ハートキャッチプリキュア!~もう一人の戦士"大樹の騎士"~   作:風森斗真

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というわけで、クライマックス
といっても、相変わらず戦闘描写は簡単な感じになってますが
なお、原作とは異なる点が多々あると思いますが、そこはご容赦を

お花見に関しては……まぁ、『顔合わせスキット~二人は魔法使い!~』をご参照ください
前提が古いものなので、菖との絡みがゆりさんしかいませんが


みんなで歌う、奇跡の魔法~10、究極の魔法の真実~

ソルシエールがプリキュアの涙を求めた理由。

それは、彼女の師匠が使えたという『究極の魔法』を伝授してもらえなかった理由を聞くため、一時的に師匠を蘇らせる秘薬を作るためだった。

だが、その秘薬の正体は、かつてソルシエールの師匠に封印された『闇の獣』トラウーマが本来の力と姿を取り戻すためのものだった。

それを知った時にはすでに遅く、ソルシエールと師匠の秘話を聞いてしまったミラクルが感動して流した涙によって完成した秘薬で、トラウーマは本来の姿に戻り、世界を無に帰そうとしていた。

むろん、それを阻止するため、ミラクルたちはトラウーマに立ち向かっていった。

 

「能力強化!」

「韋駄天よ、かの者たちに加護を!!」

 

友護と鏡介の二人は、ミラクルとマジカルに援護のための魔術を施した。

その魔術の効力か、ミラクルトマジカルは体が軽くなったように感じた。

だが、いつも以上に力を引き出せる状態になった二人でも、本来の姿に戻ったトラウーマの前では苦戦を強いられていた。

それでも、友護と鏡介はミラクルとマジカルのダメージが最低限になるよう、地面にたたきつけられる前に何枚もの障壁を作り衝撃を弱めたり、タイミングを見て傷を癒す魔法を放ったり、トラウーマの攻撃そのものの威力が下がる魔法を使ったりしていたおかげで、すぐに動けなくなるということはなかった。

 

「…………ぜぇ…………はぁ…………」

「…………ちぃっ…………」

 

だが、援護してくれている二人の顔には徐々に疲労の色が濃くなり始めていた。

ソルシエールの城の中に侵入するためと、トラウーマの封印解法による城の崩壊から逃げるために使った移動魔法と支援魔法の連続使用、さらには少しでも被害を抑えるため、放たれた攻撃に対する障壁の展開。

そんなことを休みなく続けているため、実際に戦っているミラクルとマジカルよりも、二人のほうが激しく消耗しているのだ。

 

「…………ったく…………思った以上に…………厄介だぞ、これは…………」

「俺たち、より……戦闘力が低い、から、しかた……ないがな!」

「だが、早く決着……つけてくれ、ないと…………ぜぇ…………こっちがもたない」

 

友護にしても鏡介にしても、魔法や魔術という人知を超えた力を使うことができるというだけで、人間であることに変わりはない。

人間である以上、人間としての限界というものが存在する。

どこかで燃料を補給すれば、あるいは充電すればいい、というわけではない。

一応、龍脈や大気中から霊力を吸い上げて補給してはいるが、それも微々たるものだ。

実質的に、魔力が尽きれば二人ともそれで打ち止めになってしまう。

 

だが、魔力と体力の違いはあっても、それはプリキュアも同じだった。

友護と鏡介の援護があっても、ミラクルとマジカルだけでは本来の姿のトラウーマにいくら立ち向かっても弾き飛ばされ、何度も地面にたたきつけられた。

だが、二人は決してあきらめず、何度も立ち上がった。

なぜ立ち上がることが出来るのか、ソルシエールは城の屋上で二人の様子を眺めながら、そんな疑問を抱いていた。

ふと、二人の口が動いていることに気づいた。

耳を澄ますと、二人はどうやら、師匠の子守歌のメロディを口ずさんでいるようだ。

 

『あのメロディを聞くと力がわいてきた』

 

二人は確かにそういっていた。

だが、ソルシエールはなぜかメロディだけでは足りないと直感で感じ取っていた。

こうなってしまったのも、トラウーマの口車に乗ってしまった自分に責任がある。

ならば、この事態を収束させるために、自分ができることは。

そう考えた瞬間、ソルシエールの口は自然と動いた。

 

「瞼、閉じれば……夢の、森……遊んで、おいで……夜明け、まで……♪」

 

再び立ち上がろうとするミラクルとマジカルの耳に、ソルシエールが幼いころから師匠が聞かせてくれた子守歌の旋律が聞こえてきた。

声がするほうへ視線を向けると、そこには祈るように手を組んで子守歌を歌うソルシエールの姿があった。

歌声が町中に響くと、ミラクルとマジカルの体の傷は徐々に癒えていき、友護と鏡介の魔力も回復していった。

 

「これは……歌の力?」

「あの子守歌、(まじな)い歌だったのか」

 

呪い歌とは、呪文が歌詞となった歌のことだ。

当然、まじないも含まれれば、(のろ)いも含まれることもある。

童謡の『かごめかごめ』が(のろ)いの歌としてはメジャーだろう。

この子守歌は、どうやら癒しの(まじな)いを込めた歌のようだ。

 

「ねぇ、もしかして『究極の魔法』って」

「この歌のことだったの?!」

「なるほど……あいつの師匠は、ちゃんと教えてたんだな」

「それが呪い歌で、しかも子守歌だったから、ソルシエールが勘違いしたってわけか……まったく、はた迷惑な話だ」

 

幼いころから何度となく聞かされてきた子守歌が、まさか究極の魔法だとは、ソルシエールも思わなかったのだろう。

だから『教えてほしい』と頼んでも、子守歌を歌って寝かしつけようとした、と勘違いしてしまったのだ。

それならそれで一言くらい言ってから歌えばいいものを、と現役の魔術師二人はため息をついていた。

 

「闇の獣に追われても、怖がらないで。そばにいる♪」

 

そんなことも知らず、子守歌のすべての歌詞を思い出したのか、ソルシエールはつっかえることなく、子守歌を歌い切った。

その瞬間、ミラクルとマジカルから少し離れた場所にいるモフルンの背中から光の柱が出現した。

どうやら、歌に反応して魔法の杖が光を放っているらしい。

その光に反応してか、トラウーマの頭上にあった城が大爆発を起こした。

爆発の煙の中から、囚われていたプリキュアたちと守護騎士の二人が飛び出し、近くのビルの屋上に着地した。

 

「「みんな!」」

ブラック(ブリャック)!ホワイト!ルミナス(リュミナシュ)!!」

「ルルン!」

「心配かけて、ごめんね」

 

先輩プリキュアたちが脱出し、屋上に着地した姿を見ていたミラクルとマジカルはルルンを抱いて屋上に飛び上がり、合流した。

ルルンはようやくブラックたちと合流できたことがうれしく、泣きながらルミナスに抱きついてきた。

その姿を見て安堵の表情を浮かべるミラクルとマジカルは、ふと爆発した城を見た。

爆発で残った屋上にソルシエールの姿があり、彼女が歌ってくれたからこそ、プリキュアのみんなが無事に脱出できた。

だから。

 

「ソルシエール!ありがとう!!」

 

ミラクルは手を振りながらソルシエールにお礼を言った。

その声が聞こえたのか、ソルシエールは頬を赤く染め、あわあわとしながら、最後にはうなずいて返していた。

その瞬間、ソルシエールのドレスが変わった。

紫色のドレスから、明るい桃色のドレスへ。そして、カチューシャの割れたハート飾りは二つのハート飾りに。

それが恐らく、ソルシエールの本来の姿なのだろう。

 

「さぁ、みんな!いくよ!!」

『えぇっ!』

「やるっしゅ!」

「「応っ!」」

 

ブラックのその呼びかけを合図に、全員が屋上から一気にトラウーマに向かって飛び掛かっていった。

当然、地上では魔術師二人による援護があった。

 

「範囲拡大、能力倍化!」

「毘沙門天よ、かの者たちへ加護を!!オン、チシャナバイシラ、マダヤマカシャヤヤクカシャ、ソワカ!!」

 

二人がそう口にした瞬間、プリキュアたちの体は軽くなり、力が湧き上がってきた。

だが、その理由は二人の魔術師の援護だけではない。

ソルシエールの歌の力も加わっていた。

 

「言葉とメロディに、愛や勇気の魔力が隠されてる♪」

 

ソルシエールの口にするその歌は、いつのまにかプリキュアたちだけではない、周囲にいた人々の口からも紡がれていた。

その旋律を嫌ってか、トラウーマは砲台から次々に人参型のミサイルを発射していった。

だが、それらはブルームやイーグレット、ピーチ、ベリー、パイン、パッションたち、空を飛ぶことが出来るプリキュアや、友護たちの魔法によって破壊され、町に被害を出すことはなかった。

それどころか、弾かれたミサイルをハートたちが受け止め、無理やり軌道を変更させて、トラウーマの後頭部にぶつけ、爆発させた。

周囲がだめならば旋律の中心をたたけばいい、と考えたのか、トラウーマの攻撃は城の方、より正確にはソルシエールへと向いた。

 

それを察知した、というわけではないだろうが、ハッピーたちが城の屋上から飛び出し、ミサイルをすべて上空へと蹴りあげた。

空を飛べないハッピーたちは当然、重力に逆らえず落下してしまったが、彼女たちの下を飛んでいたブロッサム、サンシャイン、ムーンライト、セイバーが受け止めた。

むろん、マリンもいたのだが、通過と同時に受け止めようとして失敗し、慌ててハッピーを助けに行っていた。

 

ハッピーたちだけではない、アステアも飛んできたミサイルを持っている槍でいなし、はじき返していたし、エコーもまた、アステアに背中を預けるような位置でミサイルをつかみ、投げ飛ばしていた。

そうしているうちに、いつのまにかミラクルとマジカルがソルシエールの隣に立ち、手をつないでいた。

 

「茨の影に迷っても、つなぐこの手が、道標♪」

「「「一緒に歌えば不思議な力が、湧き上がる♪」」」

 

三人がそう紡いだ瞬間、ミラクルとマジカルのコスチュームが変わり、背中に白い羽が生えてきた。

二人は羽をはばたかせ、空へと飛び上がっていき、トラウーマの上空で手をつなぎ、輪を作っていたプリキュアたちの中に入っていった。

 

「歌は魔法♪究極の魔法♪」

 

最後の歌詞が紡がれた瞬間、プリキュアたちの体から光があふれだした。

 

「わたしたちはつながっている!」

「プリキュアの絆の力、見せてあげるわ!!」

 

ミラクルとマジカルがトラウーマに言い放った瞬間、ブラックたちからあふれていた光が強さを増した。

強さを増したその光は、輪の中央に集まっていき、光の玉となった。

その玉の中から、一対の宝石が姿を見せた。

その宝石は、ミラクルとマジカルが掲げている杖に吸い込まれるように近づいていった。

 

「「フル・フル・リンクル!!」」

 

呪文を唱えながら光の宝石から力を受けた杖で円を描くと、光は魔法陣を描き、光のハートを出現させた。

 

「闇の獣よ!」

「闇の世界へ!」

「「帰れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」」

 

ミラクルとマジカルが同時に叫び、杖を振り下ろした。

その瞬間、光のハートは重なり、巨大な矢のようになってトラウーマへと飛んでいった。

当然、その鼻面に光の矢は命中した。

 

『や、やめろ……まぶしい!!やめろぉっ!!』

 

トラウーマの悲痛な叫びが響いてきたが、そんなものを聞くつもりはない。

だが、トラウーマを完全に追い払うにはまだ足りないようだ。

それを補ったのは。

 

「……奇一、奇一、たちまち感通!!万魔(ばんま)降伏(ごうぶく)!!」

雷電(らいでん)神勅(しんちょく)!!急々、如律令!!」

 

地上から、これまでに感じたことのない強い魔力の波が発生し、同時に友護と鏡介の声が響いてきた。

その瞬間、ミラクルとマジカルが放った光の矢に重なるように、白く強い光を放つ雷がトラウーマに降り注いだ。

雷とは、『神鳴り』とも呼ばれ、あらゆる魔を祓う光とされている。

その霊力を受けた光の矢は、さらに力を増して、大きくなった。

 

『いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!』

「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」

 

先輩プリキュアたちとミラクルとマジカルの声が重なり、光の矢は完全にトラウーマを包み込んだ。

光に包まれたトラウーマは、断末魔を上げることすら許されず、光の粒子となって消え去っていった。

トラウーマが消え、空に漂っていた分厚い雲が徐々に晴れていき、光の柱がプリキュアたちと二人の魔術師に降り注いできた。

 

「終わったか……」

「あぁ……さて、帰るとするか」

「俺も帰って報告だな」

 

二人はすべてが終わったことを察し、静かにその場から立ち去っていった。

立ち去る二人の姿を見た者も見送る者もその場にはいなかった。

 

--------------

 

その後、ソルシエールから謝罪を受けたミラクルとマジカルは、立ち去っていくソルシエールを見届け、お花見に参加していた。

当然、はるかによって魔法使いであることをカミングアウトされ、マナの制止も聞かず、もみくちゃにされることになるのだが、それはまた別の話。




おまけ

~脱出するまで~
ルミナス、イーグレット、ムーンライト、フォーチュン「「「「ブロッサム?!それにセイバー?!あなたまで??!!」」」」
セイバー「油断したわけじゃないけど、登場と同時に自爆って……さすがに初見殺し過ぎるでしょ、無理だって……」(  lll
ブロッサム「はい……」(  lll
ピーチ、メロディ、ハッピー、プリンセス組『うんうん』
ムーンライト「……ま、まぁ、それなら……」
ルミナス「あ、あの!お二人ともお怪我とかなかったですか?!」
イーグレット「ルミナス、落ち着いて?」
フォーチュン「心配なのはわかるけど、ね?」
アステア「で、兄貴。脱出できそうか?」
セイバー「この手のトラップに引っかかったことないからなぁ……牢獄の構造も今まで見たことないものだし……何より、力が半減してるから無理」
マリン「しょ、しょんにゃ~……」
フローラ「でも、ミラクルたちがきっと」
ハート「そうだね。二人を信じよう!」
セイバー「……案外、この事態を受けて動いてる人がいるかもしれないしな」
フォーチュン「……あぁ……なんか心当たりあります」

※セイバーは友護、フォーチュンは鏡介を思い浮かべていたようです

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