ハートキャッチプリキュア!~もう一人の戦士"大樹の騎士"~ 作:風森斗真
来週からのデジモンも楽しみっちゃ楽しみだったりしますが(いや、放送当時、太一どころか光子郎より年下でしたが、もうアラサーっすよ。三回くらい見てる鬼太郎よりもなんか感慨深いものがありますわ!)
まぁ、それはそれとして
今回、菖の出番はあまりありません
というか友護の人間嫌いな部分が前面に出てる感じです(いや、私も本音をいうとあまり人間は好きじゃないんですがね。おもに人の善意に漬け込むような詐欺師連中とかSNSで馬鹿さらしてる阿呆どもとか迷信や伝承を普段信じないくせしていざ何かあると神頼みするような連中とかは特に)
なお、思いのたけをぶつけるような話なので、あとがきはありませんご了承を
それは、ある雨の日のこと。
ゆりとつぼみがそれぞれの用事で菖とは別々に行動していた時のことだった。
菖は一人、帰路についていると、一人の女性が必死に何かを訴えている光景が目に入った。
聞けばそれは、「妖怪による不当な行為の防止等に関する法律」、通称「妖対法」の成立を応援するための演説だった。
ここ最近になって、日本どころか世界中で妖怪と人間の間で戦争が起きるのではないかという雰囲気が出ていた。
それまで、科学技術の恩恵に目がくらみ、人知を超える存在をないものとして扱ってきながら、そのような存在が起こした被害が増えてきた結果、政府は妖怪に対する人間の姿勢を法律で示そうとしているようだ。
「わたしの友人は、妖怪に殺されました!それ以来、わたしは妖怪の危険性を訴え続けてきた!けれど、その声は無視され続けていました……ですが……」
「くだらねぇ!!」
少女の訴えに、はっきりとそう告げる声が聞こえてきた。
その声は、菖の隣から聞こえてきた。
菖が視線を声が聞こえてきた方へ向けると、そこには人間嫌いの友人の姿があった。
「く、くだらない……そんな……」
「下らねぇもんは下らねぇ!妖怪が危険だから排除しろだ?だったら熊や狼、野犬、鹿はどうだってんだ?あいつらだって人間を襲ったり人身事故の原因になったりしてるだろうが!!そいつらはよくて、妖怪だけは排除しろってのか?妖怪のことをよく知りもしねぇくせによくそんなことを言えたもんだな!!」
それは、その友人だからこそ言える言葉だった。
たしかに、妖怪という存在は人間にとって理解しがたく、時には危害を加えることもあるものだ。
だが、妖怪というのは、妖怪を学問的に捉えようとした井上円了が築き上げた『妖怪学』という学問の定義上、人間の知恵を総動員すれば必ず解明できるものであり、決して、奇妙奇怪、不可思議な存在でないというものだ。
例を挙げるならば、『天狗』、という妖怪がいる。
これは修験者が修行の果てに転じた存在であるといわれるが、妖怪学を修める学者たちの中には、その正体はセミであるとしているものもいる。
天狗という言葉が確認されている最古の書物の文献やそこに記されている文章からそのような見解が示されているだけであり、実際のところはどうなのかはわからない。
だが、井上円了が言いたかったのは、天狗の正体ではなく、人間の知性と理性を総動員すればどのようなことであっても解明できないものはない、という心意気だ。
理解できないものがない、というのならば、理解する努力を怠らなければ何者でもあれ人間の理解の範疇を超えることがないということでもある。
だが、目の前にいる少女の言葉は、その学問の志を根底から覆すものだった。
まして、隣にいる友人は、日夜、人知れず行われている『非日常』の侵略から『日常』を守っている存在だ。
妖怪などという非日常の存在上等。
むしろ、普段から戦っている存在の方がよっぽど恐ろしいし、分かり合えない存在であることを知っている。
むろん、人間を好きになることもできないが。
「そもそも、人間なんて存在の方がこの星で最も下らねぇ存在なんだ!!繁栄のためにほかの生き物を犠牲にするのはまだいい!だがな、人間はやりすぎたんだよ!!自分たちが住む場所を確保するために、娯楽のために必要もなく山を切り崩し、環境を著しく変質させ、動物どころか、妖怪が住む場所さえ奪っていった!そんな奴らの怒りを、お前らは知っているのか?!」
「ど、動物が感情を抱くなんて……」
「ありえないとでも?!それこそナンセンス!!飼い犬や飼い猫だって自分の都合の悪いことをされればたとえ飼い主であろうが牙や爪を立てるだろうが!!それと同じだ!!!」
動物であっても、感情は存在する。
そもそも、感情は本能に似た部分がある。本能とは、どのような動物であろうと持っているものである。
人間もまた動物であり、その本能を持っている。理性があればこそ、その本能を抑えているが、人間も所詮動物。
感情に流され、その感情のまま、行動を起こしてしまうこともある。
現代の地球史上最大にして最悪の世界戦争とまで言われる、第二次世界大戦などその最たるものだ。
本能のままに行動するということは、人間が最も人間的であることができる部分、『理性』が本能を制御できなくなってしまったということでもある。
それはつまり、人間もまた動物であるということの何よりの証拠だ。
「所詮、人間なんてのは理性なんていうもろくて薄っぺらい麻縄で本能を縛ってるだけにすぎねぇんだ。一時の感情で流されんな!てめぇのダチが殺された状況はどんな状況だ?!本当にそいつに非はねぇのか??!!そこんとこをよぉっく考えてからものを言いやがれ!!たかだか二十年も生きてねぇ小娘が!!!!」
感情に訴えた少女の声よりも、菖の隣に立ったいる青年、桜森友護の声の方が聴衆には響いたのだろう。
もともと希望ヶ花市は、砂漠の使徒と幻影帝国、デウス・マスト、果ては未来からのやってきたクライアス社の襲撃を受け、それを乗り越えてきたのだ。
目の前にいる少女の訴えが絶対的に正しいわけでないことを、全員、身をもって知っている。
だからこそ、誰も彼女に耳を貸すことはしても、向けられている瞳は本当にこの少女の言っていることは真実なのか、という疑念に満ちたものだった。
その瞳を向けられた少女は、何も返すことができず、ただただどう返せば納得してもらえるのかを考えるだけだった。
「言葉に詰まった時点で君の負けだ。これ以上は風邪をひく。せめて、この傘をさして、帰りな」
菖は少女にただ一言、そう言って、自分が持っていた傘を差しだし、その場を去っていった。
その隣には、彼女の意見を完封した青年の姿はなかった。
なお、これがきっかけとなり、この少女は妖怪学を専攻し、井上円了の弟子、とまで呼ばれるほどの研究成果を世に出すことになるのだが、それはまた別の話である。