虚実の物語   作:雪宮春夏

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 ……前回から一年と一ヶ月ぶりです。
 こんな作者ですいません。雪宮です。
 全体で見ても前回の更新が新年初日でした。もう年度末なのに……。

 反省も長々されても迷惑だろうと思うので一先ずここまでにしときます。

 それではどうぞ。
 ご覧下さい。




「デロ ロクドウ ムクロ」

 抑揚の無い、くぐもった声。

 それと同時に体を拘束されていた鎖を引かれ、無理矢理体を地面に引き摺られた。僅かにあげた呻き声は掠れ、音としても聞き取れない有様だった。力の入らない体を、意思の力で動かし、薄く瞼をこじ開ければ、そこには小枝のように細く、衰弱した己の体があった。

(…これは一体……どういう事だ?)

 気を引き締めなければ再び途切れてしまいそうな意識を、何とか保ちながら六道骸は思考を巡らせる。

 今から二ヶ月前、ボンゴレ十代目候補である沢田綱吉の肉体を手に入れるために、収容されていた監獄を脱獄した。その際に他の囚人と看守を皆殺しにしたこと。そして並盛でも、数十人の一般人を巻き込んだことにより、「マフィア界の番人」と呼ばれる復讐者(ヴィンディチェ)に連行されたのだ。

(……つい数週間前、そこから更に脱獄しようとした僕を、奴らは最下層の水牢に入れたというのに、何故今そこから出されている?)

 復讐者の思惑が分からず、自然と骸は自由にならない体を強ばらせた。

 先日受け取った「十年後の未来」の記憶では、自分は十年間、水牢の中に捕らわれていた。ここまで短期間での解放など、ある筈がない。

(何か……誰かが糸を引いている?)

 骸が思考を巡らせている間に、いつの間にか彼を引き摺っていた復讐者の動きが止まっていた。ガララと、微かな起動音と共に格子が上がり、その直後には、骸の肌を突き刺すかのような冷気が襲う。

 しかし骸は、それ以上の驚愕と疑問に襲われていた。

 復讐者と対峙する、己を解放した相手を目にしたせいで。

「どういう……ことです!?」

 常に敵に対して浮かべていた、余裕の笑みは今は無い。隠しきれない動揺の中、一方で納得もした。

 この男ならば、復讐者と取り引きをすることぐらいは出来る。それは他でもなく、未来の自分が証明しているのだ。彼の取り引きを利用して、この牢獄から出所したのだから。

「相変わらず冷たい仕打ちだねぇ? 薄着一枚なんて、骸君が風邪引いちゃうじゃんか」

 そこに立つ男は、送る言葉とは裏腹に、満面の笑みで復讐者を迎えている。

「クフフ……何のつもりですか? 白蘭(びゃくらん)

 格子の降りた牢の外側、未だ拘束状態の骸に対してその男……「十年後の世界」で沢田綱吉に倒されたマーレリングの所有者は、ふふっと笑みを零した。

「ちょっと骸クンに、頼みたいことがあってね?」

 これは沢田綱吉が失踪してから、僅か二時間後の出来事である。

 

 

「……店長」

 テッサイの呼びかけに、手元の機器を弄くり回していた浦原が視線を向けた。

「やっぱり……ダメっすか」

 浦原が目を向けたのは座敷に敷かれた一組の布団。その中に横たわる一人の少年に対してだった。

「体に関する傷の方は既に処置は完了致しました。しかし魂魄に欠損が……」

「やっぱりッスか……「最低値」には?」

 冷静に分析するテッサイは、浦原の問いかけに首を横に振る。その二人の会話に割って入ったのは彼らの背後で様子を見ていたその少年の横たわる布団を敷いたジン太だった。

「な……なぁ、その「最低値」って、なんだよ?」

 どうやら一度起き出していた手前、処置の間に眠りに戻るタイミングを失ってしまったのか、彼らの傍に残り続けていたのだ。

「うーん……最低値が何か、スか……」

 袖元から愛用の扇子を抜き取り、徐に広げた浦原は、僅かに言い淀んでから続けた。

「まぁ、平たく言えば……」

 

 最低値……それは、霊子体が観測されるに当たり、必要最低限の「霊子」数を指す。

「まぁ、その考え方自体、実践よりもお堅い理論重視のお役所仕事の人達しか使わないから、一般の()()には馴染みのない言葉なんだけど……」

 そこで言葉を切った白蘭は、目の前にある袋から一つ、見慣れた甘味……マシュマロを取りだして口に含んだ。

「やっぱりキミも知らない側かな?……()()()六道 骸(ろくどう むくろ)くん」

 白蘭の言葉に、ヒクリと口元を震わせたのは、彼の対面で目の前のコーヒーをにらみつけながら沈黙を保っていた本人である。

 復讐者の牢獄から出所した彼は現在、日本東京都内にある最高級のとあるホテルの個室スイートに腰を落ち着かせていた。

 外国のVIPクラスも多く滞在する機会があるのか、常備されている備品も見事と言って良い高級品が多い。

 しかしそれを使って日本のごくありふれたレトルトコーヒーを出されたせいか、自覚が出来るほど彼は微妙な表情をしていた。

「それはあなたが僕にこれから行おうとしている要求と、何か関係はあるのですか? 白蘭」

 一拍の間を挟んで問い返した骸の声にはその事実が知られて事に対する動揺と呼べるような変化はない。ただその場に流れる空気が張り詰めたのはここにいる全員が感じたことだ。

「要求なんて物々しいなぁ。僕はただ、「頼みたいことがある」って言っただけだよ?……気に入らなくて断ったとしても、僕は全然構わないのに」

 苦笑を浮かべながら新しいマシュマロを袋の中から取り出す白蘭に、骸は冷ややかな笑みで応じた。

「白々しいことだ。断った瞬間に、僕を殺す気だったのではありませんか? そうでなければ、あなたの両脇を固める「(リアル)六弔花」に説明がつきませんよ?」

骸が示したのは白蘭の両脇に立つ青年二人。彼らに目を向けた白蘭も困ったように頬をかいた。

「手厳しいなぁ。骸くんは」

「上等じゃねぇか……だったら望み通りやってやろうか? バァロォ……!」

 笑って済ませた白蘭に対して、それでは我慢がならなかったのだろう。ゴキリと拳をならし笑ったのは、白蘭の右隣にいる赤毛の男、しかしその動きは、同じく左隣にいた色白の優男によって遮られた。

「落ち着きなさい。ザクロ。今ここで六道骸に貴方が手をあげれば、お困りになるのは白蘭様です」

 薄く施された化粧により秀麗な顔を際立たせた彼は、女性と見紛わせるほどである。

「何せ彼は、現状の我々が手にできる、数少ない優秀な手駒なのですから」

 男を宥める姿に、当の白蘭は何事かを呟きながら両手で顔を覆っている。

「……桔梗。それ言っちゃあダメだよ。さっきの骸クンの考えを肯定してるじゃん」

「おや……? これは申し訳ありません。白蘭様」

「ハハッ。すかした態度のわりにはざまぁないなぁ? バァロゥが」

 桔梗の失言を笑ったザクロに微苦笑を滲ませた桔梗。しかしそこには嘗てのような張り詰めた味方をも威圧するような空気は無く、骸は不可解気に眉をしかめた。

 「十年後の世界」でボンゴレファミリーを壊滅状態へと追い込んだミルフィオーレファミリー。

 現在の彼らの関係性はまだ分からずとも、その頃の繋がりが全くないのならば彼らがここに同席している理由が分からなくなる。

 先刻の言葉に否定も入らず話が続いている時点で現段階でも彼らは既に主戦力となり得る、マーレリングの「嵐」と「雲」の守護者であることは間違いないだろう。

 「十年後の世界」では彼ら一人にたいして、こちらは四もしくは五人の戦力で拮抗した状態であっ

た。

(僕一人では、分が悪いですね)

 しかし、果たして逃げ切れるのかと、彼らのやりとりを注視しつつも、冷静に状況を見定めようとしていた骸は、パンと袋を叩いた白蘭に視線を移した。

「まだるっこしいのは……そろそろお終いにしようか。……マシュマロも無くなっちゃったしね」

 抑揚を抑えた声で、呟くとそのままに、袋をクシャリと潰した白蘭は、骸を見つめる。

「力を貸してくれないかな。六道骸クン」

 その言葉と共に向けられた瞳は「十年後の世界」で何度も見た、感情の読めないものではなく。

「「ボンゴレの霧の守護者」としての君にだけじゃなく「死神」であった君の力もコミで」

 不本意ながらも骸を倒した、あの少年とどこか似通った、意思の宿った瞳だった。

「「沢田綱吉」を、彼を救うために、力を貸してほしい」

 

 

 

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