ハートキャッチプリキュア!~もう一人の戦士"大樹の騎士"~ 作:風森斗真
といっても、つぼみとえりかはすでに変身できます(おい
いや、漫画版だとそうなんですよ(汗
まぁ、ひとまず本編をどうぞ。
花咲つぼみは、つい最近、希望ヶ花市に引っ越してきた十四歳の中学二年生。
気が弱くて引っ込み思案。おまけに人見知りも重なって、なかなか友達ができずにいた。
だが、引っ越した先のすぐ隣にあるファッションショップに住んでいる同い年の少女、来海えりかという友人ができ、さらに
そんなある日、つぼみは祖母が管理している植物園に展示されているリュウゼツランの見学に来ていた。
いつも、放課後に植物園でお茶会をしているえりかは、その日の見物客の多さに驚愕していた。
「すんごい数ねぇ!」
「リュウゼツランの開花が見られるかもしれませんからね!」
そう言いながら、つぼみも目を輝かせていた。
リュウゼツランの花というのは、数十年に一度だけ咲かせる、大変貴重なもので、その周期は竹よりも長いのだという。
花が咲くこと自体が奇跡的であるため、その瞬間を目撃しようと、こうして多くの人が集まっているのだろう。
だが、つぼみの顔は少し暗いものがあった。
それは、彼女がここ最近になってよく見る夢のせいだった。
つぼみとえりかが持っている共通の秘密。
それは、この世界を侵略しようとしている「砂漠の使徒」と戦い、世界を守る伝説の戦士「プリキュア」であることだ。
このことを知っている人間は、自分たち以外に、この植物園を管理しているつぼみの祖母、薫子だけだ。
驚くべきことに、彼女も五十年前はプリキュアとして戦い、砂漠の使徒の王を封印したのだという。
年老いて力も衰え、変身もできなくなった今も、二人のサポートをしてくれている協力者だ。
だが、つぼみは自分たちの前にプリキュアであった人物がいたことを、
それは、どこまでも晴れ渡った青空と、虹色に輝く葉をたたえた大樹の前で、黒いドレスをまとった少女と、白銀のドレスをまとった少女が激しく争っている光景だった。
そこにもう一人、耳に羽飾りをつけ、不思議な文様のマントをまとい、剣を振るっている青年がいた。
戦闘は激しく、やがて、白銀の少女と青年は黒い少女の攻撃に倒れてしまった。
だが、少女は大樹の後ろに隠れていた妖精たちに、パフュームを投げ渡し、次のプリキュアを探すように言いつけ、立ちあがった。
立ちあがった少女と青年は、黒い少女の放った光に飲まれ、消えていった。
その光景を最後に、目が覚めるということが、プリキュアになる以前からあった。
プリキュアになってから見なくなったその夢を、ここ最近になってまた見るようになった。
それは、何かの警告なのかもしれない。
そう思うと、つぼみの心には、どうしても不安がくすぶるのだ。
「花を咲かせたら、その一生は終わり……けれど、その株の下には新しい世代が育っている」
不安を抱えていたつぼみの耳に、静かな声が聞こえてきた。
声がした方へ視線を向けると、そこには、黒い長い髪を下ろしている眼鏡をかけた少女が立っていた。
「あら、ゆりちゃん!」
どうやら、薫子の知己の人物らしい。
薫子に呼ばれ、ゆり、と呼ばれた少女がつぼみたちの方へ歩み寄ってくると、薫子はつぼみとえりかを紹介した。
「彼女は以前、この植物園の常連さんだったの」
「よろしくお願いします」
つぼみがそう挨拶すると、ゆりは静かに微笑み、リュウゼツランを見上げた。
「薫子さんから、リュウゼツランが咲きそうだってことを聞いて来てみたのだけれど……やっぱり、植物の美しさと香りは、落ち着きますね」
そう口にしながら微笑みを浮かべるゆりを見たつぼみとえりかは、思わず放心してしまった。
同じ女の子から見ても、それだけゆりは美人さんということなのだろう。
ふと、植物園の植物たちが風もないのにさわさわと揺れ始めた。
「あら?植物たちが……」
その異変に気づいた薫子がそうつぶやくと、つぼみの背中をいつの間にか出てきたシプレがつついてきた。
シプレが言うには、巨大な闇の力がこちらに近づいてきているらしい。
そして、ゆりは悲痛な面持ちになり、胸元で手を握りしめた。
「……たぶん、わたしのせいです……」
その言葉が何を指しているのかはわからなかったが、とにかく、闇の力――砂漠の使徒が迫ってきているというのなら、つぼみとえりかはじっとしているわけにはいかなかった。
「わ、わたしたち、外の様子を見てきます!!」
「あ!ま、待ってください!!えりか!!」
えりかのとっさの機転で、つぼみはえりかと一緒に植物園の外へ出た。
その上空には、蝙蝠のような皮だけの片翼を広げた黒いドレスをまとった少女がいた。
その少女に、つぼみは見覚えがあった。
夢に出てきた、黒い少女だった。
「あ、あの人は……」
「う、浮いてる……」
「あ、あれは……」
「ダークプリキュアですっ!!」
驚愕するつぼみとえりかとは反対に、シプレとコフレはおびえながら叫んでいた。
シプレとコフレを見た黒い少女――ダークプリキュアは、冷たい視線を二人に向けて、ぽつりとつぶやいた。
「……プリキュア……」
「な、何が何だかわかんないけど……つぼみ!」
「はいっ!とにかく、変身です!!」
えりかがそう叫び、つぼみが答えると、二人はココロパフュームを取りだした。
シプレとコフレも、ダークプリキュアに立ち向かう決意を固めたのか、ブローチから心の種を取りだした。
「「プリキュアの種!いくですぅ/ですっ!!」」
「「プリキュア!オープンマイハート!!」」
シプレとコフレから飛び出してきた心の種をパフュームにセットすると、つぼみとえりかはパフュームの香水を体に吹きかけていった。
香水は光の粒子となって、二人の体を包むと、白を基本としたドレスへと姿を変えた。
「大地に咲く、一輪の花!キュアブロッサム!!」
「海風に揺れる、一輪の花!キュアマリン!!」
「「ハートキャッチ!プリキュア!!」」
高らかに名乗り、同時に攻めに行ったのはいいのだが、ダークプリキュアの圧倒的な戦闘力に、二人はいいように弄ばれ、倒れ伏してしまった。
「で、デザトリアンとは全然違う……」
「今まで戦ってきた相手なんかより、ずっと強い……」
ボロボロになりながらも、どうにか立ち上がり、ブロッサムとマリンはそうこぼした。
二人が戦う姿を、少し離れた場所から、薫子とゆりが見ていたのだが、ゆりの顔は驚愕というよりも焦っているようにみえた。
「ま、まさか、薫子さんのお孫さんたちが……」
「えぇ……何の因果かはわからないけれど、彼女たちなのよ」
二人の会話が何を意味しているか、それを知る人間はこの場にはいなかった。
いや、ただ一人だけ、近づいてきていた。
「何事かと思って来てみたら……まずいっ!!」
薫子とゆりの方へ走り寄っていた青年は、そうつぶやくと急に方向を変えた。
その向かう先には、自分たちの必殺技とダークプリキュアの必殺技がぶつかり合った衝撃に耐えきれず、吹き飛ばされてしまったブロッサムとマリンがいた。
立ち上がろうとしている二人に、ダークプリキュアは容赦なく、もう一度、手にしたタクトを向けた。
「貴様らに用はない……この場で消えろ!!ダークフォルテウェーブ!!」
「轟っ!!」
ダークプリキュアが放ったフォルテウェーブが眼前に迫ったとき、ブロッサムとマリンの前に突然、青いシャツを着た青年が立ちふさがった。
青年は足を踏みだし、右手を突き出しながら吠えると、あるでライオンの咆哮のような音が響き、フォルテウェーブを相殺した。
「ぬっ!!貴様は……ユグドセイバー!!」
「久しぶりだな、ダークプリキュア……といっても、再会してもうれしくないけど」
ユグドセイバー、と呼ばれた青年は、頬に冷や汗を伝わせながら、ダークプリキュアに返した。
だが、ダークプリキュアがさらに驚愕する事態があった。
「……やはり生きていたか、キュアムーンライト!」
ダークプリキュアの視線の先には、セイバーの少し後ろで、ブロッサムとマリンをかばうように仁王立ちしているゆりがいた。
「ゆ、ゆりさんが……キュアムーンライト」
ダークプリキュアの言葉に、ブロッサムは驚愕した。
キュアムーンライト。
そのプリキュアは、つぼみが見ていた夢の中に登場する、白銀の少女だったのだから。
そして、もう一人、ダークプリキュアの攻撃を相殺した青年もまた、夢に出てきたマントの青年と同じ名前で呼ばれていた。
だが、青年はダークプリキュアの言葉に耳を貸さず、視線もダークプリキュアから外すことなく、ゆりに語りかけた。
「ゆり、無理すんな……」
「あなたが言えた義理じゃないでしょ……」
青年の言葉にそう返しながら、ゆりは青年の隣へと歩みでてきた。
「ダークプリキュア!なぜ、今だにわたしにこだわるの?!」
「……お前は、わたしだからだ!!この世界に、同じ人間は二人もいらない!!」
ゆりの問いかけに、ダークプリキュアは憎悪を込めた視線を向けながら、そう返した。
ダークプリキュアは再びタクトを構え、ゆりにその切っ先を向けた。
「お前を倒して、わたしはわたしになる!!」
まるで禅問答のようなセリフを口にしながら、ダークプリキュアは再びフォルテウェーブを放とうとした。
その時だった。
虚空から、この場にはいない男の声が響いてきた。
『ダークプリキュア!キュアムーンライトには関わるなといったはずだ!!』
「……くっ……」
その声を聞いたダークプリキュアは、タクトをしまい、空へと消えていった。
その後姿を見たブロッサムとマリンは、緊張の糸が切れたのか、意識を失い、倒れこんだ。
同時に、青年も、膝をつき、苦しそうに肩を上下させた。
「菖!!」
「大丈夫……けど、きつかったぁ……」
ゆりが慌てて青年の名を呼び、しゃがみこむと、青年は微笑みを浮かべながら返した。
「変身できなくても、これくらいはできるんだけど……やっぱり、あれは無茶だったかなぁ」
「わかっているなら、もう二度としないで……もう、目の前で誰かを失うのはいやよ、わたしは……」
「……ごめん」
ゆりのそのつぶやきに、菖は困ったように微笑みながら返した。
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つぼみとえりかが目を覚ましたのは、空に星が輝きだした頃だった。
植物園で目を覚ました二人は、菖から簡単に自己紹介され、自分たちの目の前にかつて戦っていた先輩がいることに驚愕していた。
だが、同時に、心強くも感じていた。
ダークプリキュアは、いままで戦ってきた中で最も手ごわい相手だった。
同時に、心の奥底で感じたことがない恐怖を覚えてしまった。
だからこそ。
「「ゆりさん!菖さん!!……いえ、キュアムーンライト!ユグドセイバー!!どうか、わたし/あたしたちと一緒に戦ってください!!お願いします!!」」
目の前にいる強力な助っ人に、そう頼むのは、自明の理、というものだった。
だが、その言葉に、ゆりは顔を曇らせ、菖は困ったように微笑みを浮かべた。
「……ごめんなさい」
「そうしてあげたいのは、山々なんだけど……ごめん」
「そんな……」
「どうして……」
二人の返事に、つぼみとえりかはショックを隠しきれなかった。
だが、その理由は、二人の口からではなく、薫子の口から告げられた。
「ゆりちゃんはプリキュアの種の大半を失ってしまって、もうプリキュアにはなれないのよ……」
「け、けど菖さんは……」
「俺の力はいま、心の大樹を守護するために使っているから、変身することができないんだ」
菖の返答に、つぼみとえりかは意気消沈してしまった。
少しの間、四人の間に、重苦しい沈黙が流れた。
だが、ふと、ゆりの視界にリュウゼツランが入りこむと、ゆりははじかれたように立ちあがった。
「リュウゼツランがっ!!」
その言葉に、その場にいた全員がリュウゼツランへ視線を向けた。
そこのは、月明かりに照らされながら、咲いているリュウゼツランの花があった。
「さ、咲きました!!リュウゼツラン!!」
奇跡の瞬間に立ち会えたことに、つぼみは感激の声を上げ、えりかも感動で何も言えずにいた。
「……確かに、敵は手ごわいわ。でもね……あなたたちは一人じゃない。二人で力を合わせて立ち向かえば、きっと……」
ゆりはリュウゼツランを見上げるつぼみとえりかに優しい微笑みを向けた。
そして、リュウゼツランをもう一度見上げて、続けた。
「いままで、不甲斐ない自分を責めてばかりだったけれど……やっと、希望が生まれました……二人に、プリキュアの使命を託すことができたのだから……」
その想いに、菖は優しく微笑みながら、つぼみとえりかに視線を向けていた。
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帰り道。
菖はゆりを送るため、一緒に歩いていた。
ふと、ゆりは少し先を歩いている菖に問いかけた。
「……あれからいままで、どこに行っていたの?」
実は、ダークプリキュアと敗れたあの日から、菖はゆりにも黙って希望ヶ花市を離れてしまっていた。
正確には、ゆりから距離を置いて、一人でどこかへ行くことが多くなっていた。
幼馴染のゆりからすれば、それは、自分の半身を失うようなものだった。
「お父さんに続いて、
「……ごめん」
泣きそうになるのを必死にこらえながら、自分の背中に言葉をぶつけてくるゆりに、菖は立ち止まって、謝罪した。
「いまさら謝ってすむと……!!」
「あいつを!……あいつを取り戻すための、手がかりがないか、ずっと探していたんだ」
菖は、右手を強く握りしめながら、ゆりの言葉を遮り、そう告げた。
その言葉に、ゆりは目を見開いた。
「け、けどそんなことが!!」
「それをできる可能性が、見つかったんだ……けど、いますぐにはできない」
どうしても、もう少し待たないといけないんだ。
菖の悲痛な声に、ゆりはそれ以上、何も言えなかった。
二人が何を失ったのか、そして菖が何を取り戻そうとしているのか、それを知っているのは、今もどこかで二人を見守っている心の大樹だけだった。
あとがき代わりの後日談(スキット風)。
つぼみ「そういえば、菖さん」
菖「ん?」
つぼみ「変身できないのに、なんでフォルテウェーブを相殺できたんですか?」
菖「あぁ、あれか……うん、心の花の力は出せるっちゃ出せるからね。変身した時よりも威力は落ちるけど」
えりか「威力が落ちてあれって……変身したら、どんだけすごいのよ」
ゆり「あら、そうでもないわよ?だって、あのあと、気力とスタミナを使いきって倒れかけてたもの」
えりか「って、大丈夫なんですか?!」
菖「大丈夫、大丈夫。じぃじのしごきに比べたら全然」
つぼみ・えりか「「じぃじ?」」
ゆり「菖のお爺様よ。相変わらずのようね……」
菖「『遺跡探訪するのなら、体力と腕っぷしは必須!ただ修練あるのみじゃ!!』なんて、言われてさぁ……いや、きつかったなぁ……」
えりか「……すごく遠い目をしている……」
つぼみ「よっぽど、しごかれたんですね……」