ダンジョンに近代兵器を持ちこむのは間違っているだろうか   作:ケット

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狂乱

 F-15Eストライクイーグル。第4世代最強戦闘機の攻撃機版、機動性もマッハ2を超える高速もそのままだ。爆弾搭載量はB-29をしのぐ。

 その視野の広いキャノピーから、アイズ・ヴァレンシュタインは地獄を見ていた。

 巨大な恨みに狂いながら、戦士としての理性が見ている。

 巨大すぎる黒竜。それが、膨大な短距離弾道ミサイルや砲弾、精密誘導爆弾の攻撃に耐えている。

 十キロ以上離れたところで155ミリ榴弾砲とロケット弾の砲列が猛火を放ち、敵の進路を潰し続けている。それ以上に離れたオラリオ近郊から、瓜生を中心としたチームが短距離弾道ミサイルを大量に発射している。

 海からは射程外だが、25キロ離れた深い池に1隻のアイオワ級を出し、乗員もそちらに移って連射している。砲身を氷雪魔法で冷やしながら。

 何百キロもの高性能爆薬。サーモバリック弾。はるか上空から放たれる、B-1ランサー爆撃機の精密誘導爆弾と超高温焼夷弾。

 GPS、衛星がないという不利はあるが、それでも知識ファミリアが知恵を絞りプログラムを組み、上級冒険者の超絶な目・知能・器用で精密誘導を実現している。

 近距離ではすべてを破壊するはずの、高性能爆薬の衝撃波。やや離れても恐ろしい爆風と破片が飛ぶ。

 数千度で燃えるアルミニウムやマグネシウムの超高温。

 三角測量された敵に山越えに刺さる、40センチ艦砲の正確な直撃。

 そしてB-1を駆るリヴェリアが、操縦しながら放つ第3段階の極大攻撃魔法。それもまた核兵器のようなすさまじい破壊をもたらしている。

 すべてが、超巨大な……列車より、大型タンカーより、大型ビルより巨大な黒い竜の、黒く輝く魔文字に守られた鱗に阻まれる。

 ビルをも吹き飛ばし、大地をえぐりクレーターを作る爆風にも、こゆるぎもしない。重巡の装甲を貫く徹甲榴弾もはじき返す。

 その後ろに従う千を越えるモンスターも、資材を守る防水布のように広がる防護魔法に守られている。

 だが……直撃させる。分厚いコンクリートを貫通するメガトン級水爆を。マッハ2、いや風の魔法を用い瞬間的にはマッハ4近くで。

 ベート・ローガやアナキティ・オータムも彼女の風を借り、超低空を一気に加速している。

 巨木をぎりぎりでかわす。地表近くの異常気流を滑るようにいなす。

 鉄塊に覆われた谷の上の気流をかわす。ほんの一瞬、フィンやベル、オッタルの顔を見る。最上の冒険者を集め、爆発をよけるため鉄塊の下を深く掘って固め、最終防衛線としているのだ。

 アイズがアフターバーナーを入れる。同時に超短文詠唱、「【目覚めよ(テンペスト)】」。

 魔力の風が、F-15E全体を覆う。すべての気流を整える。可変翼機のように、いやこの速度と高度のために設計された飛行機のようになる。エンジンからは桁外れの炎が、それも酸素が供給されて完全燃焼を起こし設計以上の効率で猛り吠える。すさまじい力で巨体を押す。

 追加詠唱。

 アイズの身体がシートに食い込む。危険な音がする。F-15の設計限界を超える加速。

 後部座席のナルヴィの指が爆撃トリガーにかかる。短い、だが膨大な回数の訓練。爆弾解放の手順が素早く入力される。B-29をしのぐ搭載量、それでも多くを占める2発の地中貫通水爆の信管に信号が流れこむ。必死で標的を見つめつつ、アイズの命令を待つ……時間が引き延ばされる。

 マッハ3から4へ、さらに激しい加速。機首が、垂直尾翼が、エンジンノズルが溶けはじめる。空力を風の魔法が補う。

 そのとき。アイズの、第一級冒険者の目は見た。

 黒竜の潰された片目、その代わりに埋まっている美女の顔。吐き気を催す光景。

 通信を打った。絶叫、

(人が出したとは思われぬ……)

 ほどの。

 母を叫ぶ。繰り返し。

 風が歪み、吹き荒れた。

「アイズさん!」

 ナルヴィが悲鳴を上げる。一瞬で巨大戦闘機が制御を失う。後方のベートとアナキティの機体も。

 横に一回転。腹を見せ、尾が前に出る。さらに横回転。

 

「操縦!」

 ベートが後部座席のリーネに叫び、シートベルトとキャノピーを一挙動で切り裂き飛び出した。強烈な空気に叩かれて後ろに銃弾より速く飛び、双剣の一方を抜いて垂直尾翼を斬りしがみつく。

 高空を舞うB-1のリヴェリアも異常を知る。

 追随するアナキティは危険を避け、全力で機を傾けて真横に加速し逃れた。一気に急上昇、また失速から強引に立て直し、アフターバーナーを吹かす。

 翻弄されるアイズ機のキャノピーが破れ、黒い竜巻が飛び出す。

 

 

 防衛線。

 深い谷底、特に狭い部分の上を巨大な鋼で分厚く覆ってシェルターとしている。

 近くで水爆が炸裂しても、兵器も兵員も失わない。

 谷底の、すぐに地上に出られる部分には6両のメルカバと、ナメル30ミリ・SIDAM 25・Sタンクが各5両。その上を少しでも覆うよう、強大な力を持つ第一級冒険者が巨大な鉄骨と鋼板で仮の屋根を組んでいる。

 谷の味方側には大型の対空砲も多数準備されている。

 谷の中の広い部分には離脱用の大型ヘリコプターもある。

【ロキ・ファミリア】【ヘファイストス・ファミリア】【ヘスティア・ファミリア】共同の、事実上の最終防衛線。

 その隣を【フレイヤ・ファミリア】が守ることは合意できている。

 通信機のそばで、フィン・ディムナが必死で情報を集めている。フェルズが作った通信魔道具も用いている。

 オラリオ近くの中心基地を拠点としている瓜生。つい一時間前まで、近くの湖に戦艦を出し、つなげられた輸送艦に莫大な量の砲弾を準備して拠点に戻ったところだ。

 艦隊を指揮しているリリルカ・アーデ。大量のハイ・マジックポーションを飲みながら、テルスキュラの膨大な人々のために巨大客船と医薬品を、また避難援護のため戦艦の砲弾を〈出し〉続けている。

 異端児(ゼノス)国近くに展開している【ガネーシャ・ファミリア】と異端児の連合軍。

 メレンから主に飛行艇で活動している【アレス・ファミリア】マリウスたち。

 B-1ランサー爆撃機から最前線で爆撃と偵察の双方をこなし、間断なく往復しているリヴェリアとアリシア。

 ソロは瞬間移動呪文の高速と、物資を大量に収納できる『ふくろ』であちこちの味方の陣を動き回り、時には剣・攻撃魔法・回復魔法で助けてもいる。

 大量の情報が入る。処理し、指示する。

 わずかな時間、訓練は積んできた……レベル7のガレス・ランドロックと6の椿・コルブランド、レベル6が2人のアマゾネス姉妹が、それぞれ3両の主力戦車と行動する。主力戦車の複数の主砲を、大型手持ち改造機関砲を持った第一級冒険者が活用する戦法。

 武威・ソロ・ビーツ・ベルの前衛と、レフィーヤと春姫をトグが守る後衛の隊もある。自分はこの全体を動かす。

 テルスキュラから、傷を癒したレベル6がふたり加わっている。新しい戦法には慣れていないため、使い道が難しい。ついでにティオネと激しく言い争っているのも負担になる。

 やっと、機を立て直したアナキティから連絡。

 低空高速爆撃は失敗、アイズとベートは機体から飛び出し、黒竜軍と交戦を始めている……

 

 フィンが冷静に会話している通信から、わずかに「アイズ」の声が漏れる。切迫感も……フィンは沈着を保っているが。

 ベルはただ、激しい感情を封じ込めて刀を抱いていた。

「戦う瞬間まで体力を節約しろ」

 ソロの言葉。

 激しい、激しすぎる戦いの生涯を送り、魔王を殺した真の勇者の言葉。彼の深い深い悲しみも伝わる。

 祖父の死も思い出す。知らせを受け取ることしかできなかった。

 ソロの背中は、似た、いやもっとすさまじい悲嘆を経験していることを雄弁に伝えていた。

 ただ体力を節約し、必要な時だけに爆発させる……それしかできることはない。

 自分には剣しかない。

 飛び出したい。走りたい。

 

 ソロは、傍らの少年を横目で見ている。

 痛いほどわかるなどというものではない。

 倉庫に閉じ込められ、家族の、村人の、シンシアの死を聞くしかなかった……その痛みをよく知っている。祖父を失ったという痛み。そして今、ベルの愛する女が死地にあるという……

 桁外れの戦いの経験が、かろうじて体を止めている。

 ベルに、間違いなく英雄の資質があることはわかる。だがそれが、自分のような悲しいものとならないことを強く祈っている。祈る相手もなく……マスタードラゴンは、父の仇でもあるのだ。

 

 ビーツは数分に一度、パックされた大きいチョコパンを開けては口に詰めている。

 絶対にガス欠にだけはならないように。

 そしてひたすらイメージトレーニングを続けている。

 何度もの敗北を思い出している。特にオッタル……長年最強でいながら、誰よりも、弱い自分が何倍も強い相手に勝つための技を磨きぬいていた。

 そのすべての技を思い出し、無数の応用を想像し、心身に焼きつける。

 じっと戦いを待ちながら、ひたすら技を高めている。

 

 緊張に押しつぶされそうなトグとレフィーヤ、そして春姫。

 春姫こそ、ここでは桁外れに弱いレベル2……水爆の爆風がちょっと変だったら死にかねない。だからこそトグは、彼女を守らなければならない。レフィーヤも。

 レフィーヤこそ、ベルとともにアイズのところに飛んでいきたい。

 戦闘機側にいなかったことを激しく後悔している。

 

 

 どこをどうやったものか……ベート・ローガが超音速の領域も身体で知る超人だからこそできた神業だ。超音速の激風、その中での巨大戦闘機の挙動を完全に理解し支配した。

 リーネが駆るベート機は、ベートが垂直尾翼の一方を切り落した結果墜落を免れ、背面飛行で暴風から離脱した。

 ベートはほんの一瞬、ナルヴィが残されたアイズ機に飛び移って最低限の操作をし、ナルヴィを操縦席に引きずり入れてもう一度操縦桿に別の命令をした……激しくきりもみしながら急上昇。直後ベートは飛び出す。呪文を詠唱しながら。

 アナキティは大きく旋回し、翻弄される2機の戦闘機に近づいて、つるまきバネの軌道で上昇した。リーネもナルヴィも必死でぼろぼろの戦闘攻撃機を操縦し、その後ろに従っている……それでやっと機体制御を取り戻す。

 ベートは超音速の衝撃波に全身を殴られつつ、魔法を歌い続ける。『剣姫』のところに走り続ける。

「【戒められし悪狼の王……」

 長文詠唱。その詠唱文には、ベート自身の弱さが刻まれている。向き合いたくない弱さに。だから彼は魔法を使いたがらない。59階層で瀕死であっても。よほどのことがなければ使わない。

 マッハ3の風の剣波に、それ以上に荒れ狂う黒い風に全身を刻まれる。

 母を呼ばわる、狂ったアイズの絶叫が轟く。

 黒竜の咆哮がすべてを殴り倒す。

 ベートのスキル……速いほど強い。

 風を蹴って前に出る。不壊属性の双剣も納めて。

「平らげろ……ハティ】」

 長文詠唱が完成する。即死ものの傷、それ自体が強さに変わる。

 桁外れの魔力で荒れ狂う黒い竜巻。それに、炎を帯びた両手を突っこむ。

 デスペラードを抜き放ち、人とは思えぬ狂怒を顔面としたアイズ……触れられるはずはない、鋼鉄の棒でもその周囲を狂う黒風が粉末にするだろう。

 だが、ベートの手足の魔炎は黒風を吸う。どんな魔力でも吸収する……ベートの両足を固めていた、もう衝撃波に砕けている、椿作の魔力吸収型メタルブーツ『フロストヴィルト』は、魔法の劣化コピーに過ぎない。

「なにやってやがる!」

 叫びとともに、ベートの拳がアイズの頬にめりこむ。

 同時に蹴りが、巨大すぎる黒竜の頬を蹴飛ばす。魔力吸収……原爆にすら耐えた防御・肉体強化魔法そのものを吸う。

 アイズの怒りは、狂気は膨大な魔力を吸われても、何年も隣で戦った戦友の鉄拳を受けても戻ってはいない。

 

 

 跳ね起きたカサンドラは、必死で訴えた……だが、決して耳を貸してもらえない。彼女の予言は誰にも信じてもらえない呪いがかかっている。

 ベル・クラネルのところへ。最前線、危険を通り越した地獄に。

 必死で訴える彼女の姿に、ついにダフネとナァーザが、そしてミアハが動いた。

 救援のためにという名目で、ナメル重装甲車が戦場に飛び出す。

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