ダンジョンに近代兵器を持ちこむのは間違っているだろうか   作:ケット

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合宿

 史上空前の戦争遊戯と、異端児の存在に揺れるオラリオ。

 激しい興奮と恐怖に、もとより血の気の多い住民すべてが沸き立っている。

 それは、高度数蒸留酒・揚げ物・砂糖菓子の需要を爆発的に高めている。娼婦たちが、漁師が、料理人が、商人が、猛烈に稼いでいる。

 その莫大な量の酒・食用油・カレー粉・砂糖・卵・小麦粉……それらの半ば以上を供給しているのが、今、

(モンスターの味方をして人類を裏切った……)

 と石を投げられている【ヘスティア・ファミリア】であるのだから、この世は矛盾に満ちているというものだ。

 事前に瓜生が、莫大な量の備蓄をつくり、それを開けるカギを商業ファミリアに渡していた。

「たてまえ、表ではおれたちに石を投げていい。しっかり稼いで、終わった後にきっちりと払ってもらう」

 と瓜生とリリは、いくつものファミリアを動かしている。

 今の莫大な需要は、これまでの、オラリオ周辺各国の供給量を大幅に超えている。その分を瓜生が供給しているのだ。

 特に価値が大きいのは、超高度数のウォッカ。それを従来の蒸留酒に混ぜるだけでもすさまじい火酒となり、こんなときには莫大な売れ行きになる。

【デメテル・ファミリア】に預けられている酒神ソーマが、ビールと超高度数ウォッカ、微量のブランデーと日本酒、数種類のスパイスや薬草を絶妙に配合して、興奮に半狂乱の人々を満足させる酒を造った。無論爆発的に売れた……ただし、薬草で依存症を抑えるようにもしてある。

 

 4者が動いている。

【ヘファイストス・ファミリア】と、サポーター合宿の者。

【タケミカヅチ・ファミリア】と、【ヘスティア・ファミリア】の新入生たち。

【ヘスティア・ファミリア】の極端に強いメンバー。

【ロキ・ファミリア】幹部たちの遠征。

 

 サポーターたちは呼びかけに答えてから、長く地上での合宿をして、そして仕上げのダンジョン合宿に入った。

 その合宿の間も衣食住は保証され、何より肝心なのは、サポーターを搾取するたちの悪い冒険者たちが徹底的に排除された。学ぶ苦労も多かったが。

(スパイしろ)、(内部から合宿を破壊しろ)

 と脅迫されている者もいたが、それも動く前に裏情報を誰かがつかみ、人質を救出していた。

 地上での合宿も厳重な秘密下で行われていた。

【ヘファイストス・ファミリア】生産になる、小さな魔剣を用いる銃砲の訓練。

 ダンジョン探索で手に入れてきたノウハウを集め、体系化する。

 そして職業訓練。

 

 長く虐げられながらサポーターをしてきた彼ら、半分以上は冒険者でありたいと思っていない。搾取、借金などで足を抜く力がないだけだ。

 それはリリが、瓜生に与えられた資金と雇ったならず者たちを利用してどうにかできる。

 レベル1でも冒険者の力があれば、ましてリリのようにサポーター向きのスキルが発現していれば、たとえば山間地の荷運びなど儲かる仕事はいくらでもあるのだ。

 

 また、これから普及していく銃砲を先んじて身につければ、それを買う冒険者に使い方を教えるインストラクターの仕事が常にある。

 

 さらに、何度となく数知れず紙一重の死を運だけで潜り抜け、自分よりはるかに優れた冒険者が目の前で死んでいくのを見てきた、その経験を集める……それを『ギルド』主導で初心者に教える。

 これは潜在的には需要が大きい。武術と同じく。

 これまでは、【ファミリア】が徹底的に閉鎖的で、戦訓も武術も内部にとどめてきた。先輩が後輩を指導するだけだった。

 弱小新興ファミリアは、圧倒的に不利だった。

『ソーマ・ファミリア』のように悪神がいいかげんな運営をし、普通よりたちの悪いならず者として市民の鼻つまみになって最終的に『ギルド』に潰されることが多い。

 だがそういう【ファミリア】でも心ある者は、『ギルド』とつながる講座に出て腕を高め、【ファミリア】の枠の外に人脈を築いて、善神への改宗(コンバージョン)をもぎ取ることができる……

 そのようなビジョンで、『ギルド』の密接な協力も得てオラリオ全体を変えようとしている。

 

 それを可能にするのが、ヴェルフが発明した、針のように小さい魔剣と水を火薬代わりにした銃砲だ。銃・弾薬セットでの販売をヘファイストスは考え、はじめている。

 日本の戦国時代で使われた抱え筒のような中型銃。土木工事用のねこ車のような一輪車に載せる、ゴルフバッグ程度の中型砲。

 どちらも、レベル1の冒険者……常人数人分、あるいは瓜生の故郷ではトップクラスのスポーツマンより上の体力を見越して作っている。瓜生の故郷の人間では押さえられない反動も、冒険者なら押さえこめる。大重量になる三脚や駐退機などが必要ないのだ。そのノウハウは、【ロキ・ファミリア】と【ヘファイストス・ファミリア】がたっぷりと蓄積している。

 安価な鋳鋼に、ミスリル・ライガーファングの爪牙・ニッケル・バナジウム合金のバンドで補強した構造で大量生産。

 弾も鋼鉄製、滑腔で短い矢の姿に鋼をプレスしたフレシェット散弾と、鋼鉄弾芯・樹脂紙サボの装弾筒付徹甲弾。アートナイフ替刃のように小さな魔剣も、プレスで大量生産している。弱小ファミリアでも手が届く金額だ。

 それの役割は、特にモンスター・パーティからの生還。

 

 ダンジョンの死亡率の高さは、普段とモンスター・パーティの、極端な戦力ギャップだ。

 5の戦力しか必要ない弱敵と戦い続けていたら、それがいきなり多数で襲ってきて、55の戦力となる。

 常に60の戦力を出し続けられるのは大手だけだ。

 ならば、その時だけに圧倒的な火力を叩きつけ、何とか血路をひらく……

 

 兵器としての魔剣。それは、ただでさえ魔剣を忌み嫌うヴェルフにとっては辛かった。

(意地と仲間を天秤にかけるな……)

 と主神に言われ、仲間であるベルたちに対しては魔剣を打つことにしたヴェルフだが、大量生産品を不特定多数に売るというのは狂いそうなことだった。

 だが、ヴェルフも瓜生の武器を見せつけられている。

 核弾頭をなでてしまった。桁外れの、ありえない、神々の域と思える、世界を滅ぼせる破壊力も教わった。

 自分がしなくても、他の上級鍛冶師の魔剣でも同じ武器は作れる。自分にはひたすら特許料が入ってくる……

 そして瓜生の言葉を思い出す。

「兵器システムだ。人間というミサイルが、魔剣というペイロードを前線にもっていき、一定の確率で損耗する」

「兵器じゃなく鋼とつきあいたい?なら、この上なく美しい鋼の、わかりやすいなら裸婦像、わかる人にわかってもらえればいいなら鉄球でも、作ればいい。このベアリングの鋼球のような」

 渡された、変哲もない鋼の球。

 椿・コルブランドはとびついて、歯を噛み鳴らし、地団太を踏んで鍛冶場にすっ飛んだ。

 腕が及ばぬ自分も、瓜生がもう一つ出したベアリングのすさまじい球精度、それを自分が作れと言われたときの困難は少しはわかる。

 目を伏せるヴェルフに、瓜生は続けた。

「切れる刃物を作りたいなら、包丁でも旋盤でもいい。

 おれの故郷じゃ、最高の刃物ってのは、旋盤の刃であり、岩盤をぶち抜き水や石油を掘り当てるドリルなんだ」

 

 

 また、ベテランのサポーターたちを、リリは自派閥・友好派閥のためにも利用した。

 何十人ものサポーター。ひとりひとりが、何十人もの冒険者の死を目の前で見ている。

 合宿で集めてから、どんな状況だったかを思い出させて言葉にさせ、数字を使って分析してもいる。

 そのデータを、命からがら生きのびて心も体も折れたサポーターたちが、直接伝えるのだ。

 時にはダンジョンにも同行して、教えた。

「ここで、そんなふうに休んだ仲間が死んだよ」

 と。

 一休みのときの油断。

 ちゃんと臨戦態勢の見張りを立てて交代で水を飲む、それを怠ったための全滅。

 逆に、水を飲むことを怠り、いざというときに力が抜けて死ぬ。

 深追い。

 裏切り。

 自分の力を過信する。

 何の落ち度もない不運。

 ありとあらゆるところに死がひそむ。

 故郷では力自慢のガキ大将、体格に恵まれ郷里の星としてオラリオにやってきた男たち……ベル・クラネルとは対照的に、どこのファミリアにも歓迎されるような筋肉男たち。

 多くはうぬぼれ、乱暴で、自滅した。中にはオラリオの冒険者に接して自分が天狗だったと自覚し、真摯に修行する者もいた。

 どちらにも死は訪れる。

 頑丈な筋肉が、恩恵でさらに膨れ上がり、強大なスキルを得た若者も。

 郷里で才能があると目をかけられ、オラリオで所属したファミリアでも期待され、剣術を磨いてきた少年も。

 ほんのわずかに気を抜いた時。

 恥ずかしがって、一人でトイレに出かけたとき。

 少しだけ珍しいものに気を取られたとき。

 手入れを怠った剣が折れたとき、突然の多数のモンスター。

 何の落ち度もなくても、落盤からのモンスター・パーティで。

 ダンジョンは常に容赦なく牙をむく。弱い脇腹を、いや股間を食い破りにくる。

 

 教わる【ヘスティア・ファミリア】の新入生たち、そして【ロキ・ファミリア】の新人たち……強い派閥は先輩に教わっているが、逆に強すぎる派閥はかなり長いこと死人が出ていないこともあり、人の死の積み重ねが少ない。

 多くの死に触れているサポーターの言葉……本来若者の、血に飢えた心にはしみこまない。だが、その若者たちは圧倒的に強い先輩たちと、とてつもなく強く恐ろしいモンスターを見ている。うぬぼれは徹底的に砕かれている。

 

 

 自分の人生を半ばあきらめていたサポーターたち……それが少しずつ希望に変わってきた。

 合宿の、規則正しい生活で。

 脅され殴られることのない、安心して眠れる生活で。

 同じ境遇のサポーターと、多くの失敗や仲間の死を共有することで。ともに考えることで。

 考える者以外、生きてこの合宿に参加してはいない。

 

 そしてついにダンジョンでの、更生資金稼ぎを兼ねた合宿……

 彼らの実力では本来無理な25階層で、大量の弾薬を用いて強大なモンスターを次々に粉砕する。

 短い矢を鋼で形作った散弾が20発、同時に放たれて群れを穴だらけにする。

 到底かなわないはずの巨大な怪物を、単発の徹甲弾が貫く。

 魔剣が水を爆発させる強大な砲口炎と反動に慣れ、確実に実戦で使えるように……

 危険な時には、レベル3の鍛冶師が何人も、自分たちのとは少し違う高性能な機関砲を持って守ってくれる。

 恐ろしい量の魔石がたまっていく。

 山分けで十分、借金を返し、商売を始め、再出発できるだけの金額が。

 襲ってくる冒険者たち……暴力で支配し、奴隷化し、脅し、すべてを奪い絞りつくす悪魔たちにも、対抗できる。もう一人ではない。本当に助けてくれる、恐ろしい力がある。

 希望がなかったものが希望を得たとき、人は圧倒的な力と忠誠心を出す。

 地上での異端児騒ぎのことなど、どうでもよかった。

 人生を生きられる、人間になれるのなら……

 

 

【ヘスティア・ファミリア】の新入生たち+春姫は、必死だった。

 サポーターの人たちが、とてつもない数の仲間の死の実体験を語る。仲間が死んだ、その場で。囮にされ、手の一本を犠牲にして逃げたその場で。裏切られたその場で。

 数限りない地獄のその場で。

 そして命と、【タケミカヅチ・ファミリア】の、3人のレベル2……桜花、千草、飛鳥に守られて、7階層近辺で厳しい訓練を始めた。

 M460リボルバーと、セミオートのみにしたガリルACE53を与えられて。

 その力にうぬぼれないように、すぐに死があると教わりながら。

 地上には出られない。地上では、異端児に関連して激しい憎悪が渦巻いている。6階層奥の広めのルームにトレーラーハウスを設置し、壁を傷つけ続けて風呂やトイレ、交代での睡眠をとり、勉強をしている。

 新入生たちは悔しくて仕方がなかった。ファミリアが大変なのに、自分たちは足手まといでしかないのだ。

 それを勉強にぶつけるよう、自分たちより悔しい思いをしているはずの命が言うのだ。

 勉強の成果はダンジョンで出す。しっかりと大盾と長槍を組み合わせ、クロスボウで確実に敵の数を減らす。

 魔法を使えるものの詠唱を助ける。

 ちょこちょこ別のルームからレベル2が、多数の敵を引き連れてきてぶつけてくる……多数の敵を相手に、絶望的な撤退戦を訓練する。どれほど敵が多く強くても、まとまり続け、生きのびるための訓練を。

 春姫もひたすら小薙刀をふるい続けた。特に、用事があって姿を隠して外に出たとき、街で石を投げられ唾を吐かれる団長の姿と、『豊穣の女主人』で熱心に働くウィーネの姿を見てから。

 

 

 武威、ビーツ、ベル……かれらは都市外に修行場をつくり、武神タケミカヅチ本人の特訓を受けた。ベルは時々『豊穣の女主人』やほかの異端児を訪れ、人々に石を投げられることもある。

 剣道で言えば前進後退の面・小手・胴、跳躍素振り、切り返しだけを毎日18時間練習するような、単調で過酷きわまりない合宿だ。

 武威とビーツは、『武装闘気』を制御する単純な基本を深く深く。武神自らが、常にミリ単位の違いも厳しく咎め、何千というチェックポイントを厳しく指摘して精密に正しい動きを作り上げる。

 守・破・離の守、神髄の正しい動きをとことんまで学ぶ。

 ベルもまた、ごく単純な基礎だけを徹底的に高める。『英雄願望』のチャージを、呼吸と歩きに一体化する、できれば雷電付与呪文を、格上と戦いながら並行詠唱できるよう。

 ダンジョンに行くこともない。一時間で死ぬかと思うほどに疲れきる、それが日に18時間延々と続く。合間の激烈なウェイトトレーニングや大重量を背負っての中距離走も、むしろ息抜きに感じるほどだ。

 ただひたすら、基本を何千万回も深める。徹底的に正確に、繰り返し、繰り返し。

 半月で、数年の修行をするつもりで……

 もちろん、膨大な食事も用意される。

 そのために秘密に雇い、瓜生の世界の料理技術が使えるよう訓練した料理人とその下働きも常駐させ、膨大な量の食材を運びこむ。

 ベーコン・ニンジン・タマネギの濃厚なスープを寸胴鍋で何杯も。焼き立てのパンの小山とともに。

 大きな揚げ鍋で次々と作ったチキンカツやメンチカツ、カキフライの山。野菜などの揚げ物。

 巨大と言っていいハードチーズを砕き、肉スープで炊いたマカロニにかけて耐熱皿ごとオーブンで焼く。

 とんでもない量のチャーハン。

 真空調理したブロック肉。

 ドドバスのアクアパッツァ風。

 オリーブオイルで温めたチーズと鶏卵多数をかけた大量のパスタ。

 ピザを何十枚も。

 とんでもない量のビーフカレー。

 羊肉とジャガイモのシチュー。

 タケミカヅチのリクエストで天丼とうどん。

 ベルはきつすぎる鍛錬で時々食欲を失い、やわらかいオートミールと低脂肪乳を無理に詰めこんで吐き気をこらえることもあるが、特にビーツはいつでも健啖だ。

 それが、深い安心感になっている。

 

 

 リュー・リオンは仕事が終わった夜中に、その修行場を訪れる。

 まず、疲れきったベルを瀕死にする。それから、武威とビーツを相手に二時間ほど、瀕死を通り越した目にあう。

 ハイポーションでなんとか店に戻り、薬では癒せぬ心の疲れにベッドに倒れる。

 

 

 ソロとトグは、【ロキ・ファミリア】について深層に出かけている。戦うべき敵なのに。

 装甲車で40階層まで突っ走り、膨大な物資をコンテナに詰めて、銃器なしの激しい修行が始まった。

 むちゃくちゃなまで。パーティも組まず、誰もが血肉(トラップアイテム)を多数放り出して、ひとりで巨大な怪物に立ち向かう。

 戦って戦って戦い続ける。少しでも成長するために。

 戦いたかった強大すぎる存在……おそろしいほど成長していく戦友たちに、勝つために。

 特にアイズとレフィーヤは、鬼気迫るものがあった。

 フィンも死に身で修行している。

(ベル・クラネルの真似事は……荷が重いか?)

 胸の声を殺すために。痛みをごまかすために。

 オラリオを守る『勇者(ブレイバー)』の名を守るために。

 隣のルームで戦う、本物の勇者……ソロのすさまじさを、壁越しにも強烈に感じながら。

 

【フレイヤ・ファミリア】も情報を出さず、どこかで修行しているものと思われる。

 その、強さだけは信じられる。

 

 

 瓜生とリリは陰に潜み、主神ヘスティアを守りながら、様々な仕事をしている。

 特にラキア虜囚軍は動かし続けなければならない。物資の供給を途切れさせず、近代化の動きも止めないように。

 そして、戦いののちのことを考え、測量もしておく。

 ふたりとも、多数のボディーガードが常にいるのでつばを吐かれることもない。

 それがむしろ痛いのだ。嫌なことをすべて団長に押しつけている……

 

 激しく興奮するオラリオ。女神フレイヤとロキはそれぞれ、神々の間で奇妙な動きをしている。

 フレイヤがヘルメスを強く脅した、という噂もある。

 ヘファイストスは必死で、誰とも会わず自ら武器を打っている。

 ガネーシャと眷属たち、そしてウラヌスは、異端児に関する憎悪をヘスティアに集めてしまったことに胸が裂けるような思いをしている。

 

 一日が過ぎる。戦いを控える人たちにとっては、考える暇もない地獄の特訓。

 オラリオの住民にとっては、賭けと借金、酒とケンカで爆発しそう……だが本番前にオラリオを追放されたり売られたり収監されたりしたらたまらない、とそれだけは押さえている。

 何人もの異端児が、爆薬を背負って働いている。偏見と罵声を、時には人の情けを……人間の深い矛盾と業をしっかりと体験しながら。

『豊穣の女主人』の本店が清掃と改装を終え、和食メニューもいくつか入れて新装開店された。特にすべての卓に魔石コンロと煙浄化器を備え、焼き肉やすき焼きができるようになっている。

 

 何人もの神々が、それぞれの思惑で動いている。多くは単に最高の娯楽に。それだけでなく、先を見越して。近代という悪夢を見ている、産業系ファミリアの主神たちもいる。

 ラキアはふたたび軍事大国として、恐れと敬意の的となった。『バベル』に閉じ込められウラヌスを補佐しているが、それでもニュースを聞いたアレスは喜んだ。そののちに待つ破滅も知らずに。

 

 オラリオは変わっている。

 覚悟したように、異端児たちはその時を待っている。

 オラリオの周辺地域も、急速に変化している……オラリオからメレンまで、コンクリートの道路だけでなく、その上にコンクリート枕木の標準軌鉄道が二線つくられた。

 力の強い異端児がトロッコを曳き、膨大な荷物が高速で動く。

 オラリオの市外にいくつか、ケーブルカーが作られた。

 広大な畑が緑に染まり始めている。

 いくつもの、鉄コンテナでできた衛星都市の周囲に、木材で家が建てられはじめている。

 ラジオが、売られはじめたファミコンゲームの必勝法を語り、また音楽を流し、何よりも戦争遊戯の予想を何人もの自称識者が語っている。

 

 誰もが戦争遊戯を待っている。


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