ダンジョンに近代兵器を持ちこむのは間違っているだろうか   作:ケット

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以後、本編12・外伝11以降の原作は原則として反映しません。原作外伝とも完結するまで書けなくなりそうですし。


仮想敵国

『戦争遊戯』はとてつもない熱狂で終わった。終わったというには、勝敗もないグダグダではあったが。書類上はロキ・フレイヤの勝利ということになっている。

 

 直後から、オラリオから徒歩で8日ほど離れた荒野が異端児(ゼノス)の領土ということになった。

 瓜生がベート・ローガやアマゾネス姉妹とひそかに戦った地でもある。そこを選んだのは、瓜生が当初から【ロキ・ファミリア】と決めていた落としどころ……隔離しての共存のために、適当な土地を探していたからだ。

 面積は瓜生の故郷の神奈川県程度。豊かだが掘りにくい鉱山がいくつかある。

 乾燥地だが、無駄に海に流れている川から強引に山に穴をあけて水路を引けばかなり豊かになる。とても風が強い。

 地形上容易に、平坦な境界で囲うことができる。

 そこに瓜生はゴールキーパー……A-10と同じ30ミリ機関砲を用いるCIWS、57ミリや76ミリの最新艦砲システムを膨大な数配備した。幅2キロメートルの帯が絶対進入禁止。カラスより大きい動くものは地上でも空中でも、人間でも異端児でも容赦なく撃破される。

 エネルギーは風力発電と補助的に魔石蓄電池。長期間人の手が触れなくても動き続ける。

 人間と交易する抜け道が一つある。特別な許可がなければ、人も異端児も出入りはできない。

 まず土地を調べる。水を引く。

 鉱山を掘る。農地を耕し種をまく。

 瓜生が出した工場設備で工場を作る。使い方を学ぶ。

 チタンやタングステンを掘り、実験室規模で製錬し、工場計画を練る。瓜生が巨大な資材を用意する。チタンはとりあえず無害な白色顔料になる。化粧品にも使われるので需要は大きい。

 異端児独自の、冒険者鍛冶師のスキルとは違う能力があるため、異端児にしか作れない金属製品もある。鍛冶ファミリアはどれもよだれを流している。

 多人数のフォモールもいるし、人工迷宮や飛行艇で襲った各国から助け生きていた者もけっこういてかなり人数は多いので、ある程度鉱工業を共に学び始めることはできる。

 異端児(ゼノス)は人間から見れば超高IQばかりで、瓜生が出した本の日本語も数学や化学もあっという間にマスターしたのだ。

 

 その国の存在はオラリオ、また世界各国にとって大きな脅威となるだろう。

 優れた知性と巨大な体力を持つかれらが学び、強力な武器を手に征服に乗り出すかもしれないからだ。

 だからこそ、オラリオも、各国もできるだけ近代工業を学び、生産力を高めなければならない……

 瓜生が仕掛けたマッチポンプだ。異端児を受け入れさせ、産業革命もさせるという。

 それが受け入れられたのも、戦争遊戯……さらにベルとアステリオスの対決がもたらした、圧倒的な熱狂あってのことだ。それ以前からの、各国で密輸の顧客の悪行を暴いた……その凄惨な虐待に対する人間の下劣な好奇心も存分に利用されている。

「結果的には人々にとってはプラスになるだろう。彼の故郷の技術は、農業生産も爆発的に増やすというのだから……誰も飢えない世界、それが彼の目的か」

 と、フィン・ディムナは言ったものだ。

 

 

 ウィーネら、何人かは『豊穣の女主人』での仕事も続ける。

 ミア・グランドに言わせれば、

「借金を払うまできっちり働いてもらうよ」

 と、いうことだ。

 何人かの異端児が、許可を取り、人の心を刺激しないよう頑丈な全身板金甲冑を着て、『ダンジョン』に潜ることもある。【ガネーシャ・ファミリア】の監査官も同行し、また紋章をつける。

 魔女狩り防止が課題となる。全身板金甲冑や着ぐるみは、異端児が人間の世界に入るために用いられた。だが異端児の存在が周知された今、逆に人が鎧や着ぐるみを着ていても、

(中身はモンスターではないか……)

 と攻撃されかねぬ。

 さらにそれが、普通の人でも、

(知性のあるモンスターが化けているのでは……)

 になるのは容易だ。

『ギルド』は、瓜生が出した脚本から「るつぼ」を上演したり防止策はしているが……

 また、【ガネーシャ・ファミリア】はそれによって多くの経験値を得られる。同時に瓜生から莫大な資金が流れ込んでいるので、無法の迷宮都市で警察と言われるにふさわしい存在となるべく拡張もしている。『豊穣の女主人』で、無法者に娘を奪われた男が嘆き、すでにない正義のファミリアを求めるような声に、

(こたえられる人数と予算を……)

 と。

 

 

【ヘスティア・ファミリア】では、ベルとビーツが3から4にランクアップした。

 ソロも、ランクアップ自体は戦争遊戯前だったが、『ギルド』に報告するのを遅らせていた、それも登録された。

 まあそれを含めてもこのファミリアのレベル詐欺ぶりはある意味周知である。ファミリア自体のランクも大きく上昇した。

【ロキ・ファミリア】ではガレス・ランドロックがレベル6から7、アリシア・フォレストライトが4から5にランクアップした。

【フレイヤ・ファミリア】との差は大きく開いたとオラリオの人々は噂した。

『戦争遊戯』でオッタルやアレン・フローメルの力をいやというほど思い知った【ロキ・ファミリア】の幹部陣はまったくうぬぼれていないが。

 レベル3から4にランクアップした者は、【フレイヤ・ファミリア】【ヘファイストス・ファミリア】にも多くいる。

 

 

 迷宮都市(オラリオ)を破壊する、というエニュオ対策も充実している。

 オラリオの外壁にいくつも、頂上がドームになる新しい塔ができた。

 形式的にはケーブルカーや電線のためだ。だがそのドームにはゴールキーパー30ミリガトリングCIWSとボフォース57ミリ艦載無人速射砲が鎮座している。

 都市外のあちこちに、オラリオのどこであれ誘導弾で狙撃できる120ミリ迫撃砲が構えられている。丘などには戦車が隠されており、いつでもオラリオのどこでも狙撃できる。

 港町(メレン)に近い巨大な洞窟を立ち入り禁止にし、そこにはアイオワ級戦艦が隠されている。湾岸戦争で活躍したと同じ最新版、第二次世界大戦時とは別物の電子機器が詰まっており、40センチ砲9門は余裕でオラリオを射程に収め、どこでもピンポイントで射撃できる。

 巨大な怪物であればいつ出てきても即座に粉砕できる。

 また、ラキア捕虜を労働力にオラリオの近くに衛星都市や大農場、灌漑水路網が急速に整備されており、オラリオの十数万人が都市を離れても問題なく生活できる。

 いくつかの地下倉庫には20万人分のテントと生活物資が隠され、いつでも全員避難の上でダンジョンの底まで水爆を連打できる。瓜生がいれば水銀や濃硝酸を流しこむことも可能だ。

 

 

『異端児(ゼノス)』の一件が一応解決し、【ヘスティア・ファミリア】も問題なく迷宮探索ができるようになった。

 51階層で得られるカドモスの泉に関する依頼と、ランクの上がったファミリアへの強制任務があり、【ロキ・ファミリア】【ヘファイストス・ファミリア】と共同で深層に向かうこととなった。

 ベルたちは戦争遊戯から数日間は休んだ。瓜生やリリは、異端児の国を作るために飛び回っていた。

 それから、ずっと留守番状態だったレベル1に稽古をつけてやるなどもした。ヘスティアがベルに嫌というほど甘えてきた。

 

 

 戦争遊戯前の合宿でもそうだったが、装甲車のあまりの反則ぶりにベルも、いやもっとオラリオに長い冒険者たちは呆然としている。

 M113装甲兵員輸送車やプーマ軽装甲車などで、2層の隠し場所から17層の隠し場所まで数時間。18層の町を素通りして、19層の車庫から50層まで2~3日。

 もっとも戦闘車両の扱いに優れる【ロキ・ファミリア】の戦力ときたら……。

 先頭はメルカバ戦車と30ミリ遠隔操作砲塔つきナメル、スウェーデンのStrv.103、通称Sタンクからなる。すべて.50BMGガトリングが据えられており、そこに人員がつけば桁外れの火力が注がれる。

 エルフたちは装輪で多少悪路走破性は劣り装甲が薄いが機動力の高いチェンタウロ・シリーズを用いている。戦車級の主砲を持つチェンタウロ、76ミリ速射対空砲を備えたドラコ、25ミリ機関砲で収容人数の多い歩兵戦闘車フレッチャを2両ずつ。

 フィン率いる中央は76ミリ速射砲のチェンタウロ・ドラコ、25ミリ4連装のSIDAM25自走式対空砲、ソ連サーモバリック弾頭多連装ロケットのTOS-1なども備えている。

 トラックもあり、いくつかの車両はZU-23-2、ボフォース40ミリなどの対空機関砲を牽引している。

 また随伴歩兵でさえ、.50BMGライフルを携行し対戦車手榴弾を持っている。車両の側面には工具と多数の重機関銃やロケットランチャーがとりつけられており、すぐに手に取れる。

 手持ち用に改造された27ミリ航空機関砲、【ヘファイストス・ファミリア】が作った14.5ミリガスト式重機関銃なども車両に積まれている。

 完全に過剰戦力だ。少なくとも49層まではたまに25ミリを発砲するだけ、ほとんどは.50BMGで対処できてしまった。

 

 ついてきている【ヘファイストス・ファミリア】の鍛冶師たちは、圧倒的な威力に歯ぎしりをしつつ悟っている。

(これで深層まで行こうとしたら、どれほどの燃料と弾薬が必要なのか……)

 このことである。

 瓜生が無尽蔵に供給してくれているからであり、地上から兵站線を保つとなるとどれほどのことか。

 第二次世界大戦でアメリカが自動小銃M1ガーランドを実用化したのも、圧倒的な物量があったからだ。日本がもし技術的に可能だったとしても、すぐ弾切れになるだけだったろう。

 

 もうひとつ、異端児(ゼノス)の存在を知ったため、発砲する前にひと呼吸置いて敵意を確認することも必要になった。装甲と火力があるからこそできることだ。

 

 ランクアップした者たちは、27階層に出る超高速の鳥モンスターを相手にランクアップ後の慣らし運転をした。

 それからの戦闘車両の走行、第一級冒険者なら一時的には出せるが半日走り続けるのはさすがに無理な速度。アイズたちもベルたちも、長い槍を手に、訓練された者は重機関銃も引き寄せて、戦車の屋根に座って警戒するだけだった。

 むしろ久々の休息というべきだった。ベルやビーツ、武威は戦争遊戯が終わってから、武神タケミカヅチの厳しい指導を受けている。

 時間がくれば小さい安全地帯に寄り、瓜生がキッチンと発電機やプロパンガスコンロを整備し、レベル2メンバーの助けも借りて大量の料理を作る。

 ビーツが相変わらず桁外れの量を詰めこむ。

 

 

 こうして主力が遠征に出ているとどうしても、レベル1と多くのレベル2は……要するに命と【タケミカヅチ・ファミリア】の大半は……留守番になる。死人が出ないよう見守りながら上層で戦わせ、また本拠(ホーム)で激しいトレーニングを積む……

 悔しければボートこぎマシン、が合言葉だ。

 サンジョウノ・春姫は連れてきている。必要な時に使えばすさまじい力になるからだ。

 

【ヘスティア・ファミリア】はある意味いくつかに分かれている。

 武威とソロはレベル7以上の実力がある。

 リューはレベル5で迷宮でもベテラン。ビーツ、ベル、トグは得意分野ならレベル5以上の実力。

 瓜生やリリは、ダンジョンでの冒険より、ほかファミリアや『ギルド』との外交、オラリオ……いやこの世界全部の産業革命、【ヘスティア・ファミリア】や異端児(ゼノス)のための情報収集・情報操作が主眼になる。多くの無所属(フリー)、未恩恵も含めて雇っている。

 命を中心とした新入生たち。ほかの新入生に比べて水準が高く、何より死人が出ていないが、間違ってもレベル7とともに深層に行くなど無理。彼らは死なさずに一人前の冒険者にすることが目的だ。【タケミカヅチ・ファミリア】もそれに強く協力している。

 春姫もレベルは低いが、無理に守ってでも深層探索に連れて行けば見返りが大きい。

【アポロン・ファミリア】も従属させており、脱退で人数は減ったが残った者は結束しており、戦力はむしろ増している。

 ほかにも【ミアハ・ファミリア】も半従属でナァーザ・カサンドラ・ダフネは瓜生の兵器の訓練も受け彼を助けている。

【ディオニュソス・ファミリア】のアイシャ・ベルカと彼女を慕うアマゾネスたちもよく協力してくる。

 

 戦力が高い者+春姫は【ロキ・ファミリア】とともに深層や人工迷宮の探索、情報と産業、新入生と分けるよりほかにない。

 

 といっても、それはある程度以上で高レベルがいるファミリアなら、どこであっても同じことだ。

 

 新入生たちは全員、いくつかの特注武器を支給されている。

 刃渡り33センチ、両刃のダガー。極厚で両手で使える長めの頑丈な柄。

 大型の盾。

 短めの薙刀……これは将来着剣した小銃を渡せるように、同じ大きさと重さにしてある。

 それで盾を並べできるだけ飛び道具と長槍で敵を減らし、レベル2以上の支援を受けて死なずに撤退する訓練ばかりしている。支援する者は近代兵器も持っており、手に余るときには使う。

 とにかく誰も死なせない、それを徹底している。

『ギルド』でも成長が早く、急成長中の【ファミリア】にありがちな新人全滅がないことが注目されている。

 

 

 48階層では火器を遠慮し、レベル4以上が武器をふるった。

 ベルやビーツも、レベルが上がっての力をはっきりと見直した。

 49階層……大荒野。とんでもない数のフォモールが沸く、深層最難関のひとつ。

 だが先頭に入ったのはメルカバとナメル。

 敵意を確認したフィンの無線号令、120ミリ主砲のキャニスター弾と30ミリ機関砲、多数のサーモバリック弾頭ロケットランチャーの同時発射。しかもその弾には、ベル・クラネルの長文詠唱付与呪文が叩きこまれている。

 多数の超音速のタングステン球が、破片榴弾が、相転移して爆発燃焼する地獄の炎が放たれる。比較的小さいキャニスター散弾でも、命中すれば過剰威力の雷電付与呪文が解放され、大型爆弾でも爆発したように内部から強靭な怪物を炸裂させる。

 巨大な怪物の群れが一掃され、8輪の高速でチェンタウロ・ファミリーが並ぶ。レベル7のリヴェリアが唱える高速詠唱呪文とともに、120ミリ、76ミリ、25ミリの弾幕が群れを叩きのめす。

 経験しても呆然とする、圧倒的な火力の恐ろしさ。ベルなどは気絶しそうだった。

 あっという間に50層安全地帯にたどり着き、そこには……


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