、寸前に魔法を用いた通信で、

「この侵攻は『ギルド』の最高意思……神意があると思え」

 と連絡がされている。

 これほどの悪行を許せる者などいない、どれほどの権力と富があっても。ただでさえ、『怪物趣味』はそれ自体が悪の極みなのだ。まして心を、理知を備えた者を……

 民の恐怖と憎悪は爆発した。マリウスや椿が、エルリアの王が裁く必要はなかった。放り出された上級貴族や豪商たちは、群衆によって細挽肉になり泥に混じった。

「罪を犯していない女子供は守れ」

 瓜生の言葉を椿が守り、罪なき者はオラリオに送った。

「甘い奴だ」

 そう椿は言ったが、むしろほっとしていた。

 

 今は王宮ではエルリア王と、ラキア王国王子マリウスが交渉をしている。

 マリウスは、神アレスの神意を受けたラキア王国の名においての行動だと。嘘は言っていない……アレスは『ギルド』の虜囚であり、ラキア本国とは事実上連絡していないが。

 何よりも、ラキアのいつもの征服ではなく、

「貴族の悪行を暴き、理知のあるモンスターを救助することが目的である。求めることは今後、モンスターであっても虐待を楽しむことを厳禁することだけ……」

 である、と納得させることに苦労することになる。

 ほんの数日でまた、恐ろしい速度でメレンに飛行艇が帰り、補給・休息の上で次に飛び立つ。

 

 

 密輸組織の大元を攻撃すると同時に、需要も攻撃する。

 メレンの密輸業者の情報は、すでに手に入れていた。

 しばらく世界のあちこちで、飛行艇の機動力と大量生産魔剣による襲撃が繰り返された。

 ラキアはあちこちの城塞都市に旗を立てることができる。それは長い目で見るとラキアを憎む国を増やして母国のわざわいとなるが、オラリオに大敗し抑留されて心苦しむ将兵にとって、その栄光は、

(こたえられぬ……)

 甘味だ。

 瓜生がディックスをおびき出したのは、その作戦のためでもある。供給者であるということは、顧客名簿を持っている可能性がある。それを手に入れられれば重畳、そうでなくても、顧客をひとつ襲っただけでも、魔術的な即時通信で顧客全員に警告が回る可能性がある。それを防ぎ、情報的に遮断されている多数の顧客を襲う……証拠を消し、防衛を準備してしまう前に。

 そして、短波通信で大陸級に広い範囲の戦いを指揮し続けるリリルカ・アーデは、

「なんでこんな、クソ小人(パルゥム)のサポーター風情が、オラリオどころか全世界で軍事力をもてあそんでるんですか……」

 そう、つぶやいていた。

 さらに背後の、分厚い鉛の箱に入ったばかでかいものも意識してしまう。手元の、ビスケットにチョコペンで書かれ食べられるようになったパスワードも。

 M388デイビー・クロケット歩兵戦術核。爆発力は核にしては極小だが、放射線が極悪……オラリオでも半分以上死ぬだろう。

 瓜生に背負わされたものの重さに、リリは辟易しながら必死でついていっている。ひたすら、ベルを守るために。

 

 

 もう一つの大きい結果は、全世界が異端児(ゼノス)の存在を知ったことだ。

 それはオラリオから広がりつつある、新しい情報システムに乗る。

 オラリオには、ラジオが普及しつつある。金持ちの商人や、【ファミリア】の主神と団長ぐらいだが。

『バベル』の上層に放送局がある。『ギルド』が音楽やニュースを流している……今は2局。どちらも時報がわりに、

「オレが!ガネーシャだあっ!」

 と絶叫があるが。

 あとフレイヤはじめ美神は声だけでも魅了の危険があるので出禁だが。

 また、植物製紙と活版印刷が軌道に乗り始めており、新聞や雑誌も増えてきている。

 さらに、アマゾネスの娼婦たちを通じ、また酒の流通を通じて噂としても流されている。残虐な、それだけに誰もが強く求める写真や戦場での映像とともに。

 

 

 だが、それはのちの事。

 人工迷宮に逃げこんだディックスは、武威とトグを見てにやりと笑みを浮かべた。

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