ダンジョンに近代兵器を持ちこむのは間違っているだろうか   作:ケット

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強くなるために

 翌日、瓜生も昼近くまで寝た。午後二時ごろまで熟睡したベルやヘスティアよりは早く起き、多めにコーヒーを淹れた。

 バターたっぷりのスクランブルエッグを大量に。牛乳で煮たオートミール。

 ベルのすさまじいステイタス上昇に、ヘスティアは深い衝撃を受けていた。

 

 食事が終わり、ベルが瓜生をじっと見た。まだ、疲労と痛みの後遺症は明らかに残っている。憔悴、としか言えない状態だ。

「……お願いします。単独(ソロ)でダンジョンに行かせてください」

(もう、守られたくない。この人がいれば、死ぬことはない……でも、それじゃダメなんだ。強くなりたい、あの人の……アイズ・ヴァレンシュタインさんの隣に立てるように!)

 瓜生は賛成できない、という表情だ。

「むしろ、おれが連れて行って、昨日みたいに深いところの強敵と一対一で戦うほうが、経験値は稼げるかもしれない。おれがいるだけでも経験値はたまるんだぞ」

「強く……なりたいんです……」

 一人で。自分の足で。頼らずに。

 言わなかった言葉に、瓜生は深くため息をつく。

「エイナさんの指示を聞くこと……人のことは言えないが。でも、おれは死なないことを優先しているつもりだ。自分の実力を直視して、できないことはするな。死なずに帰れる範囲での無茶だ。

 できるだけ早く仲間を見つけること。【タケミカヅチ・ファミリア】に頼んでもいい。

 タケミカヅチさまの稽古や素振りも続けろ。刀を使いこなしていれば……」

「……はい」

 ベルはそれも反省している。きちんと刀を使っていれば、殺せないとしても時間を稼いで、あれほどみじめな姿をあの美少女に見せることはなかったかもしれない。

 せめて、立って武器を構えていたかった。恐怖に負けた弱さ、経験不足もいいわけにならない。

「……死ぬな。そう言っても、14歳の男の子には響かない。おれは嫌というほど知ってる。おれも14歳の男の子という、狂った愚かな獣だったことはある。脳の生理から、どうしようもない……三歳の女の子や、男性に子が産めないように、14歳の男の子に理性を期待しても無駄だ。

 ……少し待ってくれ」

 そう言って瓜生は、プラスチックでできた硬めの、小さいウェストポウチを用意した。

 厚手の金属製ペンケースに緩衝材を入れて五本のポーション……ハイポーション三本と、普通が二本……を入れ、さらに緩衝材で包んだ。

 加えて、スミス&ウェッソン44マグナム短銃身リボルバー、6発とも徹甲弾を装填する。

 両方ウェストポウチに入れ、差し出した。ずしりと重くなる。

「これは存在しないものとして冒険すること。普段から使おうと思うな、五階層のミノタウロスぐらいの、とんでもない非常時だけだ。開ける羽目になったら、帰ることだけを考えろ」

 自分のリボルバーの弾を抜き、壁に向けて空打ちをして見せる。

「この三つのルールを覚えてくれ。絶対に銃口を、自分を含め人に向けるな。撃つ時以外引き金に触れるな。常に、何もしていなくても突然弾が出るとして銃口を安全方向に」

 銃を安全に扱う、三つのルール。

「ルールを復唱してくれ」

「自分を含め、人に向けない。撃つ時以外、引き金にさわらない。突然弾が出る」

「もう一度」

「自分を含め、人に向けない。撃つ時以外、引き金にさわらない。突然弾が出る!」

「絶対に忘れるな。弾が出なくて銃口をのぞいたら、いきなり出て頭を打ち抜かれて死ぬ事故もあるんだ」

 弾を抜いて、トリガーを引いて空打ちするのを練習させる。

「これが、あの……」

「6発だけ。外れたら意味がない……触れるほど近い距離だけだ。……今日だけ、1階の途中まで同行させてくれ。練習してもらう」

(反動はすごいが、『恩恵』で力があるベルならどうにかなるだろう)

 と思ってのこと。

「どうか、どうか生きて帰ってきておくれ。君の意思を、尊重するから……」

 ヘスティアに、ベルはうなずいた。

「約束だよ、約束だよ!」

 必死の少女神に、ベルは背を向けた。

 瓜生はその横を歩いている。街中の、最低限の銃器で。芽生えた小口径高速弾への不信感、どの銃にするか、考えながら。

 

 エイナは、もう昼過ぎ……そしてベルの目、治りきっていない傷を見ただけで、

「お願い死なないで。女はヴァレンシュタイン氏だけじゃないのよ、オラリオの半分は女なんだから」

 と、半泣きで迫った。

 何を想像したものか、瓜生にはよくわかった。

「エイナさん……死ぬつもりはないです。でも、僕は強くなりたい、強くなりたいんです」

「ベルくん……」

「今日から、彼はソロに転向したいそうだ。今日は途中までおれもついていく。ソロの心構えを教えてやってほしい。

 おれは、このあいだのミノタウロスみたいなことがなければ、ベルは四層までは行けると思う。だが、ソロそのものは何倍も体力を使うだろうし、自分の精神がどんな状態か客観的に見るのが難しい。むしろすぐ撤退できる浅い階層で、長時間経験を積むのがいいと思う」

「そう、ですね。今日は絶対に、三階層まで。それだけ、おねがい」

「は、はい」

 ハーフエルフ美女の全身の迫力、涙ぐんだメガネ上目遣いという凶器に、ベルは圧倒されていた。

「昨日とは違う。後ろに誰もいないの。ダンジョンは、狙って人をはさみうちにする。心を削る。おねがい、甘く見ないで。死にかけたようなことが、これからもある。次は、もう誰も助けてくれないの。アイズさんも、ウリーさんも」

(いっそ冒険者なんてやめて!)

 とすら言いたかったほど。

 

 一階の、人目がないホール。そこで瓜生は、ウェストポウチの中身と同じ短銃身リボルバーに短銃身用徹甲弾を装填し、持たせた。

 跳弾がないよう、壁に角度をつけて。跳弾が自分たちや他人を傷つけないよう、人目がないよう、よく見て。

「両手でこう握って、引き金を引く」

 と、自分も同じものを握り、まずやってみる。

 轟音と、猛烈な炎。

 ベルも、おっかなびっくり発砲する。反動はすごかったが、なんとか制御できている。『恩恵』のおかげであり、半月間鍛えぬいたおかげでもある。

「うわ」

「もう5発」

 ベルが撃ち、瓜生が自分のものを再装填して交換し、再装填をする。

 再装填は教えない。彼を銃使いにするつもりはない。自分が消えたあとのことも考える。

「右手で、6発」

 それから、左手。両手……18発ずつ、繰り返した。

「こんな感じだ。もう一度、ルールを復唱」

「ええと……人に向けない。引き金にさわらない。弾が出る」

「向けてはならない人には、自分も含める。撃つ時は引き金を引く。いきなり弾が出るかもしれないから、どんな時も銃口は安全な地面を向いているように」

 瓜生は、じっとベルの目を見る。

「ヘスティア様。エイナさん。お前を心配している人はいるんだ、絶対に生きて帰ってこい。死んだらアイズ・ヴァレンシュタインに追いつくことはできないんだ」

 そして少し前に〈出し〉ていた、短いが厚く、峰がツルハシになった斧を渡した。刃カバーにベルトループがついており、右腰に下げて素早く抜くことができる。

「これは普通に使っていい。下の階層には硬い敵が出るらしいからな。また上にあがってくるかもしれない」

 と。

 プロテインバーも。新しい、より防弾性能が高いライオットシールドも。

 さらに普通ポーション4本、ハイポーション2本を渡した。

 練習用の拳銃を消し、はっきりと、ベルが向かった逆の方に歩み去った。

「本当におれはついていかない。嘘じゃない」

 誰も助けてはくれない。

「はい!」

(これが、僕の冒険の始まりだ)

 ソロ。ベルは決然と刀を抜き、次のホールに向かう。

 

 瓜生はエイナに、

「エイナさんも悲しむ、とは言っておきました」

 そう告げた。

「ええ、そうです、そうなんです……」

 彼女は涙ぐんでいた。

「なら、彼の仲間を探すのに協力してください。成長が早く、成長に貪欲で、誠実で信じられる人を」

「あなたもレベル2なんですから」

「おれといたら、成長できないと彼は思ったようですよ」

「詮索はマナー違反……」

「現実に、おれは十分な準備時間があれば、16階層のモンスターが何万いても無傷で全滅させることが可能なんです」

 重機関銃、ベルトリンクされた弾薬と予備銃身が十分にあれば。鉄条網とぬかるみ、地雷原があれば。

(それどころか、十キロ単位のクレーターを水爆で作ることも。自分も死ぬことを受け入れれば、超新星爆発でこの星そのものを消滅させ、隣近所の星系の生命も滅ぼすことも)

 瓜生の能力に、量の制限はない。地球から転送するわけではない。たとえばAK-47を一挺〈出す〉とき、どこかの国の倉庫から一挺消えるわけではない。

 地球の核には、膨大な鉄がある。そこには金原子も、人類が有史以来採掘したすべて、プール二杯程度よりずっとたくさんある。木星には地球の何倍もの金属核がある。恒星にも当然プラズマ化してとけこんでいる……太陽にも彗星は落ちるのだから。

 宇宙の、千億の銀河に千億の星、さらにインフレーションでもっとすさまじい数……そのすべての星々。そのすべてから、ランダムに、距離も光速制限も全部無視して瞬時に鉄や銅の原子が移動する。瓜生が指定した場所の、大気が消えた虚空に。瞬時にレプリケーターのように一つ一つ原子が積みあがり、作られた製品全部の平均ができる……それだけなのだ。

 瓜生が金貨を出した時、今いる星の誰かが持つ金貨の金原子が使われる可能性は、アボガドロ数にかかわらず限りなくゼロに近い。

 単にある質量以上の物体を、金塊でも拳銃でも牛肉でも出せば、超新星爆発が起きる。当然自分も死ぬし、虐殺が避けられないので、やったことはない。だが、できることはわかっている。

 ちなみに千挺のAK-47を出しても、銃床の木目一つの違いもない。そしてシリアルナンバーがある紙幣を出して使うことも、実はできない。それで故郷では、瓜生は財産を得るのに結構苦労したのだ。

 

 

 そのまま帰った瓜生は、何か準備をしていたヘスティアに向き合った。

 かなり大きく深呼吸して、ゆっくりという。

「言っておくべきことがある。ベルが無事に帰ってきたことについて、【ロキ・ファミリア】の団長に恩を受けた。それで、能力を教える約束をした」

 ヘスティアはじっと黙っていた。

「二人とも生きて帰ってきたんだから……いいよ」

「すまない。怪物祭りとやらのあと、同行するか紹介状を書いてほしい」

「わかった。謝らなくていいよ、無事に帰ってきたんだから。……ロキは大っ嫌いだけど、信用はできるんだ」

 そういって、なにか考えているヘスティア。

 瓜生は地下室で、彼女にさまざまな菓子を出してやりつつ読み書きの勉強をしていた。

 建築業者が来たので、応対して少し話もした。

 何よりも、オラリオを、この世界全体を知ろうとした。鉱物資源から農業、世界地図、水系、国々、人口、オラリオの派閥のパワーバランス、使われている技術……何でも。

 

 時間的には短いが、疲れて帰ってきたベル。

 約束は守った。三階層で、二時間ほど。

 だが彼は、耳を澄ませて……多すぎるモンスターから逃げている初心者を探し、声を上げて敵を自分に誘導した。5匹以上を、何度も。倒した数は、三階で普通のパーティが一日かかる数より多い。かなりタブーに近い、もちろん危険すぎる行動だ。

 ポウチを開けることはなかった。刀があれば、地形を利用してゴブリンが14匹いても全滅させた。

 帰ってすぐ、瓜生に言われなくても回数すら数えず……百振ったらもう百、それを繰り返すだけの素振りをした。

 ルームランナーで走り続けた。何度も吐いたので、瓜生は洗面器とうがい用の塩水を用意した。

 デッドリフトとベンチプレスに、挑んでは潰れた。前よりずっと軽い、40キロぐらいしか上がらなくなっていた。

 瓜生も監督し、ある程度つきあったが、必要ないと思って読み書きの勉強を始めた。

 必要なかった。見ていなくても、すさまじい意志だけで体を絞りつくした。

「運動するときは塩水を飲め。食事だけはしろ」

 と瓜生に言われたがろくに喉を通らず、プロテインとブドウ糖をどっぷり入れたホットミルクとマルチビタミンミネラル剤を与えられ、吐き気に歯を食いしばり無理に飲んだ。

 やっと【ステイタス】を更新し、シャワーを浴びて、泥のように眠った。

「睡眠はちゃんととらなければ強くなれない。明日も早く起きるんだろう?」

 と瓜生が言わなければ、いつまでやったかわからない。

 トータル250オーバーのとんでもない上昇幅に、ヘスティアは何か決意していた。

 ベルが寝入っているのを確認して瓜生に、

「同じ家族として、君にも伝えておく。ベル君にも、スキルが発現した。ばれたら、絶対暇な神々のおもちゃにされてしまう。だから、秘密にしてくれるか?」

「おれのスキルもだったな。これは教えることを約束してしまったが」

 

 

 その翌日、ヘスティアは、

「神の宴に出る、あとしばらく留守にする」

 と告げた。

 ベルは日が出る前から回数も数えぬ素振りをこなし、ルームランナーでハーフマラソンを走った。疲れ切ったらシャワーを浴びてオートミールを食べ、プロテインとブドウ糖を大量に入れた牛乳を飲んで、刀と盾を背負ってダンジョンに行った。

 朝は『豊穣の女主人』に行き、謝って払った。ミアは瓜生が払っていたことは言わず、受け取って励ました。

 そしてベルは、心配する人が少なくとももう一人いることを知った。どれだけかはわかっていないにしても。

 

 その日の瓜生は、出かけるというヘスティアを店に連れて行って、既製品だが服を買い整えた。

「新しいファミリアの体面があるのだから」

 と。

 見た目は幼いが、豊かな部分と神の美貌が、深い青のドレスと変えた髪型で見事に引き立っていた。

 

 ベルは六層まで下りて、ウォーシャドウと戦った。『いざというとき用のポウチ』を開けることはしないが、ぎりぎりまで自分を追いこむ。瓜生は、ポーションは無尽蔵に与えており、それで戦い続けている。

 日が暮れてから帰り、食事をすませたらまた素振り・ウェイトトレーニング・ルームランナー。

 ヘスティアがいないので【ステイタス】更新ができないベルは、激しい筋肉痛に苦しんだ。が、ポーションでごまかして動き続けた。

 

 エイナ・チュールの心配は、同僚にからかわれるほどだった。

「この換金額を見てよ。ダンジョンに入って一月もしていないソロ新人の金額じゃないわ」

「才能があるんでしょ」

「それともレアスキルとか?同じファミリアの人もそうだってうわさだし」

「魔剣のうわさもあったわね」

「未熟者に魔剣は死亡フラグじゃない……」




ちょっと次回にする予定だった、同じ日のできごとを入れます。

…最速兎と同水準の成長速度の作品は何があるでしょう。

ダイの大冒険、サイヤ人、幽白…
ポテンシャルが無限大と言えば仲間でもなんでもねえやですが、まあそれは無理でしょう。
HHは元がかなり高い、GI・蟻編での成長は同程度に見えますが。
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