ダンジョンに近代兵器を持ちこむのは間違っているだろうか   作:ケット

95 / 99
ステイタス

 黒竜との戦いは終わった。

 まだ残党はテルスキュラ周辺などにいるが、空軍を中心として探し出しては殲滅している。

 ついでに、山奥の村を守る黒竜の鱗はドロップアイテムであり、魔力は消えていない。

 この戦いでは膨大な量のドロップアイテムも確保された。

 それは第一級冒険者の武装ともなるだろう。

 大精霊である、アイズの母が再生した。大きすぎる代償を払って。

 

【ヘスティア・ファミリア】本拠地では、まず瓜生が車椅子など介護用具を用意した。

 無論ヘスティアは号泣していた……が、

「命はあってよかった、帰ってきてくれてよかった」

 とも何度も何度も叫んだ。

 足を失い、役立たずとなったことの不安はすぐに吹き飛んだ。

 そして眷属たちの、【ステイタス】更新……ベルも、またベル以外も、気絶ものの連発には違いない。

 

 ただし、前線に出たベル・ビーツ・リュー・ソロ・トグ・春姫はダメージや精神枯渇で入院状態となった。

 武威は……もう存在自体が別の何かになっているため、しばらく神ヘスティアの監督で経過観察。いざとなったらヘスティアが天界送還承知で『神の力』を使ってどうにかする覚悟。

 瓜生やリリ、命もかなりの過労だが、それはどうしようもないし仕事はまだまだある。

 

 ベルは戦争中にレベル5になったばかり、だが一戦で平均150以上経験値を稼いでいた。

 だが、足を失ったのは呪詛のようなものであり、

(義足を着けても機能しない……)

 と医神ミアハも、【ディアンケヒト・ファミリア】も宣告した。

 もうベルは、トグの魔法を用いる以外足で立つことはできない。金はあるのに。

 だから、ベルは装甲戦闘車両を学ぶことにした。

 上層は誰かが担ぐ籠の中、付与魔法だけで貢献する。

 中層以降、ナメル30ミリRWSの単独操作。足が使えないので、ふたつの多ボタンジョイスティック+複数のタブレットを用いて、本体の操縦とRWS射撃を同時にやる。

 完全にゼロからの学習。だが、

「フィンさんも、リヴェリアさんも、ナァーザさんも頑張ってできるようになったのだから……」

 と、懸命に学びはじめた。

 ダンジョンの奥でも春姫と同じように強力な付与魔法で貢献し、また敵が強いときにはトグに魔法をかけてもらって歩き回り、斬りまくることができる。

 さらにダンジョンに行かない日には、トグの魔法を受けてしばらく激しい運動をすることもできるし、修行もできる。

 とはいえ、車両が故障した時の修理、外に出ての弾薬補給、あまりの悪路で動けなくなった時の土木工事などができないのは辛いが……ないものはない。できないことはできない。できることをする。

(それも強さだ……)

 と、リュー・リオンやアイシャら冒険者の先輩たちが励ましたものだ。

 修行ではめちゃくちゃな強さになっている武威、ビーツ、またソロとも、『正剣』発展アビリティである程度食い下がることができている。

 普段の生活が車椅子というだけで、冒険者としては特に支障はない。

 だがそれでも、変わっている。団長としての自覚もでき、これまでは瓜生とリリに頼り切っていた事務仕事にも手を出すようになった。

 ちなみに車椅子を押し介護するのが誰か、ヘスティア、リリ、春姫ら何人もがいつも奪い合っている。【ファミリア】が異なるアイズ・ヴァレンシュタインも。

 

 ベルが足を失うことになった精霊王の召喚呪文……それは一度きりで以後は使用不能。だが、【千の妖精(サウザンド・エルフ)】レフィーヤがその呪文を使える。

 穢された存在を再生させることもできるし、単に攻撃に用いてもリヴェリアの第三段階以上、核兵器級の超高温の炎である。負担は大きすぎるが。

 

 

 瓜生はスキル【冒険介添(サンチョ・パンサ)】をリリルカ・アーデに譲ったためか、かなり経験値が入りランクアップできた。

 半面、この死闘でもほとんど経験値が入らないことにリリは落ちこむ……余裕がなかった。足を失ったベル、さらにそれがアイズのため。悲嘆と嫉妬でそれどころではない。主神ヘスティアとワーワー怒鳴り合ったりともに泣いたりしている。

 

 ビーツはランクアップはしていないが、すべての数字が1000をはるかに飛び越している。

 腕相撲ではガレス・ランドロックにも、オッタルにも余裕で勝てる。

 さらに、ほとんど鍛冶神ヘファイストスが作った槍が、とてつもない『気』を受けたことで変質し、短剣サイズに縮小することができるようになってしまった。

 

ビーツ・ストライ Lv.4

力: EX 97875

耐久: EX 155728

器用: EX 75412

敏捷: EX 154185

 

耐異常・耐呪詛:G 怪力:D

 

《魔法》

 

・魔法を使用できない種族

 

《スキル》

 

【戦闘民族(サイヤ)】

・種族として魔力を持たない。

・種族として体力がとても高い。

・成長が早く、限界を超える。

・瀕死から回復したとき、獲得経験値超高補正と自動ステイタス更新。

 

【月下大猿(ヒュージバーサク)】

・条件(尻尾がある状態で、満月の光または同等の波を直視した)達成時のみ発動。

・獣化、階位昇華。理性を失う。

・尻尾を失うか、周囲を全滅させれば戻る。

 

【界王拳(オーラクロス)】

・常時発動。

・『気』による物理・魔法・呪詛を問わぬ絶対的な防御。耐久の階位無視激補正。

・武術と統合された、必要なだけの力・敏捷の階位無視激補正。

 

【超戦士(スーパーサイヤ)】

・〔文字化け〕

・〔文字化け〕おだやかな心を持ちながら激しい怒り〔文字化け〕

 

 何よりも、最後のスキル……神にもごく一部しか読めない、別の何か。

 大精霊であるアイズの母が強力な魔法で一時だけ顕現させた、黒竜・レヴィス・穢れた精霊が融合した本体を瞬殺した、遠いかなたの可能性。

 金色の髪。漏れ出る莫大な『気』。

 その力は神々の想像すら超えるものだった。ゼウス・ヘラ時代の、レベル9を知るオッタルの想像もはるかに突き放すものだった。

(この惑星自体を軽く消滅させられる……)

 ほどの。

 彼女自身は、武神の指導を受けひたすらに、拳と槍の基礎を繰り返している。

 

 

 存在自体が変容してしまった武威は、公的にはレベル7にランクアップした、ということにしている。実際、主神ヘスティアによるステイタス更新でもランクアップはしている。

 膨大な『気』の運用……暴走した『武装闘気』を自分で食い、爆発的に増した気でさらに深く掘り下げることを際限なく繰り返した結果、とてつもなく深い部分にまで達している。

『気』そのものの質も、人間の究極の気『聖光気』に似たものとなっている。妖怪としての肉体も変わっている、無理な質と量の『気』の運用で、ほぼオリハルコンでできた神造の鎖帷子と妖怪の肉体が融合してしまった。

 普段は人間に変じて生活できるが、修行や戦闘のときにはほぼ『気』だけの存在で、オリハルコンと融合した薄皮をまとっているだけとなっている。

 ただ、そうなった彼を見ても武神タケミカヅチもオッタルも、

「今まで通り、套路を丁寧に修行することだ」

 とのみ言い、武威も熱心に従った。

 うぬぼれるなど冗談ではない。今の彼でも、故郷の世界を去る直前に感じた巨大すぎる力、また黒竜戦の最後にビーツが一瞬変じた黄金の姿に比べれば、

(虫けら以下……)

 なのは知れているのだ。

 まして『気』のほうが本体と言っていい存在の今、気が乱れることは死を意味している。

 ちなみに重い鎧は必要なくなっている。

 

武威

気仙 Lv.a

 

力: I 0

耐久: I 0

器用: I 0

敏捷: I 0

 

耐異常:B 魔防:D

 

《魔法》

・魔力はすべて闘気に回している

 

《スキル》

 

【魔気身(オーラバトラー)】

・常時発動。

・『気』を深い部分から召喚する。

・『気』による物理・魔法・呪詛を問わぬ絶対的な防御。

・人間に変身できる。

 

 

 トグもランクアップし、レベル4と報告している。

 ただし最大まで筋肉を上げれば、少なくとも腕相撲ではレベル6とも張り合える。

 ランクアップの結果もあり、春姫の妖術を受けて必死になれば70%、ガレス・ランドロックに腕相撲で勝てる。

 また新しい魔法も発現した。春姫・ベル・レフィーヤ、誰と組んでも、自分自身に使っても凶悪なものである。

 

戸愚呂ジュニア

妖怪に転生した人間と、天人のハーフ Lv.b

 

力: I 0

耐久: I 0

器用: I 0

敏捷: I 0

魔力: I 0

 

怪力:E 耐異常:I 精癒:I

 

《魔法》

 

【解放の風(バーチャー)】

・一名、どんな傷も状態異常も一時的にキャンセル、数分間全力を出せる状態にする

・詠唱式『今のお前に足りないものがある、危機感だ』

 

【守りの壁(ケルビム)】

・防御壁の展開

・詠唱式『他の誰かのために120%の力が』

 

【超越の翼(セラフ)】

・一名、魔法の効果及び効果時間の大幅増強

・詠唱式『こんな力を出せたのは初めてだ』

 

《スキル》

 

【筋肉操作(ボディビル)】

・全身の筋肉を操作し、力・耐久・敏捷を超強化。

・80%以上になると周囲の生命力を吸収する。

・限界を超えると一定時間後に死ぬ。

 

 

 ソロはレベル7のまま。

 それでも膨大な激戦は、かなりのステイタス上昇となっている。いくつかの発展アビリティも発現した。

 こちらに来てからもとんでもない戦いを繰り返しているが、オラリオに来る前の日々に比べれば、

(まるでぬるい……)

 と本人は言っているが。

 黒竜戦ですら、大した戦いには思えないほどなのだ。

 

 

 

 黒竜討伐。それ自体が、世界最大のニュースとなった。

 世界全てが求めてやまなかった3大クエスト。それがついに達成されたのだ。

 膨大な熱狂があった。

 さらにその多くは、テレビ・ラジオ・大量印刷新聞というメディアの変化、マスメディアによって世界に知らされた。

 本来は、この戦いではベル・クラネルは女神フレイヤの祝福を受けており、すべての名誉も戦利品も【フレイヤ・ファミリア】のものとなる。

 

 だが、【フレイヤ・ファミリア】は愚かではない。特に戦いについては。

 レベル6や7の自分たちでさえ、

(足手まとい……)

(慣れていないサポーター……)

 に過ぎないことは嫌というほどわかってしまった。

 レベル6の全力攻撃でも、戦車砲に遠く及ばない。継続的には30ミリガトリング砲や120ミリ迫撃砲にも及ばない。

【ヘスティア・ファミリア】のトップメンバーの桁外れどころではない強さの前では、その功績を奪うなどみじめを通り越している。眷属の不名誉は主神の不名誉、そのようなせこい真似をして主神フレイヤの名に泥を塗るなど、たとえ誰にも知られずとも、

(自分で自分を拷問処刑する方がまし……)

 である。

 オッタルは主神に、誠実正確に報告した。フレイヤはそのすべてを受け入れ、すべて愛する従者に任せた。

 眷属たちも、すべてを団長にゆだねた。

 団長オッタルは、ベルが当然のように渡した分け前も含めた膨大なドロップアイテムの過半を鍛冶ファミリアに渡し、その代償として近代兵器の訓練、必要な時の使用権を買った。ある程度は自分たちの装備向上にも使うが……黒竜軍のドロップアイテムはさすがに、以前の【フレイヤ・ファミリア】の総力遠征ですら手に入らぬほどのものであり、武器防具とすれば桁外れの戦力増強となる。

 そして【ヘスティア・ファミリア】の活躍を、リリが隠したがった瓜生の能力以外、ベルたちの戦士としての強さをほぼ正確に報道させた。巨大な影響力や権力を縦横に用いて。

 逆にそれは、【フレイヤ・ファミリア】にとっても巨大な益となった。ベルの名誉はフレイヤを飾る宝石なのだから、

(貶めるのではなく、より大きくする……)

 のは当然ではないか。

 

 

 戦後、オラリオに事実上の軍ができた。

 周辺の農地開発・衛星都市建築・鉄道や道路の建築を行う【アレス・ファミリア】、ラキア虜囚たち。

 さらに人数を増やし、膨大な資金と近代武器・通信器具を得て、都市警察の実質を持つようになった【ガネーシャ・ファミリア】。それと深い関係のある『ギルド』。

【ロキ・ファミリア】【ヘファイストス・ファミリア】は、末端まで戦車や戦闘機、その整備機械・工具の扱いに精通し戦い抜いた。人数は膨大な【ガネーシャ・ファミリア】にも叩きこんだ。

【フレイヤ・ファミリア】の、膨大な数いる低レベル層も訓練と勉強を必死に始めている。

 また、トラックやブルドーザー、トラクターや通信、電気インフラを学ぶ、非恩恵の一般人も多い。

 

 そして、【カーリー・ファミリア】でもあるテルスキュラ国。

 黒竜軍の分遣隊により壊滅に瀕し、膨大な艦砲射撃に救われ一時全国民が避難し、大半は入院している。

 半分近くがオラリオに残ると主張している。もともと身体能力に優れレベルも高いアマゾネスたちが、傷を癒してからダンジョンで修行すればどれだけ強くなれるか……

 ラキア虜囚が開発した田畑や都市は、それを余裕で受け入れている。

 性的に開放的な多数のアマゾネスは、娼婦を副業にすることにも抵抗はない。それは膨大に需要も人口も増えるオラリオにとっては莫大な利となった。特に軍の将兵であり、すなわち大半が若い男、その多くが独身であるラキア虜囚にとって。

 

 

 黒竜を倒して半月ほど、残党もあらかた掃討したとして、ついにパレードが行われた。

【ヘスティア・ファミリア】のベルは入院中だが、大画面映像で病室からテレビ中継された。

 膨大な量の酒と食材が用意され、ふるまわれる。

 そのために瓜生が用意した超高級オープンカーが大通りを走る。

 

【ロキ・ファミリア】の3人のレベル7、『勇者(ブレイバー)』フィン、リヴェリア、ガレス。アイズ、ベート、ティオネ、ティオナ。ラウル、アナキティ、アリシア、ナルヴィ、レフィーヤ、リーネ……

 すさまじい美貌と強さの綺羅星たち。

 主神ロキも、その美貌を引き立てる服で体形をごまかし、飾り立てて手を振る。

 並ぶ【フレイヤ・ファミリア】。『猛者(おうじゃ)』オッタル、アレン・フローメル、ヘディン、ヘグニ、ガリバー兄弟……こちらもすさまじい強さ。そして率いる美の女神フレイヤの、あえて服を簡素・単純にしたことで倍増した究極の美貌。

 さらに並んで、【ヘスティア・ファミリア】でなんとか回復したソロ、武威、リュー・リオンが立つ。さらにリューはウィーネをともなっていた。

 ヘスティアも、本当はベルのそばにいたいのを我慢して眷属の晴れについている。

 ウィーネもまたその可憐な美貌もあり、フレイヤを含めた神々がその奮戦を語ったこともあり、『戦争遊戯』でベルをかばって死にかけたこともあり、今やモンスターに対する恐怖も吹き飛ばしてオラリオの民に受け入れられた。

 ウィーネの美貌はリューの美貌とも引き立て合っている。瓜生からタダで得たテレビで見ている『豊穣の女主人』の同僚たちは大喜びしていた。はるか遠くの都市で、かつての主神はテレビの映像を見て号泣している。

 ソロは、

(真の勇者……)

 迫力と存在感はフィンやオッタル同様、いやそれ以上に神々にすら匹敵するものである。

 そして武威の、桁外れを通り越した強さと強さを求める求道者の魂も、黙って座っていてもわかる者には自然に伝わる。

【ヘファイストス・ファミリア】の椿と主神もいるが……本当はふたりとも、やることが山ほどある。

「上方酸素の管冷却、連続圧延……スカンジウムとイリジウムとアダマンチウムと黒竜の角の粉末冶金の温度と粒度……57ミリチェーンガン……電解精錬……第一級冒険者用……」

「今は頭の中だけにしておきなさい」

 こうである。

【ガネーシャ・ファミリア】の主神ガネーシャと団長シャクティも。

【アレス・ファミリア】のマリウス王子ら幹部も。

【カーリー・ファミリア】の主神、幹部のふたりのアマゾネスも。

 多くの、この戦いに協力し奮戦した人たちが人々の前に顔を見せ、手を振る。

 そしてソロが支える大画面テレビの、病床のベルもはにかみながら微笑んでいる。ビーツは相変わらず大量の食物を食べている。

 それだけで莫大な熱狂が沸く。

 

 オラリオは、世界は熱狂した。美と、戦い・勝利・英雄と、蒸留酒と美味に。

 あの『戦争遊戯』の興奮もまだ終わってはいない。

 何人もの吟遊詩人が、すさまじい戦いを一般人にもわかりやすく、また冒険者の生命線である『ステイタス』は秘したまま叙事詩としている。

 そしてピアノやギターを手に入れ、また製作されたのを買って弾き語りをしている。

 あるいはCDラジカセを高額で買い、瓜生の世界のインスト曲に歌詞をつけて歌っている。

 店の食事にも、路上の屋台、いや屋台未満……路上に鍋と皿を並べ石を組んで作り売りしている料理にさえも、瓜生の影響はある。

 味噌や醤油などの調味料……物自体は極東と呼ばれるこの世界の島、【タケミカヅチ・ファミリア】の故郷からも手に入るが。

 瓜生の故郷独特の洋食・中華・イタリアンなどを日本人向けに変形した料理も。味付けも、スパイスも。

 瓜生が何かを出し、流行させれば同じような材料を探して商人が世界を駆ける。

 膨大な人に、さまざまな仕事がある。

 豊かだからこそ、熱狂は贅沢となる。借金で贅沢した人も、その借金を返せる希望がある。貸し手は返してもらえる希望があるから、利子をめちゃくちゃにはしない。

 一度きりの、裏切りが当たり前、騙された方が悪い商売ではなく継続がある商売となる。それは質を変える。囚人のジレンマの、裏切るのが正解から両方誠実であることができるようになり、両方が得をできる別の高みに行ける。

 読み書きを教える『学区』にも膨大な寄付が入り、それまで路上で飢えていた貧民も勉強して新しい仕事をする。

 

 熱狂、熱狂、熱狂……

 その中にこそ、瓜生たちは世界を変える種を植えた。前の『戦争遊戯』と同じく。

 膨大な熱狂の中でこそ、ラジオやゲーム機は売れる。

 膨大な熱狂に惹かれ、世界中からオラリオに超金持ちが移動しようとする……あらゆる交通に膨大な信用が注がれる。金銀は『ギルド』にも、瓜生が出しものが以前の罰則(ペナルティ)として莫大に準備されているが、それだけでは価値がない。

 金を経済を回す血液に変換するのは、世界各地の商人であり王侯貴族であり働く人々なのだ。信用こそ真の貨幣だ。

 世界各地でもパレードはラジオやテレビで中継され、貴族の庭などに膨大な人々が集まり映像をわずかでも見ようと目を凝らす。

 そうなればもちろん、屋台が出るし吟遊詩人も多額のおひねりを受け取る。

 あらゆる商売に活気が出る。

 黒竜の噂に、

(今度こそ世界は終わりか……)

 と絶望していた、それが一気に熱狂に変わったのだ。

 

 その熱狂の中、ひとつの名が叫ばれた。

 誰よりも。

 ベル・クラネル。

 火の鳥を放って黒竜に呑まれ支配された大精霊を救い、『剣姫』の心を救い、強すぎる敵を切り伏せた勇士。

 モンスターさえ率いた少年。

 なぜ、ベルがそれほど叫ばれたか……それはわからない。オッタルらがそう仕向けたのではない、彼らはひたすら正確にありのままに語った。

 世界各地で人々が叫ぶ。テレビ画面で、病室で微笑する少年を。

 奇妙なほど、ベルの容貌はテレビ・ラジオと相性がよかったのだろうか。

 

 オラリオから離れた町でも、オラリオから追放されたベルの祖父と使者神ヘルメスがテレビ画面を見ていた。

「どこが、英雄の器がないと?この熱狂が聞こえないのかな?」

「ふん、あれを感じたじゃろう?戦う力ではうちの孫などたいしたことはない、最後の戦いでもあいつだけは助けを借りておるじゃろう」

 そういう老人の頬はどうしようもなく緩んでいる。

「それよりもじゃ、器でもないのに英雄になってしまったら、それは悲劇じゃぞ!」

「神々は何よりも悲劇が大好きでしょうが」

「まあそうじゃがのう……ああ、余計なことはするなよ」

「ふうぐっ……おお、怖い怖い」

「最悪、妻に言いつけ」

「ごめんなさい絶対しませんそれあんたにも自爆どころじゃないでしょうそんな恐ろしいことよく考えられますね鬼ですか」

 実は【ヘルメス・ファミリア】も、この戦いにはかなり貢献している。『万能者』アスフィ団長は『神秘』レアアビリティでキメラのつばさをはじめ多くのアイテムを複製した。また世界各地に広がる商人網でもあるファミリア全体で、テレビやラジオをはじめ情報網を整備することに貢献している。

 それは敵を見つけ、その進路にいる人々を避難させることに何度も貢献していた。

 

 英雄になる。

 ベル・クラネルの夢は、かなってしまった。

 それからが、真の戦いの始まりである……

 いくつも、瓜生の故郷の英雄の伝記を読んでもらったベルは、知っている。

 そして……




今更ですが「黒竜戦役」というと、別の作品を思い出します…
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。