ダンジョンに近代兵器を持ちこむのは間違っているだろうか   作:ケット

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友のために

 最終防衛線として敵を待ち構えていたフィンたちは、通信を受けて救援を決めた。

 無茶な方法での、最速。前線で爆撃と偵察をしていたリヴェリアのB-1ランサー爆撃機を利用する。

 飛んでいるジェット機に飛び乗る。

 これは、レベル2の春姫は加われない。きわめて大きな不利だ。戦車も持って行けない、戦車隊は別に動かす。

 フィンは少し離れたところにいる【フレイヤ・ファミリア】にも状況を告げた。信頼し、挑発した……

「ぶっつけで飛び乗れるか?」

 と。

 

 

 ごくわずかな時間、轟音が響く。鎧を脱ぐのが精いっぱいなほどの短時間、10キロ以上離れているのに。

 巨大な飛行機が降下し、失速ギリギリの低速で超低空を飛ぶ。可変翼を全開に開いている。

 谷から出た冒険者たち。鎧を脱ぎ、装備はソロの『ふくろ』に入れて身軽になっている。

 フィン・ディムナ、ガレス・ランドロック、アマゾネス姉妹、ラウル、レフィーヤ。アルガナ、バーチェ。椿・コルブランド。ベル、ビーツ、武威、ソロ、リュー・リオン、トグ。オッタル、アレン・フローメル、ヘグニ、ヘディン、ガリバー兄弟。

「ワンチャンス」

 フィンの言葉に、全員がうなずく。

 レベルに劣るレフィーヤは春姫の魔法で一時ランクアップし、身体能力を上げている。

 可変翼が閉じる。鶴のような美しい機体が、ぐっと細くなる……かわりに低速での運動性が極端に変わる。

 谷の広いところに、失速も利用して舞い入る。谷風で強引に安定させる。そこに、谷ぎわの高いところから冒険者たちが跳んだ。

 可変翼・フラップ・エンジンの後ろなどを避けろ、など言うまでもない。そんな愚か者はここには立たせない。冒険者の目でしっかりと爆撃機の構造を理解している。

 とんでもない距離を飛んだ人が何人も、巨大な機体の可変翼を避けた背に着地し、しがみつく。

 谷から出て、出力を上げながら翼を広げる爆撃機。4発のエンジンが炎を上げる。加速。すさまじい風圧に、冒険者たちは目をむき、滑る機体にすさまじい力でしがみつく。

 妙な荷物で空気抵抗が乱れる巨大機の制御にリヴェリアも苦労する。大きく旋回し、『隻眼の黒竜』に……そしてエルフの副操縦士に操縦を委譲し帰還を命令、リヴェリアも飛び下りる準備をする。

 ほんの数分。山より大きな巨体のところに……

 ゴウン、ゴウンン、ゴウン。

 大鐘音がベルから響く。

 黄金の光が、巨大な鐘の音とともにこぼれ、飛行機雲をかすかに彩る。

 レフィーヤとリューも並行詠唱を唱えている。

 ほんの数分。わずかな時間。

 ソロが『マホステ』を唱え、何人も魔法無効状態にする。

 フィンが手を放して機体を蹴って飛び、空中に閃光手榴弾を投げる。

 閃光を合図に、全員が跳ぶ。

 

 

 皮肉にも、アイズの狂乱こそがアイズとベート、ひいてはリーネとナルヴィも守っていた。狂ってはいるが、圧倒的に強いのだ。黒い暴風は桁外れに強い怪物を次々と吹き飛ばし、絶命させている。

 リーネとナルヴィが残されたF-15Eもかろうじて墜落は免れたが、すぐに不時着した。

 ふたりはF-15Eから20ミリバルカン砲を取り出し、鍛冶師たちが作った手持ち用にするアタッチメントを取りつけて抵抗を始める。

 リーネはベートのところに行きたいが、地獄を通り越していることはわかっている。

 襲ってきた、どれほど巨大かわからない、いくつ頭があるかわからない巨大黒ヒドラに、高レベル冒険者の腕力で爆弾を投げる。核ではない、不発でも攻撃できるよう予備に持ってきていた小型航空爆弾。それでも50キロ近い高性能爆薬が、ゼロ距離から巨大な黒毛玉を爆砕する。

 そのふたりのすぐ近くを、可変翼を広げたB-1が低速低空飛行で飛びすぎ、数十人の冒険者が飛び下りる。すぐに『ふくろ』からいくつかの塊が取り出されては元の大きさに戻る。リリの新魔法で縮小されていた牽引可能な大口径機関砲、そして【ヘファイストス・ファミリア】がまだ数基しか試作していない巨大固定砲台までが。

 まずリヴェリア・レフィーヤ・リューの並行詠唱大呪文が炸裂する。

 巨大な稲妻が宙を満たす。すべての武器・弾薬に、ベルの長文詠唱付与呪文が付与される。

 全員が全速で、『ふくろ』から取り出された自分の鎧を身に着け、膨大な雷電を帯びた武器を手にする。

 

 

 アナキティは唯一無事な機体で、空中から機銃支援に入る。

 フィンから指揮権限を受け取ったリリから、A-10の増援も指示される。

 遠距離砲撃・弾道ミサイルが絶えた。

 

 

 すさまじい速度の強襲。オッタル、ソロ、フィン、アレン、ベル、ビーツ……

 荒れ狂うアイズ、憧れの巻き起こす黒風に、それが戦っている桁外れの黒竜に挑みかかる。

 だが、そのベルも見た。そして一瞬で理解してしまった。レフィーヤも。

 黒竜の、失われた片目。その穴にいる美しすぎる女……『穢れた精霊』。それも、これまで見たものとは違う。

 アイズ・ヴァレンシュタインと瓜二つ。母親……

 狂乱するアイズ、それにベートがもう一度、炎に包まれた手を伸ばす。

 その瞬間、ソロの呪文が響く。『アストロン』

 一瞬でアイズが鉄の塊となり、動きを止める。その狂える表情は、雄弁に悲しみと怒りの巨大さを表現している。

 襲いかかる巨竜のあぎと、それにオッタルとアレンの強撃がまとめてぶちこまれた。強大な雷電が解放される。

「うわあああっ!」

 ベルも叫びとともに、刀を振り下ろす。

 ほとんどはヘファイストス自身が、それにヴェルフと椿が手を貸し、ほとんどオリハルコンで打ち上げられた定寸の名刀を。

「そ、そんな……」

 衝撃に凍りつくレフィーヤを、リヴェリアが叱咤し大呪文を連発する。

 ベート・ローガが崩れ落ちる、それをソロが『ベホマ』を唱え、すぐに後方のリーネのところに運んだ。

 黒竜はアイズの風が消えてすぐに大きく後退し、何十という眷属をぶつけてきた。どれも桁外れの強さ。

 それに後方から強烈な砲弾が飛び、その支援を受けながら冒険者たちが戦い始める。

 

 ややゆっくり歩む武威とビーツのところに、身長2.4メートルほどのリザードマン型が6体ほど襲う。

「こいつら、レベル7以上だ」

 アルガナとバーチェが息を呑んだ。

 ビーツがニヤッと口角を上げる。

 

 

 ナルヴィがついたのは、恐ろしい戦闘システム……地上の、固定できる戦艦と言うべきもの。ソロの『ふくろ』とリリの魔法により、巨大物資を遠くに輸送できるからこその品……車両搭載は不可能と言っていい。

 120ミリ戦車砲4基……日本の90式を利用、自動装填装置と高性能FCSがついている。A-10と同じGAU-8ガトリング30ミリ6基。

 すべてがひとつのFCSレーダーに統合され、自動旋回装置でひとつの標的に膨大な弾を叩きこみ、即座に次の標的に向き直る。ガトリングに徹すれば、流すように弾幕を張ることもできる。

 同じ照準装置で多連装ロケットも追加可能。

 その巨大重量が、地面に三脚で立つ……アダマンチウムやステライトをふんだんに使った、すさまじい頑丈さと大きさ。

 近距離接近阻止に徹した、瓜生の故郷でも誰も考えすらしないような桁外れの火力。

 それを作った側である椿、そしてリーネもそれを補助する。椿とリーネは、別にソロが『ふくろ』から出した30ミリガトリングを地上用に改造した代物も少し離して遠隔操作している。

 

 

 

 ナメル装甲車の最高速度で道なき道を走るカサンドラたち。黒竜の気配におびえ狂乱したブラッドサウルスなど地上モンスターが襲うこともあるが、30ミリ機関砲が余裕で潰す。

 ベルの救援、という話をどこで聞いたのか、奇妙な客が並走してきた。

 蛇の下半身を宙になびかせ、竜の翼で飛ぶウィーネと、その手にぶら下がっている巨体の牛人。ウィーネは重いが根性で飛んでいる。

 

 

 重厚な全身鎧。長い全金属棍。オッタルがついに、全力を解放した。魔法もスキルも全開にして……おそろしくバランスがいい、単騎で深層に行ける。

 逆に、襲い来る怪物……桁外れに巨大な多頭竜、高さがゾウ程度の長大なドラゴン、巨体の人間程度のリザードマンに似た存在、普通の人間に似たのっぺらぼうなど、どれもレベル7でやっと対処できるほどに強いということだ。

 主である黒竜、それと統合された奇妙な『穢れた精霊』の、桁外れの、神力水準の防御・身体強化魔法あってのことだが……原爆にすら耐えたほどの存在ばかりなのだ。

(バロールよりはるかに強い……)

 長い、長い最強という名の孤独。解放された挑戦者は、ひたすらに戦っている。そしてこの戦いは、オラリオで待つ愛する主神、女神フレイヤに捧げるものでもあるのだ。

 

 アレン・フローメルたち【フレイヤ・ファミリア】の最精鋭たちも、すさまじい力で、それでも必死でついていっている。あまりにも敵が強すぎる。どれもが、オッタルに匹敵するほどに強い。

 いつもオッタルに半殺し、いや99%殺しにされているからこそ、かろうじてついていっている。

 

 ふたりのレベル6エルフとレフィーヤがリヴェリアと固まり、強力な魔法を間断なく放つ。リヴェリアは30ミリガトリング地上用も操っている。

 

 ぬるり、ずるり。

 ビーツの胴体は、以前『暴蛮者(ヘイザー)』ディックス・ペルディックスはじめ何人もの上級冒険者を行動不能にし、レヴィスすら転がしたぬるぬる液のようだった。

 ビーツの腰より太い大蛇の首が4つ、超音速で往復する。ふたりの超速ボクサーが同時に殴り続けるように。猛毒の牙がなくてもバルカン砲、毎秒100発の20ミリ弾をしのぐだろう。

 それがすべて、胴体のわずかな身じろぎだけですべりそらされる。

 そして気がつくと彼女は敵の急所の近くに足を踏み入れ、軽く拳を当てている。

 効くとも思えない。155ミリ砲の至近弾にも、すぐ近くでの核爆発にすら耐えた存在だ。超絶な長文詠唱肉体強化呪文で、骨も筋肉も鱗もめちゃくちゃに強化されている。

 それが、崩れる。

 光弾として投げれば大都市を瓦礫にするほどのエネルギーを、大都市を複数養える電力を何兆電子ボルト(TeV)もの荷電粒子にする超巨大粒子加速器のように集約している。浸透波としている。

 膨大なエネルギーが、ダイヤモンドをしのぐ鱗の表面には傷もつけずに通り過ぎ、体内で荒れ狂う。

 ごく、軽く拳を触れた程度に見える動きで。

 当てる場所もしっかりと敵を見ている。敵の気の流れの急所に入れている。

 その動きも、別の世界では界王拳と言われる技術を精妙に用いている。必要な時だけ、必要な筋肉だけを強化し、必要なだけの速度で動いている。

「……」

 目立たない動き。だがとてつもない強さ。それは、レベル7以上にこそ見えた。

 

 ベルの刀は冴えを失っている。アイズの悲しみが深すぎる、どうしていいのかわからない。今は襲ってくる敵から仲間を守るため、必死で戦ってはいるが……

 その敵が強すぎる。オッタルやフィンと同等、いやそれ以上の強さがざらにいるのだ。

 

 フィンとガレスはそのベルを叱咤しながら、やや下がって戦い続ける。

 後方の巨大砲台から放たれる戦車砲を生かすために。

 訓練してきた、戦車と息を合わせる戦いと同じだ。

 敵の動きを止めて飛びのく、そこに膨大な弾が注ぎ、敵を少なくとも吹き飛ばす。

 その手にあるのは槍や斧ではなく、手持ち用の大口径機関砲だ。ソロがいるので弾薬に不自由はない。

 

 ティオネ・ヒリュテはアマゾネスの性を必死で抑え、ソロから弾薬を受け取っては手持ち改造の機関砲を連射する。

 ティオナ、アルガナ、バーチェはその援護を受けてのびのびと戦っている。といっても低レベルばかりの中堅ファミリアがゴライアスに挑むように、一体を倒すのにすらものすごく苦戦している。機関砲が膝を殴ってくれているからやっと戦えているだけだ。

 

 

 防衛線の谷で待っていた戦車隊が動き出し、爆撃機との速度差はあるが戦場に迫る。そこに最高速度で飛ばすナメルと、空を飛んでは時々装甲車の屋根で休む竜人、そして牛人が追いつき、黒い悪夢に突進していく。

 アステリオスは、遠くで響く鐘の音を聞いた。好敵手が奏でる戦。あれから、帰り道にも何千という食人花を倒して魔石を食らい、また50層近くまでの、しかも未探査領域まで行って無数の敵を倒しては魔石を食らって戻ってきた。

 地平線より遠い、それでいてあまりにも巨大な黒。どれほどの絶望か。どれほどの強さか。

 それでもカサンドラは、ベル・クラネルに告げなければならないことがある……それが、ベルにとって巨大な災禍にほかならなくても。胸が張り裂けそうになる。


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