ダンジョンに近代兵器を持ちこむのは間違っているだろうか 作:ケット
『隻眼の黒竜』……『三大クエスト』のひとつ。オラリオを支配していた【ゼウス・ファミリア】【ヘラ・ファミリア】を壊滅させた怪物の王。
本体自体が極端に強い。さらに岩を眷属に変える……それも極深層に出てくるほどに強大なものを、何千体も。
質と量を兼ね備えた物量戦、それこそが当時の二大ファミリアを、生きて帰る者もほとんどいないほどに殺し尽くしたのだ。
それが、『穢れた精霊』の卵によって桁外れに強化されている。黒竜の聖域に侵入したレヴィスが過酷すぎる地形と気候を踏破し、幾多の護衛怪物を打倒し、超上位冒険者による封印を解いて、緑の宝玉を寄生させたのだ。
『ダンジョン』が生み出した最強の怪物はその寄生に抵抗し、力を取り込んだ。普通とは違う、黒竜の中の『何か』も反応した。寄生させた『穢れた精霊』も普通ではなかった。
普通の寄生された怪物より、次元が違うほど強大かつ凶暴になった。
さらにレヴィスは、与えたのだ。黒竜をこの地に封じていたのは、当時最強の冒険者が生命とひきかえに与えた傷だけではない。必要なものが、なかったからだ。
真水。何千年も一滴の雨も降らない砂漠。それが黒竜にとって天然の牢獄となっていた……なければ活動できない、眷属をつくれない。
だが、レヴィスは皮袋の水を与え、次に巨大な岩を破壊し山塊を隔てた大氷河湖から激流を引いて与えた。
久々の水を飲んだ黒竜は、砂漠の乾ききった岩を食らっては強大な眷属を大量に生み出した。『穢れた精霊』の祝福を受けたものを。
その一部、分遣隊の攻撃にも全滅しかけたテルスキュラに、【ロキ・ファミリア】【ヘスティア・ファミリア】が飛行艇の速度で救援に行った。
アイオワ級高速戦艦が、危険を冒して半島のつけ根に接近する。
海に面する強国のある海、航路情報を持つテルスキュラ幹部を艦上にソロのルーラで送って話を聞きながら……だが危険には違いない。
『勇者(ブレイバー)』フィン・ディムナの巨大な魅力で、闘志が強すぎるアマゾネスたちを少しずつ撤退させる。
岸近くに着いたアイオワ級、随伴する輸送艦が砲弾を戦艦に運び入れ、空いたスペースに傷ついたアマゾネスを収容する。
病院船もあったが、完全に足りなかった。何万もの生存者、すべてが重傷なのだ。
そして前線から人々をある程度逃がした、そこで飛行艇のリヴェリアから恐ろしい連絡が入る。
「フィン、ウリュー、核兵器の使用許可を。『隻眼の黒竜』だ」
通信を聞いたフィンも、全力で高い塔に走り登り、天体望遠鏡以上の第一級冒険者の視力でそれを見る。
ソナーで海底を探りつつ、できるだけ岸に近づいた3隻の鋭いまでに細長い巨艦が、一斉に咆哮した。
その間も、救出と避難……戦線の制御は必死で行われていた。
32キロメートル離れた敵の主力がいる深い谷に、獄炎の花が咲き乱れた。火球とキノコ雲という、悪魔よりも邪悪を極めた花が。
W23核砲弾。広島原爆以上の20キロトン。それが27発、同時に空中爆発。それが短時間で3回。実弾発射試験すらされていない、瓜生の故郷の総生産数より多い……瓜生の能力は召喚ではなく、瞬時に原子を積み上げるものだ。
遠くから見れば、それはキノコ雲の森だった。いや、キノコ雲の森が底を深く照らす光とともにゆがみ、吹き飛び崩れ、新しいキノコ雲が発生する。地獄そのものだ。
山手線内程度の面積が、完全に破壊された。いかなる建物も残らない。人間ならば絶対に一人残らず死んでいる。
衝撃波、爆風とその吹き戻し。超高熱の熱線と熱風。地面そのものが掘り返され、すべてがプレス機のような風の拳に殴られた。放射線が原子核まで破壊し、あらゆる分子結合をずたずたに切り刻んだ。
だが、それで倒せるのはレベル5程度までだった。アイズたちならば、瀕死ではあっても生きのびている。それだけの実力がある怪物は、生きていた。
アマゾネスたちも呆然としていた。
飛行艇で偵察・着弾観測をするリヴェリアや、ラキアのアレス王子たちも呆然としていた。
はるか遠くの地獄を遠望したベルも、呆然とした。
俊足で偵察していたアレン・フローメルは直感だけで逃げ、ふり返らずに背後のすべてを感じつつ、全速で駆けた。
フィンたちは、地の底の核爆発がどれほどすさまじいか、知ってはいる。だが、地上での圧倒的な破壊を見たのは、別物だった。
『発砲……ガガ……ちゅうガガガし!もう……ガガガ……無駄だ。防御魔法』
だからこそ、リヴェリアの、核砲弾がもたらした電磁嵐に乱れる無線連絡は衝撃だった。
防御魔法も使うリヴェリアには、見えている。核兵器の威力よりさらに上の次元の、すさまじい防御魔法が……桁外れどころではない魔力が。
その報告は、核兵器を解禁したにもかかわらず殲滅できないという恐怖を意味していた。
「恐れるな、お前の故郷の戦史にもある!膨大な爆撃や艦砲射撃でも戦い抜いた軍があると読んだぞ!低精度の攻撃はどれほど強力でも限界がある!」
通信機を通じ、リヴェリアが瓜生を励ます。
【ヘスティア・ファミリア】の新入生たちは、【ロキ・ファミリア】【アポロン・ファミリア】のレベル1と共同でひたすら大量の料理を作り、野戦病院の準備をしていた。
かなり大型の、給食センター水準の機材。
何千人分もの食料を一気に作る。瓜生が材料を供給してくれている。
巨大すぎる鍋やオーブン。レシピも量に応じて変わる、家庭でも小鍋と大鍋では同じ料理でも微妙に調味料の配合などを変える必要はある。
本拠地で扱いなれている、電動ベルトコンベヤ式の全自動フライヤーは、最低限の訓練でも大量の揚げ物を作り続けることができる。だからこそ点検や揚げ油の交換などに高い訓練と教育水準が必要だ。
巨大な寸胴鍋がいくつも、大量の豆・肉・ミックスベジタブルのスープを作っている。
巨大な缶を開け、レトルト袋を開いて業務用カレーを作っている。
大きいオーブンでパンやピザを冷凍生地から焼いている。
機械的に回転する、ドラム式洗濯機のような鍋が大量のチャーハンを炒めている。
機械フライヤーがベルトコンベアで冷凍揚げ物を揚げ続けている。
それがあるからこそ空を行きかう軍用機のパイロット、また多数の軍用機を整備し、弾薬や爆弾を積むレベル2級を支えることができる。
フィン・ディムナはもとより、
(ちゃんと食べられること……)
がどれほど重要かをよく知っている。
ほかにも【アレス・ファミリア】虜囚となっているラキア軍3万、数だけはオラリオ最多の【ガネーシャ・ファミリア】、どちらもオラリオ内外に基地を築いている。
寝床。トイレ。水と食事の用意。洗濯。入浴。
近代兵器の訓練、予備弾薬の倉庫。
瓜生の莫大な物資の力もあり、軍事行動が可能な水準で、軍事生活ができつつある。
たかが数百人に昼食をさせるだけの給食に、どれだけの資材と費用が投入されているか。まして満員のホテルの、トイレと入浴に最上流の水道取水口から最下流の下水処理まで、どれほどのインフラを伴っているか。
膨大な食料・真水・衣類・石鹸・機材……それらが動き続ける。近代戦という、ラキアのこれまでの戦争とはまったく違うペースで。
戦場商人たちもそれに適応しなければならなかった。価格競争ができないのだ。
あちこちの山頂にある、少人数の観測・通信中継基地。今回の戦い、特に艦砲射撃を誘導する、信号弾の位置を確定するのに必要だった。
そこにも、飛行艇からの空中投下で間断なく食料や燃料が供給されている。
その場でもおいしい食事ができるよう、圧力鍋と熱源もあるし、レシピと食材もある。
膨大な音楽CDと高級プレイヤー・アンプ・ヘッドホンも用意されている。
そして敵が迫り危険となれば、すぐに撤退するように大型オフロード車も準備されている。
特にチート級の移動手段である、ソロの『ルーラ』も必要なら活用される。
『ふくろ』に入っていた『キメラのつばさ』も、『神秘』レア発展アビリティを持つフェルズやアスフィが研究し、リバースエンジニアリングしている。試作品はもう、数日にひとつの高級品だが出回っている……それも本質的には世界を変えるものだ。
アイオワ級を中心にした艦隊も何百人もの、主に【ロキ・ファミリア】のレベル1と2が運用している。
それも膨大な資材を常に消費する。弾薬のみならず、燃料も。食料も、洗剤も、修理整備用の油や薬品も。
瓜生は一人しかいない、そちらを見ているのはリリルカ・アーデだ。
リリが瓜生から、同意を得て手に入れた【豊穣角杯(コルヌコピア)】は劣化コピーとなった。瓜生の魂と直結したスキルだからだ。
魔法の形をとった。
魔力を消費するので、使用回数にも制限がある。マジックポーションがなければ、一日にアイオワ級一隻と一戦分の資材弾薬を〈出す〉のがせいぜいだ。
だが、それでも効果は大きい。
そして通信を支配し、膨大な情報を集めて現場近くで処理する……前線にいるフィンの補佐もしている。
リリが情報を整理し、最低限にまとめてフィンに送っているからこそ、フィンは最前線で戦いつつ指揮を執ることができている。
ちなみに、核兵器の使用には最低限【ヘスティア・ファミリア】【ロキ・ファミリア】【ガネーシャ・ファミリア】、神ヘファイストスとウラヌス全員許可が必要としている。
あまりにも危険すぎるからだ。
だがそのすべて、『隻眼の黒竜』の名を聞いた時点で即座に承知した。
【フレイヤ・ファミリア】は、近代技術ではなく豊富な第一級冒険者の脚と目で情報を集めていた。膨大な近代兵器すら通用しない『隻眼の黒竜』の脅威は明らかだった。
同時に近代兵器自体の威力も、かなり正確につかみつつある。
『猛者(おうじゃ)』オッタルは充実していた。
(やっと、また挑戦者になれた……)
のだ。
長かった、頂点の孤独。
『剣姫』アイズ・ヴァレンシュタインの成長も見た。だがそれでも、あまりにも差は大きかった。
だが、【ヘスティア・ファミリア】に加入した武威、ソロ、ビーツ。
武威は最初から、パワーだけなら何桁かわからぬぐらい自分より強い。
ソロは経験も、戦闘力も同等かかなり上。
ビーツ。あっというまに、少なくとも腕相撲とかけっこでは彼方に引き離された。桁外れの才能は、一日でそこらの天才が数年努力するほどに技も高めていく。
ベル・クラネル。目の当たりにした、長文詠唱の一撃が決まれば……限りなく不可能だが……自分を殺せる。それができる者すらリヴェリアぐらいだった。長いこと。
レベル7に至ったフィン・リヴェリア・ガレスも、まとまれば何とか自分を倒せるかもしれない。
そして地上にいても感じた、地の底でフィンたちが起こした爆発。それも密閉空間の至近距離なら自分を殺せるだろう……。似た爆発を、アレン・フローメルが報告した。
『豊穣の女主人』を攻撃された報復に襲った、人工迷宮の敵……レヴィスも撤退が早かったが、かなり自分に迫る力があった。実は『穢れた精霊』が寄生した超怪物もひとり斃している。
アステリオスも万全なら、少なくとも腕相撲では勝負になる。魔石を食い、修行を積めばもっともっと成長できる可能性もある。
さらに、この黒竜の眷属たち。
腕相撲では自分に勝る敵が、何万も。
それほどの喜びもない。
ずっと昔のように、絶対に勝てない圧倒的に強い先達たちに食い下がろうと血を吐き、唾を吐かれ顔を踏みにじられ、唇を噛みちぎり涙をこらえ眠れぬ夜を素振りで明かす日々に、また戻れた。
また土を、床を味わうことができるのだ。眷属たちが自分の足下でそうしているように。
アイズとビーツのカチコミ以来【フレイヤ・ファミリア】は瓜生やリリルカ・アーデと秘密裏に交渉し、武威やソロと修行をしている。
オッタルが武威を相手にするときは、半分以上は武威が修行している柔の技に、最高速の自分の攻撃を流させる修行。
それから、『戦闘遊戯』と同様に柔の技を崩す、技重視での模擬戦闘。それなら無理に気を制御している武威も高いダメージを負う。
最後に、力技の一発……オッタルが確実に全身複雑骨折の瀕死となる。
ソロとの修行は、オッタルも完全に実力を出し尽くす。互角かそれ以上の強者、勝敗を数えることもなくすべてをぶつけ合う。
また、何度か瓜生に頼み、30ミリガトリングと57ミリ・76ミリ艦砲の嵐を受けかわしてみたこともある。一度はアイオワ級の40センチ主砲18発を浴びてみたこともある。
まだまだ上がある。まだまだ強くなれる。
そして今、これまで挑戦を避けていた桁外れの敵と、否応なしに戦わねばならない……
核砲撃が終わり、助けられるだけの『テルスキュラ』のアマゾネスを乗せた艦隊はメレンに引き返していく。
飛行艇も順次引き返し、交代して敵を偵察し続ける。
黒い雨が降っている。キノコ雲が崩れ、上昇気流が冷えて雨を降らせている。
黒い雨。膨大な放射能を帯びた雨。大地を汚し、怪物も冒しているはずだ。
だが、黒い怪物は黒い雨を浴び、黒い川をうまそうに飲み干している。
黒い衣の下では、普通の『穢れた精霊』とは違う何かが狂い笑っている。
ひたすら、オラリオに……母なるダンジョンに向けて走っている。
黒い雨、黒い沼もものともせずに。
オラリオの近くに、いくつか大規模な貯水池が掘られている。瓜生の出したショベルカー・ブルドーザー・ダンプカーの力で。
ひたすら長い長方形で、浅い。
普段はアゾラなどを育てている。
だが氷雪系魔法使いが凍らせれば、即座に滑走路になる。
B-1ランサー爆撃機とF-15Eストライクイーグルが次々と飛び立った。
多くは地中貫通爆弾を積んでいる……急降下爆撃、『黒竜』に直撃させる。
MOP、GBU-57A大型貫通爆弾。
そしてB61核爆弾。
【ミアハ・ファミリア】の新しい本拠となった研究所で、カサンドラが激しくうなされている。
相棒のダフネが起こそうとし、主神のミアハが覚醒薬を作っても、アンモニア水を嗅がせても起きない。ひたすらうなされている。
「どんな呪いなのだ……」
と、薬神の美しい顔が汗にまみれる。
今更になって思いついた、瓜生の能力とアスフィを使う黒竜軍攻略法…
そっちのほうが放射能の害はなかったかも。下手すりゃ破局噴火や大震災のリスクもありますが。
それを今後使えるかどうかはわかりません。