ダンジョンに近代兵器を持ちこむのは間違っているだろうか   作:ケット

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友あればこそ

「あれは、今まで見た『穢れた精霊』とは違う」

 ハイエルフのリヴェリアが言った。膨大な英知と強大な魔力あってのこと。

 巨大すぎる黒い身体、その片目に埋まり血の涙を流す美女。

 攻撃呪文もすさまじいが、もっと恐ろしいのが長文詠唱の身体強化・防御強化呪文。

 多数の怪物が、原爆の至近弾にも40センチ艦砲の直撃にも耐える存在になってしまう。

 

 あちこちで砲口炎があがり、煙と轟音が充満している。

 巨大駅の全体より大きい黒竜。その強大な眷属。陸を歩く巨大船のように巨大なものや、人の大きさだがレベル7以上の強さのものも。

 その眷属の一体でも、瓜生以前の【ロキ・ファミリア】が束でも瞬時に全滅するであろう……すさまじい身体強化・防御魔法をかけられているのだ。

 それが戦車砲弾に、機関砲弾に、手で投げられる航空爆弾に、ソロの雷剣に、ビーツの拳に、武威の肘に、オッタルの金属棍に、アレンの槍に、ガレスの大斧に、リヴェリアやレフィーヤの呪文に倒れている。

 冒険者たちも傷つき、交代して癒されている。

 誰もがわずかに気にかけている……狂乱、極限を越えた悲しみ、すべてを壊す憎しみ、それらをどんな彫刻家でも無理なほど全身で表現した鉄像を。母を敵に、言葉にならぬことをされ怒り狂うアイズ・ヴァレンシュタインを。

 

 15階建てビル並みに巨大な3頭竜が、敏捷にフィンを襲う。

 フィンの死角、地下から噛みついてきた牙をガレスが受け止め、次の瞬間フィンとガレスが小さく飛んで足裏を合わせた。高速で飛び離れるふたり、そこに120ミリ戦車砲が2発ぶちこまれ、風穴が空く。

 ソロの近くに着地したフィンに、人間型で手首から先が蛇になっている怪物と切り結ぶソロが『ふくろ』から航空爆弾を取り出して渡す。

 巨大で500キログラムを超えるそれを軽々と受け取った小人が、大きく投げつける。

 その一瞬の間、30ミリガトリングが穴に注ぎ込まれ、再生する黒肉を吹き飛ばす。

 大爆発とともに、ビルが崩壊していく。

 その時にはフィンたちはもう、別の敵を誘導して飛び蹴りをさせ、着地の瞬間の出足を払った。一瞬の遅滞に飛び離れ、また戦車砲。

 戦車砲弾を確実に当てるための戦い。【ロキ・ファミリア】幹部はティオナを除き、もうそれに熟達している。

 ベート・ローガも戦線に復帰した。あらゆる魔法産物を吸収する彼の魔法『ハティ』は、超絶な身体強化・防御魔法やブレスを駆使する敵にとって、天敵と言うべきだ。

 

 後方に引いた巨大すぎる黒竜が、また周囲の岩から多くの眷属を作った。

 火力不足……人数不足が響き始める。

 レベル4以上と戦力は高いが、20人もいない。ソロの『ふくろ』とリリの縮小魔法のおかげで火砲弾薬は実質無限にあるが、操作員が少なすぎる。

 焦りが見えた時、地平線のかなたから弾幕が黒竜側の別動隊に降り注いだ。精密射撃が頑丈な怪物の急所を射抜く。

 B-1ランサー爆撃機で高速急行したため遅れた戦車隊。

 また、オラリオ近くから全速で飛んできたA-10攻撃機、一度帰って戻ってきたアリシアのB-1爆撃機。

 空を飛んできたのはそれだけではない。竜の翼を広げ、蛇の下半身を宙に舞わす美少女、ウィーネと、その腕に捕まった巨体の牛人……

「ウィーネ、アステリオス!」

 ベルが喜びの叫びをあげ、そして心を満たす悲痛に襲われて意味をなさぬ叫びを発した。そしてソロとビーツが誘導した敵を、機械のように斬り伏せる。

 ふたりの『異端児』(ゼノス)を一度引いたソロが呼んだ。地上に降りるアステリオスとウィーネ、そこにソロは『ふくろ』から大量の極深層魔石を取り出す。

 うなずいてほおばるふたり。同時にソロは、【ヘファイストス・ファミリア】が試作した、手持ち用に改造された57ミリ機関砲と弾薬コンテナが縮小されたものを『ふくろ』から出し、合言葉で元の大きさに戻した。

 ウィーネがうなずき、巨大機関砲を手にする。高速で飛び、強大な機関砲をぶちこむ戦法は、故郷防衛線で熟達している。

 魔石でさらに強化されたアステリオスは、飾り気のない大剣を二刀に抜く。異端児の鍛冶師が技術の限りを尽くした一刀と、椿・コルブランドが力を尽くした一刀。

 武威から盗んだ、武神が授けた歩法で前線におもむく。

 

 その雄姿に、心痛めながら喜ぶベル……彼のところに、ナメルが1両全速で向かった。30ミリ機関砲を乱射しながら。

 かなり遠くから、一人の女性が飛び下りた。巨大な銃を担いで。

「ベルさん!」

「危険です!」

 ベルは叫んだ。レベル7級以上の敵。女が持つ14.5ミリセミオート狙撃銃では、急所に命中しても致命傷にならない。

 弱者に襲いかかる怪物を、ベルとビーツが横から襲った。ビーツが超高速で懐に飛び込んで拳をぶちこみ、止まった足をベルが駆け抜けながら斬る。

 それが何度となく繰り返される。余波でさえ、女は重傷を負い……傷を負いながら戦い続け、ベルのもとに向かう。

「危険すぎます、無理です!」

 ベルが叫んだ。

 列車ぐらい大きな蛇に女が呑まれそうになる、その蛇の頭部がずれる。ウィーネが操った巨大機関砲。それでも蛇は暴れ続け、カサンドラは突き倒される。起き上がろうとしたが、腕がありえぬ方向に曲がっている。

 稲妻が閃き、閃光と轟音。直後巨蛇がぶった切られる。

 ベルはまだ動く上半身と戦い続けている。下半身にはビーツが一撃、内部から溶け崩れる。

 それでも、カサンドラは歩き続け、ベルのもとにたどり着いた。

「カサンドラさん」

「ベルさん……」

 カサンドラが、必死の表情でベル・クラネルを見つめる。

「……あなたが、大切な人を救う方法があります。今すぐ戻って、ランクアップしてください」

「え」

 ランクアップには主神の手が必要。そのためには、主神が待つオラリオに一時帰らなければならない。

「そうすれば、あの……救うことができます。ただ」

 立ったままカサンドラは顔を無事なほうの手で覆い、激しく泣いた。

「あ……ぐひ……あ、あなたが、車椅子で」

 ベルは強くうなずき、カサンドラの肩に手を置いた。

「ありがとう」

「あああああああっ!」

 カサンドラが泣きじゃくる。彼女自身も、出会いは敵だったがベルに恋しかけていたのだ、その嫉妬を抑えての献身だった。

「ベル・クラネル……」

 フィンが悲痛に言った。もちろん、大切なアイズを救ってくれるのならそうして欲しい。以前の冷徹な偽勇者であれば、切り捨てていただろう……殻を破ると決めた今も、どうしていいかわからないふしがある。

「それが、おまえの『英雄』か」

 オッタルが問う。

 ベルはその強大な目を見つめ、強くうなずいた。

「ビーツ、リューさん、ソロさん、武威さん、トグ、レフィーヤ」

 自分が抜ける穴を埋め、戦い抜く。

 皆、微笑を浮かべてうなずいた。

「大切な人を守れ。……きみは失うな」

 ソロが、万感を込めていい『ふくろ』からキメラの翼を出した。リュー・リオンもうなずきかける。

「私も同行する」

 リヴェリアが言った。

 ベルがここに戻るのはきつい。だから超高速のジェット機を扱えるリヴェリアが必要。

 アステリオスが角を前に出し、すさまじい速度で突貫した。

 ウィーネがうなずきかけ、機関砲を手で連射しながら飛び回る。

 ベルはありがたさに胸を打たれた。そして近くに立つ鉄像を見る。アイズ・ヴァレンシュタインの、極限を越えた、心が砕けるほどの怒りと悲しみを具現化した鉄像を。

 ぐっと歯を食いしばり、ベルはキメラの翼を投げた。

 

 戦車隊の到着で、戦場はかなり変わる。メルカバとチェンタウロ、チェンタウロ・ドラコ……多数の砲弾が注がれる。また人員は、敵を観測し、位置情報を遠くに送る作業も始めた。

 それがA-10やB-1爆撃機、やや離れた湖に出されたアイオワ級戦艦に送られ、正確な精密爆撃・艦砲射撃・トマホークミサイル攻撃を可能にする。

 それでも、戦車隊乗員の平均レベルは低い。戦線が破られ敵が突破したら瞬時に蹂躙される。

 その状況では、ベルひとりがいないことすら大きい……とくに彼の付与魔法が弾薬に装填されれば威力が桁外れになるのだから。

 それでも、特に【ロキ・ファミリア】は必死で戦い抜いた。アイズが救われる、ごくわずかな希望でも。

 

 

 オラリオにキメラの翼で飛んだベルとリヴェリアは、リヴェリアの力を使って迅速に女神ヘスティアに面会した。

 そしてすぐさま『ステイタス』の更新を始める。

 

「これは……」

 ヘスティアが息を呑む。

 もとよりランクアップ可能なのはもちろんだが……異様な早さはいつものことだ。

 だが、それに付随するものが……女神は必死で考えて、決断した。ものすごくつらい決断を。人間が政略結婚を受け入れるとか、自分の子供を生贄にするとか、コベントリーを犠牲にしてエニグマの秘密を守るとか、という水準の。

「ロキ……リヴェリア君を呼んでくれないか」

 

 うつ伏せで、一秒でも早く戦場に戻りたくて必死で待っているベル・クラネルの、開錠済みの背を見たリヴェリア・リヨス・アールヴは息を呑んだ。

 第3の魔法スロットに浮かび上がる、共通語でも神聖語でもない文字。

「エルフの言葉だと思うんだ……でも、わからない」

 ヘスティアの言葉に、ハイエルフ、エルフの王族である超絶美女は、ひざまずいた。敬虔な信者が降臨した聖母にひざまずくように。

「……異界の、精霊王を召喚使役できるハイエルフの歌だ。音階もある文字だ」

「な、なんやそれ」

 ロキが目を見張る。

「だが、ヒューマンがそんな呪文を使ったら、よくて半身不随だ!」

 リヴェリアが絶叫する。

「炎の精霊王の一体、フェニックス……再生をつかさどる」

 はっきりとわかる。それが、アイズ・ヴァレンシュタインの母親を……アイズを救う唯一の手段だと。

「教えてください……リヴェリアさん」

 ベルがリヴェリアを見つめる。

「ベルくん、君は女の心を助けるためなら、迷わないよね……もういいんだ、逃げても僕は許すよ……でも、でもそうしたいなら……ああああ」

 泣きじゃくりながらヘスティアは言った。

 リヴェリアは黙って、大画面スマートフォンを手にした。インターネットは通じていないが、それなしでも携帯用パソコンとして多くのことができる。今のオラリオの、ある程度以上の幹部の必需品となっている。

 ベルの背を見ながら静かに、美しい声で歌を録音し始める。美しい顔に汗をにじませ、姿勢を正して。

 ディードリット。別の世界の、美しいハイエルフの歌を。ナルディアという女性族長の哀しいほどに強い魂を弔った、また復讐者の呪いを清め故郷を救った歌を。

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