気づけば、この作品の前回の投稿から半年以上がたっていました。
それ以前に、初投稿時に二話連続投稿して、そのまま止まっていました。
誠にすいませんでした。
前置きはここまでにして、それではどうぞ、ご覧下さい。
空が白み始める頃になって、リボーンは重い足取りで、居候先の沢田家に戻ってきた。
「お帰りなさい。リボーン」
扉を開閉する音に気づいたのか、今から出てきたのはリボーンの三番目の愛人にして、同じく沢田家の居候、ビアンキ。
その目は、発した言葉以上に、多くの事を訴えていた。不安から眠ることも出来なかったのか、目の下には薄らと隈が出来てきている。
「……すまねえ。ビアンキ」
しかしそんな彼女にかけることの出来る言葉を、リボーンはこれ以外持ち合わせていなかった。
沢田綱吉が行方知れずとなり、笹川京子が発見されてから、既に六時間以上が経っている。
雲雀恭弥率いる風紀委員会も、ボンゴレファミリーの諜報部も血眼になって並盛中を探しているが、彼の行方はようとしてしれない。
ここまで来れば、ボンゴレファミリーの関係者としては、最悪の事態も視野に入れて動く必要性が出てくるだろう。
即ち、ボンゴレ最後の後継者、沢田綱吉の死の可能性を。
「ママンの、様子はどうだ?」
最悪の事態から目を逸らそうとするように、話題を変えたリボーンに、ビアンキは瞳を揺らす。
「パパンと……沢田家光と連絡をとって、ようやく落ち着いたわ」
ママンとは、この家の女主人……沢田奈々の事だ。彼女が一人息子である沢田綱吉の失踪を知ったのは、今から五時間程前の事になる。彼女は自分の息子がイタリアンマフィアの中でも強大な組織、ボンゴレファミリーの十代目……次期ボスであることは勿論、彼女の夫であり、沢田綱吉の父親、沢田家光が、その組織の実質的な二番手である門外顧問機関の長であることも知らない。そのため、現場にいた笹川京子の状態等の詳しい事は教えていない。リボーン達と喧嘩して家を出してしまった。それ位にしか考えていないだろう。
既に死んでいるかもしれない等と、言える筈が無かった。
「俺の……責任だな」
ポツリと呟いたリボーンは、ボルサリーノで目元を隠した。
リボーンは、現ボンゴレファミリーのボス、ボンゴレ
近頃はその成果も現れ、自らの命を狙ってきた六道骸を倒し、ボンゴレの独立暗殺部隊、ヴァリアーのボスにして、ボンゴレ
それらの激戦を目の前で見続けていたリボーンは、不覚にも思い込んでいたのだ。
沢田綱吉は大丈夫だと。
少しばかり目を離したとしても、そう容易く倒れるような存在ではなくなったと。
まだ己がマフィアの十代目候補だと知って二年。まともな戦闘経験を積み始めて、まだ一年も過ぎていなかったのに。
(まだたった……半月前に十四になったばかりの
この時、リボーンの胸に過ぎた感情は悔恨だった。
家庭教師としての責任や殺し屋としての誇り。そんなものよりずっと大きく、リボーンは後悔していた。
沢田綱吉を救えなかったことを。
「すまねぇ……ツナ」
涙は一滴も出ることは無く、懐に入った彼のアニマルリングが、やけに重たかった。
「なぁ、獄寺」
夜が明けたばかりの並盛の町を、あてもなく歩いていた獄寺隼人は、同じように隣を歩く山本武からかけられた声に、チラリとだけ目線を向ける。
「……これからさ、どうなんのかな?」
主語の無い問いに、獄寺の眉間の皺が寄る。その様子に気づくこと無く、山本は只吐き出すように言葉を続けた。
「ツナは見つかんねぇし、犯人の手がかりもねぇ……小僧もずっと」
山本はそこで、最後に見たリボーンの姿を思い出した。
いつもの不敵な笑みが消えた、沈痛な表情。背を向けた小さな後ろ姿。
今まで様々な苦難を、綱吉と、仲間として乗り越えてきた。それは獄寺とて同じだろう。
そんな今までの戦いの中でも、山本は一度も、リボーンのあのような表情は見たことが無かった。
綱吉の傍らでいつも、山本を導いてくれた彼は、表情が読みにくく、ニヒルな笑みを浮かべて、常に余裕げに飄々としていた。
山本は無意識の内に、首にかけたままにしてある、「雨のボンゴレリング」を取り出す。
「未来」の戦いで初代ボンゴレ……ボンゴレ
その時、山本は自分も初代の守護者達に認められたかのような、そんな感覚を覚えたのだ。
「……俺たち、ツナの為に何か出来たのかな」
誰に尋ねるでも無く、山本は只言葉を漏らす。元々、誰かに答えて欲しかった訳でも無い。
だからこそ、言葉が返ってきたのは予想外だった。
「何か出来たか、じゃねぇよ。野球バカが……!」
並んで歩いていたはずの獄寺が、いつの間にか止まっていた。
一歩、二歩と近づき、呆然としているこちらに構わず、襟首を持ち上げられる。
僅かに感じた息苦しさに息が零れるが…それを気にすることなく、獄寺は言い放った。
「野球バカの分際で! グダグダクソ下らないこと、考えてんじゃねぇっ!!」
響いた怒声に、思わず目を丸くした。それに「馬鹿野郎が」と続け、獄寺は宣言する。
「十代目が行方不明になって……俺たちの周りがどうなるのかはまだ分からねぇ。けど……俺たちはどうすれば良いのか、それは俺の中ではとっくの昔に決まってる!」
常とはまるで別人のように静かな声音。
まっすぐに逸らされない瞳で、獄寺は山本を見据えた。
「俺は、十代目が戻ってくる事を信じている。だから、十代目が帰ってくる場所を、俺は守る」
迷いのない、覚悟の灯った目に、山本は頭を下げていた。
「悪かった……ごめんな。獄寺」
「何が出来たか」……過去として、沢田綱吉を見つめていた。
無意識に、その死を受け入れようとしていた。
そんな山本に、獄寺は気が付いた。
「……だからテメェは野球バカなんだよ。俺に言うことじゃねぇだろ!?」
容赦なく発せられる言葉の数々に、確かな暖かみがある。
「俺じゃなくて、十代目に言うことだ。……バカが」
並盛に隣接する町、黒曜。
その郊外にある、黒曜ヘルシーランドは、閉鎖されてから三年が過ぎている廃墟である。
そこには今、ボンゴレの保護下におかれている三人の子ども達が住処として暮らしている。
「クローム」
その中の一人、眼鏡に、頭の上に被ったニット帽がトレードマークと言える、おかっぱ頭の少年、
彼女はもう一人の「霧の守護者」であり、彼ら三人が忠誠を誓う主人「
そんな身の上だからこそ、依存心に近い形で彼を慕っており、髪型も彼と同じパイナ……いや、ひどく特徴的な南国果実を模していた。
軽く目を瞑っていた少女は千種の問いかけに首を振った。
「やっぱり……無理だった。ごめんなさい。骸様、ずっと反応がないの」
小さく呟いたクロームは、自身の無力さに恥じるように俯く。
千種はそんな様子に構うこともせず、いつの間にかズレていた眼鏡を軽く直している。
「そう。……困ったね」
「へっ! 肝心なときに役に立たねぇ女だなぁ!」
この場所にいた最後の一人、
「……犬。言い過ぎ」
淡々と千種が注意するものの、不満を良い足りないのか、これ見よがしな舌打ちと共にそっぽを向き、廃墟の出口へ向かっていく。
本来彼は、他者には喧嘩を売ることが多く、やり合う相手には容赦の欠片も持たない狂戦士の性質を持つが、その分仲間に対しての情は厚い。
しかし今はそれ以上に、連絡を取れなくなった六道骸の事を案じているのだろう。
彼ら三人を繋ぐのは、骸に対する感情である。
数千譲って牢獄に幽閉中であることは許せても、その彼と連絡が取れなくなることは許せないと言ったところか。
(……でも、骸様のこの感じ、似てる……)
溜息を着く千種を横目にしながらも、クロームは既視感を覚えていた。
数ヶ月前に起きた、ボンゴレリングを巡る、リング争奪戦。その最終戦であった大空戦の直前と、今で、骸の状態には、類似点があるように感じたのだ。
(まるで……他の人に話しかけているみたい)
昨夜、まだ日が昇らない未明に訪れたのだろう黄のアルコバレーノ、リボーンからの置き手紙で、クローム達三人は現在並盛にいるボンゴレ関係者が直面している事件の事情を知った。
緊急を要する事態で『霧の守護者』である筈の六道骸への伝達手段が置き手紙と言うのは、そのままリボーンの中にある彼らとの距離を表していた。
だが、それも仕方がないのだろう。
一度は沢田綱吉を狙ってきた過去を持ち、今も柿本千種、城島犬達の保護を条件に守護者となっている骸は、根本の部分ではまだリボーンに信用されていない。
最もこれに関して言えば、他ならない六道骸本人が、沢田綱吉その人に「信用するな」と言っているので、それも理由になるのかもしれないが。
結局その置き手紙では、こちらの要請があるまで待機と現状維持を命じられていたらしいが、それに反発したのがこの騒ぎの始まりだった。
彼らの目的はあくまで沢田綱吉の肉体を六道骸が使い、マフィアの世界に混乱を起こす事であり、その沢田綱吉がいない以上、ここに留まる事は彼らの利益にはならない。
そのため、事の報告も含めて、骸に指示を仰ごうとしていたのだ。
(骸様……一体、誰と話してるの?)
他のお話もゆっくりと、書けていけたらいいなど思います。
それではまた、ご縁がありましたら、よろしくお願いします。