ハートキャッチプリキュア!~もう一人の戦士"大樹の騎士"~ 作:風森斗真
もうお判りだと思いますが、ファントムはあくまでもハピネスチャージ組を倒すために磨いた力のテストとして、セイバーに戦いを挑んだだけなので、あっさり引きます
まぁ、戦うことになった当の本人はそんなことはわからないのですが
なお、次回は数日後(ないし数週間後)のエピローグです
純粋な実力で勝負するしかない。
そう判断し、セイバーはエターナルハートを通常の姿に戻し、その刀身に心の花の光をともした。
ファントムもまた、セイバーのその姿を見て、同じ土俵で戦うことにしたのか、それとも単になめてかかっているのか、最初の姿に戻り、同じように赤黒い光を刀身にともした。
そのまま、両者はまったく動かず、互いに隙を探り合った。
不意に、風が二人の間を吹き抜けた。その風に運ばれて、どこからか飛んできた木の葉が二人の間を通り抜けた。
それと同時に、セイバーとファントムは地面を蹴り、雄たけびを上げながら互いの距離を詰めた。
「「おぉぉぉぉぉっ!!」」
青白い光をまとうエターナルハートと、赤黒い光をまとうファントムの剣がぶつかり合い、火花を散らした。
幾度となく互いに打ち合い、切り結ぶうちに、疲れが出たのか、セイバーのエターナルハートを握る力が少しばかり緩んだ。
その隙をついて、ファントムは手首を返し、エターナルハートを巻き上げ、弾き飛ばした。
勝った。
エターナルハートがセイバーの手から離れた瞬間、ファントムは勝利を確信し、強く地面を蹴り、セイバーの首筋にめがけて刃を振るった。
だが、それが誘いであることに、ファントムは気付かなかった。
振り下ろした剣の柄をつかみ、セイバーはファントムの胸に手をかざした。
その手には、さきほどエターナルハートに灯っていた光と同じ色の光が球体となって集まっていた。
「ユグドフォルテウェーブ!!」
セイバーが叫んだ瞬間、光の球体は花のように開き、ファントムに襲いかかった。
剣をつかまれたままのファントムはその光を回避することが出来ず、直撃してしまった。
だが、それだけでは終わらなかった。
追撃とばかりに、今度は青白い炎を手にまとわせた。焔は徐々に牙をむく獅子のような形状へと変わった。
つかんだ剣を自分の背後へと引っ張り、ファントムを引き寄せながら、獅子の頭をかたどった光をたたきつけた。
「獅吼戦花っ!」
轟っ、とライオンの咆哮のような音とともに、心の花の力が衝撃となってファントムの体を貫いた。
二度も連続で大技の直撃を受けたファントム体力は限界を迎え、セイバーの姿を保つことができなくなった。
だが、それでもまだ戦う力は残っているようで、セイバーの頭に思い切り頭突きをかました。
ゴッ、という音を立て、強い衝撃がセイバーとファントムの頭を襲った。
その衝撃を受けて、セイバーは思わず、ファントムの剣をつかんでいた手を緩めてしまい、ファントムを離脱させてしまった。
ファントムはセイバーから距離を取り、肩で息をしながらセイバーの様子を探っていた。
セイバーは、ファントムに視線を向けながら、地面に突き刺さったエターナルハートに近づいていき、手に取って構えた。
だが、間合いを詰めてくる様子はなかった。
どうやら、ファントムほどダメージを受けてはいないが、スタミナが切れかかっているようだ。
お互い、あと一撃が精一杯だろう。
ならば、次の一撃で決着をつける。
同時にそう思った瞬間だった。
《退きなさい、ファントム》
突如、上空からクィーンミラージュの声が響いてきた。
見上げると、そこにはいつぞやと同じように、黒いドレスをまとった少女が浮かんでいた。
「み、ミラージュさま!し、しかし!!」
《二度も言いません。それとも、ここで私に消されたいの?》
その言葉が噓ではないことは、彼女の瞳に浮かぶ光でわかる。
本気で、クィーンミラージュは命令に従わなかった場合はファントムであろうと消すつもりでいるようだ。
消されるつもりはないのか、それともクィーンミラージュの命令に従うつもりになったのかはわからないが、ファントムは素直に従い、空間を切り裂き、どこかへとつながる通路を作った。
その通路に足を踏み入れながら、ファントムは視線だけをセイバーにむけてきた。
「この勝負、預けておく」
「二度と来るな」
いずれ決着をつけよう、と言われる前に、セイバーはまた訪れることを完全拒否した。
その言葉に対する返事をしないまま、ファントムは通路の奥へと消えていった。
ファントムの姿が見えなくなると、通路は自動的に閉じ、後には何も残っていなかった。
ファントムの退場を見届けると、クィーンミラージュの姿もまた、虚空に消えていった。
どうやら、これ以上、あちらから何かしてこようとは思っていないようだ。
「……あぁ、ったく、頼むからこれ以上は何も起きないでほしいもんだ……」
変身を解除し、地面に仰向けに倒れながら、菖は誰にともなしに文句を言った。
が、一つだけ、きがかりなことがあった。
それは、ファントムが突如、自分の姿に変身したことだった。それも、能力もまったく同じ状態に、だ。
着ていたコスチュームの色が同じであったなら、偽物と本物、区別がつかないほどだった。
まさに、鏡写し、といっても過言ではないほどの完璧な変身。
あれでまだ「未完成」と言っていたが、果たして、あの力を何に使うのだろう。
そんな疑問が、菖の中にあった。
「……あぁ、もう。考えても仕方ないか……」
思考するための材料がないため、これ以上は考えることをやめて、戻ることにした。
この時、セイバーと激戦を繰り広げたファントムの力に、ぴかりが丘に住むプリキュアたち、特にキュアラブリーがセイバー以上の苦戦を強いられることになろうとは、知る由もなかった。