ダンジョンに近代兵器を持ちこむのは間違っているだろうか   作:ケット

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茶番2

 異端児が控える、戦場にほど近い場……小さなリュックを背負った竜の少女が、テレビに映るベルの奮闘を見ている。

 リュックには遠隔操作の爆薬。今の設定は、決められた範囲から出たら起爆。

 ベルだけではない、店の先輩たち……リュー・リオン、アーニャ・フローメル、クロエ・ロロ、ルノア・ファウスト……彼女たちもベルの側で戦っている。

 膨大な人海戦術に。絶望を通り越したレベル差に。

 毎日毎日ミスをする自分を励まし、叱り、からかい……同じ仲間として扱ってくれる家族が。敵意から守り抜いてくれた仲間が。

「ここに入ったばかりの私は、もっと無能でした」

「大丈夫、笑って」

「ウィーネはアホニャー」

「ったくもう、ほら危ないから」

「竜女(ヴィーブル)の鱗皮はガラスぐらいじゃ切れないニャ」

「この……バカ娘ぇっ!」

 石を投げられ、唾を吐かれながら毎日自分を送り迎えしてくれたベルが。

 その傍らで共に視線に耐え抜いた主神ヘスティアも、遠い『バベル』で同じように祈り見守っているのか……

 

 異端児たちも見つめている。背にリュックを背負い、集まって。

 血が滴るほど手を握り。翼を限界まで広げ。尾をぴんと立て。

 オラリオの観客たちも目を見張っていたが、それとはまったく違う重みで。

 

 ベル・クラネルがアイズ・ヴァレンシュタインに一方的に、ぐちゃぐちゃに叩きのめされている……そうとしか見えない。

 すぐ近くで、肉眼で見ているフィン・ディムナには、アイズの心が崩れていること、ベルが見事な腰で威力を半減させ、敵の体重を崩していることは見えているが、そんなものが見えるのは達人だけだ。

 画面で見て微笑しているのはミア・グランドぐらいだ。

「ご満悦か?」

「ええ、とっても」

『バベル』の上層ではロキがフレイヤに声をかけ、美女神はハチミツのように濃く甘い声で応えた。

 ヘスティアはただ、黙って見つめている。神でありながら祈るしかない……

 

 

 

 アナキティの身体の芯とビーツの芯の間に、常に槍先がある。足と体が作る線も精密に追随している。どれほど早く動いても、常に。近づけば貫かれるだけだ。

 叩きのけて踏みこもうとし……カンだけで横っ飛びして、かろうじてすさまじい前蹴りをかわし、戻る槍の強烈な打撃を受けて吹っ飛んだ。

(直撃してたら足が砕けてた)

 高貴なる猫は、さらにギアを上げる。いくつもの残像が生じ、分身したように見えるほど。

 ビーツはしゃがんでいるように腰を落とし、どしりと安定しながら迫り続ける。数センチずつ不規則に、常に超高速で動き続けていることは、戦っているアナキティは知っている。

 目の中の槍先が突然大きくなる。目を正確に狙いながらブレなく、直線で突いてくる。よけにくいなどというものではない。必死でよけ、返しながら戦い続ける。

 フィン団長との稽古のように。

「のけ」

 乱暴な言葉とともに、アナキティは突き飛ばされた。

 かたわらを抜け、小人(パルゥム)が襲う……ガリバー兄弟、【フレイヤ・ファミリア】主力のひとつ。

 レベル5だが、四つ子ゆえに息がぴたりと合い、レベル6の戦闘力を持つ。

 斧や槍など、多様な武器による完璧な連携。

 どう考えても公称レベル3のビーツに向ける戦力ではないが、戦っているアナキティが一番よくわかっている。

(この子は低く見てレベル5、いや6でもおかしくない……)

 このことだ。

 ビーツはまったくためらいもおびえもない。

 すさまじい喜びを頬の隅にかすかに浮かべている。

 膨大な『武装闘気』が、濃厚な光が全身にまといつく。

 

 

 フィンが団長戦予定で動けないため、かなりの人数を指揮しているラウル・ノールドは、瓜生のおかげもありレベル5にランクアップしている。

 その彼は、3人のレベル4の猛襲を受けつつ多数のレベル3を指揮していた。

『黒猫』クロエ・ロロ。『黒拳』ルノア・ファウスト。『戦車の片割れ』アーニャ・フローメル。

 道具使用禁止で不利ではあるが、強力な幻覚呪文と身の軽さで翻弄してくるクロエ。拳ふたつ、圧倒的な威力と身体能力で正面から攻め続けるルノア。金色の槍で、すさまじい攻撃を仕掛けてくるアーニャ。

 背後では数少ない助っ人のレベル3が、ヒュアキントスの指揮で多数のレベル3を必死で押さえている。

 剛拳。猛槍。暗殺剣。そのすべてに対処しつつ指揮も続けられるのは、ラウルが凡人だから……

 抜きんでた速さも力も魔力もない。特別な大技、決定力がない。だが欠点がない。円グラフが大きく丸いのだ。

 だからこそ、隙が無い。崩せない。

 

 

【ヘファイストス・ファミリア】の、かなりの数のレベル3、4にレベル5の団長、椿・コルブランド……離れて動こうとした一隊を、ベート・ローガが一人で抑えようとしている。

 服には無数の小型ナイフ。皮肉にも、【ヘファイストス・ファミリア】が安価に大量生産した魔剣。

 それがメタルブーツに炎を放つ。椿・コルブランド作のメタルブーツはその魔力を蓄積した。

 頼れる仲間、だからこそ実力はわかっている。互いに手加減は一片もいらない。

 言葉もいらない。

 

 

 武威の武具は、いつもの重すぎるものではない……ジャージのようにすら見える。とにかく動きやすさ最優先。その上で、優先することはふたつ。

 ひとつは魔法・ブレス耐性。

 もうひとつは、着用者の桁外れの動き、強烈な『気』に耐えられるように。

 椿も手伝ったが、ほぼヘファイストス自身が打ったようなものだ……黒いゴライアスの硬皮と、人工迷宮の戦利品であるオリハルコンを主に。

 目の細かい鎖帷子がほとんど。

 武器はなく、素手……薄い仔山羊皮のような柔軟な手袋。針仕事もできるほどに。それでいてとことん頑丈に。

 武神タケミカヅチも協力している。拳を使わない武術、打撃は手刀と肘が主なのでそれを強化する。手刀を打つ部分、小指の付け根から手首までの横面だけをオリハルコンの曲げた厚板でがっちり固める……投げ技もできるように最小限。

 腕で受け流し、スネで受け止められるように要所に装甲をつける。手の甲、手指の甲側も打撃に使えるように厚く守る。

 すさまじい震脚に耐えられる、膝下までのハードブーツ兼用スネ当ても。

 

「バカにしないでよ!」

 まるっきり相手にされず投げ倒されたティオネは感情に任せて絶叫した。

「本気、出しなよ」

 すさまじい威力でウルガを振り続けるティオナ、だが武威はその攻撃をすべてそらし続ける。

 あくまで武威は、新しく習った太極拳・八卦掌・合気道の神髄を合わせた柔の拳の練習を、武装闘気をコントロールする練習を続けている。

(力はいらない……速ささえいらない……ぐ……『気』を天地に混ぜよ、捨己従人……ああっ、う……)

 新しい戦法を拒もうとする自分との戦いが99%。

「ほんとの戦いかた見せて!」

 ティオナの絶叫に、武威は軽い苦汁を浮かべた。

 相手の気持ちもわかるのだ。もし自分がそんな扱いを受けたら絶対に許せない。

 軽く歯を食いしばり、決意する。

「オレは、今のこれを、体に叩きこんで本当の戦い方にしたい。本当にそれで以前のオレを超えられるかわからない。怖い。だが……ああ、見せてやる。

 これが、昔のオレだ」

 武威が呼吸を変える。動きの精密な制御をやめる。

 すさまじい武装闘気(バトルオーラ)が、光の濃密な液体が、武威の巨体を包み暴走気味に荒れ狂う。巨体が宙に浮かぶほどの力。

 それは以前よりもさらに激しい。決死の修行は、気の総量も圧倒的に高めているのだ。

「あ、ああ……」

 アマゾネス姉妹が歯を噛み鳴らした。あの59階層の穢れた精霊以上の恐怖に。それをかき消すような桁外れの怒りに。

「それよ!」

 ティオネは暴風のように斬りかかった。

 武威は無防備に受ける。まるで鉄の塊をプラスチック定規で切りつけたようにククリが折れた。ティオネは肘打ちに切り替えるが、巨岩を打ったように砕けたのは肘だ。小ゆるぎもしない。パワーもまったく違いすぎる、大人と子供だ。

 そして裏拳の一撃で、彼女は銃弾のような速度で消し飛び、岩を砕き突き抜けて飛び、大木を倒し、岩だらけの地面に溝を掘り煙を上げる。

「あああっ!」

 打ちかかったティオナのウルガが手の平で受けられ、つかまれひねられ折れる。プラスチック下敷き程度に。

『神の鏡』を通じて見ている【ゴブニュ・ファミリア】幹部が、歯噛みをする。

 何度も苦労した巨大武器を壊す彼女に文句をいつも言っているが、わかっている。壊れるような武器を作る自分たちが悪いのだ。顧客の信頼を裏切り、殺しているのだ……彼女が生きているのは僥倖でしかない。

 自分たちの腕では、この戦闘領域に至れないのだ。駆け出し鍛冶師が、レベル4の下層探索に通用する武器を打てないように。

 軽く、蚊でも払うような一撃にティオナも吹き飛ぶ。

 武威は絶叫した。

「これがなんになるんだ!これでは、80%の戸愚呂にも勝てなかった!100%は、80%の4倍や5倍の強さじゃなかった、ここの言葉で言えばレベル3つぐらい違ったんだ!」

 アマゾネス姉妹は、底なしの強さに対する飢え、すさまじい絶望をはっきりと理解した。

「そ、その、トグロは」

「死んだ。若者に討たれた」

 愕然とする。

(もし、自分がそんなことになったら……完敗した相手を超えようと頑張っている時、その相手が別の誰かに倒されたら)

 考えただけでも恐ろしい。

「……死にたかったが、殺してもらえなかった……ここで、向上できる可能性を教わった」

「なら、貫くがいい。相手に……いや、全力で殺してやる」

 巨大な影が、巨体の猪人(ボアズ)がアマゾネス姉妹にエリクサーを半分ずつかけ、武威の前に立った。

 都市最強、『猛者(おうじゃ)』オッタル。

 手には棍を持っている。めったに使わない、神ヘファイストス自ら作った武器。彼の長身の、足元から天に伸ばした指先ほどある。

 着ぶくれした巨体が上着を捨てると、その下は分厚い全身板金鎧で覆われていた。輝きを消した表面、使いこまれよく手入れされているのがわかる。

 

 

 

「ウィーネ……行くのか」

「ベルっちに恩を……なら」

 と、リドは持っていた袋を開けた。大きな魔石がごろごろと転がる。

 近代兵器の訓練を兼ねて、下層でかなりの量の魔石を集めていたのだ。

 ウィーネはうなずいてそれを食い、急激な成長の、気持ち悪さに必死で耐える。

 

 

 レベル7になったリヴェリアを中心とし、【フレイヤ・ファミリア】のレベル6ふたりを加えた多数のエルフの攻撃魔法……

 深層階層主でも蒸発するであろう威力。

(いくらなんでもやりすぎ)

(死んじゃう)

 観客の興奮は膨れ上がった。

「フレイヤ様の命だ、全力で戦え」

「……なめてかかれば死ぬのはこちらだ!」

 炎が。氷が。稲妻が。圧倒的な攻撃力が、ソロたちに集中する。

『神の鏡』やテレビは真っ白に染まった。この世の終わりのような閃光と熱気。

 だがそこで悲鳴が上がる。膨大な魔力の相当部分が、エルフたちに跳ね返ってきた!

 飛び出してきたガレス・ランドロックが、巨大な盾を掲げて必死でかばう。盾が砕け、身を焼かれながら防ぐ……多くの余波がエルフたちを打つ。

 その横を通って、『疾風』が疾った。

 リヴェリアが掲げた杖に、はぐれメタルの剣が食いこむ。

 ガレスが身を引いたリヴェリアを追おうとするソロの前に立つ。ほんの一瞬、肩と肩で激しい力比べになる。

 ソロは閃光の中で、魔法をはじき返したミラーシールドをリュー・リオンに渡し、はぐれメタルの楯をつけた。リューたちには魔法無効呪文『マホステ』をかけている。

「あなたのような戦士をなめることはしない。ライアン、そしてアルドレアル……」

 ガレスがにやりと笑って答えた。

「その声に感じる敬意、比べられて光栄と思うべきじゃな」

 ソロはそっと笑った。

「だからこそ……トグ!胸を借りろ。目標がここにある!」

 そう叫び、後ろから打ちかかるトグにガレスを任せて移動した。

 ほんの一瞬、魔法職とはいえレベル7と、レベル6ふたりを食い止めているリューのところに。アイシャはほかのエルフ全員を襲っている。

「42……よんじゅう、さ……ぐうっ……ん……」

 トグが苦痛に歯を食いしばりながら、筋肉を増やしガレスを押し出そうとしている。

 ソロが襲いかかったのは、魔法職とはいえレベル7ひとりと、レベル6がふたり。

 

 

 アイズの左手の剣が、峰打ちだが容赦なくベルを吹き飛ばす。

 実は体幹で半減されているが、巨大なものを半減しても痛いには違いない。

「人を泣かせるなら、モンスターは殺す」

「話せるんです。笑い合えるんです」

「でも、いつ暴れるかわからない」

「僕たちだって!冒険者だって牙をむけば……それの普通の人間も、恐ろしいんです。一人の軍人の押したボタンが、14万人……200万人のホロコースト、数千万人殺した人も、瓜生さんの故郷にはいるって!」

 コルベ神父の話も聞いた。コロンブスやコルテスの伝記も読み聞いた。エノラ・ゲイのパイロットの話も聞き、広島原爆の映画も見た。

 

 

 爆発音がした。

「ベルを、いじめ、ないで」

 血まみれの、幼い竜女が飛びこんできた。広い翼、長い尾、長く鋭い爪で。

「ウィーネ!」

 ベルが叫ぶ。

 アイズが切りかかろうとするのを、必死で止めた。

 ウィーネの胸は、指向性爆薬に貫かれている。強化されていたからこそ、ここまでたどり着けた。だが明らかに限界……魔石をやられている。

 尾の先から灰になろうとしていく。

「モンスターは!」

 引き、ふたたび切りかかろうとするアイズ……

「たすけて、くれたの。ひとりぼっちだった、わたしを」

「なぜ……」

(私も助けてほしかった!)

 小さいアイズが泣き叫ぶ。

「アイズ、さん……」

 ベルが、かみ合う剣の違和感に気づいた。

 ふと、顔を見た。アイズが、泣いている。美しい顔をくしゃくしゃにゆがめて。

「たすけて、くれた……ベル、だいすき。だいすき」

 そういって灰になろうとするウィーネ。

 だが、そこにすさまじい速度でひとりの戦士が駆けてきた。

 緑の髪。

 背後で、必死で第一級冒険者たちを食い止めるトグの姿がある。異様なまでにふくれあがる筋肉、耳から血が噴き出している。

「『ザオラル』」

 ただひとこと、すぐにソロはトグのところに戻った。

 崩れかけたウィーネが、みるみる生気を取り戻していく。美しい鱗に覆われた、美しい乙女の姿を。

 

 ベルは無力感、激しすぎる感情に心が破裂している。

 

 観客たちは言葉も出ない。

 

 かつてフィンは、瓜生の考えの甘さをひとつ指摘していた。

「話すことができる。でもそれだけでは人間には足りない……別の何かだ。人間にとってはモンスターより恐ろしい」

 爆弾をつけられて服従する……こうすればこうなると理解し、命を惜しむ行動をとれる。言葉を使える。将来はエンジンを作り運転することもできよう。

 それは確かに人間の多くではある。

 だが、人間はそれだけではない。

 神風特攻。十字軍。自爆テロ……生命を投げ出せる。信仰のため、憎悪のため、国家のため、愛のために死ねる。

 あるいは、大虐殺ができることも人間の条件に加えてもいい。

 

 瓜生はそれを危惧していた。彼自身は、異端児(ゼノス)が人間とは異質であるほうが安心できただろう。

 人間的であるということは、人間の愚行・残虐行為もやる可能性があるということなのだ……

 

 

 小さな地震を、オラリオや周辺に置かれた地震計が探知している。

 巨大な牛人が、この戦場にほど近い人工迷宮のオリハルコンの扉を殴りつけているのだ。

 ずっと戦っていた。

 夢のために上に歩み、同胞の血の臭いに引かれて人工迷宮に入った。

 そこで数限りない食人花、クモ、仮面の怪人などに襲われた。

 巨体に首輪をつけようとする片腕の男から逃れた。

 戦って戦って戦い抜いた。何度も罠に落ち、力だけで抜け出した。

 憧れのために。夢のために。

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