ダンジョンに近代兵器を持ちこむのは間違っているだろうか   作:ケット

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決戦

 レヴィスが『隻眼の黒竜』と『穢れた精霊』の力を取りこみ、さらに分裂した超怪物。そして『穢れた精霊』の力を帯びた黒竜の眷属。

 戦車隊・爆撃機の援護も用いる強者たち。

 アイズの母親が再生し、士気は上がる……だが戦いはより激しさを増していく。

 

「おそらく次の形態がある。ビーツは温存して削り切る」

 ソロの言葉にオッタルはうなずく。

 リュー・リオンは35ミリリボルバーカノンを力で持ち運び、並行詠唱と同時に連射を始める。

 背後の戦車も砲撃を始めた。

 巨大だが敏捷な、ティラノサウルス型の黒い竜は機敏に飛び回って回避しつつ強烈に尾を叩きつけ、巨大で鋭い爪のついた足、恐ろしい牙で戦車を、機関砲を食いちぎろうとする。

 その足の関節の急所を、ソロとオッタルがごくわずかな時間差で、針の穴を通すように正確に突いた。ふたりとも敵の弱点を読み、敵を操り正確に針の穴を通す戦いには熟達しきっている。

 一瞬遅れてリューが大型のプラスチック爆薬を投げ、その爆風で巨体を横倒しにさせる。

 止まったところに戦車砲弾と、低空に飛来したF-15Eの爆弾がピンポイントに貫通する。

 致命傷ではない……半分えぐられた胴体を瞬時に再生させ起き上がって襲ってくるのを、オッタルが巨体と重厚な全身板金鎧、全金属棍で食い止める。ソロが眉間に万雷の一撃、その傷をリューが無反動砲で狙撃する。

 ひたすらビーツは立ったまま瞑想し、『気』を練り続けている。

 それを感じたか、怪竜は彼女を狙って攻撃しようとした。ソロはほんのひと呼吸、それを見逃す。

 巨大な牙が少女に食いこむ、その間際にソロとオッタルが瞬間移動のように出現、ふたりで圧倒的な重量を受け止め、少女だけを外すようにそらす。

 さらにそこに戦車砲、120ミリの太矢が突き刺さる。その穴にソロが追撃、広がった穴にリューが強烈に魔法をぶちこみ、それで広がったところに爆薬を詰めて起爆。

 爆風で重心が崩れた足の関節に、オッタルが針の穴を通すような強打。

 倒れたところにまた精密爆撃……

 ついに黒い恐竜が悲鳴を上げて倒れ、胸をソロの剣が貫いた……と思いきや、すさまじい、黒い炎のような何かが巨体を包んで荒れ狂う。

 急速に巨体は縮んでいく。

 その一瞬の間に、ソロもオッタルも回復する。

『気』を練っていたビーツが静かに目を開けた。

 ご!

 すさまじい速度で、黒いつむじ風のような何かから比較的小さな、何かが飛び出す。

 ビーツの右足が少し上がり、前に出る。

 ダ!

 着地と同時に、拳が突き出される。とことんまで基本通り。

 見事なカウンター。身体を前に出し、横にする、その変化が相手の攻撃をかわし、受け流している。敵の重心を崩している。

 食い込んだ、ほぼオリハルコンの籠手から『気』が敵の内部に浸透……しようとしているのを、敵は脇腹ごとえぐりとった。瞬時に再生し、すさまじい蹴りがビーツに迫る。

 ビーツはごく短い右連打。それで反撃を受け止めるも、桁外れの力積に弾丸のように飛ばされる。

 ソロがそれを受け止めオッタルが突くが、オッタルはまるで爆弾に突っ込んだように吹き飛ばされた。分厚い全身板金鎧がもろくも破壊される。

 そこにいるのは、中肉中背の人間程度の存在だった。肌か鱗か、黒か緑か赤か……それも頻繁に流動しているようだ。

 リュー・リオンが恐怖にくずおれそうになるが、必死で勇気を振り絞る。下がったソロが、別の武器をリューに渡す……【ヘファイストス・ファミリア】製、『クロッゾの魔剣』を用いる大型対物ライフル。

 

 

 桁外れに巨大な黒ヘビがフィンの強打にすくみ、その瞬間戦車砲が何発も同時に当たる。

 そして、空を風が飛び交い光すらきしむ……何人かの呪文。20キロメートル以上遠くから飛んでくる40センチ艦砲の、徹甲炸裂弾が風の壁に導かれ、正確に胴体の真ん中にぶち当たる。

 とてつもなく硬い鱗皮、それすら貫通し、内部で爆発する何百キロもの爆薬。超巨体がゆるぎ、咆哮し、暴れる。

 体を震わせるだけで無秩序な攻撃になるのを、ガレスが受け止める。

 その間もリヴェリアは機関砲を操作して敵の急所に徹甲弾をぶちこみ、同時に大呪文を詠唱する。

 詠唱連結……超長文の最大呪文。大型爆弾にも匹敵するすさまじい破壊力。

 それも敵が詠唱する魔法が相殺する、その地獄をベートの手足の魔炎が吸い、加速する。それを食いちぎろうとする頭を戦車砲がはじく。転瞬、両手足4発がねじこまれる。

 魔力を吸われ注ぎ込まれ焼かれる苦痛に絶叫する超蛇に、風の魔法で終端誘導される艦砲と精密誘導爆弾が次々とぶちこまれる。

 それが氷雪呪文を用いた砲身冷却と冒険者の桁外れの力で、設計以上の連射を続けているのだ。

【ヘファイストス・ファミリア】製の大規模地上砲架も、高レベル冒険者の目と腕力を借りてひたすら連射を続けている。

 膨大な砲口炎と硝煙。爆音と衝撃波が行きかう。

 

 

 まばたき以下の時間。龍人の身体が武威の真正面に移動し、拳を振りかぶるだけでも衝撃波が周囲の空気を、地面すらえぐる。

 武威はただ、すっと爪先から地面すれすれに足を進めながら掌を上に手刀を流す。

 足腰、胴体、肩、肘、手首、すべてがひとつの螺旋をつくる。その経絡を桁外れの『武装闘気』が流れ強化する。ありえないほどに。めちゃくちゃに。

 大地が広くきしむ。大地からくみ出された力が集約され、相手の拳のつけねに自分の手首が触れた。100%の戸愚呂(弟)にも匹敵すると思える、とてつもない拳が滑りそれる。『気』と融合した肉体がつくる螺旋のレールに導かれて。

 直撃すれば、今の……気の暴走を食って栄養剤(エサ)にし爆発的に力を増している自分でも死ぬであろう拳。少なくとも腕相撲では勝てない相手だ。空圧が全身を打つ。

 敵は空振りで重心が崩れ、次の動きは限られる。

 狙い通りの動きをした、その居着き。出ばな。そこに足が吸いこまれて、軽く蹴る。

 ごく軽い。にもかかわらず威力はすさまじい……『気』の流れで蹴っているからだ。

 蹴り終えた足は地面を滑るように敵のかかとの裏に入り、わずかに角度を変える。ねじりきられた腰が反転……

 ゆっくりと、柔らかく。泥の中を滑るように。

 武神と、実戦でオッタルが何度も見せた模範を忠実に真似る。

(ああ、これか)

 力をもてあますように崩れた敵の脇腹、急所に肘が伸びた。

(打つという意識……)

 はない。自然な動きをしたら、そこに肘が吸いこまれたのだ。

 手ごたえがない。だが、とてつもない量の『気』が使われている。

 ゆっくりと、肘打ちのためにたたんだ肘をひっこめずにただ伸ばす。それだけで相手の喉下に、手刀の親指側が吸いこまれる。

 腰を落としたまま、進行方向を転換する歩み。肩を入れて、投げる。相手の片足が浮き投げに抵抗する、逆らわず次の歩み。

 わずかでも動きが狂っていたら『気』が暴走し、また自分の膝は相手に引っかかって壊れていたことがわかる。

 呼吸。

(何よりも呼吸だ……)

 武神に叩きこまれた。

 桁外れの力で相手が抵抗し、腕を振り回そうとする。だがそれも、予測通りの動き。

 オッタルが何度も自分にやってのけたように。反撃しようとすると動きが限定される。

 そしてその動きは、オッタルが打ちやすいよう急所を開けてやるようなもの。折りやすいよう腕を差し出しているようなもの。

 同じ動きをするだけ。いつも練習している動きをするだけ。

 自転車に乗るように。練習すれば意識しなくても乗れるように。もうかなりの日々、普通に歩くよりも長い時間の鍛錬。

 足が泥の中を滑るように動く。腰が入る。呼吸を深く落とす。

 敵の伸びきった、小指を両手で握る。いくらなんでも敵の小指より、こちらの両手のほうが弱いということはない……抵抗する相手の手首、肘、肩と螺旋のようにねじれ決まり、腰が、足が浮く。

 足をわずかに踏み出す。小指を折り腕を押し離す。反転した手刀がわきの下に吸いこまれる。

『気』が手刀を包む。鍛冶神ヘファイストスが心血を注いだ手袋……オリハルコンの厚板でできた、手刀部がめちゃくちゃな『気』を集約する。正しい動きが『気』を刃に変える。

 手ごたえはない。崩れた姿勢、よけられない。深く斬りさらに崩す。

 そのまま、密着を崩さない。歩き続ける。暴れ、傷を再生させ、とてつもない力で蹴り殴る龍人の、動きの先から崩し続ける。

 正しい動き。それは制御できないほどの『武装闘気(バトルオーラ)』、さらにそれを自分で食って妖力を爆増させた、その『気』を正しく流す流路となっている。

 膨大な濁流を正しく流す、よく設計された水路のように、強すぎる曲線や角、ひび割れなどのない正しい動き。正しい動きをする正しい身体。

 正しい動きは、相手の力をすべて受け流す。どれほどの力でも。

(だが、まだまだ未熟だ……あと5年、いや半年あれば)

 とは思ったが、それはどうにもならない。

 呼吸を落ち着ける。

(深い呼吸、ここで息をする。吸う、吐く、吐く……)

 それだけ意識する。もう今やっているのが、強すぎる相手との実戦だということも忘れる。あれほど憧れ、憎み、絶望し、打ちひしがれた戸愚呂(弟)の、100%の顔すら頭から消える。飛影の姿も。

 日月としてはそれほどではない。だが、すさまじい密度の鍛錬。

 その横で、ベル・クラネルやビーツ、のちにはソロも鍛錬に加わった。吐いて、倒れて、歯噛みして立ち上がり、太腿を叩いて最初からやり直すのを繰り返す日々を、共に歩んだ。

 かすかな懐かしさが胸によぎる。

 より深く、すべてを賭けた武術に没入する。

 武神タケミカヅチが、レベル2の桜花の攻撃を受け流すように。オッタルが自分の攻撃を受け流すように。

(オレの鍛錬は、間違っていなかった……)

 確信。

 そしてわかる。

(戸愚呂とは違う、こいつに人格はない……)

 そのことが。

 

 

 ヒット&アウェイ。極超音速の。レヴィスの、ケンタウロスのような本体の速度は銃弾に匹敵する超音速。

 そんな速度域にもっとも慣れているのはベル。武威やソロにもまれている。

 逆にアステリオスは、迷宮40階層台でもここまでの敵とは戦ったことがない。

 戦車を狙う攻撃を、トグが必死で受ける。

「【他の誰かのために120%の力が……守りの壁(ケルビム)】!」

 防御魔法でかなり広く守るが、それでも瞬時に破られる。限界以上、54%まで筋肉を増していても。

 だが、ほんの一瞬、ほんのわずかに動きを遅くすれば、アイズが助けに入る。

「おまえは死ねないんだ。その魔法がなければ、ベル・クラネルは戦えない」

 重装甲車からダフネがトグに厳しく言う。だが、トグは顔をゆがめて、あくまで守りに立つ。

 春姫と同じく。彼女も死ねない、歌い続ける、それでいて前線にいなければならない。頻繁に、春姫がアイズやベルを強化する。時には出張してソロやフィンも。

 どうしても彼女が中心になる。

 またこのメンバーは、戦車との共同戦に慣れていない。

「【アルクス・レイ】!」

 レフィーヤの、発動が早い追尾呪文。

「それが?」

 レヴィスはよけようともせず、ベルを襲う。

 だが、光の矢はレヴィスをよけて複雑な軌道を描き、ベルの近くの地面に着弾した。

 穴にレヴィスの前足がつまずく。

「!!」

 柔らかく振りかぶられた刀に、稲妻が落ちる。やや長めのチャージ。

 狙いは前足の膝。

「おおっ!」

 叫びとともに、後足の力で跳んだレヴィス……だがその体を機関砲弾が打ち崩す。わずかでも単調な動きをすれば、どれほど速くても空から見るウィーネの餌食。

 耐えて着地した、そこに真正面からアステリオスの突撃。

 レベル7級、いやそれ以上に膨大な魔石を食った異端児(ゼノス)の角が、すさまじい速度で襲う。それを片手で握り止め、投げ上げるレヴィス。

 春姫の詠唱が終わり光の槌が降る、今度はアイズが一時的レベル7に。

 また、アイズの母の長文詠唱呪文で、全員が桁外れに強化される。特に耐久がとんでもないことになる。

 アステリオスの落下を待って切ろうとする、そこを飛竜が高速で空を切る……ウィーネが高速飛行で、投げ上げられたアステリオスをさらった。

「チィ!」

 レヴィスが跳んで切り落とそうとする、その力の溜めに30ミリ機関砲と無反動砲が襲う。成形炸薬弾頭の爆発にウィーネが少し吹き飛んで翼を立て直し、アステリオスを投げつけた。

 正確なタイミング調整。投げ落とされたアステリオス、最大出力の風をまとったアイズの突進、稲妻を剣に帯びたベルの逆袈裟が同時にレヴィスを襲う。アイズの剣は受け止めたが、残りのふたつは防げない……首筋を、後足を深く斬られる。

 間断のない攻撃。ベル、アイズ、アステリオス……常に攻撃し続ける。

 桁外れに速く突破して次の攻撃に動き出す、常に上空からの機関砲が、やや離れたところからの戦車砲が、強力な攻撃魔法が追随する。

 力で圧倒していても、呼吸と主導権は取れない。

 だが、均衡が崩れるのは当然だった。

 ベルが地面に転がる。足が消えようとしている……魔法の時間切れ。

「させるか!」

 レヴィスが、ベルを蹴り飛ばしながらトグを襲う。

「……60!」

 トグの筋肉が異形にふくれあがる。目、耳、鼻、口から血が垂れる。

 軽いバットのように76ミリ砲の砲身が振り回されるが、それよりはるかに速くレヴィスの剣が伸びる。

 致命傷でないのは、前に出ていたから。ガレスに繰り返し教わっている……

(盾役は常に前に出る)

 と。

 また、レベル7に迫る筋肉操作のおかげでもある。

 それでも、当たったのが肘でも肩が潰れている。もう一方の拳がぶちこまれ、レヴィス自身は吹き飛んだが……着地したのがベルのそば。

 ベルの首に、剣が落ちる。

「ああああっ!」

 アイズの絶叫。

 アステリオスが、ウィーネが無言で突進する。

「【ディオ・グレイル】!」

 レフィーヤの防御呪文……短文詠唱で、フィルヴィスからもらった呪文が一瞬防ぎ、軽く砕かれる。

 さらに迫る刃を、ベルは寝たまま斬った。

 その、稼いだ時間に暴風をまとったアイズが駆けつけていた。

「貴方を……殺す」

 すさまじい力が吹き荒れる。

「しつこい……」

 その間に、ダフネが通信機でウィーネを呼んだ。

「このままガチャガチャやっててもだめだ、ベルを回収してこっちに」

 ウィーネが素早く従う。機関砲を捨てて超高速低空飛行でベルをさらった。

 トグが回収されたベルにふたたび魔法をかけようとするのを、ダフネが止めた。

「先に春姫の妖術。レベルが上がった状態で最大限チャージ。それまで他は時間稼ぎだ。戦車も回してくれ!」

 そう、通信機に叫ぶ。

 機動性が高いチェンタウロとドラコが1両ずつ動き出す。かなり離れてはいるが、十分射程内。

 レヴィスが猫のように高速で跳ねまわりながら斬りまくる。

 アイズが膨大な風をまとい、反撃を続ける。

 役割を聞いたアステリオスが、すさまじい圧力で剣戟に加わる。

 ベルは足を失ったまま、光をまとってじっとチャージを続けた。春姫の妖術でレベル6……最大チャージ。

 同時にレフィーヤも長文詠唱に入る。

 

 

 風の魔法で終端誘導された、40センチ艦砲の直撃。そこにリヴェリアの第三段階攻撃魔法……巨大すぎるヘビが横倒しになる。

「まだだ」

 フィンの膨大な経験は、それを洞察させた。

 巨大すぎるヘビの死体が、何か黒い渦になる。

 

 

 『クロッゾの魔剣』を用いる、大型対物ライフルサイズの銃を構えたリュー・リオンがチャンスを探る。

 レベル5の彼女でも骨折確実、そのかわり威力は戦車砲以上だ。

 ビーツに、強烈な平手が飛ぶ。レベル5、『疾風』と言われる敏捷特化のリューでも見切れないほどの速度。

 だがビーツは見切って踏みこんでいる。

 拳を跳んでかわした敵、だが着地点にソロとオッタルが同時に強烈な一撃を浴びせる。

 瞬時に再生してしまうが、ふたりともそれでめげたりはしない。

 強すぎる敵と粘り強く戦い抜くことに慣れている。ソロは、仲間と戦い抜くことを知り尽くしている。

 的確で単純な指示が、ソロから出る。それに疑問を持たず従っていればいい。

【ヘファイストス・ファミリア】製の巨大成形炸薬弾頭を投げつけ、その爆発にオッタルが踏みこんで、敵を跳ばせる。その空中を狙うソロ、だが相手は空気を蹴る。慌てずにオッタルが対応し続ける。

 桁外れの強さの敵、容赦なく体力を削られつつ戦い続ける。

 だが突然蹴散らされ、ビーツにすさまじい拳が数発めりこんだ。

 常人が7.62ミリNATO弾を十数発ゼロ距離からフルオートで食らったように。

 ビーツの腹の、エリクサーの瓶が砕ける。瞬間、瀕死を通り越したほぼ即死から復活……『ステイタス』が莫大に上昇し、神の手によらず更新される。

 だがその上昇幅は、彼女の器を上回っていたのか……ビーツの目の前に、巨大な虚無の穴がある。

 オッタルが叫んだ。

「恐れるな、その穴に飛びこめ!」

 

 

 武威はわかっていた。これ以上長引くのは致命的だ。

 体力ではない。『気』が発散……どんどん増えて無限大になるのだ。

 暴走気味の大きすぎる力を、飛影が黒龍波を食ったように食う。爆発的に力が増す。

 だが飛影が、爆発的に増した力でより巨大な炎殺黒龍波を放ち自分で食ったら?繰り返したら?

 爆発的に増えた力で、またもっと強い力が汲みだされてくる。それは食うしかなく、そうなればまた爆発的に力が増す。爆発がさらに爆発になる。

 石油を掘る。その金でもっと大きなドリルを買う。もっと深い岩盤を抜き、もっと巨大な油田を汲み出す……限度が見えないのだ。

 いくら動きが正しく、妖気と身体を高く一致させていても……限度がある。

 限界を越えたら自爆……

(焦るな!)

 焦りを抑え、正しい動きに専念する。

 敵に膨大な力を流しこむ。

 事実上のカウントダウンが始まる。自爆、間違いのない死。

 思い出してしまう。二度の敗北を。

 そのとき、ふと思い出した。桑原を刺され、戸愚呂に打ち勝った幽助の姿を。

 姿だけだ。

 だが、なんとなく思った。

 何かがあった。

(誰かのために)

 託されたトグ。この世界で自分を受け入れてくれた仲間たち。

 姿。

 捨てるのではなく背負って勝った姿。

 武威は、深呼吸をした。

 武神に、深呼吸の大切さを何度も教わっていた。

 ただ呼吸に集中する。戦いすら忘れ、動きを繰り返す。

 莫大な力が暴走し、さらに強い力を汲み出す。

 体が崩れそうになる……そのとき。まとっていた鎖帷子が反応した。

 ジャージのように動きやすい、ほぼオリハルコンの、ほぼ神の手になる鎖帷子が、溶けあうように皮膚に、肉にしみていく。

 体が別の何かになっていく。

 強烈な恐怖、だが……

(二度と負け犬になるか!)

 そう、自分を叱咤した。

 あの、限界と自分で勝手に決め、戸愚呂に勝つことを諦めてただ生きていた、むなしい日々。あれにだけは戻りたくない。だからこそ死に身の鍛錬もしてきた。

 大きな穴がある。

「恐れるな、その穴に飛びこめ!」

 そう、遠くから声が聞こえた。

 それはオッタルがビーツにかけた声だったのだが……


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