ダンジョンに近代兵器を持ちこむのは間違っているだろうか   作:ケット

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強くなりたい

 その翌日は、休みの日。

 ベルは……朝、殺人兵器に殺されかけたこともあって……書き上げた礼状を出しに行く、と夜も明けないうちにホームを飛び出した。朝食も食べずに。

 休みではあったが、

(街中も物騒だから……)

 といわれて、軽装鎧とナイフは身につけている。

 手紙を投函し、そのまま珍しい早朝の街を見て歩く。朝の空気、つい昔を思い出してしまう。早朝から起きて水をくみ、土を耕し、雑草の芽を抜き、害虫を退治し……そんな暮らしの日々。

 なんとなく懐かしくもなる。

 つい昨日、死にかけた。

 夢が崩壊し、そのかわりに……アイズの面影が心に刻みつけられた。圧倒的な、美しさと強さ。追いつきたい。隣に立ちたい。

 結構長い時間になり、空腹を感じたとき。

 ヒューマンの少女に魔石を落としませんでしたか、と言われた。そしてベルの腹が鳴り、シル・フローヴァという彼女の朝食を渡された。そして、彼女が働いている店で夕食を食べるよう言われた。

 ずるいな、とは思ったが、なぜか責める気にはならなかった。

「……食べに行くんだから、そのお金は稼がないと!」

 と、ホームに帰った。ベル自身の稼ぎは、このあいだヘスティアへのプレゼントにほとんど使ってしまった。

「今日は休みの日ですが、これこれこういうわけで稼ぎたいので、ダンジョンに行きます!」

 できたらソロで、とも言いたいほどだ。

「やられたな。とんでもない金額を請求されるかもしれないぞ」

「え」

 見事に青ざめる。

「まあそのときはそれで経験だな」

 と、瓜生も支度をする。

 

「休みの日はちゃんと休んだ方がいいんですよ!昨日あんなことがあったばかりなのに……ゆっくり休むべきですよ。明日は、ちゃんと休んでくださいね!」

 と、エイナはうるさく言った。

「ウリーさんも、とんでもないことはしないでくださいよ……」

「感謝はしているんだ、いつも」

「なら行動で示してください!」

 

 五階層。

「おれは手を出さない、どれぐらいが限界か、稼ぐんだな」

 瓜生はそう言って、小型装甲車にこもってしまった。

 

 次から次へ出てくるゴブリン。ベルはひたすら歩き続け、斬り続けた。

 斬っても斬っても出てくる。

 魔石を拾う間もなく、歩き続け、斬り続ける。

 はっきりわかる……止まったら死ぬ。それほど数が多い。

 きゅりきゅり、とFN-MAGをつけたRWSが動き続ける。発砲は一切しないが、いつでもベルを助けられるようにしている。装甲車を殴り続けるモンスターもあるが、どうしようもない。

 一度に、10匹近く。ベルは走って振り返り、斬ってまた走って、突いて跳んで……切れのある動きとスピードの優位で乗り切った。

 激しく息をつき、膝が崩れそうになる。

 突然、RWSが発砲して壁が傷つき、モンスターの出現が止まる。

 瓜生が出てきて、竹熊手で魔石を拾い集め、袋に入れてベルも乗せた。

 スポーツドリンクと、刀をぬぐう布を渡した。

 そのまま、装甲車は強引に通路を通り、一気に10階まで走った。

「ちょうどいればいいんだが……」

 少し広いルーム。しばらく見まわし、出てくるインプをRWSで掃討する。

 三メートルほどの巨人が二体、こちらに向かってくる……

「ちょうどいい」

 瓜生は言うと、両手剣と散弾銃を手に軽装甲車から降りた。

「分断する。もう一匹を倒せ」

「え?」

「オークは動きが鈍い。少なくとも戦い続けることはできる」

「は、はい!」

 瓜生の意図はわかった。

(昨日、失った自信を回復させよう……)

 というのだろう。

「よし!」

 決意したベルはぬぐった刀を手に、巨体に立ち向かう。

 瓜生も両手剣を構え、中段に構えたまますり足で進み、二頭を分ける。

 横から襲おうとしたインプの群れには、散弾銃のバックショットが飛んだ。9ミリ拳銃弾に近い弾を一度に何発も飛ばし、二連発で群れ全体をカバーする。

 そして銃を背負い直し、長大で重厚な両手剣を大きく振りかぶり、巨人の拳をよけつつ正面打ちに斬り下ろす。そのまま、全身で突いた。

 レベル2の力、皮と肉を深く貫くが、生命力が強く一撃では倒れない。

 瓜生は無理に抜かずに離れ、グロックを抜いて3発、4発と連射する。

 倒れたのを確認し、ベルを振り返った。

 

 ベルは、ミノタウロスに劣らぬ巨大な拳を、必死でかわして斬りつけていた。かたわらの銃声も聞こえないほど必死に。

(間合いに入ったものは、敵の手でも足でもなんでも斬り、歩き続ける!)

【タケミカヅチ・ファミリア】の冒険者たちからも話を聞き、練習した。

 一人が標的になり、複数に打たれ続け……動き続け、反撃し続ける稽古も何度かした。

(アイズ・ヴァレンシュタインさんは、ミノタウロスでも一瞬でこまぎれにしたんだ!)

 憧れの姿を思い出す。背が熱く燃える。

 スピード、緩急、スピード。

 ゆっくりと動いて相手の動きを誘い、一気に加速して、切り裂く。分厚く丈夫な皮、だが鋭く重い刀はしっかりと切り裂いている。

 一発でもやられたらアウト、その緊張感の中、ますますスピードは増していく。

 巨人の膝に、肘に、次々に傷が増えていく。出血が増える。一撃、腱を斬ったか、ひときわ大きい叫びとともに動きが大きく鈍る。

(いける?)

 諸手突きで一気に……そう考えたが、危険センサーと歩き続ける訓練が、別の動きをさせた。

 歩き、体をめぐらした……そこに、ベルの頭ぐらいある拳の小指側が地面をたたく。

(危なかった)

 一瞬で高揚の汗が冷や汗になる。

 それでも歩きは止めない。

 ほぼ後ろに近い、絶好の角度……

 大木を斧で切るように腰をきめて、袈裟切りが走る。

 太い腕がすぱりと切断される。

(ここだ!)

 と、首を狙った突き……だが、残っていたもう一方の腕がせまる。

(あ)

 スローモーションになったそのとき、背中から突き飛ばされた。

 オークのすぐ横でたたらをふんだ、そのとき耳を銃声が叩いた。

 すぐ横で、大きい頭がざくろのように割れている。二発目で胸に穴が開き、巨体が塵に変る。

(背中から、両手での体当たり……)

 やられてみて、やっとわかる。

 ふりかえると瓜生が、散弾銃を構えていた。

 

「まあ、次は同じミスをするな。そろそろ帰るぞ」

 瓜生にポーションを飲まされたベルは、高揚が一気に残念に変わってしまった。

「もう一度やれます」

「じゃあ思い切りジャンプしてみろ」

 言われて跳ぼうとして、膝が崩れて尻もちをついた。

「帰るぞ。自分の体力がわからなかったら死ぬぞ……疲れる前に自分で判断して、帰ることを選べるようになれ」

 と、瓜生はドアを開けた。

 

 ベルの報告に、もちろんエイナは頭を抱えた。

「危険はないはずだ、ちゃんと警戒していた」

 と瓜生は言っているが、いくらなんでも半月しか経っていない子に、

(オークはない……)

 だろう。

 瓜生の慎重さを理解していれば、ベルのステイタスの伸びと、武器の性能なら可能だったことはわかるかもしれないが。

 

 

 ステイタスを更新したとき、なぜかヘスティアがひどく機嫌を悪くした。そしてジャガ丸くんバイトの仲間と飲みに行く、と飛び出してしまった。

 

『豊穣の女主人』は、かなり有名な店である。

 料理がうまい。高いが。酒も、よい。

 ウェイトレスはすこぶる美人ぞろい。

 だが、簡単には手が出ない。ウェイトレスたちも、そして恰幅のいい女主人も、

(とてつもない強さ……)

 なのだ。

 店員に訳ありが多いことも、知る人は知っている。最大手二強の一角をなす【ロキ・ファミリア】の行きつけであることも。さらに、ごくわずかな人は、【フレイヤ・ファミリア】との縁の深さも……

 

 まず、メニューを見て高価さに驚きおびえていた。

 無限の金を持つ瓜生がいるが、ベルもヘスティアもいい気になって浪費することはしていない。どちらも、そういう卑しさはないのだ。

 大食い、というあらぬ評判をたてられていたベルはそのことに慌てた。

 だが、すぐにそれどころではなくなった。

【ロキ・ファミリア】の幹部たちが、遠征の打ち上げに来たのである。

 糸目の主神。

 圧倒的な迫力と美貌の冒険者たち……美の女神たちもうらやみそうな、天外に美しいエルフ女。巨大な存在感を示すアマゾネスの姉妹。すさまじい筋骨のドワーフ。

 美少年にしか見えない小さな男も、知っている者は知っているだろう。

 そして……『剣姫』アイズ・ヴァレンシュタイン。人間離れした美貌と、凍りついたような無表情。実力者ならば、その美貌と若さ、均整は取れているが細めの体からは想像しにくい強さにも気づくかもしれない。

 

 成功とはとても言えない遠征。激戦の疲労。桁外れのストレスは、酒と料理に吐き出された。

 その圧倒的な迫力と存在感。……強者。

 店にいた冒険者たちは、格の違いにおびえすらしながら、ちびちびと酒をすすっていた。

 そんな中、狼人の男……名のある幹部の一人が、アイズに絡むように話し始めた。

 ミノタウロスに追い詰められ、アイズに助けられて、血まみれになった駆け出し冒険者の笑い話を……

 副団長のリヴェリアに制止されながら、弱者をさげすむ言葉は暴走した。弱者をさげすむ者は……今の彼は、どう見ても強者なのに……

 

 ベート・ローガの言葉に、ベルが真っ青になり震えるのを瓜生は見ていた。

 動かなかった。全力で、【ロキ・ファミリア】一人一人の反応を見ていた。特にアイズ・ヴァレンシュタインの反応を。

「雑魚じゃあ、アイズ・ヴァレンシュタインには釣り合わねえ」

 とどめをさされたベルが飛び出し、瓜生は一瞬立とうとした。

 だが、二つのものを腰から用意した。一つは高額ヴァリス硬貨。もう一つはリボルバー。

 ベートが簀巻きにされ、アイズが飛び出すのを見て瓜生は立った。

 シルが、瓜生に詰め寄ってきた。目が怒っている。怒鳴りつけてこようとするのを、機先を制するように机に、強く1万ヴァリス金貨を置いた。

「すまないが用がある。これで足りるか?」

 後ろから出てきたミアを見て、

「おれが出したことは、彼には言わないでください」

 そういって、急ぎ足で店を出、まっすぐにダンジョンに向かって走り始めた。

 ややゆっくり、余裕のあるペースで。それでもレベル2の『恩恵』、瓜生の故郷の常人から見れば全力疾走以上だ。

 いつしかかたわらに、並んで走っていた人がいる。

『剣姫』アイズと、仕込みと思われる杖を持った少年。

「迷惑そうだね」

 道のりの半分ごろ、小人が瓜生に話しかけた。

 びくっとする。

 実際邪魔なのだ、自転車を出せばもっと早く着けるのだから。

「なぜ仲間のために抗議しなかったか……あの若い仲間を、かばいすぎず成長させるため。ファミリアの名誉より、【ロキ・ファミリア】を知ろうとした。『豊穣の女主人』も知ろうとした。

 ホームに戻らず、装備なしでダンジョンに入って、生きて帰れると確信している。うぬぼれではなく」

「覗こうと、して、覗かれて、いたんですね」

 深淵を。圧倒される。ダンジョンで倒したどのモンスターより。以前の経験で会った、強力な王や英雄、巨大な怪物と同様。

「遠くで、かなりの経験は積んでいる。でも肉体的な戦力は、レベル2なりたて程度。

 例の音、上層でも使うということは使用制限のない魔剣……そう推測している。いろいろと聞いた。大体の背格好も。

 ああ、ベートにわざとあれを言わせた……それは違う。フィアナの名にかけて」

「それほど、人を、見る目は、ないんですよ」

「さて、君はどうしたいか。追いついて、彼が死ぬぎりぎりまで、助ける準備をして見守る」

「はい」

 瓜生はそういうしかなかった。

 はっきりと、

(あらゆる、格が違う……)

 圧倒された。

「そんな、あんな小さくて」

 アイズの抗議を、フィンが止めた。

「あの白い髪の少年も、男だ。冒険者だ。男になろうとしているんだ」

 三人とも立ち止まった。

 フィンはゆっくりと、言葉をつづけた。

「別の【ファミリア】に、能力・戦法を知られたくない」

 親指をなめる。

 瓜生は小人の目を見、アイズの金の目を見て、一瞬考えた。

(別行動を頼む……別行動をとるふりをしておれを監視することは可能だ。バギーを出し、給油し初期整備をする時間……彼らのほうが早いかもしれない)

 人が出す恐ろしい速度を、『恩恵』のすさまじさを、何度か中層で見た。

(ベルを信じて……見捨てて帰るか、おれの能力を教えるかの二択。彼らに来ないよう頼んでおれが行くのと、彼らが行くのと、どちらが……

 ベルが死なない確率が高いか)

 決意した瓜生は、頭を下げた。90度、腰から折った。

「能力はあとで見せます。どうか、仲間を……ベルを助けてください。ナイフしかない、単独行(ソロ)は初めて……」

「承知した。【ロキ・ファミリア】団長フィン・ディムナだ」

「……アイズ・ヴァレンシュタイン」

 フィンの目を、腰を起こした瓜生は必死で見返す。へたりこみそうになる迫力に、全力で抵抗する。

「ウリュー・セージ」

 うなずいた二人は、瞬時に風となった。オートバイでも追いつけないかもしれない、圧倒的な速度。

 

 ダンジョン四階層。

 ベルを探して進む瓜生は、できるだけ無音の両手剣を用いている。念のために銃……H&K-UMPサブマシンガン(45ACP)にサイレンサーをつけ、敵が多い時には使う。サイレンサーは本質的に音速以上では使えないもので、低速の45ACPと相性がいい。

 ベルに気づかれないため、消音銃を用いているのだ。

 瓜生が、突然はっとし、体が動かなくなる。いつのまにか、横にフィンとアイズがいた。小人が、唇に指をあてる。

 そして別の方向を杖で指す。その先で、真っ赤に染まったベルが戦っていた。

「彼は戻りはじめた。あとは任せるよ」

 小声。

「ありがとうございます。約束は守ります」

「怪物祭のあとならいつでも、『黄昏の館』に」

 フィンがほほ笑む。瓜生の体の、自由が戻る。

「……ちゃんと、……」

 アイズの表情は、うまく見えなかった。

 瓜生は必死で、ボウイナイフをふるうベルに気づかれないよう、そして自分がやられないようベルを尾行しはじめた。

 

 少年……いな、冒険者はぼろぼろになりながら、よく戦っている。

 普段から着るように言われている、防刃シャツのおかげもあり、深い傷は少ない。だが防具がない状態での長い戦いは、疲労とミスを蓄積させていた。

 左足は踏むたびに、頬が痛みでゆがむ。

 何匹ものコボルドに囲まれつつ、鋭い踏みこみで一匹の懐に飛び、左手のナイフで腹を切り裂く。すぐに次の一匹に右をコンパクトに突いて牽制、深く腰を落として膝に刃を滑らせ、崩れた腹を左で突き上げる。

(動きが速い。小さく痩せていて、身軽だからな)

 攻撃をかわし、右手で袈裟。軌道も無駄がなく、刃筋が通っている。しっかり腰で、体の軸で斬る。突きは肘を脇腹に固定し足で刺す。

 瓜生は自分を襲う敵を両手剣で倒しながら、じっと見ていた。

 止まらず、歩き続け、斬り続ける。動きに緩急をつける。自分にとって有利、相手にとって不利な場所に移動して斬る。腰を落とし、転ばないようしっかりと歩く。

 わずか半月、教えられ練習を繰り返したことが、ぼろぼろの体にしみこんでいく。鍛えられた足腰と疲労の経験は、絶望的な敵の数にも尽きていない。

 

 ふらふら、傷だらけのベルがダンジョンの出口にたどり着いたとき。

 一度倒れ、意識が遠くなりそう……そこで視線に気づいた。

 歩いてきて、見下ろす目。

 激しい怒りと屈辱に、体が燃える。見守られていた。守られていた……

 瓜生は、助け起こさない。

 それがなぜかうれしい。

(せめて、一人で、立ち上がらなきゃ)

 かろうじて立ち上がり、ファミリア仲間をにらむ。

「彼女はクズじゃない」

 瓜生の言葉に、ベルは衝撃を受けた。震えながら。

「アイズ・ヴァレンタインはクズじゃない」

 瓜生は繰り返した。

「彼女はベルを笑っていなかった。周りに同調してもいなかった。

 あの若さで、あの美貌と名声と地位、傲慢なクズになる方が当たり前なのに。

 それ以上何が必要だ?」

 瓜生に、ベルは混乱しきった頭をなんとかまとめようとした。

「クズを相手にするのか?それとも彼女を相手にするのか?」

(これが、ベルにとって分かれ道だな)

 瓜生はそう思っていた。

「謝らないと……名誉、ファミリアのためなら、オレはあの男にケンカを売るべきだったかもしれない。

 でも、彼女がクズかどうか見極めることを優先した」

(それに、言っていないこともある。アイズと、フィンに会ったこと)

 その言葉に、ベルの目から涙があふれた。どんなにこらえても。

「強く、強くなりたい……強く、強く……」

「まあ先に、ヘスティア様に謝る。次に、あの店に払いに行く。食い逃げだからな」

 瓜生はベルの頭をなでようとして、その手を止めて歩き出した。

 なでられなかったことが、助け起こされなかったことが、泣き顔を見ないでいてくれることが、ベルは無性にうれしかった。

 瓜生に渡された、ハイポーションを飲む。それで傷の多くは癒えはじめ、足もしゃんとなった。

 

 

 翌朝早く。【ロキ・ファミリア】のホーム、黄昏の塔で。大遠征の反省もそこそこに、幹部たちだけを集めた。

「ゆうべ。よその【ファミリア】に、うちが測られた。

 彼の結論はこうだろう……クズはいるが、全員がクズじゃない」

 リヴェリア副団長の厳しい言葉に、自分のことだとわかったベートは反発した。

「あいつか?なら仲間のために、オレに殴りかかるのが男だ。弱虫の雑魚じゃねえか」

 ベートの叫びに賛同する者もいた。

「彼は、われわれの、ロキ様の人となりを知ることを優先した。そして、仲間が簡単には死なないと信じた。その通り、白い髪の少年、ベルは一人で6階まで行き、出口まで歩いたよ」

「……りっぱ、だった」

 後を追ったフィンとアイズの言葉に、しんとなる。

「大手ファミリアと、できたて零細ファミリアだ。勝ち目がなければ争わないと判断できる、我慢すべきと思えば、我慢できる……ということだ」

 リヴェリアの言葉に、反応は分かれた。勝ち目がなくても戦うべきだというものと、冷静に判断することをよしとするものと。

「それだけじゃない。勝てるつもりでいる。正気で」

 フィンの言葉に、ベートが感情的になる。

「どう見ても雑魚だったろうが、白ウサギも黒ブタも!」

「彼は魔剣のような武器を持っている。小さな炎を吐き、離れたモンスターを殺した。音は小さかったが、彼が『妙な音』だろう。上層で使っている……回数制限がないか、資金が無限か、魔剣鍛冶を押さえているか、自分が魔剣鍛冶か。だが、あの武器は魔剣とも異質だった」

 瓜生の戦いぶりも見ていたフィンが言う。リヴェリアがじっと考えた。

「オレは《魔防》と、こいつがある。魔剣なんてこわかねえ」

 ベートがブーツを叩き言い募るが、フィンが口を開いた。

「君がレベル6になり、僕と総合的には互角だとしよう。それで試合をするとして、1Mから始めるのと10Mから始めるので、結果は同じだろうか?」

 長槍使いのフィンと、蹴り主体のベート。言うまでもない。

 フィンの言葉を聞けば、瓜生は戦慄するだろう。距離によって生じる有利を、

(読まれている……)

 のだ。有利がなくなった、狙撃は対策されるということだ。

「弓使いや魔法使いは、弱者か?

 それに見た目や、感じた強さがすべてだとは限らないよ。パープルモスやヘルハウンドに、知らずに当たったらどうなる?62階層が泥沼で、ヘルハウンドやガン・リベリアの上位種がいたら?」

 フィンの言葉に、皆言葉を失った。

 

 まもなく一般団員が集まる食堂で、大遠征の反省の後。副団長が『妙な音』のこと、【ヘスティア・ファミリア】の脅威は伏せてその話をし、

「外でどんな言葉遣いをしろとか、【ロキ・ファミリア】の自覚を持てとかはいわない。

 一つだけ。

 油断するな。

 第一階層のゴブリンでも、油断するな。うぬぼれるな。うぬぼれ油断した者は、罰したりする必要はない……死ぬだけだ」

 そうまとめた。

 伏せたのは、短絡的にバカなことをする愚か者が出ないようにだ。

 

 

 ホームに帰ったベルと瓜生は、徹夜で待っていたヘスティアを見た。

(何とか連絡する方法はなかったか……通信を作っておくべきだった)

 瓜生はそちらを反省した。

 逆に、ヘスティアは二人とも生きていることは知っていた。『恩恵』の絆があるから。

「見ていてくれたんだね?ならなぜこんなけがを」

 ヘスティアは瓜生を責めた。

「ずっと、死なないように冒険させてくれたんです」

 ベルが瓜生をかばう。

「……僕、強くなりたいです」

 その言葉に、ヘスティアは何も言えなかった。

 瓜生は黙ってホットミルクを作り、蜂蜜を入れた。

 すぐに、ゆっくりと眠れるように。




フィンは独自に『妙な音』を調べ、興味を持っていた…そしてベルと瓜生の二人に、親指がうずいた、と。
今思えば、原作のあそこでフィンが、〔化物/ベル〕に反応しなかったのが少し不思議ですが。
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