ダンジョンに近代兵器を持ちこむのは間違っているだろうか   作:ケット

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少しメンバーの外見、特に原作との違い…
●ベルは、ソーオラコミックより少し背が高く特に背筋が多め。大量の乳製品をはじめタンパク質を常に食べ、ビタミンミネラルを十二分に供給され、ウェイトトレーニングも多量にやっている。
●ビーツは小6~中1のトップ女子運動選手という感じ。
〇実はサイヤ人がずっと子供体形でいきなり大人になるのが公式だと知らなかったので……『恩恵』の影響ということで許してください。というか鳥山先生は基本的に思春期の身体を描かないんですよね、木緑あかねも最初から、胸とかつらだけでみどり先生に化けられるほど体つきは大人。子供と大人の両極。
●トグは戸愚呂(弟)の平常状態(サングラスなし)を中一ぐらいにした感じ。父親似。


一夜

 女神フレイヤのところに、【ロキ・ファミリア】のアイズ・ヴァレンシュタインと【ヘスティア・ファミリア】ビーツ・ストライが客観的に見れば殴り込みとしか言えない非礼をした。

 フレイヤは寛容にも、眷属全員に命じて繰り返しだいたい死ぬまでぶちのめしては回復させ、病院に瀕死ではあるが生きて送った。

 ふたりが望んだのは修行なのだから、親切な贈り物と言える。

 その代償は高かった。

 ロキには、アイズに貸しひとつ。ただし【ロキ・ファミリア】の不利益にならないこと。

「あっちの子らだって、どえらい経験値(エクセリア)手に入れとるくせに」

 とロキは歯噛みをしていた。

 まさにそう、下位の眷属からぶつけてしっかり修行させている。

 そしてヘスティアには……

「一夜だけ。彼が望むことしかしない。何も強要しない。どうせあの子には『魅了』は効かないわ」

「ぐぬぬぬぬぅうううぅ」

 と、ベル・クラネルとの朝から翌朝までのデートをもぎとった。

 それだけではなく、莫大なヴァリス金貨も取っているし、武威とソロを派遣させて全員にもう一段修行させているのだから、

(がめついにもほどがある……)

 と、ヘスティアやリリは思ってしまう。

 武威も以前の『戦闘遊戯』のときとは違い、覚えたことを普通に戦うことに応用できるようになっている。

 

 朝から、フレイヤが指定した店で待ち合わせ。ベルは最大限おめかしさせられて、がちがちに緊張していた。

 もちろんリリや春姫が、文句や嫉妬の限りを尽くしてから磨き上げ、瓜生に大金を出させて飾り立てた。ベルを最高にしなければ、

(『ファミリア』の沽券にかかわる……)

 のである。

 また、女心もある。どれほど嫉妬が激しくても。

 隣ではヘスティアが文句を言い続け、ジュースにストローで泡を立て続けている。

 

 群衆が海のように分かれ道を作る。

 深くベールをかぶった、それでも素晴らしい肢体がわかる女神が歩いてくる。その歩みすら桁外れに美しい……武神やアイズの武を極めた美しい歩きとも、舞踏・音楽の神々の歩みの優雅さとも違う。

「あ、あ」

「ヘスティア、おひさしぶり。はじめまして、女神フレイヤよ」

 美しすぎる声が響く。ベールが、手だけでも瓜生の故郷で手タレントで飯が食える美しさの手で、静かにのけられる。

 ベルはあまりの美しさに絶句している。

「ぐぬ……い・い・ね、ベルくん、信じてるからね、ものすごく!劣情に負けたりしないって!劣情に負けないって!」

 ベルの腕をつねるヘスティアのツインテールが針金のように曲がり、激しい怒りと不満を全身でぶつけ、いやいや、ふり返りふり返り立ち去った。

「か、神様……あ、その」

 と、ベルがフレイヤを振り返る。美貌に呆然としながら、心の中でアイズとヘスティアにつねられて我に返り、勢いよく立って頭を振り下ろす。

「このたびは本当にうちのビーツが、すみませんでした!それに『戦争遊戯』のときも、お力がなかったら『異端児(ゼノス)』を助けられなかったかも、とウリューさんに聞いています。ありがとうございました」

 すねに頭がつくほど腰を折る。

「いいのよ。その話はこれでおしまい、今日はデートなんだから、楽しむことだけ考えて?」

 フレイヤの笑顔はとろけるようだった。あまりにも美しかった。

 女神ヘスティアはもとより、アイズやリヴェリア、ヘファイストス、ロキ、リュー、エイナら多くの美女と知り合っているベルにとっても……

 

「どこに行きたいかしら?どこでもいいわよ」

 女神の声に、ベルは心の底までとろかされそうになり、背中の熱さに我に返った。

 フレイヤが近くの連れ込み宿をまっすぐ見ていることには気づいていない。

「それとも、少しここでお茶にしましょうか」

 

 

「昨日、どう過ごしていたか教えてもらえないかしら?」

 電子監視をしていたリリは当然、

「いけませんベル様、【ヘスティア・ファミリア】の秘密を何から何まで丸裸にされますよ!」

 と怒鳴り散らした。だが、ベルはイヤホンなどをつけていない。

 そしてベルはかなり考え方が違う。素直に答え始めてしまった。むしろベルが惑っているのは、リリや春姫の別の忠告だ。

「いいですかベル様、デートのときには、絶対にほかの人の名前を出さないように。特に女の名前。男の名前でも嫉妬はします」

 そう言われていたことを思い出す。

「どうしたの?」

「そ、その、その話をしたら人の名前が出てしまいますから……」

「あらそういうこと。しっかりした女(ひと)が……いえ、かまわないわ。だってあなただって、ひとりじゃなくてたくさんの人に支えられているのでしょう?うちのオッタルだってそうだもの」

「はい!」

 ベルは満面の笑顔。

 無論フレイヤの腹の内は、アイズやヘスティアはもちろん、瓜生やヴェルフの名前すら聞きたくはないのだが。

 ベルにその腹の内など読めるはずもない、嬉々として話し始める。

「そうですね。朝起きたらいつも通り少し運動して素振りして」

 少し運動……夜明け前に起きてストレッチ、それからトン単位の鍛冶ファミリア特注シャフトのバーベルで、デッドリフト・ベンチプレス・スクワット、鉄棒につかまり足首にバーベルをひっかけ膝を伸ばしたまま腹筋だけで持ち上げる。

 バーベルをリュックに詰めてプランクと懸垂。

 第一級冒険者用の発電機直結ボート漕ぎ運動器具で、心肺足腰をいじめぬく。常人が1500メートル走を、数度の深呼吸とスポーツドリンクを飲むだけのインターバルで何度となく繰り返すぐらいに。

 今朝も。休みの日以外は毎朝。ビーツも、大抵はソロもそれには参加している。

 それから千回以上、数を数えない歩き素振り……

「昨日ソロさんに教えてもらった、相手の右脇に入る動きを集中的に」

 ひとつの、小さい弧を描く歩きから突き上げる動きだけを一時間ひたすら繰り返した。

「ビーツとソロさんもいました。武威さんは今朝は用事があったようですね」

 ビーツだけはいつも朝、何十人分もの牛乳シリアルとチーズを平らげてから運動を始める。

 ウェイトトレーニングは数字がある程度出る。いつもベルは、ビーツやソロに比べて劣る自分に引け目を感じている。と言っても相手が悪すぎ、今のベルも冒険者をはじめて半年足らず、いやレベル4としても非常識なのだが。

 ちなみに武威の用事というのは、目の前のフレイヤのところに出稽古に行ったのだ。ビーツの非礼の借りを返すため、レベル3以上全員をハンバーグにして経験値を献上した。

「それから朝ごはんです。いつもうちは、自由に食べられるようになっているんですよ」

 主に瓜生が、食堂をバイキングレストランのようにしている。

 チキンカツ、メンチカツ、トンカツ、真空調理されたブロック肉や魚、温野菜、スクランブルエッグ、数種類のパスタやスープ、カレー、白飯、炊きこみご飯、焼きたてのパン、オートミール、フルーツ、サラダ、ドライフルーツなど取り放題。ラーメン・そば・うどんも、少し調理時間がかかるが常にある。

 特にチーズマカロニが人気だ。

 ビーツや武威は、みんなが十分取ってから来て、残りを全部さらえこむ。しばしばそれでも足りず、追加で多量のスクランブルエッグとオートミールやシリアルを注文する。

 ただし、できるだけ多くが集まって「いただきます」をするようにしている。

 ちなみに食事・風呂・洗濯など生活の多くが、【タケミカヅチ・ファミリア】と共同だ。

「おいしそうね、今度ごちそうしてもらいたいわ」

「はい、ぜひ」

 笑う少年が嘘を言っていないことを、神の能力で知ったフレイヤは胸がさらに熱くなった。

 

「午前中は、みんなと稽古していました」

「みんな?」

「あ、レベル1のみんなです」

 新入生はほぼヤマト・命と【タケミカヅチ・ファミリア】が面倒を見ている。

 第二期の新入生も『学校』を終え、主神ヘスティアの面接を経てもうすぐ入ってくる予定だ。

(死なせない)

 ただそれだけのために、多くの教育をしている。

 街でも常にチームで動き、M460マグナムを2挺隠し持っている。【ヘスティア・ファミリア】の秘密は誰もが求めているからだ。

 ダンジョンでは6人で、大盾を並べ両手槍と7.62ミリバトルライフル、短めの剣で固まって戦い抜く。人前ではライフルを隠してクロスボウにするが。

 常に重火器を持つレベル2以上が監督している。

 瓜生の、今はリリが譲り受けたスキルもあり、成長は早い。

 ベルはひとりひとりの成長を自分の事のように喜び、フレイヤに自慢するように語った。深い情熱と愛情をこめて。

 団長としても成長していることが、フレイヤにはわかった。

 

 フレイヤはベルの話を嬉しそうに、夢中で聞いていた。

 そして一日の話が終わってから、聞いた。

「その、それであなたは、これから……どうしたいかしら?」

 はにかみながら。怯えて。

「あなたが望むなら、このまま寝所……、その、あちらの連れ込……、ううん、その、あなたに嫌われたくないの。どう、どうしたらいいのかしら」

 フレイヤの表情は泣きそうにさえ見えた。美女はそれですら美しい。

 

 隠しカメラを通じて見ていたヘスティアは歯を噛み鳴らしていた。

 ロキは笑いとも苦しみともつかぬ感情にのたうち回っていた。

「だれやねんだれやねんあれ」

 と。

「あのあま、イシュタルたんの百倍はたちが悪いあばずれやで、なんやねんあのカマトト、背筋ゾゾるわ」

 とわめいていた。

 だが、ロキの心のどこかはわかっていた。怯えていた。

(ベル・クラネルの『何か』は、美の女神の猛々しく傲慢を突き抜けた心もとろかし、ただの乙女に変えてしまっているのだ……)

 と。

 

 ベルは戸惑っていた。

(美女神と、どうしたい……?)

 といわれても、別に何があるわけでもない。

 何月も冒険と修行の、強くなるだけの日々を過ごした。甲子園強豪校にも似た生活だった……それは新入生たちも似たようなものだが。

 しかも普通の強豪校エースとは違い、冒険者としてのはじまりを同年代の同性がいない状態で過ごした。同年代・同性の仲間がいれば悪を競い合うようにもなるが、それがない。反面教師が祖父であり、最初に同性の仲間となったのが桜花やヴェルフだった。どちらもモルドのように普通に飲む打つ買うの欲望をむき出しにするタイプではない。

 怪物祭りなどでヘスティアと楽しんだり、時には憧れのアイズと出歩いたことさえあった。が、あまりにも多くが、

「強くなりたい」

 それだけだった。

(このひとに、僕があげられるものは何だろう)

 優しい心は、そう思ってしまう。

 お金やぜいたくなら、最大派閥の主神、飽きるほどあるに決まっている……それぐらいはわかる。

 また、ベルにはしたいことはある。

(『猛者(おうじゃ)』オッタル団長をはじめ、この女神の眷属たちに鍛えてほしい……)

『戦争遊戯』で、多くの【フレイヤ・ファミリア】のメンバーとも戦い、多くを学び膨大な経験値を得た。また戦えるなら……

 だが、その欲望にビーツとアイズが負けたために、【ロキ・ファミリア】も自分たち【ヘスティア・ファミリア】もえらいペナルティを払う羽目になった。

 リリなどは、

「払えばいいなんて思わないでくださいね。【フレイヤ・ファミリア】がなりふり構わずこちらを潰しにかかったら、無限の黄金があっても潰されるでしょう」

 と釘を刺している。

 

「そろそろお昼にしましょう?」

 とフレイヤに誘われる。

「普段お休みの日は、どこのお店で食事しているのかしら?」

 休みの日があるということもつかまれているのだが、ベルはそんなことは考えない。

「ああそうそう。もし目や耳があるのなら、ここまでよ」

 フレイヤが虚空を見て言う。ベルは慌てて、

「ごめんなさい、普段つけているのは外してきているんですが」

 と自分を探り、謝ろうとするが、

「謝らなくてもいいわ」

 とフレイヤが微笑む。

 リリは泣きながら、そしてわめくヘスティアやロキを押さえて、盗聴盗撮装置を切った。

「フレイヤ様が本気を出したら、バレると思うべきです。代償が大きすぎます」

 と、いうわけだ。

 そしてリリは一度隠れて、瓜生から劣化だがもらった能力で、高度数のラムとつまみを〈出し〉て女3人やけ酒をはじめた。ロキの護衛もご相伴にあずかる。

 

 美女神と、まだ若すぎる白髪の冒険者が道を歩く。

 フレイヤは手をつなごうとしてはためらうのを繰り返している。そして人波から、ベルが自分を自然に守ってくれているのに気がつき、胸を焦がしていた。

 冷静を装っているフレイヤだが、胸の中はすさまじい情熱が燃えていた。

 今この場、何千という人や神が歩いている広場から見える道の真ん中で、全裸で彼にまたがり腰を振り絶叫したい。

 最低の娼婦のように犯されたい。いや、乙女を蛮族が蹂躙するように犯しつつ拷問の限りを尽くしてなぶり殺してほしい。

『男殺し』フリュネ・ジャミールにも想像もできないほど残忍に、この少年を犯しバラバラに壊したい。

 神々はもとより、残忍さもある。乙女や幼子の生贄も喜ぶ。大量殺人を喜ぶ。

 愛の女神と言われる神種は、実はそちらがかなり激しい。

 腰が抜けそうになった女神を、ベルが抱きとめ腕を貸した。フレイヤは大喜びですがり、豊かな胸を腕に押しつける。

(やわらかいしいいにおいがあああっ)

 ベルは頭がおかしくなりそうな刺激に必死で耐えていた。

 

 見ている人はいる。フレイヤはベールをつけているが、それでも気づく人もいる。

『ギルド』のエイナ・チュールも。

 だが、彼女たちは見ないふりをしている。

 リリが、

(おそらく、ベル様に好意を持っている……)

 女性たちに、デートの事情を知らせている。

 それが【ヘスティア・ファミリア】の存亡にかかわることは、皆理解している。

 だからといって、嫉妬がなくなるわけではないが。

 

 

 ベルがフレイヤを連れて行ったのは、瓜生にもヘスティアにも厳しく言われる休みの日、オラリオをぶらついていく店のひとつだった。

 休みの日には、朝本拠で食事をして、新入生としゃべったり、それもなければオラリオを歩くこともある。社会奉仕をすることもある。

 春姫と、割り込んでくるヘスティアとともに、瓜生が置いていく映画を見ることもある。ただ、言葉はわからない。脚本が共通語(コイネー)に訳されていればそれを読めるが、まだまだ翻訳は進んでいない。

 瓜生や、日本語を必死で習得したリリ、超高知能ですぐに習得した異端児(ゼノス)がいればせりふを読んでくれるが、そんなのがいることは少ない。

 広い10万都市。

 たくさんの道。たくさんの人が生活している。

 単独行動は原則として禁じられているので、リリや春姫、ヘスティアと一緒にいることもある。主神を含め女の子たちはふたりで出かけたがるが、

(そうはさせじ……)

 で、どうしても数人で歩くことが普通だ。

 ソロやトグ、ヴェルフや桜花と出歩くことも割と多い。やはり男同士の方が気軽だ。

 ビーツも時々連れて行くが、そのときは大盛り店をはしごすることになる……チャレンジ店には手配書が回っているので、ビーツ専用メニューが定番となっている。

 ソーセージやベーコン・黒パン・素朴な豆シチューがうまい店に、ベールをかぶったフレイヤと入る。それでもその圧倒的な美貌は、店の人間全員を惹きつけた。

「お、きょ(うもいい女連れてるな)……」

 からかおうとした常連の舌が凍りつく。

 料理そのものは、黒パンにスライスしたチーズ、ボイルした白ソーセージと簡素なもの。

 だがフレイヤが心から楽しみ喜んでいることもわかる。

(店のおごり……)

 の、リンゴの酒精強化酒がまた甘くて口をとろかす。

「フレイヤさま」

 とけかかったベルの目が、かすかに真剣みを帯びる。

「なに?」

「英雄って、何でしょう」

 フレイヤの胸が激しく高鳴った。

(自分にそれを聞く……)

 と。

 フレイヤのところには、英雄に一番近い『猛者』オッタルがいる。神話でも数々の英雄と深い縁を持っている。

「そうね、わたしたち神々は、いつも英雄に熱狂しているわ。支援をおしまない神もある。試練を与える神もある」

 フレイヤ自身がミノタウルスをけしかけたりもしたのだが。

「オッタルも英雄と言われているわ」

 ベルがうなずく。

「でも、彼は英雄になりたいというよりも、ひたすらわたしのため。勝利を、栄光を、そして護衛」

 またベルがうなずく。

 彼も、とにかく目の前の誰か女性を守るために戦い続けてきた。ヘスティアを、リリを、ウィーネを守るために。それだけでなく、冒険者としての意地と誇りのために戦うこともあったが……

 今もベルは、脇差を背に隠し、高級な服の下に鎖帷子を着ている。もし今何かあれば、今話している女神のために迷わずどんな敵とも戦うだろう。

「ウリューさんに、たくさんの英雄のお話を聞いたんです」

 リリがいたら止めていただろう、といってもフレイヤにはもう【ヘスティア・ファミリア】の実像は高い精度でつかまれているが。

「貧しい農民から天下を統一して、それから……年老いて、すごくひどい人になってしまった人もいたそうです」

 瓜生は信長・秀吉・家康の話はしている。ほかにも明の朱元璋がいる。

「そうね」

 フレイヤこそ、老い腐った英雄をどれほど見ていることか。

「ウリューさんは、目的と手段、と言っていました。たとえば助けて帰るのが目的、剣は手段、だから敵に金を渡してもいい、と。

 何か目的があって、それをして……誰にも知られないまま、不幸に貧しく死んだりしても、英雄はいると……」

 会話が弾むが、店が少し騒がしくなってきた。

 席の後ろ姿でもフレイヤが美しすぎて、道を通る客を呼んでしまう。当然会計の時、店は半額で済ませてくれた。

「次はどこに行こうかしら?どこでもいいわ」

 どこでも、の意味にベルは気づいていない。

 本当はベルは、オッタルらに修行をつけてほしいが、それは言い出せない。

 ビーツの語りを思い出す。

 瀕死、全身折れていない骨がないすさまじいまでの惨状だったビーツが、舌が動くようになってから珍しく雄弁に語ったものだ。

 オッタルを。

 

【フレイヤ・ファミリア】にカチコミに近い押しかけ修行に行ったビーツは、アレン・フローメル相手でも今度こそ圧勝した。スピードもパワーも今や違いすぎる。

 それを見たオッタルは、ビーツを招いた。アイズも見たかったが、それどころではなかった……レベル6が3人+レベル6相当のガリバー兄弟が間断なく殺しにかかってくる。

 機密性の高い修行場で、一合。槍と大剣がぶつかり合い……オッタルが吹き飛び、地面を大きく削って分厚い石壁にめりこみ崩した。

「力と敏捷は、2ランクは上か」

 オッタルの口の端から血が垂れる。だが、出た言葉は意外だった。

「だが、それがどうした?」

 それからは、オッタルの蹂躙だった。

 腕相撲でもかけっこでも圧倒的にビーツのほうが上。だが、技でオッタルはその力を封じた。

 すさまじい速度で突きかかる槍。だが、それはオッタルの『気』に押されて打たされたもの。リズムがわずかに狂っている。オッタルは飛び込みつつ剣を持たぬ左手で槍を叩きそらす。精妙な角度と螺旋、重心を崩されたとビーツが気づいた、次の瞬間目を打たれる。反撃に蹴りを出した瞬間みぞおちを軽く打たれて呼吸がつまった。立て直そうとした足のつま先が後ろを向いている……一瞬で膝をねじ切られたのだ。

 激痛と呼吸の乱れにもかまわず戦い続けようと片足立ちで振り向いた、その首がそのままねじ折られる。むしろ柔らかな掌が額に触れているだけで。次の瞬間あごを外され、ごく小さい動きの平手で鼓膜を破りその手で耳を引きちぎって引き倒し、後頭部が床にぶつかると同時に鼻を踏みつぶされ次の足で肝臓を蹴り破られた。

 ……待機しているヒーラーに命じ3割程度に回復、また最初から始まった。人体の弱い部分を破壊する。関節を、内臓を、あらゆる穴を。

 目で見耳で聞く、それをごまかし破壊する……実際には目はカメラとは違い、様々な映像を脳の動画編集ソフトで書き換え統合している。未来予測も加えている。そのソフトをごまかしている。

 呼吸を、『気』の流れそのものを断つ。あらゆる神経に激しい誤信号をうちこむ。針のように細い急所に『気』を打ち、内部から破壊する。

 何十倍もの腕力の持ち主を技だけで破壊しつくす。

 

 それは、武威が見ていれば理想としただろう。腕相撲やかけっこでは圧倒的に勝てない少女を、技で完封する巨漢。

 力も速度もはるかに勝る戸愚呂(弟)、幽助、飛影らを、柔の技で制圧する自分。それが今の彼の夢であり、そのために常人がフルマラソンを毎日3度走るにもまさる酷烈な鍛錬を続けている。

 また、ベル・クラネルの理想像でもある。高い敏捷を超短距離移動に集中してわずかに足・体芯を移動させ、極限まで正しい振りかぶりで攻撃を受けそらして敵の重心を崩し、最小限の、腰だけ・刀の重さだけの攻撃で断ち歩き抜ける。それを完全に体現しているのだ。真似ているのではない、自分より強い相手に勝つための正解だからだ。剣の神髄もこもっている。速さ、強さとは違う、『気』の運用にかかわる深い正しさ……達人のゆっくりした剣運びでも敵は打たれるように。

 

 ビーツの「技」も低いわけではないのだ。きわめて高い水準の基礎であり、その基礎は極意に深く通じる。技だけでも勝てる者はそういないし、アイズ・ヴァレンシュタインやフィン・ディムナの目から見ても美しい。

 だが、それでもオッタルの「技」は、さらに桁外れに圧倒した。

 世界的コンクールに入賞した天才少女と、歴史的なピアニストのような大差。

 

 めちゃくちゃな、想像を絶するほどに関節を砕かれ、頭蓋骨の形が変わり、はらわたがはみ出した半死体を、ボロボロを通り越して気力でやっと体を起こそうとしているアイズの前にオッタルはぶら下げ、

「同じようにしてやる」

 と言い……

「おねがいします」

 と心から言ったのだからアイズも相当壊れている。

 

 ……隣で寝るアイズの見舞いに来ていた神ロキともども、ビーツの珍しく雄弁で嬉しそうな話を聞いたヘスティアは泣きじゃくっていた。

 ロキは、

「ドン引きの児童虐待案件やんけ……」

 と凍りついていたものだ。

 といっても、ロキの眷属もかなりのことをしてはいる。

「なんで君たちはそんな嬉しそうなんだよおお」

 とヘスティアは泣きじゃくっている。

 アイズも実に嬉しそうに自分が被害者である残忍なリンチの話をし、今はビーツの話を聞いている。

 レフィーヤは気絶して空きベッド、ティオナは目を輝かせて羨ましがっている。

 ビーツはもう、起き上がって新しい技を試したがっている。

「とても小さい急所を、針のように打って内部から破壊する。学んだ。修行しなきゃ」

「だめだビーツくん寝るんだ!」

「今こときれてもおかしくない体よ、寝てなさい!」

 

 ベルも、『戦争遊戯』の祭りでオッタルに一度挑み、立ち向かったと思ったら指一本動かせぬ瀕死で寝ていた。

(強くなりたい)

 その思いは、今は無意識にフレイヤの手を握る動きになった。

 フレイヤが漏らした声に、

「ごめんなさい」

 と謝る。桁外れの力があるレベル4上位が常人の身体である神の手を強く握ったりしたら、プレス事故のようなことになりかねない。

「いいえ、うれしいわ」

 と、フレイヤは痛む手で少年の手を握った。おずおずと、たまらなく優しく握り返してくる手、立っているのが苦しいほどだった。

 

 それを見ている女性たちが何人か、歯噛みをしている。

 そうなると自然に、女性どうしわかってしまう。フレイヤもベールの下から正確に見て、優越感に微笑んだ。

(『ギルド』のエイナ・チュール、デートや遅くまでのお勉強、それに神々のいたずらで尾行されて彼をボディーガードにして、何度も見せつけてくれたわよねえ……)

 見せつけたと言ってもフレイヤが反則でのぞいただけだが。

 そんな調子で、何人分も。

 ジャガ丸くんの屋台にいるアイズこそ、自分が元凶なのに、なぜ自分が歯を食いしばって……胸の中の幼子が泣きわめいているか戸惑ってさえいる。

 ベルは、知っている女たちに見られるのがなぜか苦しくて仕方がないが、

(ビーツのため、【ファミリア】のため)

 と必死でこらえ、刺さる視線に目を伏せている。

 

 それから、どこに行こうかと思った……ヘスティアと見た夜景や、アイズと特訓した……思い出す。

(デートに、別の女との思い出の場所は絶対ダメです!)

 と、リリや春姫に言われた。

 女と関係のない思い出の場というのは、ほとんどない。

 というよりベルは、それほどオラリオを知らないのだ。最初から、普通の新人冒険者よりずっとダンジョンに入る日数が多かったし、休日も一人で禁欲的に過ごしていた。

「いいところがないか、歩いて探してみましょう?」

 とフレイヤが言うのに、そのまま甘える。

 無論フレイヤも美しく高級なところはいくらでも知っているが、ベルがそれを喜ぶとは限らないことはわかっている。

 ただ歩きながら話す。

 主にベルがオラリオに来てからの、いろいろな冒険を。

 つたない言葉で。

 ただ歩き、話す。オラリオの広い道を。時々、弱い常人の身体であるフレイヤを気遣い、見かけた喫茶店などで休む。

 フレイヤにとっては幸せだった。

 

 知らない道。変な建築。

 泣く迷子を親の元に連れて行く。

 よくわからない、祭られている変な石を見て笑ったり、卑猥なものに顔を赤らめたりする。

 路上で囲碁をしているのを見て、少し足を止める。

 ただ気まぐれに歩き、気まぐれに足を止め、話し続け、黙って歩く。

 気づくと空は赤らんでいる。

 たまたま、やや大きな店が目に留まった。

 ちょっとした館を商人が買い取り、香辛料店兼料理店としているようだ。

「入ってみましょうか」

 いいにおい、瓜生がよく作るカレーの香りに誘われたベルの言葉に、フレイヤはうなずく。

 本来予約が必要な店だが、ベールをかぶっていても店員はフレイヤを一目で見抜き、即座に緊急用の最上室に案内した。魔石エレベーターさえある。5階の個室。

 高級感のある内装に、ベルは少しおちつかない。

「任せてね」

 と、フレイヤが手早く酒と料理を選んだ。

 ベルがメニューを見たら価格に青くなるだろう……といっても、本拠地に連絡すればいつでも店ごと買える。無論フレイヤも、言うだけで店ごと貢がせられる。

 

 緑色のカレー、種無し薄パン、一見普通だが赤いステーキ……

 かなり辛みが強く、ベルは目を回していた。フレイヤは平気で酒を合わせている。

 そんな中でも話は続く。ベルは、瓜生から聞いた英雄の話を始めた。よく春姫と、また割り込んでくるヘスティアとともに共通語訳されたばかりの伝記を読む……激しい鍛錬や冒険で、疲れすぎて眠れぬ体を少しでも冷ます。そしてヘスティアの膝で眠っていることもよくある。

 忙しいリリがやってくることもある。

 瓜生がいるときに朗読をせがむこともある。

 

 食事と会話、菓子と茶もいつしか来て、おかわりが届いた。

 静かな時間。ときには気まぐれに席を立ち、窓から、かなり広い範囲の町をふたり見ることもあった。

 そんなとき、突然それは来た。

 ドアを軽くノックする、その音すら圧倒的に力強い武人の音。

「オッタル!」

 フレイヤの表情には軽い怒りがあり、すぐに緊張した。

 今ここに連絡するということが、どれほどのことか彼がわかっていないはずがないのだ。

「フレイヤさま、お詫びは申すまでもありません」

「何があったか、ベル・クラネルにもここで聞かせて」

 巨漢猪人(ボアズ)の武人がうなずく。それだけでベルは圧倒された。

「地上で、きわめて強力な魔物の大軍が出現。テルスキュラが壊滅に瀕しています。オラリオを目指していると」

「わかったわ。ベル・クラネル……」

 フレイヤは無念と、湧き上がる別の喜びに圧倒された。

「わたしをここの玄関まで守り送って。そして、英雄の出陣を見送らせてくれないかしら」

 女神の美しすぎる目は、すさまじい情熱に輝いていた。

 英雄の出陣を見送る女。戦神でもあるフレイヤにとってこれほどの栄光があろうか。どれほどの女神たちが、女たちがうらやむことか。

 ベルが目を見開く。そしてオッタルが深く一礼し、素早く引き下がった。

 無論十分な戦力が、この店の門前に集まっている。

「は、はい」

 立ち、ベルの腕を取ったフレイヤの腕が、あえて階段に向かわせる。

(一秒でも長く……)

 思いはベルにも伝わる。

 ゆっくりと長い階段を降りる。

 言葉はない。強い腕の力だけ。

 一段、また一段。130の段を、名残を込めて降りる。

 そして階段から店の出入り口までの、十分大きい店なのに短すぎる道。

 美女神の腕が、強く強く男の腕を抱く。その美貌には、戦女神のたけだけしさも感じられ、それがまたベルを圧倒した。

 

 玄関には店主と、そしてオッタルをはじめ【フレイヤ・ファミリア】のレベル6以上の幹部が勢ぞろいしていた。

 美しい服と、ベルの普段の装備をオッタルが捧げ持つ。

「男ならば、この栄光に遠慮はなしだ」

 オッタルが小さく言う。ベルはうなずいた。あまりの栄光に。

 布を掲げた第一級冒険者が壁となる。ベルはその中で、恥ずかしさと異様な雰囲気に煮えそうになりながら着替えた。

 美しすぎる、最高級の下着と鎧下、対炎護符『サラマンダー・ウール』。何千万ヴァリスすることか……防御力も分厚い板金鎧以上。

 わざわざ【ヘスティア・ファミリア】本拠まで愛用の装備を取りに行ってくれた手間も申し訳ない。

 さらにポウチにはエリクサーとハイ・デュアルポーションが2本ずつ。今までいた店を買収できる。

 フレイヤとオッタルが、愛用の鎧を身に着けるのを手伝ってくれる。

「立派よ。すばらしいわ」

「ありがとうございます」

「英雄の出陣のはなむけ。女神にとってこれ以上の喜びはないわ」

 ベルは言葉が出ない。その頬に、フレイヤが軽く口づける。本当は深く唇を、いや今からでも寝所に引きずり込みたいが。

「この祝福と栄光に応えよ」

 オッタルの言葉に、ベルは赤い瞳を鈍く光らせ、強くうなずく。

「フレイヤさまを、お返しします」

 と、フレイヤの手をオッタルに譲る。

「しかと。ゆけ」

 しっかりと主神の手を取った『猛者(おうじゃ)』の、最低限の言葉。すさまじいまでの武人の風貌。身体で強大さを知った、最強ファミリアの眷属たちも、すさまじい瞳でベルをにらんでいる。

(最高の女神に送られる、至上の栄光にふさわしい活躍をしなければ一寸刻みでも足りん……)

 と、全身で叫びつつ。

「英雄とは。あなたの行いで教えてちょうだい」

「!、はい!」

 ベルは深く頭を下げ、勢いよく、本拠地に向かって走り出す。

 美と戦の女神フレイヤは強大な眷属に守られ、冒険者の出陣を見送っていった。




これでも多分、ビーツの生活は王子らに比べたらかなりぬるいと思います。
カカロットよりは少しきついかも…
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