ダンジョンに近代兵器を持ちこむのは間違っているだろうか   作:ケット

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真剣勝負0

 超速襲。

 フィンですら、タイミングを見間違うほど。

(速い!それにごくわずかだが緩急……知性があるモンスターか!)

 狙い済まれた一突きがはずれ、覚悟した追撃は来ない。加速、音速を突破した衝撃波だけでフィンを吹き飛ばす。

 狙いは……

 ベルに全力で打ちこもうとしていたアイズ、反応できない。見えていない。

 見てしまったベルは受けた刀を手放し飛び込み、もろ手突きのフォームでアイズの腹を突き飛ばした。深呼吸のチャージ、強靭な体幹で。

 そのベルが宙に舞う。

「ベルっ!」

 絶叫がいくつも重なる。

 

 

 その、わずかに前……

 ビーツとアレン・フローメルが向き合っていた。

 どちらも小柄な槍使い。そしてビーツにとっては、ランクアップのきっかけともなった因縁の相手。

 10メートルは離れた距離から、アレンが消え、直後ビーツのかなり近くに出現。同時に何発も火花が飛ぶ。

 槍先と槍先がぶつかり、わずかにずれて絡み合い、横に押し合い、螺旋力をぶつけ合う。

 すぐに両方が足を使い始める。近くにある『鏡』ではレベル4でも見えない、かなり上空からの放送でしか姿をとらえられない。ほぼ瞬時に15メートルほど移動して激しく打ち合い、また4メートル離れた空中で槍がぶつかり、残像が消えたら別のところで突きが交錯している。

(両方瞬間移動能力でもあるのか……)

 と思うほどだ。

 アレン・フローメルはもとより、迷宮都市最速をベート・ローガやオッタルと競い合う存在だ。ビーツもまったくおくれを取っていない。

 何度も、何度も高速移動からの激しい槍合わせ。

 アレンの姿がいくつにもなる。残像か、スキルか、魔法か……

 ビーツはまったく見当違いのところに槍を振り上げ、そこで槍と槍が激しくぶつかる。

 アレンの最上級の槍と、人工迷宮の戦利品であるオリハルコンすら使い、ヘファイストスと椿、そしてヴェルフが心血を注いだ槍がぶつかる。

 槍と槍の戦いでもあった。『鏡』で見ているヴェルフにとっては、自分が剣を握って戦う以上の緊張だった。

 絶対に折れない……命をかけたつもりはある。

 だが、迷宮都市最上級の槍を前に、折れないだけでもどれほど……突然槍が折れてビーツがイモ刺しになる、それほど怖いことはない。

 激しい打ち合いとともに、槍が曲がり、柄の表面の木材がはじけ砕けているのがわかる。

 桁外れの速さ。もっと、もっと、もっと……

 ビーツの身体を湧き上がる光が包み、身体に吸いこまれる。さらにスピードも、一撃の威力も上がる。

 槍がX字を描いて交差し、そのままじっと押し合う。荒れ地から大岩が浮き上がる。と、両方身体ごと消えて流星が絡み合い、アレンが鋭く地面を転がりつつ突き、次の瞬間石突きで跳ねあがる。

 互いの呼吸を読み合い、呼吸の虚を狙い、槍柄の螺旋で重心を崩し合う。巨大というべき足腰で崩れに抵抗し、あるいは崩しを利用して加速することで逆に相手を崩す。

 ビーツの槍は丁寧に円を描く。小さい円、大きい円。時計回り、反時計回り。それが千変万化し、あらゆる技を吸収する。アレン・フローメルの、猫人の身軽さを活かした多彩な技を。

 槍を通して投げ合うような技術戦。槍を通して押し合うような力の戦い。そして超高速で有利な位置を取り合う。

 どちらも高速で足を使い続ける。姿が常にぶれているほどに。

 槍だけではない。常に槍を手放して飛び込む動きが選択肢にあり、フェイントとして置かれる。アレンは蹴り技で槍をそらし、槍を返して石突きで殴ってくるような変則もやる。

 ビーツの人類とは桁の外れた才能と、すさまじい時間の基礎鍛錬。また対人稽古も多く変則も十分に学習している。

 アレンの才と、長い冒険者としての経験、『恩恵』による超人的な力。

 心配なのは、ビーツが連戦で疲労していないか、傷がたまっていないか……

 どちらも、何度も傷を負っている。

 

 椿を圧倒していたベート・ローガがちらりと横眼でそれを見て、かすかに顔をゆがめた。

「オラリオ最速の名を、か?」

 椿の皮肉に、ぎりっと歯を食いしばる。

(オラリオ最速?それが何になるんだ、負けたらただの負け犬だ!)

 言葉ではなく、蹴り。

 椿は口から血を流しつつ、微笑した。

「そうじゃな、負ければただの肉よ」

 

 ビーツも多くの対人稽古を積んでいる。

 入ってすぐから、リュー・リオンとベル・クラネル、当時は格上だった【タケミカヅチ・ファミリア】のレベル2、桜花や命と。

 そして『豊穣の女主人』の、リューの同僚、アーニャ・フローメル、ルノア・ファウスト、クロエ・ロロらとも。特に槍を使うようになってからは、同じ槍使いであるアーニャと。また最初から拳使いでもあり、ルノアとも数多く戦っている。

 のちにはフィン・ディムナ、ティオネ・ヒリュテ、アイズ・ヴァレンシュタインら【ロキ・ファミリア】とも何度も稽古した。

 そして武威やソロが加入してからは、その圧倒的な実力に何度も何度も挑んでは潰され、めげることなく絶壁に挑み続けた。

『疾風』と言われるリュー・リオンのスピードと、並行詠唱を可能とする冷静さ。呪文の詠唱が可能であるということは、呼吸が乱れず思考が冴えているということ……それを戦いに使われれば、何手も先を読まれ、操られることにもなる。地の力も、長い間まったく及ばなかった。腕相撲で勝てるようになってからも、稽古では簡単には勝てない強敵だった。

 アーニャ・フローメルの膨大な実戦経験、猫人の身体能力でふるわれる豪槍……何度も何度も死を見た。少ない技数、基礎だけで戦うよう指導されているビーツは、いかに基礎技を広く応用し、新しい技に対応するかを必死で模索し続けた。一つの技を攻略したら次の技で潰された。頭を使い、基礎の理解を深めた。アーニャは足腰体幹の基礎もとてつもなく高く、ビーツも足腰の鍛錬に励んだ。

『黒拳』ルノア・ファウストの、ひたすら実戦で磨かれた我流拳も高い壁だった。圧倒的な身体能力と才能で叩きつけてくるふたつの拳、そして駆け引き。何度も何度もいろいろなものを吐き、肋骨を砕かれ顔を粉砕された。肘や肩を砕かれ、背後から折れた肋骨で腎臓を刻まれたこともある。

 クロエ・ロロの暗殺剣も学ぶことは多かった。駆け引きに特化し、意識の外、油断をえぐる。想像を絶する手で血を抜かれ、目や耳を奪われ、皮膚感覚や平衡感覚を奪われ、急所の激痛で力が入らなくなる……実戦の恐ろしさを徹底的に叩きこまれた。

 ソロからは徹底的に無駄を省き、体力を節約する戦いを……目の前の敵を倒してもまだまだ次が出てくる底なしの戦いの積み重ねを学んだ。ソロは自分が何を教えるべきかわかっており、長時間の戦いを何度も強いた。そして圧倒的な力や速度の差も、この戦争遊戯の直前まで思い知らされ続けた。

 武威やフィン・ディムナ、そして二度戦ったレヴィスも、あまりにも高い高い壁である。

 そして最も長い同僚、ベル・クラネル……桁外れの敏捷、攻防一致の刃筋、膨大な鍛錬で培われる足腰。わずかな油断、わずかなタイミングのずれが致命傷になる恐ろしい戦士。何度も、何度も、繰り返し戦い続けた。ナイフと刀の冴えに苦しみながら。

 

 

 ガレスとトグが激しく押し合っている。ただ押し合うだけ、だがそれは全身全霊、生命さえもぶつけあっている。

 壁。タンク。前衛。

 ひたすら力と耐久に特化した重戦士。

 苦痛に耐える。恐怖に耐える。失血、いや内臓損傷や中枢神経損傷すら含む脱力に耐える。耐え、叩き、耐え、叩く。

 派手ではないと軽んじる者も多い。だが強豪ファミリアは、その価値を知っている。

 どれほど強力な魔法使いがいても、壁がいなければ詠唱ができない。

 超高速で敵を翻弄し、一撃必殺を決め、多数の敵相手に無双するアタッカーがいても、そんな動きはすぐ疲労する……疲れ傷ついた時に帰ってポーションを口にする、一瞬の時間を稼ぐ壁の有無は生死を分ける。

 ベルたちのパーティでは桜花とヴェルフが壁になることが多い……向き不向きは度外視してだ。

 また、新入生が入ってからの【ヘスティア・ファミリア】は古代ローマに似た編成……大盾と短めの剣を支給し、飛び道具で削っている。死人を出さないための、防御を重視する戦法だ。

 ひたすら全力を越えた全力を振り絞る。魔法も使い、力尽きた体に無理矢理鞭打って動かし続ける。

 大戦力、特に連携によって単独の何倍にもなる戦力を拘束している功は、小さくない。どちらも。

 

 

【フレイヤ・ファミリア】のふたりの最上位エルフが、猛烈にリュー・リオンを攻撃し始めた。

 ソロを潰そうとしても動かされ、その間にリューが下レベルから削っていく……

 先に手を潰す。

 といっても、ソロにとってはそれもまた読みのうち。

 あと少しでリューの足を潰せる、そこにひょいと小さな干渉が入り、危うくエルフが逃れる。あと少しで届く、あと少し……それは視野を狭める。操られる。

 リヴェリアが警告しようとする、そこにソロの稲妻が落ち、鋭い突きで声を出す余裕をなくさせる。

 だが、それどころではなくなる。

 団長たちを襲った黒い暴風……アイズに巨大な刃が迫るのを見てしまえば。

 

 

 

「ベル……ベル」

 吹っ飛んだベルを受け止めたのは、戦線から離れたレフィーヤ。

 そして手のハイポーションを注ぎ、エリクサーを求めて見回した。戦争遊戯など忘れている。あまりにもひどい傷。

 アイズが駆け寄った。

 リヴェリアを投げ倒して高速で飛んできたソロがベホマをかける。

 自らを傷つけたウィーネが泣きながらベルたちをかばい、両手を広げている。

 

 巨大な牛人を、フィンが食い止めている。

 牛人は奇妙な剣をふたふり両手に握っている。普通の人間にはかなり長く、妙に広くゆがんでいる。未熟な鍛冶師がとんでもない素材で打ったような剣だ。

 むしろ恐ろしいのは半ばまで砕け削られた双角。オリハルコンの扉すら突き破ったものだ。

 すさまじい槍の連打に圧倒されながら、戦い続ける……

(技!間違いない、知性がある)

 フィンはそのことに気づきながら、容赦なく攻め続ける。

 

 ビーツとアレンを除いては、もう戦いの手が止まっている。

 何が何だかわからない。とにかく桁外れに強いモンスターだとわかる。

 ティオネ・ヒリュテが、愛する団長のところに走ろうと起き上がろうとして、崩れ落ちた。

 

 

 アイズは、全身を目にしてベルを見つめていた。

 そんな憧れを見たレフィーヤは、ぎゅっとベルの腕を握りしめた。

 その唇から、言葉がしたたる。

「ベル……約束、できますか?アイズさんも、ウィーネちゃんと同じように、世界中に石を投げられても守り抜く、って。もしそれが必要になったら」

 レフィーヤの胸にある疑い。アイズのあまりにも圧倒的な力。

「もちろん」

 ベルには一瞬の迷いもなかった。

 アイズの目が見開かれる。

 あれほどあこがれた、うらやましい姿……世界を敵に回しても一人の少女を守り抜く英雄。

(私の英雄に、なってくれるの?)

(おまえだけの英雄…)

(私だけの英雄じゃない。あの子の、それにたくさんの女の人……でも、私も守ってくれるの?)

 

 巨牛人と戦うフィン、だが激戦の中でもその目は、巨体を照らす小さな光を見た。

 その意味はわかっている。

『戦争遊戯』の範囲外から、瓜生が何らかの兵器で狙っている……【ヘルメス・ファミリア】のように干渉があり得る。

(今まで手を出していないし、この八百長はウリューの利益になる。戦争遊戯を妨害するのではなく、妨害者を倒すだけ……こいつは、何だ?何が目的だ?

 だが、言葉で聞けばこちらも異端児を認める気だとバレてしまう。偽りの英雄になる、小人族(パルゥム)を鼓舞するという俺の野望が……)

 一瞬で思考しつつ、高速の槍が急所に刺さる……が、倒れない。急所に届かない。異様なまでの固さと厚さ、さらに胴体をねじっている。

 胴体のねじりが巨大な力として帰ってくるのを、紙一重で避ける。

 

 フィンは感知した。傷が癒えたベル・クラネルが立ち上がったことが。

 そして目の前の牛人が、ひたすらベル・クラネルを狙い、その邪魔者を除けようとしていることを。

 武人の魂が槍を通じて伝わる。

 アイズがすさまじい怒りと憎悪を胸に立ち、構えるのがわかる。

 決断までの時間は一秒もない。ポケットの通信機。槍。アイズ。すべてを見ている『神の鏡』。

(ベル・クラネルの真似事は、僕には荷が重いか?)

 封じていた自問が返ってくる。

 

 

 オラリオの群衆は、異常事態(イレギュラー)に息を呑んでいた。

 別の鏡に映る、ビーツとアレンの激戦にも夢中だった。

 すさまじい熱気がたまっていた。超高圧が。超高熱が。爆発を待って……

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