ダンジョンに近代兵器を持ちこむのは間違っているだろうか 作:ケット
熊のような、あるいは猿のような毛皮の巨体。『穢れた精霊』の美しい顔なのが、違和感を通り越して吐き気がする。30センチもあろうかという長いカギヅメ。並みの男の胴より太い腕と太腿。
その太すぎる腕が振るわれる。
武威は目を閉じ、最大出力の『武装闘気(バトルオーラ)』を食った体で歩いた。泥の中を足を滑らせて歩くように。
触れた。その瞬間、沈めた腰に力を爆発させる。肘をほぼ真横に突き出す。
武威は『戦争遊戯』で、自分が武神から習った技を盗ませたアステリオスが、その技を攻撃に使ったのを見た。また見事な駆け引きでベル・クラネルを破るのも見た。
『バベル』で鏡やテレビを通じて見ていた武神タケミカヅチは武威を呼び、
「攻撃を学びたいのだろう?今のお前より、腕力も速さも少し上の相手や、巨大な怪物とどう戦うか、考えているな?」
と図星を突いた。
それから、武神自ら眷属たちとの稽古を見せた。ヤマト・命を含むレベル2が4人。
武芸百般、槍・刀・斧・短剣、拳・投げ・蹴りすべて。次の日には複数連携攻撃も。
タケミカヅチが武威に教えている単純な套路の、その中でも数手の技だけですべて倒した。零能の人の身、ベンチプレスの数値は武威どころかレベル1の眷属と比べても桁外れに劣るのに。
カウンターで肘打ちから足払い、転んだ相手の首や頭を蹴る。レベル2の理不尽な耐久がなければ確実に死んでいる。
「先の『戦争遊戯』でも多くを学んでいるはずだ。あとは今見せたものが補助線となろう」
タケミカヅチが言った通り、武威の中で湧こうとしたものが形になった。
そのまま武威は頑丈な訓練場で、桜花を練習台にタケミカヅチがやった技をゆっくりと寸止め稽古した。
(今日の帰りに、今の自分より腕力が少し強い敵に襲われても……)
なんとか生き延びられる動きを、身体に刻みこんだ。
心臓に肘、膨大な気を栄養剤として爆発的に増した妖気を身体と、技と一体化させて。
その呼吸が、オッタルが自分にやったのと同じだったことも思い出される。
『気』を使う技術では同等かそれ以上と言えるビーツの動きも思い出す。
そして前の世界での、技の極みであった幻海の動きも。
一瞬、突進力と全身での肘打ちが拮抗する。
転瞬、
(大型爆弾か……)
というほどの衝撃とともに、毛皮の巨体が後ろに少し吹っ飛んだ。
その、着地するアキレス腱をソロの電光を帯びた剣が突く。精密に。
「この線に誘導」
フィンの叫びを、言うまでもなく聞いている。
8門の25ミリ機関砲。敵の耐久、力、敏捷ともすさまじいが……
そのとき、『穢れた精霊』の頭部が超短文詠唱を刻んだ。
毛皮の巨体が、腕や太腿、胸や背の筋肉が倍にも膨れ上がる。桁外れの自己強化……
レベル5なりたてのアリシア・フォレストライトが取り出したのは多数の対戦車手榴弾と、大型対物ライフルのサイズだが水平二連のブルパップ式ライフルだった。やたらと口径が太く、銃身が厚い。中折れではない、大砲と同じ垂直鎖栓式。
機関砲弾と成形炸薬弾頭では、少なくともRHA……鋼鉄装甲に対しては成形炸薬弾頭の方が桁外れに貫通力が高い。
A-10の30×173ミリでさえ8センチ弱。
それに対してパンツァーファウスト3は70センチ、対戦車手榴弾RKG-3でさえ22センチある。
常人が至近距離で対戦車手榴弾を使えば自分も爆風で死ぬが、上級冒険者なら耐えられる。
巨大で、特にしっかり脚をつければ何トンにもなる機関砲より軽い。機関砲の優位は連射でき、一発が使い捨て対戦車ロケットと比べれば軽くかさばらず、安く、射程が長いことだ。
ダンジョンでは射程はさほど必要ではない。
多数の対戦車手榴弾を高レベルの冒険者が運用する、それが選ばれた戦術の一つ。
もうひとつの切り札。
小さい『クロッゾの魔剣』と水を発射薬にした銃……口径は65ミリ、銃身長はわずか110センチ。だが、銃口初速は火薬の限界を超える2500メートル毎秒以上、APFSDS(装弾筒付翼安定徹甲弾)のみの弾頭の重さも76ミリ砲のそれに匹敵する。タングステンとアダマンチウムの粉末合金で、貫通力は105ミリ戦車砲に迫る。
火砲とは桁の違う超高圧に耐える銃身と閉鎖機構は椿たち【ヘファイストス・ファミリア】高レベル幹部がふんだんにオリハルコンと瓜生由来の素材を使って作ったもの。
そしてその桁外れの反動は、レベル4でも大怪我をする。レベル5でもものすごく痛い。
プレス製法で、弾数は充分にある。
アリシアにとっては胸が煮えくり返るようだ。エルフたちがどれほど『クロッソの魔剣』を憎んでいるか……だが、鍛冶師としてのヴェルフの真摯な姿は、味方としても敵としてもよく見ている。
次々と轟音が響き、桁外れに強いケンタウロスが胸を貫かれる。
「戦車に誘導!」
ラウルの叫びとともに、ひるむ敵をアナキティが誘導し、操作する。
戦車に向かう攻撃は椿が真正面から長巻をふるって食い止める。
そしてベート・ローガは、敵の頭を狙って突撃する。速度がどんどん増す。被弾も構わず。速く、速く、より速く……そして足のメタルブーツに、別の剣帯から抜いた小さな魔剣を触れさせる。
桁外れの稲妻がほとばしる。『クロッゾの魔剣』。
膨大な機関砲が、多数の敵の泥流を消し飛ばす。
一発一発が轟音と膨大な砲口炎、衝撃波を周囲にぶちまける。硝煙が高熱で渦を巻いて立ち昇る。
巨大な溶岩の怪物が、手榴弾のように炸裂し、その後ろのタイゴンファングが致命傷を負って倒れる。
そしてひときわ巨大な巨人の胸に、額に、最大の砲が向く。
メルカバの120ミリ滑腔砲。
Sタンクの105ミリライフル砲。レベル7のリヴェリアが、素早く腕力で左右を調整した……戦車を持ち上げるぐらいは造作はない。
叫びと、そしてすさまじい砲声ともに、周囲を砲口炎が満たす。高レベル冒険者の目でも見切るのが困難な、初速1700メートル秒のタングステンの太矢が巨人の頭に……
消し飛び……瞬時、それどころか消し飛んだところが見えないほど短い時間で回復する。一瞬も足を止めもしない。
誰もが衝撃を受ける。強大なAPFSDS(装弾筒付翼安定徹甲弾)が通用しない……
もっとも強い衝撃を受けたのは瓜生だろう。そしてその恐怖は手の操作になり、瞬時に数百の30ミリ弾が、57ミリ艦砲級弾がぶちこまれる。
まったく通じない……
「魔剣!」
リヴェリアの叫び、何人もの冒険者が使い慣れた、大幅に安くなった魔剣をふるう。炎が、氷が突き刺さり……止まらない。
巨大すぎる巨人。絶望。
戦車のように大きな拳が陣に突き刺さろうとする……
巨大な盾を構えた少年が立ちふさがった。
「トグ!」
桁外れの打ち下ろし。爆発のような衝撃が周囲に満ちる。
少年は立っていた。ふくれあがった筋肉で全身をよろって。
「あれは……自己呪詛だな」
リヴェリアが瓜生とリリに言った。
「階層主バロールは、呪詛の魔眼を用いる。それを自分に使い、たとえば刃では決して傷を負わないかわりに棍棒には脆い、とできる。
以前は白兵戦が完全無効で、苦戦したことがある」
アイズ、アマゾネス姉妹、ベート、フィン、ガレスの全員が無効。魔剣と、急遽大盾を構えたガレスとティオナが防ぎきり、リヴェリアの呪文で葬った……
「飛び道具と魔法、両方に絶対耐性をもち、その代わり白兵戦ではランクダウンしているだろう……」
言ったリヴェリアが手を伸ばす。エルフが、身長の倍ほどある棒をさしだす。
「後衛とはいえこれでもレベル7だ。【ヘスティア・ファミリア】のレベル3に頼り切るわけにもいかん……」
そう言ったエルフの超美女が、すさまじい速度で階層主に突撃する。
それ以外の怪物たちは、膨大な機関砲の嵐であらかた消えたと見える。
巨大すぎる『カドモスの強竜』が、二足歩行と化す。前腕は人のように長く、親指は人がマチェーテを持つ程度に長く鋭い爪。牙をむいた額の上には美しすぎる『穢れた精霊』の身体。
すさまじい咆哮がすべてを打ちひしぐ。
「訓練通り、詠唱阻止に専念します」
リュー・リオンは大型のライフルと多数の対戦車手榴弾を手に、『疾風』の名の通り駆けた。
「【目覚めよ(テンペスト)】」
アイズの超短文詠唱、すさまじい風が吹き上げる。
素早く詠唱を終えた春姫の、黄金の鎚がふりかかる。春姫はすぐに次の詠唱にかかる。
ビーツが『気』をまとい、戦闘力5倍で打ちかかった。
ベルとレフィーヤは長文詠唱。
すさまじい勢いで振るわれる前腕と、噛みつきの連続攻撃。後ろから攻めるビーツを尾が襲う。引き裂かれたのは残像、彼女は柔らかく飛び乗っている。
ビーツの動きが何とも違う。柔らかく、先がある。
『戦争遊戯』でアレン・フローメルとの因縁の再戦で、ふたたび負けた。
(勝つことより強くなることを優先してしまった……)
からだ。
すさまじい悔しさ、人の枠を破るほどの。
そのすべてが、桁外れの天才とともに彼女を成長させた。
勝利する。すべての呼吸、どんな小さな筋肉の動きも、味方も、すべてを勝利のために。
瞬時に強大な敵を理解する。味方の戦力を理解する。
あとは、深く一致させた自分の気と肉体を、勝利への流れに合わせるだけ……
アイズ・ヴァレンシュタインの『リル・ラファーガ』を打つタイミングを作る。
ナメルの30ミリ機関砲にとって狙いやすく、また装甲車を攻撃させない。
そして敵の足に、肘に、確実にダメージを浸透させる。ふと槍を手放して飛び込み、ごく柔らかな拳を入れる。内部に『気』が浸透する。
強化種、カドモス、さらに『穢れた精霊』のとてつもない力と敏捷を、まったく相手にしない。どれほど速く攻撃してきても、すべて紙一重でかわしている。
金色の光をまとったアイズ・ヴァレンシュタインは鎧と不壊属性の大剣で、果敢な攻撃を繰り出している。急速に以前とは変わっている。自分よりはるかに強い相手を何人も見た。
そして背後で、すさまじい力が凝縮している。
ベル・クラネルのチャージが続く。レベル4、4分間のチャージ。それに長文詠唱。
レフィーヤも長文詠唱を続けている。
対抗して呪文を唱えようとする、巨大竜の肉体を持つ『穢れた精霊』の美しい顔を、詠唱終了直前に『疾風』の対戦車手榴弾と超強力な手持ちライフルが射貫く。
確実に魔力暴発(イグニス・ファトス)を起こさせ、体力と魔力を削る。
同時に何十発も30ミリ機関砲弾は命中している、それでも巨竜は動きを止めない。
ベルのチャージが終わる直前、春姫の妖術でベルの身体が輝いた。
「ロードス島伝説」の、剣では絶対死なないというのは本当にえぐかった…