ハートキャッチプリキュア!~もう一人の戦士"大樹の騎士"~ 作:風森斗真
向日葵畑で三人目のプリキュアを探していたつぼみとえりか、そして新たに誕生したポプリたちだったが、そのポプリはいま、いつきに抱きかかえられていた。
だが、いつきはポプリの正体を知っているはずもなく。
「うわぁ、かわいいなぁ……ぼくもほしいなぁ、こういうキュートなぬいぐるみ」
完全にぬいぐるみと勘違いしていた。
すっかり年頃の女の子になっていたいつきは、ポプリに頬ずりをしていた。
その様子を見ていたつぼみとえりかは、いつ正体がばれるが気が気ではなく、少し焦っていた。
もっとも、つぼみはポプリを羨ましそうな目で見ていて。
「いつきさんもキュートです……ていうか、ポプリになりたい」
「んなことより、早くポプリを!」
すっかり、恋する乙女モードに入っていたつぼみに、えりかはあきれ顔になった。
そんなえりかの声に気づき、いつきはいつもの状態に戻り、ポプリをつぼみたちに手渡した。
「し、失礼した。ふわふわで暖かくて、まるで生きてるみたいだね。本当にかわいいよ」
表情を引き締め、凛とした表情をするいつきに、ポプリの顔は真っ赤になってしまい。
「……ポプリは、こんな子を探してたでしゅ」
「……ん?」
「優しくてかっこよくて、すごーく素敵でしゅ!三人目のプリキュアは、君で決定でしゅ!!」
いつきの手のひらの中で、ポプリが口を開いてしまったのだ。
せっかく、ぬいぐるみと勘違いしてくれていたのに、ポプリがしゃべってしまったせいで、だいなしになってしまったことに、えりかとつぼみは額を抑えたが、ポプリが口にした言葉に、こんどは驚愕の声を上げた。
「えぇーーーーーっ??!!」
「い、いつきさんが??!!」
もっとも、一人、置いてけぼりをくらっていたいつきは、困惑しながら。
「ど、どういうことなんだ?!」
と困惑していた。
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つぼみとえりかは、困惑するいつきに事情を説明した。
その説明に、いつきはどうにか納得し、落ち着きを取り戻した。
だが、いまだに困惑していることがあった。
「事情はわかったけど……まさか、プリキュアの正体が君たちだったなんて……」
以前にも、いつきはプリキュアに、つぼみとえりかに助けられたことがある。
一度目は、武道に集中するために、本当は大好きなのにかわいいものを遠ざけていたことがあった。
かわいいものと武道、この二つに板挟みにされてしまい、揺らいだ心を砂漠の使徒に付け込まれ、デザトリアンにさせられてしまったのだ。
二度目は、門下生の一人が道場でデザトリアンにされてしまったときのこと。
道場に出てきた、ということもあり、いつきはデザトリアンと交戦したが、普段の胴着ではなく、えりかが作ってくれたワンピースを着ていたため、うまく戦うことができなかったのだ。
だが、助太刀に入ったブロッサムとマリンが、かわいい衣装で戦う姿を見て、ようやく、いつきはかわいいものを受け入れていけるようになった。
だからこそ、驚愕していた。
まさか、自分の知り合いがプリキュアだったとは思いもしなかったのだ。
一方、正体を不本意ながら明かされてしまったつぼみとえりかは、なんとも微妙な笑みを浮かべていた。
ふと、いつきは足もとに散乱している向日葵の花を見て、顔を歪めた。
「ひどい!これも、あのやつらの仕業なのか……」
「そうでしゅ。プリキュアになってくだしゃい、いちゅき!砂漠の使徒から、みんなを守ってほしいでしゅ!」
ポプリは、いまだいつきの腕の中で必死に訴えたが、いつきの顔は迷っていた。
そもそも、なってほしいといわれて、なれるかどうかわからないのだから、当然だ。
それは、えりかも同じのようで。
「そりゃ、生徒会長が三人目なら、心強いけどさ……」
なれるかどうか、とえりかがつぶやくと、シプレとコフレがポプリに忠告した。
「パートナーは好みで決めるんじゃなくて」
「プリキュアにふさわしいハートを持っているかで……」
「「ゼッタイゼッタイ、いちゅき/いつきでしゅ/です!!ポプリはこの子がいいんでしゅ/です!!」」
だが、先輩二人が言いきる前に、ポプリが大声で否定した。
つぼみもちゃっかり、抱き着いてポプリに合わせて否定しているあたり、つぼみもいつきを頼りにしているようだ。
頼られているいつきはというと。
「……君たちの力になりたい……ぼくも、ともに戦うよ」
と、一緒に戦うことを約束してくれた。
もっとも。
「プリキュアになれるかどうかは、ぼくには……」
と、自信がなさそうにしていた。
「いつきさんに、ぜひ着てほしいです!プリキュアのコスチューム!!」
「あ、あの可愛い服……ぼ、ぼぼ、ぼくが……?!」
つぼみが笑顔を浮かべながらそう話すと、いつきはブロッサムとマリンのコスチュームを思いだし、顔を赤くした。
そんな様子のいつきに、ポプリは、もっと可愛いのを着るでしゅ、と追い打ちをかけた。
その様子に、えりかは、いつきにとっちゃ殺し文句だわ、と半ば引いていた。
ふと、えりかの視線は向日葵畑に向いた。
そこには、まさに金色の海という表現がふさわしいほど、大量の向日葵が咲き誇っていた。
「それにしても、すごい向日葵!黄色い海みたいだよ!!」
「太陽に愛され、守られて育ったお花さんたちの笑顔がいっぱいですね!!」
「だよね!ぼくのお気に入りの場所なんだ、ここ!!」
花に誘われるように、つぼみたちの顔には、笑顔の花が咲いていた。
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翌日、いつきはいつものように明堂院流道場で稽古に励んでいた。
目の前には、先日の稽古で勝てなかった青年、菖がいた。
今回、菖の手にはスポーツチャンバラで使われるソフト剣が握られていた。
なんでも、泉地流は本来、剣術の流派であり、無手の戦いは本来の戦い方ではないらしい。
ならば、本来の戦い方であれば、どれくらいの強さなのか。
武闘派でもあるいつきはそこが気になってしまい、無理を承知で菖にお願いしたのだ。
「それじゃ、やろうか」
「よろしくお願いします!」
そう言って身構えたいつきに、菖はソフト剣の切っ先を向けて構えた。
しばらくの間、両者はにらみ合ったまま膠着した。
――攻めるに攻めきれない……これが、菖さんの実力、なのか……
威圧感を放っている本人はどうだかは知らないが、いつきの眼には、菖の背後に巨大なライオンの顔が見えていた。
一瞬でも気を抜けば、負ける。
いつきには、それがわかっていた。
だが、動かなければなにも始まらない。
「やぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「ふっ!!」
床を蹴り、突っ込んでくるいつきに、菖は容赦なく構えていた剣を振り下ろした。
だが、いつきは脳天に振り下ろされた剣を回避し、その勢いを使って菖の頭めがけて左足をけりあげた。
だが、菖は姿勢を低くして、その蹴りを回避し、左手に剣を持ち変え、剣を突き出した。
いつきは体をひねってそれを回避し、菖から距離を取った。
力が入りずらい姿勢であるにも関わらず、その剣速は早く、少しでも反応が遅ければ、胸に突き刺さっているところだった。
――やっぱり、強い!……けれど、ぼくだってここで負けるわけにはいかないんだ!!
いつきは再び地面を蹴り、菖との間合いを詰めた。
今度は打撃ではなく、投げ技を狙っていたが、まるでいつきの意図を読んでいたかのように、菖は床を蹴って飛び上がり、落下しながら剣を振り下ろしてきた。
だが、いつきは落下してくる菖の手をつかみ、背負い投げの要領で投げ飛ばした。
「うわっ?!」
思いもよらない攻撃に、菖は悲鳴を上げたが、どうにか受け身を取り、背中から倒れることはしなかった。
「そこまで!」
菖が再び剣を構えた瞬間、厳太郎が二人を止めた。
どうやら、これ以上は時間の無駄、というよりも稽古の範疇を超えかねないと判断したようだ。
「菖くん。つき合わせてしまって悪かったな」
「いえ。久しぶりに思いっきり体を動かせたので」
厳太郎の言葉にそう返すと、厳太郎は今度はいつきのほうへ目を向けた。
心なしか、その視線は菖へ向けられていたものよりも鋭かった。
「いつき、お前は確実に腕を上げている。だが、何のために武道を学び、大きな力を望むのか。それを忘れるでないぞ」
「……はい!」
いつきは引き締まった表情でそう返した。
そのあと、稽古が終わりいつきを含めた門下生たちは解散となった。
稽古を見学していたつぼみとえりかは、菖を交えていつきと話をしていた。
なお、いつきに自分たちの正体がばれてしまい、ポプリがいつきにプリキュアになってほしいと頑なになっていることは、すでに菖とゆりには伝えられていたため、ポプリがぬいぐるみのふりをしていないことについて、とくに言及はしなかった。
「毎日、こんなに厳しい稽古を……すごいです!」
「菖さんもそうだけど、生徒会長も変身なしでも十分強いんじゃない?」
苦笑しながらえりかはそう言ったが、ポプリはそれでもいつきにパートナーになってほしいらしく。
「それでもポプリはプリキュアになって、ほしい……」
と言いかけて、ポプリは目を見開いた。
どうやら、花たちの悲鳴が聞こえてきたらしい。
ポプリの言葉を聞いたつぼみたちは、その場所へ向かおうとしたが、いつきだけは菖に止められた。
「なっ!!なんで止めるんですか、菖さん!!」
「変身できない君が行って、何になるんだ?ただ足手まといになるだけだぞ」
「……っ!!」
菖のその忠告に、いつきは身をこわばらせた。
いくら戦う技術があったところで、いつきはプリキュアではない。
つぼみたちと一緒に行ったところで、なにかできるということはない。
それは、いつきにもわかっていた。
けれども。
「……ぼくが武道を習ってきたのは……力を欲したのは、守りたいからなんです!」
「……何を守るためだ?」
「友達を、大切な人達をです!」
「……そうか」
いつきのその答えを聞いた菖は、つかんでいたいつきの肩から手を離した。
もっと強く止められると思ったのか、いつきは菖が手を離したことを意外に思ったらしく、目を見開いたが、その意図を察し、深く頭を下げると、つぼみたちを追いかけていった。
――大切なものを守りたい。いつき、君にその強い気持ちがあれば、きっと君もなれる
いつきの背中を見送りながら、菖は胸のうちでそうつぶやき、踵を返した。
その数日後、いつきは無事、ポプリのパートナーに、
同時に、菖は一つの決断を下した。
ゆりを、
あとがき代わりの後日談(スキット風)
つぼみ「あの、菖さん。この剣なんですけれど……」
菖「それは……「エターニアハート」!?まさか、心の大樹のところまで行ってきたのか?!」
えりか「コフレたちが心の大樹が呼んでるって言って、連れていってくれたんです」
いつき「そこに、この剣が……あの、これってユグドセイバーの剣、なんですよね?」
ゆり「えぇ。けれど、心の大樹を守る結界の楔にするからって、大樹に突き刺してそのままにしていたの」
菖「けど、心の大樹もだいぶ力を取り戻したって言っていたし、いつきとポプリが結界を張りなおしてくれたんだろ?」
ポプリ「はいでしゅ!」
菖「なら、これがなくても大丈夫だ。取りに行く手間が省けたよ。ありがとう」
ゆり「これで、ユグドセイバーも復活、かしら?」
菖「いや、まだだよ……まだ、やらないといけないことがある」
ゆり「それって……」
菖「言わぬが花ってやつさ。少なくとも、俺はキュアムーンライトがいないうちは戦うつもりはない」
えりか「えぇ~~~……それって、単にめんどくさがってるんじゃ……」
菖「こればかりは、譲れないよ……俺が戦うって決めたのは、ゆりが戦ってるからだしな」
いつき「菖さんはゆりさんの
えりか「うぅ~……せめて、つぼみのナイトにもなってあげてほしいんだけどなぁ……」
菖「……??俺は心の大樹の騎士であって、ゆりの騎士じゃないんだけど」
女子一同『そういう意味じゃないです/ないっしゅ/ないのだけれど……』
菖「……??」