ダンジョンに近代兵器を持ちこむのは間違っているだろうか   作:ケット

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強大

 カドモスの強竜、しかも強化種に魔石を大量に食わせてから『穢れた精霊』を寄生させた超怪物。20メートルを超える巨体、にもかかわらず第一級冒険者のようなスピード。その体躯からの予想を大幅に上回る力。30ミリ機関砲を浴びてゆるがず戦い続ける装甲とタフネス。

 手の巨大な爪。足の鉤爪も巨大だ。尾も、長く敏捷な首の先のあごの鋭い牙も、すべてが恐ろしい。

 リュー・リオンが必死で詠唱を阻止しているが、彼女が補給のためアイズと交代する一瞬で短文詠唱が完成する。ホーミング型の炎の矢が口元のブレスと融合し、ビーツやアイズを襲う。

 ビーツはある意味盾として、ベルやレフィーヤ、装甲車を守り続けている。

 春姫も連打で精神がボロボロ、大量のハイ・マジックポーションでかろうじてマインドダウンを免れている。歌い続ける。

 

 アイズ・ヴァレンシュタインは困惑していた。ビーツのあまりの強さに。

 見る限りでは、特にとんでもない活躍をしているという感じではない。

 むしろゆっくりとかわし、受け止めているだけだ。

 腕が、頭が大型トラックをしのぐ巨大さ。音速に迫る速度。それを。

 槍はあっという間にダメになった。それからの素手がすさまじい。拳で、巨大竜の爪を、長い首を、音速を越える尾を打ち流している。

 操っている。

 巨竜がブレスを吐こうとしたときの身じろぎは、かならずナメルの30ミリ機関砲に喉をむき出している。そうなるようにビーツが位置取りをしている。強烈な砲弾が炎を暴発させる。

 全身での突進を、右拳ひとつで方向をそらし、次いで打ちこまれる左拳が巨体を半ば浮かせ、かなりの時間動きを鈍らせる。

 受けるときに同時に、巨体の重心を崩している。どれほど力があっても、巨体が高速で動いているのが崩れれば、再び動き出すには莫大な力と時間が必要。

 桁外れの再生能力、それをかなり消費させ、その間動きを鈍らせるほどの内部破壊。

(力・敏捷はベートさん、いやオッタルさんに迫る。腰を使って相手の重心を崩す技を毎回使っている。あの技はオッタルさんが使った。動きの無駄のなさはソロさん。超速フットワークはベートさんからも、アレンさんからも。腰から力を伝える流れはベル)

 アイズには見える。

 ビーツは多くの敵や仲間からすさまじい才で技術を吸収し、そのすべてをひとつの基礎突きに統合している。第一級冒険者をしのぐ戦闘力がある。

『戦争遊戯』が祭りになって、アイズやベートはビーツとも少し戦った。なんとか勝ったが、

(じてんしゃでも、でっどりふとでも、私よりこの子のほうが上)

 そのことはわかる。

 自転車というのは鍛冶ファミリア特製エアロバイク、大型トレーラーを引いて急坂を登るような負荷で12時間以上漕ぎ続ける無茶だし、デッドリフトはトン単位だ。

 ホーミングで飛んでくる、ブレスと超短文詠唱が融合した炎の投槍を、『気』を帯びた拳が撃墜、消滅させる。それ自体もとんでもないことだ。

 

 アイズの動きはまさに八面六臂。複合竜の攻撃からベルとレフィーヤ、二両の装甲車を守る。

 ビーツの戦いをフォローする。

 リューが補給に動くとき、交代して詠唱を阻止する。リューには補給が必要だ。特にかさばる対戦車手榴弾は。

 何十も沸いてくる食人花やザリガニを瞬殺する。

 勝利のために役割を果たす。ただ強くなるために、復讐のために勝手に戦うのではなく。

(勝利よりも、強くなることを優先し、踊らされ負けた……)

 ビーツの姿は、彼女にとって他人事ではない。瓜生が残した記録映像で、ビーツの敗北も見た。

 

 時間を稼ぐ。必死で。

 長文詠唱が続く。

「【吹き荒れろ(テンペスト)】」

 アイズの詠唱が重なり、身体をまとう風が猛り狂う。超巨体の尾をはねのけ、硬すぎる鱗皮を切り裂く。

 30ミリ機関砲は、ランクアップ前のアマゾネス姉妹が10人いるほどの攻撃力を発揮し続ける。それでもこの敵に致命傷を与えるには遠いが。

(120ミリ戦車砲でも……)

 ほどの鱗皮であり、多くの弾を回避撃墜するほどの敏捷なのだ。

 リュー・リオンは、多量のプラスチック爆薬を詰めた対大型用粘着弾も、直接腕力で投げつけ始めた。大量の爆薬が表面で広がって起爆する。

 また、対戦車ロケットの弾頭部を手榴弾に加工した巨大なものも使う。常人が投げたら爆風で死ぬが、レベル5なら耐えられる。

 弾薬と爆薬はトラック一杯分ある。ひたすら超速で攻撃を続けるだけだ。

 

「【…どうか、力を貸し与えてほしい。エルフ・リング……」

 レフィーヤが詠唱をつなぐ。異界のハーフエルフの極大呪文を召喚する。

「ジ・エーフ・キース、神霊の血と盟約と祭壇を背に、我精霊に命ず、雷よ降れ、轟雷(テスラ)!】」

 レフィーヤの呪文が先に完成する。

 素早くビーツ・アイズ・リューが飛びのく。

 魔法円からすさまじい稲妻が放たれる。

 普通の、天然の雷が槍ぐらいの太さとすれば、この稲妻は電柱のように太い。普通の焚火の炎と、アセチレン溶接炎ぐらいに温度……電圧も違う。

 生物が暮らす地球型惑星では発生できない規模……木星型惑星で発生する雷電にも匹敵する超雷撃。

 打たれながら、超怪物は前進を続け……ベルとレフィーヤを叩き潰そうとする腕を、ビーツの一撃がそらした。だがその瞬間、巨大な足が小さな彼女を踏み潰す。

 彼女は腹に、ホーロー瓶でエリクサーを呑んでいる。身体が一瞬で潰れると同時にビンが破れ、エリクサーが全身に広がる……瀕死どころか即死同然の状態から瞬時に回復、同時に桁外れのステイタス上昇。

 巨体を放り投げ、倒れた腹に基本通りの拳が突き刺さる。

「【……ジ・エーフ・キース、神霊の血と盟約と祭壇を背に、我精霊に命ず、雷よ降れ、轟雷(テスラ)……ヴァジュラ!】」

 ベルの長文詠唱も一拍遅れて完成する。

 膨大な雷電、レベル3でも目が潰れるほど、近くが燃え上がるほどの光が凝縮する。

 アイズが、ティオナから買った大剣と以前からの愛刀『デスペラート』、二刀で全力の突きを放つ。狙いは足の関節、動きを止めること。そして全速で離脱する。

 短文詠唱を完成させようとした、背の美しい緑の女をリューの木刀が貫き、ほぼ同時にパンツァーファウスト3用の弾頭がゼロ距離で叩きつけられる。爆音の中でも聞こえるほどの絶叫、爆発を上回る魔力暴発。

 ベル・クラネルが静かに振りかぶる。

 そこに尾の先端が、超速で迫る……だがそれをビーツの腕が阻止する。なんでもないような、さりげない動きにとてつもない威力が凝縮している。トンファーのかわりに、肘から手の甲までがっちりと守る安価不壊属性の籠手の威力でもある。

 転瞬……

 ベルの速度が一気に開放される。光刃が、むしろゆっくりと落ちる。

 完璧に限りなく近い刃筋。

 すさまじい閃光が炸裂する。刃に上乗せされ、すべてを断ち切る。

 止まらない。ベルは足を止めず、竜の足の指の一本、特大の鉤爪を振りかぶりで受け流した。直後加速しての一撃が足を深く斬る。

 皮一枚を残して体が両断されているが、それでも超竜はまだ動いている。

 斬り続ける。一歩ごとに深い深呼吸とともに体幹に力を蓄力(チャージ)し、無駄のない振りかぶりから腰だけで刀を落とす。斬りながら短文詠唱を終え、次の稲妻を刀にまとわせて斬る。

 その傷をアイズが広げる。

 リューは自分の役割を見失わない。詠唱阻止、それだけに全力を集中する。

 砲身が赤熱した機関砲から、60ミリ迫撃砲にナメルの兵器が切り替わり、超高温のテルミット焼夷弾が短射程だが連発される。

 いつのまにか、半ば崩れつつある胴体を足場にビーツが立つ。いつも通りの一撃……馬にまたがるように深く腰を落とし、急停止をほぼ真横に放つ左拳に集約する。

 いつのまにか。自然で流れるような動きで、敵の急所をとらえている。それでいて、強烈な震脚は鋼より頑丈な竜体の相当部分をぐちゃぐちゃにしている。

 水がしみこむように、自然に、柔らかく『気』が浸透する。

 それにベルの、雷電を帯びた剣が融合する。

 同時に、緑の美女をアイズが貫く。

 巨体が崩れ落ち……そして大量の力があふれ出す。膨大なものを貯めたタンクが壊れたように。それがダンジョンの壁に吸われる。

 ダンジョンの奥が振動する。

 壁が砕け、いくつも黒い蛇が出てくる。太さだけで人の身長を越える、長さはどれほどか……

 そこに、30ミリ機関砲が放たれる。だが奥の無事な怪物が牙からはいた毒液が機関砲にかかり、巨大な鉄塊が紫色の炎に包まれる。

 素早くアイズが遠隔操作砲塔を切り離し、装甲車本体は無事。

 リュー・リオンは激しい疲労と多くの傷を押して、トラックに走った。まずオリーブ油の大ビンふたつとスポーツドリンクのペットボトル、スパム缶をビーツに渡す。彼女はあっという間に飲み食べつくした。

 アイズとベルにも多量のハイ・デュエルポーション。

 そして大量の兵器を担ぐ。

 ベルはかなり傷んだ刀を背に納め、安価不壊属性の予備を抜き、深呼吸する。ランクアップのおかげで、以前は力尽きていた長文詠唱呪文ののちも動ける。

 そして蹂躙がはじまった。

 

 

 人工迷宮に巣食う闇派閥は、戦力の多くを消耗していた。

【ロキ・ファミリア】の2度にわたる強襲があった。最初はイシュタルの横槍もあり、『穢れた精霊』を牛の怪物を用いて浪費する羽目になった。2度目はエルフを主力とした機械化小隊、地下から鍛冶師や異端児(ゼノス)も攻めてきて、ディックスをはじめ【イカロス・ファミリア】の主力がごっそりやられている。

『豊穣の女主人』をディックスが襲撃した報復として、【フレイヤ・ファミリア】の襲撃もあった。

 ただ通り抜けるだけだったが、アステリオスも膨大な戦力を食いちぎっている。

 今、非常識で桁外れな少数の敵の恐ろしさを思い知っている。

 逆に、フォン・ディムナはそれをこそ狙っている。無限の物量と富、多人数を活用し、闇派閥に消耗戦を挑んでいるのだ。消耗戦だと気づかれないように。

 三大クエストの一角であるベヒモスのドロップアイテムを使った。その力のかなりの部分に第一級冒険者の経験と技を持つ、『穢れた精霊』をぶつけた。

 圧倒的なステイタス。人間の身体に収まる分、

(巨大であればいい的……)

 がない。

 それが短文詠唱で、自分を強化した。桁外れに。

 8門の25ミリ機関砲、1秒で80発の徹甲弾を、微動だにせず耐え抜く。毛皮が弾頭を滑らせそらせる。

 

「70%……いや……」

 武威がつぶやく。

 この世界にくる以前、相棒の鴉とともに戸愚呂兄弟に挑み、80%の戸愚呂(弟)に今も額に残る傷をつけられた。

 当時の自分なら、今目の前にいる敵に勝てるかどうか。

 レベル7のオッタルやフィンでも、腕相撲ではチワワほどでもない武威にとって、初めての脅威だ。

 ふくれあがった腕と鉤爪からのすさまじい連撃、武威はすべてにカウンターで肘を入れている。いくつかはさばき損ねて直撃しているが、動きそのものが敵の攻撃を芯を外して半減させ、身体と一体化した『武装闘気』の防御を貫かせてはいない。

 

 そしてソロとフィン、レベル7になったガレスが、丁寧に援護攻撃をする。

 4人パーティでの無理な戦いに熟練しぬいたソロ。『勇者(ブレイバー)』の二つ名を否定する者がないほど指揮にも長じるフィン。なりたてではあるがレベル7に至った老兵ガレス。

 少人数集団戦として最高峰を極めている。武威の圧倒的な力とまだ未熟な技を最大限に生かし、3人でアキレス腱に針を刺すような戦い方を続けている。

 だが、新しい敵が出現する。逐次投入でひどいめにあった敵は、一気に戦力を投入してきた。

 本体がどこにあるのかわからない。とにかく膨大な数の、複合怪物があふれ出てくる。

 ベートたちが戦っている、両腕が鞭になったケンタウルスにも似ているが、ベースになるのは『カドモスの強竜』と『ブラックライノス』ではなくキラーアントと、47階層に出る狼の怪物と37階層のバーバリアンと思われる。硬い装甲がある。狼のような牙がある。長い舌を伸ばしてくる。

 シルエットはキラーアントともケンタウルスともやや異なり、奇妙な不気味さがある。

 とにかく数が多い。

 また食人花も膨大な数ぶちこまれる。

 8門の25ミリ機関砲の射撃が続く。8門、ひとつが3秒連射し、別の機関砲に交代して3秒……ローテーションが終わるまで21秒休める。それによって、間断なくずっと射撃を続けることができる。重い弾薬を高速で補充するのはティオネの役割。

 そして広いルームに、何万と知れぬ敵があふれたところでソロの短文詠唱。

『ギガデイン』

 ただ一言とともに、すさまじい稲妻が大量に落ちる。広域殲滅、しかも一匹一匹にかかる打撃が桁外れだ。

(リヴェリア以上かもしれない……)

 と思えるほどの殲滅力。世界を滅ぼそうとした巨悪を葬った勇者が、さらに『恩恵』を得て強化された、桁外れの力だ。

 

 

 

 50階層。膨大な『怪物贈呈』は、仕掛けた闇派閥ごと機関砲に全滅した。

 ただ一体、極深層階層主バロールを除いて。

 呪詛の力を自らに向け、飛び道具と魔法が完全に無効となったそれに、火器も魔剣も一切通じない。リヴェリアがランクアップで得た『高速詠唱』スキルも役に立たない。

 トグが限界を超えた筋肉操作、安価な不壊属性で作られた盾斧を支え、リヴェリア自らが打ちかかっている。バロールも呪詛の代償として、絶対的な力や耐久は大幅に落ちている……それでもゴライアスよりずっと強いのだが。

【ロキ・ファミリア】の留守番組たちもその姿に奮起し、必死で打ちかかっては吹っ飛ばされている。

 

 リヴェリアは駆け抜けざまに指示を残した。

「メルカバ、ナメル、Sの重装甲戦車のみ、体当たりせよ」

 と。

 体当たりなら飛び道具無効ははたらかない。

 射撃手や車長はできるだけ弾薬を抱えて降りる。操縦手だけがビルのような巨人の足を狙って重戦車を加速させる。

 踏み潰そうとする巨足、支えのもう一つの足の膝裏をリヴェリアが薙ぎ、座った腰に大鉄塊がぶつかる。苦痛に暴れる巨人に跳ね飛ばされ、上下逆にひっくり返りキャタピラもちぎれて使い物にならなくなる。

 

 瓜生はその背後で、巨大なものをふたつ〈出し〉た。

 ひとつは鋼板ロール。製鉄所が出荷する、鋼鉄板の超巨大トイレットペーパー。圧倒的な重さと頑丈さがある。

 そして、超大型のブルドーザー。それに初期電源をつなぎ、給油している。膨大な燃料油を巨体は貪欲に飲み干す。高さ5メートル、長さ10メートル以上……家のような大鉄塊。

 リヴェリアが長い木棒で強打を与えて飛びのき、反撃をトグとメルカバが受け止める。

 太く長い鋼の砲身が棍棒のように振るわれ、それを巨人は痛みに顔をしかめながらつかんで投げ飛ばす。

「道を開けろ!」

 声とともに、ブルドーザーが突進する。鋼の分厚い板を掲げて。

 座ったままのバロールが四つん這いになり、頭から突撃する。

 ローギアで限界まで加速した巨大ブルドーザーがまともにぶつかる。鋼のブレードが大きくへこみ、頑丈な車体が潰れる。

 瓜生にも桁外れの衝撃が襲う。常時発動の魔法の鎧、それを増幅する高価な鎧がダメージを軽減する……それでもそこらの交通事故ぐらいの、肋骨や内臓がいくつかやられる水準の傷を負う。

 リリがその身体を引っ張り出し、ハイポーションを飲ませた。

 さすがに頭に大きな傷を負い、痛みに咆哮する巨人をリヴェリアが襲う。

 かまわず陣に向かおうとする巨人だが、巨大な鋼の塊と、トグの盾と魔法が邪魔になる。

 そして【ヘファイストス・ファミリア】がその場で作ったとんでもない兵器を持ったヴェルフが走った。ちょっとした冷蔵庫ぐらいの何か。

 先ほど戦ったケンタウルスのドロップアイテムであるランスを利用した、一発使い捨てのパイルバンカー。

 それをつかんだヴェルフが巨人に突貫する。

 リヴェリアとトグが援護した。死体に紛れた状態からヴェルフを襲おうとした闇派閥の女がリヴェリアに阻止され、叫びとともに自爆する。

 杭がつきつけられ、『クロッゾの魔剣』が薬室内で咆哮。超高速で叩きつけられた杭が、巨人のこめかみをぶち抜き、脳を粉砕する。

 巨体がゆっくりと、ゆっくりとくずおれていく。

 

 

 

 無数の傷。

 カドモスの強竜から力を吸った、多数のケンタウロスの腕鞭が、次々とベートを傷つけている。

 完全にはよけない、速度を殺さないため。傷を負いながら前進する。怒りを、闘志を限りなくふくらませて痛みを越える。

 後方から援護がある。120ミリ戦車砲、すさまじい威力の徹甲弾が、また多目的榴弾が次々と敵を粉砕し、爆風で道を作っている。

 破片が巨大虫を破裂させ、大量の溶解液が同士討ちを作っている。

 30ミリ機関砲も正確な援護で道を作る。

 背後では、4人のレベル5というそれだけでも反則的な戦力が、新兵器を手に激しく戦い続ける。対戦車手榴弾の成形炸薬弾頭が、圧倒的な貫通力で固い鱗を貫く。

 アリシアとラウルは巨大な銃を操っている。

 椿とアナキティはそれを活用して有利な位置を取っている。椿が渾身の技術で打った刃が固い鱗を切り裂く。

 きわめて高い水準の集団戦。

 ベートが前進する。ラウルは戦いを捨て、強力なライトを手にして指揮に専念し始めた。

 ライトが一瞬照らすところを、素早く戦車の巨砲が向いて咆哮する。

 ラウルが目を見開く。次にベートが走るのは、あまりにもむちゃくちゃなイチかバチかだ。事実上確実に致命傷、だがそれ以外に血路はない……

 椿とアナキティも、ラウルの指示に背の銃を抜く。

 メルカバ車長のリーネが大型の対戦車ミサイルを手に、ハッチから身を乗り出した。

「ファイア!」

 ラウルの叫びとライト。

 ラウル・アナキティ・椿・アリシアが発砲した、『クロッゾの魔剣』を用いる超高速徹甲弾。

 リーネの大型対戦車ミサイルと、メルカバの主砲。

 ナメルの30ミリ機関砲。

 すべてが集中する。圧倒的な初速でベートを追い、その蹴りとともにすべての敵を粉砕する。

「があああっ!」

 対戦車ミサイルに自分から踏み込み、爆発に吹き飛ばされて加速したベートがフーデッドローブに蹴りを叩きこんだ。

『クロッゾの魔剣』の膨大な魔法がこもった蹴りを。

「ここだ、ぶっこめ!」

 ベートは叫び、対戦車手榴弾を投げた。

 キノコ……フーデッドローブを狙ったのも牽制。

 メルカバの主砲がふたたび咆哮する。

 フーデッドローブが慌てて手を振るが、周辺のモンスターはすべてベートに集中していた。

 無数にモンスターを吐き出し続ける塊が、聞くだけで発狂しそうな叫びとともに貫通され、崩壊する。

 

 ベートは瓜生に敗北した。『群れ』の究極に。

(負けた、弱えっ……)

 極限を越えた悔しさ。昔失った群れのことも思い出さずにはいられない。

 群れの長……その立場には、たとえ小さい群れでもなりたくなかった。

 だが、孤狼は、孤独であるというだけでも弱者なのだ。それを認めざるを得ないのだ、弱者の身体でありながら『群れ』で作った道具を駆使し、大集団で戦うように自分たちを追い詰め踊らせ撃破した瓜生……

 群れを導き、使いこなさなければ、弱者だ。

 弱者こそ、ベートは憎む。

(弱者であることに安住する……)

 それだけは絶対に嫌だ。

 自分が常に罵倒している、『恩恵』のおかげで常人より少し強いぐらい、いくらでも自分より強い者がいるのに威張っている雑魚どもと同類になることだけは、

(死んでも嫌……)

 なのだ。

『戦争遊戯』の祭りで、アイズとともにオッタル、ソロ、武威らにぶちのめされた。徹底的に。ぐうの音も出ないほど。

(自分が弱者だ……)

 と、骨身に刻んだ。

(弱者であることに安住する……)

 ぐらいならば、なんでもする。指揮されることも。群れが勝つために捨て石になることも。群れを操ることも。

 どれほど、叫び出したいほど憎いか。どれほど悔しいか。どれほど腹立たしいか。

 すべて敵にぶつける。

 そして心の中にいる、小さな冷えた戦士が群れを操る。少人数の群れ、だからこそ精密に。ただ、敵の急所にタングステンの太矢をぶちこむ。

 最大の武器は、メルカバの120ミリ主砲。それを最大に生かすために。

 同時にベートは、繰り返しメタルブーツに『クロッゾの魔剣』の莫大な魔力を吸わせては叩きつける。

 

 

 そのころ、別の勢力も人工迷宮を攻め始めた。

 3両のSIDAM 25自走式対空砲、7両のトラック、膨大な火器で武装した『異端児(ゼノス)』の精鋭部隊。

 そして巨大な剣を二刀に提げた黒い牛人、アステリオスが大量のポーションを背に、別方向から単独で侵入した。

 

 群がるモンスターを弾幕が掃討する。25ミリ弾はやや節約し、敵の大半である食人花はゲパード14.5ミリ対物ライフルと【ヘファイストス・ファミリア】製のガスト式14.5ミリで十分だ。

 レヴィスが出てきたら14.5ミリと25ミリの濃密な弾幕+目潰しレーザーで動きを止め、対戦車ロケット+牽引されている57ミリ機関砲でとどめを刺す、と決めて訓練している。

 膨大な弾薬と食料。深層の魔石での強化。

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