「レム、ちょっとお願いがあるんだけど」
「え?はい早速にですか?」
「俺がここ数日の記憶を無くしているという体で、今此処に俺が居る理由を教えてくれ」
あまりにも直接的な言い方になってしまったので、レムは申し訳なさそうな表情をしながら、
「ごめんなさい、スバル君。話が読めません」
「う・・・まあ、そうだよな。ええと・・・」
「・・・?」
「ほ、ほら、状況確認てやっぱ大事じゃん。なにか見落としがあるかもしんないし。今俺たちは大逆転を狙ってるんだろ?だから、手がかりが欲しいと言うか・・・」
「ああ、なるほど。そうですね。では今一度、整理をしてみましょうか」
「おう、そうだな。助かる」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「これくらいでしょうか。・・・スバル君?」
「・・・。んん、何?」
「何・・・って、スバル君、考え事ですか?」
「ああ、ごめん。あとちょっと待ってくれ。絶賛思い出し中だ」
主に以前シニモドリした時の事とか。
「今言ったことで、全部のような気がするんですけど。気になることでもありましたか?」
「いや、それは全然大丈夫だ。ありがとう。今は・・・そうだな、作戦会議中だ。だからもうちょっと、俺に時間をくれ」
「そうですか・・・。ではレムはその間、何をしていたらいいのでしょう?」
「とりあえず俺の視界に居てくれ」
「どうしてですか?」
「どうしてもだ」
傍にいてくれれば、何か名案が浮かんできそうな気がしたから。とそんなクサい事は言うまい。俺ももう心は大人だから、それくらいの分別はついているはずだ。
・・・多分。
それから全て思い出すのと、白鯨を討伐しようという計画を練ることに大体一時間を要した。もうとっくに俺の脳みその全盛期は過ぎているはずだから、よくやったほうだと思う。
あとは、実行に移すだけだ。
大丈夫だ。きっとできる。
レムが隣に居てくれる限り、俺はなんでもできる。
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「あ、あのさ、エミリア」
「どうしたの?いきなり改まって。ずっと気にはなっていたけど、スバルが私の名前を普通によぶのってなんだか、すごーく懐かしい気がする」
「え・・・? そ、そうだっけ」
「もう、スバルってば忘れちゃったの?ほら、いっつも最後に『たん』って付けていたじゃない」
「あーーーー、そうだった。そうだったわ。いや、だいぶエミリア・・・たんの顔がご無沙汰だったから、思わず素で呼んじゃったよ。悪い悪い」
それほどかなぁ。と首をかしげるエミリアに、内心冷や汗をかく。
あの頃は若かったなぁ・・・。とドラマでよく見るあのセリフを、身に染みて感じる事ができた。
「で、スバル。どうしたの? 私をいつも助けてくれる理由を、やっと話してくれるの?」
「なんかちょいトゲがあるな、その言い方。でも、それもまた、いい・・・」
「もう、そうやってまた直ぐはぐらかして」
少年の頃の自分はこんな感じだったのか。だんだん掴めてきたぜ。
「まあ間違っちゃいないけどよ」
「・・・」
「贖罪、かな」
「贖罪?」
「そうさ、俺はエミリア・・・たんに罪を償う為に、助けてる」
今は。と付け加える勇気はなかった。
「私に何か悪い事をしたの?」
「ああ、ずっと前の事だけどな」
「前? スバル、私とずっと前に会ったことがあるの?」
「うん、まあ、そんな感じかな。昔、エミリアたんが悩んでいる時に、俺は手を差し伸べてやれなかった。無様に、逃げたんだ。だから今度は、この俺がエミリアを助ける義務がある」
「義務だなんて、そんな・・・。それに私、王都のあの日より前に、スバルと会った記憶なんて、ないよ?」
そのうち分かるよ。といって適当に誤魔化した。なんでも、下手に嘘をつくよりかはマシな気がしたからだ。
もちろん本命は、ループから逃げおおせる事だ。何十年経ってもここに飛ばされたということは、やはりエミリアを助ける事が必須なのだろう。
一つ前の世界では、エミリアの音沙汰はカララギの街ではゼロといって良いほど耳に入ってこなかったから。恐らく、あの世界ではエミリアは・・・。
王には、クルシュが選出されていた。確か、カララギの街も彼女の管轄内にあったっけ。
あの後、ペテ公やカララギの街はどうなったのだろう、と一瞬頭に思い浮かんだ。けれど、あまりにも無意味すぎる問答だったから、無理やり思考の外へ置いた。
まあ、かといってエミリアに言ったことは嘘っぱちではない。レムと暮らし始めた何年かは、ふと思い出しては罪悪感を感じていたからだ。
「ああ、そうだエミリア」
流石にたん付けで呼ぶのが恥ずかしくなってきた頃合いに、何気ない感じを装って、エミリアに話しかける。もう一つだけ、伝えないといけないことがある。
それは、俺なりの、けじめだ。
「どうしたの?」
「俺さ、好きな人ができたんだ」
「・・・」
一瞬、エミリアの表情が固まる。
「どうした?」
「え・・・?い、いえ、なんでもない」
そりゃそうだ。ずっとEMTだと言い続けていた輩が、突然そんな事を言い出せばビックリするに決まってる。
「なら、いいけどよ」
「へ、へえ、そうなんだ。・・・私の知ってる人かな?」
「ああ、よく知ってるぜ。レムだ」
「・・・」
エミリアは、戸惑いというより、何かが的を射てないといった風で、俺を見つめる。
先ほどとはどこか違った沈黙が、竜車に流れた。
「うん?え、いやそんなに不思議か?あいつは良く、俺に尽くし・・・ええと、接してくれていたじゃん?さすがに、そこまでされると俺も男だから、振り向かないわけがないというかさ・・・」
かなり以前のことだから、少し他人行儀な言い方になってしまった感は否めない。
「え、いいえ、そうじゃないの」
「じゃあ、どうして?」
「ええと、とりあえず、分からないところから聞いてもいいかな?」
分からない?俺が、レムを好きになった理由だろうか。確かに俺たちの馴れ初め(?)や諸々の一部始終をエミリアが見ていないとはいえ、少し辻褄が合わない気がする。
俺が同意の意味で頷くと、エミリアは何気ない調子で、俺の想像を超えた事を、言った。
「レムって、誰のこと?」
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胸が一定のリズムを刻んで、上下に揺れている。
口から時折聞こえる小さな呼吸音が彼女の口から、シンとした部屋だからか、驚くほどよく聞こえてくる。
手のひらから、体温を感じられる。
けれど、起きる気配のない彼女――レムは、粗末なベットの上で横たわっていた。
どうして、こんな事に。
どこで間違えたのだろう。
どこで、道を踏み外したのだろう。
戻らないと。一度来た道を、引き返さないと。
知らない間に俺は、右手に短刀を握りしめていて、そして――。
「———スバルっ!!」
鋭利な刃が喉を掻っ切ろうとしたそのまさに瞬間、自分の名前を呼ぶ何者かに押し倒される。
刃物は三回床の上で踊り、部屋の隅へと追いやられた。
「なにを、していたの・・・?」
「え・・・あ・・・」
なにをって、俺は。
「なにをしていたのって、聞いてるの!!」
「!!」
声を震わせる銀髪の女性の、俺のジャージを掴む両の手も、よく見ると震えていた。
「どうしてそんな、馬鹿な事を・・・簡単にできるの?言ったじゃない、私に、私を助けてくれるって・・・。あれ、嘘だったの・・・?もう、知らない。馬鹿なスバルなんて、知らないよ・・・」
「・・・ごめん」
顔を、自分の胸に押し付けるエミリアに、俺はただ謝る事しかできなかった。
「その子が、レムさん?」
「・・・おう」
「本当に、すごーく、似てる。まるで、ラムに双子がいたみたい」
「ちょっとは、俺の言うことを信用してくれる気になった?」
「うん・・・そうかな。こんなにまんま同じだと、さすがにね、ふふふ」
目を赤く腫らしながらも、エミリアは口元に微笑みを讃えていた。
あれから、数えきれない程の罵詈雑言(その中で、俺に当てはまっていないものは、何一つなかった)を浴びせられた俺は、エミリアが嗚咽を漏らすたびにひたすら謝罪を続けた。
申し訳ない、なんで俺はこんな軽率な、エミリアと離れた瞬間にパックに絶対殺される、と様々なことを、エミリアを抱きしめながら思っていたのだけれど、一番強く感じたことは、彼女を泣かせた自分に対する憤りだった。
俺は、彼女と初めて仲たがいをしたあの日から、何一つ変われていなかったのだろうか。
レムを失っただけで、こんなに――
「・・・ぇ、ねえ、スバル?」
「お、おう? なんだ?」
「もー、話聞いてなかったでしょ。もう怒ってないってば・・・うーん、やっぱりちょっぴり、怒ってるかな」
「う・・・。ごめん、何の話をしてたんだ?」
「ううん、話っていうより、質問かな」
「質問?」
「そんなに取り乱すまで、スバルはレムさんの事が好きだったのかなって」
「それは、どういう・・・」
「私と出会ってから、まだそれ程たっていないでしょ?なのに・・・ええと、だからレムさんとスバルの間には、なにかもっと別に何かあったのかなって。スバルの話を信用すれば、だけど」
「・・・」
「それは、私が、私たちが記憶を取り戻したら、納得できることなのかな」
「・・・そうかも」
「ふふ、どうして口を濁すの?・・・いつものスバルらしくないなぁ」
俺を試すような口ぶりは、いつものエミリアとはまた違った印象だった。
なにを言ったものかと返答に困っていると、
「よし、決めた。私、スバルを助ける!」
「いきなりどうした、エミリアたん」
「よし、決めた。私、スバルを助ける!」
「いやいやいや、それはちゃんと聞こえてるよ!どうして、いきなりそんな事を?」
「えっとね、いつも、スバルは私を助けてくれるでしょう?今回もそう、スバルが来てくれなかったら私、どうしていいか分からなかった。だから、次は私が、スバルの事を助けてあげたい。いいえ、助けたい。今までにもらった恩を、少しずつ返したいの」
「恩だなんて、そんな」
「いいえ、たくさんの恩を、スバルにもらったの。それこそ、何で返したら分からないくらい」
「・・・」
「そして、いつか全部返したって、胸を張って言えるようになれたら、私に・・・教えてくれない?」
「なにを?」
「私を、助けてくれる、理由」
「・・・それは、交換条件?」
「いいえ、約束よ」
「やく、そく・・・」
なんだか、懐かしい響きだ。
「ダメ、かな?」
「・・・いいよ、エミリアたん。約束しよう。俺はいつか、その時期が来たら、エミリアたんに、ちゃんと話そう」
本当の理由を言える時は、いつになるか分からないけれど。
それはきっと、俺にかかっている呪いが解けた時だ。
「よし!じゃあ約束。・・・あっ、あともう一つ」
思い出したように、エミリアは真剣な顔で俺を見つめた。
そして、少し恥ずかし気に、それでも満面の笑顔で、
「私をもう一度泣かせたら、ダメだからね?」
・・・。
・・・・・・。
「スバル?」
たった今、‘‘本当‘‘の理由を思い出した。
「それじゃあ、俺からももう一個」
「何?」
「これからもエミリアを助ける事を、誓おう」
それから、パックから聞いたというレムを起こさせるかもしれない方法を、エミリアが教えてくれた。単純なものだったけれど、因縁の相手である『怠惰』担当を撃退した俺にとっては、中々に現実味のある話だと思う。エミリアも、一緒に戦ってくれるらしい。喉から手が出るほど欲しい戦力だし、そして・・・。
いやいや、さすがに二股はまずいよな・・・。まずいよな?
隣でかすかな息遣いをする青髪の彼女を、見やる。
はっきり言って、まだ気持ちの整理は済んでいない、と思う。最後のシニモドリからひどく悲しんだ事もなかったし、彼女やリゲル、スピカの事を思い出して、狂ったような気持ちになることもなかった。まだ頭の中では、少しの別れ程度に思っているのだろうか。俺が本当はどんな状況にいるかを理解するのは、ほんの直ぐのことかもしれないし、まだ先なのかもしれない。
けれど、今だけは。目的を見失っていない今だけは、そのことをわきに置いて、目を逸らすことくらい、許されて欲しい。そうでもしないと、俺はもう二度と進めない気がするから。
「約束だ、レム。すぐに助ける。レムが居ないからやっぱし不安だけど、頑張る。俺はもう、逃げないよ」
目の前の状況から逃避するために、目の前の状況に立ち向かう。そんな相反するジレンマを抱え込みながら、俺はベッドの上のレムに向かって、決意を新たにした。
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『————————————』
今にも降り出してきそうな曇天だ。冷たい墓所にいたはずが、今では、生暖かい風に、一人であおられている。
何回失敗して、何回シニモドリを余儀なくされても、一向に活路が見えてこない。悩んだ末に、俺は自分の性質を唯一打ち明ける事ができる、エキドナに助けを求めることにした。
墓所に入り、適当にその場で跪きながら、彼女の元へ行きたいと必死に念じた。これほど一つのループに足止めを食らっていたら、いつまで経っても埒が明かないと思ったから。
瞼に光が当たっているのを感じ、ハッとして目を開けたが、果たしてそこにエキドナは居なかった。虚ろな目から見える光景は、俺を囲むように、木が点在しているばかりだ。エキドナが居るいつもの夢の城とは、かなり趣が違う。
けれど、此処に全くの見覚えがないわけではない。むしろ俺は、この場所をよく知っている。既視感ではなく、正真正銘、見たことがある景色だと確信できた。
じゃあ、ここは、一体どこだ?
注意深く辺りを見渡していると、俺はあることに気がついて、頭の中が真っ白になった。
一人の男と、一人の――青い髪の女性が、倒れていた。
俺は、終わったはずの未来を、見ていた。
投稿が滞ってしまいました。申し訳ありません・・・。
当初は五話完結の予定でしたが、思ったよりあらすじに紙幅を割いてしまって、4.5話として別に投稿することに相成ってしまいましたで候。反省します。
Wordでの執筆活動(笑)が、思ったよりハッスルしない限りは、次が本当の最終話になると思うので、ぜひそれまでお待ち下さい。最後まで、よろしくお願いします。
ブックマーク28件、ありがとうございます。嬉しいです!