ダンジョンに近代兵器を持ちこむのは間違っているだろうか   作:ケット

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神との抗争

 ヘルメスは策謀を続けていた。

 もとより、ウラヌスに『異端児(ゼノス)』について明かされ、さまざまな調査をしていた一柱でもある。

 情報を探り続ける瓜生とリリのふたりとの、影での戦いでもあった。

 

「ヘルメス様、それは……ベル・クラネルは怒りますよ」

「彼のためにするんだよ、アスフィ。彼を英雄への道に戻すために」

「そしてウリュー・セージも、絶対に」

 ヘルメスは激しくアスフィの言葉に割りこんだ。

「あんなやつに、神が動かされていいものか!なんなんだあれは、人間でも、この世のものでもない、化物じゃないか!」

 いつもの飄々とした余裕とはまるで違う、神という超越存在の怪物じみた感情がそこにはあった。

 アスフィは逆らうことができなかった。愛という名の呪縛、神威と神意に……

 

 

 戦争遊戯も迫り、ベル・ビーツ・武威はタケミカヅチの指導での合宿を終え、ダンジョン深層に向かった。

(成長したステイタスと、体のギャップを調整するため……)

 である。

 ほとんどが素振り、息抜きのようにウェイトトレーニングと、ボート漕ぎのような全身の筋肉を使い持久力も追いこむ運動の日々だったが、ステイタスの向上はすさまじいものがある。

 また、ただ武器を振るだけ、教えられた通り歩くだけ……単純な動きを何千何万と繰り返すだけの機械のようになってしまった心身を、ふたたび戦いに順応させる必要もある。

 

 ベルとビーツは37階層『闘技場』に落ち着いた。ビーツのための膨大な食料は用意されている。

 以前もここで戦ったことがあるが、前は銃器もありの数人で一体を倒した。今回は、ほぼ単独で戦うよう指示されている。

 レベル3では無謀……レベル5でも止められる行動だが、ふたりともレベル4上位でもまず負けない、レベル詐欺の限界突破だ。

 武威は平然と、大荷物を背負って極深層に向かった。

 

 以前も苦戦どころではなかったバーバリアンやリザードマン・エリート、オブシディアン・ソルジャーが次々と襲ってくる。ここでは常に下限と上限の間の数のモンスターが出現するのだ。

 

 ベルは異端児(ゼノス)の存在を知ってから、モンスターを倒すのにためらいが出たこともあった。

 それは【ロキ・ファミリア】の者もそうだった。

 瓜生は、

「ひと呼吸入れて、襲ってくるならモンスターだろうと人間だろうと殺す」

 と教えた。

 フィンも瓜生と話し、ほぼ同じことを団員に教えた。

「彼は以前から、銃砲で敵を狙って、必ずひと呼吸入れていた。この事態を予想していたんだろうね……」

 そう、リヴェリアやガレスには話している。

「壁から出きらないうちに倒すのは実に有利なのだが、それを捨てるか」

「あの武器の性質だ。何度も罪のない者も殺しているんだろうね」

「ダンジョンで戦っている儂らは、むしろ楽じゃな」

 

 身長がベルの倍ぐらいありそうな巨大な人型のモンスターが、すさまじい速度と殺気で襲う。

 盛り上がる腕の筋肉はベルの胴よりふとい。

 ベルはただ刀を垂らし、気息をととのえながら歩く。

 

 タケミカヅチの教え。アイズやフィン、椿。毎晩のように来てくれたリュー、時々上がってはステイタス更新がてら稽古をつけてくれたソロ。

 たまに、小虫扱いで潰してくれた武威。

 異端児の存在を知ってモンスターと戦う惑いが抜ければ、拍子抜けするほどだった。

(動きが大きすぎる)

(無駄な動きが多いんだな)

 ただ、相手の芯に向かって歩く。気息をととのえる。

 ただ打つ。

 それだけでヴェルフ・クロッゾが打った刀や槍は、人工迷宮でベルが分け前としてもらったオリハルコンを主神の指導を受け全霊で打った業物は、7.62ミリNATO弾では通じない深層モンスターの硬皮を無視して魔石を断つ。

 手ごたえすらない。

 

 ビーツは動いたとも思えぬ。槍が銃弾のように直線で伸び、戻る。それだけ。

 ベルも、ひと呼吸分体幹に『英雄願望』をチャージし刀の重さだけの小さい振りかぶりでの袈裟切り。

 それだけでいい。

 防御は必要ない。速さすら必要ない。

(これが合宿の目標だったのか……)

(無駄な動きを徹底的になくす。倒すために必要な動き以外、とことんなくす)

 合宿の、恐ろしく単調で地獄以下の鍛錬をやっと悟った。

 ソロから学んだ、無駄のない剣が少し見えた。彼が仲間たちとともに膨大な数の、自分たちより強い敵と戦い続けて無駄をそぎ落とした剣の神髄が。

 敵のすさまじい速度も、速いと思えない。しっかり相手の芯に歩いていれば、足が勝手に判断し、相手の動きを封じてくれる。歩きの中に含まれる蹴りが、自然に相手を崩し、巻藁より斬りやすい的にする。

 

 時にビーツは槍を置き、素手でも戦う。ベルも刀を納め、脇差片手、脇差二刀、脇差両手などでも戦う。

 それも同じ、ただ腰を落とし、気息をととのえて歩く。

 ベルは歩みと体幹チャージを一体化させるのは、もうそうでない歩き方を忘れたほどだ。

 ビーツも、膨大な『武装闘気』を身体に一体化させる……別の世界では界王拳と呼ばれる技に似た身体運用が当たり前になっている。

 どちらも、確実に1ランクは上の戦闘力。

 問題は、多数の敵と戦い続け、疲労困憊し傷ついても同じことができるか……

 さらに圧倒的な格上相手に使えるか。

 ベル・クラネルが戦うと予定されているのは、フィン・ディムナなのだ。春姫の支援は得られるが。

 

 武威は53階層にいた。『武装闘気』があれば、砲竜(ヴァルガング・ドラゴン)の階層貫通炎は無視できる。

(黒龍波に比べればそよ風……)

 である。

 砲竜の支配下にある『竜の壺』と呼ばれる52~58階層は、マッピングも不完全だ。そして広さはオラリオ以上。

 ルートから外れた奥には、桁外れに強力な怪物がコンスタントに出現する場も結構ある。

 そこでひたすら稽古を続けていた。

『武装闘気(バトルオーラ)』を、飛影が黒龍波を食ったように体と一体化し、正しい武術の動きによって制御する。

 自分の力ではなく意念、相手の力を用いる、柔の技の極み。

 腕相撲では勝てぬ戸愚呂(弟)を、そして伝え聞いた魔界の強者たちに追いつくため……

 多数のモンスターの飽和攻撃を、すべて受け流し重心を崩す。

【ロキ・ファミリア】精鋭でも自殺にしか思えない強敵多数と、ひたすらに戦い続ける。

 時には階層主級の強竜と。時には千に及ぼうクモの怪物と。時には強化種の黒い蛇と。

 できるなら、レヴィスを何人か呼び出して襲ってほしいほどだ。

 

 

 同じころ、瓜生に敗れたベート・ローガとアマゾネス姉妹は地上で、まためちゃくちゃな鍛錬をしていた。

【ヘファイストス・ファミリア】が試作した、百トンを超えるプレス機で腹筋を鍛え始めた、血反吐を吐きながら。

 

 

 

 月のない夜だった。

 湿気の強い、風のない空気。それでも寒い。

 何十人かが、郊外の屋敷に向かい忍び歩いていた。

「モンスターを殺せ」

 小声で呼びかわしていた。

 

 仕事から、集まって住む場に帰ろうとする何人かの異端児が、魔剣も持つ男たちに襲われた。

 最低限の反撃。殺さぬように制圧しようとすると、怪我をする。

「殺スナ!」

「やはり人間は敵なの?」

 悲しい叫び。

 今日も働いた。人間たちの憎悪と恐怖の目を感じながら。時にはわずかな友愛にも触れながら。

 わずかな希望と大きな絶望。希望の頂点から絶望の頂点。

 人というとんでもない化け物と接する日々は、心をすり減らすものだった。

 太陽と人を、どれほど長く夢見てきたか。その夢が叶ったら、それがどれほど苦しいものだったか。

 そして、まだわからないのだ。戦争遊戯の結果によっては……

 そこに駆けつけた、【ガネーシャ・ファミリア】。

 もともと『ギルド』と組んで都市の治安を担当していたファミリアだが、最近瓜生の資金・ラキア捕虜もあって人数を増やし、強力な武器も得て警察に近づきつつある。

「すまない、まだまだ人間にはモンスターを憎む者が多い……」

「どれだけ、どれだけ我慢すればいいんだ」

「ドレダケ耐エレバ」

 

 

「黙って殺されるか?ずっと逃げ続けるか?反撃するしかない」

 黒い衣をまとった冒険者が、何十もの異端児に語りかける。

「ダガ、オレタチニハ爆弾ガアル」

 異端児はリュックを背負っている。その中には爆弾があり、何人かの選ばれた人が同時にボタンを押すと爆発する。外そうとしても爆発する。

「それは外した!電波を妨害できる。いま、いまから妨害するぞ」

 震えながら、黒衣の冒険者は、背負った機械を触る。

「戦え。そしてベル・クラネルに恩を返せ」

 そう言った黒衣の冒険者は強く目を閉じ、小声でつぶやいた。

「……神意だ、私は何も悪くない。モンスターと人がともに住めるはずなどない」

 

【ヘルメス・ファミリア】の呼び出しを受けたベル・クラネルが、本拠地から異端児たちが集まるところに向かった。

『仲間にも秘密で。異端児の重大な危機だ』

 そう言われれば、従わざるを得ない。

 ヘスティアやタケミカヅチはあまりヘルメスを信用していないが……

 

 そこには、たくさんの人がいた。『ギルド』のエイナ・チュールも。

 暴徒を押しとどめようとする冒険者がいる。

 逆に暴徒に加わろうとする人がいる。

「大丈夫です!異端児は全員、リュックで束縛されています。暴れたら爆発して死んでしまう、わかっているはずです!」

 エイナが、機械的な拡声器で叫ぶ。

「絶対なんてねーだろ!」

「ならなんで避難させるんだよ!」

 エイナが混乱する。

(『ギルド』が避難勧告を出したの?)

 わからない。

 彼女も末端であり、全体はわからない。とにかく急いで対応している。

 突然、拡声器に強烈な雑音が混じった。周辺のラジオにも雑音が混じる。電子機器を使わないレコードには雑音はない。

 

 廃邸宅の広い部屋で、黒い衣の冒険者がリドの胸から、リュックをむしり取った。

 爆発したら、リドも黒衣も死ぬ。

 爆発しない。

「そら爆発しない、ベル・クラネルのために、みなのために石を投げられて耐えている少年の名誉のために」

 そう言ってドアを開けた冒険者が、剣をかざした。

 その剣に、超高速の銃弾がはじける。

「大丈夫だ、リュックを外して……」

 その足元にガス弾が落ちた。煙が広がり、強烈な涙と咳。混乱が爆発する。

「くそっ!」

「まだだ、あいつらさえ死ねば!」

 耐異常が高い冒険者はそれにはダメージがないが、すぐに白リン弾の煙幕がたちのぼる。

 バタバタバタ……ほとんどの人は聞きなれない音がする。ヘリコプターのローター音。

 

 

 まったく別の場所で。瓜生とリリが刺客に襲われた。

 ふたりとも膨大な金を扱っており、常に無所属の冒険者を雇っている。電子と遠隔操作火器の要塞の奥にいる。

 雇う者もランダムに変えている。

 だが、そこに酒の匂いが垂れた。

『ギルド』が没収したはずの、酒神ソーマの成功作……

 投獄されていたはずの元【ソーマ・ファミリア】ザニス・ルストラも動いていた。

 リリにとって……知る者にとって、耐えがたい蠱惑の香りが漂ってきた。

 それに呼び出されるように、リリは心を失ったように呆然と立ち尽くす護衛たちの間を通って香りを追った。

 

 瓜生が通う店の酒に、完成品ソーマが混じった。護衛たちが飲む酒を割る水にも。

 呆けた護衛たちをよそに、瓜生はぼんやりと街に向かう。

 レベル3が4人、瓜生を追う。復讐に燃えるザニス・ルストラも加わっていた。

 瓜生は、小さい店を通り抜けた。彼が常に尾行をまくために、妙な動きをすることは彼を追う者たちはよく知っている。

 多人数で丁寧に尾行しなければならない。逆にそうすれば、瓜生の用心深さは裏目に出るのだ……行動できる範囲を狭めてしまう。複数の出入り口がある店は限られている、そのすべての出入り口を張っていればよい。

 

 

 襲撃が、一瞬で散らされる。瓜生の姿が崩れ、緑の髪の冒険者が出現する……ソロの『モシャス』。

「くそっ」

 叫びとともに、統制の取れた攻撃が始まる。だが圧倒的な力量差、ほとんど瞬時にあしらわれる。

 

 リリがポケットから薬を取り出し、飲んだ。その目に光が戻る。彼女を襲おうとした冒険者の前に、『疾風』があらわれた。リュー・リオンが小太刀を手に翔ける。

「く、くそおおおっ!」

 

 ヘルメス・ファミリアの、レベル詐欺をしているレベル3……それが小さい子供のように叩き伏せられていく。

「お、おい、誰だか知らねーが、見逃してくれればうまい酒をやるぜ。こんなうまいものはこの世に」

 最後まで言わせもせず、ザニスの腹に拳が食いこんだ。

 

「う……さすがに効きますね」

 リリが激しく息をつく。保護されてから、医神ミアハの助けも借りてソーマが作っていた解毒薬酒の効果だ。

「さてと、あれを手に入れられるのは誰でしょうか……『ギルド』とかなり深くつながっている、あるいは『闇派閥』……」

 そう言いながら、近くにある隠れ家(セーフハウス)に急ぐ。

 

 

 瓜生はヘリから異端児の宿舎を見下ろしている。ヘリの窓を開けたヤマト・命とフェルズがリボルバーグレネードランチャーで催涙ガス弾を連射している。

 狙撃銃を構えたカサンドラとダフネが潜んでいた場から、強力な可視光で信号を送っている。可視光の点滅は自動的に制御され、信号となり、ヘリの側で受容されて解読される。

【ガネーシャ・ファミリア】やラキア捕虜の精鋭も向かっている。

「やはりやったか、【ヘルメス・ファミリア】……原理は本を通じて公開しているとはいえ、この短時間で妨害電波装置を作るとは、さすが『万能者(ペルセウス)』だな」

 ヘリが近くの広場に着陸し、瓜生が触れると消えた。

 そのまま数人が近くの屋根にのぼる、そこに激しい襲撃がある。

 セミオートの狙撃銃、大口径高初速のライフルが応戦する。

「ウリュー・セージ……恨みはないが」

「異端児には恨みはないのか?」

 アスフィ・アル・アンドロメダは沈黙し、目を上げた。

「許されることではない、わかっています……だが、そちらも!人のもっとも下劣な好奇心を刺激し、異端児(ゼノス)に対する感情をごまかした」

「それはその通りだ」

 瓜生はあちこちに、映像や写真として【イケロス・ファミリア】や密輸先の王侯貴族が行った、異端児の凄惨な虐待写真を生でばらまいている。それほど人の下劣な好奇心を刺激するものはない。その下劣な好奇心、巨大な感情は、モンスターに対する憎悪すらしのぎ、『戦争遊戯』とあわさって巨大な興奮を作っている。

 だからこそ、異端児がかなり受け入れられてもいるのだ。

「ウリューさん!」

 ベル・クラネルが駆けあがってくる。

「どういうことなんですか?」

「【ヘルメス・ファミリア】はもともと、『ギルド』と異端児(ゼノス)の仲立ちとなっていた。使者として連絡がある。

 それを利用し、爆発リュックを無効化して、暴れるように異端児に言った。それをきみが討伐すれば、きみの不名誉はなくなり、また英雄に戻れる、というわけだ」

「そ、そんな!」

「団長として……そうしてでも英雄への道に戻るか?それとも許さないか?」

 ベルは一瞬のためらいもなく叫んだ。

「異端児を捨てることはしない、そんな嘘の英雄には、罪のないものを犠牲にする英雄になんか、ならない!」

 その叫びを、隠れて聞いていたフィン・ディムナはどう聞いたか……それは瓜生さえ知らないことだ。

 瓜生が宣告した。

「団長の意思はある。異端児を傷つける者は、【ヘルメス・ファミリア】は潰す」

「くっ……」

 アスフィたち数人が素早く離脱する。

「帰って寝ていてくれ。明後日は『戦争遊戯』だ。夜の戦いはおれの、おれたちの仕事だ……」

 瓜生が素早く階下に急ぐ。

 下では、【ガネーシャ・ファミリア】の者が群衆を押さえ、催涙ガスの洗浄を始めている。ちょっとした戦場だ。

 月はない。遠く、巧妙に隠れた小人(パルゥム)が、巨大着剣小銃でもある槍を抱きしめて見守っている。

 

 

 瞬間的だった。【ヘルメス・ファミリア】の、裏の根拠地に直接集団が襲った。

 強い妨害電波がオラリオのあちこちに飛んでいるが、有線通信・可視光線信号は止められない。

 すさまじい轟音が響く。大金を受け取った無所属冒険者たちが閃光音響手榴弾と白リン弾でひるませ、小さい魔剣を用いた武器で行動不能にしていく。

「くそっ!」

「主神を守れえっ!」

 多数が暗殺などに出ていたことが裏目に出て、本拠が手薄。

 リリから、有線通信を受けた使者の連絡を受けて駆けつけたソロと、オフロードバイクで石舗装を越えて高速で動いた瓜生が、大呪文とロケットランチャーで防衛線を吹き飛ばす。

 

 主神の部屋の、扉が蹴り開けられる。瓜生が巨大なセミオートライフルを構える。

 優男に発砲しようとした瓜生が、無所属の冒険者たちが硬直し、ひざまずいた。

 神威。神の力に、人は逆らえない。

「神の前だ、控えよ。神殺しは大罪だぞ」

 ヘルメスの声。だが、ソロだけは立っている。剣を優男に向け……すさまじい表情になった。

 ヘルメスは毅然としながら冷や汗を流し、一瞬何かに気づいたように焦りの表情を浮かべた。

『神威無効』

 ……そんな存在が、

(いていいはずがない……)

 のだから。

 ソロは動かない。目を伏せ、すさまじい苦痛に耐えるようにうめく。じっと、優男の目を見つめる。

 風が吹く。

「その目は、知っているんだ」

 言葉が出る。

 地鳴りのような。神々が神威を最大にして言うような。

 女の名を呼んだソロの剣が、一瞬消える。

「人を逃がすため、身代わりに死ぬために変身している目……シンシア」

 ヘルメスの首元で小さな音が鳴る。瞬時に魔法が解ける……

 メガネの美女……アスフィ・アル・アンドロメダ団長がそこにいた。切断されたマジックアイテムが落ちる。

「そこだ」

 ソロが、アスフィをよけて近くの箱に無造作に手を突っこみ、ヘルメスを引きずり出す。

「わ、わが主神を、神殺しなど」

 アスフィが必死で短剣を抜き、かかろうとするが一歩も動けない。

「ああ……エビルプリースト、ピサロを魔の王にするために……思い通りにするために、ロザリーを……自分の理想通りに成長させようと……それ以上に邪悪な支配があるか……」

 緑の髪が雷電に逆立つ。

「シンシア……ああああっ!」

 突然絶叫が響く。

「あああああーっ、ああーああああーーああーああーー」

 それは、天地を揺るがすものだった。

『ダンジョン』ではあちこちでモンスターが異常発生した。

 オラリオの薄曇りの空は、突然真っ黒な分厚い雲に覆われ、すさまじい豪雨になった。

 ダンジョン監視の役割もあり増えつつある地震計に、異常な低周波地震が記録された。

 神の怒りに等しい何かがそこにあった。

「ああああーああああーうう……かあさん、とうさん……あああ……ししょ……シンシア……びざどおおおおおぁあああああくぁあああああああああああああ」

 叫びはいつまでも続く。

 天地が揺るぐ迫力も暴走し、火山の大爆発のように吹き上がり、まき散らされ続ける。

 ヘルメスは完全に魂を砕かれたように、呆然としている。その股間が濡れ、生ぬるいにおいが漂う。

 静寂がやってきた。ほんの数呼吸、ソロが深く息をつく。

「出ていけ」

 ソロの口から言葉が出た。いつもと違う、地の底から響くような。

「出ていけえっ!オラリオから出ていけ!二度とベル・クラネルの前に顔を出すなあっ!異端児(ゼノス)に手を出すなあっ!」

 ソロの叫びに、【ヘルメス・ファミリア】のものは慌てて飛び出した。

 アスフィは主神を担ぎ上げて、まるで冒険者ですらない一般人のように逃げた。

 これ以上はっきりしていることなどない。

(目の前にいるのは神を殺せる何かだ……)

 そのことだ。

 

「……すまない」

 かなりの時間が経ってから、ソロが瓜生に謝った。

「いや、かまわない。どうにかできるさ」

「……返せるなら、戦いで返す」

 そういったソロの背に、リュー・リオンが抱きつき、抱きしめた。

(もしヘルメスに逃げられ、『ギルド』に駆けこまれていたら神殺しの大罪未遂で、こちらが潰されていたかもな……)

 瓜生は静かにため息をついた。

 

 

 戦争遊戯は明後日。移動は装甲兵員輸送車で半日。

 ビーツは絶対安静を宣告され、ヘスティアの監視下でじっと休んでいる。ベルも弱り切っている。

 異端児たちは、あらためてベルたちに深く感謝し、ただただ応援する覚悟を決めていた。ないものと覚悟した生命を、ベルにゆだねて。

 

 瓜生やリリは、オラリオでも重要な仕事をしていた【ヘルメス・ファミリア】が都市外に追放された影響を処理したり、【ソーマ・ファミリア】残党を追ったりと『ギルド』と協力して忙しい思いをしている。

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