ダンジョンに近代兵器を持ちこむのは間違っているだろうか 作:ケット
「『アリア』をあれのところに連れて行く!ふたつとも!死体でも構わん!」
アイズとその母を襲うレヴィス。間にいるのは、強力すぎる、異種族の魔法の代償で両足を失ったベルだけ。
障害にすらならない。
そのとき、人間とは異質な筋肉を盛り上げた少年が呪文を唱え終えた。
「『今のお前に足りないものがある、危機感だ……開放の風(バーチャー)』!」
少年は別のところで怪物の攻撃を受け止め動けない、だが魔法は送れる。
トグの呪文とともに、ベルの身体を奇妙なものが包む。炎風のような、しかし熱くはない。
ベルが目を見開き、立った。失われたはずの足で。
瞬時に、深呼吸しつつすさまじい速さでアイズとその母をかばい、神の脇差を振りかぶる。
美しい螺旋を描く振りかぶり。深呼吸一つ分の蓄力(チャージ)が体幹に乗り、剣をそらす。
トグの魔法のひとつ。どんなダメージ・状態異常でも、しばらく万全に戻す。普段は筋肉操作の代償やダメージで動けない自分を、もう少しだけ動かすために使っている。
無論、ダメージがなくなるわけではないので後で利子つきで払わなければならない。
正剣がふわりと舞い降りる。ゆっくりと、正しく、肩の力を抜き腰だけ、刀の重さだけ。
レヴィスの片腕が、すっと落ちる。そのレヴィスの胸にアステリオスの角が突き当たり、吹っ飛ばす。貫通していないことにアステリオスは驚いているが、すぐに次の攻撃を準備している。
すくい上げに宙に飛ばされた女の身体を、瞬時に数発の57ミリ弾が襲う……高速で飛ぶウィーネが巨大な機関砲で狙い撃つ。3発が人体に命中……射程から見れば至近距離とはいえ、砲重量と巨大な反動を考えれば神業、桁外れの力と練習量あってのこと。
ベルは激しく息をついている。
「アイズさん!大丈夫ですか!」
「ベル……ベル!私の英雄!」
アイズが叫び、ベルを強く抱きしめた。
「あ、わうぇあわわ」
ベルが混乱している。アイズは敵のプレッシャーを感じ、瞬時に表情を切り替えた。
「もう、だいじょうぶ……いっしょに、戦って」
「はい!アイズさん」
ベルが一番欲しかった言葉。アイズの隣で、戦うこと。
「ずるいですよベル!」
レフィーヤが飛びこんでくる。
「レフィーヤも」
「はい!」
エルフの少女が満面の笑顔。
「おのれ……あが、ああああああ」
吹き飛ばされ、撃たれたレヴィス……無事なほうの手には、別の壊れた塊が握られていた。『穢れた精霊』の宝玉……それがレヴィスの背中に寄生する。
「ぐおばおだおぜおおあああああああ!」
言葉にならない、量だけでも大型爆弾の爆音が続くほどの声があがる。
トカゲのような下半身の、長い尾が全身に巻き付き、締め付けつつ一体化する。
魔力が吹き荒れる。
その魔力は、奇妙な光る稲妻の縄のようなもので、切り落とされた手、自分で切り落とした両足にもつながる。
切り落とされた手は、自分で飛んで近くで死にかけていた巨大なワニを背中から貫き、魔石を食った。
4体。本体、片手、両脚。
どれも変形していく……
右脚だったものは、巨大なヘビ。身体のほとんどが地下に埋まっている。地面に見えているだけで、超大型ビルにすら見える。
左脚と融合した黒いドラゴン。高さだけで20メートルはある、2足歩行に近いティラノサウルス型。腕は退化しているが、牙と尾、脚の爪だけでも恐ろしい。
手と融合したワニは身長4メートルほどのリザードマンに似た怪物に変じる。
本体はドラゴンにまたがる騎士のような、ケンタウルスのような姿に。切り落とされたはずの手が、鋭く長い剣に変形している。『穢れた精霊』の姿はない。
「完全に、『穢れた精霊』と『隻眼の黒竜』の力を吸収した……」
アイズの母が口を覆い、つぶやいた。
フィンが素早く、冒険者たちを割り振った。
アイズとその母、レフィーヤ、ベル、アステリオス、ウィーネが本体と。背後にトグと、春姫らが乗る戦車が駆けつける。
巨大すぎるヘビに、【ロキ・ファミリア】が。
黒いティラノサウルス型にはソロ、オッタル、ビーツらが。
リザードマンに似た怪物には武威が。
主を失い暴れ続ける眷属たちには、ラウルや【フレイヤ・ファミリア】のレベル5、6たちが。
背後では何人もの魔術師、近代兵器操作手。多数の戦闘車両。また艦砲や爆撃の援護。
アイズに、春姫の魔法が降りかかる。精霊であるその母とレフィーヤが長文詠唱を始める。
「51……52」
つぶやくトグの筋肉が異様に盛り上がり、目や耳から血が垂れる。その手には巨大な盾斧と、手持ち改造の76ミリ対戦車砲。
「車を守って」
アイズの声がかかる。
事実上自衛力がない春姫はメルカバの中にいる。ただでさえ重装甲にがちがちの増加装甲、だが今の敵の前ではどれほどか……
これまで見てきたレヴィスと比べても、さらに桁外れの強さがわかる。
アイズとベルが超短文呪文を唱える。風と稲妻が舞う。
瞬。
アイズの残像を剣が斬り、その時にはアイズはわずかに、低く前進しつつ剣をふるう。空いた手に、後ろから飛んだ剣が吸い込まれる……ナルヴィが投げた、ティオナがアイズに身内価格で売った不壊属性の大剣。
二刀に構えたアイズが、瞬時の連撃をさばき、弾かれ……そのときにアステリオスの、強烈な斬撃が襲う。
「なめるな!」
桁外れの力で跳ね返す、それを牛人はがっちりと地面を踏みしめて耐える。
一瞬の停滞、そこに正確に57ミリ徹甲弾が単発で襲う。
「!」
弾を口で噛み止めた女、だがそこに迫るベルの刀。女ケンタウルスは弾をアイズに吐きつけて跳んだ。足を使い始める……猫のように軽く、閃光のように速い。
砲弾をかわした、そこにアイズの大剣が風をまとって疾り、それを受け止めて止まった瞬間にベルの刀が落ちる。
その間に宙に舞ったアイズは、大きい範囲の風を操った。味方がやった戦術を即座に学んだ……40センチ艦砲弾を、敵に精密に導く。風のレールに導かれた巨弾、レヴィスはそれすら拳で吹き飛ばしたが、爆発に吹き飛ばされる。その体に戦車砲弾が、76ミリ弾が次々に注がれる。
そしてレフィーヤと、大精霊の大呪文が完成しようとする……
桁外れに巨大なヘビ。その首が音の壁をぶち抜く高速で戦車を狙う。
それをガレス・ランドロックが食い止め、ベート・ローガの魔法炎をまとった蹴りがぶちこまれる。
地平線より遠くからこれまた超音速で襲う尾を、アマゾネス姉妹が食い止める。
フィンは呪文を唱えて額を穿ち、理性を……指揮能力を捨ててステイタスを大上昇させた。
リヴェリアは呪文を使いながら、40ミリ機関砲で精密に援護射撃を送る。
背後のメルカバ4両が、次々と120ミリ砲を放つ。
間断なく注がれるチェンタウロ・ドラコの76ミリ速射砲がヘビの超巨体を叩き続ける。
ソロは当然のように背後の仲間を見た。仲間を率いて戦うことに熟達した勇者……
オッタルも、ごく自然にその指揮に従った。なすべきことは言葉などなくてもわかる。
ビーツも不壊属性の槍を構え、桁外れの『気』をまといゆるやかに敵に向かう。
リュー・リオンはレベル5の自分がサポーターだと受け入れ、ソロから大量の近代兵器を受け取った。
武威はリザードマンに似るがはるかに高貴な、龍の顔を持つ人型怪物を見た。均整の取れた筋肉。人間とは異質な。
「100%のあれに、近い……か」
恐怖がのどからこみあげる。会場で、見てしまったあの姿。怪物を越えた怪物。少年はそれと真正面から戦い、戦い、戦い……そして戸愚呂は100%を超えて自壊していった……
ふと、武威は深呼吸している自分に気がついた。徹底した鍛錬が、呼吸をさせていた。腰を落とす姿勢をとらせていた。それが心を落ち着かせる。
力を解放する。以前の何十倍もの『武装闘気(バトルオーラ)』が巨体をはじくように持ち上げる。そしてそのすべてを、自分の身体で吸い尽くす。
深呼吸。正しい呼吸。栄養剤を食った体の妖力が爆発的に増す……このままでは自爆する。
正しい姿勢。
両手を柔らかい手刀にし、腰を深く落とす。
歩きはじめる。泥の中足を滑らせるように。円を描いて。腰を上下させることなく。
自爆するほどのとてつもない『気』を、体の中の円を通じて、正しく循環させる。いつまでできるか。ただひたすら、繰り返した鍛錬を信じる……
その間にも、周辺ではレベル5や6の冒険者たちが、黒竜の眷属たちと戦い続けていた。
特に【ロキ・ファミリア】のアナキティやラウル、レベル6の椿・コルブランドは強力な火砲を手持ちに改造した兵器を手に、
(敵を討つよりも、思い通りに動かし戦車砲を当てる……)
ための戦いを続けている。