ダンジョンに近代兵器を持ちこむのは間違っているだろうか   作:ケット

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決着

 120ミリ戦車砲、秒速1700メートル以上でタングステン矢が飛ぶ。丘の上に砲塔だけ見えたのが、巨大な砲口炎に包まれて見える。ふたつ並んで。

 フィンの誘導もあり、ワニのような下半身に美女の身体、斬られた片腕が長大な剣となったレヴィスの胸に……ひとつを、剣が叩きそらした。もう一発は直撃。

 体が大きくえぐられるが、咆哮と同時に再生する。

 そしてその隙に駆け寄り、槍を突き出すビーツと切り結び始める。

 

 ベルは静かに歩いていた。

(当たれば終わる……)

 それは予感している。

 だが、武威が倒せなかったほどの敵を相手に、どうやって当てるのか。

 不安はなかった。

 仲間たちを信じ切っていた。

 フィン・ディムナやソロの指揮を。

 ウィーネやアステリオス、ダフネやカサンドラの助けを。

 そしてアイズ・ヴァレンシュタインを。

 

 武威の心は穏やかだった。

 同じことをするだけ。

 敵はかなりタイプが違う。パワーに特化していた前の敵に比べ、スピードと鋭さがとんでもない。

 だが、対応できる。

 頭で考えて相手の行動を読む必要がない。『気』がすべてをやってくれるようだ。

 いや、もう妖怪としての肉体すらないに近い。『気』が本体と言っていい。

 風がただ吹くように、受け流す。

 

 フィンはソロとリューに、アイズのもとに行きベル・クラネルを支援するように告げた。

 オッタルが加わり、足止めのために残された双頭竜に立ち向かう。極深層の、カドモスの強竜や砲竜(ヴァルガング・ドラゴン)よりやや大きい体躯。はっきりと硬さがわかる鱗。2つ足と長いふたつ首。

 それがすさまじい速度で斬りつけてくる。竜というより双刀の剣士に近い。

 体そのものの反射神経が高く、風の魔法で終端誘導される艦砲を軽く回避する。1トン弾の破片や爆発ですら無傷どころか動きを鈍らせることもできない。

 オッタルと、そしてリヴェリアとガレスと、フィンはうなずき合う。

(ベル・クラネルはアイズを救った。俺もこれぐらいはしなければ……)

 改めて英雄を目指す決意。

「いくぞ」

【フレイヤ・ファミリア】幹部たちにも声をかけ、頭脳を絞る。

 背後の戦車隊。空高くのF-15EやB-1。火力と武力を、どう編成し敵を断つか。

 戦車は移動できる。オッタルとガレスが、戦車を襲おうと高速で斬りつける首を防ぐ。

 その口のひとつににテルミット弾を放り込みつつ、移動し、石を置く。

 リヴェリアの高速詠唱、強烈な炎が胴体を焼く。そこにかなり離れた稜線から、76ミリ砲が連打される。

 強烈な打撃を嫌がり、すさまじい速度で動き回る巨体。それに多数の対空砲が追随し、低空を超音速で飛ばすF-15Eのロケット弾が追い回す。首が予想外に伸びてF-15Eを襲うが、オッタルとアレン・フローメル、ヘグニとヘディンの強烈な攻撃にひるみ止まった。

 代償としてもうひとつの首と本体の巨大な爪が襲いかかり、蹴散らす。

 

「最速」

 ソロの指示を受けたアイズは、アステリオスにうなずきかけた。何度も追加詠唱を繰り返し、風を極大化させる。

 アステリオスは静かに円を描いて歩く……武威から盗んだ、元は武神が授けた技を剣に応用している。全力の踏み込み、体重移動、ねじり切った腰力。分厚い直刀の峰がすさまじい速度で円を斬る。深層で数知れぬ強大な怪物を斬った力と技。

 その峰に、軽く跳んだアイズの足が乗る。

 峰であっても何物をも砕くほどの威力。それに足の骨を砕かれながら、アイズは叫んで全魔力を爆発させた。

「リル・ラファーガ!」

 最高速を超えた最高速。

 タイミングを合わせる。別の、戦車砲と。リュー・リオンの『クロッゾの魔剣』を用いる戦車砲級の大型銃も。さらに少し移動したナメルから身を乗り出す、ダフネの無反動砲も。3方向から30ミリガトリングも。レフィーヤもウィーネも。

 矢が飛ぶ。風をまとったアイズ。120ミリのタングステン太矢。リューの、秒速4000メートルに迫るオリハルコンの先端チップがついた高密度高硬度金属矢。やや遅い無反動砲。レフィーヤの【轟雷(テスラ)】。地上のウィーネが持ち替えた手持ち改造105ミリ戦車砲。

 ベルを迎撃しようとする人型の怪物に突き刺さる……

 敵は、膨大な筋肉をふくれあがらせる。30ミリガトリング弾は直撃しているが完全無視。最強雷電魔法も耐える。先に着弾したリューの弾をはたき、胸ではなく脇腹を抜かれるが、耐える。

 右拳がアイズを正面から撃ち落す。左手が戦車砲弾を2発つかむ。無反動砲弾が着弾し、成形炸薬弾頭が爆発してメタルジェットが飛ぶが、それが肌に触れる前に数メートル移動している。同時に、ほんのわずかにタイミングをずらしたソロの剣をかわしている。

 かわしたそこに、ベルがいた。

 振りかぶられた神の脇差が、静かに落ちる。その刃は、何とも言いがたかった。黄金でもなく白銀でもない、鋼でもなければ黒でもない。ただ、あった。

 美しい振りかぶりから、袈裟切り。

 ベルは、祖父を全霊で思い出していた。一体化していた。何年も見てきた姿を。

 大地をしかと踏み、柔らかく鍬や斧を天に向ける。そして深い息とともに落とす。

 硬い根がはびこる土を鍬が断ち切る。硬い木、粘る樹皮に深く斧が食いこむ。

 そして間断なく歩く。

 美しい姿。

『正剣』発展アビリティが、ベルには発現している。刃筋が正しければ正しいほど、ベルの剣は無限に威力を増し、回避防御が困難になる。何十年も修業した達人のゆっくりした剣と、同じように。

 それが最大限に発揮された。

 トグの魔法で一時的に復活している、今や呪われ失われた足が地を踏む。

 力を抜き切った肩から伸びる腕が、刀の重さだけで刃を振り下ろす。

 深呼吸と一体化した『英雄願望』チャージを受けた体幹が、盤石の発射台となって袈裟切りを支える。

 完全に限りなく、限りなく近い刃筋。

 強烈な攻撃を受け止め、高速移動した着地の瞬間。脇に刃が入った。

 ベルはただ歩き抜けた。

 光もない。音もない。

 人型怪物が拳を振りかぶって向き直る。上半身だけ。

 ずるり、と上半身がずれ落ちる。

 すっと灰と化し、何かが残る。

 ベルは歩き続け、ふと剣と一体化していた心がずれた。

 慌ててアイズ・ヴァレンシュタインに駆け寄り、抱き起す。即座にソロが駆け寄り、ベホマをかけた。

 

 超速度の攻防。ビーツの莫大すぎる『気』と反応し、半ば物質ではなくなった槍が極超音速の剣戟を柔らかく受け流す。

 無駄な動きは寸分もない。力を用いず意を用い、柔らかく、粘るように、滑るように戦い続けている。

(すべての動きは勝利のために……)

 無駄に見える攻撃も、相手に特定の動きをさせるため。相手を操っていれば予測もしやすく、カウンターも入る。

 高水準の剛柔一体……攻撃のための動きが、同時に体幹で敵の攻撃を受け流し崩す防御にもなる。

 レヴィス本体の力と速さは際限がない。だが気がつくと場所を取られ、直線で往復する突きが精密に眉間に刺さる。レヴィスは何度も喉を、目を貫かれ、即座に再生している。胸の魔石だけは守り抜いている。

 やや離れたところで大精霊、アイズの母の大呪文が終わる。

(可能性のある強い姿に……ほんのひととき。黒竜に呑まれたときには役に立たなかったけれど)

 ビーツに、光とも風ともつかぬ何かが降りかかる。春姫の、黄金の槌とも違う。

 音がした。

 気づくと、ビーツの黒髪が黄金になっている。

 次の瞬間、レヴィスが消えた。ビーツの残身、拳を打ち終えた、馬にまたがるような足、横に突き出した拳、腰につけたもう一方の拳。

「あ……」

 ふっと、ビーツの髪の黄金が黒に戻る。そして倒れる。

 強者たちはわかった。

(山脈、いやもっともっと、何を破壊しても余る力……)

(あの核砲弾でさえ、あのビーツに比べれば核の前の手榴弾より……)

 

 

 戦いながら力を貯めた人型の敵が、全力のストレートを放った。

 武威は小さな弧を描いて歩く。歩くとは何かが違う、『気』に動かされる。

 掌を上にした手刀の手首が拳を受け流し、そのまま流す。左手を添え、関節を固めつつ、歩く延長の蹴りが低く地面を掃きくるぶしを払う。

 すべては、相手の重心を崩すため。

 その首に手刀を当てる。ものすごい力で投げに抵抗する、それもまた重心の崩れをひどくする。

 カウンターで肘が入る。身体を回し切り、膨大な『気』を一点に集中して。

 武威はただ、円に沿って歩き続ける。

 密着したまま次々と打撃が入る。どれがとどめになったのかもわからない。

 いつのまにか、敵は灰になって崩れていた。そこにはなにか奇妙な塊が落ちていた。

 

 

 高速で襲う、鋭い刃を備えた首をオッタルとガレスがふたりがかりで食い止める。止まっているところに戦車砲が命中する。

 リヴェリアが第三段階呪文の詠唱を始める。

 フィンが正確に敵を操る。

 さらにそこに、ソロ・リュー・レフィーヤ、アステリオスも加わった。

「勝利だ!」

 フィンが叫びとともに、一気に肉薄して槍を竜の胴体に叩きこむ。そして指示の指を上げつつわずかに体をそらす……戦車砲弾が槍傷に刺さる。

 絶叫とともに長い首が暴れる。その動く先を見て、オッタルとアレン・フローメルが叩き落とす。

 アステリオスの双大剣、ベート・ローガの炎拳が叩きこまれる。

 フィンが胴体を駆け登り、槍を突き刺してレフィーヤとソロを見た。

「『ギガデイン』」

「【……エルフ・リング……ジ・エーフ・キース……轟雷(テスラ)】!」

 ふたつの、それぞれ何千という稲妻の集合体が槍を通して巨竜の胴体にしみとおる。

 それで完全に動きを止めた、そこにフィンが指示を入れつつ叫んだ。

 高空から、超音速で降下しつつF-15Eが爆弾を精密に投下する。

 リヴェリアの魔法円から莫大な炎が吹き上がる。

 戦車が同時に多数の砲弾を放つ。

 ついに黒竜の、最後の分体が動きを止め、くずおれていった。

 

 

「黒竜討伐……」

 フィンがつぶやく。もうかなり昔、当時栄華を誇った【ゼウス・ファミリア】【ヘラ・ファミリア】が挑んだ三大クエスト。ベヒモス、リヴァイアサン、そして黒竜。

 二大ファミリアの壊滅、オラリオ追放。闇派閥(イヴィルス)が跳梁する暗黒時代。

【アストレア・ファミリア】の壊滅を思うリュー・リオンも感無量を通り越していた。

 レヴィスの、『穢れた精霊』の力で『黒竜』は伝承の何倍もの強さだった。

 だが、しのぎ切った。勝利した。

 フィンは、オッタルも知っていた。どれほど【ヘスティア・ファミリア】の貢献が大きいか……

 膨大な物資と兵器を提供し、連絡を整え、【アレス・ファミリア】【ガネーシャ・ファミリア】の低レベル層も戦力化した瓜生。報告が伝えてくる、瓜生が大地そのものを破壊して地下の敵を倒したと。

 リリルカ・アーデもよく瓜生を補佐し、指揮の相当部分を肩代わりし、物資を補給した。

 普通の人間ではないことがはっきりわかる、武威、トグ、そしてビーツ。

 真の勇者の力を見せつけたソロ。

 リュー・リオン、春姫。

 兵器開発に【ヘファイストス・ファミリア】の椿やヴェルフ・クロッゾの貢献も巨大だ。

 ウィーネとアステリオス、他の異端児(ゼノス)たちも別動隊を殲滅し、故郷を、ひいてはオラリオを守り抜いた。

 そのすべてをまとめ、また常に最前線で皆を鼓舞し、大きな犠牲を払ってアイズ・ヴァレンシュタインを、その母を救ったベル・クラネル……

 誰もが求めていた、最大の栄誉。

 だが、この戦いは……ベル・クラネルは女神フレイヤの祝福を帯びている。

 見渡せば膨大に転がる戦利品も、栄光も、ベルのものはすべてフレイヤ……

(戦いが終わったら、それは次の戦いの始まりでしかないのか……)

 フィンは胸の痛みをこらえる。戦いの高揚、勝利感が一瞬で汚されるように思ったのだ。

 だが、ふとそちらを見た。かりそめの足をまた失い、アイズに抱えられて慌てているベルを。

 その表情には曇りがなかった。ただ照れ、焦り、そして喜んでいた。

(大切な人を救えた……)

 それ以外に何もない。

 ふたりを見つめるソロやリューの表情からも、さまざまな感情が洞察される。

 

 フィンは気がついた。いつしか、アステリオスの姿がない。

(あくまで彼は、再戦の日のために修行に行くのか……)

 まっすぐな目的に向かって走る漢が、うらやましかった。

 目を閉じる。深く呼吸する。膨大な計算を一瞬でこなす。

 かたわらに、ガレスとリヴェリアがいた。

「帰ろう。勝利を告げに」

「ああ、勝ったな」

「勝った」

 小さな派閥を立ち上げた時から変わらない、3人の決意。

 フィン自身は、最近大きく変わった。偽勇者を捨て、真の勇者を目指して戦うと。

(そのために、今すべきこと……)

 まずそれを考える。眷属たち、家族のため。仲間たちの、派閥のため。主神のため。

 これからも戦いは続く。武力を用いない戦いも。




・指向性にした核地雷
・超々大型自己鍛造弾
・水爆を推進薬とした超巨大超高初速砲
これらを使う余裕はなかったですね……
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