臆病者は今すぐにでも逃げだしたいみたいですよ? 作:ぱいんあっぷる
ほんの少しだけで良いから勝つ為に、力を貸して
《中の奴》
良いだろう、この世界の"最強"とやらの力を見てみるには丁度良い機会だ
突然だが、能義が幼少期の頃どんな遊びをしていたかという話をしようと思う
幼少期の時に、同じクラスの男の子と言い合いになったことが原因で、親から一切外に出してもらえなかった能義が、まだ遊びたい盛りだった時にその欲求をどうやって押さえ込んでいたかだ
それは孤独の中で生み出された究極のお遊戯
"一人ジャンケン"である、そして能義はこの遊びを究極とも言える世界にまで鍛え上げた世界で唯一の人間なのだ
「勝負内容はジャンケン、本当にそんなもので良いのか?」
勝負内容を決めて良いと言ったのは自分の筈だというのに、思わず能義に勝負内容を変えないかという提案をしそうになってしまった
それほど、今、能義が白夜叉に放っているプレッシャーは凄まじいものだった、それは圧倒的優位な状況にいる筈の白夜叉が、思わず目の前の少年とのジャンケン勝負から逃げ出したくなるような…
「はい、一回勝負でお願いします、黒ウサギも皆もしっかり見ててよ、多分、この勝負一瞬で決まるから」
能義は右腕の袖をめくりあげて手を突きだした
「せ、せめて三回勝負にせんかの…?」
あの白夜叉が、能義との一発勝負から逃げているその事実がその場にいた全員に能義の勝利を確信させた、いける能義はきっとジャンケンに絶対に勝てるそんな都合の良い能力を持っているに違いないと
「勝負内容は僕が決めて良いと言ったのはそっちだった筈だよ、行くよジャンケン!」
「ま、まだ"ギアスロール"の作成もしておらんのだが…ええい!どうとでもなれ!」
「「ポン!」」
白夜叉は神頼みだと言わんばかりに、目を瞑って勝利を祈った…そしてその手が出したものは…チョキ
そしてそれに対し、能義の出した手は…パーであった
「勝った…?勝ったぞー!!見たか黒ウサギー!」
"ギフトゲーム"初心者の正確に言えば"ギアスロール"を作成してないので正式なものではないのだが、能義にジャンケンで勝ったというその思いが白夜叉の心に不思議と達成感を与えさせた、実際やってたのは、ただのジャンケンなのだが…能義の放つ謎の気迫によって白夜叉には"人類最終試練"と同等のものにも感じられたのだった
そんな喜びを隠そうとはしない、白夜叉に対してジャンケン勝負に負けた能義はというと…してやったと言わんばかりの笑みを浮かべていた
「まさか能義の奴、最初からこれを狙ってたのか…!」
「大人気ない…」
「ええ、全くね」
端から見ていた問題児たち三人は、今のやり取りが全て見えていたようだ
ジャンケンには明確な必勝法などという物は存在しないしかし、勝てる可能性が非常に高い方法が一つある
それは…相手に"万人共通の反則行為"つまり"後出し"をさせることだ
これが、通常の人間同士のジャンケン勝負であれば後だしの基準など本当に明確なものだ
どういう事かというと、例えば、十六夜と普通の人間がジャンケン勝負を百回やったとしよう、だが、その勝敗は十六夜が負ける気がない限り百回全てに十六夜が勝つだろう
何故そうなるか?答えは簡単だ、普通の人間とそうでない人間では勝負の手を出すまでに貰える時間に天と地ほどの差があるからだ
つまり、相手が何を出そうとしたところで十六夜は相手が出す手を見てから自分の手を出せば良いのだから
そして話は、白夜叉と能義との勝負に戻る
人外の存在白夜叉と普通の人間と大差ない能義とのジャンケン勝負にも同じように体感時間の差が生まれるのだ
その差は、能義からしては見ることはおろか、気付く事も出来ないような差だ、これがもし普通の人間が審判をしている世界であれば間違いなく白夜叉の勝ちだったろう
だが、此処は"人ならざる者達"の住まう世界"箱庭"ならば当然"後だし"の基準も"人外"基準になる
「白夜叉様と能義さんのジャンケン勝負!…白夜叉様の反則行為により能義さんの勝利です♪」
黒ウサギの公平な審判のもと、能義の勝利が宣言されたのだった
「な、なんじゃとー!?」
本日、二度目の"最強"の絶叫が響いたのだった
能義が白夜叉に勝てた理由はいくつかある
一つは、能義が、ただの一度もジャンケン勝負で負けたことが無かった事、勿論、勝ったこともないが、その為ハッタリが生きたと言えるだろう
そして、能義が白夜叉に考えさせる時間を与えなかった事、これにより白夜叉のリズムを崩す事に成功した、これがもし三回勝負であれば白夜叉は必ず調子を取り戻し持ち前の怪物ぶりで、残り二戦とも間違いなく勝利していた事だろう
そして最後の理由が懸けてる物の割に勝負内容があまりにも呆気なさ過ぎた、それが、本気で"ノーネーム"を潰そうと思っているわけではない白夜叉に、ただでさえ短い思考時間の中に余計な邪念を生ませたのだった
これら全ての条件が揃って、ようやく勝てる存在なのだ"最強"のフロアマスター白夜叉という存在は
「ハァ…緊張したぁー」
全てが終わった瞬間、能義はその場に崩れ落ちた、そしてもう二度と能義はジャンケンにおいてあのような気迫を放つことは不可能になった、何故なら能義の基準では今のジャンケン勝負は白夜叉に敗北したことになっているのだから…
今のは負けたことが無いからこそ出来た、一種の魔法のようなものなのだ
とはいえ、それだけの理由で白夜叉程の存在が警戒、勝負から逃げ出したいと思える程の気迫をただの人間である、能義が出せるはずもなく、そこは能義の中にいる存在が力を貸したのだが…その事実に気付けたものは、その場にいた一匹の猫を除いて誰も居なかった…
《中の奴》
流石はこの世界の"最強"と言ったところか、殺すつもりで威圧したつもりだったのだが耐えられてしまった
《臆病者》
殺すつもりでって…そんな物騒な事してたの!?