臆病者は今すぐにでも逃げだしたいみたいですよ? 作:ぱいんあっぷる
随分と楽しそうではないか、俺と話してるときより楽しそうに見えるが
《臆病者》
もしかして…妬いてる?
「し、信じられないのですよ!?初対面でいきなり黒ウサギのステキ耳を引き抜きにかかるなんて前代未聞です!」
現在、問題児三名と臆病者一名は正座で黒ウサギからのお叱りを受けていた
「ど、どうして僕まで…」
能義は黒ウサギの耳を引っ張ったりしていない、それどころか触れてすらいない、なのにどうして同じように正座でお叱りを受けているのだろうかという思いが少なからずあった
「止めなかったか・ら・で・す!!」
それに対し、黒ウサギはまるで教師のような口調で能義がお叱りを受ける理由を告げた
「うぅ…僕が言ったところで止まりそうな三人じゃ、どう考えてもないじゃないか」
能義は、やや納得がいかないところもあるものの自分にも怒られる原因はあるのだという事を理解して黙ることにした
すると、そんなやりとりを見てかそれまで黙っていた十六夜が能義にアイコンタクトを送ってきた、どうやら何かをするつもりらしい
「おい、黒ウサギ有名な、とある登山家が残した言葉を知っているか?ある登山家は何故、貴方は山に登るのかと聞かれたときにこう答えたらしいぜ」
「そこに山があるから…とな、そして何故俺達がオマエの耳を引っ張ったかというとだな、答えは」
そして、能義は理解した十六夜の送ってきたアイコンタクトの意味を…そして、飛鳥と耀もどうやら理解したようだ
「「「そこに耳があったから!」」」
四人の声が一つになった、そして全員の心に奇妙な一体感が生まれた瞬間だった
「本当にお馬鹿様なのですか貴方様方はー!!」
そう言うと黒ウサギは何処からかハリセンを取り出し四人を叩いた、スパパパパーンという景気の良い音が聞こえた
ハリセンは少し痛かったが、能義の心は自然と少し暖かくなっていた
「あははっ!面白いね!もし僕が学校に行けてたら、こんなに楽しかったのかな?」
つい、そんな事を考えてしまう…
「ん?何だ能義は学校に行ったことがないのか?」
十六夜は能義が学校に行ったことがないという事に少し驚いた様子だった
「学校に通えるだけのお金がなかったとかかしら?」
飛鳥は、少し複雑そうな顔で聞いてきた、裕福な家で生まれ何一つ不自由なく暮らしてきた暮らせてきてしまった彼女だからこそ、思うことがあるのだろう
「ううん、そうじゃないんだ僕の家は特別、裕福だったわけじゃないけど特別貧しかったわけでもない、いたって普通の家だったよ、ただ両親が凄く心配性でね」
今まで友達と言えるもののいなかった、能義の心に初めて、自分の事を知ってもらいたいという気持ちが芽生えた
「僕が小学校に入ったばっかりの時に同じクラスの男の子と些細な事で言い合いになってね、それを両親に知られると、それから僕は学校に通わずに勉強は家で両親に教わることになったんだ」
「それだけでか?確かに過保護過ぎる両親だな」
「そうですね、黒ウサギも能義さんの御両親様はちょっと過保護過ぎる気がするのですよ」
「ははっ、そうかもしれないね…でもそれも仕方がない事なんだよね…何せ僕は…」
「それでも、能義にはお父さんとお母さんがいて羨ましい…」
能義の話を静かに聞いていた、耀が物凄く小さな、か細い声でそう言ったのを能義は確かに耳にした
「とと、僕の話はこの辺にして、僕らを呼んだのは黒ウサギさんって事で間違いない?」
「Yes!黒ウサギさんとはステキな呼び方ですが黒ウサギは黒ウサギで良いのですよ、能義さん」
「それじゃあ、黒ウサギって呼ばせてもらうね、黒ウサギがどうして僕らを呼んだのかっていう理由何だけど…」
「それ私も聞きたかったのよね」
飛鳥は腕組みをしたまま、黒ウサギに言い寄る、そしてその言葉は言葉を向けられた訳でもない能義にすら、妙な違和感を感じさせた
飛鳥の言った、その言葉は十代半ば程の少女が放つような重み、などではなく、まるで国王、それも飛びっきりの暴君からの命令のような…誰もと逆らえないようなそんな予感を不思議と感じさせた
だが、能義に思わず跪きたくなる程の重圧感を感じさせたる言葉を向けられた張本人である黒ウサギは特に動じた様子は見られなかった
どうやら自分の考え過ぎだったと思い、能義はすぐに頭の中に浮かんだ、飛鳥が天下取りに名乗りを上げるようなそんな暴君ではないかという考えが過ってしまったことを恥じた、何て事はない何時も通り自分が臆病すぎるが故に感じた勘違いでしかないのだから
「皆さんにこの修羅神仏の住まう地"箱庭"で面白おかしく過ごしてもらおうと思い招待したのでござ…」
「嘘だな」
十六夜は黒ウサギが言い切る前に黒ウサギの今の発言は嘘だと言い切った
「な、なにが嘘なのでございましょうか…?」
「俺の読みが正しければ、今の黒ウサギの発言には可笑しなところがある」
「可笑しなところ?」
耀には何処が可笑しいのか分からなかったが、どうやら十六夜には突っ掛かる部分があったようだ
「ああ、もし春日部が誰かを家に招いたらどうする?」
「…お出迎えをする?」
耀は少し考えて自分の友達達(動物)を家に招く時の事を考えた
「成る程ね、十六夜くんが言う可笑しなところってのはそういうことね」
耀の言葉で飛鳥はどうやら何かに気付いたようだ
「ああ、そういうことだお嬢様」
「久遠さん、つまりどういうこと?」
「飛鳥で良いわよ、春日部さん」
「それじゃあ、私も耀で良いそれで、どういうことなの飛鳥?」
「黒ウサギは私達を呼んだ張本人だと言った、そして私達が落ちてくる場所も分かっていたにも関わらずどうして迎えにすぐ出てこず、物影でこちらの様子を覗いてたのか?それは、私達を品定めしていたからよ、おそらく私達がこの世界でもやっていけるか辺りを見てたのでしょうね」
「ギクッ」
「なるほど」
「そして、品定めをしていた理由として考えられる理由は幾つかあるが、恐らく…」
「助けを求めていたから…そうだよね?黒ウサギ」
十六夜が言い切る前に、今度は能義が答えた
「…柳は何時から気付いてたんだ?」
十六夜が、それまで黙って話を聞いていてとても気付いてるようには思えなかった能義に対して投げ掛けた
「別に気付いてた訳じゃないんだけど…最初からそんな予感はしてたんだ」
「最初から?最初からって何処からだ?」
十六夜は、当然の質問を投げ掛ける、最初からという曖昧な始まりの言葉は何処を最初として考えるかによってその意味が変わってくるからだ
「この手紙を貰った時からだよ、僕は元々この手紙は月から届いたものだと思ってたんだ、別の星からご指名付きの手紙が届いたんだ、だったら向こうでこっちの人間に頼らざる得ない何かが起きたと考えるのは普通のことだよね?」
人一倍臆病な彼だからこそ気付く事がある、それは物事の裏を読み取る力だ、といってもこれは神からの贈り物なんていうものなどではなく、ただの彼の経験から成せる彼の特技の一つなのだが…
「でも、実際は別の星どころか、別の世界からの手紙だったようだけどね、僕がこの手紙に応えた理由は僕でも、誰かの助けになれるならと思って応えたんだ」
十六夜は静かに納得した、ああ…だからか、この誰よりも臆病な筈の奴がどうして、あんな一世一代の選択をしてまで手紙に応えたのか、そうこいつは…柳は誰よりも臆病だからこそ誰よりも優しい奴なんだ
「黒ウサギ、僕は君を助けに来たんだ、頼りない味方かも知れないけど嘘偽り何ていらない、僕はどんな絶望的な状況からだって助けを求めている人がいるかぎり逃げ出したりなんてしない!」
先程まで何をするにも、オドオドとしていた臆病な少年は今、初めて神々の住まう地"箱庭"の"挑戦者"である事を宣言した
《中の奴》
偽善で人助けなど、お断りだ、やるならお前一人の力でやり抜いて見せよ
《臆病者》
偽善でも何でも助けを求めている人がいるなら手を差しのべるその程度の事を当たり前のように出来る、そんな誰かが一人くらいいても良いんじゃないかな?