ダンジョンに近代兵器を持ちこむのは間違っているだろうか   作:ケット

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大軍と弾雨

 空の偵察網。ラキア捕虜を中心に、オラリオに近い港町(メレン)がある巨大汽水湖から飛行艇が運用されていた。

 また、比較的最近だが、貯水池を滑走路としたジェット戦闘機・爆撃機も運用が始まった。

 ラキア戦争や人工迷宮探索のために、【ロキ・ファミリア】は大型無人機の運用も始めていた。それはオラリオ周辺の地図作成、農業・衛星都市・交通網開発にもつながっている。

 その高い目が、テルスキュラの近くを通りつつある敵主力とは別の敵をつかんだ。

 遠い砂漠から、別の道を通る。異端児(ゼノス)の国を通ってオラリオに向かうルートを通っている。

 それほど強そうではないが、とにかく信じられない数だ。

 10メートル近いアロサウルスに似た黒い俊足、瓜生の故郷の原生最大種より何倍も大きい巨大トカゲ、100メートルに迫る多頭巨蛇(ヤマタノオロチ)など。スピードも自動車並みに速い。

 迷宮都市(オラリオ)の支配者……『ギルド』と【ガネーシャ・ファミリア】、二大巨頭【ロキ】【フレイヤ】両ファミリアはそちらにも救援を送ると決めた。

 

 オラリオには新しく、元【アレス・ファミリア】であるラキア捕虜3万人という戦力もあった。

 オラリオ周辺の広大な未開地を開発している。

 広大で豊かな農地。水路。十万以上の収容力がある衛星都市。

 鉄道や道路もまず港町(メレン)=オラリオ間、さらに近隣都市に単線からつながりつつある。

 ラキア捕虜たちは、最大でレベル3だが冒険者である。

 それがブルドーザーを使いこなしている。ショベルカーを学んでいる。トラックを運転し修理できる。

 飛行艇の扱いを学んでいる。

 それに、トラックによって動くいくつかの兵器が加わったのだ。

 人数が多い【ガネーシャ・ファミリア】も短期間の訓練で加わる。

 異端児(ゼノス)たちも桁外れの知能と体力で、瓜生にもらった兵器を使いこなしていた。工業も学び、それを戦場での修理や運搬に応用した。

 まず異端児の国を守る、国境のCIWS帯。さらにそれを援護する多数の重砲。

 竜女のウィーネも、翼ある相棒たちとともに大型機関砲と無反動砲を抱いて飛び回り、近距離から敵に猛撃をぶちこむ。

 

 膨大な数の軍用悪路トラックが弾薬などを積み、火砲を牽引する。

 牽引できる155ミリ榴弾砲と120ミリ迫撃砲。ひとつの陣に榴弾砲は2、迫撃砲は3。レベル1でも、もっとも力持ちの兵を大幅に上回る冒険者、人数は規定より少なくていい。

 射程が長く無数の子弾で制圧する多連装ロケット、MLRSと違いトラックの延長で学習運用コストが低いHIMARSもある。

 陣地防衛用に、20ミリガトリング=バルカン砲を用いる牽引対空砲が3基。

 バルカン砲にはいくつか欠点がある……発射開始から回転が乗るまでごく短時間の連射能力が低い。弾薬そのものも同じ20ミリでより強力なものはある。部品点数が多いため故障リスクが高く、動力と電気=エンジン・燃料・発電変電機も必要だ。

 だが航空機機関砲がベースであり、膨大な数の弾薬を一度に供給できる。クリップで数発を装填するのを繰り返す地上・艦船用の機関砲は、信頼性は高くても多数の人手が必要だ。

 地上用で抑えられてはいるが毎分3000発、なにより膨大な弾数をひとりでぶちこめる。ガトリングやチェーンガンは弾が不発でもそれで連射が止まることはない。飛んでいる戦闘機の翼にある機関砲を修理したり不発弾を手で排出したりするのは不可能。

 12.7ミリ重機関銃も護身用に、全員に配られている。

 特に強い敵に備え、対戦車ミサイルと対戦車ロケットも配備されている。

 陣ごと素早く移動でき、近づくものすべてを粉砕し、地雷と鉄条網と矢板と泥濠で防護された陣を作る。

 道路と鉄道で大量の物資を常に運ぶ。

 さんざんやってきた道路や農地の工事の経験がそのまま活用される。

 どんな怪物も近づけない。半径20キロ、延長ロケットがついた弾で30キロを完全に支配する。HIMARSは大型の地対地ミサイルを選べば、120キロ以上の長射程もある。

 その陣が数キロおきに据えられている。長さは東京~浜松間に匹敵する死の帯、そのどこであっても3つ以上の砲陣から集中砲撃をぶちこまれる。

 

 特に強い敵は、【ロキ・ファミリア】【ヘファイストス・ファミリア】の戦車隊が突進し、遠距離から120ミリ主砲を精密に叩きこむ。重武装の自走式対空砲が随伴し、敵の反撃を待ち伏せが得意なSタンクがずたずたにし、歩兵戦闘車が戦いながら大量の弾薬を運搬する。

 Sタンクは一人で操縦できるが、砲塔と車体が一体でありすばやく左右に振り向いて射撃することはできない。

 それを補うのが、あえて人数を一人増やして、ハッチから身を乗り出してTOW携行対戦車ミサイル、カールグスタフ歩兵用無反動砲などを使い分けて叩きこむ戦法だ。

 メルカバを多数運用することも含めると、どうしても人数が必要になり、本格的にレベル2や1も訓練して戦線に回すことになる。

 

 上空は飛行艇や偵察機、無人機が遊弋し、情報を地上に送信している。

 A-10攻撃機も爆弾と30ミリの雨を降らせる。

 敵が陣を狙えば地雷が爆発し、鉄条網と泥沼に阻まれている間に迫撃砲と機関砲とロケット弾、対戦車ミサイルが飛んでくる。

 

 さらに地域によってははるか遠くの港町そばからアイオワ級戦艦の40センチ砲、瓜生がいる本陣からの短距離弾道ミサイルが飛んでくる。

 戦艦を運営するには本来膨大な人数がいるが、航海を考えなくていい。料理や医者、書類書きはいなくていい。ひたすら巨大な艦砲を撃ち、トマホークミサイルを撃つだけだ。

 

 決して突破させない。

 

 ちなみにこれは、【ヘファイストス・ファミリア】にとっては屈辱だった。

 この戦いまでに、実戦で使えるほど信頼できる、適切な速射砲を大量に作ることができなかったのだ。

 いや、既存の適した機関砲を牽引できるタイヤつき砲架すら、必要とされる数作れなかった。

 多連装のチェーンガンやリボルバーカノン。新規設計の37ミリ機関砲。

 間に合わなかった。

 過酷な戦場での使用に耐える、故障しない、命を預けられる信頼性。

 安価で容易に修理できる構造の単純さ。極限環境、夜間や濃霧、激しい疲労や負傷があっても間違えずに部品交換が可能なほどの設計。

 圧倒的な数を作る工場、素材入手・製錬の能力。

 どれも足りなかった。

 悔しさに椿もヴェルフも、全員が絶叫した。そして戦車と戦闘機を短時間で覚え、地味な整備で油と泥、アスファルトや砂にまみれた。

【ヘスティア・ファミリア】の新入生などは、その衣食住を支えた。温かい食事や茶、トイレ、風呂、寝床。すべてが温かく清潔な屋根のある施設の下で。それがあるからこそ戦える。未熟ゆえに戦いに出られない、前線に行けない悔しさをそちらにぶつけた。

 

 前線では、無人に近い広大な荒れ地やいくつかの森を舞台に、無数の爆発が起きている。

 何千という黒いヘビやトカゲが集まり固まって突き進もうとする、その真ん中に奇妙な半球、爆発が出現する。その半球は瞬時に崩れ、巨大な炎煙に変わって立ち昇る。

 周辺は爆風に吹き飛ばされ、無数の破片で切り刻まれた怪物が多数もがき、もがきながら前進しようとし続ける。地面には小さいクレーターが残り、地勢によっては泥壺となって足を阻む。

 空を飛行機が飛びすぎると、ナパーム弾の黒炎が、テルミット弾や白リン弾の白炎が地面を覆う。

 マベリックミサイルの、精密に誘導される成形炸薬弾頭はまさに一撃必殺。

 A-10の30ミリ機銃が咆哮すると、巨大な剣で斬りつけたように死のミシン目が生じる。

 ロケット弾が空中で炸裂すると多数の子弾がまき散らされ、すべてが爆発して自己鍛造弾の雨が銃弾以上の速度で降る。

 地獄。爆発そのものが至近距離では、鋼の槍も通らぬ黒い鱗皮を引き裂き中の骨肉内臓を潰す。飛び散る破片、銃弾の何倍もの速度で飛ぶねじれた鋼の断片は鱗の隙間に潜りこみ、体内で暴れ内臓を切り刻む。

 こちらの軍勢も、それこそ瓜生以前の【ロキ・ファミリア】全軍でも確実に潰されていた数と強さだ。超巨大蛇は一匹でも、レベル5が複数いてもまず勝てないほど強い。

 それでも120ミリ迫撃砲弾の至近弾には致命傷を負うのだ。

 

 巨大すぎるワニが、155ミリ榴弾の至近弾に大きく揺れ、脇腹を破られながら暴れ続ける。はるか遠くから120ミリ戦車砲がその傷口を貫通し、タングステンの太矢が体内を暴れ狂い口から飛び出す。

 いくつもの首がある超巨大蛇が弾幕を抜け陣に迫る。20ミリバルカンが瞬時に数百発叩きつけ、黒い巨体が切り刻まれもがき苦しむ。そこに空を飛び過ぎた広い翼、直後30ミリ機関砲とマベリックミサイルが列車より太い胴体を両断する。

 戦士たちは、戦いとはまったく違う作業をする。ひたすら計算し、装填し、発射し、修理し、運び、運転し、地面をならし、道路を作る。食べる、飲む、出す。

(これが戦い……)

 とは信じられないが、間違いなくはるか遠く、冒険者の視力が見る遠くの斜面で多くの巨大な怪物が両断され、貫通され、骸となっているのだ。

 

 異端児たちはせっかく手に入れた故郷を守るために。

 今は農作物の芽が緑になり、苦労して掘った水路をせせらぎが流れる。豊かな鉱山から得た鉱物を教科書をめくりながら分析し、砕き、溶かし、金属を取り出す……故郷を壊さないように、環境汚染についての教科書も事前に読み、煙も廃水も絶対逃すまいと細心の注意を払って。

 今は実験室規模だが、近く工場の規模に。人間とも交易できるという夢を抱いて。

 今は瓜生由来の素材を、鍛冶の技術で打つ。

 そしてダンジョンに向けてトンネルも掘る。

 憧れた空を見上げ、太陽の光を浴びて。自分たちの国。自分たちの田畑。自分たちの工場。自分たちの故郷。

 そのためなら、命など軽い。まして泥に埋まった巨大榴弾砲を引き抜き、迫撃砲の弾道計算を覚え、危険を冒して不発弾を取り出し運んで爆破するなど、軽い。

 

 ラキアの捕虜たち、数万の将兵……【アレス・ファミリア】の人々は、もう故郷を思う心は振り切りつつある。

 故郷より圧倒的に豊かな暮らし。食べ放題、飲み放題、美しい売春婦も多数。

 異端児に関する戦いでは空を飛び、いくつもの国にラキアの旗を立てた。勝利欲も満たされた。

 家族を呼び寄せる者も多くなっている。

 そして次々と新しいことを学び、豊かな田畑を切り開いた。それを守るためなら、戦える。

 

 その両者に負けじと、オラリオを故郷とする冒険者たちも奮い立ち、必死で砲やキャタピラ車、大型トラックを学んだ。

 故郷を守るため、ひたすら戦い続ける。

 といっても、とにかく多数の機械を途切れなく動かし、移動し、故障した時慌てずに対応するだけだ。決して近づかない戦い。敵がたまたま近づいても、バルカン砲と重機関銃で挽肉にするだけの戦い。

 

 

 そちらの侵攻を止めた、だが本隊はテルスキュラのほうからオラリオを目指している。

 核兵器ですら止められなかった悪夢……桁外れの魔法を行使する『穢れた精霊』と、フィンやリヴェリアはとらえている。

 地形を選び、戦車隊と第一級冒険者が待ち構える。

【フレイヤ・ファミリア】も加わっている。

 黒竜討伐という栄光を目指して。

 より強大な敵との戦いを求めて。

 より強くなるために。

 復讐のために。失ったものを取り戻すために。

 先に空を戦闘爆撃機が舞う。

 もう一度、今度は着発設定の水爆と、地中貫通爆弾。これ以上オラリオに近づかれてはオラリオ自体、またいくつかの周辺国にも放射能汚染がある。今はまだ、上空の大きな風が汚染物質を砂漠や大海に流し去ってくれるが……

 

 

 アイズ・ヴァレンシュタイン、ベート・ローガ、アナキティ・オータムらがF-15Eストライクイーグルで飛び立った。

「一秒でも早く戦いたいのなら、一日で学んでみろ。ここから走るよりずっと速いぞ」

 瓜生に言われ、すさまじい集中力でシミュレーターをこなし、実機の訓練をこなし切った。第一級冒険者のすさまじい視力と運動神経、バランス感覚はそちら側にも働いた……何百時間もの訓練が必要な超音速戦闘攻撃機の操縦を短時間でマスターした。

 たとえ超音速で、何十トンもの燃料油を背負って地面に激突しても生き延びられる耐久もある。

 地中貫通爆弾。至近距離から直撃させる……

(ほぼ特攻じゃないか……)

 と瓜生が嘆息するような危険ミッション。

 それがダメなら……

 ベル・クラネルたちは飛行艇で、敵本隊を迎え撃てそうな岩場の前に着地した。

 ソロが『ふくろ』から出したショベルカーで深い穴を掘る。近くで水爆が爆発しても耐えられるように。

 ベルはひたすら、アイズの無事を祈っていた。近代兵器を学ばないことを選んだ自分の甘さを後悔し、そのことをソロに指摘されて、

(自分にできること……)

 をする覚悟を決めた。

 

 マッハ2近く。すさまじい速度で、地中貫通核爆弾を抱えたままアフターバーナーを吹かす。

 巨大すぎる黒い巨体が、みるみる大きくなる。目に見える地形が急激に変わる。

 桁外れの速度。桁外れのパワー。桁外れの怒り。桁外れの恨み。

 そのアイズが、何を見たのか……

 

 

 ちょうどその時、カサンドラが目を開いた。




「現実」の機関砲・重機関銃はおそろしいほど新作が出ない世界です。

ただ、ブッシュマスターシリーズ……M2ブラッドレー歩兵戦闘車の主砲である25ミリチェーンガン機関砲に、30・35・40とファミリーがあるのですが、それも目立ちません。

特に朝鮮戦争の戦訓を考えると、とにかく多数の火砲が必要なのに。
とにかく圧倒的な短時間で、悪い地形に大量の、多数の火砲。

信頼性が高く、単純で、生産性が高い。できれば連射が高い。
外部動力の方が信頼性は高い。
105ミリ榴弾砲や76ミリの機関砲水準の速射砲などがあれば戦線維持には最適でしょう。

この作品の事情を考えると、外部動力で、単純で、連射が高く、貫通力が高い。ガトリングは欠点が多い……発射開始からわずかな時間、回転が加速する間、連射力が低い。その千分の一秒が致命傷になりかねない。

25ミリ程度の、現存より超高初速、チェーンガンを多連装。
リボルバーカノン多連装の牽引でもいい。

今回は、準備期間が短いから現地工業力がまだ大量生産には至っていない、だから現実に存在するものから妥協を重ねました。
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