ダンジョンに近代兵器を持ちこむのは間違っているだろうか   作:ケット

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真剣勝負2・祭

 どちらも、静かに呼吸を深める。

 ゆっくりと歩き、すさまじい速度になる。

 

 ベルは振りかぶりの動きで超重剣を摺り上げつつ、わずかに歩みを斜めにずらす。胴体の角度も変える。

 胴体の横幅だけよける。

 最低限の回避からしっかり腰が入った一撃。アイズ・ヴァレンシュタインも武神タケミカヅチも理想とする正剣。

 巨体の、それだけに巨大な腕が、肘の上から雷光とともに飛んだ。巨大な剣を握ったまま。超重剣は勢いのまま、地面に深く刺さった。

 二刀連撃、とどめと思ったベルだが、牛男は太い首を振った。鋭い角がベルをかすめる。

 その一瞬の間にもう一本の腕に握られた鋸刀がふるわれ、ベルは飛び離れた。

 追撃を恐れて歩みを不規則にしたベルだが、アステリオスは動かない。

(この間!)

 チャンスと見たベルはふたたび、大きく距離を取る。

 より深い呼吸とともにやや長いチャージと詠唱。

 また、すさまじい雷がベルの双脇差に落ちる。

 

 しっかりと目を合わせる。片腕はなく、片膝には穴が開いて堂々と戦う、モンスターでありながら武人、漢(男)であるアステリオスと。

 これが決着、と皆が悟る。

 ヘスティアが耐えきれず絶叫した。

「ああ……目が潰れそう……」

 フレイヤが気をやりそうに見つめている。

 タケミカヅチが目をそらした。

(岡目八目……残酷なものだ)

 フィンも目を見開いた。三手先、決着が見えたのだ。反対側にいるオッタルも、同じものを見たことがわかる。

 

 ベルが静かに歩み出し、腰をしかと落としたまま走りが烈風に、電光石火に変わる。

 牛男は無事な左足を支えに、渾身の斬撃を放った。

 巨大な手首と鋸刀が飛ぶ。わずかにベルが速かった。

 突進から最低限の回避、腰をしっかりと決めて刀の重さだけ、力を抜いて体幹だけで斬る。それが限りなく完全に決まったのだ。

(よく修行した、だからこそ)

 タケミカヅチが歯を食いしばる。

 そして全力の一撃を出し切り、無防備に胸をさらしたアステリオス……胸の魔石は、異端児でも変わらぬモンスターの急所だ。付与魔法を受けたベルの神脇差なら貫ける。

 突きがしっかりセットされ、放たれる。

 

「だめ!とどめの一撃は、油断にもっとも」

 アイズが絶叫……「油断に」が口から出る前に、すべてが終わっていた。

 

 斬り飛ばされた両腕。吹き出す血。

 歩き続け、胸の魔石を狙うベル。

 血のシャワーが視界をふさぐ。牛巨人は、片腕を失ってバランスが崩れたからこそ……体芯から離れた大きな重りを失い、回転が加速する。

 円を描く歩みの、方向転換に使うある歩きかた。風穴があいた右膝に、全体重を叩きつけた。

 アステリオスはすさまじい激痛に耐え、腰に全力を注いだ。

 腰が回る。肘の下で切断されたばかりの腕が高速で振るわれ、ベルの突きを受け流す。

 受け流したのだ。武威にさんざんやられて覚えた、タケミカヅチが武威に教えた武術を、これまでは攻撃のためだけに使っていたのに。

 ただ一度だけ。

 渾身の突きを受け流され、完全に体軸が崩れたベルの腰に蹴りが走った。

 武威が習いアステリオスに伝えた武術は、手が斬り受け流す動きをしながらよどみなく歩き続けるものだ。次の一歩もこれまでと同じ円周上、よどみはない。次の一歩がそのまま蹴りになる……武術では、歩き方そのものが蹴りのフォームでもある。全身を巻いた力は、そのまま蹴りに集中している。

 円を描いて地面を掃くような低い、全身の円の力を出し切る蹴り。レベル7相当の桁外れの力を、見事に集約した剃刀のように鋭い蹴り。穴の開いた右膝に負荷をかけて。

 ベルの腰が砕かれ、吹き飛んだ。

 倒れたアステリオスの片足からは、ありえない形で鋭く折れた骨が突き出ている。両腕とも切断されている。

 切断された両腕の残りと、唯一無事な左足で、じり、じりと牛人はベル・クラネルのところに這う。

 どれほどの苦痛か。瀕死を通り越し、今にもこと切れそうな……

 じり、じりとベルのところに来る。体重をかけただけでも、鋭い角は容易に胸を貫くだろう。

 

「一勝一敗だ、次こそ決着をつける」

 まだ意識が半ばなかったベルの耳に、信じられない言葉が入る。

 敗北。そして生、次がある。

 

 アステリオスのところに歩み寄ったソロが、斬り飛ばされた両腕を運び、小さく呪文を唱えた。

 切断された両腕もくっつき、魔石ギリギリまで突きこまれた腹も、右膝も回復していく。

 牛巨人は緑髪の勇者にうなずきかけ、双巨剣を拾うとすさまじい速度で人工迷宮の入り口に走り扉の隙間に滑りこんだ。

 ソロはすぐにベルにも全回復呪文をかける。

 呆然と寝ていたベルの赤い目からいつしか、涙があふれる。

 激しく胸がふくらみ、号泣になった。

 

 武威は激しく見ていた。

 自らも、タケミカヅチから学んだ套路の中にある、アステリオスが決めた動きをやってみた。

 戸愚呂弟100%の鉄槌打ち……大上段から撃ち落される拳の小指側。戦艦主砲に、いや核兵器級の隕石にまさる威力。

 受け流し、筋肉がないくるぶしを蹴りぬく。

「それほどの力相手にそれをするには、相手の力をわがものとする一段上の技術がいる。そのペースで修行していても最低三年はかかると思え」

 オッタルがぼそりと言った。武威の動きから、戸愚呂弟の力量と戦法までも読んでいる。自分では絶対に及ばぬことも……そして拳を強く握った。

(今のアステリオスが相手でも、勝てるかどうかはわからない……)

 このことである。技は粗削りでも、それほどの力と速さ、耐久だった。

 

「見事な駆け引きだ……」

 神々に解説を期待されたタケミカヅチが静かに言う。神々は静かに、必死で聞く。

「両腕を失うことを、最初から前提にした。右膝の傷も見せ札にした。

 片手を失ったときの交錯からがちゃがちゃ取っ組み合うのではなく、離れてベル・クラネルに準備時間を与えた。ベルには有利だ……

 そして有利だからこそ、動きは単純になる。真っ向勝負をずっとしてきたから、相手より速く切れば勝ちだと思ってしまう。

 そして腕を切らせて、軽くした腕で受け流した。これまで受け流しはせず、攻撃一辺倒だと思わせた。最後に隠した札だった。両腕を切り勝ったと思う油断を突いた。

 そして膝の激痛に耐えて、受け流され崩れたところに全体重での蹴りを決めた。これもまさかだ。

 見事な駆け引きだ」

 タケミカヅチは嘆息した。

 ヘスティアは泣き叫んでいる。特に、ベルが殺されると覚悟した瞬間に叫び、助かったと知って泣き、泣く子を見て号泣している。

「こんなざま男神どもに見せられるかい、同郷の女神のよしみや」

 ロキが、テーブルクロスをひっぺがして、失神したフレイヤにかぶせてやる。

 

 あけっぴろげな号泣は続く。女たちは魅せられていた。人も神も、敵も味方も。

 エイナ・チュールが胸の高鳴りを自覚した。

 

「肝ふとさ、腰、さぞやよき鍛冶師となろう……欲しいな。骨身が砕けるほどに鍛えてやりたい」

 倒された椿・コルブランドがつぶやく。

「もう……悔しい……悔しいっ!」

 レフィーヤはウィーネを後ろから強く抱きしめながら、歯をくいしばっている。

 ウィーネは泣きながらも、戸惑っている。

「はは……これは……」

 フィン・ディムナが戸惑ったように天を仰いだ。

 身の内の、激しい昂ぶりをどうしていいかわからない。

 

 一歩引いていたソロが、皆を見回して叫んだ。

 強烈な魔力の嵐とともに、全員が完全回復する。

 椿・コルブランドが、ビーツが、アレン・フローメルが、アマゾネス姉妹が、トグが立ち上がった。

「え」

「あ……」

「動ける」

「腕が」

「な、なに?」

 広域・全員・即時・完全回復呪文。特にヒーラーであるリーネ・アルシェやカサンドラは衝撃に打たれていた。

 

「全員来い!経験値をくれてやる」

 剣を天に突き上げたソロの言葉に、皆が沸き立った。遠くの観客たちも。

 武威がそちらに行き、膨大な『武装闘気』を吹き出してから、手を肩に上げて腰を落としつつおろす動作とともに自らの身体で食った。栄養剤を食って爆発的に増大した妖気を身体に一体化させる。

 

 完全にすべてを出し尽くし、地面に頭を踏み埋められたビーツ。

 死んだかに見える。だがその身体に、徐々に何かが見えている。

 熱くなった鉄瓶のまわりの空気の揺らぎのような。

 目を向けたオッタルとフィンは、そこに巨大なサルを感じた。

(負けた。弱い。強くなる。限界を超える。強くなりたい。もっと、もっと、もっと……)

 サイヤ人の心が命じ続ける。人間として、冒険者としてのタガが吹き飛ぶ。

 ベホマズンによる完全治療。すさまじい経験値が刻まれ、自動的にステイタスが更新される。

 限界をはるかに超える。立つ。

 

「いつまで泣いてるのっ!!立って、戦いましょう!」

 レフィーヤの、ほとんど組んでいないとはいえパーティメイトの叱咤に、ベル・クラネルは涙をぬぐって立ち上がった。

 アイズ・ヴァレンシュタインも涙をぬぐい、剣を構えなおす。

 

 祭りが始まった。敵も味方もない。同じファミリアの眷属であっても、とにかく強そうな、近くにいる者に打ちかかる戦いが。

 胸が燃えている。冒険に燃え上がっている。

 

 ソロは剣を天に向け、超短文詠唱……すさまじい稲妻の嵐が、一点に収束し剣を白く輝かせる。

「ぬうううっん!」

 打ちかかるガレス・ランドロックにすさまじい斬撃がぶちこまれ、純白の閃光。余波が大型爆弾のように周囲を吹き飛ばす。

 大きく斬られて倒れたガレス、だが、

「ぬ……ぬるいわああっ!」

 それでも立ち上がり、立ち向かう。

 ソロには一片の油断もない。

(ライアンもこれぐらい、十度は立った……)

 仲間であった王宮戦士の強さを思い出しつつ、すさまじい力を受け止める。

 

 ビーツは槍を拾うと、全速でオッタルに突撃する。全金属棍のすさまじい重量でふるわれる、きわめぬいた技に、高めに高めた気と力と基礎技をぶつける。

 アイズとベートが、ベルとトグに猛攻をかける。その背後でレフィーヤが長文詠唱を始める。

 ティオナはアレン・フローメルと、ティオネはガリバー四兄弟と激しく戦い始めた。

 椿・コルブランドがアナキティ・オータムと激しく切り結ぶ。

 ナルヴィとラウルにアーニャ・フローメルとリュー・リオンが加わり、エルフたちを襲っていた。

 

 武威はひとりずつ、かかってくる冒険者を叩き伏せている。アステリオスが見せた、攻撃方面への応用も試している。

 

 

 祭りは日が暮れるまで続いた。

 どれほどのエリクサーが、ハイポーションが、マジックポーションが、新製品のハイデュアルポーションが消費されたろう。

 皆、立つこともできないほどに疲れ切った。激しすぎる興奮を燃やし切った。

 異端児たちと、瓜生をはじめ各ファミリアのレベル2以下がひとりずつ引きずり、治療し、同性が衣類を脱がせて避難用浴場で入浴させ、コンテナハウスで寝具にくるんで寝かせた。

 

 オラリオは日が暮れてからも、徹夜で祭りが続いた。『テレビ』で観戦したオラリオ外のいくつもの大都市でも。

 酒と肉が、大都市の在庫備蓄すべてが消費しつくされた。瓜生が膨大に用意していたものもなくなり、連絡を受けた瓜生がソロのルーラで駆けつけて補充したほどだ。

 それは、伝説だった。

 

 翌日、『ギルド』は異端児(ゼノス)の処置を発表した。

 最初から決められていた落としどころ。

 オラリオからやや離れた、不毛の荒れ地に範囲を定め、そこを異端児の独立国とする……特別許可がなければ異端児は出入りできず、外の人間も入れない、と。




戦争遊戯も何とか終わり…もうすぐに完結してもいいですが…
黒竜や極深層を描くかどうか。
外伝11でとんでもない新展開があるかもしれないのが辛いところです。
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