ハートキャッチプリキュア!~もう一人の戦士"大樹の騎士"~ 作:風森斗真
なかなか思い浮かばないのはつらい……
タイトルの通り、今回はハートキャッチ組のエピソード……といっても、登場するのは関係が深いゆりだけですが。
口調は現代をベースにしてます。
それから、このシリーズでは、菖は「旅人さん」あるいは「お兄さん」とさせていただきまして、幼い日の菖を「菖」と記載されていただきます(ややこしいなぁ……
自分の記憶の奥底に眠っている、ある一場面がある。
それは、いつだったか、幼馴染のあの子と一緒に近くの山に入り、探検していた時のこと。
急な雷雨で身動きがとれなくなり、二人して洞窟の中で立ち往生してしまっていた。
父や母と一緒に、洞窟の中やもっと薄暗い、古代人の墓に入ったことがあったから、怖くもなんともなかったけれど、幼馴染はそんな経験なんてない、普通の女の子だった。
だから、とても怯えてしまって、手が付けられなかった。
どうしたらいいのかわからなくて、困っていたら、一人のお兄さんが助けてくれた。
そのお兄さんも、父や母と同じで遺跡が好きで、この洞窟に遺跡がないか調べにきたらしい。
――思えば、そのお兄さんは……。
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菖が目を覚ますと、そこは自分が調査をしていた遺跡がある洞窟だった。
周囲を見渡しすが、菖はある違和感に気づいた。
――調査道具を積んだ荷物と照明がない……なんでだ?
幸い、所持金や貴重品の類は、普段からポーチに入れているので心配はない。だが、調査のために持って来た刷毛やブラシなどの道具や照明器具を詰めたリュックだけなくなっていたのだ。
菖はそこに疑問を覚えつつ、菖は洞窟の外へと向かっていった。
すると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「うっ……ひっぐっ……」
「あぁ……頼むから泣くなよぉ……」
その声は、幼いながらも、いつもすぐ近くで聞いている少女の声。
幼馴染であり、力になりたいと願った少女。月影ゆりだった。
――なんで……子供の頃のゆりが?てことは、隣にいる男の子は、俺??
菖は目の前に広がっている光景に、ふと、記憶の奥底に眠っていた光景がよみがえってきた。
その記憶が正しければ、この後、洞窟の奥から一人の青年が声をかけてくるはずだ。
だが、もし目の前にある光景が、自分の記憶の奥にあるものと同じものだとしたら。
――もしかして、俺があの時、この洞窟で会った人って……俺、なのか?
ありえない、と菖はその可能性を否定しようとした。
だが、できなかった。
その仮説が正しいことは、自分の記憶が証明しているのだ。
――となると……ここで俺が出ていかなかったら歴史が改ざんされてしまうわけか……
そうなった場合、未来の存在であるはずの自分がどうなるか、そして、自分が帰るべき世界がどうなってしまうのか、わかったものではない。
そのため、歴史改変が起きてしまうような接触の仕方は避けるべき、という結論が出てくるのは当然のことだった。
逆を言えば、ここで
となれば、菖が取るべき選択は一つだった。
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菖がなかなか泣き止まないゆりをなだめながら、早く雨が止まないか、せめて、雷が収まらないかと祈っていた。
そんなとき、洞窟の奥の方から男の人の声が聞こえてきた。
「うわぁ、こりゃまた……」
「「……え?」」
「おっと、驚かせちゃったか。ごめんな」
声がした方へ振り向くと、そこには高校生くらいのお兄さんが苦笑を浮かべながら立っていた。
菖はゆりを守るように、そのお兄さんの前に立った。
その様子を見て、お兄さんは苦笑していた。
「別に君たちをどうこうするつもりはないから、安心しなって」
「……信用できない」
「……疑い深いなぁ……」
お兄さんはそう言って座り込んだ。
疑われているというのに、その顔はにこやかで、特に不快な想いを抱いているようには思えなかった。
「……なんでそんな顔ができるんだよ?」
「うん?……まぁ、そうだね。疑われても不思議じゃないし、何より、後ろにいる子を守るためなんだろ?だったら、何も言うことはないさ」
「……っ!!」
どうやら、図星だったらしい。
「まぁ、けどそうだな……さすがにちょっと暇だから、俺がここにいる理由だけでも聞いてかない?そっちの子はともかく、君はたぶん、興味があると思うから」
そう言って、お兄さんは勝手に自分がここにいた理由を話し始めた。
なんでも、このお兄さんは考古学者の卵で、様々な伝承を調べては、こうしてフィールドワークに出かけ、単身で調査をしているのだとか。
実際にそうした活動で見つけた遺跡は数知れず、歴史的価値はなくても、宝探しのようで面白いと話してくれた。
菖はその話に、自然と引きこまれていき、いつの間にかゆりをほったらかしにして、お兄さんと遺跡探検についてあれこれ質問を始めていた。
そんなことをしていると、いつの間にか雨が止んだらしく。
「お、あがったな……それじゃ、そろそろ出ようか」
「「え?」」
なぜ、出ようかと提案してきたのか、わからなかったゆりと菖は同時に首を傾げた。
その様子がおかしかったのか、お兄さんはくすくすと微笑みを浮かべ、理由を答えてくれた。
「だって、君たちだけで行かせるには少し遅いからね。家まで送っていくよ」
どうやら、送っていってくれるらしい。
ほんのちょっと前だったら、そのまま誘拐されるのではないかと疑ったが、遺跡探検が好きな人間に悪い奴はいない、という、他人からしたらわけのわからない指標が菖の中にあったため、疑うことなく送ってもらうことにした。
もっとも、このお兄さんを完全に信用したのは菖だけであり、ゆりはというと、まだほんの少しだけ疑っていた。
そのため、もし何かあったら自分が菖を守らなければ、と少し意気込んでいた。
もっとも、それは杞憂に終わったのだが。
なお、送ってもらったついでに、お兄さんの名前を聞こうとしたのだが。
「俺はただの遺跡好きの旅人だよ。だから、呼ぶなら旅人さんでいいよ」
と言われてしまい、どこかはぐらかされたような気がした。
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その夜。
ゆりは自分の部屋にあるベッドに横になり、天井を見つめながら、今日会った不思議な旅人のことを思い出していた。
なぜか、気になる。旅人さんの遺跡に向ける情熱や口調もそうなのだが、何より、あの笑顔が、いつも見ているような気がしてならないのだ。
だが、誰の笑顔なのか、それがいまいち思い出せない。
――誰の笑顔なのかしら……
彼でもない、あの子でもない、と思考を巡らせるうちに、ゆりの意識はまどろみの中へと落ちていった。
ふと、完全に意識が落ちる前に、ゆりは旅人の笑顔が誰の笑顔に似ているのか、いや、そっくり同じなのか、思い至った。
――あ、そうか……菖の笑顔に似てるのね……
だが、そこから思考を深めることなく、ゆりの意識はまどろみの中へ落ちていった。
あとがき代わりの後日談(スキット風)
~翌日~
ゆり「菖、ちょっといい?」
菖「うん?どうした?」
ゆり「昨日会った旅人さん、もしかして菖のお兄さんとかじゃない?」
菖「え?なんでそう思うんだ??」
ゆり「だって、笑った顔があなたにそっくりなんだもの」
菖「そうだった?」
ゆり「えぇ……わたしが一番好きな笑顔だったもの」
菖「ふ~ん……でも、それはないかなぁ、たぶん」
ゆり「……そう」