ダンジョンに近代兵器を持ちこむのは間違っているだろうか 作:ケット
51層、カドモスの泉を目指すアイズとベルたち。
別の泉を狙うベートたち。
50層で帰りを待つリヴェリアを中心とした大人数。
フィンを中心に人工迷宮を攻める、レベル6以上を集めた超少数精鋭。
ベルは戸惑っていた。あまりにも敵が発生するペースが速い。50になると、上層と中層の違いほどにも違うのだ。聞いてはいたが、体験すれば衝撃だった。
つい最近まで過ごしていた上層ではモンスター・パーティ、大発生と言えるほどの頻度と数。要するに目にかかった返り血をぬぐう暇もなく次々と襲う敵。
その敵もすべて、47層とも次元が違う強敵ばかりだ。恐ろしく頑丈な皮の人型。巨大で糸を放ち毒牙をむく巨大クモ。
正面はアイズが次々と、ティオナから身内価格で買った不壊属性の大剣で切り捨てている。魔法『エアリアル』すら使ってはいない。
だが、横から襲う敵も多いのだ。
アイズの動きは、無駄のなさが数段深まっている。『祭り』でソロから無駄のない戦法を、オッタルから極意に至った技を学んだ。
それから数日、日に19時間のエアロバイク、鎧を着ての大剣の慣らし素振り、ウェイトトレーニング。
その背後では装甲車とトラックが轟音を上げて走っている。レベル3や4が操縦し、遠隔操作砲塔が動きまわっている。前後を挟まれている、過積載の大型トラックを壁から出現した敵が襲う。
ベルも、一歩ごとに深呼吸とともにチャージしつつ、最小限の動きで回避しつつ斬り歩き続ける。
刀と脇差も、ヴェルフと椿が全力で作り直した。以前のものはどちらも死闘で芯がやられており、ふたりともおのが未熟に歯噛みをしつつ打った。もう素材に制限はない、オリハルコンも砲竜の牙もコバルトも使いまくった。予備として、超硬チップ交換安価不壊属性の、一尺九寸七分の大脇差も背負っている。
最小限の動きで届くものを斬り続ける。拳を、腕を、膝を、鼻先を。歩き続け、斬り続ける。斬り続ければ敵は怒り、急所をむき出す。
二刀で腰をしっかりと入れるには、より正確にひとつひとつの足、体重移動を用いねばならぬ。武神タケミカヅチとアイズにしっかり叩きこまれている。
反対側ではビーツの槍がモンスターの急所を貫いている。無駄のない動きで、恐ろしく速く。まるで何人もいるかのように残像しか見えない、それも姿はゆらゆらとぶれ続けている。すさまじい速度で細かい動きを繰り返してカウンターを決め、大きい移動で別のところから襲う敵にも対応している。
『戦争遊戯』の反省として、
「すべての動きを勝利のために……」
戦い方を磨きなおしている。
ソロの、パーティを管理し地形を活かして敵を操る動きも初歩は学んだ。
アイズの周辺視野には、彼女の力とスピードは自分たちレベル6以上にも見える。まだ未熟ではあるが、すさまじい才能は恐ろしい冴えになっている。
レベル4のナルヴィと、【ヘファイストス・ファミリア】のレベル4が運転する装甲車が発砲するのはごくたまのこと。ほとんどはアイズ・ベル・ビーツが処理している。装甲車とトラックの膨大な積載量があるとはいえ、このチームには無限兵站はない。
ナメルの装甲に守られている春姫も、トラックを運転するリュー・リオンも、その強さに安心している。
といっても、ベルもビーツも必死ではある。1体を倒す前に3体出てくるのが延々と続くし、スピードもパワーも桁外れに高い。守るものがあるのもまた厄介だ。車両は時速50キロ前後で走り続け、常に追いつかねばならない。
といっても、オッタルやフィン、ソロに容赦なく穴だらけにされたり、武威に小虫のように潰されたりされた『祭り』を思えば、
(全然楽……)
なのである。
ベートの班は、とりあえずベートがひたすら正面の敵を駆逐している。
彼は巨大な着剣小銃を手にしている。12.7ミリ特殊徹甲弾、銃身と槍のようにしごける棒状の銃床を平行にしてあり、その先端に固定された銃剣も第一級の切れ味だ。槍としての性能を重視している。
【ロキ・ファミリア】【ヘファイストス・ファミリア】ともレベル4以上全員に配られている。ティオナのように使っていない者もいるが。
ベートはそれで、高速移動で敵の急所をつかんで確実に撃ち抜く練習を、51層の強敵相手に積んでいる。長い針を用いる暗殺者のように、ミリ単位の精度で、至近距離から。
やや暇なラウル、アナキティ、アリシア、椿……4人も同じ武器を持ち、たまに打ち漏らしを片付けている。
戦車の高速で、あっという間にカドモスの泉が近づく。はっきりとわかる……異常な気配が。
闇派閥の自爆志願者たちは次々に、ティオネの重機関銃に近づくこともできず粉砕されている。
「そんなに死にたいならさっさと死なせてやるよ」
と、このうえなく冷酷なところで育ったティオネはつぶやき、正確に12.7ミリ弾を3発ずつ叩きこむ。どこから出現しても。
「自爆は一度だけだ。逐次投入は愚策も愚策……」
そうフィン・ディムナがつぶやく。瓜生に見せられた、両大戦の映画を思い返している。
瓜生とフィンは、その故郷の神風特攻隊や自爆テロの話にもなったこともある。
無論瓜生が異世界出身だということはとっくにバレている。
「どちらも、組織を維持するためのほうが重要で、逐次投入。神風特攻は対空火器の充実で対処されている。戦略的には勝利には結びついていないね」
「いやまあ、どちらも勝利の可能性がない……いや、今の自爆テロは、アメリカの負けという人も多いが」
「敵国を滅ぼせていなければ負けだ。結局は物量だね」
というような。
フィンたちの前後からとんでもない数の食人花が襲ったが、後方はフィンが放った【ヘファイストス・ファミリア】製の60キログラム巨大手榴弾で粉砕され、前方はティオナと武威が瞬時に殲滅した。
だがそれも誘導でしかないことは、フィンにはわかる。
野球やサッカーが公式にできそうな広く高い間。極太の鎖に縛られた巨人。奇妙な笑い声を立てる、両手両足とも義足の女。大量の、わけのわからない器具。
その奇声には、「ベヒモス」と聞き取れるものがあった。
フィンの素早い指示。横に並んだ自走式対空砲2両が、8門の25ミリ機関砲を向ける。レーダーの配線に割りこむことで、フィンの手元のタブレットで制御できる。
ティオネ・ガレス・ソロが『ふくろ』から出された【ヘファイストス・ファミリア】製の14.5ミリガスト式手持ち機関砲を構える。
もう、かなり普段から『武装闘気(バトルオーラ)』を自分で食って行動できるようになりつつある武威が、静かに肩の高さに上げた両手を下ろす……
50層安全地帯で、カドモス攻略班を待ちながら近代兵器の訓練をする居残り組たち。
瓜生などは、慰労のためにと真空調理・パン焼き・ビーフシチュー・フェジョアーダなど時間がかかる料理をやっている。
異常に気付いたのはレベル7のリヴェリアだ。
号令、全員が重装甲の戦闘車両に飛び乗り、ハッチを閉めた。
広大な50階層の、壁に近い部分が大きく揺れる。崩れる。
土砂崩れのように、膨大な数の怪物が押し寄せる。
40階層台の怪物が圧倒多数。あのタイゴンファングの群れも。
「大規模怪物贈呈(バス・パレード)……『27階層』の再現か」
リヴェリアが歯を食いしばる。味方の死を見捨てて勝利をつかんだ、その心の傷は彼女の胸にも深い。
「だが、今の我々には愚行だ。オールウェポンズフリー、すべて敵だ。ファイア!」
エルフ王女の叫びに、全員が従う。レベル4もほとんどいない、大半がレベル2や3。だが、膨大な火器がある。
メルカバが2両。
100ミリ砲をもつSタンクが4両。
25ミリ4連装の自走式対空砲が8両。
30ミリ遠隔操作砲塔と60ミリ迫撃砲、12.7ミリガトリング砲を備えたナメルが4両。
120ミリ低反動砲のチェンタウロ、76ミリ速射砲のドラコ、25ミリ機関砲のフレッチャが2両ずつ。
20ミリ機関砲を持つヴィーゼルが6両。
多連装ロケットが3両。サーモバリック多連装ロケットが1両。
全員が装甲車に乗っている。逃げられる。最低限だが守られている。メルカバ、ナメル、Sタンクには12.7ミリガトリングもついている。
さらに瓜生とリヴェリアは遠隔操作もしている……
57ミリ艦砲CIWSが4基。
30ミリガトリングCIWSが10基。
いくつも200キロ級無誘導航空爆弾が用意されている……第一級冒険者なら、腕力で100メートルは投げられる。
パンツァーファウスト3対戦車ロケットや重機関銃も多数、車両から飛び出すときには手に取れる場所に。
補給の心配もない。訓練水準も、前回より大幅に高い。
高台の陣が、硝煙と砲口炎に包まれた。
その向こうから、ひときわ巨大な階層主の姿が恐ろしい速度と圧力で襲ってくる……
ベート・ローガたちがカドモスの泉にたどりついた……階層主以外で既知最強といわれる『カドモスの強竜』を相手にする緊張感。
だが、その気配はない。前回もそうだった……それが、最初に極彩色の新種を見た時だった。
ダンジョンの、壁の中に何かがいる。
その何かは、数本の触手を伸ばしている。青緑色で、奇妙な赤黒い斑点がある。
そのひとつは、暴れ狂うカドモスを縛り上げ、先端近くが何本にも分かれて口からも鼻からも侵入して何かを吸い上げている。
もうひとつはブラックライノスで同じことをしている。
もうひとつの犠牲者は、54階層で稀に見るアブラムシのモンスター。針を刺して血を吸うだけ、50階層台にしては弱いが、次々と尻から子を産む単為生殖で恐ろしく繁殖が早く、別のモンスターを引き寄せるので時には怖い。
カドモスの強竜が力尽き、灰と化した。その魔石を触手が吸収する。ブラックライノスも後を追う。
壁から、巨大なキノコが生えた。キノコと言っても動物の内臓のようにも見える。
ダンジョンそのものが膨大な力を吸われた気配がある。
そのキノコが噴き出した無数の、野球ボールぐらいの何か……それが壁に当たると、壁がもごりとふくれあがる。言葉にできぬ、人に聞こえる限界を高低とも圧倒的にぶっちぎる悲鳴が響く。
出現したのはケンタウロスのような怪物が百体近く。竜のうろこと頭部、長い長い竜の尾のような両腕、サイのような四つ足の胴体。
その腹からは奇妙な液が迷宮の床にしたたり、その水たまりが迷宮の壁のように破れて新しく同じ怪物が出る。
「キメラを、人工的に作った?あの羊のようなケンタウルスはこれの準備?」
アナキティがつぶやく。
さらにベートたちの後方から、やたらと硬い極彩色のザリガニが膨大な群れを成して襲う。加えて多数のブラックライノスが、ザリガニと食い合いながら襲ってくる。
「ぶっぱなせ!」
ベートの叫びとともに、メルカバの120ミリ主砲が咆哮する。目標はキノコ。
強烈な多目的砲弾を、一体の怪物が自分の爆砕とひきかえに止めた。
誰かが指揮をしている。……奥のフーデッドローブ。
「ぶっ殺す!」
ベートが叫びとともに疾走する。そのベートをすさまじい衝撃が襲う……ケンタウルスもどきの長い鞭腕。人間が4メートルの槍を持つより間合いは長い。
レベル6のベートが受け止めるのが精いっぱい、それほどのパワー。しかも鋭く硬い棘があり、のこぎりで切られたような傷をつける。カウンターで放たれた大口径弾が竜のような鱗に覆われた胸に命中するが、わずかなへこみだけ。動きを止めもしない。
ナメルの30ミリRWSが咆哮する。当たればさすがに一撃で終わる、だがすばしこい敵にはなかなか命中せず、連射も遅い。同軸固定されて放たれる12.7ミリガトリングの雨も同じく命中しない。
4人のレベル5が、それぞれの武器を構えたところに強襲。撃つ余裕がないほどの速度、圧倒的なパワー。
「食い止めるっす!」
ラウルの叫びとともに、椿の着剣ライフルが敵の足をすくい、全力の突きが胸にぶちあたる。貫通できていない、だが足止めにはなっている。
アナキティも同じく、強烈な鞭打ちをすさまじい速度でかわし、懐に飛び込んで打ち終わったわきの下に銃弾を叩きこむ。効いていないが即座に槍が目を襲い、顔をかばった瞬間に別の手が投げた対戦車手榴弾、爆発とともに成形炸薬弾頭が胸に風穴を開ける。
アリシアはその間に、ナメルの荷室に駆け戻る。より強力な武器を取り出すために。彼女を追う敵を、A-10と同じ30ミリ弾が消し飛ばす。
ベルが見たものは、恐れを通り越したものだった。
黒い巨竜。その前に積み上げられ、腹を減らした大型犬が大袋一杯のドッグフードを一瞬で空にするように食われた軽トラック一杯分の魔石。
極彩色のザリガニの、ひときわ巨大なものが多数。
そして緑の胎児を宿す宝玉……
止めようとしたアイズの突進はわずかに遅かった。胸に魔石を持つ怪人が投げたそれが、カドモスの強竜、しかも強化種の胸に吸いこまれる。
ビーツが素早く判断してリューのトラックに駆け戻り、大きな業務用チョコレートと4リットルのオリーブオイルを次々と食べ飲んだ。
「ベル、長文詠唱。それまで守る」
アイズとビーツが立つ。リューもトラックを降りる。強大にもほどがある悪夢……あの『隻眼の黒龍』を思わせる絶望に。アイズの背中がすさまじい熱を帯びる。
「……ゴライアスを捕えてくるとはな」
フィンが呆れた。
目の前で、両手足すべて義足の奇妙な女が奇妙な道具を操る。
手にあるのは、皮部分の厚みが常人の身長より厚く、長い長い毛が生えた毛皮の一部。
さらに緑の胎児を宿した宝玉。
空になった、膨大な容器。
「ギャーアアアア!フィン!フィン!キーヤヤアアアア!ベヒモス!ドロップアイテム!」
奇声を上げる女……
「ヴァレッタ・グレーデ?」
フィンがつぶやく。確かに殺したはず。14.5ミリを何発も、さらに20ミリ。ばらばらになっていた。
「……上半身と下半身がバラバラになったオリヴァス・アクトが、胸に魔石を持って復活したというな。なら……撃て!」
フィンの号令とともに、8門の25ミリ機関砲が咆哮する。
だが、天井の扉から大量に落ちた食人花が弾幕を一瞬阻み、その間に儀式は完成される。
階層主・ゴライアス。
レベル5をさらに怪人化したもの。
三大クエストの一つ、ベヒモスの一部。
それが『神秘』によって作られた、恐るべき魔道具でひとつの怪物として、緑の胎児……穢れた精霊に寄生される。
すさまじい魔力とプレッシャーが吹き荒れる。
そこにあった人型は、意外なことに巨大ではなかった。せいぜい身長2メートル程度。
分厚い、赤い毛皮に覆われていた。
極太の太腿と腕。
あの、美しすぎる穢れた精霊の顔。
「ティオネ、射撃。ティオナは大盾、ポーションを運んでくれ」
フィンは、レベル6を足手まといと断じた。
ソロが『ふくろ』から膨大な25ミリ弾を出した。ただでさえ大量の弾が積まれている装甲兵員輸送車ベースの自走式対空砲に追加する。
ティオナが装甲車から、普通の扉ぐらいある不壊属性の大盾を外す。
突然の激烈な突進。ガレス・ランドロックが振るう斧がガラスのように粉砕され、本人がサッカーボールのように蹴り飛ばされた。
即座にフォローした武威の腕と、強大な腕がまともにぶつかる。衝撃波だけでかなり離れた自走式対空砲が、大きくずれる。
ちょうどそのころ。地上の、オラリオからかなり離れた、三大魔境の一つと恐れられる地。
そこを、赤い髪の豊満な身体をした女が訪れていた……