ダンジョンに近代兵器を持ちこむのは間違っているだろうか 作:ケット
51階層で『カドモスの泉』を攻めた、アイズ隊とベート隊はそれぞれ装甲車に収穫を詰めて帰ってきた。
50階層の安全地帯は野戦病院だった。何人も治療中。
戦車や対空砲も破損が多く、瓜生が出した新品を無事だった者が初期整備している。点検し、燃料や油や冷却液を入れて最初のエンジンを人力やつないだ外部電源で入れ、弾薬を装填し、電子系を起動し、ここでの特殊な用途のために改造する。遠隔操作砲塔のついた装甲車を一人で操れるよう、操縦系とカメラの線を操縦席のタブレットにつなぎ、タブレットを設定しジョイスティックにつなげる。CIWSを地上に固定し、電源をつなげ、レーダーの線に割り込んで遠隔操作砲塔として使えるようにし、弾薬を装填し注油する。
また、無事だった者は食事を大量に作ったり、大規模な風呂施設を準備したりもあった。
激戦で鍋やフライヤーがひっくり返され壊れるなどもあったので、出し直した設備も多い。
激しい白兵戦で疲労がひどく、実はいくつか傷もあるリヴェリアも、指揮を一時委譲して休んだ。
全員、吸って飲むゼリー飲料・板チョコ・スポーツドリンクを配られ、最小の飲食をしている。
何十台も発電機が燃料を食い、電力を叩き出す。
巨大なテントの下で、テントを逆転させたような浴槽を作る。それに大量の湯を張る。
間違っても高貴なるリヴェリアをのぞかせないため、彼女は別のトレーラーハウスで、本来超高価なローズ・ジャスミン・ネロリ・カモミールのエッセンシャルオイルを使って入浴する。瓜生が出したものではなく、オラリオで買うとしてもリヴェリアの部下たちは王族にためらわず献上するだろうが。瓜生の故郷の何倍もの価格になるが、それでも。
他のメンバーの風呂にもしっかり入浴剤を入れる。
同時に大型の業務用フライヤーが、次々とトンカツ・コロッケ・メンチカツ・白身魚フライ・イカリングフライ・エビフライ・からあげ・フライドポテトなどを揚げ続ける。
鋳鉄コンロに置かれた寸胴鍋が煮え立ち、すぐに食べられるようにオートミールをゆでている。その隣では大きな炒め鍋で、油たっぷりのスクランブルエッグ。
別の寸胴鍋は豚小間切れとミックスベジタブルのシチュー、別の寸胴鍋はパスタ、別の広い大鍋は多数のレトルトカレーやレトルトパスタソース、……
多数の電子レンジがいろいろな食物を加熱している。
そこに、やっと待望の装甲車が51層から帰ってきた。
ボロボロ。
いくつも遠隔操作砲塔が壊れ切り離されている。
装甲が焼け、溶け、深く斬りつけられている。極厚の鋼が、セラミックが。
降りてきた皆も、死者こそいないが疲れ傷ついている。
さっそく治療と風呂、ビーツだけは山のような食物に飛びついた。
軽食を食べながら、何があったかの報告会。そして瓜生は割と元気だったレベル3から4の装甲車操縦者と、【ヘファイストス・ファミリア】の鍛冶師と風呂上がりのリヴェリア、意地を張ったベート、リュー・リオンを交えて兵器の再検討を行った。
12.7ミリが、ガトリングで多数当てても通用しない敵。
さらに呪詛による飛び道具無効も……
莫大を通り越した収穫を装甲兵員輸送車に積み込み、壊れたものは訓練として修理した。
もちろん、51層で戦った異常な敵も、とんでもない魔石やドロップアイテムを大量に出した。極彩色の魔石は一般市場には出せないが、『ギルド』が普通より高額で買ってくれる。
そして空っぽになった40階層台を、装甲車のすさまじい速度で抜け、中層へ……
レベルが低い者たちが、大量の荷物を持って地上に向かう。
前回の反省から、装甲車のサイドアームは40ミリグレネードマシンガンを試してみている。アンダーバレルグレネードランチャーより射程が長い強力な弾、比較的小口径だが成形炸薬多目的弾も選べ、12.7ミリより貫通力は大幅に高い。弾はかさばるし弾速も遅いが。
弾幕は随伴歩兵が【ヘファイストス・ファミリア】製のガスト式14.5ミリ重機関銃で補う。
SIDAM 25自走式対空砲と35ミリ牽引連装機関砲も追加した。
また、最前線のナメルにドーザーブレードをつけた。極厚の鋼板、上級鍛冶師がダンジョン素材で打った大盾に比べれば弱いにせよ、盾になる。
だが戦力の高い者は車内で十分に休み、17層奥の出入り口から人工迷宮に突入した。瓜生が出した膨大な装甲車と弾薬で。
ポーションも、【ミアハ・ファミリア】と【タケミカヅチ・ファミリア】合同の中遠征で運んできて、合流し多数補充している。
ベヒモスのドロップアイテムやヴァレッタの死体を『穢れた精霊』を用いて統合した複合怪物と、フィンたち超少数精鋭の戦いは続いている。
アイズとベートを中心とした大遠征組も遠くで加わっている。
膨大な近代兵器を持った異端児(ゼノス)も膨大な数と戦い続けている。
アステリオスはまもなく異端児に合流した。事前に示し合わせていたように、あの牢獄があったところに。
異端児たちも、アイズたちも、誰かふたりは地震波に注意している。膨大な数の複合怪物と戦い続けながら。
特にアステリオスの奮戦はすさまじい。二刀……一刀は異端児の鍛冶師が打った超重直刀。もう一刀は椿たちが打った極厚極広の大薙刀。
どちらもすさまじい切れ味と頑強さで、主の圧倒的な力と敵のすさまじい硬さにも折れず戦い続けている。
アイズたちも、手持ち機関砲を使う戦い方がさらに洗練されている。
だが、バルカはかすかな違和感を感じていた。異端児たちもアイズたちも、どちらも膨大な数を平気で受け止めている。だが決して深入りしない、すぐ撤退できるところで戦い続けている。
それでも、大量生産できる複合怪物という新兵器を試すため、大量に注ぐ……
短文詠唱呪文で自分を強化した、巨体の人に近いシルエットの超複合怪物と武威の戦いは激しさを増していく。
武威は武神タケミカヅチに習った基本を忘れない。制御できなかった『武装闘気(バトルオーラ)』を、飛影が黒龍波を食ったように自分の身体に統合する。円に沿って歩く正しい身体の使い方で、正しく流す。
敵の力を受け流し、カウンターの肘に莫大な『気』を集約して急所に入れる。
動きが正しくなければ、莫大な『気』は暴発して自分を傷つける。
スピードがますます上がる。分厚いアダマンチウムでできた人工迷宮の床が足圧に大きくめくれ上がり、クレーターができる。アマゾネス姉妹の目では動きが追えない。フィンでも限界に近い。
仲間たちもフォローする。癒し、敵を牽制して休む時間を作らせる。敵が吹き飛ばされた一瞬だけ武威を交代させ、大型のロケット弾を投げる……プログラム済み、無数の子弾が短距離で爆発散布され、すべてが炸裂してライフルより圧倒的に速い自己鍛造弾の豪雨が降り注ぐ。さらに超高温のテルミット弾が多数打ちこまれる。すべてにノーダメージで飛び出す毛皮を一瞬だけガレスが食い止め、わずかな休憩に回復した武威がまた押さえる。
強撃に見事な受け流しと肘と投げが一体で決まった、ついに美しい毛皮をまとった超複合怪物が倒れた……そう思ったとき、天井が開いてとてつもない巨体が降ってきた。
食人花の母……太さが人の身長以上のツル植物。それが超複合怪物を飲む。
25ミリ機関砲弾が叩きこまれるが、多数の敵を盾にして扉から逃れた。
ぬるり、と巨体にもかかわらず俊敏にそれは消える。
さらに、食人花と、ケンタウルスのような昆虫のような複合怪物がどっと押し寄せる。
25ミリ機関砲が、ソロの『ふくろ』で無限の弾薬を補充されすべて殲滅する……
と、絶望が、数が来た。
馬サイズの毛が長い八本脚、狼の頭部がふたつの怪物が、千体以上。桁外れの速度。
「一体一体が、カドモスの強竜にも匹敵する」
フィンが嗤った。
機関砲が咆哮する。ソロが袋から取り出した、いくつもの手持ち改造25ミリ機関砲も……自走式対空砲と弾が同じなら扱いやすい。
だが怪物は、25ミリの直撃でも死んでいない。その長い毛皮、桁外れの強化。吹き飛ぶ程度だ。
「効いていない!」
フィンの言葉に戦士たちは機関砲を捨て、武器を手にする。
ソロのギガデイン、武威の肘がかろうじて通用している。
フィンの14.5ミリ着剣小銃が、長い針で耳の穴を刺すように精密に急所を貫き、やっと敵を無力化できている。だが敵はあまりにも多い……
アマゾネス姉妹も武器をふるうが、一体を倒すのにも苦労している。レベル6ふたりがかりでも。
「時間を稼いで」
フィンの言葉に、不可能を知りながらアマゾネス姉妹が、ガレスがうなずいた。
ソロが何発もロケット弾を放り投げる。プログラムされた子弾、多数の自己鍛造弾がばらまかれる……それも土砂崩れに短機関銃だが、スペースぐらいは作れる。
フィンはソロに目配せし、自走式対空砲からあるものを取り出す。人の身長の二倍ほど、太さは太腿ぐらいの、筒状の袋。それを持ってフィンは背にしている壁に張り付け操作した。
数秒後、爆竹のような爆発が壁のアダマンチウムに吸われる。壁は破れていない。
見ていた『目』の向こうのイカロスやバルカは嘲笑した。
装甲車の中のソロは緊張しながら、それを『ふくろ』から出す。
ひと抱えもある円錐形の金属。小さめの水爆弾頭、100キロトン。
重い。150キロ以上ある。
ごくり、と息を呑む。戻ったフィンもソロも、それを見ている。
フィンとソロが手早く、半分ずつのパスワードを入力する。何度も確認する。
押し寄せる敵……
ティオナとティオネが武器をふるい、少しずつ、じりじりと後退する。
ガレスがそれを必死で支える。
「5分前!」
装甲車を守るフィンが腕時計を見て、時間を叫ぶ。
武威がすさまじい威力の攻撃を続け、円を描いて歩き続ける。
同じ場所に。定められた場所に。
突撃ではなく集まる。それがどれほど苦しいことか……
集まる。戦いながら。
ある範囲にめちゃくちゃな連射を命じられた連装25ミリ機関砲が、自動で膨大な弾を吐き続け、銃身が赤熱し、白熱していく。限界無視の全弾連射。殺せない、吹き飛ばせるだけだが、それでも意思なき自動機械は撃ち続ける。
ティオナのウルガの、刃をなす超硬チップが次々と砕け鈍器と化す。
ガレスが棍棒として機関砲を振り回す。
武威の手刀にこもる『気』が刃となり、怪物を切り刻む。だが彼はひとりしかいない。
「1分前!」
フィンが叫ぶ。
ハッチを叩き閉めたフィンとソロが集合場所に飛んだ。その一歩にも何体もの敵を倒して。
「20」
フィンの声。
ほんの数秒、戦い続ける。自分たちに敵を引きつける。
全員が手をつなぐ。
「『リレミト』」
ソロの超短文詠唱が完成し、全員の姿が消えた。装甲兵員輸送車を残して。全員がダイダロス通りに出現し、全速で出口が形成する方向から離れ、事前に埋めてあった鋼板ロールの芯部分に跳びこんでふたをする。
知られている出入り口すべてのすぐ近くに、巨大な鋼板ロールが置かれている。被害を軽減するためだ。
モンスターたちはすさまじい破壊力で装甲車を破壊する。ひっくり返し、潰す。
数秒後、それが起きた。
核弾頭がとてつもない短時間で、超高熱の塊となった。
まず膨大な光が、すべてを蒸発させる。
巨大な熱はガソリンエンジンと同じく押す力となり、周囲のすべてを押し出す。巨大すぎる熱機関。
広大で天井も高いルームの中の怪物も、中の空気も、すべてが瞬時に万単位の温度に、莫大な圧力の気体として、周囲のすべてを押す。
一秒の何分の一という超短時間で。
さらに放たれた光は、壁のアダマンチウムを千度……四千度、五千度と加熱し、蒸発させる。金属に覆われていた迷宮壁の岩盤も。
同時に、桁外れの圧力がかかる。あらゆるところに。圧力は、特に角に負担をかける。扉と壁の境界。壁の隅。
人工迷宮の規模から、ざっくりと計算した。
十分な被害。だがオラリオや、ダンジョン内の冒険者に被害が出ない、と確信できる。
カサンドラの予知夢で確認した……本来誰も信じない呪いがあるが、『幸運』スキルを持つベルは利用できる。
モールス信号となった地震波を感知した味方……異端児(ゼノス)たちも、アステリオスも、アイズたちも全速で人工迷宮から撤退し、できるだけ離れ巨大な鉄塊にもぐった。
ダンジョン全体が揺れる。
オリハルコンの扉がすべて、すさまじい力で押される。