ダンジョンに近代兵器を持ちこむのは間違っているだろうか 作:ケット
ベルたちも、【ロキ・ファミリア】幹部たちも特訓の日々が続いている。
参加資格のない、レベル1と2のものも、死なないように頑張っている。未熟ゆえに参加できない、その悔しさをばねにして。
その未熟者たちを監視し、強すぎる気持ちを誘導するレベル2も特訓の日々を過ごすレベル3に劣らず苦労している。
オラリオは興奮に毎夜お祭り状態、その裏で技術革新が進んでいる。高濃度蒸留酒を浴びるほど飲んだあとでは、都市内ケーブルカーや電線に疑問を持つ余裕はない。同時にそれが多くの人手を雇い、何百人も貧しい人たちに、貧困から抜け出せる給料を与えてもいる。
瓜生が数日間オラリオから姿を消した。
ダンジョン深層で地獄を見ているはずの【ロキ・ファミリア】幹部が地上に出て、本拠で留守番しているものの管理仕事もし……数人が、ラキア捕虜の手を借りて港町(メレン)から飛行艇に乗り、どこかに旅立った。
ベート・ローガとティオネ・ヒリュテのふたりが、団長フィン・ディムナを通じて、瓜生に挑戦状をたたきつけたのだ。戦争遊戯では戦えないのだから、と。
ベートは、戦場では運だけ、実力など無意味という瓜生の言葉が許せなかった。
ティオネは、近代兵器そのものが気に食わなかった。アマゾネスの本性と相容れないものを感じた。
ティオナ・ヒリュテも加わった……姉がとんでもない強敵と戦えるなら自分も、と。
瓜生は受ける前に、フィン、リヴェリア、ガレスも誘って映画を数本見せた。
第一次・第二次両大戦を描く作品を。
「これを味わってもらうことになるが?」
それから瓜生は、数日かけ、ラキア捕虜も使って戦場を整備した。
ヴェルダンの戦いを再現した。泥沼に林立する鉄条網。
とんでもない量の園芸用土と水を出し、泥沼を作った。
とんでもない数の遠隔操作火砲を準備した。第一次大戦当時のものとは限らず、信頼性の高い自動火器を、大量に。
前後、わずか8キロメートル。幅は20キロメートル。左右に迂回することは許されない、その長方形の範囲を通らなければならない。
「ああ、どんな手を使ってもいい……どんなド汚ねえ手でもな」
ベートが嫌悪感に唾を吐き捨てた。
ティオネは怒りに我を忘れそうにしている。
ティオナは奇妙な無表情だった。彼女も地獄ならいやというほど見ているのだ。
戦いは、日が昇ってから日が暮れるまで。
レベル6でも、アイズだけは今も地下深くにいる……いつもよりさらに激しく激しく戦い続けている。異端児の事を知り、心にかけているベルがモンスターをかばって石を投げられていることに、すさまじい感情を感じていて……モンスターと運動器具にぶつけることしか、彼女にはできない。
山にかすかな赤い光が触れる。紫の雲。鳥の鳴き声。ため息が出るほど美しい光景だ。
だが、冒険者たちはそれを見ない。
すさまじい速度で、3人のレベル6が走り出した。
泥沼でも硬質ゴム陸上フィールドのように。そう、高いところから水に落ちた者は、ビルからコンクリートに落ちたように骨が折れている。高速の衝撃の下では、水はコンクリートのように挙動するのだ。
数十秒で横断し、コンクリートの小山の奥にいるレベル2の顔面をひしゃげさせて命乞いさせてやる……
暴力の要求にとらわれ駆ける冒険者の足元で爆発が起きた。
高速だからこそ、激しく重心が崩れる。熟練がそれでも体を維持させる。
だが……目の前に鉄条網。引きちぎろうとしたティオナは、その強度に目を見張った……剃刀と同様の強靭な鋼の薄板。螺旋の形が力を受け流し、鋭いとげが服や皮膚をひっかける。
それでも第一級冒険者の力、引きちぎることはできた。耐久で傷も負わなかった。
服も……アマゾネスの露出度が高いものも含め……高価なダンジョン素材製であり、かぎ裂きもできなかった。だがその分、引っかかった鉄条網に引き留められる力は増す。杭が抜けるほどに。
「足を止めるな!」
姉が叫んだ。
その時、弾がきた。
まず、目の前に建物より高くそびえる土手の頭越しに、真上から120ミリ迫撃砲弾が降り注ぐ。大重量の榴弾が次々と炸裂し、土手を崩す。
いくつかは空中で子弾を散布、それが次々と爆発しては自己鍛造弾、金属の槍を銃弾より速く真下に叩きつける。戦車ではない、金属装甲もないしエンジン熱源もないベートたちはレーダーにかからないので、自動でランダムに落とすと指示されている。
土手を登り切った、そこは鉄条網の灌木であり、足を止めたところに弾の嵐が荒れ狂う。数百の155ミリ榴弾砲弾が。数千の76ミリ艦載砲弾と120ミリ迫撃砲弾が。数万の40ミリボフォース弾と30ミリガトリング弾が。数十万の12.7ミリ弾が。数百万の7.62ミリNATO弾が。
第一級冒険者たちは、愛用の武器で斬り払いはじめた。
7.62ミリ弾なら少し痛いだけで無傷。12.7ミリ弾は軽傷。レベル6なら、20ミリ弾でも急所に当たらなければ死なない。
それ以上は死ぬ。
40ミリ弾は近くを通っても衝撃波で吹き飛ぶ……常人なら血霧になっている。そして地面に当たった衝撃で泥のクレーターができ、視界をふさぎ、足を止める。
足を止める。
徹底的に足を止める。
地雷が。灌木のようにわざと乱して大量に積み上げてある鉄条網が。事前に膨大な砲弾で作られているクレーターの壁が。砲弾が作り出す泥と煙と爆風の壁が。
深く掘られ、水たまりになった塹壕が。その土を水に混ぜて盛り上げた土手が。
無数の鋭くねじれた破片が、地雷の鉄球が、銃弾の数倍の高速で飛び交う。
「う、うそおおおおおおおおおっ!」
ティオナの悲鳴が爆音に消される。
「パターンを読む!」
ティオネが叫んだ。
「ねえよ、全部てきとうにぶっ叩いてやがるあのドクソ雑魚!」
ベートが叫び、爆風に吹き飛ばされる。
フィン・リヴェリア・ガレス、またアナキティら数人のレベル3以上も画面を見ている。これ以上は絶対に死ぬと判断したらギブアップを宣言。それで瓜生は戦闘を停止し、即座に救護に行くと決めている。
瓜生がしたことは、艦載用CIWSを中心に自動装填・自動旋回装置がある火器を置いただけだ。速乾コンクリートに埋めた杭を大量に用意し、それに固定して。
最新の艦載火器は、甲板に穴をあけ艦の構造に弾倉を組み込まなくてもいい。ボルトで甲板にとめ、自動装填装置に巨大な弾倉をはめ、電源をつなぎ、システムがあれば艦のコンピュータにつなぐだけだ。
今回の瓜生は、その固定も完全でなくてもいい、精度など必要ない。
決められた範囲に、ランダムにひたすら弾をばらまくよう命令し、遠隔操作でトリガーを引いただけだ。
瓜生自身は、無数のカメラの画面をちらちら見ながらじっと考えている。
その画面も多くはろくに見えない。榴弾の着発に泥の壁がそそり立つ。爆発の閃光に映像が染まる。激しい振動にカメラが揺れる。
足が鈍る。特にベート・ローガは、加速中にステイタスが増すスキルを持っている……それが封じられる。
アマゾネス姉妹は傷と怒りでステイタスが向上するが、それも判断力を失って走ろうとして、空回りするだけになる。
剃刀ワイヤーに髪を絡まれたまま、再度走り出そうとして泥に足を滑らせる。泥に着弾した砲弾が作り出す泥の壁に飛びこんで減速し、高く跳びあがって近接信管がついた空中炸裂砲弾の爆風に押し戻される。
泥に埋まった足を抜くのは、高速で抜こうとすると桁外れの力が必要になる。焦ればより深く泥に埋もれ、動きが止まったところに砲弾が飛んでくる。
ブルドーザーで深く掘られた塹壕、盛り上がる土手。事前に打ちこまれた重砲弾が作り出しているクレーター。すべてが恐ろしく滑りやすい泥であり、いたるところに地雷があり、いたるところに鉄条網がある。
どこにでもガトリングの30、12.7、7.62ミリ弾が濃密に注がれる。致命傷になるのは30ミリぐらいだが、回避する余裕が少ない。大きくよけたらそこにも弾が飛んでいる、最小限の動きで回避しなければならず、そうなると衝撃波の影響はある。小口径弾も痛いことは痛いし、第一級冒険者の皮膚は貫けなくとも力積で速度を食われる。
足そのものに、近いほど桁外れに威力を増す爆発が集中する。人の頭の高さに地雷の一部が跳ね上がって爆発し、鉄球をまき散らす。
常人なら何百度足を失い、首から上がなくなり、上半身と下半身が真っ二つになり、内臓を全部ぶちまけていることか……レベル6だからこそ、まだ生きている。ポーションは使い切った。失った血液は戻らない。
無数の爆風の半球。膨大な数の破片。空から落ちてくる鉄の雨。
地獄に慣れている第一級冒険者たちが、間断なく絶叫するほどだった。
ティオネは投げナイフもつかうが、標的がない。すべての火器は土手の向こうから間接照準で撃ってくる。
映像でそれを見ているフィン・リヴェリア・ガレスは、ひたすら青ざめていた。
巨大な、ひっくり返した船の船体と速乾コンクリートでできた陣の奥で、瓜生はつぶやき続ける。タブレットの光に照らされて。
「『恩恵』がない人間はモンスターにも冒険者にも無力だと、だれが決めた?」
考え続ける。
「もし、おれの故郷に『ダンジョン』ができ、モンスターが人間を攻撃し始めたら。
ツングースカ爆発……ロシアにおける、おそらく彗星衝突と思われる爆発。あれは無人地帯だったのと、ロシア革命のごたごたで、長く世界は注目しなかった。そんな時と場所にダンジョンが出現したら、かなり長いこと人類は気づかないだろう。致命的になるかもしれない。
だが、先進国の大都市……特に工業都市に出られたら。巨大都市の絶対数が少ない時代。戦力を失うかもしれない。国家・軍・産業の指導層をたくさん殺されたら、国が動けなくなるかもしれない。
戦力生産の主要部ではない。誰も注目しないほど遠くもない。十分な犠牲者が出て、それが致命傷にならない。
モンスターと戦うより、国家同士の戦いが優先されることになったらだめだ。コルテスの征服は、内紛や圧政も利用していた……同じことになるかもしれない。
それ自体が絶望的な話だな……
まあ奇跡的に、世界大戦規模の戦力を、モンスターとの戦いに注げば……おれが見た限りのモンスターが相手なら、第一次世界大戦の戦力で楽勝だ。巨大であればあるほどぬかるみで機動力を失い、最終的には重砲で死ぬ。
コルテス?伝染病……」
塹壕のひとつの仕掛けが作動する。塩素ガスが充満する……だが、第一級冒険者の『耐異常』で耐える。
「こういうところに、『恩恵』もない雑魚を何十万人も送ったのかああっ!」
ベートが絶叫した。
「見たでしょ、一千万人……ああああっ!」
ティオネが叫び、容赦なく落ちる迫撃砲弾をかわし、近くで炸裂した地雷の破片に耐える。
「何、このくさいガス」
ティオナが顔をしかめた。
「タイミングが悪かったんだろう。集団戦闘ができていない古代ローマの敵の水準なら、一対一、個人の強さにこだわって、『人間はモンスターに勝てない』と刷りこまれただろう。
だが、古代ローマやモンゴル騎馬隊なら……それも負けたのかもしれないが、それは地中や空中からの攻撃に対応する間がなく生産力自体を破壊されたのかもしれない。これらは仮説の度合いが高いな」
マッハ3近い76ミリタングステン徹甲弾を双剣が、ククリが、ウルガが受け流す。ボフォース社製艦砲の57ミリ砲が高い仰角をつけて連射、頭から空中炸裂でばらまかれる無数のタングステン弾が襲う。低角度の、プログラミングされた榴弾が空中で炸裂する。
引き裂かれながら爆風を踏んで前進する。
「ひとつの戦いで70万人死んだって、正気?」
ティオネが怒鳴る。
「戦争なら何だってやる、負けたら終わりなんだ!」
ベートが血の混じった唾を吐く。
「ばっかじゃないの?こんなところに恩恵なし送るなんて!」
ティオナが怒鳴る。
「おめーにバカと言われたら終わりだ!」
ベートが叫んでずるずるの泥崖に、超音速で足を叩きつけて登り始める。
「誰がバカよっ!」
ティオナが追う。
「あのど畜生、絶対ぶっ殺す!」
ティオネが叫んで、迫撃砲弾の爆発を利用して飛んだ。
「『恩恵』なし人の、今のここの技術水準の軍で上級冒険者を殺す……ぬかるみと、できるだけ分厚い鋼の盾。多数の攻城弩(バリスタ)。機動力を奪い、相手の防御力以上の攻撃を打ちこむ。それに徹すれば、必ず倒せる。
ラキアとの戦いは、意味不明だ。人が人を殺してはならない、という無意識のルールが強すぎるんだ。
そうだ……なぜ、『ダンジョン』さんは伝染病を使わない?人間を滅ぼすのに一番有効なのは、モンスターではなく伝染病だ」
そのとき。ついに最後の土手を乗り越えたティオナが、壁を切り破った。
「うおおおおおっ!」
ベートが叫ぶ。
「ぶっ殺すあの外道!」
「あーっもう、59階層よりひどいよっ!」
ボロボロのボロボロ。
「またガスっ!」
「へっ雑魚が、『耐異常』を知らねえんだ」
「突っこむっ!」
ティオネがククリで壁を切り破る。船の二重隔壁のひとつ、マスタードガスが充満していたが、第一級冒険者には通用しない。
そして次の真っ暗な、上下逆の廊下……
「さがせえっ」
叫んで走りだしたベートたち。それが、ほんの数秒で走りながら倒れた。完全に意識が飛んでいる。
『ギブアップだ』
フィンがタブレットを見て、通信機に話しかけた。
『了解、すべての装置を切った。窒素雰囲気、渡した防護服が必要」
「急げ、地図だ」
瓜生と、ひっくり返った船の小山のふもとで待機しているフィンが、有線通信で話している。
素早くリヴェリアとガレス、そしてリーネとアキが走り出した。宇宙服のような特殊消防服を事前に着ている。
フィンはサイズが子供なので合わない。
ヘッドライトで地図を見ながら、ベート・ティオネ・ティオナのところに急ぐ。
窒素100%……毒にも溶岩にも耐え、長時間の潜水も可能な第一級冒険者でも、完全に酸素がない状態で活動すれば数秒で意識が消え、死に至る。
毒ガスもすべて伏線、伏せた船を陣としたのもそのためだ。
救助された第一級冒険者たちが、酸素マスクを口にあてがわれる。
瓜生とリーネが輸血を始める。
「かなり大量の血を失ったな、四肢欠損がなくてよかった」
「……」
リーネは文句を言いたそうに瓜生を見つつ、手早く手伝っている。
輸血・止血の概念が入ったことで、明らかに冒険者の生存率は高まっている。ポーションでも食われた手足や、失った血は戻らない……特に闇派閥が使い始めた、傷が治らない呪いの刃だと失血死があり得る。その出血を防げるのだ。
ベートがかっと目を見開いた。
跳ね起き、黙る。誇り高い草原の孤狼は、敗北を受け入れられないほど弱くはない。そしてすぐに認めるには、言葉や態度に示すには誇りが強すぎる。
「!!」
ティオネが目を覚まし、目の前で心配げに見下ろすフィンを見た。
「だ、だんちょ……」
敗北の情けなさに身を震わせる。
フィンは撫でようとして手を止めた。
(それは彼女にとって残酷すぎる……)
「ティオナは?」
リヴェリアが心配げに見た。
「眠っとるだけじゃよ、疲れたんじゃろ」
ガレスの言葉に、リーネがうなずきかけた。
「さて、本当に騒がせてしまった……そしてこの荒らされた無人の地も、ちゃんと利用する算段ができているんだろうね」
フィンがため息をついた。
「鉱脈は確認した以上だ。さらに、ダンジョンにも容易に、シールド工法で届く」
瓜生がうなずきかける。
「さて、飯と酒じゃ」
ガレスの言葉に瓜生が立ち、近くに用意されたテントに向かった。
プロパンガスボンベ。野外用発電機。業務用フライヤーなどが準備されている。
フィンたちが、オーブン調理はすでにしていた。
焼き立てのパン。シーフードとチーズたっぷりのグラタン。ミックスフライ。その他いくつもの料理が準備され、強い蒸留酒の華やかなビンも次々と机を飾る。
食事が終わってから、地雷や不発弾を処理するために瓜生が最後の処置をした。
デイジーカッター……通常兵器最大の爆弾を、いくつも起爆したのだ。
きのこ雲が夕焼け空に立ち昇る。
「核兵器より、これでもずっと弱いんだね」
フィンが、神々の黄昏とも思える大爆発を見ながらつぶやいた。
「核兵器にも最弱から最強まで多くの段階がある……」
「【ヘファイストス・ファミリア】が、核爆発を起こす方法の研究を始めたと聞いたぞ」
リヴェリアの言葉に瓜生が歯を食いしばった。
「……十分な高温高圧を起こせば、核融合は可能か。ウラン鉱はラキアにある……」
「そっちは何で滅びなかったんじゃ?」
ガレスが呆れたように言った。リヴェリアも興味津々だ。
「相互確証破壊。両方の国が、相手を確実に滅ぼせて、かつ武器を核爆撃しようにも必ず十分な数の兵器が逃れられるように……まあ、巨大な潜水艦に、大陸間弾道ミサイルを多数配備して深海で逃げ回らせた。とりあえず70年間、人類は滅んでいない」
「どうしようもないね……」
フィンが瞑目する。
「しっかりと心にとめておこう」
リヴェリアが瓜生を見た。
「なぜおまえがこれを見せたのか。ラキアの、クロッゾがそうだったように、こんな戦争をした人々は、自分が何を作ったのか知らなかったのだな」
瓜生がうなずく。
特に第一次世界大戦は、まさにそれだ。
鉄道と自動車が普及し、桁外れの輸送力と生産力がある近代国家。機関銃と鉄条網、大量の重砲。総動員をしたらそれ自体が宣戦布告に等しく、取り消しができない社会制度。
(小学生が、広島原爆の威力がある拳銃を作って、街中のケンカでぶっ放して自分も消し飛んだようなもんだ)
このことである。
桁外れに巨大で、誰も止め方を知らない戦争機械をつくりあげ、その始動ボタンを押してしまったのだ。それは止まらなかったのだ。そんなものを作ってしまったということ、自分が暮らし支配している国家がそんなものだということすら、知らなかったのだ。
知らなかったのもどうしようもない。戦争を始めてから、負けないために総力戦制度が生じた。それはもう、それを作った支配者たちにとっても理解不能な怪物だった。
王族であるリヴェリアには、瓜生から習った第一次世界大戦の指導者たちの愚かさもよく分かった。
高貴な身分に生まれたらどんな思考法になるか。
どれほど現実を見ることが、今がどのような時代になっているのか、前例がないことを理解するのが困難か。
そしてリヴェリアは、常に考えている。過剰なまでの自分の魔力。エルフの王族である自分の、潜在的な政治的影響。それらが最悪に転んだらどんな悲劇になりかねないかも。
ガレスが強く鼻から息を吹いた。
「まあ、少しはこやつらも気がすんだじゃろう。悔しかったら特訓すればよい。あと4日で『戦争遊戯』、その時は手加減せんぞ」
「ああ、遠慮はいらない」
「ヘルメスは、計画通りでいいな?」
リヴェリアの言葉に、
「ああ。無論あちらが始めたらだが……」
「この光景を見せれば、止まるんじゃないかな?」
フィンは、そんなことがあり得ないと知りながら立ち昇っていくキノコ雲を、高価なポーションで傷は治り、輸血と食事で体力も回復したが、まだ精神が参っている第一級冒険者たちを見た。
「神には抑止は通じない……」
瓜生は言って、静かに決意を固める。
「第一次が軍人1000万人、第二次が軍人2500万、民間人4000万か」
リヴェリアがため息をつく。
「人と神と、どちらが愚かか……」
ガレスもため息をついた。
はっきりと想像できる。血の海を。死んでも死んでも止まることなく人を巨大挽肉器に流しこみ続ける指導者たち、ほぼ確実な死に走り続ける人々を。殺される子供たちの叫びさえ。
モンスターに対する憎悪……モンスターだけが敵で、人と人には関心がなかった冒険者たちだが、人と人の悲劇もこの世界でも多数あることを知っている。
視野が広まる。
異端児も、そのひとつでしかなくなる。
「さてと、もう遅いな……夜間飛行は避けた方がいいか。明日の朝帰って、昼にはダンジョンに入れるか」
「コンテナハウスの準備をしてくる」
と、瓜生が立ち上がった。